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2016年は色々と興味深い1年だが
僕が一番驚かされたことは
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「没入型シミュ」の復活だ
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Deus Exの4作目が今月末に出るし
ハーヴェイ・スミスはThief風のステルスゲームを
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Arkane Studiosで作っている
このスタジオはPreyの新作も作っており
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System Shock 2の精神的後継作になると言われている
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そのSystem Shock 2は正統な後継作が
ウォーレン・スペクターによって作られるようだし
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スペクターはUltima Underworldの非公式の
続編を作っているポール・ニューラスを支援している
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初代System Shockのリメイクもある
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君はこうしたゲームや人物の名前を
聞いたことがないかもしれない
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あるいは没入型シミュって何だとか
それが復活したからどうなんだと思っているかもしれない
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それならば…ようこそGame Maker's Toolkitへ
僕はマーク・ブラウン 今回のエピソードでは
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ある非常に興味深いゲームデザイン哲学の
誕生と没落、そして復活を見ていこう
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没入型シミュを語るなら、まずは1992年の
Ultima Underworld:The Stygian Abyssから始めなければ
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非常に影響力があったが、誰もプレイしていないゲームだ
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この作品の3Dエンジンに刺激されて、ジョン・カーマックは
改良版を作り、Wolfenstein 3Dを開発した
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この3D世界にRPG要素を加えるという発想に
着想を得たBethesdaは、最初のElder Scrollsを作った
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だがUnderworld特有の要素は巧妙なシステムと
AI、そして原始的な物理エンジンだ
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これは全てが開発者の手によるのではない
現実味のある空間を
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シミュレートすることを目指していた
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このデザインの総合的な目標は、プレイヤーに
自分だけの物語を与え、クエストを解決するための
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個人的な方法を考えさせることだった
ダンジョンズ&ドラゴンズのキャンペーンに似ているが
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人間のダンジョンマスターの代わりに
相互作用する複雑なシステムがある
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このゲームを開発したLooking Glass Studiosはこの
空間のシミュレートとプレイヤーの主体性というアイデアを
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以降の作品で発展させていくことになる
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System ShockはUltimaの世界を宇宙に移し
不自然な会話を避けるために人間を排除した
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Thiefはより進化したAIと開放的なデザインを使って
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史上初の正統派ステルスゲームの1つとなった
Ion Storm Austinでは、元Looking Glassのメンバーたちが
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System Shockのシューティング要素とThiefのステルスを
組み合わせ、名作Deus Ex(デウスエクス)を開発した
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2000の頃はドゥーズエクスと読んでいた
正直に言いたまえ 君にも覚えがあるはずだ
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では没入型シミュとは何か?同時期に作られた
他の1人称視点のゲームとは区別される
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これらのゲームに共通する要素は何だろう?
僕の個人的な意見では
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以下の原則がこれらのゲームを特別なものにしている
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第一に、没入型シミュではプレイヤーが
高度な主体性を持つ
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目標を達成するための方法が複数あり
自分なりのルートや戦略、プレイスタイルを選択できる
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デザイナーはプレイヤーがすべきことを伝える
例えばThiefでバフォード卿の屋敷に侵入して
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王杖を盗んでくるとか
しかしその方法は教えない
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デザイナーは広く開かれた空間を提供する
いくつかのルートを用意しておいて
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異なるプレイスタイルで進めるようにする
ミッションを達成する方法についても一定のヒントを与える
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だがそこからはプレイヤー次第だ
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選択肢が多すぎてプレイヤーが混乱しないように
それまでの行動に応じて手段が制限される場合もある
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System Shock 2では持ち運べるアイテム数に限りがあり
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能力はインストールする必要があるし
スキルは育てたものしか使えないので
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その都度適当な手段を選ぶよりも
自分のプレイスタイルに合うルートを
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探した方がいいこともある
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没入型シミュはまた、システムの比重が非常に大きい
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大部分のゲームで大きいのはスクリプトの比重だ
重要なシーンは見えない境界線に立つと勝手に発生する
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キャラクターは決まった箇所で1回限りのアニメーションを
見せ、ゲーム内の障害物は
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その瞬間に必要な役割を果たすだけで
それ以上のことはしない
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没入型シミュはそれに対し、システムを基軸にする
各要素はゲーム全体の中で決められた特性を持つ
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警報装置はどれも同じ機能を果たすし
松明はどれも消すことができる
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扉はそれぞれ異なる性質を持つこともあるが
一般的な仕組みは共有されている
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また、ゲーム世界が従う無数のルールが存在する
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敵は視界や音に応じてプレイヤーを発見し、逃げて警報を
鳴らしに行く タイルの床では足音が大きくなり
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タレットはプレイヤーが指定した相手を撃つ
物体は押せば下に落ちる
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当時、物理エンジンはまだ希少だった
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スクリプトとシステムの対比のいい例がある
Thief: The Dark Projectでは
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木製ならどんな物にでもロープアローを撃ち込めるが
没入型シミュの要素を大きく削減したThief 2014では
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白いロープで印がつけられた梁にしか
グラップルアローを撃ち込めない
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スクリプトが少ないため
没入型シミュはエマージェント(予期しないものが生じる)だ
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2つのシステムが対話すると
面白い挙動が新たに生じてくる
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相互に交流するシステムは賢く、意図的な戦略を
考え出し、ゲームのルールを利用して
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優位に立つ機会をプレイヤーに与える
警報装置にガスグレネードを設置し
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わざと敵に発見されれば、凶悪な罠を作り出せる
自爆する敵を脆い扉のそばに連れてきて
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それから倒せば、道を開くことができる
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エマージェントなゲームプレイは
予測不可能な驚異の連鎖反応につながることもある
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開発者が予期しなかったパズルの解法が
見つかることもある
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上に乗れるLAM爆弾を設置して梯子として使い
壁を登るというのがその一例だ
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没入型シミュは一貫性を持つ 開発者は
例外や1回限りの出来事を避けようとする
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死亡する以外のゲームオーバー条件もほとんどない
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ミッションエリアに戻れとか
仲間が死んだから面をやり直せとか
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言われることはない シミュレーションはそのまま続くのだ
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とはいえ限界もある Deus Exでは
好きなキャラを撃ち殺していいが
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シナリオに関わるキャラクターは死んでもいい
時期になるまで殺せないようになっている
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この点において、没入型シミュは反応型と言える
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シナリオはプレイヤーの選択によって大きくは変化しないが
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キャラクターたちの行動や発言が変わるという仕方で
プレイヤーの決断が反映される
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誰も気づいてないと思っていても…
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「ところでデントンくん、婦人用トイレには入らん方がいいな」
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プレイヤーの行いは決められた選択肢の瞬間にではなく
ゲームプレイの内部で判断される
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ファークライ2を作る際に没入型シミュに着想を得た
クリント・ホッキングはこう述べている
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「物語とWASDキーの組み合わせて影響の連鎖を
作り出すことで、Deus Exはプレイヤーに」
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「入力レベルでの直接的行動の反響が
ゲームのシナリオにまで」
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「伝わっていくという経験を可能にしている」
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以上が、Looking GlassやIon Stormが
没入型のゲームを作るのに使ったツールだ
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写実的なグラフィックを作ったり、インターフェースを
排除したりするのではなく
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プレイヤーの手を離すという方法でだ
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例えばDeus Exは「当初からプレイヤーの
自己表現を軸としたゲームとしてデザインされた」
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「私たちデザイナーやプログラマー、アーティストや
シナリオ作者の頭の良さを示すためではなくてね」
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ディレクターであるウォーレン・スペクターの言葉だ
「このゲームのアイデアは、プレイヤーを共同制作者として」
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「受け入れようというものだった プレイヤーの手に
権限を委ねて、自分で選択をしてもらう」
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「そして選んだことの帰結を引き受けてもらうということだ」
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実際にプレイした人々は
没入型シミュこそが未来だと感じた
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プレイヤーはやりたいことができるし、決断に対して
ゲームの方も反応してくれる
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インチキ臭いビデオゲーム的展開ではなく
現実の場所をシミュレートしたような空間がそこにあった
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だが、そうしたプレイヤーの数は少なかった
Deus Exは50万本売れたが
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同様に名作だが、性質の全く異なるハーフライフは
数百万本の売り上げを達成していた
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Deus Exは知る人ぞ知る名作だった
革命を起こすような記念碑的作品ではなかった
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没入型シミュはかろうじて生き残っていた
Deus Exの微妙な続編Invisible Warや
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賛否両論のThief第3作Deadly Shadows
そして比較的好評だったUnderworldの精神的後継作
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Arx Fatalisなどがあった だが2000年にLooking Glassが
2005年にIon Storm Austinが解散し
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より1本道でスクリプト依存のゲームが
大ヒット作を量産するようになると
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このデザイン理念は消えていった
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散発的な浮上はあった 主にElder Scrollsの新作と
Falloutシリーズのおかげだ
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また System Shock 2のデザイナー、ケン・レヴィーンによる
Bioshockや、東欧の開発者たちの尽力で
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ロシアからはPathologicが、ウクライナからは
STALKERが出ている
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しかし現在、このジャンルは栄光の帰還を果たしつつあるようだ Looking GlassやIon Stormの歴史に関わった
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人々やゲーム、アイデアなどが再来しているからだ
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Deus Exの新作を開発したのは新しい人々だが
彼らはオリジナルにかなり忠実だ
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ただし、劣悪なボスキャラは除く(ありがたいことに
ディレクターズカットでは修正されている)
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それとエマージェントなゲームプレイも
やや縮小されている
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その点でDishonoredは充実している これはDeus Exの
リードデザイナー、ハーヴェイ・スミスのおかげだ
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このステルスゲームは大量の魔法と
相互に作用する多くのシステムを利用して
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標的を暗殺する自分だけの方法を探ることができる
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また衛兵を殺しまくるとネズミの数が増えるなど
プレイスタイルに対する反応も細かい
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そして最初のところで言及した、これから
発売される作品群がある
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面白いことになりそうだ
「Looking Glassのデザイン哲学を拡張しようとして」
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「特にArkaneの人たちはかなり頑張っているみたいだが
私はそれよりさらに先へ行きたい」
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とスペクターは言っている
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「多くの人が挑戦してくれるのは嬉しいが、プレイヤーに
自分だけの物語を作る力を与えるという点では」
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「こういう風にやればいいのにと思うこともある
私はその方向に進んでみたいと思っている」
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僕が一番楽しみにしているのは、この歴史ある哲学を
今日の技術とデザインを用いて
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更新するチャンスだ
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没入型シミュはそう、シミュレーションの恩恵を大きく受ける
ことができる 今のゲームは
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群衆やAI、火や天候、物理法則などを
遥かに上手くシミュレートすることができる
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このジャンルはまた、他のタイプのゲームから
学ぶことができるだろう
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例えばShadow of Mordorのように
プレイヤーの行動に対して
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劇的に反応する物語だ
それと、写実的なものからも恩恵を受けられるだろう
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より本物らしくなるからだ
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先のことを考えるなら、VRもある
おそらく没入型シミュと仮想現実との相性は完璧だろう
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実際、Looking Glassは結成されて間もない頃から
未来のテクノロジーについて考えていた
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深く関わっていたマーク・ルブランによると
「仮想現実がやって来るという話は」
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「みんなの耳に入っていたよ 多くの人は
仮想現実というのはハードウェアのことだと考えていた」
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「僕たちはどちらかというと、ソフトウェアの方から
アプローチしていた」
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「もし仮想現実を扱うことになるなら
ルールやシミュレーションがなければならないだろうってね」
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だがなんといっても大事なのは、このデザイン理念が
まだ研究の余地を残しているということだ
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没入型シミュはシステムを基盤とした世界と
一貫した振る舞いを特徴とするものだ
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スクリプトを基盤としたゲーム並みに
ド派手になる(あるいは売れる)ことはないだろう
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だがFalloutやDeus Exのようなシミュや、似たような
デザイン目標を持つメタルギアソリッド5や
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Hitmanのようなゲームには本当にユニークなものがある
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「シミュレーションがプレイヤーに探索させるのは」
ただの空間ではなく『可能性空間』だ」
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と、ウォーレンスペクターは言っている
「プレイヤーは自分なりの遊びや物語、問題の解決を」
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「好きな仕方で作り出して、自分の選択の帰結を
見ることができる」
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「これはゲームにだけやれることで
人類の歴史上、他のどのメディアにもできなかったことだ」
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視聴してくれてありがとう Boss Keysはどうなったのか
気になっている人のために言っておくと
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次はムジュラの仮面についてのエピソードだ
Game Maker's Toolkitに関して言うと、これは
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全面的にPatreonの人々から資金を調達している
支援者のみんなに感謝したい
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だがとりわけ、5ドル以上寄付してくれている人を
画面に表示して感謝したい