-
ステルスゲームのような
芯の通った強力なアイデアを持つジャンルは多くない
-
人目を避けて潜み、影から襲うゲームだ
-
存在すら悟られることなく
敵の軍団を打ち負かす
-
ゲームの主役はスパイ、暗殺者そして……
バットマンだ
-
しかしこの空想を実現するためには
多くの複雑なゲームシステムを調整する必要がある
-
敵の知覚、情報収集、強固な発見システムなどだ
-
一つでも調整を間違うと、全てが台無しになり得る
-
それでは「School of Stealth」へようこそ
-
これはステルスゲームの仕組みについての
GMTK のミニシリーズだ
-
一編ごとに、ステルスゲームのシステムを
一つ取り上げ、その仕組みを解説する
-
必要に応じて、技術的な側面や デザインの検討
-
ユーザー体験について見ていこう
-
エピソード1は、ゲーム開始時の状態
「隠れている状態」から始めよう
-
-
そして考えてみよう「敵はどのように
プレイヤーを見たり聞いたりしているのか?」
-
結局のところ、ゲームの守衛は
仮想の目と耳を与えられている
-
人間の二つの感覚
「視覚と聴覚」を模倣するためだ
-
視覚を模倣するため、ゲームの守衛は
一般的に「viewcone (視野錐)」をもつ
-
顔についた透明のチーズのような存在だ
-
プレイヤーが錐の中に入ると
彼らに探知される
-
もちろん、実際はもう少し複雑だ
-
単純な錐では、キャラクターが敵のすぐ隣にいても
見つからずに済んでしまう
-
なので、より複雑な形状がしばしば使われる
-
『Splinter Cell Blacklist』では
基本的な視野錐が敵の主要な視界に使われ
-
二つ目のより大きな箱が、周辺視野を再現している
-
更には、斜め後ろの気配を感じ取る
第六感を真似た小さな領域がある
-
-
開発者は錐の高さも考慮する必要があるだろう
-
キャラクターが敵の上にいる時に
見つからない方がいいと考えるならば
-
プレイヤーが遮蔽物にいるか知るために
ゲームは一般に「レイキャスト」を使う
-
目に見えない線を二つの要素の間で
繋げられるか確認する
-
この場合は
間に物があるかを判断する
-
これをもっと複雑化することで
部分的なカバーを作ることができる
-
『Splinter Cell』では、敵はサムフィッシャーの
モデルの 8つの骨格にレイキャストし
-
一定の数が見えた場合だけ彼を認識する
-
プレイヤーが錐に入り、遮蔽物にいなかった場合でも
敵は即座に発見しないだろう
-
代わりに、守衛のプレイヤーに対する
認識が上昇し始める
-
メーターの上昇速度はより遅くなるかもしれない
もしキャラが遠くにいたり
-
守衛の周辺視野にいるだけだったり
周囲が暗かったり、しゃがんでいたり
-
全く動かなかった場合には
-
しかしメーターが最高値に達した時には
守衛はプレイヤーの位置を正確に知るだろう
-
敵が認識できるのは
プレイヤーだけではないことも重要だ
-
開いた扉、興味を引くオブジェクトや
死体などだ
-
これは罠や、かく乱といった
面白い作戦に利用できるが
-
敵の知能や認識能力を
印象付けることにも寄与する
-
聴覚の模倣は また別の問題だ
-
プレイヤーが音を立てた時、銃を撃ったり
音が出る床を歩いたり、石を投げたりした場合
-
音にはその音量に対応した距離が与えられる
-
その距離の内部にいる守衛は
鳴った場所を調べて来るように言われるだろう
-
-
しかし音と守衛を直線で結ぶだけでは
上手くいかない
-
音は壁によって消されるはずだ
-
これの代表的な解決策は
「パスファインド(経路探索)システム」だ
-
敵がオブジェクトにぶつかることなく
目的地へ進めるようにする技術と同じ物だ
-
音に同様の経路を進ませることで
音が環境を通して伝わっていく様を
-
より現実に基づいた形で再現できる
-
要点は以上だ しかし一部のゲームには
より複雑なシステムがあるだろう
-
例えば『Thief』では、守衛は間接的に
プレイヤーの情報を得ることができる
-
他の敵が何をしているか分かるのだ
-
『Hitman 2』では周囲のキャラクターに
エージェント47の顔を見せないと発見されにくくなる
-
これにより変装がより効果的になる
-
より詳細な技術的な情報へのリンクは
動画の説明欄に書いておく
-
上手にやれば、これらのシステムはかなり現実的な
人間の視覚と聴覚の描写を可能にするはずだ
-
-
これによってどこが安全な場所かについて
根拠のある判断ができるようになる
-
明暗の違いによる目の働きや、壁が音を遮るといった
現実の知識を使うことが可能になるのだ
-
-
しかしプレイヤーが対処しなければならない
一定の曖昧さは必ず存在する
-
それは葛藤や不満につながる事がある
-
君もステルスゲームをプレイしている時
完璧に隠れていると思ったのに
-
敵に見つかったことがあるだろう
-
プレイヤーに、そういった事態が
理にかなっていると理解できるようにするため
-
探知システムを分かりやすくする賢い方法がある
-
一つ目は役に立つインターフェースだ
-
昔の『Thief』の時点でさえ、開発者たちは
プレイヤーが苦戦することを知っていた
-
一人称視点では自分がどれくらいの明るさで
見えるのか分からないのだ
-
そこで、キャラの視認性を示す
ライトジェムが画面下に存在する
-
そして『Splinter Cell』では、自分がどの程度の
音を立てているか判断するという厄介な問題には
-
サムの HUD の可視化装置が役に立つ
-
また、ほとんどのゲームは
ある種の探知表示器をインターフェースに持つ
-
先ほどの守衛の認識メーターを真似たものだ
-
これによりプレイヤーは
敵の状態を知ることができるし
-
時には自分を発見した
敵の位置すら教えてくれる
-
次は、敵の状態をプレイヤーに伝える為に
アニメーションと音響を使うことだ
-
ぼーっとして怠けている守衛は
かなり知覚が低下していることを暗示しているだろう
-
しかし武器を構えている疑い深い敵は
より周囲の脅威に警戒しているだろう
-
台詞の音声も敵がプレイヤーの存在に
気づき始めていることを教えてくれる
-
それから安全地帯だ
-
ゲーム世界にある場所で、通常の状況ならば
-
確実に隠れることができる
-
そこは『バットマン』の高所にあるガーゴイル
かもしれないし『Assassin’s Creed』の茂みや
-
あるいは『Hitman』の木箱かもしれない
-
これらは完全に安全な位置から偵察し
計画をたてられる場所を少なくとも一か所提供する
-
もう一つの大きな解決策はプレイヤー贔屓(ひいき)だ
プレイヤーが有利になるようにするシステムである
-
-
『Splinter Cell Blacklist』の
プログラマー、Martin Walsh によると
-
「シミュレーションの観点で NPC が
見聞きできるものは重要ではない」
-
「NPCが見たり聞いたりできるはずだと
プレイヤーが考えるものが重要なのだ」
-
なので彼のゲームでは
画面外にいる守衛の聴覚は半減される
-
見ることすら出来ない誰かに
音を聞かれるのは不公平だと感じるからだ
-
そして『The Last of Us』では、敵は通常
ジョエルの頭にレイキャストして視認を測定するが
-
しゃがんでいる時には胸へと変更する
これにより発見されずに遮蔽物から覗くことができる
-
-
それから、最大の手助けは
先ほど説明した、曖昧な探知システムだ
-
もし敵の視野錐に触れた瞬間に発見されてしまったら
公平だとは思わないだろう
-
-
だから敵が存在に気づき、完全に警戒されるまで
少し時間がかかることは理にかなっている
-
-
最後に、より大胆な解決策がある
単純にこれらのシステムを
-
プレイヤーに開示することだ
-
秀逸な横スクロール潜入ゲーム
『Mark of the Ninja』では、敵の知覚は
-
はっきりとプレイヤーに提供される
-
敵の視野錐が画面に表示されるのだ
-
忍者は、影にいるか光にいるかのどちらかだが
それはキャラのスプライトに示される
-
そして音をたてた場合、その音の大きさは
音源から発する円形の波動で確認できる
-
これはまた、音をたてる以前から表示されるので
-
音をつかった陽動やこっそりと逃げることを
成功させる助けとなる
-
情報を画面に映すことで、システム上で
何が起きているかという議論の余地は無くなる
-
プレイヤーが錐の中にいるか、いないかだ
-
音が敵の耳に達したか、そうでないかだ
-
それ故に『MotN』の二値的な知覚システムは
瞬時に気付かれる完全に二値的な発見システムと
-
組み合わせることができる
しかし、アナログな曖昧さが
-
視野のぎりぎり端のところに
少しあるようだ
-
「誰か上にいるのか?」
-
もう少し微妙に違ったやり方の
『Shadow Tactics: Blades of the Shogun』を見よう
-
このゲームでは視野錐は3つの区域に分割されている
敵に近い、明るい緑色の場所は
-
危険地帯であり、ほぼ一瞬で見つかってしまう
-
暗い緑の場所は、しゃがんでいれば発見され無いが
-
立ち上がると探知される
-
そしてドット状の場所は茂みなどの安全地帯で
常に見られることはない
-
-
もし錐を作動させると全体が黄色で満たされていき
-
黄色がキャラクターに触れた場合、発見される
-
実に手際の良いやり方だ
必要な情報を、全て画面に表示している
-
勿論こうしたことを
フル3Dのゲームに映し出すことは難しいだろう
-
初代の『メタルギアソリッド』は
単純にゲームの世界を
-
2Dのマップに写し取り
視野錐を描写したレーダーを表示した
-
なんというか応急処置のような解決策だが
『Deus Ex: Mankind Divided』のようなゲームで
未だに使われている
-
だが不可能ではない
-
『スライ・クーパー』シリーズでは、守衛は
懐中電灯ではっきりした黄色の範囲を照らす
-
もし光の中に入ると発見されるが
入らなければ安全だ
-
漫画的? 確かに
-
だが即座に理解できる
-
だが最も重要な事は、これらの違った
知覚システムがもたらすゲーム体験だ
-
アナログで曖昧なシステムでは、プレイヤーは
周囲の状況を自身で評価しなければならない
-
ゲーム中の没入的で現実的な
光、影、距離、音を理解することで
-
またそれは一定の緊張感を与えてくれる
100%安全だとは確信できないのだ
-
-
そしてこれは、ステルスゲームの性質に
よく合っていると僕は思う
-
破壊的な暴力を使うのではなく
敵から隠れる能力を使うことによって
-
プレイヤーは力を発揮するのだ
-
潜入中の状態が壊れやすく曖昧なので
敵に対して持っている
-
ほんの少しのアドバンテージを失うリスクに
プレイヤーは常に晒される
-
『Thief』のプログラマー、Tom Leonard は
「それはプレイヤーの心臓をドキドキさせることだ」
-
「彼らを(発見される)崖っぷちに立たせることで」
-
ステルス要素を借用しているサバイバルホラーゲーム
では、それを隠すことが特に重要だ
-
-
『Alien Isolation』の様なゲームで
ゼノモーフがどこを見ているか正確にわかったら
-
馬鹿らしいだろう
-
ほとんどの恐怖と不安は、エイリアンの感覚に対する
不確かな知識によって引き出されるのだ
-
だがシステムを完全に明確にすることにも利点がある
-
プレイヤーに巨大な力を与え
並外れた自信をもって遊ぶことができる
-
頂点捕食者のような気分を味わうことができ
罠におびき寄せたり、忍び寄って暗殺できる
-
『MotN』のプロデューサー、Jamie Cheng は言う
「繰り返すうちに、 敵の聴覚を推測することは」
-
「それほど面白くないとわかった
より興味をもったのは」
-
「手の込んだ死の罠をつくることだった」
-
もちろん捕食者のような気分は
他の方法を使っても体験できる
-
前述した安全地帯や、プレイヤーに沢山の
道具や超能力を与えるといった方法だ
-
しかし正確に敵の知覚を予測できれば
早い段階から
-
その体験を味わえるだろう
-
レッスン1はこれで終わりだ
-
ステルスゲームの守衛は目と耳を模倣した
システムを通して見聞きしている
-
システムをどの程度プレイヤーに開示するか
決めることで、開発者は違った体験をつくれるだろう
-
-
次回はもっと深くまでステルスゲームの
デザインを探っていこう
-
チャンネル登録をすれば新しいエピソードに
いち早くアクセスできるぞ
-
-
やあ、ご視聴ありがとう
-
深刻なコロナウイルスの流行の最中で
あなたが無事でいることを願っている
-
今は危険な状況だ、安全にして手を洗い
-
必要なガイドラインに従ってくれ
-
興味を引くものを作って君たちを飽きさせず
楽しませるように最善を尽くすつもりだ