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『Elder Scrolls 2: Daggerfall』の説明書の中で
ベセスダはこんなメッセージを書いて―
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「セーブ地点からやり直す戦略」を
避けるように勧めている
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「ほとんどのゲーマーは、自分の実力を
最大化するためにセーブデータを使います」
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「何か問題が発生すると、セーブ地点に戻って
上手くいくまでやり直すというものです」
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「ゲームを最終的に振り返ってみると、幸運と
完璧な選択が延々と続いているかのように見えます」
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「しかし RPG は完璧にプレイすることが
目的ではありません」
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「キャラを作り、物語を生み出すことが
目的なのです」
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「実際、過ちを経験しない限り、ゲームの最も
面白い部分に触れることは決してないでしょう」
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「キャラクターが死亡した場合は、是非とも
セーブ地点に戻ってやり直して下さい」
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「しかしスリに遭ったり、クエストが失敗したり
その他のありふれた災難が発生した場合は―」
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「そのまま続けて下さい」
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「次の展開に驚くかもしれません」
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この文章は「セーブ厨(リセット厨)」に対する
立派な態度だ
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これは前のセーブファイルに戻る術のことで
ステルスゲームで発見されたり―
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RPG で最愛のキャラを失ったり
乱数で不運な結果が出たりした瞬間に使われる
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単純に失敗を取り消したり、不運な出来事を
リセットしたくなる衝動に駆られるが
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ベセスダが言うように
そんなことをすれば―
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ゲームが提供する「最高の体験談」を
逃してしまうかもしれない
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例えば、あと少しで死にそうだったけど
逆転して勝利したとか
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見張りが慌てて警報を鳴らす直前に殺したとか
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隠密行動で大失敗したときに
ドキドキしながら撤収したとか
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お気に入りのキャラを失いながら、悲しみの中で
ストーリーを進めなければならないとか
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そしてそれは
素晴らしい感情だ
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しかし結局のところ、こういうことを
説明書に書いても意味がない
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プレイヤーにこういう体験をさせたいという
意図があるなら―
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それをゲーム自体に
組み込む必要があるのだ
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では、どうすれば
逆境の中であっても―
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セーブ地点に戻ろうと思わないような
ゲームを作れるのだろうか?
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過去のミスや失敗、挫折を
乗り越えることが実際に奨励され
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そうすることで、作品の最も面白い側面を
垣間見れるようなゲームは作れるのか?
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まぁ、いくつかのゲームでは
挫折感を許容範囲内にすることが戦略だ
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前のセーブ地点に戻ったほうがマシなほどの
致命的な損害を与えないようにするのだ
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そのための 1つの方法が、非常に広い
「失敗の幅」を用意することだ
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これは『Gunpoint』や『Heat Signature』を開発した
Tom Francis が考案した言葉で
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完璧な成功から完全な失敗までの
状態の範囲を表している
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例えば『XCOM』を考えてみてくれ
全キャラが生存したまま任務遂行することもあれば
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ヘマをやって、負傷した兵を
2人連れて退却したり
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全員死亡したまま
帰還したりすることもある
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大抵のゲームには「失敗の幅」があるが
中には他よりもずっと寛容なものもある
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Tom は例として、オープンワールドのステルスゲーム
『メタルギアソリッド V』を挙げている
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本作には非常に幅広い状態がある
潜伏中のスネークから… 死んだスネークまで
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歩哨はプレイヤーを目撃しても
すぐには発砲しない
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もっと詳しく調べに来るだけだ
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見つかった場合は
スローモーションの反射モードに入って
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その歩哨をヘッドショットする機会が
与えられる
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ここでミスっても、歩哨は手動で
支援を呼ぼうとするので
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それを阻止する機会が得られる
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こんなにやった後でも、スネークは逃げ去って
また潜伏に戻ったり
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戦闘したりできるし
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あるいはヘリを呼ぶことで、「偵察」という
メタルギアの標語にドロップキックして
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海にブッ飛ばすことさえできる
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この全てをしくじった場合は
死ぬしかない
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だから「失敗の幅」が
非常に広くなっていて―
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「目撃されず任務完了」と「戦場で血まみれ」の間には
あらゆる状態があるのだ
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つまり災難が起きても、それは
リセットするほど過酷なものではなく
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状況が少しずつ
悪化していくだけなのだ
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しかし「失敗の幅」の要点は
多くの場合「元に戻せること」にある
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上手にプレイすれば
実際に状況を好転させて
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最終的なゲームクリアへ向かって
這い戻ることができる
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これは『Far Cry 2』の
大きな特徴だ
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本作も「失敗の幅」が広いゲームだ
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デカイ体力ゲージや、大量の回復注射器
そして仲間システムのおかげだ
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仲間の救助によって死んだ後でも
もう 1 回だけプレイする機会が得られるのだ
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また常に逆境に直面するゲームでもある
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戦闘中に銃が
詰まるかもしれない
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前哨基地をこっそり通過する際に
マラリアに感染するかもしれない
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あるいは、逃走中に車が
故障するかもしれない
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だがこうした逆境は
本当に重要な目的を果たす
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2009年の GDC 講演で開発者の
Clint Hocking がそれを説明した
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元々、彼は『Far Cry 2』を
「意図的な行動」が重要なゲームにしたかった
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これを実現するために
ゲームを 2つの局面に分割した
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計画の局面では、現場を調査し
気になるアイテムを探し
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見張りの巡回パターンを観察して
逃げ道を計画する
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それから、計画を実際に行う
実行局面がある
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だが開発者は、プレイヤーの計画が
完全に成功したり完全に失敗したりすることは望まず
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むしろ、実行局面から計画局面に戻るような
小さな挫折を経験してもらいたいと考えた
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Clint はこうしたゲーム性を
「即興性(臨機応変)」と表現する
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これは計画と実行の間を
絶えず行き来するというアイデアだが
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連続した通しプレイの中で行われる
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そしてプレイヤーに失敗や不運を
経験させることには利点がもう 1つある
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というのも、逆境に苦しむことによって
刺激的かつ活発的に目標を変えて―
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勝利へ向かって再び
努力することができるからだ
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例えば FPS で大量のダメージを受けて
戦闘から離れなければならない場合―
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陰に隠れたり
体力パックを見つけたり
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医療キットを作成したりする
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またステルスゲームで発見されると
逃げて隠れるか
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または潜伏を諦めて、昔ながらのやり方で
敵と戦わなければならない
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そしてこれは、攻略に支障をきたしてプレイヤーが
リセットした場合は機能しなくなってしまう
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これが起きる可能性を減らすために
Clint はこうした逆境を―
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小さく、予測不可能で、回復できるものにした
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マラリアの発作や、銃の弾詰まりなどは
計画を台無しにするかもしれないが
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リセットする理由としてはあまりにも些細だし
軌道修正するのも簡単で
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大抵は、いつ発生するのか
全く予測できないものだ
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「損失が小さくて予測できないからこそ―」
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「プレイヤーは損失を避けるためのリセットを
しようとしないのです」と Clint は述べる
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ところで、完璧なプレイに報酬があったり
失敗に罰があったりしたら
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これら全ては崩れ去ってしまう
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ステルスゲームの「一度も発見されなかった」とかいう
無意味なランクや実績は大丈夫だ
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これは上手なプレイヤーにとっては
憧れの報酬だ
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しかしミスったことで、後々ゲームが
極めて難しくなるのであれば
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プレイヤーが失敗した瞬間に
リセットするのは当然だ
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『XCOM』に話を戻すと、兵士を失って
死傷者を出すと―
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貧弱な新人を採用せざるを得なくなり
今後の任務をクリアする可能性が低くなって―
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死と失敗の厄介な悪循環が発生する
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だからお気に入りのキャラを生かしておくために
セーブ連打に頼るゲーマーがいるのも不思議ではない
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そうしないと
あまりにもキツすぎる
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恐らくやり方としては、失敗を成功と同じくらい
面白いものにする方が好ましい
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『Shadow of Mordor』で
オークの隊長に殺されると
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そいつは殺したことを覚えてるので
次に会ったときにその話を持ち出してくる
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だからノーミスのプレイに戦術的な利益が無く
不完全なプレイに有意義な結果があれば―
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プレイヤーは自然な形で
失敗を経験して
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出来事がありのままに進むことを
望むだろう
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もちろん、この問題を解決する
一番簡単な方法は
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単純に、前のセーブをリロードする機能を
削除することだ
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『Darkest Dungeon』では、セーブは常に
上書き保存されるので
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ミスを巻き戻すのは
不可能に近い
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開発した Redhook Studios がこうしたのは
2つの理由がある
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1つは誤った判断や、不快なランダム性を
受け入れてもらうためだ
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本作では惨いことが起きるので
それに対処しなければならないのだ
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それと、ある種の危険を冒すべきかどうか
真剣に考えてもらいたかったというのもある
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そのために、思うようにいかなくても
前のセーブ地点に戻れないことを認識させている
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2016年の GDC 講演で、開発者の
Tyler Sigman はこう語った
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「私たちが求めていたものは
不変的な結果です」
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「私たちはいつでも、こう考えてもらいたいのです」
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「 "もうちょっと先へ進んで、財宝を
もうちょっと獲るべきかな?" とか―」
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「 "2人が苦しんでてこいつはほぼ死んでるけど
自分はこのクエスト完遂できるのか?" とか」
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「そのためには、本当に意味のある
嫌らしいセーブシステムが必要だったのです」
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他のゲームもこれをやっている 例えば
サバイバルゲームの『The Long Dark』では
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オオカミの襲撃や怪我などの災難が起きると
自動的にセーブされるので
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最も劇的なところから
プレイを続けなければならない
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これは家庭用ゲーム機ではかなり普通のことだ
進行状況をセーブするのは簡単ではなく
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実際のセーブ地点や
中間地点に頼らなければならない
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だからといって、休憩が必要な際に
簡単にセーブできないというわけではない
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『ダークソウル』で永続的にセーブできるのは
篝火のある場所だけなのだが
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ゲームはいつでも中断できる
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これでゲームを中止して
次はその場所から再開できる
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しかしそのセーブは削除されるので、ドジをやっても
中断地点まで巻き戻すことはできない
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だから多くの説得力ある理由のおかげで
プレイヤーはゲームに留まっているし
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ミスった瞬間に
即ロードすることもないのだ
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失敗したときは、活発的に目標を変更し
しばらく違うことをするようになる
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最高の物語は
災難が起きたときに生まれる
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危険を伴うプレイは、戻ってやり直しができない方が
ずっと有意義なものになる
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しかしこの純粋な遊び方を実践するかどうかは
プレイヤーが決めることではない
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僕は『Civ 4』を開発した Soren Johnson の
言葉を引用したことがあった
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「機会があれば、プレイヤーは
ゲームの面白さを最適化するだろう」
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だからもし開発者が、本当にプレイヤーを
この体験に留めておきたいのであれば―
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安易なセーブ連打を禁止するとか
逆境を許容範囲内して続けられるようにするとか
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ノーミスプレイの報酬を削除するとか、失敗を
成功と同じくらい楽しくする必要がある
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その時になって、初めてプレイヤーは
「そのまま続けて―」
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「次の展開に驚く」のだ
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(字幕翻訳:Nekofloor)
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やぁ! ご視聴ありがとう!
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援助してくれた皆のおかげで制作されている
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僕が生放送をするために YouTube に戻ってきたことに
気付いたかもしれない Twitch はダメだったのでね
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僕は英国夏時間の午後 8時に生放送しているから
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