WEBVTT 00:00:02.710 --> 00:00:07.973 『Elder Scrolls 2: Daggerfall』の説明書の中で ベセスダはこんなメッセージを書いて― 00:00:08.003 --> 00:00:11.827 「セーブ地点からやり直す戦略」を 避けるように勧めている 00:00:11.867 --> 00:00:16.784 「ほとんどのゲーマーは、自分の実力を 最大化するためにセーブデータを使います」 00:00:16.824 --> 00:00:21.890 「何か問題が発生すると、セーブ地点に戻って 上手くいくまでやり直すというものです」 00:00:21.930 --> 00:00:26.981 「ゲームを最終的に振り返ってみると、幸運と 完璧な選択が延々と続いているかのように見えます」 00:00:27.021 --> 00:00:29.850 「しかし RPG は完璧にプレイすることが 目的ではありません」 00:00:29.890 --> 00:00:32.997 「キャラを作り、物語を生み出すことが 目的なのです」 00:00:33.037 --> 00:00:39.429 「実際、過ちを経験しない限り、ゲームの最も 面白い部分に触れることは決してないでしょう」 00:00:39.469 --> 00:00:43.859 「キャラクターが死亡した場合は、是非とも セーブ地点に戻ってやり直して下さい」 00:00:43.899 --> 00:00:49.744 「しかしスリに遭ったり、クエストが失敗したり その他のありふれた災難が発生した場合は―」 00:00:49.794 --> 00:00:51.679 「そのまま続けて下さい」 00:00:51.719 --> 00:00:54.986 「次の展開に驚くかもしれません」 00:00:55.036 --> 00:00:58.544 この文章は「セーブ厨(リセット厨)」に対する 立派な態度だ 00:00:58.584 --> 00:01:03.246 これは前のセーブファイルに戻る術のことで ステルスゲームで発見されたり― 00:01:03.286 --> 00:01:09.023 RPG で最愛のキャラを失ったり 乱数で不運な結果が出たりした瞬間に使われる 00:01:09.063 --> 00:01:13.841 単純に失敗を取り消したり、不運な出来事を リセットしたくなる衝動に駆られるが 00:01:13.881 --> 00:01:16.458 ベセスダが言うように そんなことをすれば― 00:01:16.498 --> 00:01:20.619 ゲームが提供する「最高の体験談」を 逃してしまうかもしれない 00:01:20.659 --> 00:01:25.010 例えば、あと少しで死にそうだったけど 逆転して勝利したとか 00:01:25.050 --> 00:01:28.880 見張りが慌てて警報を鳴らす直前に殺したとか 00:01:28.920 --> 00:01:32.709 隠密行動で大失敗したときに ドキドキしながら撤収したとか 00:01:32.759 --> 00:01:38.159 お気に入りのキャラを失いながら、悲しみの中で ストーリーを進めなければならないとか 00:01:38.209 --> 00:01:40.621 そしてそれは 素晴らしい感情だ 00:01:40.661 --> 00:01:45.004 しかし結局のところ、こういうことを 説明書に書いても意味がない 00:01:45.044 --> 00:01:48.577 プレイヤーにこういう体験をさせたいという 意図があるなら― 00:01:48.617 --> 00:01:51.430 それをゲーム自体に 組み込む必要があるのだ 00:01:51.470 --> 00:01:53.910 では、どうすれば 逆境の中であっても― 00:01:53.960 --> 00:01:57.010 セーブ地点に戻ろうと思わないような ゲームを作れるのだろうか? 00:01:57.060 --> 00:02:02.046 過去のミスや失敗、挫折を 乗り越えることが実際に奨励され 00:02:02.086 --> 00:02:06.579 そうすることで、作品の最も面白い側面を 垣間見れるようなゲームは作れるのか? 00:02:07.059 --> 00:02:12.006 まぁ、いくつかのゲームでは 挫折感を許容範囲内にすることが戦略だ 00:02:12.046 --> 00:02:16.850 前のセーブ地点に戻ったほうがマシなほどの 致命的な損害を与えないようにするのだ 00:02:16.890 --> 00:02:21.069 そのための 1つの方法が、非常に広い 「失敗の幅」を用意することだ 00:02:21.109 --> 00:02:25.659 これは『Gunpoint』や『Heat Signature』を開発した Tom Francis が考案した言葉で 00:02:25.699 --> 00:02:29.820 完璧な成功から完全な失敗までの 状態の範囲を表している 00:02:29.860 --> 00:02:35.322 例えば『XCOM』を考えてみてくれ 全キャラが生存したまま任務遂行することもあれば 00:02:35.372 --> 00:02:38.488 ヘマをやって、負傷した兵を 2人連れて退却したり 00:02:38.528 --> 00:02:41.380 全員死亡したまま 帰還したりすることもある 00:02:41.430 --> 00:02:47.360 大抵のゲームには「失敗の幅」があるが 中には他よりもずっと寛容なものもある 00:02:47.400 --> 00:02:52.249 Tom は例として、オープンワールドのステルスゲーム 『メタルギアソリッド V』を挙げている 00:02:52.289 --> 00:02:57.753 本作には非常に幅広い状態がある 潜伏中のスネークから… 死んだスネークまで 00:02:57.793 --> 00:03:01.637 歩哨はプレイヤーを目撃しても すぐには発砲しない 00:03:01.687 --> 00:03:04.280 もっと詳しく調べに来るだけだ 00:03:04.320 --> 00:03:08.080 見つかった場合は スローモーションの反射モードに入って 00:03:08.120 --> 00:03:11.210 その歩哨をヘッドショットする機会が 与えられる 00:03:11.250 --> 00:03:14.860 ここでミスっても、歩哨は手動で 支援を呼ぼうとするので 00:03:14.910 --> 00:03:16.880 それを阻止する機会が得られる 00:03:16.930 --> 00:03:20.360 こんなにやった後でも、スネークは逃げ去って また潜伏に戻ったり 00:03:20.400 --> 00:03:21.940 戦闘したりできるし 00:03:21.980 --> 00:03:26.442 あるいはヘリを呼ぶことで、「偵察」という メタルギアの標語にドロップキックして 00:03:26.482 --> 00:03:28.250 海にブッ飛ばすことさえできる 00:03:28.290 --> 00:03:31.790 この全てをしくじった場合は 死ぬしかない 00:03:31.840 --> 00:03:34.373 だから「失敗の幅」が 非常に広くなっていて― 00:03:34.413 --> 00:03:39.750 「目撃されず任務完了」と「戦場で血まみれ」の間には あらゆる状態があるのだ 00:03:39.800 --> 00:03:43.955 つまり災難が起きても、それは リセットするほど過酷なものではなく 00:03:43.995 --> 00:03:46.828 状況が少しずつ 悪化していくだけなのだ 00:03:46.868 --> 00:03:51.520 しかし「失敗の幅」の要点は 多くの場合「元に戻せること」にある 00:03:51.560 --> 00:03:54.267 上手にプレイすれば 実際に状況を好転させて 00:03:54.317 --> 00:03:57.669 最終的なゲームクリアへ向かって 這い戻ることができる 00:03:57.719 --> 00:04:00.570 これは『Far Cry 2』の 大きな特徴だ 00:04:00.610 --> 00:04:03.356 本作も「失敗の幅」が広いゲームだ 00:04:03.396 --> 00:04:07.457 デカイ体力ゲージや、大量の回復注射器 そして仲間システムのおかげだ 00:04:07.497 --> 00:04:11.183 仲間の救助によって死んだ後でも もう 1 回だけプレイする機会が得られるのだ 00:04:11.223 --> 00:04:13.993 また常に逆境に直面するゲームでもある 00:04:14.033 --> 00:04:16.800 戦闘中に銃が 詰まるかもしれない 00:04:16.840 --> 00:04:20.910 前哨基地をこっそり通過する際に マラリアに感染するかもしれない 00:04:20.960 --> 00:04:24.521 あるいは、逃走中に車が 故障するかもしれない 00:04:24.571 --> 00:04:27.959 だがこうした逆境は 本当に重要な目的を果たす 00:04:28.009 --> 00:04:32.501 2009年の GDC 講演で開発者の Clint Hocking がそれを説明した 00:04:32.561 --> 00:04:36.841 元々、彼は『Far Cry 2』を 「意図的な行動」が重要なゲームにしたかった 00:04:36.891 --> 00:04:39.833 これを実現するために ゲームを 2つの局面に分割した 00:04:39.883 --> 00:04:43.980 計画の局面では、現場を調査し 気になるアイテムを探し 00:04:44.030 --> 00:04:47.240 見張りの巡回パターンを観察して 逃げ道を計画する 00:04:47.280 --> 00:04:51.191 それから、計画を実際に行う 実行局面がある 00:04:51.241 --> 00:04:56.649 だが開発者は、プレイヤーの計画が 完全に成功したり完全に失敗したりすることは望まず 00:04:56.689 --> 00:05:04.192 むしろ、実行局面から計画局面に戻るような 小さな挫折を経験してもらいたいと考えた 00:05:04.242 --> 00:05:07.782 Clint はこうしたゲーム性を 「即興性(臨機応変)」と表現する 00:05:07.822 --> 00:05:11.674 これは計画と実行の間を 絶えず行き来するというアイデアだが 00:05:11.714 --> 00:05:14.350 連続した通しプレイの中で行われる 00:05:14.400 --> 00:05:18.390 そしてプレイヤーに失敗や不運を 経験させることには利点がもう 1つある 00:05:18.430 --> 00:05:23.231 というのも、逆境に苦しむことによって 刺激的かつ活発的に目標を変えて― 00:05:23.271 --> 00:05:25.760 勝利へ向かって再び 努力することができるからだ 00:05:25.800 --> 00:05:30.309 例えば FPS で大量のダメージを受けて 戦闘から離れなければならない場合― 00:05:30.359 --> 00:05:32.963 陰に隠れたり 体力パックを見つけたり 00:05:33.013 --> 00:05:34.945 医療キットを作成したりする 00:05:34.995 --> 00:05:39.166 またステルスゲームで発見されると 逃げて隠れるか 00:05:39.226 --> 00:05:43.560 または潜伏を諦めて、昔ながらのやり方で 敵と戦わなければならない 00:05:43.600 --> 00:05:49.239 そしてこれは、攻略に支障をきたしてプレイヤーが リセットした場合は機能しなくなってしまう 00:05:49.289 --> 00:05:52.590 これが起きる可能性を減らすために Clint はこうした逆境を― 00:05:52.630 --> 00:05:55.760 小さく、予測不可能で、回復できるものにした 00:05:55.800 --> 00:05:59.619 マラリアの発作や、銃の弾詰まりなどは 計画を台無しにするかもしれないが 00:05:59.669 --> 00:06:03.520 リセットする理由としてはあまりにも些細だし 軌道修正するのも簡単で 00:06:03.560 --> 00:06:06.471 大抵は、いつ発生するのか 全く予測できないものだ 00:06:06.521 --> 00:06:09.774 「損失が小さくて予測できないからこそ―」 00:06:09.824 --> 00:06:14.089 「プレイヤーは損失を避けるためのリセットを しようとしないのです」と Clint は述べる 00:06:14.430 --> 00:06:19.959 ところで、完璧なプレイに報酬があったり 失敗に罰があったりしたら 00:06:20.009 --> 00:06:21.909 これら全ては崩れ去ってしまう 00:06:21.969 --> 00:06:25.833 ステルスゲームの「一度も発見されなかった」とかいう 無意味なランクや実績は大丈夫だ 00:06:25.883 --> 00:06:28.390 これは上手なプレイヤーにとっては 憧れの報酬だ 00:06:28.440 --> 00:06:32.500 しかしミスったことで、後々ゲームが 極めて難しくなるのであれば 00:06:32.550 --> 00:06:37.250 プレイヤーが失敗した瞬間に リセットするのは当然だ 00:06:37.300 --> 00:06:42.030 『XCOM』に話を戻すと、兵士を失って 死傷者を出すと― 00:06:42.080 --> 00:06:47.089 貧弱な新人を採用せざるを得なくなり 今後の任務をクリアする可能性が低くなって― 00:06:47.139 --> 00:06:49.639 死と失敗の厄介な悪循環が発生する 00:06:49.689 --> 00:06:55.177 だからお気に入りのキャラを生かしておくために セーブ連打に頼るゲーマーがいるのも不思議ではない 00:06:55.227 --> 00:06:56.970 そうしないと あまりにもキツすぎる 00:06:57.020 --> 00:07:01.959 恐らくやり方としては、失敗を成功と同じくらい 面白いものにする方が好ましい 00:07:02.009 --> 00:07:05.364 『Shadow of Mordor』で オークの隊長に殺されると 00:07:05.424 --> 00:07:09.334 そいつは殺したことを覚えてるので 次に会ったときにその話を持ち出してくる 00:07:09.384 --> 00:07:15.363 だからノーミスのプレイに戦術的な利益が無く 不完全なプレイに有意義な結果があれば― 00:07:15.413 --> 00:07:18.440 プレイヤーは自然な形で 失敗を経験して 00:07:18.490 --> 00:07:21.290 出来事がありのままに進むことを 望むだろう 00:07:21.330 --> 00:07:23.881 もちろん、この問題を解決する 一番簡単な方法は 00:07:23.921 --> 00:07:27.470 単純に、前のセーブをリロードする機能を 削除することだ 00:07:27.520 --> 00:07:31.501 『Darkest Dungeon』では、セーブは常に 上書き保存されるので 00:07:31.541 --> 00:07:34.629 ミスを巻き戻すのは 不可能に近い 00:07:34.669 --> 00:07:37.345 開発した Redhook Studios がこうしたのは 2つの理由がある 00:07:37.385 --> 00:07:42.501 1つは誤った判断や、不快なランダム性を 受け入れてもらうためだ 00:07:42.541 --> 00:07:46.299 本作では惨いことが起きるので それに対処しなければならないのだ 00:07:46.349 --> 00:07:51.578 それと、ある種の危険を冒すべきかどうか 真剣に考えてもらいたかったというのもある 00:07:51.628 --> 00:07:56.163 そのために、思うようにいかなくても 前のセーブ地点に戻れないことを認識させている 00:07:56.203 --> 00:07:59.871 2016年の GDC 講演で、開発者の Tyler Sigman はこう語った 00:07:59.921 --> 00:08:02.420 「私たちが求めていたものは 不変的な結果です」 00:08:02.460 --> 00:08:04.679 「私たちはいつでも、こう考えてもらいたいのです」 00:08:04.719 --> 00:08:07.765 「 "もうちょっと先へ進んで、財宝を もうちょっと獲るべきかな?" とか―」 00:08:07.815 --> 00:08:13.290 「 "2人が苦しんでてこいつはほぼ死んでるけど 自分はこのクエスト完遂できるのか?" とか」 00:08:13.340 --> 00:08:19.580 「そのためには、本当に意味のある 嫌らしいセーブシステムが必要だったのです」 00:08:19.620 --> 00:08:23.453 他のゲームもこれをやっている 例えば サバイバルゲームの『The Long Dark』では 00:08:23.503 --> 00:08:29.710 オオカミの襲撃や怪我などの災難が起きると 自動的にセーブされるので 00:08:29.760 --> 00:08:32.701 最も劇的なところから プレイを続けなければならない 00:08:32.751 --> 00:08:37.616 これは家庭用ゲーム機ではかなり普通のことだ 進行状況をセーブするのは簡単ではなく 00:08:37.666 --> 00:08:40.904 実際のセーブ地点や 中間地点に頼らなければならない 00:08:40.954 --> 00:08:45.547 だからといって、休憩が必要な際に 簡単にセーブできないというわけではない 00:08:45.597 --> 00:08:49.753 『ダークソウル』で永続的にセーブできるのは 篝火のある場所だけなのだが 00:08:49.813 --> 00:08:52.240 ゲームはいつでも中断できる 00:08:52.290 --> 00:08:55.700 これでゲームを中止して 次はその場所から再開できる 00:08:55.750 --> 00:09:00.682 しかしそのセーブは削除されるので、ドジをやっても 中断地点まで巻き戻すことはできない 00:09:01.180 --> 00:09:04.934 だから多くの説得力ある理由のおかげで プレイヤーはゲームに留まっているし 00:09:04.984 --> 00:09:07.779 ミスった瞬間に 即ロードすることもないのだ 00:09:07.839 --> 00:09:12.102 失敗したときは、活発的に目標を変更し しばらく違うことをするようになる 00:09:12.152 --> 00:09:14.882 最高の物語は 災難が起きたときに生まれる 00:09:14.932 --> 00:09:19.466 危険を伴うプレイは、戻ってやり直しができない方が ずっと有意義なものになる 00:09:19.516 --> 00:09:23.380 しかしこの純粋な遊び方を実践するかどうかは プレイヤーが決めることではない 00:09:23.430 --> 00:09:26.691 僕は『Civ 4』を開発した Soren Johnson の 言葉を引用したことがあった 00:09:26.741 --> 00:09:30.720 「機会があれば、プレイヤーは ゲームの面白さを最適化するだろう」 00:09:30.770 --> 00:09:34.600 だからもし開発者が、本当にプレイヤーを この体験に留めておきたいのであれば― 00:09:34.650 --> 00:09:39.450 安易なセーブ連打を禁止するとか 逆境を許容範囲内して続けられるようにするとか 00:09:39.500 --> 00:09:44.104 ノーミスプレイの報酬を削除するとか、失敗を 成功と同じくらい楽しくする必要がある 00:09:44.154 --> 00:09:47.044 その時になって、初めてプレイヤーは 「そのまま続けて―」 00:09:47.104 --> 00:09:49.457 「次の展開に驚く」のだ 00:09:49.507 --> 00:09:50.457 (字幕翻訳:Nekofloor) 00:09:50.507 --> 00:09:51.609 やぁ! ご視聴ありがとう! 00:09:51.669 --> 00:09:55.900 Game Maker’s Toolkit は Patreon で 援助してくれた皆のおかげで制作されている 00:09:55.970 --> 00:10:00.720 僕が生放送をするために YouTube に戻ってきたことに 気付いたかもしれない Twitch はダメだったのでね 00:10:00.780 --> 00:10:03.537 僕は英国夏時間の午後 8時に生放送しているから 00:10:03.587 --> 00:10:07.390 生放送を視聴したい場合は 通知ベルをクリックしてくれ