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文化評論家として、私はたくさんの映画を鑑賞し
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ハリウッドにおける男性性のポジティブな表象に
いつも目を見張っています。
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大抵失望して劇場を出るのですが
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時折運に恵まれ
良い意味で驚きに包まれることがあります。
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"ファンタスティック・ビースト"の鑑賞後も
丁度そんな風に感じられました。
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このハリーポッター・スピンオフ映画の主人公である
ニュート・スキャマンダーは従来とは異なる男性ヒーローで
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通常は脇役に追いやられるようなキャラクターです。
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彼は新鮮なまでに型にはまらない男性性を体現し、
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冒険ファンタジーにおける主役にしては特に型破りです。
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彼の男性らしさというのは、控えめで、傷つきやすく
しかし自信に満ちたものなのです。
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大まかに言ってニュートの性格は
彼の魔法生物と絆を育む並外れた能力と
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相対的に他の人間たちとはつながりを持てない
ということによって定義づけられます。
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ニュートは魔法生物学者であり
つまるところ、魔法生物の世話における専門家です。
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彼のライフワーク、彼の情熱は、これらの魔法動物を研究、
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育成、保護し、その上彼らの窮状に対して
理解と思いやりを促進する取り組みとして
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教科書を執筆することです。
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"彼らは現存する最後のつがいなんだ"
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"もし僕が助けられていなければ
それがグラプホーンの一巻の終わりだったかも"
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これがドリトル先生的な状況でないことには言及すべきでしょう。
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ニュートの動物に対する絆や親和性は
超自然的な性質のものではありません
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仮にそうだったとしても
この魔法世界ではおかしくないわけですが。
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対して彼は単純に、他人がそうしないときにも
動物と彼らのニーズに注意を向けるのです。
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"風邪を引いてた。誰か温める必要があったんだ。"
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これはまた「動物は善、人間は悪」といった話でもありません。
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彼が痛いほどにシャイで社会的にぎこちないとしても
ニュートの思いやりある視点は、人々へ、
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特に差別されたり追いやられている人々まで向けられており
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そのことは、アメリカの魔法使いが魔法を持たない人々と
接する態度へ抱く彼の嫌悪に見て取れます。
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"スキャマンダーさん
アメリカの魔法界について何か少しでもご存知で?"
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"実のところ多少は。
非魔法族との関わりについて大分後進的な法律があること"
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"彼らと友達になってはならず、結婚できないことなど。
最後のは少々馬鹿げて思えますが。"
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"彼と結婚する人なんています?"
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彼は隔離政策、差別的法律、死刑制度や、
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その他正義の名の下に成される暴力に強く反対しています。
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ニュートの真に特別な才能は魔法ではありません。
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それは彼の共感する力です。
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"ほらほら、今行くから。ママが来ましたよ。"
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このように控えめで繊細な男性性は
主役男性として通常と大きく異なるもので
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映画評論家達が彼のキャラクターに
がっかりさせられたのを見てもさほど驚きませんでした。
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ニューヨークポスト紙は、ニュートが
"あまり人を惹きつける主役ではない"と述べました。
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MTVは彼が"深み"、"生気"や"一貫した個性"に欠けると主張。
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ヴィレッジヴォイス紙は彼がたいてい
"病気を患っている"ようにみえるとまで言いました。
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スレート紙には彼が"多少退屈"だと感じられ、
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スレートとニューリパブリックの両紙は、彼の人物像が
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演じるエディ・レッドメインのカリスマ性を
"薄めている"と残念がりました。
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ニューリパブリック紙はまた
彼の主役という扱いにショックを表し、
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彼があまりに"善人、単純かつ無個性であるため"
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"5部作シリーズの中心人物に彼がなるのは
ちょっとどうかしている"と評しています。
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私はがっかりしましたが、先ほども述べた通り
このような反応にも驚きはしませんでした。
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私たちは、映画館通いの観客として
SFやファンタジー映画における男性キャラクターから
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ある種の男性的振舞いを期待するよう慣らされてきました。
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私たちは、自律的、恐れ知らずで、かつ身体的に強靭な
あるいはそのようになることを学ぶ主役男性を望みます。
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でなければ少なくとも機転が利き、陽気で
カリスマ性のある男性。
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できれば以上全てを兼ね備えている男性。
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傷つきやすさを隠すということが
男性ヒーローには実質的に要求されているのです。
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男性における攻撃性や傲慢さはたやすく容赦し
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しかし謙虚さや感受性の表出には不快感を示すよう
私たちは学んできました。
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私たちは、暴力には手が早く
外交には気が遅い男性たちに見慣れています。
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ニュートはこの流れからの大きな脱却です。
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彼による男性性は、身体的強靭さや戦闘スキル、
あるいは大胆な偉業に起因したわけでもなければ、
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その他多くの男性ヒーローたちのように
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天から与えられた神秘的な運命といったものから
派生したわけでもありません。
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彼は誠実で、面倒見が良く、感情に富み
そして感受性があります。
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"それは絶対マートラップだな。
君は特に影響を受けやすいに違いない。"
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そして大事なことに、その感受性は弱さではなく
強さとしてとらえられます。
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"じっとしてて。よし、それで発汗が止まるはず。"
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私たちの文化では男性がこういった傷つきやすさを表すと、
"軟弱"というレッテルがしばしば貼られます
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面倒見の良さや感受性は、固定観念的に
女性や女性性と結びつけられるものだからです。
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そしてこれらの特質を男性冒険ヒーローの
肯定的で英雄的な側面としてとらえることで
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後進的な性役割へ異議を唱えることに大きく成功しています。
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さて、ニュートの男性性の体現が
まさしくどれほど革新的かということを理解するためには
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彼が何者"でない"のかについて
もう少し話してみることが役立ちます。
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ニュートは、ホグワーツ魔法魔術学校に通った
イギリス人魔法使いです。
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けれどもニュートはハリー・ポッターではありません。
彼はハッフルパフです。
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"実は、違うんだ、僕は誇りを持ってハッフルパフなんだよ!"
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友情、勤勉、そして謙虚を特徴とする寮である
ハッフルパフの生徒は、
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その他3つの魔法寮よりも地に足がついていて
競争心が少ないと言われています。
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一方ハリー・ポッターは
グリフィンドールに振り分けられました。
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大胆さ、度胸、慇懃、そして少なからず
ひけらかす傾向があることで知られる寮です。
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そのようなわけで、ハリーは
伝統的ハリウッドヒーローの殿堂にすっきり収まります。
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彼の物語は典型的な英雄の旅で、
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これらファンタジーもののキャラクター・アークが
どのように展開するか私たちは皆知っています。
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疑いを知らない若い男性が冒険を押し付けられ、
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そして彼が世界を救うことのできる
全宇宙で唯一の存在であると判明する。
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"ブラスターのように不恰好ででたらめではなくな"
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かくして彼は"シャイで野暮ったいやつ"から
"勝ち組のいかしたやつ"へと変化を遂げます。
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この進化にある種の"燃える男根"を使った戦いが
伴うことは珍しくありません。
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それに対し、ニュート・スキャマンダーは
「選ばれし者」ではなく
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背負うべき宇宙規模の責任もない
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ドクター・フーと比較ができる
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イギリス人で 礼儀正しく 戦わないタイプだ
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だがそれ以外は似てない
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ニュートは痛みを抱えながらも
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自身の戦いは表に出さない
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力を誇示することに興味はない
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"さあ すべての時空にすべての出来事"
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"どこから行く?"
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ニュートは個人的目標で満足していて
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教科書を書きたい
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魔法の教科書とは言え
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ヒーローとしては恐ろしく控えめだ
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ポッターとは違い
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スーパーパワーは持っていない
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自分の能力や立場についての悩みもない
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"レベリオ"
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"ほら座って"
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自分に自信を持った大人だ
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"毒は入ってない"
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周りの人を心配させてはいても
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そしてこの点が批評家たちが
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この主人公を好まない理由ではないか
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"何かお困りで?"
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ニュートは自閉症だという説もあった
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内気な性格で 人に近寄られたくない
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他人に共感しながらも 関係を築けない
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目を合わせるのを避けてもいる
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この仮説を検証することはできない
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おそらくエディがそう決めたのだろう
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どうであれ 脚本と演技の結果
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ニュートは今までのハリウッドでの
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ステレオタイプにはハマっていない
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この種のキャラは特定の型を持ちがちだ
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"苦悩する天才"
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頭はいいが精神的に不安定
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才能に対する代償としてよく描かれる
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"マッドサイエンティスト"
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奇抜さを持った気まぐれなキャラで
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多少の愛嬌もあるが
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"思考を読む!"
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出てくるのはコメディだ
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"シャーロック・ホームズ"
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超人的IQを持ち
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"ペンをくれと言った"
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それゆえ冷静で
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"いつ?"
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"1時間前"
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他人に共感できないか関心がない
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"黙れ"
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"はい?"
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"思考がノイズだ"
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しかしニュートは精神を病んではないし
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人を気にかけている
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"ひどい"
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正反対だ
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その感性が彼の長所だ
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映画は彼の性格を描かなかった
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真のヒーローとなるための障害としては
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物語は"強くなれ"と要求しなかった
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"外向性を学べ"とも
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ニュートは変わる必要がなかった
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仲良くなった人は
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彼のやり方で彼と関わった
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"来て"
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ニュートは旅を通して成長した
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だがそれは人間関係的にだ
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"たまたまニュートが…"
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友人の作り方や信頼を学んだ
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"なぜ記憶を消さなかった?"
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"君が好きだから"
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"君は友達だから"
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深い関係の構築は彼の成長の核だ
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"いろいろと…"
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"あったね"
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映画の終わりは
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他の映画と比較して盛り上がらない
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ハリー・ポッターと比較してもそうだ
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例によって強力な敵との戦いがあるが
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そこでもニュートは共感で動いている
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"君を助けに来た クリーデンス"
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"傷つけたりしない"
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魔法対決で敵を打ち負かすよりも
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戦いをやめさせようと行動している
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最後に敵は滅ぼされたが
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ニュートがやったのではなかった
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そして悪に勝ったにも関わらず
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うれしそうではなかった
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むしろ悲しい出来事かのようだ
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モンスターを助けられなかったとして
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大事だからもう一度言おう
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この映画は敵の破壊を悲劇として描く
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助けられなかったと
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型破りな制作会社にふさわしい
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型破りな結末だ
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5部作を通しワーナー・ブラザースが
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ニュートを主人公として
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続けていくかはわからない
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JKローリングは 少なくとも次回までは
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ニュートはスターだと言った
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しかしハリウッドには圧力もあるだろう
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キャラを伝統的に男らしくするように
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製作者がニュートを降格させるなら
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それは恥ずべきことだ
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私たちには優しさと共感力を持った
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男らしさを描く映画が必要だからだ