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『The Last of Us』の完成まで
残り8ヶ月になってから
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Naughty Dog は、ようやく
ユーザーインターフェース(UI)制作に着手した
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「一部の UI 要素はすでに下書きがありました」と
デザイナーの Alexandria Neonakis は説明する
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「しかし HUD の全体的な設計は
まだ確立されておらず」
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「多くのことが未定のままでした」
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これは UI がゲーム開発で最も軽視されている
部分の1つだということの証拠だと思う
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完成する直前に
急いで追加する厄介モノなのだ
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だが僕に言わせれば
UI は過小評価するべきではない
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UI はゲームの見た目、仕組み、感触に
大きな影響を与えるからだ
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そこで今回の Game Maker's Toolkit では
UI とゲーム設計の接点を調べて
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体力やスタミナのメーターが
遊び方をどう変えるのか解明しようと思う
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ところで、UI には様々なものが含まれる
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例えば、ネット対戦の待合室、持ち物一覧
会話分岐、クラフト画面、ストア画面などだ
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だがこの動画では
ある特定の UI に焦点を当てたいと思う
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ヘッド・アップ・ディスプレイ
つまり「HUD」だ
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これは遊びの真っ只中にあるとき
画面の手前に表示されるやつだ
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そこで最初の疑問は
HUD の目的とは何なのか?
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プレイヤーに
どんな利益をもたらすのか?
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この疑問に答えるために、HUD を
2つの役割に分けて考えてみよう
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僕はゲージ(計器)と
プレビュー(予見)と呼んでいる
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ゲージは、HUD を考えるとき
普段思い浮かべるやつだ
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普段は見れない情報を
プレイヤーが確認できるように表示する
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キャラの体力は、一般的には
コードの中に隠された数値だが
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体力ゲージで
プレイヤーに体力を公開できる
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AI の行動は、視覚的な補助がないと
分かりづらくなってしまう
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視野錐、移動範囲、攻撃表示などだ
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カメラという制約があると
重要な情報が画面に映らなくなるので
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方向表示やミニマップで
目立たせるわけだ
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ゲージとは、ゲームの現在・未来の状況を
理解できるようにしてくれるもので
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これが意図的な計画や行動を
可能にする
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病みつきデッキ構築ゲーム
『Slay the Spire』の事例を見てみよう
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開発の初期段階では、敵の次の行動は
一切表示されなかったので
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プレイヤーは各ターンで
攻撃か防御か判断できず
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ほぼデタラメに
プレイする羽目になった
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これを解決するため、開発の Mega Crit は
「行動アイコン」で敵の次の行動を表示した
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プレイヤーはどの手札を使うべきか
賢く判断して
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相乗効果のある戦略を
企図できるようになった
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これがゲージだ
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一方プレビューは、ボタンの押下や
技の発動で何が起きるのか表示する
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最も単純なものだと、状況に応じた行動に対して
こういうアイコンが出る
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つまり [Y] を押すとドアが開く
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[X] で車両に乗る
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[E] で死体の山へ飛び込む
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何?
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あー
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だがプレビューには、手榴弾の軌道を示す
放物線も含まれるだろう
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鉤縄が使える範囲を示す表示や
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標的の敵を表示するロックオン
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または『XCOM』で自ユニットの軌道を
正確に示す線も含まれるだろう
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プレビューとは、プレイヤーが行動を起こす前に
その行為の結果について注意を促すものだ
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プレイヤーは愚かな賭けではなく
自信をもって行動できるようになる
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この事例では『ショベルナイト』を取り上げよう
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DLC の3人目として、スペクターナイトが
ダッシュ斬りという技を使う
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特定の物体を斬りつけながら
向こう側へ飛ぶことができる技だ
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当初 Yacht Club Games は、この技を目立たせるため
キャラの姿勢を単純に変えていたが
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それでは説明が足りないと気付いた
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状況によって変化するこの技が
いつどこで発動できるのか
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また技の発動でスペクターナイトが
どっちへ行くのか不明瞭なのだ
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最後に開発チームは、物体に近付くと表示される
単純な「方向指示器」を置いた
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これはボタンを押せばダッシュ斬りが
発動することを明確に示しながら
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プレイヤーが移動する方向も
正確に教えてくれる
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十字線は「ダッシュ斬りを理解しやすくするための
最も重要な変更」だったと開発者は述べている
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ゲージとプレビューは、プレイヤーが
情報を得るための非常に便利な道具で
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現在の状態や、ちょっと先の様子を
垣間見れるようになる
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プレイヤーは自信をもって快適に遊びながら
具体的で有意義な計画を立てることができる
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しかし重要なのは、ゲームが裏で
数百もの変数を管理していて
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UI はそれを幾らでも
表示できるという点だ
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行動を起こす前に、その結果を
事前に見せることだってできる
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だったら何故全ての情報を
見せないのだろうか?
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まぁ、情報を見せることに
利点があるのと同様に
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情報の一部を隠すことにも
利点があるのだ
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「UX 設計」を調べてみれば…
UX とは UI を導く体験的・心理的な骨組みのことだが
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「認知的負荷」という用語に
出くわすだろう
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人間の脳が作業記憶の中で処理できる
情報量には限りがあるわけだ
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だから画面にゴミ情報が増えるほど
ゲームを解釈するのが大変になる
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視線追跡技術を使えば、全情報を把握するために
かなり忙しく目を動かしてることが分かる
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そのため UI を減らせば——
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つまり無関係なもの、繰り返されるもの
虚飾的なものを捨てることで
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認知的負荷を
減らすことができる
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だが単に削除すれば
良いわけではない
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むしろ UI が認知的負荷を
減らすことだってある
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もし自分が何発撃ったのか
覚える必要があるとしたら
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興奮しすぎて6発か5発か
分からなくなるかもしれない
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この場合は「弾薬残数」の方が効果的だ
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つまり配置を工夫することで
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画面の情報の関連性と分かりやすさを
確保する必要があるのだ
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これを実現する方法が
「視覚情報の階層化」だ
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書体の太さ、色、位置、大きさ、動きなどを
駆使することで
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ある要素を
他よりも目立たせる
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画面の全要素が同じ強さで叫んでいたら
どれに注目すべきか分からない
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何も目立っていない場合は
重要な情報を見落としてしまう
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例として『Hitman』の
不法侵入の表示を考えてみよう
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死ぬほど有用な警告だが『Hitman (2016)』では
表示を見ることさえ無いかもしれない
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画面隅のミニマップ下に単に書かれるだけだ
(Trespassing:不法侵入中)
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『Hitman 2』では改善された 表示が黄色になり
地図が点滅して注意を引くようになった
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『Hitman 3』はさらに改良し
この状態変化が効果音で補強された
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(侵入時の効果音)
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視覚の階層化を考えるために、デザイナーの Zach Gage は
「3つの注目層」の原則について語っている
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視覚情報の3つの階層のことで
重要度の高い情報から順に並んでいる
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Zach はこれを自身のゲーム『SpellTower』
(落ち物パズル系)で説明している
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最初に目を通すのが
ゲームの中心的な要素だ
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この場合は、単語を綴る文字だ
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2番目に見るのが、攻略に不可欠な
重要ルールで、大きく表示される
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例えば、ゲームオーバー寸前の縦列や
行を丸ごと消せる青色の特別文字だ
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3番目が、表示が小さくて
重要じゃない要素だ
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長い単語でしか使えないマスのような
特定の状況に適用されるルールのことだ
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開発者は、情報を重要度順に並べてから
見た目を工夫して
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最適な情報を
目立たせることができる
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そしてゲームは流動的なので、情報が
異なる注目層の間を適時移動することもある
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Zack は『Hearthstone』について
「最初に画面を見たとき注目していたものが」
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「その後、2〜3番目の階層(重要度)へ
下がることが常に繰り返されます」と指摘する
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認知的負荷を減らす別の方法は
こう考えることだ
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「この全ての UI を、常に表示する
必要はあるのか?」
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例えば初代『悪魔城ドラキュラ』では、ボスの体力が
どういう訳かステージ全域でずっと表示されていた
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最近では、ボス戦のときだけ
表示される
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だがこの原則は
どんな UI 要素にも適用できる
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『Ghost of Tsushima』の体力は
抜刀した時だけ表示されるが
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これは体力が関係するのは戦闘だけであって
島の探索には不要だからだ
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Okay HUD を捨てる別の理由は…
これは絶えず人気になってるが
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見栄えの面にある
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ゲームを映画的で
没入感たっぷりにしたい
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そして退屈な 2D 素材で美しい 3D 世界を
壊したくないという願望だ
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とはいえ、UI の見た目は退屈でなければならないと
考えてる人は、明らかに『ペルソナ5』をやってない
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(ペルソナの音楽)
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これは単に HUD を
全部消すという話ではない
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可読性や理解力を犠牲にしてまで
やるべきことじゃない
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むしろ、情報の見せ方を
工夫するという話だ
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だからさっきのように、情報を隠しつつ
厳格に必要なときだけ表示できる
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だが他にも HUD 要素を
物語に内在させる方法もある
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これは UI が実際に、ゲーム世界の中で
物理的に存在することを指す
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これの一番良い例はもちろん
『Dead Space』だ
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サバイバルホラーの没入感を
高めるために
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Visceral Games は HUD を削除して
同じ情報をゲーム世界の中へ置いた
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つまりアイザックの体力や時間能力の表示は
スーツの導管や計器に組み込まれている
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各武器の弾薬数は
銃そのものに表示される
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持ち物一覧でさえ、物語に実在する
ホログラム映写機という表現だ
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これは他のゲームでも
効果的な例がある
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『Metroid Prime』の HUD は機能的には
他の FPS と全く同じだが
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HUD をサムスのヘルメットバイザー上に設置して
本物っぽく揺れたり曇ったりすることで
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存在感やキャラとの繋がりを
高めている
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だが表現方法や
見栄えだけではない
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情報を物語に内在させることは
遊び方に面白い結果をもたらす
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『Alien Isolation』では、小型端末を手にして
動く物体を検知できる
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『Call of Duty』のミニマップに似ているが
これは物理的な道具なので
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プレイヤーはこの情報を利用するのか
武器を構えるのか選ぶ必要がある
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両方同時には持てないのだ
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内在型 HUD は体力値や弾薬数を
普通に表すだけでなく
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ゲームの中で
表現が工夫されている
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というのも、このアイデアをさらに進めると
普通なら UI とは思えない要素を使って
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同じ情報を表現できるのだ
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例えば『Wreckfest』で、車が廃車になりそうか
知るための体力ゲージは不要だ
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車そのものを見ればいい
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『Breath of the Wild』のリンクが暑すぎるか
寒すぎるかを示すアイコンは、本当に必要か?
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これは『Super Mario Bros.』まで遡れる
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マリオの体力は、ドット絵の大きさで
表現されているのだ
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Okay HUD を隠すもう1つの理由は
ゲームを意図的に読みづらくするためだ
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『The Last of Us Part II』で最初に遭遇する人間の敵は
その意図や計画を喋ってくれる
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敵の考えが分かるので
それを踏まえた上で計画を立てられる
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だがその後
新たな敵の派閥と遭遇するが
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そいつらは耳障りな
高音の口笛だけで会話する
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(口笛の音)
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「うっ!」
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この口笛は解読できないように
意図的に設計されている
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僕にとってこいつらはかなりの脅威だったし
戦闘も難しく感じたが
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その理由の大部分は
情報の欠乏にあった
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さらに言えば、プレイヤーの行動は
持っている情報量で完全に変わるだろう
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『Reigns』の開発者は、Tinder に触発された
国家運営ゲームの制作中にこれに気付いた
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元々このゲームでは、国家の全ての状態値や
選択の影響が正確な数値で書かれていた
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だが試遊では、プレイヤーは
この数値の最適化だけに専念し
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文章をほぼ無視していた
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曖昧な棒状の UI に変更すると
プレイヤーは物語文を読むようになり
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分析的に攻略するのではなく
より感情的にプレイするようになった
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つまり、開発者は必ずしも
HUD を全部削除する必要はないが
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少なくとも HUD の的確さを
考慮するべきだ
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体力の表示を数値にするのか?
メーターにするのか?
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それとも画面中央のぼんやりした
赤い染みにするのか?
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これはプレイヤーが
情報をどう扱うか次第だ
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正確な差を計算するためか?
遮蔽物まで後退する警告なのか?
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さて、先ほど話したプレビューの
HUD についてだが
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未来の情報が正確であるほど
より具体的な計画を立てることができる
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例えば『Mark of the Ninja』では、照明にクナイを
投げるとどうなるか正確に表示してくれる
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だが情報の未来性を狭めたり
曖昧で不正確なものにしたりすると
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プレイヤーはゲームの仕組みを学んで
習得しないといけなくなる
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『Peggle』を少し考えてみよう
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初期状態だと、ボールの弾道は
最初に当たるところまで表示される
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そのため、跳ね返る軌道を
頭の中で計算する必要がある
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これが学習曲線の一部なのだ
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つまりこのプレビューを強化して
もっと先を見せる方法もあるが
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それはパワーアップと同じであって
この情報の威力を証明するだけだ
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あと『Peggle』に特許があるのは
ご存知だろうか?
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今はそれがチャンネルの
テーマなのでね
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UI はとても強力なので、難易度や
補助モードと連携させることができる
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例えばレーシングのイージーモードでは
最適な走行ラインが表示されるが
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高難易度では
自力で走ることになる
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難易度をモードごとや冒険の途中で
変えることにも UI を利用できる
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他の遊びの要素と
同じように扱えるのだ
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これはゲームに対する UI の影響力が
本当に強いことを示してると思う
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そして効果的に使えば、UI はゲーム設計の
目標を支えて、前進させることができるのだ
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でも、その逆の場合は
どうだろうか?
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ゲーム設計が UI に影響するのではなく
UI がゲーム設計に影響する場合だ
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最後の事例として、決定論的戦術ゲーム
『Into the Breach』を見てみよう
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このゲームでは、窮屈なマスの上で
全ての敵が同時に、次の行動を表示する
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そして複雑に絡み合う矢印や
アイコンのおかげで
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敵の軍団が何をするのか
完全に把握できるのだ
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だが開発した Subset Games の発見によれば
このシステムが機能するためには
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特定の敵や武器の削除が必要だった
単に表示するのが難しすぎたのだ
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原因と結果の連鎖が長い武器や
広範囲に影響する敵の攻撃とかだ
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共同デザイナーの Justin Ma 曰く
「ゲーム設計の原則として——」
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「明快さを目指すためなら、私たちはいつでも
クールなアイデアを犠牲にするでしょう」
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これが起きたゲームは他にもある
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『Hearthstone』で、一度にプレイできる
ミニオンの数が7体までなのは
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これが画面に収まる数だからだ
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また特定のヒーローパワーは、UI で表現するには
あまりに複雑だったので変更された
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結局、プレイヤーに対して
何かを明快にできない場合は
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それは優れた仕様ではなく
単純化すべきかもしれない
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UI は壊れた仕様を修正する
絆創膏(応急処置)ではない
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だからこそ、HUD は最後に急いで作るのではなく
他の全要素と一緒に設計するのが大切なのだ
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ゲーム開発における
あらゆることと同様に
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UI は「他のゲームでもそうだから」とかいう
勝手な基準で作るものじゃないのだ
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明確な考えと意図によって
作られるべきなのだ
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下のコメント欄で、UI が素晴らしいと思うゲームを
教えてほしい
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(字幕翻訳:Nekofloor)
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オススメの独立系ゲームを紹介しよう!
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『Room to Grow』は
マス目状のパズルゲームで
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サボテンを伸ばして
植物をゴールまで押していく
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壁を押してトゲトゲの体全体を移動させると
一気に複雑さが増していき
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そこからさらに多くの仕組みが投入される
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小さな作品だが深く考えられていて、多くの魅力と
腹黒いメタ面の試練を備えている
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Steam で発売中だ