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言葉の豊かさを生み出す20%の空白 | 松本賢一 | TEDxKobe

  • 0:20 - 0:21
    それでは まず初めにですね
  • 0:22 - 0:23
    頭の体操からいきたいと思います
  • 0:23 - 0:25
    「何かいな?」と思うかも
    しれませんけども
  • 0:25 - 0:27
    こちらポテトサラダ んー
  • 0:27 - 0:28
    えー これはですね
    [ポテトサラダ 250円]
  • 0:28 - 0:31
    実は 私のビジネスのお仲間で
  • 0:32 - 0:35
    福島県はいわき市でね
    回転寿司をやられている
  • 0:35 - 0:37
    出村さんという方が
    考えたアイデアなんですけども
  • 0:37 - 0:39
    まあ 回転寿司ですから
  • 0:39 - 0:41
    いろんなサイドメニューが
    あるわけですよね
  • 0:41 - 0:43
    その中で悩み事がありました
  • 0:43 - 0:44
    それが何かと言ったら
  • 0:44 - 0:46
    ポテトサラダ
    売れへんのですよね
  • 0:47 - 0:48
    卵使っている
    マヨネーズ使っている
  • 0:48 - 0:50
    だからまあ 作ったその日か
  • 0:50 - 0:53
    まあ翌日くらいには
    売り切れて欲しいんですけども
  • 0:53 - 0:56
    こうメニュー表にね
    「ポーン」と置いてるだけでは
  • 0:56 - 0:58
    お客さんの食指は動けへんと
  • 0:58 - 1:01
    さあ そこで出村さん
    どういうふうにしたかというと
  • 1:01 - 1:03
    このポテトサラダの前に ね
  • 1:03 - 1:07
    このポテトサラダの前に
    枕詞を付けて
  • 1:07 - 1:09
    売り上げをドーンと
    上げることができた
  • 1:09 - 1:12
    「さあ ここでみなさんが
    出村さんの立場だったら
  • 1:12 - 1:14
    どんな枕詞をつけて
  • 1:14 - 1:17
    売り上げ上げようとしますか?」
    という頭の体操です
  • 1:17 - 1:19
    ちょっと頭の中で2~3個
    思い描いてみてください
  • 1:19 - 1:21
    [○○なポテトサラダ 250円]
  • 1:21 - 1:24
    色んな言葉が出てきたんや
    ないかなと思うんですが
  • 1:24 - 1:27
    実はこれね こんなふうにして
    売り上げを上げたんですね
  • 1:27 - 1:31
    「お店の看板娘 みよちゃんが
    作ったポテトサラダ 250円」と
  • 1:32 - 1:34
    面白いですよね
    すごくユニークで
  • 1:35 - 1:37
    普通のポテトサラダから
    何かね こう魅力的な
  • 1:37 - 1:39
    豊かなものが伝わったと
  • 1:39 - 1:41
    そういうふうになっていくと
    思うんですよね
  • 1:41 - 1:43
    で まあおかげさまでね
    こんな感じでね
  • 1:43 - 1:46
    企業さんの商品とかサービスとか
  • 1:46 - 1:49
    それをどういうふうに伝えればね
    より広く伝わるか
  • 1:49 - 1:50
    そういう伝え方コーチ
  • 1:50 - 1:52
    最近ではね 学校の先生とか
  • 1:52 - 1:55
    あるいはその プレゼンテーションの
    能力を上げたいとか
  • 1:55 - 1:57
    そういった人たちにも
  • 1:57 - 1:59
    指導させていただく
    機会がずいぶん増えまして
  • 1:59 - 2:02
    今からですね 8年前ですわ
    2010年ね
  • 2:02 - 2:05
    大阪は「天満天神繁昌亭」
    という所で
  • 2:05 - 2:07
    落語家入門講座
    というのがありました
  • 2:08 - 2:11
    そこでね プロの噺家さんに
    お月謝を払って
  • 2:11 - 2:12
    稽古をつけていただくという
  • 2:12 - 2:14
    そこに入門いたしました
  • 2:14 - 2:15
    喋りのスキルを伸ばしたい
  • 2:15 - 2:19
    あるいはね ここぞというときに
    笑いをどーんと取れるような
  • 2:19 - 2:20
    そんな人間になりたいと思いまして
  • 2:20 - 2:24
    入門しまして 半年が経ちまして
    ちょうど修了式ですわ
  • 2:25 - 2:28
    当時ね 上方落語協会
    会長でいらっしゃいました
  • 2:28 - 2:32
    桂三枝 現六代 文枝師匠で
    ございますけども
  • 2:32 - 2:36
    その師匠からお名前を頂いて
    「八軒家 けん市」という名前でね
  • 2:36 - 2:38
    アマチュアですけども
    素人ですけども
  • 2:38 - 2:41
    ボランティアで
    地元尼崎を中心に
  • 2:41 - 2:43
    落語をさしてもらってるんですね
  • 2:43 - 2:45
    で まあ 初めの2年ぐらいはね
  • 2:45 - 2:49
    身内とか知り合い相手に
    落語をすることが多かったんで
  • 2:49 - 2:51
    まあ こんな私の
    へたくそな話でも
  • 2:51 - 2:53
    みんな にこやかに
    聞いてくれてたんですが
  • 2:54 - 2:58
    思い出しますね
    2012年2月25日ですよ
  • 2:58 - 2:59
    今でも思い出しますね
  • 2:59 - 3:02
    全く縁もゆかりもない所からね
  • 3:03 - 3:04
    落語の依頼を受けたんですよ
  • 3:04 - 3:07
    私ね 気合入ってましてね
    もう 小躍りして喜んだ
  • 3:07 - 3:11
    「よっしゃこれは何がなんでもね
    笑わせたろやないか!」言うて
  • 3:12 - 3:14
    当日の衣装がこんな感じでね
  • 3:14 - 3:17
    紋付羽織でドーン!と
    いったわけですよ
  • 3:18 - 3:22
    落語をやる場所を高い座と書いて
    高座と言うんですけどね
  • 3:22 - 3:25
    その高座にビャーッ!と行ってね
    バッ!と座ってね
  • 3:25 - 3:28
    「よっしゃ!笑わしたるでえ!」
    と意気揚々と喋り始めたんです
  • 3:28 - 3:31
    そうすると 最初のうちはね
  • 3:31 - 3:33
    お爺ちゃん お婆ちゃん
    30~40人が
  • 3:33 - 3:36
    「いや~ にいちゃん
    よう来てくれたなあ」いう感じで
  • 3:36 - 3:39
    にこやかにこっちを
    見てくれたんですけども
  • 3:39 - 3:42
    これが3分経ち
    5分経ちなってきたら
  • 3:42 - 3:44
    どうなってきたかというと
  • 3:44 - 3:47
    だんだん みんな
    そわそわ そわそわし始めた
  • 3:47 - 3:50
    中にはね 時計を見るような人も
    出てきたりして
  • 3:50 - 3:52
    これね 話の半ばの
    10分くらいになってくると
  • 3:53 - 3:56
    半分くらいの人が舟をこぎ始めた
  • 3:57 - 3:59
    話の終わりの18分になると
  • 3:59 - 4:02
    なんと 私を呼んだ
    主催者ですら
  • 4:02 - 4:05
    みんな夢の中に
    入ってしまったという
  • 4:05 - 4:08
    これはね 私 屈辱的でしたね
  • 4:08 - 4:10
    「噺家殺すのに刃物はいらぬ
  • 4:10 - 4:13
    あくび三つで即死する」
    てなことを言いますけどもね
  • 4:13 - 4:15
    私 即死どころやございませんよ
    こんなんね
  • 4:15 - 4:17
    もう 何回輪廻転生せな
    あかんかいうぐらい
  • 4:17 - 4:20
    それぐらいの
    屈辱的なことが起きた
  • 4:20 - 4:22
    そのとき思いましたね
  • 4:22 - 4:26
    「どうやったらあの時 お爺ちゃん
    お婆ちゃん起こすことができたんやろ?
  • 4:26 - 4:28
    どうやったら笑わすことが
    できたんやろ?」
  • 4:28 - 4:32
    色々考えて 色んな人に
    意見を聞いて 色んな本読んだ
  • 4:32 - 4:36
    そのときに 私 学生時代
    演劇をやってたんで
  • 4:36 - 4:40
    つかこうへいさんというね
    劇作家の方が書かれた文章が
  • 4:40 - 4:42
    ちょっと頭の中にパーン!と
    蘇ってきたんです
  • 4:42 - 4:44
    そのとき つかさん
    こんなふうに言うてるんですね
  • 4:45 - 4:48
    たとえばね 男と女の
    海での別れのシーンがあると
  • 4:48 - 4:50
    ところがね 男と女の
    別れを支えるような
  • 4:50 - 4:52
    そんな寒い海なんて
    あるわけがないと
  • 4:52 - 4:54
    どこに行ったってね
    日本海行ったって
  • 4:54 - 4:57
    アラスカ行ったって
    南極行ったってあるわけがないと
  • 4:57 - 5:00
    でも これがお芝居で
    演劇だったらね
  • 5:01 - 5:02
    役者がめっちゃ上手で
  • 5:02 - 5:04
    こうポケットに手
    突っ込みながら遠く見て
  • 5:05 - 5:08
    「寒い海ですね」
    ってこういうふうに呟けばね
  • 5:08 - 5:11
    波の音なんかなくても
    十分寒い海になる
  • 5:11 - 5:14
    南極以上の二人の悲しい
    海が出来上がる
  • 5:14 - 5:17
    これが観客のね
    想像力を駆り立てて
  • 5:17 - 5:19
    豊饒な世界に
    繋がるんだということを
  • 5:19 - 5:21
    まあ 書いてあったわけです
  • 5:21 - 5:24
    「なるほど そういうことか!」と
  • 5:24 - 5:27
    「私がお爺ちゃんお婆ちゃんを
    起こすことができなかったのは
  • 5:27 - 5:30
    相手の想像力に働きかけることが
    できひんかったから
  • 5:30 - 5:32
    なるほどなあ」と
  • 5:32 - 5:34
    そういうふうに思ったんですが
  • 5:34 - 5:37
    さあここで つかさんの言う
    イメージの豊饒さ
  • 5:37 - 5:39
    つまり 相手の
    想像力をかりたてる
  • 5:39 - 5:42
    イメージの豊饒さは 一体
    どこから来るんかということを
  • 5:42 - 5:43
    ちょっと考え始めたわけです
  • 5:43 - 5:48
    そんなときに 一番有名な
    俳句の句があるんですけども
  • 5:48 - 5:49
    これに出会ったわけですね
  • 5:49 - 5:52
    「柿食えば 鐘が鳴るなり 法隆寺」
  • 5:52 - 5:57
    まあ 正岡子規が詠んだ句の中でも
    一番有名な句やと言われてますけども
  • 5:57 - 5:59
    これね いつも私
    よう聞くんですよ
  • 5:59 - 6:01
    みなさんにね
    日本全国で聞くんですけども
  • 6:01 - 6:03
    さあ この正岡子規の句 ね
  • 6:03 - 6:07
    「1日24時間の中で
    何時ぐらいに詠んだ句ですか?」と
  • 6:08 - 6:11
    「1日24時間 何時ぐらいですか?」
    と聞きます
  • 6:11 - 6:14
    そうすると80%から90%の人は
  • 6:14 - 6:17
    「ああ 夕方ですか?」
    というふうに答えるんですね
  • 6:17 - 6:21
    中にはね「真夜中ですか?」とか
    「お三時ですか?」とか まぁまぁ
  • 6:21 - 6:25
    「明け方ですか?」というふうに
    言われる方もたまにはいらっしゃいます
  • 6:25 - 6:26
    たまにはいるけども
  • 6:26 - 6:28
    8割から9割の人は
  • 6:29 - 6:33
    「5時か6時くらいの夕方ですか?」
    というふうに言われるんですよ
  • 6:33 - 6:34
    そういうとき
    私 聞くんですね
  • 6:34 - 6:36
    「あ!なるほど!夕方ですか?
  • 6:36 - 6:37
    ほう!そしたらこれね
  • 6:38 - 6:40
    どこに夕方って書いてますか?」
    って聞くんです
  • 6:40 - 6:42
    書いてないんですよ
  • 6:42 - 6:45
    書いてないにも関わらず
    今 みなさんの頭の中には
  • 6:45 - 6:49
    こうね 夕日が落ちていって
    法隆寺がシルエットで映ってて
  • 6:49 - 6:51
    そこにカラスが飛んでって
    ゴーンと鳴ってるような
  • 6:51 - 6:53
    なんかそういう
    ノスタルジックなイメージを
  • 6:53 - 6:55
    頭の中に描いたんじゃないですか?
  • 6:56 - 6:58
    100% 全然伝えていないのに
  • 6:58 - 7:01
    なぜ そんな豊饒なイメージが
    湧いて来るのか
  • 7:01 - 7:04
    そう 私が考えた結論は
    こちらなんですね
  • 7:04 - 7:09
    実は 100%伝えるんじゃなくて
    この20%の余白を残してあげること
  • 7:09 - 7:13
    これが実は豊かさを生み出す
    源泉やないかなと
  • 7:13 - 7:15
    そんなふうに思い出したんですね
  • 7:15 - 7:18
    じゃあ 具体的にこれ
    どういうふうなことになってるか
  • 7:18 - 7:19
    ちょっとお話をしたいと思いますが
  • 7:19 - 7:23
    今からお見せするのは『崇徳院』という
    落語のネタの一節なんです
  • 7:24 - 7:28
    主人公の若旦那さんが
    町の中で偶然出会った女性
  • 7:28 - 7:29
    それに一目惚れしたんですね
  • 7:30 - 7:34
    そのときにこの女性を形容するのが
    こんなふうな言い方なんです
  • 7:34 - 7:36
    「お年の頃なら 十七 八
  • 7:36 - 7:39
    お供を四 五人連れた それはそれは美しい
  • 7:39 - 7:41
    水も垂れるような綺麗なお方
  • 7:41 - 7:45
    世には うつやかな人も
    あるもんやなぁと見とれてた」と
  • 7:45 - 7:47
    これが『崇徳院』の
    一節なんですけども
  • 7:47 - 7:50
    あるいは男性を説明するときに
    こんな感じですね
  • 7:50 - 7:53
    「旦さんは 背のスラっと高い
    色の浅黒い 眼のパッチリとした
  • 7:53 - 7:56
    苦味の走ったいい男で」と
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    これは『悋気の独楽』という
    ネタの一節です
  • 7:59 - 8:01
    今 男女の容姿の話をしました
  • 8:02 - 8:04
    たとえば 女性を形容するときに
  • 8:04 - 8:07
    「北川景子さんみたいな
    シュッとして美人なんやで」
  • 8:07 - 8:09
    あるいは「八千草薫さんみたいにな
  • 8:10 - 8:13
    ものごっつい上品でな
    別嬪さんやったんやで」
  • 8:13 - 8:15
    というふうに言われても
  • 8:15 - 8:18
    まあね 北川景子さんや八千草薫さんを
    知っている人からすれば
  • 8:18 - 8:20
    「はあ!なるほど!
  • 8:20 - 8:23
    そんな美人で別嬪がおったんかいな!」
    というふうになりますけども
  • 8:23 - 8:24
    これ知らない人からすると
  • 8:24 - 8:28
    「え?どんだけ美人で
    別嬪なんかようわからん!
  • 8:28 - 8:31
    わからん!わからん!」と言って
  • 8:31 - 8:33
    想像力は そこでストップ
    してしまうわけですよね
  • 8:34 - 8:36
    あるいは 男性を
    形容するときでもね
  • 8:36 - 8:39
    「○○さんに似て
    ものごっついイケメンで
  • 8:39 - 8:42
    格好良くて ハンサムやねん!」
    と言われても
  • 8:42 - 8:44
    それ聞いた本人が
    ○○さんのこと嫌いやったら
  • 8:44 - 8:47
    「えー?!あんなんに
    似てんの?最悪!」
  • 8:47 - 8:50
    みたいなことに
    なってしまうわけです
  • 8:50 - 8:53
    だから 物事をぼかして
    伝えるということが
  • 8:53 - 8:55
    実は 重要なスキルに
    なってくるんですが
  • 8:55 - 8:57
    これは日常生活でも
    使えるわけなんですね
  • 8:57 - 9:00
    たとえば 雨が降ってると
    しましょうね
  • 9:00 - 9:01
    天気予報を見てた
  • 9:01 - 9:06
    「明日は1時間に100ミリの
    雨が降るでしょう」と言われて
  • 9:06 - 9:07
    「ほお!なるほど!
  • 9:07 - 9:10
    そんなすごい雨が降るんか!」と
    イメージできるのは
  • 9:10 - 9:12
    これは 気象予報士ぐらいしか
    ないわけですよね
  • 9:12 - 9:15
    我々からすると 「うーん?
    いまいちようわからんな!」
  • 9:15 - 9:19
    まあ確かに この100ミリという
    数字は事実を伝えている
  • 9:19 - 9:21
    正確無比なのかもしれませんけども
  • 9:21 - 9:25
    でもそこにね 雨のたたずまいとか
    あるいは梅雨の匂いとか
  • 9:25 - 9:29
    そういうものは一切感じることが
    できないわけなんですよね
  • 9:29 - 9:32
    だからこれをどういうふうに
    言い換えるかというと たとえば
  • 9:32 - 9:34
    「滝のようにゴーゴーと
    雨が降り出したで!」とか
  • 9:35 - 9:38
    あるいは「車軸を流すような雨が
    ビャーッ!と降ってきた!」と
  • 9:38 - 9:40
    そんなふうに言われる方が
  • 9:40 - 9:43
    我々のイマジネーション
    想像力を駆り立てるわけです
  • 9:44 - 9:46
    たとえば 心臓の音でもそうですよね
  • 9:46 - 9:49
    「心臓が今ドキドキしてんねん」
    と言われるのと
  • 9:49 - 9:51
    「心臓がバクバクやねん!」
    と言われるのと
  • 9:51 - 9:52
    どっちが緊張感ありますか?
  • 9:53 - 9:55
    そらバクバクの方じゃないですか
  • 9:55 - 9:58
    あるいは お歌の世界でも
    同じことです
  • 9:58 - 10:01
    「兎追ひし 彼の山
    小鮒釣りし 彼の川」
  • 10:01 - 10:04
    有名な『ふるさと』の
    一つの部分ですけども
  • 10:04 - 10:07
    これね 彼の山 彼の川ってね
    ぼかしてくれてるから
  • 10:07 - 10:10
    我々は ノスタルジックな
    イメージをすることができる
  • 10:10 - 10:11
    これ たとえばね
  • 10:11 - 10:13
    具体的な山 川
    入れたらどうなるかって
  • 10:14 - 10:17
    たとえば「兎追ひし
    甲山」 とかね
  • 10:17 - 10:20
    「小鮒釣りし 神崎川」
    とか言われても
  • 10:20 - 10:23
    なんか 僕ら神戸とか
    京阪神の人間やから
  • 10:23 - 10:25
    なんとなく「ああ なるほどなぁ」と
    わかりますけども
  • 10:25 - 10:27
    これ 他所の人からすると
  • 10:27 - 10:30
    「どこの山 川やねん!」というふうに
    なってしまうわけですよね
  • 10:31 - 10:34
    だから「彼の山 彼の川」で
    ぼかすことによって
  • 10:34 - 10:37
    我々が幼いときに見た原風景
  • 10:37 - 10:39
    山 川がそこに
    フラッシュバックして
  • 10:39 - 10:41
    イメージが豊饒になっていくと
  • 10:42 - 10:44
    でね 今から一つね
  • 10:44 - 10:47
    物事を100%伝えたとしても
    伝わらない例というのを
  • 10:47 - 10:49
    今からお見せしますわ
  • 10:49 - 10:52
    どういったことかと言うと
    こういう文章があるとしますね
  • 10:52 - 10:54
    「時は 2000年以上前
  • 10:55 - 10:57
    標高843メートルの山の麓
  • 10:58 - 11:01
    70歳の古希を超えたであろう
    夫婦がいました
  • 11:01 - 11:04
    ある5月の13時頃
  • 11:04 - 11:06
    のどかな田園風景の中
  • 11:06 - 11:11
    川の幅300メートルの川岸で
    おばあさんが一人 洗濯をしていると
  • 11:11 - 11:14
    はるか川上
    580メートルほど前の所から
  • 11:15 - 11:18
    直径60センチの大きな桃が
  • 11:18 - 11:23
    時速5キロメートル弱の
    スピードで流れてきたー!」
  • 11:23 - 11:26
    というのをたった一言で表すと
  • 11:27 - 11:28
    「どんぶらこ」になる
  • 11:28 - 11:31
    (笑)
  • 11:31 - 11:35
    すごいですよね 今 私あれね
    読み上げたら250文字あるんですよ
  • 11:36 - 11:38
    その250文字がたったの
    5文字で表現できるんです
  • 11:39 - 11:40
    みなさんよく考えてみてください
  • 11:40 - 11:42
    今までの人生の中でね
  • 11:42 - 11:45
    川で洗濯をしてて ひゅっと見たら
    向こうから桃が流れてきて
  • 11:45 - 11:47
    それをキャッチして
    家に持って帰った経験ある人?
  • 11:48 - 11:51
    いないんです!世界中
    どこ探してもいないんですよ!
  • 11:51 - 11:55
    でも 我々はね 経験したことがないのに
    このどんぶらこを聞いただけで
  • 11:55 - 11:58
    あれだけのことを
    無意識的 意識的に関わらず
  • 11:58 - 12:00
    バーっと思い描くんですよ
  • 12:00 - 12:03
    だからね 桃太郎は
    世界的な名作って言われてるけども
  • 12:03 - 12:05
    海外からも評価が高い
  • 12:05 - 12:08
    そしてね このどんぶらこ
    擬音語 擬態語なんですけども
  • 12:08 - 12:09
    海外の人からするとね
  • 12:09 - 12:12
    「日本語すごいよ!半端ねえよ!」
    ってなるんですよ
  • 12:13 - 12:14
    それだけ評価が高いんです
  • 12:14 - 12:18
    じゃあ そんだけ評価が高いんやったら
    私 ちょっとね 調べてみました
  • 12:18 - 12:19
    この「どんぶらこ」ね
  • 12:20 - 12:21
    Google先生に聞いてみたんですよ
  • 12:22 - 12:25
    一体 英語でどんなふうに
    訳されるんやと
  • 12:26 - 12:29
    そうするとみなさん
    驚きの結果になりましたよ
  • 12:30 - 12:33
    刮目してください!
    こうなりました!
  • 12:34 - 12:36
    (音声)(英語)ドンブラコ
  • 12:36 - 12:38
    [どんぶらこ Don Braco]
    ドンブラコ
  • 12:38 - 12:40
    そのまんまやないかと
    思うんですけどもね
  • 12:41 - 12:44
    ですからね オノマトペ
    まあ 擬音語 擬態語
  • 12:44 - 12:46
    これね 実は5,500種類あると
    言われています
  • 12:46 - 12:49
    すごい数ですよね 日本語の中で
  • 12:49 - 12:53
    だからね 私はこのね 日本語って
    ほんと素晴らしいなあと思うんです
  • 12:53 - 12:56
    でもね 時々こういうこと
    言われたことないですか?
  • 12:56 - 12:58
    「日本人ってね
    自己主張 下手くそやな」とか
  • 12:58 - 13:01
    「日本人ってなかなか
    自己主張せえへんなあ」って
  • 13:01 - 13:04
    そんなふうに聞いたこと
    一度や二度はあると思います
  • 13:04 - 13:06
    でもね 私から言わしたらね
  • 13:07 - 13:08
    これ自己主張せえへんのやない
  • 13:08 - 13:10
    もっと言うと自己主張
    できへんのやないんですよ
  • 13:11 - 13:14
    相手の想像力を慮るがゆえにね
  • 13:15 - 13:18
    相手の中にあるものを
    大切にしようとそういった姿勢が
  • 13:19 - 13:20
    そういうふうな空白を生み
  • 13:20 - 13:23
    そして世界にも類を見ないほどの
  • 13:23 - 13:26
    膨大な擬音語 擬態語
    オノマトペを作り出して
  • 13:26 - 13:29
    それらを利用して
    我々の先祖というのは
  • 13:29 - 13:33
    いつの時代でも豊かな人間関係
    豊かな地域社会
  • 13:33 - 13:37
    あるいは国や 豊かな世界を
    作り上げてきたんやないかなって
  • 13:37 - 13:39
    そんなふうに思い始めたんです
  • 13:39 - 13:42
    だからね 相手の心を
    つかむためには
  • 13:42 - 13:44
    あるいは聞き手のハートを
    射止めるためには
  • 13:44 - 13:48
    相手の中に豊かなものを
    植え付けてあげる
  • 13:48 - 13:50
    その植え付ける土壌が
  • 13:50 - 13:53
    実は 20%の空白
    なんやないかなって
  • 13:53 - 13:54
    そんなふうに思います
  • 13:55 - 13:58
    「でもなぁ 俺 喋り下手やしなぁ」
  • 13:58 - 14:01
    そんなふうに思われた方も
    中にはいるかもしれません
  • 14:01 - 14:05
    あるいはね 今まで何かを伝えようとして
    上手くいかなかった
  • 14:05 - 14:08
    それがトラウマになって
    尻込みしてしまう人とか
  • 14:08 - 14:10
    後ずさりしてしまう人とか
    諦めてきた人とか
  • 14:10 - 14:12
    中にはいらっしゃるかも
    しれないんですよ
  • 14:13 - 14:16
    でも 大丈夫です
  • 14:16 - 14:17
    どういったことか
  • 14:17 - 14:19
    今から二つ俳句を
    見ていただきます
  • 14:19 - 14:21
    こんな俳句ですね
  • 14:21 - 14:24
    「初雪や かくれおおせぬ 馬の糞」
    あるいは
  • 14:24 - 14:27
    「つくつくぼうし つくつくぼうし
    ばかりなり」と
  • 14:27 - 14:30
    どちらかというと これ
    もっちゃりした句なんですけども
  • 14:30 - 14:31
    一体 これ誰が詠んだんでしょう
  • 14:32 - 14:35
    そう 正岡子規が詠んだんですよ
  • 14:35 - 14:39
    正岡子規ね 18歳から34歳のね
    17年間の間に
  • 14:39 - 14:42
    なんと短歌と俳句合わせて4万句
  • 14:42 - 14:43
    4万句詠んでるんですね
  • 14:44 - 14:46
    残してるだけで4万ですから
    ということは
  • 14:46 - 14:49
    書いて「こらあかん!」言うて
    ポーイと捨ててしもたやつとか
  • 14:49 - 14:51
    頭に浮かんだけど
    「こんなんあかんわ!」言うて
  • 14:51 - 14:52
    シュッと捨ててしまったやつとか
  • 14:52 - 14:54
    そんなん合わしたら
    4万句どころか
  • 14:54 - 14:57
    何十万句 たぶん
    考えたんやないかなって
  • 14:57 - 15:00
    そんな失敗いっぱいしてきた中で
  • 15:00 - 15:02
    あの「柿食えば」という
    超人的な俳句が
  • 15:02 - 15:04
    生まれてきたんやないかなって
  • 15:04 - 15:06
    失敗したからそんなんが
    出てきたんやないかなって
  • 15:06 - 15:08
    思うようになったんですね
  • 15:08 - 15:09
    なんでそんなことを言えるか
  • 15:09 - 15:12
    そうなんです 私も実は
    いっぱい失敗してるんですよ
  • 15:12 - 15:13
    恥をさらすようですけどね
  • 15:13 - 15:15
    あっちこっちで失敗してます
  • 15:15 - 15:17
    失敗の山ですわ
  • 15:17 - 15:20
    でも その失敗することで
  • 15:20 - 15:23
    実は 挑む価値っていうのが
    存在するんですね
  • 15:23 - 15:24
    どういったことか
  • 15:25 - 15:28
    一番最初に見ていただいた
    みよちゃんの例
  • 15:28 - 15:31
    みなさん これ一体「みよちゃん
    どんな人なんかな?」って
  • 15:31 - 15:33
    たぶん 頭の中で
    描いたと思うんです
  • 15:34 - 15:36
    さあ これ みよちゃんに
    会いに行きました
  • 15:36 - 15:37
    すし八に会いに行きました
  • 15:37 - 15:39
    「今日 みよちゃんいるの?」
  • 15:39 - 15:40
    「ああ ごめんなさい
    今日 お休みなんです」
  • 15:40 - 15:44
    「今日はみよちゃんいるの?」
    「ああ 今日もお休みなんです」
  • 15:44 - 15:47
    そう みよちゃん
    いつ行ってもこれね お休み
  • 15:48 - 15:49
    なんで?
  • 15:49 - 15:50
    そう そのとおり!
  • 15:50 - 15:53
    実在しない人物
    架空の人物なんですよ
  • 15:53 - 15:55
    「えー なんやこれ 架空の人物
  • 15:55 - 15:59
    実在せえへんのか 残念やなあ!」
    と思ったかもしれませんが
  • 15:59 - 16:01
    でも 私がこの話を
    一番最初にしたときに
  • 16:01 - 16:03
    みなさんの頭の中には
  • 16:03 - 16:06
    一人ひとりのみよちゃん像が
    浮かび上がって
  • 16:06 - 16:08
    そのみよちゃんがいたからこそ
  • 16:08 - 16:12
    このポテトサラダが より魅力的な
    より豊かな より豊饒な
  • 16:12 - 16:14
    品物に変わったんじゃないですか?
  • 16:15 - 16:19
    だからね 空白から豊かさってのは
    生まれるんです
  • 16:19 - 16:21
    ね その余白が
    豊饒さを生み出すんです
  • 16:21 - 16:25
    ですから これから先の人生
    少し 少しだけでいいんで
  • 16:25 - 16:28
    相手にとっての20%
    聞き手にとっての20%
  • 16:29 - 16:32
    これを意識して伝えてみませんか?
  • 16:32 - 16:37
    間違いなく挑む価値は
    十分にあります
  • 16:38 - 16:39
    ありがとうございました
  • 16:39 - 16:42
    (拍手)
Title:
言葉の豊かさを生み出す20%の空白 | 松本賢一 | TEDxKobe
Description:

話し方・伝え方コンサルタントとして活躍する松本賢一。

講師として、スキルアップのために始めた落語講座の奥深さにのめり込み、社会人落語家としての顔も持っている。落語を通じて日本語の持つリズムやテンポを体得する間に、「日本人は元来、プレゼンテーションや自己表現が得意である」ことを確信。

現在では、日本語特有の性質を生かした日本人のためのコミュニケーションについて研究し、そのアイデアを広めている。

このビデオは、TEDカンファレンスの形式で地元コミュニティが独自に運営するTEDxイベントにおいて収録されたものです。詳しくは http://ted.com/tedx をご覧ください。

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Video Language:
Japanese
Team:
closed TED
Project:
TEDxTalks
Duration:
16:50

Japanese subtitles

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