1 00:00:01,098 --> 00:00:02,830 これが何か分かりますか? 2 00:00:04,083 --> 00:00:08,496 ガラスでできた生き物のいる場所が あると言ったら どう思いますか? 3 00:00:08,496 --> 00:00:11,280 私たちの目には見えないけど 4 00:00:11,280 --> 00:00:14,334 宇宙飛行士たちはいつも目にしている 生物がいると言ったら? 5 00:00:14,334 --> 00:00:18,692 目に見えないガラスの生き物というのは 彼方の惑星に棲む異星生物ではありません 6 00:00:18,692 --> 00:00:20,238 珪藻のことです 7 00:00:20,238 --> 00:00:22,791 光合成をする 単細胞の藻類で 8 00:00:22,791 --> 00:00:27,222 地球規模で酸素を生成して 雲の形成を促し 9 00:00:27,222 --> 00:00:30,440 その精妙な 幾何学的造形の外殻は 10 00:00:30,440 --> 00:00:32,704 ガラスでできています 11 00:00:33,250 --> 00:00:36,719 海面に渦巻く色として 宇宙から見ることができます 12 00:00:36,719 --> 00:00:40,314 死ぬと そのガラスの体は 海の底に沈み 13 00:00:40,314 --> 00:00:43,454 取り除いた大気中の炭素を 墓へと道連れにして 14 00:00:43,454 --> 00:00:47,631 海洋における炭素隔離に 大きく貢献しています 15 00:00:47,631 --> 00:00:50,051 私たちはSFみたいな惑星に 住んでいるのです 16 00:00:50,051 --> 00:00:52,702 地球上には研究すべき奇妙な 生き物がたくさんおり 17 00:00:52,702 --> 00:00:55,142 その多くが 世界の辺境にいて 18 00:00:55,142 --> 00:00:58,946 私たちの目が届かず 理解も及びません 19 00:00:58,946 --> 00:01:01,506 そういう辺境のひとつが 南極です 20 00:01:02,083 --> 00:01:05,866 南極というと 不毛な生命のない場所で 21 00:01:05,866 --> 00:01:08,571 ペンギンくらいしかいないと 思われがちですが 22 00:01:08,571 --> 00:01:12,230 南極は極地にある 生命のオアシスであり 23 00:01:12,230 --> 00:01:15,623 まったく素晴らしい無数の生き物に 満ちているんです 24 00:01:15,875 --> 00:01:19,203 ではなぜ 野生生物ドキュメンタリーで そういう生き物を目にしないのでしょう? 25 00:01:19,203 --> 00:01:22,057 雪や氷の下に隠れていて 26 00:01:22,057 --> 00:01:24,122 私たちには見えないからです 27 00:01:24,122 --> 00:01:25,780 微生物なんです 28 00:01:25,780 --> 00:01:29,091 氷河の中に埋もれ 海氷の下に潜み 29 00:01:29,091 --> 00:01:32,946 氷河下の湖を遊泳する ちっちゃな動物や植物たちです 30 00:01:32,946 --> 00:01:36,042 自然物の番組でよく見る 大型動物にも劣らず 31 00:01:36,042 --> 00:01:38,450 魅力的な生き物です 32 00:01:39,333 --> 00:01:43,696 でも どうしたら 見えもしないものを 探しに行こうと思わせられるでしょう? 33 00:01:43,696 --> 00:01:47,476 最近私は南極への 5週間の調査遠征を率いて 34 00:01:47,476 --> 00:01:51,071 微生物サイズの 野生生物映画を製作しました 35 00:01:51,071 --> 00:01:53,030 84キロの機材を抱えて 36 00:01:53,030 --> 00:01:54,958 軍用機に乗り込み 37 00:01:54,958 --> 00:01:57,084 顕微鏡を現地に持ち込んで 38 00:01:57,084 --> 00:02:00,395 そういう小さな極限環境微生物を 調査し映像にしようというわけです 39 00:02:00,395 --> 00:02:03,488 この地球上にありながら よく理解されていない生態系のことを 40 00:02:03,488 --> 00:02:05,525 もっと知ることができるように 41 00:02:06,167 --> 00:02:08,571 そういう目に見えない生き物の 生きる姿を捉えるため 42 00:02:08,571 --> 00:02:10,773 その棲み家である氷の下へと 43 00:02:10,773 --> 00:02:13,380 赴く必要がありました 44 00:02:13,875 --> 00:02:18,488 毎年 海氷で南極の大きさは 倍近くになります 45 00:02:18,488 --> 00:02:21,280 3メートルの氷の下を 覗き見るため 46 00:02:21,280 --> 00:02:25,009 海氷に通した 長い金属のトンネルを下り 47 00:02:25,009 --> 00:02:28,548 生命に溢れた隠れた生態系を 目撃しました 48 00:02:28,548 --> 00:02:33,343 海の底と 光る氷の天井の間に 宙吊りになりながら 49 00:02:34,041 --> 00:02:36,196 外から見ると こんな感じです 50 00:02:36,196 --> 00:02:38,521 まったく魔法のような世界です 51 00:02:39,667 --> 00:02:43,071 そこで見つけた生き物には 貝虫のような可愛らしものや 52 00:02:43,071 --> 00:02:46,363 美しく幾何学的な 珪藻がいました 53 00:02:46,363 --> 00:02:48,086 そこからさらに進んで 54 00:02:48,086 --> 00:02:50,748 ドライバレーで2週間 野営しました 55 00:02:50,978 --> 00:02:54,183 南極の98%は 氷に覆われていますが 56 00:02:54,183 --> 00:02:59,486 ドライバレーは 氷の下の大陸が どのようかを実際に見られる 57 00:02:59,486 --> 00:03:01,655 最も開けた場所です 58 00:03:01,655 --> 00:03:03,705 「血の滝」で 細菌を採取しました 59 00:03:03,705 --> 00:03:07,613 氷河下の湖が 酸化鉄を噴き出していて 60 00:03:07,613 --> 00:03:12,346 ほんの十年前まで まったく生命がないと 考えられていた場所です 61 00:03:12,346 --> 00:03:15,245 氷河を登って 穴を掘りに行きました 62 00:03:15,245 --> 00:03:18,773 氷の層に埋もれながら 生命を謳歌している 63 00:03:18,773 --> 00:03:21,573 無数の強靭な生き物たちを 見るために 64 00:03:21,573 --> 00:03:23,653 これはクリオコナイト・ホールです 65 00:03:23,653 --> 00:03:27,571 暗色の塵が 氷河の上に吹き寄せられ 66 00:03:27,571 --> 00:03:31,413 氷を溶かして穴を作り それがまた氷で覆われたもので 67 00:03:31,413 --> 00:03:34,468 氷河の中に何百という 塵の塊が保持されていて 68 00:03:34,468 --> 00:03:39,196 そのそれぞれが固有の生態系を持つ 島宇宙のようになっています 69 00:03:39,196 --> 00:03:41,488 そこで見つけた生き物には みなさんもご存じだろう 70 00:03:41,488 --> 00:03:43,113 愛らしい緩歩動物がいて 71 00:03:43,113 --> 00:03:44,357 私も大好きですが 72 00:03:44,357 --> 00:03:46,893 爪のあるちっちゃな グミの熊みたいです 73 00:03:46,893 --> 00:03:48,696 クマムシの名でも知られ 74 00:03:48,696 --> 00:03:53,501 宇宙の真空を含む 極端な条件でも生存できる 75 00:03:53,501 --> 00:03:55,951 すごい生命力で有名です 76 00:03:55,951 --> 00:03:59,345 でもクマムシを見るために 宇宙や南極まで行く必要はありません 77 00:03:59,345 --> 00:04:00,950 道端や公園をはじめ 78 00:04:00,950 --> 00:04:04,238 地球上至るところの コケの中に棲んでいます 79 00:04:04,238 --> 00:04:08,280 皆さんは毎日 そういう目に見えない 沢山の動物たちのそばを通り過ぎているんです 80 00:04:08,280 --> 00:04:11,081 見慣れているようでいて 少し奇妙なのが 81 00:04:11,081 --> 00:04:12,530 線形動物です 82 00:04:12,530 --> 00:04:14,324 ヘビでも ミミズでもなく 83 00:04:14,324 --> 00:04:16,613 独自の生き物です 84 00:04:16,613 --> 00:04:20,030 ミミズのように再生したり ヘビのように這うことはできませんが 85 00:04:20,030 --> 00:04:23,105 短剣のような小さな針が 口の中にあって 86 00:04:23,105 --> 00:04:27,762 それを獲物に銛のように突き刺して 中身を吸い出します 87 00:04:27,762 --> 00:04:32,753 地球上には人間1人当たり 570億匹の線虫がいます 88 00:04:33,875 --> 00:04:38,352 あまり知られていないけど 同じように素敵な生き物もいます 89 00:04:38,352 --> 00:04:43,196 ルンバみたいな口になる すごい冠を持った輪形動物 90 00:04:43,196 --> 00:04:47,439 消化器官が透けてほとんど おはじきみたいな繊毛虫 91 00:04:47,439 --> 00:04:52,143 パーティ用の紙吹雪を ペトリ皿にぶちまけたような藍藻 92 00:04:52,833 --> 00:04:55,397 私たちがメディアで よく見かける微生物の姿は 93 00:04:55,397 --> 00:05:01,113 恐ろしい化け物みたいな 電子顕微鏡写真ですが 94 00:05:01,113 --> 00:05:04,587 生きて動いているところを 見なければ 95 00:05:04,587 --> 00:05:07,946 たとえ身の回りの至るところにいても その生活は分からないままです 96 00:05:07,946 --> 00:05:09,696 どんな生き方をしているのか? 97 00:05:09,696 --> 00:05:12,229 周りの環境と どう関わっているのか? 98 00:05:12,229 --> 00:05:15,988 ペンギンを動物園の写真で 見たことはあっても 99 00:05:15,988 --> 00:05:19,530 よちよち歩いたり 氷の上を滑ったりする姿を 見たことがなければ 100 00:05:19,530 --> 00:05:22,238 ペンギンをちゃんと理解することは できないでしょう 101 00:05:22,238 --> 00:05:24,030 生きて動いている微生物を 見ることで 102 00:05:24,030 --> 00:05:28,113 目に見えない生き物たちについて より良い理解が得られます 103 00:05:28,113 --> 00:05:32,544 南極や裏庭の見えない生き物を 記録しなければ 104 00:05:32,544 --> 00:05:36,113 私たちがどれほど多くの生き物たちと この世界を分かち合っているのか分からず 105 00:05:36,113 --> 00:05:41,412 奇妙で気まぐれな故郷の惑星の 全体像はつかめないのです 106 00:05:41,412 --> 00:05:43,250 ありがとうございました