WEBVTT 00:00:12.667 --> 00:00:14.376 皆さん こんにちは 00:00:14.380 --> 00:00:16.347 この場所にいると 落ち着きますね 00:00:16.349 --> 00:00:19.412 グアンタナモ収容所を 34回も訪れてますからね 00:00:19.413 --> 00:00:23.038 今いるような 閉ざされた とても狭い空間で 00:00:23.039 --> 00:00:27.085 尋問のための眩しい電灯もあり 食べ物も水も許されない場所 00:00:27.086 --> 00:00:28.816 つまり よく馴染んだ環境です 00:00:28.817 --> 00:00:30.217 (笑) 00:00:31.407 --> 00:00:34.694 わざと皆様に失礼な態度をとって 話を始めたかったのですが 00:00:34.695 --> 00:00:37.013 本当ならば今日の話は 00:00:37.014 --> 00:00:40.473 先日亡くなった 私の叔母への ささやかな弔辞から始めるべきでした 00:00:40.474 --> 00:00:43.775 私の叔母 ジーンは94歳でした 天寿を全うしたと言えますが 00:00:44.955 --> 00:00:49.543 彼女にとって不運だったのは 生まれた時期が悪かったということです 00:00:49.544 --> 00:00:51.770 彼女は1920年に生まれました 00:00:51.771 --> 00:00:55.296 彼女は家族の娘として いろいろな機会に恵まれなかったのです 00:00:55.297 --> 00:00:57.595 彼女はとても才気にあふれた 頭の切れる女性でした 00:00:57.596 --> 00:01:01.385 しかし全ての恩恵を授かったのは 彼女の弟 つまり私の父でした 00:01:01.386 --> 00:01:05.269 父はケンブリッジ大学で主席になるなど 大変優秀でした 00:01:05.269 --> 00:01:08.667 叔母はそのような機会を得られませんでした 私はいつも こうからかっていました 00:01:08.668 --> 00:01:10.350 熱烈なトーリー党支持者の叔母は 00:01:10.351 --> 00:01:14.016 もし父のように機会を得ていれば 首相になり マーガレット・サッチャーよりも巧みに 00:01:14.017 --> 00:01:17.617 権力を切り盛りしただろうと― 想像すると非常に恐ろしく感じました 00:01:18.927 --> 00:01:21.816 先ほど言いましたように 機会の恩恵を授かったのは 私の父でした 00:01:21.817 --> 00:01:27.692 しかし不幸なことに 父の人生は 躁うつ病によって破滅させられました 00:01:27.693 --> 00:01:32.629 父はとても知的で 機会にも恵まれましたが 00:01:32.630 --> 00:01:35.288 何をやるにしても 父には大変な困難をともないました 00:01:35.289 --> 00:01:40.462 最近 思い出した父の エピソードをいくつかお話します 00:01:40.463 --> 00:01:43.613 ひとつは私が7歳のころの話で ―これは父の人間性を説明するためで 00:01:43.614 --> 00:01:46.510 私は父を心から愛していますし 中傷するつもりは一切ありません 00:01:46.511 --> 00:01:49.804 私が7歳のころ 父は私を書斎へ呼び こう言いました 00:01:49.805 --> 00:01:55.572 「クライブ お前の世代は いつまでたっても子供で 未熟者だ 00:01:55.573 --> 00:01:59.274 正直に言って お前はもう7歳になる そろそろ自立して生活するべきじゃないか」 00:01:59.275 --> 00:02:01.089 (笑) 00:02:01.090 --> 00:02:03.927 「ここに200ポンドあるから どっかいけ」 00:02:03.928 --> 00:02:05.572 私は困惑しました 00:02:05.573 --> 00:02:07.993 当時 私の小遣いは 週に1シリングでした 00:02:07.994 --> 00:02:09.935 当時 こんな計算をしたとは思いませんが 00:02:09.936 --> 00:02:12.266 昨晩 ここに来る途中 計算してみたところ 00:02:12.267 --> 00:02:15.366 80年分の小遣いに相当する額でした それをポンと私にくれたのです! 00:02:15.367 --> 00:02:18.538 とはいえ 私にはまだ そんな心の準備ができていませんでした 00:02:18.539 --> 00:02:21.866 いつものことではありますが  幸い 母が事件を収拾してくれました 00:02:21.867 --> 00:02:24.810 お金を取り上げ 私をベッドに連れてくことによってです 00:02:24.811 --> 00:02:28.290 父について このようなことが起こるのは 珍しいことではありませんでした 00:02:28.291 --> 00:02:31.656 これは少し後になってからの エピソードですが こんなことを覚えています 00:02:31.657 --> 00:02:35.078 私がミシシッピ州南部で 死刑案件の裁判を担当していたときの話です 00:02:35.079 --> 00:02:39.976 父は私を助けるためにと 私のもとへ来ました 父は相変わらず 00:02:39.977 --> 00:02:42.654 私のことを 全く役に立たない人間だと確信しており 00:02:42.655 --> 00:02:45.776 ヒッチハイクでミシシッピ州のジャクソンまで なんとかして 辿り着きました 00:02:45.777 --> 00:02:48.027 父はそして 州知事の邸宅に 入ることに成功し 00:02:48.028 --> 00:02:49.943 そこで父は 州知事に 00:02:49.944 --> 00:02:51.976 私の担当する被告を処刑するだけでなく 00:02:51.977 --> 00:02:55.560 私も一緒に処刑してくだされば 世界にとっても良いことだと言いました 00:02:55.561 --> 00:02:57.447 (笑) 00:02:57.448 --> 00:03:00.134 ミシシッピ当局においては 多くの人が 00:03:00.135 --> 00:03:02.522 父の提案に同意したそうですが 00:03:02.523 --> 00:03:05.901 当時の私にとっては  困ったことでした 00:03:05.902 --> 00:03:07.935 最終的に私をほんとうの意味で 助けてくれたのは 00:03:07.935 --> 00:03:10.605 死刑案件を担当するようになったため 00:03:10.605 --> 00:03:13.600 結果として父のことを理解できたことです 00:03:13.600 --> 00:03:18.820 父の行動の一部は 必ずしも正常な精神に よるものではないとわかったのです 00:03:18.821 --> 00:03:22.207 悲しいことですが 多くの人が 父のする行動のあれこれを見て 00:03:22.208 --> 00:03:26.208 父を憎み そして父を詐欺師 もしくはそれ以上に悪い人間だと感じました 00:03:26.209 --> 00:03:30.147 事実 父は年を追うにつれ 並外れて異様な行動をとっていました 00:03:31.467 --> 00:03:33.130 そう感じていた一人が叔母でした 00:03:33.131 --> 00:03:35.828 私の叔母ジーンは非常に 心の優しい女性でしたが 00:03:35.829 --> 00:03:40.828 彼女は単純に理解ができませんでした 受け入れられなかった というべきでしょうか 00:03:40.829 --> 00:03:45.088 彼女の碧眼の弟が精神疾患を患っている という事実をです 00:03:45.089 --> 00:03:48.108 なので彼女は父の行動を「ひどい」と は感じておりましたが 00:03:48.109 --> 00:03:51.671 精神疾患のせいだとは思いませんでした 00:03:51.672 --> 00:03:53.860 これはとても嘆かわしいことです 00:03:53.860 --> 00:03:57.323 もっと早く診断されていれば 援助を受けられたはずだからです 00:03:57.324 --> 00:04:00.348 父は手術を一度  治療を一度しか受けたことがありませんでした 00:04:00.348 --> 00:04:02.648 それで  父の人生は損なわれてしまったのです 00:04:02.649 --> 00:04:06.057 この話から 私は自然に リッキー・ラングリーという人物を想起します 00:04:06.058 --> 00:04:11.930 リッキー・ラングリーは 私がルイジアナで弁護した被告人です 00:04:11.931 --> 00:04:15.988 彼は多くの子供を性的に虐待した 小児性愛者でした 00:04:15.989 --> 00:04:21.084 そしてしまいには6歳のジェレミー・ギロリー を殺害しました 00:04:21.101 --> 00:04:26.589 私は1993年にはじめて 彼の弁護を担当することになりました 00:04:26.590 --> 00:04:31.916 彼について語るのには 遠い遠い過去 彼が生まれる前まで遡らなければなりません 00:04:31.917 --> 00:04:33.608 彼についてお話しするわけは 00:04:33.609 --> 00:04:36.398 ロレライ・ギロリーという女性に 繋がるからです 00:04:36.399 --> 00:04:39.199 彼女は殺害された子供の母親であり 00:04:39.200 --> 00:04:41.600 私のなかで最も尊敬すべき人物の一人です 00:04:41.603 --> 00:04:47.327 リッキーが生まれる前 彼の母と父は 車を走らせていました 00:04:47.328 --> 00:04:48.927 二人の子供は後部座席でした 00:04:48.928 --> 00:04:50.700 父 アルシードは飲酒運転で 00:04:50.701 --> 00:04:53.139 車は道路を逸れて 電信柱に衝突しました 00:04:53.140 --> 00:04:54.565 子供の一人は オスカー・リーという名前で 00:04:54.566 --> 00:04:59.731 くしゃくしゃなブロンドの髪をした 6歳の小さく可愛らしい子でした 00:04:59.732 --> 00:05:02.839 両親は 目に入れても痛くないほど かわいがっていましたが 00:05:02.840 --> 00:05:04.719 彼はその事故で即死しました 00:05:04.720 --> 00:05:08.104 また妹は  首が切断され死にました 00:05:08.105 --> 00:05:10.211 身の毛もよだつ話です 00:05:10.212 --> 00:05:11.317 母であるベッツィは 00:05:11.318 --> 00:05:15.166 フロントガラスから投げ出され 彼女自身も重傷を負いました 00:05:15.167 --> 00:05:18.949 彼女はその後 約2年もの間 慈善病院に入院することになりました 00:05:18.950 --> 00:05:23.005 彼女は首から足首まで ギプスに入れられました 00:05:23.006 --> 00:05:26.751 裁判のとき オーストラリア人の ボランティアが再現モデルの役でした 00:05:26.752 --> 00:05:29.668 ボランティアとして 死刑囚のために働くと 00:05:29.669 --> 00:05:31.948 ろくなことはないと警告しておきましょう 00:05:31.949 --> 00:05:36.067 彼女は全身ギプスに入った状態でしたが 妊娠してしまったのです 00:05:36.068 --> 00:05:38.910 これは勿論アルシードが妊娠させたのですが 00:05:38.911 --> 00:05:44.130 彼は夫と妻の役割について 時代遅れな価値観を持っていました 00:05:45.000 --> 00:05:47.869 彼女の妊娠を信じる人はいませんでした どうすれば可能なのか 00:05:47.870 --> 00:05:50.728 このことも法廷でお見せしました 00:05:50.729 --> 00:05:53.872 性的に少し倒錯ぎみの判事の 気晴らしのためにね 00:05:53.872 --> 00:05:55.779 (笑) 00:05:55.780 --> 00:05:57.487 冗談です 実際には素晴らしい人ですよ 00:05:57.488 --> 00:06:01.498 とにかく 彼女は妊娠しました 5ヶ月もの間 誰もそれを信じませんでした 00:06:01.499 --> 00:06:05.722 そしてのその5ヶ月 リッキーはまだ胎児でしたが 00:06:05.723 --> 00:06:09.112 レントゲンなどでX線に晒されていました 00:06:09.113 --> 00:06:11.224 そして彼女が飲んでいた薬の全ては 00:06:11.225 --> 00:06:13.764 妊婦には決して処方してはならないものでした 00:06:13.765 --> 00:06:17.708 ある薬は奇妙にも 小児性愛と関連づけられる薬でした 00:06:17.709 --> 00:06:20.198 胎児がその薬に晒されると 00:06:20.199 --> 00:06:24.419 生まれてきた子が その後小児性愛者になる 確率が大幅に大きくなるというのです 00:06:24.420 --> 00:06:27.067 あまりにも奇妙な話だったので 陪審員にはその話はしませんでした 00:06:27.068 --> 00:06:30.414 作り話だと思われることを恐れたのですが しかし本当の話です 00:06:30.415 --> 00:06:35.500 とにかく 5ヶ月たってようやく 医師たちは彼女が妊娠していると認めました 00:06:35.501 --> 00:06:39.167 彼らが彼女のギプスをはずすと すでに大きなおなかでした 00:06:39.168 --> 00:06:41.557 そして医師たちは忠告しました 「中絶するほかない 00:06:41.558 --> 00:06:43.057 すでに君と胎児にしてきたことを考えると それ以外に選択肢はない」 00:06:43.058 --> 00:06:45.112 すでに君と胎児にしてきたことを考えると それ以外に選択肢はない」 00:06:45.113 --> 00:06:48.351 しかし夫のアルシードは言いました 「だめだ そんなことは許されない 00:06:48.352 --> 00:06:50.945 俺はカトリック教徒だ 中絶はさせない」 00:06:50.946 --> 00:06:54.030 そのためベッツィはリッキーを 出産するに至りました 00:06:54.031 --> 00:06:58.100 そして彼が生まれましたが 髪はブロンドでなく 青い眼でもなく 00:06:58.100 --> 00:07:00.433 かわいいオスカー・リーとは まったく別人でした 00:07:00.434 --> 00:07:04.224 彼は奇妙な外貌をしていました そう表現するのがせめてもです 00:07:04.225 --> 00:07:07.825 私の両親も 私について同じことを 子供のころも今も言っているでしょう 00:07:07.826 --> 00:07:12.379 リッキーがお腹の中で非常に 悪い影響を受けていたのは確かでした 00:07:12.380 --> 00:07:16.718 また近いうちに何か悪いことが起こる ことも明らかでした 00:07:16.719 --> 00:07:18.117 彼はオスカー・リーではありません 00:07:18.118 --> 00:07:22.327 彼の父はそのことで彼を恐ろしく虐めました 00:07:22.328 --> 00:07:24.696 リッキー自身も性的虐待の被害者でした 00:07:24.697 --> 00:07:29.486 彼は8歳のときには 近くの共同墓地の 墓石の上で寝るようになりました 00:07:29.487 --> 00:07:33.524 10歳のときには 学校の掲示板にこう書きました 00:07:33.525 --> 00:07:36.284 「僕はリッキー・ラングリーではない 僕はオスカー・リーだ」 00:07:36.285 --> 00:07:38.859 彼の死んだ兄の名前です 00:07:38.860 --> 00:07:41.721 リッキーにはすでに精神病的な妄想が 見られました 00:07:41.722 --> 00:07:44.305 彼は自分を死んだ兄である オスカー・リーだと自覚していました 00:07:44.306 --> 00:07:48.022 オスカー・リーは彼の分身であり それは彼を苦しめるものでもありました 00:07:48.023 --> 00:07:50.808 彼がしたくないことを無理やりにやらせる 憎しみの存在でした 00:07:51.828 --> 00:07:55.401 彼は子どもたちを性的に虐待しはじめました 疑う余地はありません 00:07:56.981 --> 00:07:59.650 彼は自分が何をしているのか そのときには理解していませんでした 00:07:59.651 --> 00:08:02.924 彼は結局 ジョージア州の刑務所に 収監されました 00:08:02.925 --> 00:08:07.875 彼の犯した罪は児童に対する性的虐待でしたが 被害者は彼のいとこの子供でした 00:08:07.876 --> 00:08:10.126 そこで初めて彼はカウンセリングを 受けました 00:08:10.145 --> 00:08:11.498 カウンセラーは彼に言いました 00:08:11.499 --> 00:08:15.777 「あなたは小児性愛者で 精神病患者です 私たちには何もできません 治療はできません 00:08:15.778 --> 00:08:17.547 あなたは性的虐待をやめられないでしょう 00:08:17.548 --> 00:08:21.326 いささか奇妙な理論ではありますが その理論に従えば確かに 00:08:21.327 --> 00:08:23.940 1年もすると刑務所から釈放され 自由の身となり 00:08:23.941 --> 00:08:27.037 あなたは間違いなく別の子供に対して 性的虐待を犯すことになります」 00:08:27.038 --> 00:08:30.203 さて リッキーは私の父のように 非常に知的な人間でした 00:08:30.204 --> 00:08:33.835 社会には 時にステレオタイプがあり 本当に知的である人は 00:08:33.836 --> 00:08:37.721 精神疾患を患うはずがないというものです 言うまでもなく これは馬鹿げた話です 00:08:37.722 --> 00:08:40.957 リッキーがこのことを聞かされ 言いました 「そうか 確かにそうだ」 00:08:40.957 --> 00:08:44.356 そして彼はジョージア州恩赦仮釈放委員会に 手紙を書きました 00:08:44.357 --> 00:08:47.086 「いいか お願いだから俺をここから出すな 00:08:47.087 --> 00:08:49.778 俺を精神病院へ入れてくれ 俺がいるべき場所はそこだ」 00:08:49.779 --> 00:08:52.939 しかし お役所仕事は古今東西変わることなく 00:08:52.940 --> 00:08:55.028 彼の意思は無視され 彼は釈放されました 00:08:55.029 --> 00:08:59.934 予想されたとおり およそ1年後 彼は小さな子供を殺してしまいました 00:08:59.935 --> 00:09:03.857 殺されたのは6歳のジェレミー・ギロリーで ロレライ・ギロリーの息子でした 00:09:03.858 --> 00:09:05.957 さきほど紹介した女性です 00:09:05.958 --> 00:09:11.773 私が彼とはじめて話したとき 事件について私に語りました 00:09:11.774 --> 00:09:16.180 「あの子を 俺を苦しめてきたオスカー・リー だと思って あいつを殺そうとしたんだ」 00:09:16.181 --> 00:09:19.533 このような種類の訴訟を扱う 難しさの1つは 00:09:19.534 --> 00:09:22.921 ほぼ間違いなく合理的であろう人たちに 非合理的な話を理解してもらうよう 00:09:24.631 --> 00:09:27.891 努めなければならないことです しかも とてつもなく理解困難なことをです 00:09:27.892 --> 00:09:30.709 リッキーを弁護する私たちにとって ひとつ都合がよかったのは 00:09:30.710 --> 00:09:32.454 オスカー・リーの写真と 00:09:32.455 --> 00:09:34.909 ジェレミー・ギロリーの写真があり 00:09:34.910 --> 00:09:37.384 オスカー・リーの叔母が 2人を区別できないということでした 00:09:37.385 --> 00:09:41.465 リッキーが殺害に至った経緯について わずかな理解を得られるかもしれません 00:09:41.466 --> 00:09:43.897 しかし 彼がその子を殺害したことは 疑いようもなく 00:09:43.898 --> 00:09:46.403 彼は 第1審では死刑判決を受けました 00:09:46.404 --> 00:09:48.320 陪審員は彼が精神障害者であると評決しました 00:09:48.321 --> 00:09:51.065 「彼は精神障害者だが  危険人物だから 殺したほうが良い」 00:09:51.066 --> 00:09:52.275 私たちは控訴しました 00:09:52.276 --> 00:09:55.158 控訴審までの間に リッキーについてよく知ることができました 00:09:55.159 --> 00:09:59.061 また殺害された子供の母親である ロレライとも知り合いました 00:09:59.062 --> 00:10:02.022 ロレライは非常に魅力的な 人格の持ち主でした 00:10:02.023 --> 00:10:05.186 彼女はアルコール依存の治療中で 教養には乏しかったのですが 00:10:05.187 --> 00:10:08.280 底知れぬ慈悲心の塊のような女性でした 00:10:08.281 --> 00:10:11.446 被害者の母親として 彼女が何よりも望んだのは 00:10:11.447 --> 00:10:15.578 原因を理解することでした なぜこのようなことが起こってしまったのか 00:10:15.584 --> 00:10:17.418 私は彼女と話していて 彼女に言いました 00:10:17.459 --> 00:10:21.293 「あなたが本当に理解したいと思うなら どうぞ彼自身と話してみてください 00:10:21.334 --> 00:10:24.543 あなたにとって苦痛をともなうものでしょうが 彼はあなたと話したがっています 00:10:24.584 --> 00:10:27.460 そしてあなたの子供を殺めてしまったことを 謝罪したいと望んでいます 00:10:27.501 --> 00:10:31.835 そして彼自身の精神障害について あなたに明らかにしたいと望んでもいます 00:10:31.848 --> 00:10:35.201 しかし 私はあなたが彼と話したとしても それで全てが理解できるとは思いません 00:10:35.202 --> 00:10:39.368 彼の行動は非合理的なものであったからです それでも理解する助けにはなると思います」 00:10:39.369 --> 00:10:42.380 彼女の返答に 私は深い尊敬の念を抱きました 00:10:42.381 --> 00:10:43.804 「わかりました 彼と話してみます」 00:10:43.805 --> 00:10:46.866 彼女は自分の意志で拘置所へ 足を運び リッキーと対面しました 00:10:46.867 --> 00:10:48.358 私が 「さあ 話してください 00:10:48.359 --> 00:10:49.868 彼の言うことを不愉快と感じるなら 00:10:49.869 --> 00:10:52.956 法廷で証言することができます 構いません 当然の権利です」と伝え 00:10:52.963 --> 00:10:56.540 彼女は中へ入っていきました 彼女は彼を終始 ラングリーと呼んでいました 00:10:56.541 --> 00:11:00.458 彼女がはじめ 彼に対して憎しみを 抱いていたのは明らかでした 00:11:00.459 --> 00:11:05.251 彼女は椅子に腰掛け リッキーは 彼の人生について語り そして謝罪しました 00:11:05.271 --> 00:11:07.567 6歳の息子を死に至らしめた その加害者との 00:11:07.567 --> 00:11:10.278 3時間ほどの会話の最後に 00:11:10.279 --> 00:11:12.841 彼女は彼に言いました 初めて彼をリッキーと呼んで 00:11:12.842 --> 00:11:15.787 「リッキー 私はあなたのために戦います」 00:11:15.788 --> 00:11:18.591 その後 彼女は拘置所を後にし 地区検察局へと向かいました 00:11:18.592 --> 00:11:21.964 ―検事長の名前を明かすつもりありませんが 心底あの男が嫌いなのです 00:11:21.965 --> 00:11:26.433 彼女は彼のオフィスで すべてを説明しました 彼女の言い分は 00:11:26.434 --> 00:11:28.646 「リッキー・ラングリーは精神障害者です 00:11:28.647 --> 00:11:32.058 私は彼が処刑されるのを望みません 無意味なことです 00:11:32.059 --> 00:11:35.107 彼を処刑すれば 私は再度 同じ苦しみを味わいます 恐ろしいことです 00:11:35.107 --> 00:11:36.657 それでは何も解決しません」 00:11:36.658 --> 00:11:38.906 それに対して検事長は彼女に言いました 00:11:38.907 --> 00:11:44.471 「ギロリーさん あなたは非常に変わり者な 刑事被告人 いや失礼 被害者だね」 00:11:44.472 --> 00:11:48.399 いずれにせよ 彼は死刑判決を求める 手続きを進めました 00:11:48.400 --> 00:11:52.058 驚いたことに 当局は彼女の別の子供を 取り上げようと試みたのです 00:11:52.059 --> 00:11:55.266 自分の子供を殺した人物に対して 特異な関わり方をしたので 00:11:55.267 --> 00:11:58.103 母親として不適当だというのが 彼らの理屈です 00:11:58.104 --> 00:12:00.825 とにかく 私たちは控訴審があります そして私が大好きなこと 00:12:00.826 --> 00:12:03.021 ―私が米国で死刑裁判をするのが大好きなのは 00:12:03.022 --> 00:12:05.370 証人にどんな質問でもできることです 00:12:05.371 --> 00:12:06.768 こんな風に言います 00:12:06.769 --> 00:12:10.077 「あなたは宣誓にもとづき 私のどんな質問にも 答える義務があります」 00:12:10.078 --> 00:12:11.078 非常に楽しいことです 00:12:11.079 --> 00:12:12.838 (笑) 00:12:12.839 --> 00:12:16.960 非常に楽しい 私にとってはですけどね 皆さんはそうではないでしょうが 00:12:16.961 --> 00:12:20.970 さて 陪審員が選定されました 彼らは素敵な人たちでした 00:12:20.971 --> 00:12:23.420 近い親類に深刻な精神疾患を 00:12:23.421 --> 00:12:25.230 患う人を持つ方ばかり12人です 00:12:25.231 --> 00:12:26.971 精神疾患について理解されるでしょう 00:12:26.972 --> 00:12:30.551 そして彼らは私の痛ましいほど 出来の悪いジョークにも笑ってくれました 00:12:30.552 --> 00:12:34.845 私はこの裁判では 良い結果が得られると確信していました 00:12:34.846 --> 00:12:38.238 なにせ彼らは検察官というもの 大変嫌っていましたから 00:12:38.239 --> 00:12:39.698 私はロレライと話しました 00:12:39.699 --> 00:12:42.650 アメリカでは死刑判決の可能性がある訴訟では 2つの裁判があります 00:12:42.651 --> 00:12:45.614 ひとつには 被告人が第1級殺人に 該当するか否か 00:12:45.615 --> 00:12:47.712 そして第1級殺人に該当する場合にのみ 00:12:47.713 --> 00:12:50.057 ふたつめの裁判へ進みます 生か死かの裁判です 00:12:50.058 --> 00:12:52.537 つまり終身刑が死刑かを判決するのです 00:12:52.538 --> 00:12:55.133 私はロレライに言いました 「彼らは感じのいい人たちでした 00:12:55.134 --> 00:12:57.792 彼らは有罪つまり 第1級殺人決定は出さないでしょう 00:12:57.793 --> 00:13:02.325 あなたが望んでいた罰則審議の場での 証言の機会もなくなります 00:13:02.326 --> 00:13:06.026 死刑判決が痛ましい影響を自分に 与えると証言する 00:13:06.027 --> 00:13:08.137 その機会も与えられません 00:13:08.138 --> 00:13:12.817 私はあなたに伝えておきたいのです それがこれから起こる事だと 危惧するので 00:13:12.818 --> 00:13:15.447 私はそれで満足ですが あなたには気の毒に思います」 00:13:15.448 --> 00:13:18.862 彼女はその夜は立ち去りました とても宗教心が強く 祈っていました 00:13:18.863 --> 00:13:21.149 そして翌朝 彼女は戻ってきて 私に言いました 00:13:21.149 --> 00:13:23.875 「私の論理は…」 00:13:23.876 --> 00:13:26.878 実際には彼女はルイジアナ南部の アクセントで言いましたが 00:13:26.879 --> 00:13:31.526 「私の論理は 彼は精神障害者であるから 00:13:31.527 --> 00:13:35.078 彼は刑務所に収監されるべきではなく 精神病院に入れるべきだということです 00:13:35.079 --> 00:13:38.825 彼が心神喪失という理由での無罪判決を 望むことを証言することを私は望みます 00:13:38.826 --> 00:13:42.442 彼は私の息子を殺したとき 心神喪失の状態であったと考えるからです」 00:13:42.443 --> 00:13:44.781 私は答えました 「わかりました」 00:13:44.782 --> 00:13:47.878 彼女は言います 「ただ 唯一私が必要なのは保証です 00:13:47.879 --> 00:13:50.538 彼が精神病院から出てきて 他の子供を 00:13:50.539 --> 00:13:52.264 傷つけることはないという保証です」 00:13:52.265 --> 00:13:53.841 私の答え 「それは簡単なことです」 00:13:53.842 --> 00:13:55.813 リッキーの唯一の望みが 00:13:55.814 --> 00:13:57.223 モルモットとなることです 00:13:57.224 --> 00:14:00.931 彼は自分が何者か どのように育てられたかを 知っているからです 00:14:02.425 --> 00:14:04.663 それでも このことが示唆してるのは 00:14:04.664 --> 00:14:07.142 タブロイド紙調の 表現にはなりますが 00:14:07.143 --> 00:14:11.736 リッキー・ラングリー以上に リッキー・ラングリーを憎む人はいないのです 00:14:11.737 --> 00:14:15.479 そして彼は自分が研究対象として モルモットになることを望んでいます 00:14:15.480 --> 00:14:18.210 彼が味わった苦しみを 他の人が味わうことのないように 00:14:18.215 --> 00:14:21.424 そして彼が子どもたちに与えた苦痛を 他の子供たちが味わうことのないように 00:14:21.425 --> 00:14:23.917 彼は署名する必要のある書類には 全て署名しました 00:14:23.917 --> 00:14:27.668 私はロレライに尋ねました 「証人として どんな質問をされたいか」 00:14:27.669 --> 00:14:29.659 彼女は答えます 「ひとつだけ質問してください」 00:14:29.660 --> 00:14:31.208 言われたとおり 私はそうしました 00:14:31.209 --> 00:14:34.127 失礼 このロレライとの話をすると あまりにも感動的で 00:14:34.139 --> 00:14:38.381 いつも胸がいっぱいになるのです 00:14:38.382 --> 00:14:40.975 彼女は証人台に立ち 私は彼女に尋ねました 00:14:40.976 --> 00:14:44.927 「ギロリーさん そこいるあなたの 6歳の子供を殺した男について 00:14:44.928 --> 00:14:49.210 犯行時 心神喪失であったか否か 何か意見はありますか」 00:14:49.211 --> 00:14:53.786 彼女は陪審員に向かって言いました 「はい あります」 00:14:53.787 --> 00:14:59.346 「リッキー・ラングリーは生まれたその日から 助けを求めて泣き叫んでいたのだと思います 00:14:59.347 --> 00:15:03.846 理由はなんであれ 彼の家族 社会 法律制度が 00:15:03.847 --> 00:15:06.074 彼に耳を貸さないのです 00:15:06.075 --> 00:15:11.311 証人席に座っていると 私にはジェレミーの死の叫びが聞こえます 00:15:11.312 --> 00:15:13.844 でもそこの男が助けを求めている 声も 聞こえるのです 00:15:13.845 --> 00:15:17.820 彼が犯行時 心神喪失の状態であった と私は考えます」 00:15:17.821 --> 00:15:21.120 死刑案件の訴訟で 最終弁論をするとき 00:15:21.121 --> 00:15:22.558 ―私も何度となくしてきましたが 00:15:22.559 --> 00:15:25.522 簡単なものでありません 重い責任を感じざるを得ないのです 00:15:25.523 --> 00:15:27.823 これは楽しいものではありません 私が先ほど話した― 00:15:27.833 --> 00:15:29.421 あれこれ尋問する 楽しみもありません 00:15:29.422 --> 00:15:32.315 しかし今回は簡単でした 私はただ陪審員に こう言えば事足りるのです 00:15:32.316 --> 00:15:35.568 「この女性の証言を聞いてください 私が付け加えることは何もありません」 00:15:35.569 --> 00:15:38.440 予想していたとおり 彼らは第1級殺人に ついては否定しました 00:15:38.441 --> 00:15:44.564 ロレライとラングリーは真の正義を求めて 戦いを続けているのですが 00:15:44.565 --> 00:15:46.333 私がこの話をするのには2つ理由があります 00:15:46.334 --> 00:15:48.988 ひとつには  彼女が被害者であるということです 00:15:48.989 --> 00:15:51.738 私たちの現代社会が抱える 恐ろしい事実は 00:15:51.739 --> 00:15:53.346 社会の良き指導者であるべき 00:15:53.347 --> 00:15:57.548 政府が被害者に憎むことを 教えこんでいることです 00:15:57.549 --> 00:16:02.548 ロレライは私にとって偉大なヒーローです 彼女は理解しようと努力したのですから 00:16:02.549 --> 00:16:05.434 そして それは正しい行いであるに 違いありません 00:16:05.435 --> 00:16:08.416 もうひとつの理由は精神疾患そのものです 00:16:09.936 --> 00:16:12.696 リッキーには自分が精神疾患を 患っているという自覚がありました 00:16:12.697 --> 00:16:15.794 私の哀れな父よりも  その自覚はあったでしょう 00:16:15.795 --> 00:16:17.558 結局のところ  最も重要な点は 00:16:17.559 --> 00:16:20.945 私の叔母は思いやりがあり  聡明でありましたが 00:16:20.946 --> 00:16:23.691 彼女には私の父の「答弁書」を理解することは できませんでした 00:16:23.692 --> 00:16:25.545 それは彼が精神障害者であるということです 00:16:25.546 --> 00:16:27.418 しかしロレライにはそれができました 00:16:27.429 --> 00:16:31.980 ロレライ・ギロリーはリッキーが 精神障害者であるということだけでなく 00:16:31.981 --> 00:16:36.141 彼を憎むのみでなく理解しなければならない ということを知っていました 00:16:36.142 --> 00:16:39.681 これこそ 他人という存在を理解し 00:16:39.682 --> 00:16:43.837 そして将来 いま話してきたようなことが 再発を予防することができる― 00:16:43.838 --> 00:16:46.768 社会へと私たちを導く本質 ではないでしょうか 00:16:46.769 --> 00:16:49.055 だからこそ 私はこの話をしたかったのです 00:16:49.056 --> 00:16:53.065 ロレライ・ギロリーは私にとって偉大なる 無名のヒーローなのです 00:16:53.066 --> 00:16:54.815 ―ヒロインと言うべきでしょうか 00:16:54.816 --> 00:16:57.328 今回 彼女のことを皆さんに知って欲しかったのです 00:16:57.329 --> 00:16:58.713 どうもありがとう 00:16:58.714 --> 00:17:00.319 (拍手)