0:00:06.491,0:00:11.887 1965年のある日 家族と休暇を過ごすため[br]車でアカプルコに向かう途中で 0:00:11.887,0:00:16.646 コロンビアのジャーナリスト[br]ガブリエル・ガルシア=マルケスは 0:00:16.646,0:00:21.638 突然道を引き返し[br]この先数ヶ月の家計を妻に任せ 0:00:21.638,0:00:24.469 自宅へと戻った 0:00:24.469,0:00:28.686 新しい小説のアイディアが[br]舞い降りた瞬間だった 0:00:28.686,0:00:31.792 「長い歳月が流れて[br]銃殺隊の前に立つはめになったとき 0:00:31.792,0:00:36.122 恐らく アウレリャノ・ブエンディア大佐は[br]父のお供をして初めて氷というものを見た— 0:00:36.122,0:00:40.183 あの遠い日の午後を[br]思い出したに違いない」(訳:鼓直) 0:00:40.183,0:00:42.008 それから18ヶ月間かけて 0:00:42.008,0:00:46.127 この文章が種となって[br]『百年の孤独』という花が開いた 0:00:46.127,0:00:49.542 この小説は ラテンアメリカの文学を 0:00:49.542,0:00:52.207 世界のフィクション界の[br]トップへと押し上げ 0:00:52.207,0:00:57.214 1982年にガルシア=マルケスは[br]ノーベル文学賞を受賞した 0:00:57.504,0:01:00.862 何が この小説を[br]そこまで素晴らしいものにしているのか? 0:01:00.862,0:01:03.831 物語には ブエンディア家の 0:01:03.831,0:01:07.584 7代に渡る栄枯盛衰が描かれている 0:01:07.584,0:01:10.461 味わい深い細やかな描写 0:01:10.461,0:01:14.266 たくさんの登場人物 0:01:14.266,0:01:17.100 入り組んだストーリー 0:01:17.100,0:01:21.502 楽に読める小説ではないが 0:01:21.502,0:01:23.730 深く読みごたえがある 0:01:23.730,0:01:27.613 物語を壮大に彩るのは[br]燃えるようなロマンスや 0:01:27.613,0:01:29.068 内戦 0:01:29.068,0:01:30.867 政治的な陰謀に 0:01:30.867,0:01:33.000 世界を巡る冒険者たち そして 0:01:33.000,0:01:37.597 これでもかというほど 続々登場する[br]アウレリャノという名を持つ人物の数々 0:01:37.597,0:01:39.994 しかし この作品は単なる[br]歴史小説の枠には収まらない 0:01:39.994,0:01:43.397 魔術的リアリズム[br]と呼ばれるジャンルの 0:01:43.397,0:01:48.889 最たるものの例と[br]言われている 0:01:48.889,0:01:51.519 超自然的な出来事や能力が 0:01:51.519,0:01:55.084 現実であるかのように[br]淡々と描かれながらも 0:01:55.084,0:01:59.011 一方では 人々や歴史に[br]本当に起こったことが 0:01:59.011,0:02:01.831 ありえない絵空事のように[br]書かれている 0:02:01.831,0:02:05.634 架空の村 マコンドでの[br]非現実的な現象が 0:02:05.634,0:02:11.286 実在する国コロンビアで起きた史実と[br]見事に融合している 0:02:11.286,0:02:14.529 隔絶された状態で誕生した[br]幻想的な村マコンドは 0:02:14.529,0:02:17.643 時が経つにつれ[br]外界と交わり 0:02:17.643,0:02:20.381 悲劇を呼び込んでいく 0:02:20.381,0:02:23.620 年月が経つと 登場人物も[br]歳を重ね 天に召されるが 0:02:23.620,0:02:25.903 亡霊になるか または 0:02:25.903,0:02:29.722 次の世代に 生まれ変わったことが[br]ほのめかされる 0:02:29.722,0:02:32.318 村にはアメリカの青果会社やら 0:02:32.318,0:02:36.931 行く先々で黄色い蝶に囲まれる[br]恋する機械工が登場し 0:02:36.931,0:02:39.492 若い娘が空に舞い上がって[br]飛び去ったりもする 0:02:39.722,0:02:43.284 続く世代へと[br]話は進んでいっているのに 0:02:43.284,0:02:46.407 時は 繰り返している 0:02:46.407,0:02:50.183 多くの登場人物が[br]先代に似た名前と外見を持ち 0:02:50.183,0:02:52.882 同じような過ちを繰り返す 0:02:52.882,0:02:56.092 謎に包まれたジプシーが[br]奇妙な予言を残した後 0:02:56.092,0:03:01.129 止まぬ戦いの中で[br]武力衝突や銃撃戦が起こっていく 0:03:01.129,0:03:04.651 アメリカの青果会社が[br]村の近くで農園を開くが 0:03:04.651,0:03:07.873 ストを起こした労働者を[br]何千人も虐殺してしまう 0:03:07.873,0:03:12.733 これは1928年に実際起きた[br]バナナ労働者虐殺事件を模しており 0:03:12.733,0:03:15.002 魔術的リアリズムと合わさって 0:03:15.002,0:03:19.065 時間の流れとともに 登場人物を[br]負のスパイラルが容赦なく 0:03:19.065,0:03:21.492 飲み込んでいくような[br]感覚を生み出している 0:03:21.492,0:03:25.016 この効果の背景にあるのが[br]コロンビアそしてラテンアメリカ全体で 0:03:25.016,0:03:28.811 植民地時代から繰り返されてきた[br]歴史上の出来事である 0:03:28.811,0:03:32.712 著者が身をもって[br]体験した歴史でもある 0:03:32.712,0:03:37.697 ガルシア=マルケスは[br]国内の保守党と自由党の内戦により 0:03:37.697,0:03:40.897 分断されたコロンビアで育った 0:03:40.897,0:03:43.385 独裁政治時代の[br]メキシコにも住み 0:03:43.385,0:03:47.991 1958年にはジャーナリストとして[br]ベネズエラ・クーデターを取材した 0:03:47.991,0:03:52.686 だが 一番影響を受けたのは[br]母方の祖父母からだろう 0:03:52.686,0:03:57.131 祖父 ニコラス・リカルド=マルケスは[br]千日戦争を経験した 勲章持ちの退役軍人で 0:03:57.131,0:04:01.056 コロンビア保守政権へ[br]反旗を翻した際の経験談が 0:04:01.056,0:04:04.883 ガルシア=マルケスを[br]社会主義的な視点へと導いた 0:04:04.883,0:04:09.733 一方で 祖母 ドナ・トランキータが[br]聞かせてくれた 0:04:09.733,0:04:13.738 昔からある言い伝えが[br]『百年の孤独』の礎となった 0:04:13.738,0:04:17.415 マルケスが子ども時代を過ごした[br]アラカタカにある小さな祖父母の家が 0:04:17.415,0:04:20.580 マコンドの発想の[br]中核となった 0:04:20.580,0:04:22.468 『百年の孤独』を通して 0:04:22.468,0:04:25.061 ガルシア=マルケスはラテンアメリカの[br]独特な歴史を捉える― 0:04:25.061,0:04:28.144 独自の方法を見つけた 0:04:28.144,0:04:33.142 植民地から独立した後も現地社会では[br]過去と同じ痛ましい経験を 0:04:33.142,0:04:36.745 余儀なくされるという[br]異様な実態を描写してのけたのだ 0:04:36.745,0:04:40.221 こういった運命論が支流にありながら[br]作品は希望も捨てていない 0:04:40.221,0:04:41.843 ノーベル賞受賞のスピーチで 0:04:41.843,0:04:43.493 ガルシア=マルケスは 0:04:43.493,0:04:48.552 ラテンアメリカに長きにわたってはびこる[br]内乱と不正の横行についての思いを述べた 0:04:48.552,0:04:53.452 だが より良い世界を作り上げることは[br]可能だという主張でスピーチを締めくくった 0:04:53.452,0:04:58.090 「そこでは どのように死ぬのか[br]他人に決められることはなく 0:04:58.090,0:04:59.727 愛は実を結び 0:04:59.727,0:05:01.842 幸せになる可能性が失われず 0:05:01.842,0:05:05.198 そして 百年の孤独という[br]呪縛に囚われた一族の者たちに 0:05:05.198,0:05:09.774 ついに そして永遠に この世で幸せになる[br]2度目のチャンスが与えられるのです」