私はユタ州に住んでいます
地球上でも最も壮麗な
風景のいくつかが
見られる場所です
素晴らしい光景に圧倒され
その異世界のような姿には
心を奪われてしまいます
科学者として私は
自然を観察するのが好きですが
細胞生物学者としては
自然の世界を
ずっと小さなスケールで理解することに
より強い関心を持っています
私は分子のアニメーション作家で
他の研究者と協力し
見えない小さな分子の
可視化をしています
そういう分子は
光の波長よりも小さいため
最高の光学顕微鏡を使っても
直接見ることはできません
見ることのできない
小さなものを
どうやって可視化するのでしょう?
私が一緒に仕事しているような
科学者たちは
1つの分子過程の理解に
生涯を費やすこともあり
パズルの小さな断片について語る
実験をいろいろ行うことで
解明をしていきます
ある実験で
タンパク質の形が分かり
別の実験で 他のタンパク質との
相互作用の仕方が分かり
また別の実験で細胞内の
どこにあるかが分かるという具合です
断片的情報を
繋ぎ合わせることで
分子の働きについて
仮説を立てることができます
私の仕事は そのような仮説を元に
アニメーションを作ることです
分子というのは
突拍子もないことをしうるものなので
難しいこともありますが
アニメーションは
分子の働きについて
研究者が考えを伝えるのに
とても役に立ちます
また みんなが分子の世界を
科学者の眼で
見られるようにします
いくつかのアニメーションを使い
驚異の分子の世界のツアーに
皆さんをお連れしましょう
これは免疫細胞です
このような細胞は
病原菌のような侵入者を見つけるために
体内をはい回る必要があります
この動きは細胞骨格のひとつで
私のお気に入りのタンパク質の
アクチンによるものです
体の骨格とは違い
アクチンの線維はたえず
作られたり壊されたりしています
アクチンの細胞骨格は細胞内で
とても重要な役割を担っています
アクチンによって細胞は
形を変えたり
動き回ったり
表面に張り付いたり
細菌を平らげたりできるのです
アクチンは違った形の動きにも
関与しています
筋細胞内では
アクチンは
布のような規則的な
線維構造を取っています
筋肉が収縮する時は
線維が引っ張り合い
筋肉が弛緩する時は
元の位置に戻ります
別の細胞骨格である微小管は
長距離輸送を担っています
細胞の中でひとつの場所から別の場所へ
物を動かす時に使われる
細胞内の幹線道路のようなものです
道路と違うのは
微小管は伸縮するということで
必要な時に現れ
仕事が済めばなくなります
分子版のトレーラーは
モータータンパク質と
呼ばれています
それが細胞小器官のような
大きな荷物を牽引しながら
微小管上を移動します
ここに出ているダイニンという
モータータンパク質は
協力し合って働き
私には馬車のように見えます
細胞というのは御覧のように
変化するダイナミックな場所で
たえず構築と分解が
繰り広げられています
構造によっては他と比べて
分解が大変なものもあります
そういう構造物を
適切なタイミングで分解するため
特別部隊が必要になり
このようなタンパク質の
出番になります
このドーナツみたいな形の
タンパク質は
細胞内にいろいろな
種類がありますが
真ん中の穴で個々の
タンパク質を引っ張ることで
解体を行います
このようなタンパク質が
上手く働かないと
分解されるべきタンパク質が
くっついて溜まっていき
アルツハイマーのような
酷い病気を引き起こします
今度は細胞核を見てみましょう
DNAの形でゲノムが
格納されている場所です
DNAはすべての細胞内にあって
様々なタンパク質により
手入れされ保持されています
DNAはヒストンというタンパク質に
巻き付いていて
膨大な量のDNAが
細胞核内に収まるようにしています
ここに出ているマシンは
クロマチンリモデラーで
ヒストンの周りで
DNAを繰り出して
DNAの新たな部分が
露出するようにします
それでDNAが他のマシンから
アクセスできるようになります
ここでは大きな分子マシンが
遺伝子のはじまる位置を
探しています
その位置が見つかると
一連の変形を行い
遺伝子の発現や複写を行う
他のマシンが作業できるようにします
これはとても良く
管理されたプロセスで
発現する遺伝子の
種類やタイミングを誤ると
酷い結果になりかねません
今では科学者は
タンパク質のマシンを使って
ゲノムを編集でます
CRISPRの名前は
聞いたことがあるでしょう
CRISPRはCas9という
タンパク質を使い
DNA上の特定の部分を
見つけて切断するよう
仕立てることができます
ここでは2つの
Cas9タンパク質が
DNAの問題のある個所を
切除しています
病気を引き起こすような部分を
取り除くわけです
細胞の働きを使って
切られたDNAを
つなぎ合わせます
分子アニメーション作家として
最も大変なのは
はっきりと分からないものの
可視化です
お見せしてきたアニメーションは
科学者たちが手にできた
情報から推理した
プロセスの働きを
表現したものです
しかし分子的プロセスの多くは
理解され始めたばかりで
学ぶべきことが
まだまだあります
実のところ
この見えない分子の世界は
広大で概ね未探査です
こういう分子の風景は
周りの目に見える
自然の世界同様に
私にとって探索し甲斐の
ある場所なんです
ありがとうございました
(拍手)