WEBVTT 00:00:00.000 --> 00:00:01.795 はい!どうもアバタローです。 00:00:01.853 --> 00:00:06.836 本日は、ビクトール・フランクルの[夜と霧] こちらをご紹介いたします。 00:00:06.836 --> 00:00:10.881 どんな作品かと言いますと 自分の未来に対して希望が持てず 00:00:10.881 --> 00:00:16.551 生きる意味を見失ってしまった人を 救い出してくれる世界的名著になります。 00:00:16.551 --> 00:00:21.569 フランクルは、著名な精神科のドクターであり また、心理学の専門家です。 00:00:21.569 --> 00:00:25.471 皆さま、よくご存じの[アドラー] そして、[フロイト][ユング] 00:00:25.471 --> 00:00:28.806 彼らは[世界三大心理学者]と呼ばれていますが 00:00:28.806 --> 00:00:33.485 フランクルは、それに次ぐ [第四の巨頭]とも言われる人物になります。 00:00:33.485 --> 00:00:37.325 そんな彼が、第二次世界大戦中 ナチスによって捕らえられ 00:00:37.325 --> 00:00:41.951 強制収容所に入れられた時の 体験について書かれたもの。 00:00:41.951 --> 00:00:44.400 それが[夜と霧]という作品です。 00:00:44.400 --> 00:00:46.934 因みに、このタイトルの [夜と霧]というのは 00:00:47.132 --> 00:00:49.953 ヒトラーによって発せられた 作戦名のことです。 00:00:50.229 --> 00:00:55.566 自分たちに敵対する者を捕まえる時。 まるで、夜の霧の中に消えるように 00:00:55.580 --> 00:01:00.090 ひっそりと跡形もなく連行されることから そのように呼ばれていました。 00:01:00.090 --> 00:01:03.106 ただ、「ナチス」とか 「強制収容所」と聞きますと 00:01:03.106 --> 00:01:07.504 あれ?今日の話って凄く怖い話なんじゃないの? 暗い話なんじゃないの?と 00:01:07.504 --> 00:01:11.094 ご心配された方もいるかもしれません。 ...ですが、ご安心ください。 00:01:11.435 --> 00:01:16.107 この作品は、収容所の恐ろしさや 戦争の悲惨さを訴えることを 00:01:16.107 --> 00:01:18.685 目的として書かれたものでは ございません。 00:01:18.685 --> 00:01:24.046 絶望の極致に置かれた人間たちの メンタルに焦点が宛てられた作品なんです。 00:01:24.046 --> 00:01:28.844 収容所という受け入れがたい 理不尽な環境の中で、人々の心は 00:01:28.844 --> 00:01:32.256 どのような変化をしていき どのようなことに苦しんでいたのか。 00:01:32.256 --> 00:01:37.861 また、何を心の支えとし、どんな考えをもって 未来に希望を見出そうとしたのか。 00:01:37.861 --> 00:01:43.298 [夜と霧]には、こういった、今正に 知っておきたい生き方のヒントが多く含まれており 00:01:43.298 --> 00:01:49.019 重たいテーマではありますが、読む人の心を 軽くしてくれる不思議な力があるのです。 00:01:49.019 --> 00:01:53.355 この動画をご視聴いただくにあたって 予備知識は一切いりませんので 00:01:53.355 --> 00:01:56.869 是非、安心して最後まで お付き合いいただければと思います。 00:01:56.869 --> 00:02:00.399 それでは、参りましょう。 ビクトール・フランクル[夜と霧] 00:02:00.782 --> 00:02:03.923 まず、この動画の全体像からお示し致します。 00:02:03.923 --> 00:02:07.531 初めにこの作品を読む前に 知っておくべき前提知識として 00:02:07.531 --> 00:02:11.291 著者のフランクルとは、一体どんな人物で どういった経緯で 00:02:11.291 --> 00:02:15.778 強制収容所に入ることになってしまったのか についてお話をします。 00:02:15.778 --> 00:02:19.192 それを踏まえた上で [夜と霧]の中身に入っていき 00:02:19.192 --> 00:02:21.882 最後は、フランクル思想を知る上で欠かせない 00:02:21.882 --> 00:02:24.946 [ブーヘンヴァルトの歌]について触れて 終わりたいと思います。 00:02:25.259 --> 00:02:28.035 では早速、フランクルについて 見て行きましょう。 00:02:28.252 --> 00:02:31.186 ビクトール・フランクル 彼は1905年。 00:02:31.186 --> 00:02:34.165 オーストリアの首都 ウィーンに生まれたユダヤ人です。 00:02:34.165 --> 00:02:37.801 幼少期から非常に 好奇心旺盛であったフランクルは 00:02:37.801 --> 00:02:41.467 人間の「生きる意味」という 壮大なテーマに興味を持ち 00:02:41.467 --> 00:02:46.888 更に、アドラーやフロイトなどの 影響を受けることで精神科医になったといいます。 00:02:46.888 --> 00:02:50.127 また、医師として 彼の最大の功績の1つは 00:02:50.127 --> 00:02:53.960 [ロゴセラピー]と呼ばれる 心理療法を開発したことです。 00:02:53.960 --> 00:02:57.744 [ロゴセラピー]とは 自分の生きる意味を実感できず 00:02:57.744 --> 00:03:01.805 毎日、「虚しい」「苦しい」といった 感情を持った人に対して 00:03:01.805 --> 00:03:07.539 生きる意味を見つけ出すサポートをする そういった『心理療法』のことを指します。 00:03:07.539 --> 00:03:10.907 そして、彼は自ら開発した [ロゴセラピー]を実践し 00:03:10.907 --> 00:03:15.289 人生に絶望した人の心の救済に 全生涯を捧げ 00:03:15.289 --> 00:03:20.101 1997年の92歳のときに 天寿を全うしました。 00:03:20.101 --> 00:03:24.735 あのマザー・テレサから『ノーベル平和賞』の 推薦を受けたこともあるほど 00:03:24.735 --> 00:03:29.633 世の為、人の為に尽くし続けた偉人。 それが、ビクトール・フランクルです。 00:03:29.633 --> 00:03:34.542 ただ、そんな彼が 強制収容所に入れられてしまうというのは 00:03:34.542 --> 00:03:37.708 なかなか信じがたい事実です。 ...なので、今から 00:03:37.708 --> 00:03:41.700 彼が強制収容所に入るまでの経緯について お話をいたします。 00:03:41.700 --> 00:03:48.279 時は、今から遡ること約90年前。 1933年のドイツでのことです。 00:03:48.279 --> 00:03:51.780 ここで、ある大きな 政治的変化が起こりました。 00:03:51.780 --> 00:03:56.880 なんと、長らく政権野党であった 「国家社会主義ドイツ労働者党」 00:03:56.880 --> 00:04:00.325 通称『ナチス』が その年の1月30日。 00:04:00.325 --> 00:04:03.975 遂に、与党となったのです。 もちろん、政権のトップは 00:04:03.975 --> 00:04:06.529 皆様ご存じの 『アドルフ・ヒトラー』です。 00:04:06.529 --> 00:04:12.051 そして彼は、ユダヤ人を排除するための政策を 次々と打っていきました。 00:04:12.051 --> 00:04:14.899 何故、ヒトラーは そんなことをしたのでしょうか? 00:04:14.899 --> 00:04:18.531 まっ凄く簡単に言いますと 共通の敵を作ることで 00:04:18.531 --> 00:04:22.128 当時、バラバラだった ドイツ国民の心を一つにし 00:04:22.128 --> 00:04:24.407 国をまとめ上げようとしたのです。 00:04:24.407 --> 00:04:28.748 具体的には、自分たちは ”アーリア人” と呼ばれる優性民族であり 00:04:28.748 --> 00:04:32.899 劣等民族であるユダヤ人を迫害し 国外に追い出し 00:04:32.899 --> 00:04:36.901 「我々でヨーロッパを統一しませんか?」と 言い出したわけです。 00:04:36.901 --> 00:04:42.768 ナチスが政権与党となって初期の頃は ユダヤ人が経営するお店を妨害するとか 00:04:42.768 --> 00:04:46.747 レストランに入れないとか そういうレベルの嫌がらせが多かったのですが 00:04:46.747 --> 00:04:50.788 徐々に、これがエスカレートしていきます。 1935年には 00:04:50.788 --> 00:04:56.464 『ニュルンベルク法』と呼ばれる ユダヤ人の公民権を奪う人種差別法が制定されます。 00:04:56.464 --> 00:05:02.606 これによって、ユダヤ人とドイツ人の結婚が禁じられ 更に、ユダヤ人は公共的な場所。 00:05:02.606 --> 00:05:07.333 例えば、定演・劇場・プールなどへの出入りが 禁止されてしまいます。 00:05:07.333 --> 00:05:10.157 そして、1938年11月。 00:05:10.157 --> 00:05:13.363 フランスの首都 パリにあるドイツ大使館で書記官が 00:05:13.363 --> 00:05:17.082 ユダヤ人青年によって ”射殺される” という事件が起こりました。 00:05:17.082 --> 00:05:21.177 因みにその青年は 自分の家族をナチスによって迫害され NOTE Paragraph 00:05:21.177 --> 00:05:23.836 その恨みから 書記官を襲ったと言います。 00:05:23.836 --> 00:05:28.190 こうなりますと当然、ドイツに居る国民たちは 「けしからん!」と、大激怒です。 00:05:28.190 --> 00:05:34.947 そして、国内にあったユダヤ教会や商店街が 次々と襲撃されるという大暴動が起こり 00:05:34.947 --> 00:05:39.302 90人以上のユダヤ人の方が 亡くなってしまったと言います。 00:05:39.302 --> 00:05:44.115 破壊された家や商店街の窓ガラスが ドイツ中の道路を埋め尽くし 00:05:44.115 --> 00:05:48.942 それが、月明かりによって照らされ まるで「水晶」のように光っていたことから 00:05:48.942 --> 00:05:53.378 その事件は[水晶の夜] ”クリスタル・ナハト” と名付けられました。 00:05:53.739 --> 00:05:57.525 これによって、ドイツ国内における ユダヤ人追放の動きは 00:05:57.525 --> 00:06:00.010 更に、加速していくこととなったのです。 00:06:00.010 --> 00:06:03.305 そして、その流れのまま翌年1939年。 00:06:03.305 --> 00:06:08.764 ドイツ軍がポーランドに侵攻したことを契機に 「第二次世界大戦」 が勃発します。 00:06:08.838 --> 00:06:15.283 ナチスも自分たちが占領した地域のユダヤ人を 初めは追放したり、隔離したりしていたのですが 00:06:15.283 --> 00:06:19.305 戦線が膠着するにつれて方針を一変させます。 00:06:19.305 --> 00:06:24.772 なんと!「殺処分する」という... えげつない方向に舵を切り始めたのです。 00:06:24.772 --> 00:06:29.853 これが、ナチスによる『大量虐殺』 所謂、[ホロコースト]の始まりです。 00:06:29.853 --> 00:06:36.186 因みに[ホロコースト]とは、元々ギリシャ語で ”焼かれた生贄” という意味になります。 00:06:36.186 --> 00:06:41.955 水面下で行われてきたユダヤ人狩りが 遂に、ここから本格化していくことになる訳です。 00:06:41.955 --> 00:06:47.610 そして1941年、当時36歳であった ビクトール・フランクルの元にも 00:06:47.610 --> 00:06:51.632 ナチス当局から軍司令部への 出頭命令が下ります。 00:06:51.683 --> 00:06:55.882 そして1942年。 遂に、連れて行かれてしまう訳です。 00:06:55.882 --> 00:07:01.222 因みに当時のフランクルは 数年前に自分の病院を立ち上げたばかりで 00:07:01.222 --> 00:07:05.838 更に、結婚もしたばかりという状況でございます。 そんなタイミングで彼は... 00:07:05.838 --> 00:07:10.135 これ以上ない絶望の世界に 呑み込まれて行くことになるのです。 00:07:10.383 --> 00:07:16.282 続きまして...彼が捕まってから解放に至るまでの 大まかな流れをスライドにお示しします。 00:07:16.282 --> 00:07:19.013 ちょっと、カタカナが多いですが これらの名前は 00:07:19.013 --> 00:07:22.661 全く覚えておかないで大丈夫ですので そこは、ご安心ください。 00:07:22.661 --> 00:07:24.662 1つ目が [1.テレージエンシュタット] 00:07:24.662 --> 00:07:26.403 ここは、今もチェコにあります。 00:07:26.403 --> 00:07:31.116 1942年の9月から 自分の両親と奥さんと一緒に 00:07:31.116 --> 00:07:34.316 フランクルは2年程 ここに収容されることになります。 00:07:34.316 --> 00:07:38.998 実は、フランクルのお父さんは当時 80歳を超すほどのご高齢であったんですが 00:07:38.998 --> 00:07:44.758 非常に栄養状態の悪い生活を強いられたことによって ここで、餓死をさせられてしまうのです。 00:07:44.758 --> 00:07:47.741 そして、2つ目がポーランドにある [2.アウシュヴィッツ]です。 00:07:47.741 --> 00:07:51.616 絶滅収容所として 非常に”悪名” 高い所ですね。 00:07:51.616 --> 00:07:56.291 ここで、フランクルは自分のお母さんと お兄さんを失ってしまいます。 00:07:56.291 --> 00:07:58.365 滞在期間は、4日ほどです。 00:07:58.365 --> 00:08:01.109 その後、ドイツ南部バイエルン地方にある 00:08:01.109 --> 00:08:06.953 [3.ダッハウ]と呼ばれる強制収容所の [カウフェリング第3支所]という所に送られ 00:08:06.953 --> 00:08:11.055 最後は、病人収容所である [カウフェリング第6支所]に行き 00:08:11.055 --> 00:08:15.992 1945年の4月に ようやく「解放」という流れになります。 00:08:15.992 --> 00:08:21.388 ここで、抑えておいていただきたいのは [夜と霧]の舞台がアウシュビッツ以降 00:08:21.388 --> 00:08:25.597 特にダッハウ強制収容所の 支所であるという点です。 00:08:25.597 --> 00:08:28.631 もっとハッキリ言いますと... この作品のメインステージは 00:08:28.631 --> 00:08:30.832 アウシュヴィッツではありません。 支所です! 00:08:30.832 --> 00:08:34.375 ここは、よく誤解されますので ご注意いただければと思います。 00:08:34.848 --> 00:08:37.695 ここまで、よろしいでしょうか? 以上の流れを踏まえた上で 00:08:37.810 --> 00:08:41.824 早速、作品の中身に入っていきたいと思います。 では、行きましょう。 00:08:42.060 --> 00:08:48.236 私は、一心理学者として 強制収容所で体験したことを述べたいと思う。 00:08:48.236 --> 00:08:53.164 ただ...何も私は、身の毛のよだつ 恐ろしい話をしたいのではない。 00:08:53.510 --> 00:08:59.264 そこにいた囚人たちが、収容所の中で どのような苦労を抱えて過ごしてきたのか。 00:08:59.646 --> 00:09:02.564 そういった「心の問題」を取り扱いたいのだ。 00:09:02.564 --> 00:09:08.075 [119104]忘れもしない。 これは、私の囚人番号だ。 00:09:08.420 --> 00:09:13.211 強制収容所において、私は「心理学者」でも ましてや「医者」でもなかった。 00:09:13.369 --> 00:09:17.542 ただ、番号が振られただけの 一人の囚人でしかなかったのだ。 00:09:17.542 --> 00:09:22.371 ではまず、私がアウシュヴィッツに送られた時の 様子から話しをしていこう。 00:09:22.371 --> 00:09:25.706 1つの貨物車両に 80人程の人間たちと 00:09:25.706 --> 00:09:29.152 その荷物が息苦しいほどに 隙間なく入れられ 00:09:29.152 --> 00:09:32.273 私たちは、ある場所へと輸送させられた。 00:09:32.453 --> 00:09:37.830 辛うじて窓の一番上から薄暗い空を 眺めることができたのを覚えている。 00:09:37.964 --> 00:09:40.669 一体、我々は何処に連れていかれるのか? 00:09:40.691 --> 00:09:43.812 軍需工場で強制労働でもさせられるのか? 00:09:43.812 --> 00:09:47.578 そうやって、狭い空間の中で 言葉を交わし合った。 00:09:47.641 --> 00:09:51.547 しばらくすると...列車は 開けた平地に止まろうとしていた。 00:09:51.573 --> 00:09:54.224 何処だ! ここは一体、何処なんだ。 00:09:54.224 --> 00:10:00.498 そんな、言い知れぬ空気が列車内を覆う中 群衆の中から、突然一つの叫び声があがった。 00:10:00.498 --> 00:10:03.590 「ここに、立札があるぞ!」 [AUSCHWITZ] 00:10:03.590 --> 00:10:07.810 「アウシュヴィッツだ!」 この瞬間、どれほど心臓が止まると思ったか。 00:10:07.901 --> 00:10:11.822 「アウシュヴィッツ」は1つの概念だった。 何かよく分からないけれども 00:10:11.822 --> 00:10:13.940 しかし、それだけに「恐怖」しかなかった。 00:10:13.940 --> 00:10:17.656 停車場に着くと エレガントな紳士のような将校が現れた。 00:10:17.656 --> 00:10:22.073 そして、我々を指さしながら 何やら指示を出し始めたのだ。 00:10:22.073 --> 00:10:24.579 私はこの時、知る由もなかった。 00:10:24.579 --> 00:10:29.363 あの男の指の動き一つ一つが 「命」の選別であったということを... 00:10:29.363 --> 00:10:32.554 この時、輸送された 約90パーセントの人が 00:10:32.554 --> 00:10:36.894 数時間も経たないうちに 「ガス室」に送られ命を奪われた。 00:10:36.894 --> 00:10:42.331 一方、私を含む残りの人間たちは 風呂場に連れていかれ全身の毛を剃られた。 00:10:42.563 --> 00:10:45.510 そして文字通り 「裸」の存在となったのだ。 00:10:45.510 --> 00:10:47.028 はい!ここで止めましょう。 00:10:47.028 --> 00:10:49.042 非常に恐ろしい世界です。 00:10:49.320 --> 00:10:52.996 列車から降りますと 最初にあったのは「命の選別」でした。 00:10:52.996 --> 00:10:57.329 ここでフランクルは 偶然にも生き残ることが出来たわけですが 00:10:57.329 --> 00:11:00.061 それは一体、なぜでしょうか? 結論から言いますと 00:11:00.061 --> 00:11:03.404 労働者として「使える!」と 判断されたからです。 00:11:03.404 --> 00:11:06.704 逆に、労働者として「使えない!」と 思われた人のことごとくは 00:11:06.704 --> 00:11:10.344 最初の段階で "ふるい" に 掛けられてしまったという訳です。 00:11:10.608 --> 00:11:15.890 この時、囚人たちは「収容ショック」といって とてつもない恐怖体験をすることになります。 00:11:15.890 --> 00:11:18.653 囚人によっては、収容所を取り囲んでいる 00:11:18.653 --> 00:11:21.685 高電圧が流れている鉄条網に走って 00:11:21.685 --> 00:11:24.178 自害を試みることもあったようです。 00:11:24.178 --> 00:11:27.237 ...ですが、しばらくしますと 死の恐怖がなくなっていき 00:11:27.237 --> 00:11:31.348 自分で命を絶つことすら 考えなくなっていく、と言います。 00:11:31.408 --> 00:11:35.980 フランクルは「自分の命だけは諦めない」と 気持ちを強く保っているのですが 00:11:35.980 --> 00:11:41.179 いつ、心が崩壊してもおかしくない状態で 収容所生活を送っていました。 00:11:41.179 --> 00:11:43.088 そんな中、先輩囚人が 00:11:43.088 --> 00:11:46.666 こっそりと、フランクル達が 寝泊まりしている所にやってきます。 00:11:46.728 --> 00:11:49.608 そして、生きる為のアドバイスを 授けてくれるのです。 00:11:49.608 --> 00:11:52.579 では、そのシーンから 続きを見て行きましょう。 00:11:52.579 --> 00:11:56.264 「いいか...僕は、君たちに 1つのことを忠告する。 00:11:56.264 --> 00:11:59.951 それは「ヒゲを剃れ!」ということだ。 出来れば毎日。 00:11:59.951 --> 00:12:01.573 剃るものは、何だっていい。 00:12:01.573 --> 00:12:04.665 僕は、その辺に落ちている ガラス片でやっている。 00:12:04.665 --> 00:12:07.983 後、病気になるな。 病気であっても、それを悟られるな。 00:12:07.983 --> 00:12:09.886 命を奪われたくなければ 00:12:09.886 --> 00:12:14.095 とにかく、労働が「可能である」という 印象を相手に与えろ。 00:12:14.095 --> 00:12:17.649 「コイツは、動けない」と判断されたら もう、俺たちはお終いなんだ。 00:12:17.869 --> 00:12:20.008 いいか!もう一度言うぞ。 ヒゲを剃れ! 00:12:20.008 --> 00:12:21.738 そして、いつも 真っすぐ立って歩け。 00:12:21.949 --> 00:12:23.154 はい!ここで止めましょう。 00:12:23.330 --> 00:12:27.013 どれだけ理不尽で 残酷な環境の中でフランクル達が 00:12:27.013 --> 00:12:29.973 生きていたかが、よく分かります。 収容された当初は 00:12:29.973 --> 00:12:34.947 「苦しい」とか、「怖い」とか。 様々な感情の浮き沈みを体験するそうです。 00:12:34.947 --> 00:12:39.618 しかし、それが長引いてきますと 今度は、逆に何も感じなくなるという 00:12:39.618 --> 00:12:41.541 新たな状態に移っていきます。 00:12:41.541 --> 00:12:44.041 つまり、自分が生きている世界に対して 00:12:44.041 --> 00:12:48.268 無感動、無関心、 無感覚になっていくというのです。 00:12:48.268 --> 00:12:51.904 こうなりますと、自分の家族や 仲間が殴られていても 00:12:51.904 --> 00:12:54.541 一切、目を反らさなくなるといいます。 00:12:54.541 --> 00:12:56.469 黙って、ただ眺める。 00:12:56.751 --> 00:12:59.246 そこには、「嫌悪感」も「恐怖」も 「同情」もない。 00:12:59.293 --> 00:13:01.853 何にも感じることができないのです。 00:13:01.853 --> 00:13:05.638 更に、収容所の世界において 「苦しんでいる人」「病んでいる人」 00:13:05.638 --> 00:13:08.435 「死につつある人」 そして、「死んでいる人」というのは 00:13:08.435 --> 00:13:12.690 全く、珍しくなく むしろ、当たり前すぎる光景であるため 00:13:12.690 --> 00:13:15.973 人としての心が、徐々に 動かなくなってくるのです。 00:13:15.973 --> 00:13:19.328 フランクルは、この 「感情」が動かなくなる状態のことを 00:13:19.328 --> 00:13:23.945 「心を包む、最も必要な『鎧』であった」 と、表現しています。 00:13:23.945 --> 00:13:25.464 つまり、自分の肉体が 00:13:25.464 --> 00:13:31.421 「生命を維持する」という、ただその目的だけに 集中するという「モード」に入るんです。 00:13:31.421 --> 00:13:35.882 その結果、生命維持に直接関係のない 「心の機能」が 00:13:35.882 --> 00:13:39.604 シャットダウンしてしまう、という訳です。 一旦、その「モード」に入りますと 00:13:39.604 --> 00:13:42.254 人は、「食べる」とか 「寝る」とか、そういった 00:13:42.254 --> 00:13:45.687 原始的な「欲求」だけに 支配されることになった、と言います。 00:13:45.687 --> 00:13:49.365 ただ、当時の囚人たちは 一日に水のようなスープと 00:13:49.365 --> 00:13:52.755 パンのかけらくらいしか食事を 与えられていなかった為 00:13:52.755 --> 00:13:56.745 原始的な「欲求」のほとんどは 「食欲」が占めていたと言います。 00:13:56.796 --> 00:13:59.476 当然、地獄のような 飢餓状態におかれますから 00:13:59.476 --> 00:14:02.607 一人残らず屍のように 痩せこけていきます。 00:14:02.607 --> 00:14:06.097 更に、その状態で蹴られたり 殴られたりしながら 00:14:06.097 --> 00:14:08.889 朝から晩まで 強制労働をさせられ 00:14:08.889 --> 00:14:11.769 「使えない」と判断されれば 処理されてしまう。 00:14:11.769 --> 00:14:14.912 それが、収容された者たちの世界だったんです。 00:14:14.912 --> 00:14:19.205 そんな極限状態の中 フランクルは、不思議な体験をします。 00:14:19.205 --> 00:14:23.416 なんと、自分の目の前に 「奥さん」の面影が現れ 00:14:23.416 --> 00:14:26.574 そして、言葉を 交わし合ったというのです。 00:14:26.574 --> 00:14:32.100 この場面は、[夜と霧]という作品の中でも 特に、胸が締め付けられるところになります。 00:14:32.368 --> 00:14:34.700 では、そこから続きを見て行きましょう。 00:14:34.700 --> 00:14:36.603 私は妻と語った。 00:14:36.603 --> 00:14:41.086 そして、彼女が答えるのを聞き 彼女が笑うのを見た。 00:14:41.086 --> 00:14:44.849 例え、その場に居なくても 彼女の眼差しは 00:14:44.849 --> 00:14:49.285 今、正に昇ろうとしている「太陽」よりも 私を照らしてくれた。 00:14:49.285 --> 00:14:51.338 その時、私は気付いたのだ。 00:14:51.338 --> 00:14:54.894 『愛』こそが、人間にとって 最高のものだということを。 00:14:54.894 --> 00:14:57.611 例え、この世に何一つ残っていなくても 00:14:57.611 --> 00:15:01.998 人間は、愛する人の面影を 心に宿すだけで、救われるのだ。 00:15:01.998 --> 00:15:06.250 この時、私は...自分の妻が 生きているかどうかも、知らなかったし 00:15:06.250 --> 00:15:08.096 知る必要もなかった。 00:15:08.096 --> 00:15:12.611 私は、深い愛情をもって 彼女の面影を見つめ続けた。 00:15:12.611 --> 00:15:14.677 彼女は、まだ生きているのか。 00:15:14.677 --> 00:15:16.806 それとも、もうこの世にいないのか。 00:15:16.930 --> 00:15:19.305 そんな事実は、もはや問題ではなかった。 00:15:19.305 --> 00:15:22.469 例え、愛する妻が 亡くなっていたと分かっていても 00:15:22.739 --> 00:15:23.935 それでも私は... 00:15:23.935 --> 00:15:26.766 彼女の面影を 見つめ続けていただろう。 00:15:26.766 --> 00:15:29.324 何時間も凍った地面を掘り続けても 00:15:29.324 --> 00:15:33.207 監視兵に怒鳴られても 私は、彼女と言葉を交わした。 00:15:33.351 --> 00:15:36.613 そして、その度に妻の存在を強く感じた。 00:15:36.613 --> 00:15:39.256 彼女を抱きしめることが出来るのではないか。 00:15:39.258 --> 00:15:41.980 手を伸ばせば触れることが 出来るのではないか。 00:15:41.980 --> 00:15:45.486 そんな感情が強く私を襲うたび 思うのだった。 00:15:45.486 --> 00:15:47.259 彼女はきっと、そこにいる。 00:15:47.259 --> 00:15:48.820 ...そこにいるのだ。 00:15:48.820 --> 00:15:50.412 はい!ここで止めましょう。 00:15:50.682 --> 00:15:56.422 つまり、フランクルは いつ精神が崩壊してもおかしくない極限状態の中で 00:15:56.422 --> 00:15:58.565 「愛」によって、生かされたのです。 00:15:58.785 --> 00:16:02.707 そして、どれほど人間にとって「愛」が 大切なものであるか、ということを 00:16:03.010 --> 00:16:06.283 頭ではなく 心から痛感したというのです。 00:16:06.412 --> 00:16:10.705 ただ、非常に申し上げにくいのですが 実はこの時、フランクルの奥さんは 00:16:10.705 --> 00:16:15.398 別の収容所に移送され そこで、処刑されてしまっているのです。 00:16:15.398 --> 00:16:20.207 それを知らない状態で、彼は ただ、愛する奥さんの面影を心に宿し 00:16:20.207 --> 00:16:22.362 見つめ続けていたという訳です。 00:16:22.362 --> 00:16:26.460 因みに、以前紹介した 古代ローマの哲学者[セネカ]は 00:16:26.460 --> 00:16:28.895 「過去は唯一、運命に支配されない。 00:16:28.895 --> 00:16:32.796 誰からも奪われない、神聖な時間だ!」 と言っていました。 00:16:32.796 --> 00:16:36.316 彼の言葉の重さが ここに来てズシン!と、響いてきます。 00:16:36.316 --> 00:16:39.004 つまり、フランクルは 身ぐるみを全て剥がされ 00:16:39.004 --> 00:16:42.576 財産も、家族も、尊厳も 何もかも奪われたのですが 00:16:42.576 --> 00:16:45.189 唯一、「過去」だけは 侵害されなかったのです。 00:16:45.189 --> 00:16:50.072 そして彼は、極限状態の中で 自分にとって最も大切な「過去」 00:16:50.072 --> 00:16:54.826 つまり、愛する奥さんという存在を 自分の記憶から引っ張ってきました。 00:16:54.826 --> 00:16:59.840 そして、会話ができてしまうくらい 彼女の存在を自分の心のスクリーンに 00:16:59.840 --> 00:17:04.423 強く投影させ それによって、自らを支えていた訳です。 00:17:04.611 --> 00:17:07.263 ただ、気を強く保っているフランクルですが 00:17:07.263 --> 00:17:11.364 それでも、心が折れそうになる瞬間は 何度かあったようです。 00:17:11.364 --> 00:17:14.769 その中でも、特に 「これは、キツイ!」と思われる要素を 00:17:14.769 --> 00:17:17.137 彼は本書で、1つ挙げています。 00:17:17.635 --> 00:17:21.032 それは、フランクルだけではなく 他の囚人たちも 00:17:21.032 --> 00:17:25.103 「確かに、その通りである」と 意見が一致したと言います。 00:17:25.623 --> 00:17:30.687 皆さんは、何が囚人たちのメンタルを 最も苦しめたと思いますか? 00:17:30.687 --> 00:17:34.263 答えを言いますと [「期日」が無かったこと]です。 00:17:34.263 --> 00:17:38.423 私らは、「いつまで」この収容所にいて 「いつ」解放されるんですか? 00:17:38.626 --> 00:17:42.836 一体、いつになったら... 今まで通りの生活に戻れるんですか? 00:17:42.836 --> 00:17:47.107 こうやって、終わりの日が見えないこと。 出口が見えないことが 00:17:47.107 --> 00:17:51.524 何よりも辛かったと、彼らは口を揃えて そう言っているのです。 00:17:51.524 --> 00:17:56.166 更に、収容所という 極端に活動が制限された環境の中で 00:17:56.166 --> 00:18:01.355 無限の時間を感じるのは、並大抵ではない 精神的ストレスであったと言います。 00:18:01.355 --> 00:18:04.407 そんな中... 「もうすぐ戦争が終わるらしいよ」 00:18:04.407 --> 00:18:07.070 「後...6週間で、出られるらしいよ」と 00:18:07.220 --> 00:18:12.615 終息の見込みに関する色んな噂が収容所内に流れては また、引き延ばされる。 00:18:12.615 --> 00:18:14.295 これの繰り返しです。 00:18:14.295 --> 00:18:18.132 こういった、「期待」と「幻滅」の 無限ループに置かれると 00:18:18.132 --> 00:18:22.160 「人はいずれ、心が壊れてしまう」 フランクルは、そう言っているのです。 00:18:22.481 --> 00:18:25.353 そして、彼はまた次のように 語り始めます。 00:18:25.452 --> 00:18:27.975 1944年のクリスマス。 00:18:28.210 --> 00:18:31.010 そして、1945年の新年。 00:18:31.280 --> 00:18:34.806 この間に、未だかつてない 大量の死亡者が出た。 00:18:35.367 --> 00:18:39.599 強制収容所にいた医者によると それは、過酷な労働条件や 00:18:40.042 --> 00:18:45.730 悪化した「栄養状態」、或いは「伝染病」などで 説明がつくものではなかったそうだ。 00:18:45.730 --> 00:18:50.617 むしろ、その原因とは 囚人たちが、Xmasや新年には 00:18:50.617 --> 00:18:54.348 きっと、状況も良くなって 「家に帰れるだろう」と 00:18:54.348 --> 00:18:57.086 素朴な希望に 身を寄せたからなのだ。 00:18:57.580 --> 00:18:59.511 もう直ぐ、クリスマスだというのに 00:18:59.511 --> 00:19:04.065 収容所から流れて来るニュースと言えば 何時も暗い話ばかりで 00:19:04.065 --> 00:19:06.423 明るい記事など一切なかった。 00:19:06.423 --> 00:19:09.821 そうやって、囚人たちは どんどん失望し、落胆し 00:19:09.821 --> 00:19:12.460 そして、「抵抗力」を落として行ったのだ。 00:19:12.460 --> 00:19:17.947 凄まじい、収容所生活において 自分の内側にある「抵抗力」を落とすことは 00:19:17.947 --> 00:19:20.652 そのまま、「命」を落とすことに繋がる。 00:19:20.652 --> 00:19:23.162 だから、自分たちの 「抵抗力」が落ちないよう 00:19:23.162 --> 00:19:27.295 どうにか、気持ちだけは維持しなければならない。 その為には... 00:19:27.295 --> 00:19:31.473 「自分は、何としてでも 生き延びなければならない」 という 00:19:31.473 --> 00:19:34.882 [人生の目的意識]が必要だったのだ。 00:19:35.256 --> 00:19:36.644 はい!ここで止めましょう。 00:19:36.672 --> 00:19:40.427 どんな人であれ 苦しい時、辛い時はありますが 00:19:40.427 --> 00:19:43.976 それを乗り越えるためには その「苦しさ」や 00:19:43.976 --> 00:19:48.328 「辛さ」に見合うだけの意義が必要だ、と フランクルは言っているのです。 00:19:48.629 --> 00:19:52.699 耐え抜く意味、頑張り通す意義。 それが無ければ 00:19:52.699 --> 00:19:57.008 「苦しさ」や「辛さ」に耐えられず 心が折れてしまうわけです。 00:19:57.008 --> 00:20:00.031 好きな仕事だから 辛い時でも、頑張れた。 00:20:00.031 --> 00:20:03.702 応援してくれる仲間がいたから 苦しかったけど、頑張れた。 00:20:03.702 --> 00:20:07.195 皆さんにも、そんなご経験が あるのではないでしょうか? 00:20:07.195 --> 00:20:10.052 ただ、心が崩壊してしまった囚人たちは 00:20:10.052 --> 00:20:11.497 どれだけ励ましても... 00:20:11.497 --> 00:20:12.893 どれだけ慰めても... 00:20:12.893 --> 00:20:16.510 何も言葉を受け取らなくなってしまった と言います。 00:20:16.510 --> 00:20:22.134 そして、こんな未来に期待のできない人生を 「なぜ、生きなきゃいけないんだ」 00:20:22.219 --> 00:20:26.534 「生きていたって、意味なんかないじゃないか」と 口にするように、なっていったそうです。 00:20:26.534 --> 00:20:29.740 では、こういった状態に陥ってしまったら 00:20:29.740 --> 00:20:31.983 一体、どうすればよいのでしょうか? 00:20:31.983 --> 00:20:37.121 この問いに対しフランクルは、本書で 見事な回答を提示してくれています。 00:20:37.301 --> 00:20:39.411 では、その続きから見て行きましょう。 00:20:39.421 --> 00:20:42.394 これからの未来に 一体、何が期待できるんだろう? 00:20:42.394 --> 00:20:45.147 自分の生きている意味って、何だろう? 00:20:45.270 --> 00:20:48.588 そうやって、自分の人生に 問いを投げるのは 00:20:48.588 --> 00:20:52.465 実は、正しい態度ではない。 むしろ、私たちが人生から 00:20:52.465 --> 00:20:56.847 「君は、これからどうするんだ?」と 期待され、問われているんだ。 00:20:57.167 --> 00:21:01.375 人生は、私たちに毎日 様々な問いを投げかけて来る。 00:21:01.375 --> 00:21:04.906 そして、その度に私たちは その問いに対して 00:21:05.322 --> 00:21:08.634 口先ではなく、行動によって 答えなければならない。 00:21:08.634 --> 00:21:12.469 「生きる」ということは 自分に課せられた使命に対し 00:21:12.469 --> 00:21:14.939 責任をもって、全うする事なのだ。 00:21:14.939 --> 00:21:18.754 人生から要求されることは 人によって異なるし 00:21:18.754 --> 00:21:20.883 その瞬間によって「変化」もする。 00:21:20.883 --> 00:21:25.732 だから...人生にどんな意味がるだろう、と どれほど考えようが 00:21:25.732 --> 00:21:27.510 答えなど見つかりはしない。 00:21:27.510 --> 00:21:30.533 人生からの問いかけ。 すなわち、『運命』とは... 00:21:30.995 --> 00:21:33.265 決して、漠然としたものではなく 00:21:33.265 --> 00:21:37.674 常に、具体的な状況となって 私たちの目の前に現れる。 00:21:37.674 --> 00:21:40.864 そして、その度に 「さぁ、君はどう行動する?」と 00:21:40.864 --> 00:21:44.024 問いかけられているのだ。 従って、今まさに 00:21:44.024 --> 00:21:48.892 「苦しみ」という課題が与えられているのならば そこに対して人間は 00:21:48.892 --> 00:21:51.215 『運命』を見出さなければならない。 00:21:51.560 --> 00:21:54.410 私たちは、自分以外の誰かの苦しみを 00:21:54.410 --> 00:21:56.369 代わりに背負うことはできない。 00:21:56.369 --> 00:22:00.543 その『運命』を授かった本人が その苦しみを背負い 00:22:00.543 --> 00:22:03.971 担わなければならない。 しかし、その苦しみの中にこそ 00:22:03.971 --> 00:22:08.531 本人だけしか達成できない 「唯一無二」の業績があるのだ。 00:22:08.531 --> 00:22:12.863 こんなことを聞くと 「なんて、現実離れした考え方だ」と 00:22:12.863 --> 00:22:15.226 思うかもしれない。 しかし、この考え方は 00:22:15.226 --> 00:22:20.259 地獄のような強制収容所生活において 我々を絶望させない 00:22:20.259 --> 00:22:22.375 唯一の「思想」だったのだ。 00:22:22.437 --> 00:22:24.043 はい!ここで止めましょう。 00:22:24.043 --> 00:22:28.036 なかなか、ガツン!と響くものが あったのではないでしょうか。 00:22:28.036 --> 00:22:32.091 ...と言いますのも、今紹介したパートは フランクル思想の 00:22:32.091 --> 00:22:35.649 正に、中心的な部分なのです。 もう一度、整理しますと... 00:22:35.649 --> 00:22:40.606 自分の人生に意義を見出せずに「苦しい」 そういう時は、その考えを 00:22:40.606 --> 00:22:44.534 クルリと、反転させて 人間の方が、逆に人生から 00:22:44.534 --> 00:22:49.765 問われている存在である、と 思考を切り替えてくださいね、と言っている訳です。 00:22:49.765 --> 00:22:52.874 また、苦しみにも 『運命』を見出せという 00:22:52.874 --> 00:22:56.746 力強い言葉もありましたが 彼が人生というものに対して 00:22:56.746 --> 00:23:00.957 「絶対に肯定する」という 揺るぎないスタンスを取っているのが 00:23:00.957 --> 00:23:03.147 伺えます。 そして、フランクルは 00:23:03.147 --> 00:23:07.714 人生における重要な考え方を もう1つ、本書で示してくれています。 00:23:07.714 --> 00:23:09.541 それは、この先の未来に... 00:23:09.541 --> 00:23:13.845 [自分のことを待ってくれている存在を意識する] ということです。 00:23:13.998 --> 00:23:16.125 この「待ってくれる存在」というのは 00:23:16.125 --> 00:23:18.470 人でも、物でも何でもいいのです。 00:23:18.470 --> 00:23:21.583 ある人は、いずれ巡り合う 「運命のパートナー」や 00:23:21.583 --> 00:23:24.216 自分の「子供」や「孫」かもしれませんし 00:23:24.216 --> 00:23:27.969 また、ある人は一生涯 誇りをもって打ち込める「仕事」 00:23:27.969 --> 00:23:32.041 或いは、「趣味」かもしれません。 つまり、「未来に待っている存在」というのは 00:23:32.041 --> 00:23:35.324 人それぞれ、違うのです。 そして、未来の世界は 00:23:35.324 --> 00:23:38.476 自分がやって来るのを 期待しながら待ってくれている。 00:23:38.476 --> 00:23:41.686 そうやって自分を待つ 何かの「存在」に意識を向け 00:23:41.686 --> 00:23:46.437 未来に責任を感じていれば 人は、絶対に自分の「命」を 00:23:46.437 --> 00:23:49.082 自ら諦めたりはしない。 だから、今... 00:23:49.082 --> 00:23:50.962 この瞬間を乗り越えてください。 00:23:50.962 --> 00:23:55.531 「我々は、人生に試されているんです」と フランクルは解いたのです。 00:23:55.976 --> 00:23:59.509 ここで[夜と霧]については、お終いです。 では、最後に... 00:23:59.509 --> 00:24:02.765 フランクル思想を理解する上で 非常に重要な 00:24:02.765 --> 00:24:06.659 [ブーヘンヴァルトの歌]について 紹介して、終わりたいと思います。 00:24:06.659 --> 00:24:11.106 「ブーヘンヴァルト」というのは ドイツの強制収容所の名前です。 00:24:11.106 --> 00:24:14.315 場所は、フランクルがいた 「ダッハウ強制収容所」から 00:24:14.315 --> 00:24:17.065 400キロメートルほど離れた所にあります。 00:24:17.200 --> 00:24:20.130 そして、そこにいた囚人たちが 歌った「行進曲」 00:24:20.130 --> 00:24:22.000 それが[ブーヘンヴァルトの歌]です。 00:24:22.000 --> 00:24:25.558 その、歌詞の一部を読み上げますので ちょっと、聞いてみてください。 00:24:26.151 --> 00:24:27.294 [ブーヘンヴァルトよ] 00:24:27.294 --> 00:24:30.262 [私は、お前を忘れることが出来ない] 00:24:30.350 --> 00:24:32.387 [お前は、私の運命だったのだ] 00:24:32.735 --> 00:24:35.007 [お前から去った者だけが分かる] 00:24:35.007 --> 00:24:37.271 [自由がどれほど素晴らしいか] 00:24:37.271 --> 00:24:38.429 [ブーヘンヴァルトよ] 00:24:38.429 --> 00:24:41.097 [私は嘆いたり、悲しんだりはしない] 00:24:41.400 --> 00:24:44.780 [私達の運命がいかなるものであろうとも] 00:24:44.860 --> 00:24:46.512 [私達はそれでも] 00:24:46.512 --> 00:24:48.346 [人生にイエスと言おう] 00:24:48.420 --> 00:24:49.610 [なぜならその日は] 00:24:49.610 --> 00:24:50.726 [いつか来るから] 00:24:50.726 --> 00:24:52.704 [私達が自由になる日が] 00:24:52.704 --> 00:24:55.663 [私達はそれでも人生にイエスと言おう] 00:24:55.663 --> 00:24:56.961 [なぜならその日は] 00:24:56.961 --> 00:24:57.975 [いつか来るから] 00:24:58.048 --> 00:25:00.339 はい、こんな感じの歌でございます。 00:25:00.339 --> 00:25:05.376 先程、フランクルは「苦しみ」という課題を 『運命』として捉えましょう。 00:25:05.376 --> 00:25:07.952 そこに、自分だけの「業績」を見出しましょう。 00:25:07.952 --> 00:25:09.820 「なぜなら、この考え方こそが 00:25:09.820 --> 00:25:13.244 強制収容所のような環境でも 人間を唯一 00:25:13.244 --> 00:25:15.898 絶望させない「思想」だったんですよ」 と言っていました。 00:25:15.898 --> 00:25:18.175 そんな中、ブーヘンヴァルトの囚人たちは 00:25:18.175 --> 00:25:20.338 どうしようもない状況下であっても 00:25:20.338 --> 00:25:24.164 ”私達はそれでも人生にイエスと言おう” と歌い 00:25:24.164 --> 00:25:27.154 自分たちの運命を受け入れ、肯定し 00:25:27.154 --> 00:25:30.469 「自由になれる日が、我々を待っているのだ」と 00:25:30.469 --> 00:25:32.019 叫び続けたのです。 00:25:32.328 --> 00:25:34.640 つまり、どんなに苦しい人生であっても 00:25:34.640 --> 00:25:36.584 どんなに辛い人生あっても 00:25:36.584 --> 00:25:40.601 全て、「人生からの問いかけである」と 説くフランクルの思想を 00:25:40.601 --> 00:25:44.162 [ブーヘンヴァルトの歌]は 見事に表現していると言えます。 00:25:44.206 --> 00:25:47.224 そして、フランクルは1945年4月。 00:25:47.520 --> 00:25:51.514 遂に、収容所から解放され 9月に終戦を迎えます。 00:25:51.514 --> 00:25:55.329 その後、彼はわずか9日間で [夜と霧]を書き終え 00:25:55.329 --> 00:25:57.471 世界に衝撃を与えました。 00:25:57.471 --> 00:26:02.292 更に、自身の収容所体験について 世界中で講演活動を行い 00:26:02.292 --> 00:26:07.601 人生の意味を見出せずに嘆いている人に 勇気を与え続けた、といいます。 00:26:07.607 --> 00:26:12.628 その講演録は、後に書籍となり [夜と霧]に次ぐ、彼の代表作として 00:26:12.628 --> 00:26:15.079 世界中で読み継がれることとなるのです。 00:26:15.280 --> 00:26:19.120 フランクルは、その本のタイトルを [ブーヘンヴァルトの歌]から取り 00:26:19.120 --> 00:26:22.189 [それでも人生にイエスと言う]と 名付けました。 00:26:22.189 --> 00:26:26.278 もし、この動画で[夜と霧]に ご興味を持っていただいた方は 00:26:26.538 --> 00:26:30.483 是非、こちらの作品も併せて ご一読いただければと思います。 00:26:30.483 --> 00:26:33.102 心が苦しくて、耐えられない時。 00:26:33.102 --> 00:26:37.022 きっと、フランクルの言葉が あなたのことを守ってくれるはずです。 00:26:37.225 --> 00:26:40.578 はい!というわけで [夜と霧]以上でございます。 00:26:40.578 --> 00:26:42.220 いかがでしたでしょうか? 00:26:42.361 --> 00:26:47.604 重たいテーマでしたけれども、意外に後味は 悪くなかったのではないでしょうか。 00:26:47.901 --> 00:26:54.417 また、以前紹介したニーチェの思想と 今回の話との関連性に気づいた方。 00:26:54.417 --> 00:26:56.286 恐らく、いらっしゃると思います。 00:26:56.286 --> 00:27:02.034 フランクル思想の中心にある [それでも人生にイエスと言う]という、この言葉は 00:27:02.034 --> 00:27:05.974 ニーチェ哲学のテーマである [生の肯定]そのものなんです。 00:27:05.974 --> 00:27:10.349 ニーチェは、人生の意義を 見出せなくなってしまう状態のことを 00:27:10.349 --> 00:27:12.304 「ニヒリズム」と呼びました。 00:27:12.304 --> 00:27:18.720 そして、それを克服するために「超人思想」や 「永遠回帰」といった概念を持ち出したわけですが 00:27:18.720 --> 00:27:23.160 正にフランクルは、極限状態で それを体現した人と言えます。 00:27:23.320 --> 00:27:27.854 [夜と霧]の中には、何度かニーチェの言葉を 引用するシーンがありますので 00:27:27.854 --> 00:27:30.930 恐らく、思想的影響を 受けているものと思われます。 00:27:30.930 --> 00:27:33.967 そういったところにも ご注目いただきながら読んでいただくと 00:27:33.967 --> 00:27:37.304 より作品を楽しんで いただけるのではないかなと思います。 00:27:37.304 --> 00:27:41.938 面白かった、参考になったという方は 高評価・コメントなどいただけますと嬉しいです。 00:27:41.938 --> 00:27:44.539 また、チャンネル登録も よろしくお願い致します。 00:27:44.539 --> 00:27:46.542 ではまた、次の動画でお会いしましょう。 00:27:46.542 --> 00:27:47.766 ありがとうございました。