1 00:00:00,000 --> 00:00:01,795 はい!どうもアバタローです。 2 00:00:01,853 --> 00:00:06,836 本日は、ビクトール・フランクルの[夜と霧] こちらをご紹介いたします。 3 00:00:06,836 --> 00:00:10,881 どんな作品かと言いますと 自分の未来に対して希望が持てず 4 00:00:10,881 --> 00:00:16,551 生きる意味を見失ってしまった人を 救い出してくれる世界的名著になります。 5 00:00:16,551 --> 00:00:21,569 フランクルは、著名な精神科のドクターであり また、心理学の専門家です。 6 00:00:21,569 --> 00:00:25,471 皆さま、よくご存じの[アドラー] そして、[フロイト][ユング] 7 00:00:25,471 --> 00:00:28,806 彼らは[世界三大心理学者]と呼ばれていますが 8 00:00:28,806 --> 00:00:33,485 フランクルは、それに次ぐ [第四の巨頭]とも言われる人物になります。 9 00:00:33,485 --> 00:00:37,325 そんな彼が、第二次世界大戦中 ナチスによって捕らえられ 10 00:00:37,325 --> 00:00:41,951 強制収容所に入れられた時の 体験について書かれたもの。 11 00:00:41,951 --> 00:00:44,400 それが[夜と霧]という作品です。 12 00:00:44,400 --> 00:00:46,934 因みに、このタイトルの [夜と霧]というのは 13 00:00:47,132 --> 00:00:49,953 ヒトラーによって発せられた 作戦名のことです。 14 00:00:50,229 --> 00:00:55,566 自分たちに敵対する者を捕まえる時。 まるで、夜の霧の中に消えるように 15 00:00:55,580 --> 00:01:00,090 ひっそりと跡形もなく連行されることから そのように呼ばれていました。 16 00:01:00,090 --> 00:01:03,106 ただ、「ナチス」とか 「強制収容所」と聞きますと 17 00:01:03,106 --> 00:01:07,504 あれ?今日の話って凄く怖い話なんじゃないの? 暗い話なんじゃないの?と 18 00:01:07,504 --> 00:01:11,094 ご心配された方もいるかもしれません。 ...ですが、ご安心ください。 19 00:01:11,435 --> 00:01:16,107 この作品は、収容所の恐ろしさや 戦争の悲惨さを訴えることを 20 00:01:16,107 --> 00:01:18,685 目的として書かれたものでは ございません。 21 00:01:18,685 --> 00:01:24,046 絶望の極致に置かれた人間たちの メンタルに焦点が宛てられた作品なんです。 22 00:01:24,046 --> 00:01:28,844 収容所という受け入れがたい 理不尽な環境の中で、人々の心は 23 00:01:28,844 --> 00:01:32,256 どのような変化をしていき どのようなことに苦しんでいたのか。 24 00:01:32,256 --> 00:01:37,861 また、何を心の支えとし、どんな考えをもって 未来に希望を見出そうとしたのか。 25 00:01:37,861 --> 00:01:43,298 [夜と霧]には、こういった、今正に 知っておきたい生き方のヒントが多く含まれており 26 00:01:43,298 --> 00:01:49,019 重たいテーマではありますが、読む人の心を 軽くしてくれる不思議な力があるのです。 27 00:01:49,019 --> 00:01:53,355 この動画をご視聴いただくにあたって 予備知識は一切いりませんので 28 00:01:53,355 --> 00:01:56,869 是非、安心して最後まで お付き合いいただければと思います。 29 00:01:56,869 --> 00:02:00,399 それでは、参りましょう。 ビクトール・フランクル[夜と霧] 30 00:02:00,782 --> 00:02:03,923 まず、この動画の全体像からお示し致します。 31 00:02:03,923 --> 00:02:07,531 初めにこの作品を読む前に 知っておくべき前提知識として 32 00:02:07,531 --> 00:02:11,291 著者のフランクルとは、一体どんな人物で どういった経緯で 33 00:02:11,291 --> 00:02:15,778 強制収容所に入ることになってしまったのか についてお話をします。 34 00:02:15,778 --> 00:02:19,192 それを踏まえた上で [夜と霧]の中身に入っていき 35 00:02:19,192 --> 00:02:21,882 最後は、フランクル思想を知る上で欠かせない 36 00:02:21,882 --> 00:02:24,946 [ブーヘンヴァルトの歌]について触れて 終わりたいと思います。 37 00:02:25,259 --> 00:02:28,035 では早速、フランクルについて 見て行きましょう。 38 00:02:28,252 --> 00:02:31,186 ビクトール・フランクル 彼は1905年。 39 00:02:31,186 --> 00:02:34,165 オーストリアの首都 ウィーンに生まれたユダヤ人です。 40 00:02:34,165 --> 00:02:37,801 幼少期から非常に 好奇心旺盛であったフランクルは 41 00:02:37,801 --> 00:02:41,467 人間の「生きる意味」という 壮大なテーマに興味を持ち 42 00:02:41,467 --> 00:02:46,888 更に、アドラーやフロイトなどの 影響を受けることで精神科医になったといいます。 43 00:02:46,888 --> 00:02:50,127 また、医師として 彼の最大の功績の1つは 44 00:02:50,127 --> 00:02:53,960 [ロゴセラピー]と呼ばれる 心理療法を開発したことです。 45 00:02:53,960 --> 00:02:57,744 [ロゴセラピー]とは 自分の生きる意味を実感できず 46 00:02:57,744 --> 00:03:01,805 毎日、「虚しい」「苦しい」といった 感情を持った人に対して 47 00:03:01,805 --> 00:03:07,539 生きる意味を見つけ出すサポートをする そういった『心理療法』のことを指します。 48 00:03:07,539 --> 00:03:10,907 そして、彼は自ら開発した [ロゴセラピー]を実践し 49 00:03:10,907 --> 00:03:15,289 人生に絶望した人の心の救済に 全生涯を捧げ 50 00:03:15,289 --> 00:03:20,101 1997年の92歳のときに 天寿を全うしました。 51 00:03:20,101 --> 00:03:24,735 あのマザー・テレサから『ノーベル平和賞』の 推薦を受けたこともあるほど 52 00:03:24,735 --> 00:03:29,633 世の為、人の為に尽くし続けた偉人。 それが、ビクトール・フランクルです。 53 00:03:29,633 --> 00:03:34,542 ただ、そんな彼が 強制収容所に入れられてしまうというのは 54 00:03:34,542 --> 00:03:37,708 なかなか信じがたい事実です。 ...なので、今から 55 00:03:37,708 --> 00:03:41,700 彼が強制収容所に入るまでの経緯について お話をいたします。 56 00:03:41,700 --> 00:03:48,279 時は、今から遡ること約90年前。 1933年のドイツでのことです。 57 00:03:48,279 --> 00:03:51,780 ここで、ある大きな 政治的変化が起こりました。 58 00:03:51,780 --> 00:03:56,880 なんと、長らく政権野党であった 「国家社会主義ドイツ労働者党」 59 00:03:56,880 --> 00:04:00,325 通称『ナチス』が その年の1月30日。 60 00:04:00,325 --> 00:04:03,975 遂に、与党となったのです。 もちろん、政権のトップは 61 00:04:03,975 --> 00:04:06,529 皆様ご存じの 『アドルフ・ヒトラー』です。 62 00:04:06,529 --> 00:04:12,051 そして彼は、ユダヤ人を排除するための政策を 次々と打っていきました。 63 00:04:12,051 --> 00:04:14,899 何故、ヒトラーは そんなことをしたのでしょうか? 64 00:04:14,899 --> 00:04:18,531 まっ凄く簡単に言いますと 共通の敵を作ることで 65 00:04:18,531 --> 00:04:22,128 当時、バラバラだった ドイツ国民の心を一つにし 66 00:04:22,128 --> 00:04:24,407 国をまとめ上げようとしたのです。 67 00:04:24,407 --> 00:04:28,748 具体的には、自分たちは ”アーリア人” と呼ばれる優性民族であり 68 00:04:28,748 --> 00:04:32,899 劣等民族であるユダヤ人を迫害し 国外に追い出し 69 00:04:32,899 --> 00:04:36,901 「我々でヨーロッパを統一しませんか?」と 言い出したわけです。 70 00:04:36,901 --> 00:04:42,768 ナチスが政権与党となって初期の頃は ユダヤ人が経営するお店を妨害するとか 71 00:04:42,768 --> 00:04:46,747 レストランに入れないとか そういうレベルの嫌がらせが多かったのですが 72 00:04:46,747 --> 00:04:50,788 徐々に、これがエスカレートしていきます。 1935年には 73 00:04:50,788 --> 00:04:56,464 『ニュルンベルク法』と呼ばれる ユダヤ人の公民権を奪う人種差別法が制定されます。 74 00:04:56,464 --> 00:05:02,606 これによって、ユダヤ人とドイツ人の結婚が禁じられ 更に、ユダヤ人は公共的な場所。 75 00:05:02,606 --> 00:05:07,333 例えば、定演・劇場・プールなどへの出入りが 禁止されてしまいます。 76 00:05:07,333 --> 00:05:10,157 そして、1938年11月。 77 00:05:10,157 --> 00:05:13,363 フランスの首都 パリにあるドイツ大使館で書記官が 78 00:05:13,363 --> 00:05:17,082 ユダヤ人青年によって ”射殺される” という事件が起こりました。 79 00:05:17,082 --> 00:05:21,177 因みにその青年は 自分の家族をナチスによって迫害され 80 00:05:21,177 --> 00:05:23,836 その恨みから 書記官を襲ったと言います。 81 00:05:23,836 --> 00:05:28,190 こうなりますと当然、ドイツに居る国民たちは 「けしからん!」と、大激怒です。 82 00:05:28,190 --> 00:05:34,947 そして、国内にあったユダヤ教会や商店街が 次々と襲撃されるという大暴動が起こり 83 00:05:34,947 --> 00:05:39,302 90人以上のユダヤ人の方が 亡くなってしまったと言います。 84 00:05:39,302 --> 00:05:44,115 破壊された家や商店街の窓ガラスが ドイツ中の道路を埋め尽くし 85 00:05:44,115 --> 00:05:48,942 それが、月明かりによって照らされ まるで「水晶」のように光っていたことから 86 00:05:48,942 --> 00:05:53,378 その事件は[水晶の夜] ”クリスタル・ナハト” と名付けられました。 87 00:05:53,739 --> 00:05:57,525 これによって、ドイツ国内における ユダヤ人追放の動きは 88 00:05:57,525 --> 00:06:00,010 更に、加速していくこととなったのです。 89 00:06:00,010 --> 00:06:03,305 そして、その流れのまま翌年1939年。 90 00:06:03,305 --> 00:06:08,764 ドイツ軍がポーランドに侵攻したことを契機に 「第二次世界大戦」 が勃発します。 91 00:06:08,838 --> 00:06:15,283 ナチスも自分たちが占領した地域のユダヤ人を 初めは追放したり、隔離したりしていたのですが 92 00:06:15,283 --> 00:06:19,305 戦線が膠着するにつれて方針を一変させます。 93 00:06:19,305 --> 00:06:24,772 なんと!「殺処分する」という... えげつない方向に舵を切り始めたのです。 94 00:06:24,772 --> 00:06:29,853 これが、ナチスによる『大量虐殺』 所謂、[ホロコースト]の始まりです。 95 00:06:29,853 --> 00:06:36,186 因みに[ホロコースト]とは、元々ギリシャ語で ”焼かれた生贄” という意味になります。 96 00:06:36,186 --> 00:06:41,955 水面下で行われてきたユダヤ人狩りが 遂に、ここから本格化していくことになる訳です。 97 00:06:41,955 --> 00:06:47,610 そして1941年、当時36歳であった ビクトール・フランクルの元にも 98 00:06:47,610 --> 00:06:51,632 ナチス当局から軍司令部への 出頭命令が下ります。 99 00:06:51,683 --> 00:06:55,882 そして1942年。 遂に、連れて行かれてしまう訳です。 100 00:06:55,882 --> 00:07:01,222 因みに当時のフランクルは 数年前に自分の病院を立ち上げたばかりで 101 00:07:01,222 --> 00:07:05,838 更に、結婚もしたばかりという状況でございます。 そんなタイミングで彼は... 102 00:07:05,838 --> 00:07:10,135 これ以上ない絶望の世界に 呑み込まれて行くことになるのです。 103 00:07:10,383 --> 00:07:16,282 続きまして...彼が捕まってから解放に至るまでの 大まかな流れをスライドにお示しします。 104 00:07:16,282 --> 00:07:19,013 ちょっと、カタカナが多いですが これらの名前は 105 00:07:19,013 --> 00:07:22,661 全く覚えておかないで大丈夫ですので そこは、ご安心ください。 106 00:07:22,661 --> 00:07:24,662 1つ目が [1.テレージエンシュタット] 107 00:07:24,662 --> 00:07:26,403 ここは、今もチェコにあります。 108 00:07:26,403 --> 00:07:31,116 1942年の9月から 自分の両親と奥さんと一緒に 109 00:07:31,116 --> 00:07:34,316 フランクルは2年程 ここに収容されることになります。 110 00:07:34,316 --> 00:07:38,998 実は、フランクルのお父さんは当時 80歳を超すほどのご高齢であったんですが 111 00:07:38,998 --> 00:07:44,758 非常に栄養状態の悪い生活を強いられたことによって ここで、餓死をさせられてしまうのです。 112 00:07:44,758 --> 00:07:47,741 そして、2つ目がポーランドにある [2.アウシュヴィッツ]です。 113 00:07:47,741 --> 00:07:51,616 絶滅収容所として 非常に”悪名” 高い所ですね。 114 00:07:51,616 --> 00:07:56,291 ここで、フランクルは自分のお母さんと お兄さんを失ってしまいます。 115 00:07:56,291 --> 00:07:58,365 滞在期間は、4日ほどです。 116 00:07:58,365 --> 00:08:01,109 その後、ドイツ南部バイエルン地方にある 117 00:08:01,109 --> 00:08:06,953 [3.ダッハウ]と呼ばれる強制収容所の [カウフェリング第3支所]という所に送られ 118 00:08:06,953 --> 00:08:11,055 最後は、病人収容所である [カウフェリング第6支所]に行き 119 00:08:11,055 --> 00:08:15,992 1945年の4月に ようやく「解放」という流れになります。 120 00:08:15,992 --> 00:08:21,388 ここで、抑えておいていただきたいのは [夜と霧]の舞台がアウシュビッツ以降 121 00:08:21,388 --> 00:08:25,597 特にダッハウ強制収容所の 支所であるという点です。 122 00:08:25,597 --> 00:08:28,631 もっとハッキリ言いますと... この作品のメインステージは 123 00:08:28,631 --> 00:08:30,832 アウシュヴィッツではありません。 支所です! 124 00:08:30,832 --> 00:08:34,375 ここは、よく誤解されますので ご注意いただければと思います。 125 00:08:34,848 --> 00:08:37,695 ここまで、よろしいでしょうか? 以上の流れを踏まえた上で 126 00:08:37,810 --> 00:08:41,824 早速、作品の中身に入っていきたいと思います。 では、行きましょう。 127 00:08:42,060 --> 00:08:48,236 私は、一心理学者として 強制収容所で体験したことを述べたいと思う。 128 00:08:48,236 --> 00:08:53,164 ただ...何も私は、身の毛のよだつ 恐ろしい話をしたいのではない。 129 00:08:53,510 --> 00:08:59,264 そこにいた囚人たちが、収容所の中で どのような苦労を抱えて過ごしてきたのか。 130 00:08:59,646 --> 00:09:02,564 そういった「心の問題」を取り扱いたいのだ。 131 00:09:02,564 --> 00:09:08,075 [119104]忘れもしない。 これは、私の囚人番号だ。 132 00:09:08,420 --> 00:09:13,211 強制収容所において、私は「心理学者」でも ましてや「医者」でもなかった。 133 00:09:13,369 --> 00:09:17,542 ただ、番号が振られただけの 一人の囚人でしかなかったのだ。 134 00:09:17,542 --> 00:09:22,371 ではまず、私がアウシュヴィッツに送られた時の 様子から話しをしていこう。 135 00:09:22,371 --> 00:09:25,706 1つの貨物車両に 80人程の人間たちと 136 00:09:25,706 --> 00:09:29,152 その荷物が息苦しいほどに 隙間なく入れられ 137 00:09:29,152 --> 00:09:32,273 私たちは、ある場所へと輸送させられた。 138 00:09:32,453 --> 00:09:37,830 辛うじて窓の一番上から薄暗い空を 眺めることができたのを覚えている。 139 00:09:37,964 --> 00:09:40,669 一体、我々は何処に連れていかれるのか? 140 00:09:40,691 --> 00:09:43,812 軍需工場で強制労働でもさせられるのか? 141 00:09:43,812 --> 00:09:47,578 そうやって、狭い空間の中で 言葉を交わし合った。 142 00:09:47,641 --> 00:09:51,547 しばらくすると...列車は 開けた平地に止まろうとしていた。 143 00:09:51,573 --> 00:09:54,224 何処だ! ここは一体、何処なんだ。 144 00:09:54,224 --> 00:10:00,498 そんな、言い知れぬ空気が列車内を覆う中 群衆の中から、突然一つの叫び声があがった。 145 00:10:00,498 --> 00:10:03,590 「ここに、立札があるぞ!」 [AUSCHWITZ] 146 00:10:03,590 --> 00:10:07,810 「アウシュヴィッツだ!」 この瞬間、どれほど心臓が止まると思ったか。 147 00:10:07,901 --> 00:10:11,822 「アウシュヴィッツ」は1つの概念だった。 何かよく分からないけれども 148 00:10:11,822 --> 00:10:13,940 しかし、それだけに「恐怖」しかなかった。 149 00:10:13,940 --> 00:10:17,656 停車場に着くと エレガントな紳士のような将校が現れた。 150 00:10:17,656 --> 00:10:22,073 そして、我々を指さしながら 何やら指示を出し始めたのだ。 151 00:10:22,073 --> 00:10:24,579 私はこの時、知る由もなかった。 152 00:10:24,579 --> 00:10:29,363 あの男の指の動き一つ一つが 「命」の選別であったということを... 153 00:10:29,363 --> 00:10:32,554 この時、輸送された 約90パーセントの人が 154 00:10:32,554 --> 00:10:36,894 数時間も経たないうちに 「ガス室」に送られ命を奪われた。 155 00:10:36,894 --> 00:10:42,331 一方、私を含む残りの人間たちは 風呂場に連れていかれ全身の毛を剃られた。 156 00:10:42,563 --> 00:10:45,510 そして文字通り 「裸」の存在となったのだ。 157 00:10:45,510 --> 00:10:47,028 はい!ここで止めましょう。 158 00:10:47,028 --> 00:10:49,042 非常に恐ろしい世界です。 159 00:10:49,320 --> 00:10:52,996 列車から降りますと 最初にあったのは「命の選別」でした。 160 00:10:52,996 --> 00:10:57,329 ここでフランクルは 偶然にも生き残ることが出来たわけですが 161 00:10:57,329 --> 00:11:00,061 それは一体、なぜでしょうか? 結論から言いますと 162 00:11:00,061 --> 00:11:03,404 労働者として「使える!」と 判断されたからです。 163 00:11:03,404 --> 00:11:06,704 逆に、労働者として「使えない!」と 思われた人のことごとくは 164 00:11:06,704 --> 00:11:10,344 最初の段階で "ふるい" に 掛けられてしまったという訳です。 165 00:11:10,608 --> 00:11:15,890 この時、囚人たちは「収容ショック」といって とてつもない恐怖体験をすることになります。 166 00:11:15,890 --> 00:11:18,653 囚人によっては、収容所を取り囲んでいる 167 00:11:18,653 --> 00:11:21,685 高電圧が流れている鉄条網に走って 168 00:11:21,685 --> 00:11:24,178 自害を試みることもあったようです。 169 00:11:24,178 --> 00:11:27,237 ...ですが、しばらくしますと 死の恐怖がなくなっていき 170 00:11:27,237 --> 00:11:31,348 自分で命を絶つことすら 考えなくなっていく、と言います。 171 00:11:31,408 --> 00:11:35,980 フランクルは「自分の命だけは諦めない」と 気持ちを強く保っているのですが 172 00:11:35,980 --> 00:11:41,179 いつ、心が崩壊してもおかしくない状態で 収容所生活を送っていました。 173 00:11:41,179 --> 00:11:43,088 そんな中、先輩囚人が 174 00:11:43,088 --> 00:11:46,666 こっそりと、フランクル達が 寝泊まりしている所にやってきます。 175 00:11:46,728 --> 00:11:49,608 そして、生きる為のアドバイスを 授けてくれるのです。 176 00:11:49,608 --> 00:11:52,579 では、そのシーンから 続きを見て行きましょう。 177 00:11:52,579 --> 00:11:56,264 「いいか...僕は、君たちに 1つのことを忠告する。 178 00:11:56,264 --> 00:11:59,951 それは「ヒゲを剃れ!」ということだ。 出来れば毎日。 179 00:11:59,951 --> 00:12:01,573 剃るものは、何だっていい。 180 00:12:01,573 --> 00:12:04,665 僕は、その辺に落ちている ガラス片でやっている。 181 00:12:04,665 --> 00:12:07,983 後、病気になるな。 病気であっても、それを悟られるな。 182 00:12:07,983 --> 00:12:09,886 命を奪われたくなければ 183 00:12:09,886 --> 00:12:14,095 とにかく、労働が「可能である」という 印象を相手に与えろ。 184 00:12:14,095 --> 00:12:17,649 「コイツは、動けない」と判断されたら もう、俺たちはお終いなんだ。 185 00:12:17,869 --> 00:12:20,008 いいか!もう一度言うぞ。 ヒゲを剃れ! 186 00:12:20,008 --> 00:12:21,738 そして、いつも 真っすぐ立って歩け。 187 00:12:21,949 --> 00:12:23,154 はい!ここで止めましょう。 188 00:12:23,330 --> 00:12:27,013 どれだけ理不尽で 残酷な環境の中でフランクル達が 189 00:12:27,013 --> 00:12:29,973 生きていたかが、よく分かります。 収容された当初は 190 00:12:29,973 --> 00:12:34,947 「苦しい」とか、「怖い」とか。 様々な感情の浮き沈みを体験するそうです。 191 00:12:34,947 --> 00:12:39,618 しかし、それが長引いてきますと 今度は、逆に何も感じなくなるという 192 00:12:39,618 --> 00:12:41,541 新たな状態に移っていきます。 193 00:12:41,541 --> 00:12:44,041 つまり、自分が生きている世界に対して 194 00:12:44,041 --> 00:12:48,268 無感動、無関心、 無感覚になっていくというのです。 195 00:12:48,268 --> 00:12:51,904 こうなりますと、自分の家族や 仲間が殴られていても 196 00:12:51,904 --> 00:12:54,541 一切、目を反らさなくなるといいます。 197 00:12:54,541 --> 00:12:56,469 黙って、ただ眺める。 198 00:12:56,751 --> 00:12:59,246 そこには、「嫌悪感」も「恐怖」も 「同情」もない。 199 00:12:59,293 --> 00:13:01,853 何にも感じることができないのです。 200 00:13:01,853 --> 00:13:05,638 更に、収容所の世界において 「苦しんでいる人」「病んでいる人」 201 00:13:05,638 --> 00:13:08,435 「死につつある人」 そして、「死んでいる人」というのは 202 00:13:08,435 --> 00:13:12,690 全く、珍しくなく むしろ、当たり前すぎる光景であるため 203 00:13:12,690 --> 00:13:15,973 人としての心が、徐々に 動かなくなってくるのです。 204 00:13:15,973 --> 00:13:19,328 フランクルは、この 「感情」が動かなくなる状態のことを 205 00:13:19,328 --> 00:13:23,945 「心を包む、最も必要な『鎧』であった」 と、表現しています。 206 00:13:23,945 --> 00:13:25,464 つまり、自分の肉体が 207 00:13:25,464 --> 00:13:31,421 「生命を維持する」という、ただその目的だけに 集中するという「モード」に入るんです。 208 00:13:31,421 --> 00:13:35,882 その結果、生命維持に直接関係のない 「心の機能」が 209 00:13:35,882 --> 00:13:39,604 シャットダウンしてしまう、という訳です。 一旦、その「モード」に入りますと 210 00:13:39,604 --> 00:13:42,254 人は、「食べる」とか 「寝る」とか、そういった 211 00:13:42,254 --> 00:13:45,687 原始的な「欲求」だけに 支配されることになった、と言います。 212 00:13:45,687 --> 00:13:49,365 ただ、当時の囚人たちは 一日に水のようなスープと 213 00:13:49,365 --> 00:13:52,755 パンのかけらくらいしか食事を 与えられていなかった為 214 00:13:52,755 --> 00:13:56,745 原始的な「欲求」のほとんどは 「食欲」が占めていたと言います。 215 00:13:56,796 --> 00:13:59,476 当然、地獄のような 飢餓状態におかれますから 216 00:13:59,476 --> 00:14:02,607 一人残らず屍のように 痩せこけていきます。 217 00:14:02,607 --> 00:14:06,097 更に、その状態で蹴られたり 殴られたりしながら 218 00:14:06,097 --> 00:14:08,889 朝から晩まで 強制労働をさせられ 219 00:14:08,889 --> 00:14:11,769 「使えない」と判断されれば 処理されてしまう。 220 00:14:11,769 --> 00:14:14,912 それが、収容された者たちの世界だったんです。 221 00:14:14,912 --> 00:14:19,205 そんな極限状態の中 フランクルは、不思議な体験をします。 222 00:14:19,205 --> 00:14:23,416 なんと、自分の目の前に 「奥さん」の面影が現れ 223 00:14:23,416 --> 00:14:26,574 そして、言葉を 交わし合ったというのです。 224 00:14:26,574 --> 00:14:32,100 この場面は、[夜と霧]という作品の中でも 特に、胸が締め付けられるところになります。 225 00:14:32,368 --> 00:14:34,700 では、そこから続きを見て行きましょう。 226 00:14:34,700 --> 00:14:36,603 私は妻と語った。 227 00:14:36,603 --> 00:14:41,086 そして、彼女が答えるのを聞き 彼女が笑うのを見た。 228 00:14:41,086 --> 00:14:44,849 例え、その場に居なくても 彼女の眼差しは 229 00:14:44,849 --> 00:14:49,285 今、正に昇ろうとしている「太陽」よりも 私を照らしてくれた。 230 00:14:49,285 --> 00:14:51,338 その時、私は気付いたのだ。 231 00:14:51,338 --> 00:14:54,894 『愛』こそが、人間にとって 最高のものだということを。 232 00:14:54,894 --> 00:14:57,611 例え、この世に何一つ残っていなくても 233 00:14:57,611 --> 00:15:01,998 人間は、愛する人の面影を 心に宿すだけで、救われるのだ。 234 00:15:01,998 --> 00:15:06,250 この時、私は...自分の妻が 生きているかどうかも、知らなかったし 235 00:15:06,250 --> 00:15:08,096 知る必要もなかった。 236 00:15:08,096 --> 00:15:12,611 私は、深い愛情をもって 彼女の面影を見つめ続けた。 237 00:15:12,611 --> 00:15:14,677 彼女は、まだ生きているのか。 238 00:15:14,677 --> 00:15:16,806 それとも、もうこの世にいないのか。 239 00:15:16,930 --> 00:15:19,305 そんな事実は、もはや問題ではなかった。 240 00:15:19,305 --> 00:15:22,469 例え、愛する妻が 亡くなっていたと分かっていても 241 00:15:22,739 --> 00:15:23,935 それでも私は... 242 00:15:23,935 --> 00:15:26,766 彼女の面影を 見つめ続けていただろう。 243 00:15:26,766 --> 00:15:29,324 何時間も凍った地面を掘り続けても 244 00:15:29,324 --> 00:15:33,207 監視兵に怒鳴られても 私は、彼女と言葉を交わした。 245 00:15:33,351 --> 00:15:36,613 そして、その度に妻の存在を強く感じた。 246 00:15:36,613 --> 00:15:39,256 彼女を抱きしめることが出来るのではないか。 247 00:15:39,258 --> 00:15:41,980 手を伸ばせば触れることが 出来るのではないか。 248 00:15:41,980 --> 00:15:45,486 そんな感情が強く私を襲うたび 思うのだった。 249 00:15:45,486 --> 00:15:47,259 彼女はきっと、そこにいる。 250 00:15:47,259 --> 00:15:48,820 ...そこにいるのだ。 251 00:15:48,820 --> 00:15:50,412 はい!ここで止めましょう。 252 00:15:50,682 --> 00:15:56,422 つまり、フランクルは いつ精神が崩壊してもおかしくない極限状態の中で 253 00:15:56,422 --> 00:15:58,565 「愛」によって、生かされたのです。 254 00:15:58,785 --> 00:16:02,707 そして、どれほど人間にとって「愛」が 大切なものであるか、ということを 255 00:16:03,010 --> 00:16:06,283 頭ではなく 心から痛感したというのです。 256 00:16:06,412 --> 00:16:10,705 ただ、非常に申し上げにくいのですが 実はこの時、フランクルの奥さんは 257 00:16:10,705 --> 00:16:15,398 別の収容所に移送され そこで、処刑されてしまっているのです。 258 00:16:15,398 --> 00:16:20,207 それを知らない状態で、彼は ただ、愛する奥さんの面影を心に宿し 259 00:16:20,207 --> 00:16:22,362 見つめ続けていたという訳です。 260 00:16:22,362 --> 00:16:26,460 因みに、以前紹介した 古代ローマの哲学者[セネカ]は 261 00:16:26,460 --> 00:16:28,895 「過去は唯一、運命に支配されない。 262 00:16:28,895 --> 00:16:32,796 誰からも奪われない、神聖な時間だ!」 と言っていました。 263 00:16:32,796 --> 00:16:36,316 彼の言葉の重さが ここに来てズシン!と、響いてきます。 264 00:16:36,316 --> 00:16:39,004 つまり、フランクルは 身ぐるみを全て剥がされ 265 00:16:39,004 --> 00:16:42,576 財産も、家族も、尊厳も 何もかも奪われたのですが 266 00:16:42,576 --> 00:16:45,189 唯一、「過去」だけは 侵害されなかったのです。 267 00:16:45,189 --> 00:16:50,072 そして彼は、極限状態の中で 自分にとって最も大切な「過去」 268 00:16:50,072 --> 00:16:54,826 つまり、愛する奥さんという存在を 自分の記憶から引っ張ってきました。 269 00:16:54,826 --> 00:16:59,840 そして、会話ができてしまうくらい 彼女の存在を自分の心のスクリーンに 270 00:16:59,840 --> 00:17:04,423 強く投影させ それによって、自らを支えていた訳です。 271 00:17:04,611 --> 00:17:07,263 ただ、気を強く保っているフランクルですが 272 00:17:07,263 --> 00:17:11,364 それでも、心が折れそうになる瞬間は 何度かあったようです。 273 00:17:11,364 --> 00:17:14,769 その中でも、特に 「これは、キツイ!」と思われる要素を 274 00:17:14,769 --> 00:17:17,137 彼は本書で、1つ挙げています。 275 00:17:17,635 --> 00:17:21,032 それは、フランクルだけではなく 他の囚人たちも 276 00:17:21,032 --> 00:17:25,103 「確かに、その通りである」と 意見が一致したと言います。 277 00:17:25,623 --> 00:17:30,687 皆さんは、何が囚人たちのメンタルを 最も苦しめたと思いますか? 278 00:17:30,687 --> 00:17:34,263 答えを言いますと [「期日」が無かったこと]です。 279 00:17:34,263 --> 00:17:38,423 私らは、「いつまで」この収容所にいて 「いつ」解放されるんですか? 280 00:17:38,626 --> 00:17:42,836 一体、いつになったら... 今まで通りの生活に戻れるんですか? 281 00:17:42,836 --> 00:17:47,107 こうやって、終わりの日が見えないこと。 出口が見えないことが 282 00:17:47,107 --> 00:17:51,524 何よりも辛かったと、彼らは口を揃えて そう言っているのです。 283 00:17:51,524 --> 00:17:56,166 更に、収容所という 極端に活動が制限された環境の中で 284 00:17:56,166 --> 00:18:01,355 無限の時間を感じるのは、並大抵ではない 精神的ストレスであったと言います。 285 00:18:01,355 --> 00:18:04,407 そんな中... 「もうすぐ戦争が終わるらしいよ」 286 00:18:04,407 --> 00:18:07,070 「後...6週間で、出られるらしいよ」と 287 00:18:07,220 --> 00:18:12,615 終息の見込みに関する色んな噂が収容所内に流れては また、引き延ばされる。 288 00:18:12,615 --> 00:18:14,295 これの繰り返しです。 289 00:18:14,295 --> 00:18:18,132 こういった、「期待」と「幻滅」の 無限ループに置かれると 290 00:18:18,132 --> 00:18:22,160 「人はいずれ、心が壊れてしまう」 フランクルは、そう言っているのです。 291 00:18:22,481 --> 00:18:25,353 そして、彼はまた次のように 語り始めます。 292 00:18:25,452 --> 00:18:27,975 1944年のクリスマス。 293 00:18:28,210 --> 00:18:31,010 そして、1945年の新年。 294 00:18:31,280 --> 00:18:34,806 この間に、未だかつてない 大量の死亡者が出た。 295 00:18:35,367 --> 00:18:39,599 強制収容所にいた医者によると それは、過酷な労働条件や 296 00:18:40,042 --> 00:18:45,730 悪化した「栄養状態」、或いは「伝染病」などで 説明がつくものではなかったそうだ。 297 00:18:45,730 --> 00:18:50,617 むしろ、その原因とは 囚人たちが、Xmasや新年には 298 00:18:50,617 --> 00:18:54,348 きっと、状況も良くなって 「家に帰れるだろう」と 299 00:18:54,348 --> 00:18:57,086 素朴な希望に 身を寄せたからなのだ。 300 00:18:57,580 --> 00:18:59,511 もう直ぐ、クリスマスだというのに 301 00:18:59,511 --> 00:19:04,065 収容所から流れて来るニュースと言えば 何時も暗い話ばかりで 302 00:19:04,065 --> 00:19:06,423 明るい記事など一切なかった。 303 00:19:06,423 --> 00:19:09,821 そうやって、囚人たちは どんどん失望し、落胆し 304 00:19:09,821 --> 00:19:12,460 そして、「抵抗力」を落として行ったのだ。 305 00:19:12,460 --> 00:19:17,947 凄まじい、収容所生活において 自分の内側にある「抵抗力」を落とすことは 306 00:19:17,947 --> 00:19:20,652 そのまま、「命」を落とすことに繋がる。 307 00:19:20,652 --> 00:19:23,162 だから、自分たちの 「抵抗力」が落ちないよう 308 00:19:23,162 --> 00:19:27,295 どうにか、気持ちだけは維持しなければならない。 その為には... 309 00:19:27,295 --> 00:19:31,473 「自分は、何としてでも 生き延びなければならない」 という 310 00:19:31,473 --> 00:19:34,882 [人生の目的意識]が必要だったのだ。 311 00:19:35,256 --> 00:19:36,644 はい!ここで止めましょう。 312 00:19:36,672 --> 00:19:40,427 どんな人であれ 苦しい時、辛い時はありますが 313 00:19:40,427 --> 00:19:43,976 それを乗り越えるためには その「苦しさ」や 314 00:19:43,976 --> 00:19:48,328 「辛さ」に見合うだけの意義が必要だ、と フランクルは言っているのです。 315 00:19:48,629 --> 00:19:52,699 耐え抜く意味、頑張り通す意義。 それが無ければ 316 00:19:52,699 --> 00:19:57,008 「苦しさ」や「辛さ」に耐えられず 心が折れてしまうわけです。 317 00:19:57,008 --> 00:20:00,031 好きな仕事だから 辛い時でも、頑張れた。 318 00:20:00,031 --> 00:20:03,702 応援してくれる仲間がいたから 苦しかったけど、頑張れた。 319 00:20:03,702 --> 00:20:07,195 皆さんにも、そんなご経験が あるのではないでしょうか? 320 00:20:07,195 --> 00:20:10,052 ただ、心が崩壊してしまった囚人たちは 321 00:20:10,052 --> 00:20:11,497 どれだけ励ましても... 322 00:20:11,497 --> 00:20:12,893 どれだけ慰めても... 323 00:20:12,893 --> 00:20:16,510 何も言葉を受け取らなくなってしまった と言います。 324 00:20:16,510 --> 00:20:22,134 そして、こんな未来に期待のできない人生を 「なぜ、生きなきゃいけないんだ」 325 00:20:22,219 --> 00:20:26,534 「生きていたって、意味なんかないじゃないか」と 口にするように、なっていったそうです。 326 00:20:26,534 --> 00:20:29,740 では、こういった状態に陥ってしまったら 327 00:20:29,740 --> 00:20:31,983 一体、どうすればよいのでしょうか? 328 00:20:31,983 --> 00:20:37,121 この問いに対しフランクルは、本書で 見事な回答を提示してくれています。 329 00:20:37,301 --> 00:20:39,411 では、その続きから見て行きましょう。 330 00:20:39,421 --> 00:20:42,394 これからの未来に 一体、何が期待できるんだろう? 331 00:20:42,394 --> 00:20:45,147 自分の生きている意味って、何だろう? 332 00:20:45,270 --> 00:20:48,588 そうやって、自分の人生に 問いを投げるのは 333 00:20:48,588 --> 00:20:52,465 実は、正しい態度ではない。 むしろ、私たちが人生から 334 00:20:52,465 --> 00:20:56,847 「君は、これからどうするんだ?」と 期待され、問われているんだ。 335 00:20:57,167 --> 00:21:01,375 人生は、私たちに毎日 様々な問いを投げかけて来る。 336 00:21:01,375 --> 00:21:04,906 そして、その度に私たちは その問いに対して 337 00:21:05,322 --> 00:21:08,634 口先ではなく、行動によって 答えなければならない。 338 00:21:08,634 --> 00:21:12,469 「生きる」ということは 自分に課せられた使命に対し 339 00:21:12,469 --> 00:21:14,939 責任をもって、全うする事なのだ。 340 00:21:14,939 --> 00:21:18,754 人生から要求されることは 人によって異なるし 341 00:21:18,754 --> 00:21:20,883 その瞬間によって「変化」もする。 342 00:21:20,883 --> 00:21:25,732 だから...人生にどんな意味がるだろう、と どれほど考えようが 343 00:21:25,732 --> 00:21:27,510 答えなど見つかりはしない。 344 00:21:27,510 --> 00:21:30,533 人生からの問いかけ。 すなわち、『運命』とは... 345 00:21:30,995 --> 00:21:33,265 決して、漠然としたものではなく 346 00:21:33,265 --> 00:21:37,674 常に、具体的な状況となって 私たちの目の前に現れる。 347 00:21:37,674 --> 00:21:40,864 そして、その度に 「さぁ、君はどう行動する?」と 348 00:21:40,864 --> 00:21:44,024 問いかけられているのだ。 従って、今まさに 349 00:21:44,024 --> 00:21:48,892 「苦しみ」という課題が与えられているのならば そこに対して人間は 350 00:21:48,892 --> 00:21:51,215 『運命』を見出さなければならない。 351 00:21:51,560 --> 00:21:54,410 私たちは、自分以外の誰かの苦しみを 352 00:21:54,410 --> 00:21:56,369 代わりに背負うことはできない。 353 00:21:56,369 --> 00:22:00,543 その『運命』を授かった本人が その苦しみを背負い 354 00:22:00,543 --> 00:22:03,971 担わなければならない。 しかし、その苦しみの中にこそ 355 00:22:03,971 --> 00:22:08,531 本人だけしか達成できない 「唯一無二」の業績があるのだ。 356 00:22:08,531 --> 00:22:12,863 こんなことを聞くと 「なんて、現実離れした考え方だ」と 357 00:22:12,863 --> 00:22:15,226 思うかもしれない。 しかし、この考え方は 358 00:22:15,226 --> 00:22:20,259 地獄のような強制収容所生活において 我々を絶望させない 359 00:22:20,259 --> 00:22:22,375 唯一の「思想」だったのだ。 360 00:22:22,437 --> 00:22:24,043 はい!ここで止めましょう。 361 00:22:24,043 --> 00:22:28,036 なかなか、ガツン!と響くものが あったのではないでしょうか。 362 00:22:28,036 --> 00:22:32,091 ...と言いますのも、今紹介したパートは フランクル思想の 363 00:22:32,091 --> 00:22:35,649 正に、中心的な部分なのです。 もう一度、整理しますと... 364 00:22:35,649 --> 00:22:40,606 自分の人生に意義を見出せずに「苦しい」 そういう時は、その考えを 365 00:22:40,606 --> 00:22:44,534 クルリと、反転させて 人間の方が、逆に人生から 366 00:22:44,534 --> 00:22:49,765 問われている存在である、と 思考を切り替えてくださいね、と言っている訳です。 367 00:22:49,765 --> 00:22:52,874 また、苦しみにも 『運命』を見出せという 368 00:22:52,874 --> 00:22:56,746 力強い言葉もありましたが 彼が人生というものに対して 369 00:22:56,746 --> 00:23:00,957 「絶対に肯定する」という 揺るぎないスタンスを取っているのが 370 00:23:00,957 --> 00:23:03,147 伺えます。 そして、フランクルは 371 00:23:03,147 --> 00:23:07,714 人生における重要な考え方を もう1つ、本書で示してくれています。 372 00:23:07,714 --> 00:23:09,541 それは、この先の未来に... 373 00:23:09,541 --> 00:23:13,845 [自分のことを待ってくれている存在を意識する] ということです。 374 00:23:13,998 --> 00:23:16,125 この「待ってくれる存在」というのは 375 00:23:16,125 --> 00:23:18,470 人でも、物でも何でもいいのです。 376 00:23:18,470 --> 00:23:21,583 ある人は、いずれ巡り合う 「運命のパートナー」や 377 00:23:21,583 --> 00:23:24,216 自分の「子供」や「孫」かもしれませんし 378 00:23:24,216 --> 00:23:27,969 また、ある人は一生涯 誇りをもって打ち込める「仕事」 379 00:23:27,969 --> 00:23:32,041 或いは、「趣味」かもしれません。 つまり、「未来に待っている存在」というのは 380 00:23:32,041 --> 00:23:35,324 人それぞれ、違うのです。 そして、未来の世界は 381 00:23:35,324 --> 00:23:38,476 自分がやって来るのを 期待しながら待ってくれている。 382 00:23:38,476 --> 00:23:41,686 そうやって自分を待つ 何かの「存在」に意識を向け 383 00:23:41,686 --> 00:23:46,437 未来に責任を感じていれば 人は、絶対に自分の「命」を 384 00:23:46,437 --> 00:23:49,082 自ら諦めたりはしない。 だから、今... 385 00:23:49,082 --> 00:23:50,962 この瞬間を乗り越えてください。 386 00:23:50,962 --> 00:23:55,531 「我々は、人生に試されているんです」と フランクルは解いたのです。 387 00:23:55,976 --> 00:23:59,509 ここで[夜と霧]については、お終いです。 では、最後に... 388 00:23:59,509 --> 00:24:02,765 フランクル思想を理解する上で 非常に重要な 389 00:24:02,765 --> 00:24:06,659 [ブーヘンヴァルトの歌]について 紹介して、終わりたいと思います。 390 00:24:06,659 --> 00:24:11,106 「ブーヘンヴァルト」というのは ドイツの強制収容所の名前です。 391 00:24:11,106 --> 00:24:14,315 場所は、フランクルがいた 「ダッハウ強制収容所」から 392 00:24:14,315 --> 00:24:17,065 400キロメートルほど離れた所にあります。 393 00:24:17,200 --> 00:24:20,130 そして、そこにいた囚人たちが 歌った「行進曲」 394 00:24:20,130 --> 00:24:22,000 それが[ブーヘンヴァルトの歌]です。 395 00:24:22,000 --> 00:24:25,558 その、歌詞の一部を読み上げますので ちょっと、聞いてみてください。 396 00:24:26,151 --> 00:24:27,294 [ブーヘンヴァルトよ] 397 00:24:27,294 --> 00:24:30,262 [私は、お前を忘れることが出来ない] 398 00:24:30,350 --> 00:24:32,387 [お前は、私の運命だったのだ] 399 00:24:32,735 --> 00:24:35,007 [お前から去った者だけが分かる] 400 00:24:35,007 --> 00:24:37,271 [自由がどれほど素晴らしいか] 401 00:24:37,271 --> 00:24:38,429 [ブーヘンヴァルトよ] 402 00:24:38,429 --> 00:24:41,097 [私は嘆いたり、悲しんだりはしない] 403 00:24:41,400 --> 00:24:44,780 [私達の運命がいかなるものであろうとも] 404 00:24:44,860 --> 00:24:46,512 [私達はそれでも] 405 00:24:46,512 --> 00:24:48,346 [人生にイエスと言おう] 406 00:24:48,420 --> 00:24:49,610 [なぜならその日は] 407 00:24:49,610 --> 00:24:50,726 [いつか来るから] 408 00:24:50,726 --> 00:24:52,704 [私達が自由になる日が] 409 00:24:52,704 --> 00:24:55,663 [私達はそれでも人生にイエスと言おう] 410 00:24:55,663 --> 00:24:56,961 [なぜならその日は] 411 00:24:56,961 --> 00:24:57,975 [いつか来るから] 412 00:24:58,048 --> 00:25:00,339 はい、こんな感じの歌でございます。 413 00:25:00,339 --> 00:25:05,376 先程、フランクルは「苦しみ」という課題を 『運命』として捉えましょう。 414 00:25:05,376 --> 00:25:07,952 そこに、自分だけの「業績」を見出しましょう。 415 00:25:07,952 --> 00:25:09,820 「なぜなら、この考え方こそが 416 00:25:09,820 --> 00:25:13,244 強制収容所のような環境でも 人間を唯一 417 00:25:13,244 --> 00:25:15,898 絶望させない「思想」だったんですよ」 と言っていました。 418 00:25:15,898 --> 00:25:18,175 そんな中、ブーヘンヴァルトの囚人たちは 419 00:25:18,175 --> 00:25:20,338 どうしようもない状況下であっても 420 00:25:20,338 --> 00:25:24,164 ”私達はそれでも人生にイエスと言おう” と歌い 421 00:25:24,164 --> 00:25:27,154 自分たちの運命を受け入れ、肯定し 422 00:25:27,154 --> 00:25:30,469 「自由になれる日が、我々を待っているのだ」と 423 00:25:30,469 --> 00:25:32,019 叫び続けたのです。 424 00:25:32,328 --> 00:25:34,640 つまり、どんなに苦しい人生であっても 425 00:25:34,640 --> 00:25:36,584 どんなに辛い人生あっても 426 00:25:36,584 --> 00:25:40,601 全て、「人生からの問いかけである」と 説くフランクルの思想を 427 00:25:40,601 --> 00:25:44,162 [ブーヘンヴァルトの歌]は 見事に表現していると言えます。 428 00:25:44,206 --> 00:25:47,224 そして、フランクルは1945年4月。 429 00:25:47,520 --> 00:25:51,514 遂に、収容所から解放され 9月に終戦を迎えます。 430 00:25:51,514 --> 00:25:55,329 その後、彼はわずか9日間で [夜と霧]を書き終え 431 00:25:55,329 --> 00:25:57,471 世界に衝撃を与えました。 432 00:25:57,471 --> 00:26:02,292 更に、自身の収容所体験について 世界中で講演活動を行い 433 00:26:02,292 --> 00:26:07,601 人生の意味を見出せずに嘆いている人に 勇気を与え続けた、といいます。 434 00:26:07,607 --> 00:26:12,628 その講演録は、後に書籍となり [夜と霧]に次ぐ、彼の代表作として 435 00:26:12,628 --> 00:26:15,079 世界中で読み継がれることとなるのです。 436 00:26:15,280 --> 00:26:19,120 フランクルは、その本のタイトルを [ブーヘンヴァルトの歌]から取り 437 00:26:19,120 --> 00:26:22,189 [それでも人生にイエスと言う]と 名付けました。 438 00:26:22,189 --> 00:26:26,278 もし、この動画で[夜と霧]に ご興味を持っていただいた方は 439 00:26:26,538 --> 00:26:30,483 是非、こちらの作品も併せて ご一読いただければと思います。 440 00:26:30,483 --> 00:26:33,102 心が苦しくて、耐えられない時。 441 00:26:33,102 --> 00:26:37,022 きっと、フランクルの言葉が あなたのことを守ってくれるはずです。 442 00:26:37,225 --> 00:26:40,578 はい!というわけで [夜と霧]以上でございます。 443 00:26:40,578 --> 00:26:42,220 いかがでしたでしょうか? 444 00:26:42,361 --> 00:26:47,604 重たいテーマでしたけれども、意外に後味は 悪くなかったのではないでしょうか。 445 00:26:47,901 --> 00:26:54,417 また、以前紹介したニーチェの思想と 今回の話との関連性に気づいた方。 446 00:26:54,417 --> 00:26:56,286 恐らく、いらっしゃると思います。 447 00:26:56,286 --> 00:27:02,034 フランクル思想の中心にある [それでも人生にイエスと言う]という、この言葉は 448 00:27:02,034 --> 00:27:05,974 ニーチェ哲学のテーマである [生の肯定]そのものなんです。 449 00:27:05,974 --> 00:27:10,349 ニーチェは、人生の意義を 見出せなくなってしまう状態のことを 450 00:27:10,349 --> 00:27:12,304 「ニヒリズム」と呼びました。 451 00:27:12,304 --> 00:27:18,720 そして、それを克服するために「超人思想」や 「永遠回帰」といった概念を持ち出したわけですが 452 00:27:18,720 --> 00:27:23,160 正にフランクルは、極限状態で それを体現した人と言えます。 453 00:27:23,320 --> 00:27:27,854 [夜と霧]の中には、何度かニーチェの言葉を 引用するシーンがありますので 454 00:27:27,854 --> 00:27:30,930 恐らく、思想的影響を 受けているものと思われます。 455 00:27:30,930 --> 00:27:33,967 そういったところにも ご注目いただきながら読んでいただくと 456 00:27:33,967 --> 00:27:37,304 より作品を楽しんで いただけるのではないかなと思います。 457 00:27:37,304 --> 00:27:41,938 面白かった、参考になったという方は 高評価・コメントなどいただけますと嬉しいです。 458 00:27:41,938 --> 00:27:44,539 また、チャンネル登録も よろしくお願い致します。 459 00:27:44,539 --> 00:27:46,542 ではまた、次の動画でお会いしましょう。 460 00:27:46,542 --> 00:27:47,766 ありがとうございました。