WEBVTT 00:00:00.659 --> 00:00:02.610 ここはホーゲヴィック 00:00:02.984 --> 00:00:07.365 オランダのアムステルダム近郊の 小さな町にある地区の1つです 00:00:07.881 --> 00:00:11.350 ここには27軒の家があり 各戸6~7人で暮らしています 00:00:11.821 --> 00:00:16.341 小さなショッピングモールもあり そこには レストラン パブ スーパー 談話室があります 00:00:16.900 --> 00:00:21.225 道路があり 路地もあり 劇場があります 00:00:22.434 --> 00:00:24.434 実は ここは介護施設です 00:00:25.093 --> 00:00:30.727 認知症の進んだ人を対象とした施設で 00:00:30.751 --> 00:00:34.210 24時間365日体制の 介護や支援が必要な人が住んでいます NOTE Paragraph 00:00:35.234 --> 00:00:38.497 認知症は つらい病気で 00:00:38.521 --> 00:00:41.739 これといった治療法が 未だに見つかっていません 00:00:42.211 --> 00:00:45.838 認知症対策は最近 世界的に 深刻な社会問題となっており 00:00:45.862 --> 00:00:47.710 市民にも政治家にも 00:00:47.734 --> 00:00:50.705 世の中にとっても 問題の重大さは増しています 00:00:51.228 --> 00:00:54.473 介護施設への入所は 往々にして予約待ちが必要です 00:00:55.093 --> 00:00:58.893 そうした施設に来る認知症の人は 大半が女性です 00:00:59.855 --> 00:01:04.815 その理由の1つが 女性は 人の世話をするのに慣れていること 00:01:04.839 --> 00:01:08.692 だから女性は 夫が認知症になっても どうにか介護ができます 00:01:08.716 --> 00:01:13.124 しかし男性が介護する側になるのは なかなか容易ではありません NOTE Paragraph 00:01:14.629 --> 00:01:18.962 認知症は脳が侵される病気です 00:01:18.986 --> 00:01:21.128 脳は混乱します 00:01:21.923 --> 00:01:24.684 患者は 時間の感覚が無くなり 00:01:24.708 --> 00:01:27.446 今 起きていることや 相手が誰なのかが分かりません 00:01:27.470 --> 00:01:28.942 患者は非常に混乱します 00:01:28.966 --> 00:01:31.180 その混乱が原因で 00:01:31.204 --> 00:01:37.249 不安を抱いて 落ち込んだり 攻撃的な態度を取ったりします NOTE Paragraph 00:01:38.728 --> 00:01:41.109 ここは 昔ながらの介護施設です 00:01:41.133 --> 00:01:43.188 1992年当時 私が働いていた施設です 00:01:43.641 --> 00:01:45.148 私はケアマネージャーでした 00:01:45.687 --> 00:01:48.703 ここで働くスタッフの間で よく こんな話をしたものです 00:01:48.727 --> 00:01:53.728 自分たちが そこでしている介護は 両親や友人や 00:01:53.752 --> 00:01:57.060 自分自身にしてほしいと思う 介護ではないと 00:01:57.815 --> 00:01:59.600 ある日私たちは こう話しました 00:01:59.624 --> 00:02:02.378 「このことを話しているだけでは 何も変わらない 00:02:02.402 --> 00:02:03.775 施設の運営責任は私たちにある 00:02:03.799 --> 00:02:06.295 この状況を何とか変えて 00:02:06.319 --> 00:02:09.683 自分たちの両親も入居させたいと 思えるような施設にしよう」と NOTE Paragraph 00:02:10.773 --> 00:02:13.781 皆でよく話題にしたのは 毎日見ていた こんな光景です 00:02:13.805 --> 00:02:17.498 私たちの介護施設に 入所した患者さんたちは 00:02:17.522 --> 00:02:19.887 そこで暮らすことに戸惑っていました 00:02:19.911 --> 00:02:23.458 入所者が目にするのが 白衣姿の医師や看護師や救急隊員がいる― 00:02:23.482 --> 00:02:27.593 病院のような環境だからです 00:02:27.617 --> 00:02:29.284 入所者は病棟で生活をしていましたが 00:02:30.069 --> 00:02:32.903 なぜ その場所で 暮らすのかが理解できず 00:02:32.927 --> 00:02:36.236 そこから逃げ出す先を探していました 00:02:36.617 --> 00:02:41.554 家に帰れる 出口を探していました 00:02:42.022 --> 00:02:45.847 こうした状況の中で 私たちは あることに気づきました 00:02:45.871 --> 00:02:50.910 自分たち施設職員は すでに脳が混乱している人たちを 00:02:50.934 --> 00:02:52.220 さらに混乱させていたのです 00:02:52.244 --> 00:02:55.778 混乱に混乱を加えていました 00:02:56.180 --> 00:02:58.631 患者には必要のないことでした NOTE Paragraph 00:02:59.084 --> 00:03:01.846 誰もが 普通に生活することと 00:03:01.870 --> 00:03:05.434 認知症と向き合うための支援 私たちの支援を望んでいました 00:03:05.957 --> 00:03:10.689 誰もが 普通の家で暮らしたいと 望んでいました 00:03:10.713 --> 00:03:11.863 病棟ではありません 00:03:12.482 --> 00:03:15.307 誰もが 普通の家庭生活を希望していました 00:03:15.331 --> 00:03:20.029 台所で作っている夕食の 匂いが漂ってくるところ 00:03:20.966 --> 00:03:25.228 あるいは台所に自由に行けて 好きな食べ物や飲み物がつまめるところ 00:03:25.611 --> 00:03:27.841 そんな環境を求めていたのです 00:03:27.865 --> 00:03:30.364 私たちの務めは そんな環境を整えることでした NOTE Paragraph 00:03:31.269 --> 00:03:35.990 自宅にいるような環境を 整えるべきだと話しました 00:03:36.014 --> 00:03:40.966 15人 20人 30人単位のグループが 病棟のような場所で暮らすのではなく 00:03:41.434 --> 00:03:45.648 6~7人の少人数のグループが 一家族のように生活します 00:03:47.069 --> 00:03:48.942 友達同士が一緒に暮らすように 00:03:50.709 --> 00:03:53.788 そのためには価値観の似たもの同士を 00:03:53.812 --> 00:03:56.566 選ぶようにします 00:03:56.590 --> 00:03:59.690 一緒に暮らした時に 本当の友人関係を築く 00:03:59.714 --> 00:04:01.282 可能性が高まるからです 00:04:02.225 --> 00:04:06.385 私たちは施設の入居者の家族に インタビューして 聞いてみました 00:04:06.409 --> 00:04:10.102 「お父様が大切にされていること」や 「お母様が大切にされていること」 00:04:10.126 --> 00:04:12.875 「これまでの暮らしぶり」 「希望することは」などです 00:04:12.899 --> 00:04:17.144 その結果で 7つのグループを特定し 「ライフスタイルグループ」と名付けました NOTE Paragraph 00:04:17.709 --> 00:04:21.370 一例を挙げると 「儀礼的」ライフスタイルがあります 00:04:21.851 --> 00:04:23.077 これに該当する人は 00:04:23.101 --> 00:04:26.522 他人との交流において 礼節を重んじ 00:04:26.546 --> 00:04:27.839 人と距離を置きたがります 00:04:27.863 --> 00:04:30.109 1日の行動を開始する時刻は遅めで 00:04:30.133 --> 00:04:31.855 就寝も遅めです 00:04:31.879 --> 00:04:34.905 このグループの間では クラシック音楽が流れる頻度が 00:04:34.929 --> 00:04:36.632 他のグループより目立ちます 00:04:36.656 --> 00:04:38.140 食事の傾向に関して言うと 00:04:38.164 --> 00:04:41.943 伝統的なオランダ料理よりも どちらかと言うとフランス料理です NOTE Paragraph 00:04:41.967 --> 00:04:43.559 (笑) NOTE Paragraph 00:04:43.583 --> 00:04:47.194 このグループは「職人」の ライフスタイルとは対照的です 00:04:47.218 --> 00:04:49.361 「職人」は古風なライフスタイルで 00:04:49.385 --> 00:04:51.955 早寝早起きです 00:04:51.979 --> 00:04:55.981 このグループの人は 生涯のほとんどで 手仕事に従事していたからです 00:04:56.005 --> 00:05:00.608 多くの場合は家族経営の 小さな企業 農家 商店を営んできました 00:05:00.632 --> 00:05:04.767 あるいは 「ミスターB」のように 農家の労働者でした 00:05:05.466 --> 00:05:08.966 私が聞いた話では 毎朝 彼が仕事に向かう時 00:05:08.990 --> 00:05:11.194 紙袋に昼食と 00:05:12.014 --> 00:05:13.504 1本の葉巻を入れました 00:05:14.824 --> 00:05:18.887 この葉巻は彼が自分に許した 唯一のぜいたくだったそうです 00:05:19.420 --> 00:05:22.553 昼食後に葉巻をくゆらせるのが 彼の習慣でした 00:05:23.460 --> 00:05:26.788 ホーゲヴィックで亡くなる その日まで 00:05:26.812 --> 00:05:32.724 彼は毎日 昼食後に この小さな小屋に来て 葉巻を楽しんでいました NOTE Paragraph 00:05:35.201 --> 00:05:36.387 これは私の母です 00:05:36.411 --> 00:05:38.022 母のスタイルは「文化的」です 00:05:38.046 --> 00:05:40.512 この時は ホーゲヴィックに来て 6週目でした 00:05:41.236 --> 00:05:46.476 このグループの人たちは旅行が大好きで 人や文化との出会いを大切にし 00:05:46.500 --> 00:05:49.501 アートや音楽に興味を持っています 00:05:50.072 --> 00:05:51.805 他にもライフスタイルはあります 00:05:52.818 --> 00:05:56.551 ともかく これが 私たちが議論した末に実践した介護の形です NOTE Paragraph 00:05:57.766 --> 00:06:02.617 でも 価値観の似た者同士が 共同生活していても 00:06:02.641 --> 00:06:06.019 自分自身の人生や 家庭生活を送るのとは違います 00:06:06.434 --> 00:06:07.763 それだけではありません 00:06:07.787 --> 00:06:11.091 誰もが人生の楽しみと 有意義な人生を望んでいます 00:06:11.688 --> 00:06:13.109 人間は社交的な動物なので 00:06:13.133 --> 00:06:15.402 人間同士の交流が必要です 00:06:15.817 --> 00:06:17.617 私たちは そんな環境を整えました 00:06:18.817 --> 00:06:22.293 誰もが外出もし 買い物をすることを希望し 00:06:22.317 --> 00:06:23.784 人との出会いを求めています 00:06:24.698 --> 00:06:28.438 パブに行きたい 友人達とビールを飲みに行きたい 00:06:28.462 --> 00:06:33.444 また「ミスターW」のような人は 外出好きで毎日出かけたい 00:06:33.468 --> 00:06:36.084 素敵な女性がいないか 探すために NOTE Paragraph 00:06:36.108 --> 00:06:38.096 (笑) NOTE Paragraph 00:06:38.465 --> 00:06:40.020 彼は女性に礼儀正しく接します 00:06:40.044 --> 00:06:42.545 彼が望むのは素敵な笑顔で その望みはかないます 00:06:42.863 --> 00:06:45.196 その後2人はパブで踊ります 00:06:46.014 --> 00:06:47.530 毎日がお祭りです NOTE Paragraph 00:06:47.554 --> 00:06:50.768 パブよりはレストランに出かけたいと 思う人もいます 00:06:50.792 --> 00:06:52.466 そこで友人とワインを飲み 00:06:52.490 --> 00:06:56.156 ランチや夕食を共にし 人生を堪能します 00:06:56.180 --> 00:06:58.966 私の母の場合は 公園を散歩します 00:06:58.990 --> 00:07:00.673 日当たりの良いベンチに座り 00:07:00.697 --> 00:07:03.823 通りがかりの人が自分の隣に 座ってくれるのを待っています 00:07:03.847 --> 00:07:06.410 その人と人生を語り合いたい 00:07:06.434 --> 00:07:09.669 それがいやなら 池のアヒルの話でもいいんです NOTE Paragraph 00:07:10.355 --> 00:07:12.616 そんな交流が重要です 00:07:12.998 --> 00:07:17.574 社会の一員としての証 つまり自分の居場所が そこにあることを意味するからです 00:07:17.974 --> 00:07:20.041 人間は皆 それを必要としています 00:07:21.013 --> 00:07:24.561 たとえ高度認知症に苦しむ人であってもです NOTE Paragraph 00:07:25.482 --> 00:07:28.347 これは 私のオフィスから見える光景です 00:07:28.371 --> 00:07:32.580 ある日 1人の女性が 向こうから歩いてくるのが見えました 00:07:32.604 --> 00:07:36.223 すると他方から別の女性がやって来て 角で2人は出会いました 00:07:36.247 --> 00:07:38.595 2人とも 私は良く知っています 00:07:38.929 --> 00:07:42.281 どちらも 外を歩いている姿を よく見かけました 00:07:42.618 --> 00:07:46.999 私は時々 この2人との会話を試みるのですが 00:07:47.023 --> 00:07:49.776 どちらとでも 会話するのは 00:07:50.586 --> 00:07:53.072 なかなか難しいのです 00:07:53.839 --> 00:07:57.498 ところが そんな2人が会い 会話するのを目撃しました 00:07:57.522 --> 00:07:59.402 2人とも 身振り手振りを交えて 00:07:59.426 --> 00:08:01.159 楽しそうに話していました 00:08:01.554 --> 00:08:04.632 やがて2人は別れのあいさつを交わし 別々の方向へ去りました 00:08:05.331 --> 00:08:08.569 これこそ人間が求めるものです 人との出会いと 00:08:08.593 --> 00:08:10.640 社会との関わりです 00:08:11.093 --> 00:08:13.227 私が見た光景は いい実例です NOTE Paragraph 00:08:14.148 --> 00:08:16.155 ホーゲヴィックは そんな街になりました 00:08:16.179 --> 00:08:19.861 認知症が進んだ人も 自由と安全を約束されながら 00:08:19.885 --> 00:08:21.821 普通の生活ができる場所です 00:08:21.845 --> 00:08:26.329 これはひとえに ここで働く 専門職員やボランティアの人々が 00:08:26.353 --> 00:08:28.575 認知症患者への配慮に 慣れているからです 00:08:29.093 --> 00:08:32.426 専門職の人たちは それぞれの技能を生かしながら 00:08:32.450 --> 00:08:37.482 住民の生活に自然に寄り添うやり方を 心得ています 00:08:38.826 --> 00:08:43.506 そのためにはスタッフが 仕事を不自由なくこなせるように 00:08:43.530 --> 00:08:45.864 環境を整えることが 管理責任者の責務なのです 00:08:46.866 --> 00:08:50.710 それには管理責任者の 思い切った決断が求められます 00:08:50.734 --> 00:08:53.871 従来の介護施設での 既存の方法とは 00:08:53.895 --> 00:08:56.028 全く違う取り組み方が求められます NOTE Paragraph 00:08:58.989 --> 00:09:00.893 その有効性を私たちは確信しています 00:09:02.006 --> 00:09:05.172 この介護体制は どこでも応用できると思っています 00:09:05.196 --> 00:09:07.396 富裕層の特権ではないからです 00:09:07.863 --> 00:09:12.212 この国の従来の介護施設と 00:09:12.236 --> 00:09:16.315 同じ予算で運営しています 00:09:16.339 --> 00:09:19.116 国の援助として認められた予算の 範囲内で運営できています NOTE Paragraph 00:09:20.220 --> 00:09:27.092 (拍手) NOTE Paragraph 00:09:28.226 --> 00:09:31.798 これが実現できたのは 取り組みの考え方を変えて 00:09:31.822 --> 00:09:34.552 目の前にいる 認知症患者と向き合い 00:09:34.576 --> 00:09:38.257 その人が今 何を必要としているのかを 見つめ直したからです 00:09:39.352 --> 00:09:42.592 大事なのは 患者の笑顔と 考え方を改めること 00:09:42.616 --> 00:09:46.663 それと行動を改めること それにはお金はかかりません 00:09:47.823 --> 00:09:51.490 さらに もう1つ それは正しい選択をすることです 00:09:51.903 --> 00:09:55.636 何に出費するべきなのかの選択です 00:09:56.855 --> 00:09:58.131 私がいつも言うことですが 00:09:59.323 --> 00:10:04.069 「赤いカーテンもグレーのカーテンも 値段は同じです」 NOTE Paragraph 00:10:04.093 --> 00:10:05.470 (笑) NOTE Paragraph 00:10:05.494 --> 00:10:08.017 その場がどこであろうと 可能なことです NOTE Paragraph 00:10:09.263 --> 00:10:10.422 ありがとうございました NOTE Paragraph 00:10:10.446 --> 00:10:15.077 (拍手)