1 00:00:18,209 --> 00:00:23,710 この2人はダッハウ強制収容所で 働いたナチ科学者です 2 00:00:23,729 --> 00:00:25,459 第二次世界大戦時のことです 3 00:00:26,250 --> 00:00:29,250 2人はある実験を行っていました 4 00:00:29,292 --> 00:00:33,667 氷水の中で人間が どれ程生き長らえられるかという実験です 5 00:00:35,542 --> 00:00:37,248 科学者なら誰でもそうするように 6 00:00:37,250 --> 00:00:43,834 彼らも犠牲者が死に至るまでの期間を含め 系統的な記録を残しました 7 00:00:45,834 --> 00:00:49,876 このような人間の残酷さの例は 大きな問題を投げかけます 8 00:00:50,501 --> 00:00:54,793 どうして人を単なる物として 扱うことができるのでしょうか? 9 00:00:56,918 --> 00:01:03,210 人間の残酷さは「邪悪な精神」 という言葉で解釈されていました 10 00:01:04,167 --> 00:01:09,376 邪悪な精神という概念は 説明にもならないし科学的でもありません 11 00:01:09,918 --> 00:01:13,918 何か超自然的な力に取り憑かれたと 言っているも同然だからです 12 00:01:14,709 --> 00:01:18,293 さらに悪いことに そんな考えは循環論的です 13 00:01:18,334 --> 00:01:22,333 もし邪悪を「善の心がない状態」と 定義してしまうと 14 00:01:22,334 --> 00:01:24,208 私たちは 要するに 15 00:01:24,209 --> 00:01:27,541 「誰かが悪いことをしたのは 善の心がないから」と言っているに過ぎず 16 00:01:27,542 --> 00:01:30,917 これでは行き詰まってしまいます 17 00:01:31,959 --> 00:01:35,251 これとは対照的に 「共感性」という概念を使えば 18 00:01:35,292 --> 00:01:38,666 科学的に検討しやすくなると 私は考えています 19 00:01:38,667 --> 00:01:41,792 共感能力は科学的な測定や 研究の対象になるからです 20 00:01:42,375 --> 00:01:48,458 共感性には認知的側面と 情動的側面の2つがあります 21 00:01:49,667 --> 00:01:52,209 認知的共感能力は 22 00:01:52,250 --> 00:01:55,001 他人の考えや気持ちを想像し 23 00:01:55,042 --> 00:01:57,668 相手の立場に立って考える能力で 24 00:01:57,684 --> 00:01:59,384 認識に関わる部分です 25 00:02:00,584 --> 00:02:05,751 情動的共感能力は 他者の考えや感情にふさわしい 26 00:02:05,751 --> 00:02:08,252 感情的な反応を促します 27 00:02:08,959 --> 00:02:12,959 情動的共感能力の低さは 28 00:02:13,000 --> 00:02:17,000 人間の残酷さを説明するために 欠かせない要因です 29 00:02:18,209 --> 00:02:21,958 共感性とは 有るか無いかではなく 程度の問題で 30 00:02:21,959 --> 00:02:25,001 個人差があります 31 00:02:25,042 --> 00:02:28,751 これがそれを示す 共感能力のベル曲線です 32 00:02:28,792 --> 00:02:31,875 我々の大半は このスペクトラムの中央付近にいて 33 00:02:31,921 --> 00:02:34,571 平均的な共感能力を持っています 34 00:02:34,584 --> 00:02:38,918 中には平均以上の共感能力を 持った人々がいます 35 00:02:39,114 --> 00:02:40,494 しかし 36 00:02:40,501 --> 00:02:45,135 一時的にせよ 永続的であるにせよ 37 00:02:45,135 --> 00:02:48,540 共感能力を低下させる要因は何でしょう? 38 00:02:48,542 --> 00:02:52,542 その社会的要因は? 生物学的要因は? 39 00:02:55,417 --> 00:02:59,251 社会的要因の1つが 権威に対する従順さです 40 00:03:00,209 --> 00:03:04,750 イェール大学 スタンレー・ミルグラムの 実験によると 41 00:03:04,751 --> 00:03:07,534 権威ある人から指示されると 42 00:03:07,534 --> 00:03:10,334 人は学習を助ける目的で 43 00:03:10,335 --> 00:03:13,584 進んで他人に電気ショックを 与えるとのことです 44 00:03:14,262 --> 00:03:16,035 これは 45 00:03:16,035 --> 00:03:20,334 単に命令に従うことが 共感力を損なう要因の1つだと示しています 46 00:03:22,209 --> 00:03:25,292 2番目の社会的要因はイデオロギーです 47 00:03:26,542 --> 00:03:31,834 テロリストが9月11日に 世界貿易センターに旅客機で突入した時 48 00:03:32,426 --> 00:03:34,006 彼らは 49 00:03:34,026 --> 00:03:36,916 正しいことをしているという 確固たる信念を持っていたと 50 00:03:36,918 --> 00:03:38,794 考えざるを得ません 51 00:03:40,876 --> 00:03:42,500 勿論 52 00:03:42,501 --> 00:03:45,203 その行為に志願したテロリストの 53 00:03:45,223 --> 00:03:48,333 共感能力が 元々低かったかどうかは わかりませんが 54 00:03:48,333 --> 00:03:49,575 あり得ることは 55 00:03:49,575 --> 00:03:52,199 イデオロギーへの信頼が要因となり 56 00:03:52,199 --> 00:03:56,519 犠牲者たちへの共感能力が 損なわれたことです 57 00:03:57,459 --> 00:04:01,960 第3の社会的要因は 集団内部の関係と 集団相互の関係です 58 00:04:02,753 --> 00:04:07,463 ルワンダではある部族が 59 00:04:07,493 --> 00:04:09,584 敵グループを単純化して 60 00:04:09,616 --> 00:04:13,966 人間以下でゴキブリ並みだという プロパガンダを流しました 61 00:04:14,784 --> 00:04:17,734 我々があるグループを 敵として非人間化した時 62 00:04:18,533 --> 00:04:22,743 共感能力を失ってしまう危険性があります 63 00:04:22,810 --> 00:04:25,820 そして それが壊滅的な大虐殺を 引き起こしたのを 64 00:04:25,831 --> 00:04:27,481 我々は目撃しています 65 00:04:29,317 --> 00:04:33,797 ただし どの社会要因を見ても テッド・バンディのような個人は説明できません 66 00:04:34,706 --> 00:04:37,254 彼の成人としての生活は 心理学を学ぶ 67 00:04:37,254 --> 00:04:39,691 ワシントン大学の学生として始まり 68 00:04:39,691 --> 00:04:43,021 ホットラインの電話相談を受ける ボランティア活動をしていました 69 00:04:43,033 --> 00:04:47,133 彼は電話口で女性たちを 口説いて会っていました 70 00:04:47,133 --> 00:04:48,829 それ以降 数年に渡り 71 00:04:48,834 --> 00:04:54,084 少なくとも30人の女性を レイプし殺害したのです 72 00:04:55,159 --> 00:04:58,809 彼は認知的共感能力は 持ち合わせていたのだと思われます 73 00:04:58,809 --> 00:05:01,878 なぜなら犠牲者たちを 騙せたのですから 74 00:05:02,384 --> 00:05:07,366 しかし情動的共感能力が欠けていました —まったく関心がなかったのです 75 00:05:07,366 --> 00:05:10,456 そして それは持続的でした 76 00:05:12,203 --> 00:05:17,303 テッド・バンディのような精神病質者が 情動的共感能力に欠けているということは 77 00:05:17,325 --> 00:05:20,203 ブロードモア病院で行われた 78 00:05:20,209 --> 00:05:22,793 ジェイムズ・ブレアの実験で 検証されています 79 00:05:22,829 --> 00:05:25,899 精神病質者とコントロールグループに 80 00:05:25,928 --> 00:05:28,228 3種類のイメージ すなわち 81 00:05:28,248 --> 00:05:34,238 脅威と感じられるもの 特徴のないもの 苦しんでいる人の写真を見せたところ 82 00:05:34,980 --> 00:05:37,240 精神病質者は 83 00:05:37,260 --> 00:05:39,795 苦しんでいる人の写真を見て 84 00:05:39,795 --> 00:05:44,445 わずかな生理的反応しか 示さなかったのです 85 00:05:44,467 --> 00:05:48,467 ここから 精神病質者は情動的共感能力が 欠けていると考えられます 86 00:05:50,035 --> 00:05:54,755 自閉症の人たちは 認知的共感能力に困難を感じます 87 00:05:54,770 --> 00:05:57,880 彼らにとって他人の考えや 動機や意図や感情を 88 00:05:57,900 --> 00:06:01,870 想像するのは難しいことですが 89 00:06:01,873 --> 00:06:05,553 人を傷つけようとはせず 90 00:06:05,569 --> 00:06:08,059 むしろ周りの人々に混乱させられ 91 00:06:08,073 --> 00:06:12,833 予測可能な対象物からなる世界を好み 引きこもってしまいます 92 00:06:13,845 --> 00:06:17,394 自閉症の人は 正常な情動的共感を持っています 93 00:06:17,394 --> 00:06:19,864 というのは彼らが誰かが 苦しんでいるのを知ると 94 00:06:19,864 --> 00:06:21,769 動揺するからです 95 00:06:22,937 --> 00:06:25,097 このことから 96 00:06:25,122 --> 00:06:29,712 自閉症の人と精神病質者は 正反対だと想像されます 97 00:06:30,198 --> 00:06:34,198 精神病質者は認知的共感能力は高いのですが —彼らが人を騙す手段です— 98 00:06:34,967 --> 00:06:37,627 情動的共感能力は低いのです 99 00:06:37,726 --> 00:06:41,256 自閉症の人は 正常の情動的共感能力はあるものの 100 00:06:41,278 --> 00:06:45,278 神経学的な理由で 認知的共感を感じることは難しいのです 101 00:06:48,062 --> 00:06:50,672 精神病質者は突然現れるものではありません 102 00:06:50,672 --> 00:06:52,084 彼らの多くは 103 00:06:52,124 --> 00:06:55,774 非社会的な行動をとり ティーンエイジャーで非行に走ります 104 00:06:56,375 --> 00:07:01,556 ロンドンにあるタビストック・クリニックの ジョン・ボウルビィが非行少年少女の調査で 105 00:07:01,556 --> 00:07:06,212 幼年期精神的ネグレクトの経験を 彼らの多くに見つけました 106 00:07:07,248 --> 00:07:10,376 幼年期に親の愛情が欠如していることが 107 00:07:10,376 --> 00:07:14,836 共感能力が損なわれる1要因だと ボウルビィは論じました 108 00:07:17,338 --> 00:07:20,448 ただ 幼年期の経験が 全てではないことが分かっています 109 00:07:20,469 --> 00:07:22,455 幼年期に問題があるからと言って 110 00:07:22,455 --> 00:07:25,275 誰もが共感能力がない訳ではないからです 111 00:07:25,792 --> 00:07:31,001 キングス・カレッジ・ロンドン精神医学研究所の アブシャロム・カスピによると 112 00:07:31,032 --> 00:07:35,553 子供の時 深刻な虐待を受けると 113 00:07:36,017 --> 00:07:38,947 非行に走る傾向が高いが 114 00:07:39,542 --> 00:07:42,709 その傾向をさらに高くするのは 115 00:07:42,742 --> 00:07:47,162 ある種のMAO-A遺伝子を持つ場合です 116 00:07:47,763 --> 00:07:49,263 赤いグラフで示しています 117 00:07:49,763 --> 00:07:52,463 このように遺伝子と環境は相互作用します 118 00:07:54,441 --> 00:07:56,601 もう1つ共感レベルと関係している 生物学的要因は 119 00:07:56,628 --> 00:08:01,738 ホルモンのひとつである テストステロンです 120 00:08:02,665 --> 00:08:06,405 胎児ではテストステロンは 脳の発達に働きかけます 121 00:08:06,905 --> 00:08:10,074 検査のため羊水穿刺を受ける妊婦から 122 00:08:10,074 --> 00:08:13,205 胎児を包む羊水を採取し 123 00:08:13,205 --> 00:08:15,945 テストステロン量を測定しました 124 00:08:17,074 --> 00:08:21,964 出生後 その子供たちを追跡調査しました 125 00:08:22,868 --> 00:08:25,728 その子供たちが8才になった時 126 00:08:25,748 --> 00:08:28,418 我々は彼らにどの言葉が 127 00:08:28,448 --> 00:08:31,618 写真の人の考えや気持ちを 最も良く表しているか尋ねました 128 00:08:32,188 --> 00:08:35,467 この場合は「何かに興味を示している」 というのが正解です 129 00:08:36,020 --> 00:08:41,191 胎児の時にテストステロンレベルが 高かった子供ほど 130 00:08:41,207 --> 00:08:44,668 この認知的共感テストでのスコアが 131 00:08:45,124 --> 00:08:47,604 低かったのです 132 00:08:48,446 --> 00:08:53,846 示される共感度は その人の共感回路機能— 133 00:08:53,861 --> 00:08:57,071 脳領野間のネットワークの 機能程度を表します 134 00:08:57,071 --> 00:08:59,190 ここにその2つがあります 135 00:08:59,209 --> 00:09:04,220 赤は左腹内側前頭前野で 136 00:09:04,667 --> 00:09:06,667 青は扁桃体です 137 00:09:08,260 --> 00:09:10,940 この人はフィネアス・ゲイジです 138 00:09:10,940 --> 00:09:14,644 彼は左腹内側前頭前野を損傷しました 139 00:09:14,644 --> 00:09:20,271 ダイナマイトが爆発し鉄の棒が 目の後ろから脳を貫いたのです 140 00:09:21,028 --> 00:09:25,308 事故の前は 礼儀正しく思いやりのある 人物という評判でした 141 00:09:26,080 --> 00:09:29,190 その事故後 彼は粗野になり 142 00:09:29,210 --> 00:09:30,067 もはや 143 00:09:30,067 --> 00:09:34,087 状況に合った社会的に適切な行動を 取れなくなったと言われています 144 00:09:34,109 --> 00:09:36,479 彼は認知的共感能力を 失ってしまったのです 145 00:09:39,125 --> 00:09:43,528 シカゴ大学のジーン・ディセティは 146 00:09:43,578 --> 00:09:45,859 fMRIを使い 147 00:09:46,505 --> 00:09:49,075 非行少年少女たちの脳を 148 00:09:49,099 --> 00:09:53,879 彼らに他者が苦痛を感じている動画を 見せながら観察しました 149 00:09:53,899 --> 00:09:59,250 例えばピアノを弾いている時に 鍵盤の蓋が閉じ 150 00:09:59,266 --> 00:10:01,436 指が潰される動画などです 151 00:10:01,471 --> 00:10:03,101 非行少年少女の脳では 152 00:10:03,101 --> 00:10:05,802 共感回路の一部である扁桃体が 153 00:10:05,802 --> 00:10:10,922 健全な人の典型的な活動レベルに 達しないことを発見しました 154 00:10:12,411 --> 00:10:15,921 ただ 共感性の持つ良い面を 忘れないようにしましょう 155 00:10:16,420 --> 00:10:19,140 我々の大半は十分に共感能力を持っています 156 00:10:19,155 --> 00:10:22,595 その能力がかなり高い人もいます 157 00:10:23,547 --> 00:10:25,448 この2人が お互いに対する 158 00:10:25,448 --> 00:10:30,408 尊敬の念と共感に基づいて 関係を築き上げた時 159 00:10:30,433 --> 00:10:33,723 南アフリカの人種隔離政策は 終わりを告げました 160 00:10:34,859 --> 00:10:38,499 共感は健全な民主主義には不可欠です 161 00:10:39,077 --> 00:10:41,797 共感することで 他の人たちの見解に耳を傾け 162 00:10:42,446 --> 00:10:46,836 気持ちを感じとります 163 00:10:47,527 --> 00:10:51,527 共感し合わずして 民主主義はあり得ないでしょう 164 00:10:54,292 --> 00:10:56,842 今週ケンブリッジで この2人の女性に会いました 165 00:10:56,865 --> 00:10:59,055 私を訪ねて来てくれたのです 166 00:10:59,292 --> 00:11:03,292 左はパレスチナ人のシハムです 167 00:11:04,023 --> 00:11:08,183 彼女の弟は イスラエル人に撃たれ亡くなりました 168 00:11:10,000 --> 00:11:14,023 右はイスラエル人のロビです 169 00:11:14,023 --> 00:11:18,303 彼女の息子は パレスチナ人の弾丸に当たり亡くなりました 170 00:11:19,730 --> 00:11:23,030 この2人の女性は 勇気ある行動に出て 171 00:11:23,030 --> 00:11:26,694 政治的分裂を超えた友情を育みました 172 00:11:27,529 --> 00:11:30,619 2人は復讐の感情に 身を任せることはなかったのです 173 00:11:30,619 --> 00:11:34,078 その感情は暴力を 繰り返させるだけに過ぎないからです 174 00:11:34,434 --> 00:11:38,524 その代わり2人は共感し合うことで 175 00:11:38,550 --> 00:11:44,280 お互いの愛する者を失った 悲しみと痛みを分かち合ったのです 176 00:11:46,788 --> 00:11:52,948 共感能力は争いの解決に最も重要な 我々が生まれながらに持つ能力です 177 00:11:54,167 --> 00:11:57,209 政治指導者たちが 178 00:11:57,237 --> 00:12:00,247 自分たちの共感能力を使い —新鮮でしょうね— 179 00:12:00,274 --> 00:12:03,536 我々も全員 その能力を 使えばいいのです 180 00:12:03,542 --> 00:12:06,535 シハムとロビが教えてくれたように 181 00:12:06,536 --> 00:12:10,226 「共感し合い 初めて争いは終わるのです」 182 00:12:10,265 --> 00:12:11,545 ありがとうございます 183 00:12:11,571 --> 00:12:13,301 (拍手)