果てしのない砂漠を行く
母親と息子
熱を発散し水分を回収する
ぴったりしたボディスーツを着た―
旅人が恐れているのは
渇きによる死ではなく
もっと大きなものです
2人は不規則な歩き方をして
歩く振動が砂の流れに
紛れるようにしていますが
砂漠の音はやがて
大きな地鳴りにかき消されます
迫ってくる砂の隆起に
2人の不自然な歩みは
全力疾走に変わります
2人が近くの岩に
よじ登ると同時に
400メートルある砂虫 (サンドウォーム) が
砂の中から飛び出します ―
これが『デューン 砂の惑星』の世界です
フランク・ハーバートによって書かれ
1965年に出版された『デューン 砂の惑星』は
巨大な封建的帝国として
人類が星々を支配している―
はるか未来を舞台にしています
この中世的なモチーフは
政治機構だけに限りません
宇宙を舞台とする
SFの多くとは異なり
この物語で人類はコンピューターを使わずに
星々を征服しています
大昔のロボットとの戦争を教訓に
人間のような知性を持つ
機械を作ることを禁じていたのです
しかし それによって
発展を止めることなく
人類は驚くような進化を遂げ
人間コンピューターや 超能力を持つ魔女や
予知能を持つ宇宙パイロットが現れます
そのような超人的能力を持つ人々を
雇っているのが
覇権を争い 新たな惑星を自らの王国に
加えんとする公家たちです
超人的能力の多くは
「スパイス」と呼ばれる
希少資源に依存しています
「メランジ」とも呼ばれる
この不思議な作物は
宇宙の旅に不可欠なものであり
銀河経済の基盤をなしています
そしてそれは砂漠の惑星
アラキスでしか育ちません
そこは荒涼とした
危険な世界で
原住民は昔から
帝国に抵抗してきました
デューン (砂の惑星) とも呼ばれるアラキスが
ハーバートの小説の舞台で
公家であるアトレイデ家の
ポウルを巡って話は進みます
物語はポウルの家族がデューンの管理者として
赴任するところから始まりますが
その裏には 宿敵であり
残忍な奴隷使いのハルコンネン家の
手の込んだ企みがありました
2家の争いは アラキスの繊細な政治的均衡を
崩すことになります
ポウルは全惑星的な革命の渦中に
投げ込まれます
この荒涼とした砂漠の世界で
指導者となり 生き抜く力があることを
彼は示さねばなりません
アラキスは単なる
際限のない砂の海ではありません
環境問題に造詣の深い著者は
デューンの複雑な生態系を作り上げるのに
5年以上を費やしています
様々な気候帯や
風の通り道があって
岩だらけの地形を
形作っています
異なる気候帯は
異なる植物相を生み出し
デューンの生態系の
様々な要素が合わさってはじめて
主要産品であるスパイスは
生み出されます
ハーバートの世界にはまた
豊かな哲学と宗教があります
ボウルの母親ジェシカは
古くからあるスパイスを使う能力者のカルトである
ベネ・ゲセリットのメンバーです
その不思議な力のため
「魔女たち」とも呼ばれるベネ・ゲセリットは
何千年もの間
影の政府として働き
社会を啓もうしてきました
同様に古くから存在している
メンタートたちは
膨大なデータを処理できる
人間コンピューターです
メンタートは論理と理性の塊ですが
その生み出すものは
単なる計算結果ではなく
変化し続ける可能性の流れです
しかしデューンの中心的存在といえば
フレーメンです
アラキスの原住民で
この惑星の秘密の番人です
ポウルはフレーメンの排他的組織へと
深く入り込むことになり
そこで危険の度を増していく
課題をこなして
信頼を勝ち取る必要があります
物語には それらの種族の
奥深い歴史が散りばめられており
本の構成もスケールの大きさを
感じさせるものになっています
各章は 未来の歴史書からの
引用で始まり
これから起きる出来事を
予感させます
この本には帝国の歴史が分かる
物語世界の資料が付いており
「ゴム・ジャバール」や「シャイ・フルド」といった
言葉を解説する用語集もあります
6巻を通して語られるデューンの
壮大な物語は数千年に及びますが
アラキスの未来の物語はすべて
迫りくる嵐に絶えず飲まれそうになる
危険で過酷な道を
ポウルがたどるところから
始まるのです