1 00:00:00,000 --> 00:00:04,000 私は癌と化学の研究をするために 2 00:00:04,000 --> 00:00:07,000 10年前にシカゴからボストンに移り住みました 3 00:00:07,000 --> 00:00:10,000 化学は化合物を作る学問だとお考えかもしれません 4 00:00:10,000 --> 00:00:14,000 しかし 私にとっては”化学=癌の新薬”です 5 00:00:14,000 --> 00:00:17,000 科学者と医療研究者にとって ボストンは 6 00:00:17,000 --> 00:00:20,000 何でもあるおもちゃ屋のようにわくわくする場所です 7 00:00:20,000 --> 00:00:23,000 車でどこの交差点を通っても 8 00:00:23,000 --> 00:00:25,000 必ず大学院生を見かけます 9 00:00:25,000 --> 00:00:27,000 バーも「科学の奇跡」という店名です 10 00:00:27,000 --> 00:00:31,000 「研究室 空きあります」の看板も見かけます 11 00:00:31,000 --> 00:00:33,000 さて この10年の間 12 00:00:33,000 --> 00:00:36,000 ゲノム医学という科学的革命が 13 00:00:36,000 --> 00:00:39,000 始まったと言っても過言ではないでしょう 14 00:00:39,000 --> 00:00:41,000 診察室に訪れる患者のことが 15 00:00:41,000 --> 00:00:43,000 今まで以上に詳しく分かります 16 00:00:43,000 --> 00:00:45,000 患者の「なぜ癌になったのか?」という 17 00:00:45,000 --> 00:00:48,000 長年誰も答えることができなかった問いに 18 00:00:48,000 --> 00:00:51,000 答えることができるようになりました 19 00:00:51,000 --> 00:00:53,000 ここに驚くようなデータがあります 20 00:00:53,000 --> 00:00:55,000 ゲノム創薬は始まったばかりですが 21 00:00:55,000 --> 00:00:57,000 すでに次のことが分かっています―― 22 00:00:57,000 --> 00:01:00,000 約40,000種の異なる遺伝子変異が 23 00:01:00,000 --> 00:01:03,000 10,000以上の遺伝子に影響を与えている 24 00:01:03,000 --> 00:01:05,000 そのうち500の遺伝子が 25 00:01:05,000 --> 00:01:07,000 癌の真の因子であり 26 00:01:07,000 --> 00:01:09,000 原因なのです 27 00:01:09,000 --> 00:01:11,000 しかし標的治療薬は 28 00:01:11,000 --> 00:01:14,000 まだ12種類ほどしか存在しません 29 00:01:14,000 --> 00:01:17,000 癌の治療薬の不足は 30 00:01:17,000 --> 00:01:19,000 父親が膵臓癌と診断されたとき 31 00:01:19,000 --> 00:01:22,000 痛感しました 32 00:01:22,000 --> 00:01:24,000 ボストンでの治療や 33 00:01:24,000 --> 00:01:26,000 遺伝子検査は行いませんでした 34 00:01:26,000 --> 00:01:28,000 それはこの悪性腫瘍の因子が 35 00:01:28,000 --> 00:01:30,000 何十年も前から知られているからです 36 00:01:30,000 --> 00:01:32,000 Ras・Myc・P53という 37 00:01:32,000 --> 00:01:35,000 3種類のタンパク質が引き起こします 38 00:01:35,000 --> 00:01:38,000 1980年代からこのことは知られていました 39 00:01:38,000 --> 00:01:40,000 3種類のタンパク質は 40 00:01:40,000 --> 00:01:42,000 様々な固形腫瘍を引き起こします 41 00:01:42,000 --> 00:01:44,000 しかし この腫瘍を患う患者に 42 00:01:44,000 --> 00:01:46,000 投与できる薬はまだありません 43 00:01:46,000 --> 00:01:49,000 死を呼ぶ Ras・Myc・P53に効く薬は 44 00:01:49,000 --> 00:01:52,000 まだ存在しないのです 45 00:01:52,000 --> 00:01:54,000 「なぜ?」と思われるかもしれません 46 00:01:54,000 --> 00:01:57,000 答えは「難しすぎるから」です 全く納得できませんが 47 00:01:57,000 --> 00:01:59,000 これが科学的な答えです 48 00:01:59,000 --> 00:02:01,000 そのためこれらのタンパク質は 専門用語で 49 00:02:01,000 --> 00:02:04,000 創薬につながる可能性が低い「アンドラッガブル遺伝子」 50 00:02:04,000 --> 00:02:06,000 と呼ばれるようになりました 51 00:02:06,000 --> 00:02:08,000 これはあきらめを表す酷い業界用語です 52 00:02:08,000 --> 00:02:10,000 パソコンでネットを見ることや 53 00:02:10,000 --> 00:02:12,000 月に行くことをあきらめるようなものです 54 00:02:12,000 --> 00:02:14,000 でも 現状はこういうことなのです―― 55 00:02:14,000 --> 00:02:16,000 タンパク質の鍵穴を見つけ 56 00:02:16,000 --> 00:02:19,000 鍵を開け そこに薬効のある 57 00:02:19,000 --> 00:02:22,000 小さな有機化合物を入れることに 58 00:02:22,000 --> 00:02:24,000 失敗したということです 59 00:02:24,000 --> 00:02:26,000 さて 私が臨床医学・血液学・腫瘍学--- 60 00:02:26,000 --> 00:02:28,000 幹細胞移植の研修を受けている間に 61 00:02:28,000 --> 00:02:30,000 起こったのは 62 00:02:30,000 --> 00:02:32,000 ヒ素やサリドマイド 63 00:02:32,000 --> 00:02:35,000 そしてナイトロジェンマスタードといった 64 00:02:35,000 --> 00:02:37,000 物質が 65 00:02:37,000 --> 00:02:39,000 米国FDAの承認過程を 66 00:02:39,000 --> 00:02:41,000 経て 抗がん剤として 67 00:02:41,000 --> 00:02:43,000 承認されたことです 68 00:02:43,000 --> 00:02:46,000 21世紀なのにまだその段階なのです 69 00:02:46,000 --> 00:02:48,000 これらの治療薬の効果と質に 70 00:02:48,000 --> 00:02:50,000 疑問を抱いたため 71 00:02:50,000 --> 00:02:53,000 化学の研究のために大学に戻ったとも言えます 72 00:02:53,000 --> 00:02:55,000 創薬化学のやり方を理解して 73 00:02:55,000 --> 00:02:58,000 オープンソースやクラウドソーシングそして 74 00:02:58,000 --> 00:03:01,000 大学ならではの協業ネットワークを活用する方法で 75 00:03:01,000 --> 00:03:03,000 抗体医薬を研究するために 76 00:03:03,000 --> 00:03:05,000 大学に戻りました 77 00:03:05,000 --> 00:03:08,000 新時代の研究方法を用いることで 78 00:03:08,000 --> 00:03:10,000 強力な分子標的治療法を 79 00:03:10,000 --> 00:03:12,000 もっと早く医療現場に 80 00:03:12,000 --> 00:03:14,000 届けられるかもしれないのです 81 00:03:14,000 --> 00:03:17,000 ただ この方法はまだ一般的でないとご理解ください 82 00:03:17,000 --> 00:03:19,000 今日はこれから 83 00:03:19,000 --> 00:03:21,000 大変稀な扁平上皮性癌と 84 00:03:21,000 --> 00:03:23,000 その原因でありアンドラッガブルな 85 00:03:23,000 --> 00:03:25,000 標的タンパク質BRD4 そして 86 00:03:25,000 --> 00:03:27,000 JQ1いう化合物についてお話します 87 00:03:27,000 --> 00:03:29,000 JQ1は 88 00:03:29,000 --> 00:03:31,000 ダナファーバー癌研究所の 89 00:03:31,000 --> 00:03:33,000 私の研究室で開発しました 90 00:03:33,000 --> 00:03:36,000 愛着を込めて この化合物を作った化学者である 91 00:03:36,000 --> 00:03:39,000 Jun Qi氏のイニシャルを使いました 92 00:03:39,000 --> 00:03:42,000 さて BRD4は興味深いタンパク質です 93 00:03:42,000 --> 00:03:45,000 癌は様々な方法で患者の体を蝕もうとしますが どうやって--- 94 00:03:45,000 --> 00:03:47,000 自分が癌だと記憶しているのでしょうか 95 00:03:47,000 --> 00:03:49,000 ゲノムを複製し細胞分裂するとき 96 00:03:49,000 --> 00:03:51,000 また癌細胞になるのはなぜか? 97 00:03:51,000 --> 00:03:53,000 目や肝臓をつくるための 98 00:03:53,000 --> 00:03:56,000 遺伝子は揃っているのに そうはなりません 99 00:03:56,000 --> 00:03:58,000 癌であることを記憶しているのです 100 00:03:58,000 --> 00:04:01,000 それは 癌細胞が他の細胞と同じように 101 00:04:01,000 --> 00:04:03,000 分子レベルの印を持っていて 102 00:04:03,000 --> 00:04:05,000 新しい細胞に「君は癌細胞だ―― 103 00:04:05,000 --> 00:04:08,000 増殖しないとだめだ」と記憶させるからです 104 00:04:08,000 --> 00:04:10,000 ブロモドメインを持つ 105 00:04:10,000 --> 00:04:12,000 BRD4や他のタンパク質類には 106 00:04:12,000 --> 00:04:14,000 この分子レベルの印が存在します 107 00:04:14,000 --> 00:04:17,000 私達は次のように考えました―― 108 00:04:17,000 --> 00:04:19,000 このタンパク質の根元にある 109 00:04:19,000 --> 00:04:21,000 小さなポケットに化合物を入れて 110 00:04:21,000 --> 00:04:23,000 この印が結合することを 111 00:04:23,000 --> 00:04:25,000 防ぐことができれば 112 00:04:25,000 --> 00:04:27,000 BRD4依存性の癌細胞に 113 00:04:27,000 --> 00:04:30,000 癌であることを忘れさせることができるのではないかと考えたのです 114 00:04:30,000 --> 00:04:32,000 癌であることを忘れさせることができるのではないかと考えたのです 115 00:04:32,000 --> 00:04:34,000 そうして私達の探求が始まりました 116 00:04:34,000 --> 00:04:36,000 化合物ライブラリーを構築し 117 00:04:36,000 --> 00:04:39,000 探していた物質であるJQ1と 118 00:04:39,000 --> 00:04:41,000 その類似物質にたどりついたのです 119 00:04:41,000 --> 00:04:43,000 私達は製薬会社ではありませんから 120 00:04:43,000 --> 00:04:46,000 製薬会社にとっては難しくて当然である 121 00:04:46,000 --> 00:04:49,000 柔軟なアプローチを取ることができます 122 00:04:49,000 --> 00:04:51,000 私の研究室は小さいので 123 00:04:51,000 --> 00:04:53,000 化合物の動態が知りたいと考え 124 00:04:53,000 --> 00:04:55,000 化合物を友人に郵送しました 125 00:04:55,000 --> 00:04:57,000 英オックスフォードの優秀な結晶学者チームは 126 00:04:57,000 --> 00:05:00,000 ある画像を送ってきて この化合物が 127 00:05:00,000 --> 00:05:02,000 特定の標的タンパク質に対して 128 00:05:02,000 --> 00:05:05,000 とても有効である理由を教えてくれました 129 00:05:05,000 --> 00:05:07,000 専門用語で形状相補性と言いますが 130 00:05:07,000 --> 00:05:09,000 ぴったりとはまったのです 131 00:05:09,000 --> 00:05:11,000 このBRD4依存性の癌は 132 00:05:11,000 --> 00:05:13,000 とても珍しい癌です 133 00:05:13,000 --> 00:05:16,000 私達は ブリガム・アンド・ウィメンズ病院の 134 00:05:16,000 --> 00:05:19,000 病理学者が集めた検体を使って調べました 135 00:05:19,000 --> 00:05:22,000 そして癌細胞をこの化合物で処理することで 136 00:05:22,000 --> 00:05:24,000 衝撃的な現象を観察できたのです 137 00:05:24,000 --> 00:05:26,000 小さく丸みを帯びた形の 138 00:05:26,000 --> 00:05:28,000 増殖速度がとても速い 139 00:05:28,000 --> 00:05:30,000 その細胞が 140 00:05:30,000 --> 00:05:32,000 腕のような突起を伸ばし始めたのです 141 00:05:32,000 --> 00:05:34,000 要するに細胞の形が変わったのです 142 00:05:34,000 --> 00:05:36,000 癌細胞であることを忘れ 143 00:05:36,000 --> 00:05:39,000 正常な細胞に変わっていたのです 144 00:05:39,000 --> 00:05:42,000 この発見にはとても興奮しました 145 00:05:42,000 --> 00:05:45,000 次のステップはマウスに化合物を注入することでしたが 146 00:05:45,000 --> 00:05:48,000 この稀な癌のマウスモデルがないという課題がありました 147 00:05:48,000 --> 00:05:51,000 このとき私はコネチカット州出身の 148 00:05:51,000 --> 00:05:54,000 29歳の消防士を診ていました 149 00:05:54,000 --> 00:05:57,000 このBRD4依存性の治療できない癌で 彼は 150 00:05:57,000 --> 00:05:59,000 末期状態にありました 151 00:05:59,000 --> 00:06:01,000 癌は左肺に広がっていて 152 00:06:01,000 --> 00:06:03,000 胸に通されたドレーンから 153 00:06:03,000 --> 00:06:05,000 胸水を抜いていました 154 00:06:05,000 --> 00:06:07,000 そして看護師が巡回するたびに 155 00:06:07,000 --> 00:06:09,000 廃液は捨てられていました 156 00:06:09,000 --> 00:06:11,000 私達は彼に協力を依頼しました 157 00:06:11,000 --> 00:06:13,000 マウスを使った臨床実験を行ない 158 00:06:13,000 --> 00:06:17,000 薬のプロトタイプを作るために胸の管から抜かれている 159 00:06:17,000 --> 00:06:19,000 とても希少な癌細胞を 160 00:06:19,000 --> 00:06:21,000 使わせてもらえないかと 161 00:06:21,000 --> 00:06:23,000 研究の協力を依頼しました 162 00:06:23,000 --> 00:06:25,000 ヒトで試すことはもちろんできません 163 00:06:25,000 --> 00:06:28,000 彼は癌細胞の提供に同意してくれました 164 00:06:28,000 --> 00:06:31,000 そしてルーリーファミリーセンターにおいて 165 00:06:31,000 --> 00:06:33,000 同僚のアンドリュー・カン氏が 166 00:06:33,000 --> 00:06:36,000 基材への細胞接着を行なわずに マウスの体内で 167 00:06:36,000 --> 00:06:38,000 癌細胞を培養することに成功しました 168 00:06:38,000 --> 00:06:41,000 これはマウスのPET画像です 169 00:06:41,000 --> 00:06:43,000 ペットのPETとでも言いましょうか 170 00:06:43,000 --> 00:06:46,000 後ろ足にある赤く大きな塊が腫瘍です 171 00:06:46,000 --> 00:06:48,000 私達が作った化合物を使うことで 172 00:06:48,000 --> 00:06:50,000 癌細胞の活発な糖代謝と 173 00:06:50,000 --> 00:06:52,000 増殖速度が抑制されました 174 00:06:52,000 --> 00:06:54,000 この右のマウスでは 175 00:06:54,000 --> 00:06:57,000 化合物が癌に効いているのが分かります 176 00:06:57,000 --> 00:06:59,000 これまで4匹のマウスモデルを使った 177 00:06:59,000 --> 00:07:01,000 実験を行ないました 178 00:07:01,000 --> 00:07:03,000 実験の結果はいつも同じです 179 00:07:03,000 --> 00:07:05,000 化合物を与えられたマウスは生き延び 180 00:07:05,000 --> 00:07:08,000 それ以外のマウスはすぐに死んでしまいます 181 00:07:10,000 --> 00:07:12,000 次に製薬会社であればどう動くか 182 00:07:12,000 --> 00:07:14,000 製薬会社ならここから先は 183 00:07:14,000 --> 00:07:16,000 どうするだろうかと考えました 184 00:07:16,000 --> 00:07:18,000 たぶんプロトタイプを原薬にするまで 185 00:07:18,000 --> 00:07:20,000 秘密にするだろうと思いましたので 186 00:07:20,000 --> 00:07:22,000 私達は製薬会社とは逆の行動をとりました 187 00:07:22,000 --> 00:07:24,000 プロトタイプの早い段階で 188 00:07:24,000 --> 00:07:26,000 この研究成果について 189 00:07:26,000 --> 00:07:28,000 論文を発表したのです 190 00:07:28,000 --> 00:07:31,000 通常は秘密にされる化合物の化学的特定名も 191 00:07:31,000 --> 00:07:33,000 公開しました 192 00:07:33,000 --> 00:07:35,000 化合物の作り方についても公開しました 193 00:07:35,000 --> 00:07:37,000 メールアドレスも公開し 194 00:07:37,000 --> 00:07:39,000 連絡をもらえれば化合物のサンプルを 195 00:07:39,000 --> 00:07:41,000 無料で提供すると伝えました 196 00:07:41,000 --> 00:07:43,000 自分達にとってこれ以上ないほど 197 00:07:43,000 --> 00:07:45,000 競争の激しい環境を作ろうとしたのです 198 00:07:45,000 --> 00:07:47,000 残念ながら...結果は成功でした 199 00:07:47,000 --> 00:07:49,000 (笑) 200 00:07:49,000 --> 00:07:51,000 昨年12月から 201 00:07:51,000 --> 00:07:53,000 アメリカにある40の研究施設と 202 00:07:53,000 --> 00:07:55,000 ヨーロッパにある30の研究施設に 203 00:07:55,000 --> 00:07:57,000 私達が見つけた化合物を提供してきました 204 00:07:57,000 --> 00:07:59,000 その提供先の多くは 205 00:07:59,000 --> 00:08:01,000 この珍しい癌を狙って 206 00:08:01,000 --> 00:08:03,000 開発を試みている製薬会社です 207 00:08:03,000 --> 00:08:05,000 業界で今この癌がターゲットとして 208 00:08:05,000 --> 00:08:07,000 注目されているのは願っても無いことです 209 00:08:09,000 --> 00:08:12,000 これらの研究施設から戻ってきた 210 00:08:12,000 --> 00:08:14,000 化合物の用途に関する科学的知見は 211 00:08:14,000 --> 00:08:16,000 自分達だけでは得られなかった 212 00:08:16,000 --> 00:08:18,000 有益なものです 213 00:08:18,000 --> 00:08:20,000 白血病細胞を化合物で処理すると 214 00:08:20,000 --> 00:08:23,000 健康な白血球に戻ります 215 00:08:23,000 --> 00:08:25,000 この化合物は 216 00:08:25,000 --> 00:08:28,000 悪性骨髄腫瘍である多発性骨髄腫という 217 00:08:28,000 --> 00:08:30,000 不治の病を患うマウスに 218 00:08:30,000 --> 00:08:32,000 劇的な効果があります 219 00:08:32,000 --> 00:08:34,000 ご存じのとおり脂肪には記憶力があります 220 00:08:34,000 --> 00:08:38,000 残念なことに ここに実例がありますが... 221 00:08:38,000 --> 00:08:40,000 この化合物は脂肪幹細胞の 222 00:08:40,000 --> 00:08:43,000 「脂肪をつくる」という記憶を妨げます 223 00:08:43,000 --> 00:08:46,000 重大な健康問題を防ぐことができるのです 224 00:08:46,000 --> 00:08:48,000 私の地元シカゴの人々のように 225 00:08:48,000 --> 00:08:51,000 脂肪分の多い食事をしているマウスでも 226 00:08:51,000 --> 00:08:53,000 脂肪肝を発症しないのです 227 00:08:53,000 --> 00:08:56,000 この研究を通して 228 00:08:56,000 --> 00:08:58,000 私の研究室だけでなく 229 00:08:58,000 --> 00:09:00,000 ハーバード大医学部全体が 230 00:09:00,000 --> 00:09:02,000 学んだことがあります 231 00:09:02,000 --> 00:09:04,000 学界には新薬の発見に役立つ 232 00:09:04,000 --> 00:09:06,000 学界特有の資源があるということです 233 00:09:06,000 --> 00:09:08,000 私が所属する研究施設では 234 00:09:08,000 --> 00:09:10,000 どこよりも多くの抗癌化合物を 235 00:09:10,000 --> 00:09:12,000 科学的に研究してきましたが 236 00:09:12,000 --> 00:09:14,000 開発はしてきませんでした 237 00:09:14,000 --> 00:09:16,000 ここに列挙した特徴を 238 00:09:16,000 --> 00:09:19,000 教育研究機関は兼ね備えているので 239 00:09:19,000 --> 00:09:22,000 創造性を必要とし概念的にやっかいなところのある 240 00:09:22,000 --> 00:09:25,000 まだ初期段階のプロトタイプ開発に参加するのは 241 00:09:25,000 --> 00:09:27,000 教育研究機関には大きなチャンスです 242 00:09:29,000 --> 00:09:31,000 それでは何を次に行うべきでしょうか? 243 00:09:31,000 --> 00:09:33,000 化合物はありますが 244 00:09:33,000 --> 00:09:36,000 まだ錠剤になっておらず経口薬として提供できません 245 00:09:36,000 --> 00:09:39,000 患者に使ってもらえるようにする必要があります 246 00:09:39,000 --> 00:09:41,000 私の研究室の誰もが 247 00:09:41,000 --> 00:09:43,000 特に患者と直接関わって以来 248 00:09:43,000 --> 00:09:45,000 この化合物を使った薬を世に出したいと 249 00:09:45,000 --> 00:09:47,000 強く感じています 250 00:09:47,000 --> 00:09:49,000 そこで皆さんにお願いです 251 00:09:49,000 --> 00:09:51,000 力と知恵を貸してください 252 00:09:51,000 --> 00:09:53,000 そして取り組みを一緒に進めましょう 253 00:09:53,000 --> 00:09:55,000 私達には製薬会社のように 254 00:09:55,000 --> 00:09:58,000 化合物を加えるような新薬パイプラインはありません 255 00:09:58,000 --> 00:10:01,000 競合と比較して 市場で狙うべきポジションを 256 00:10:01,000 --> 00:10:04,000 教えてくれる営業やマーケターもいません 257 00:10:04,000 --> 00:10:06,000 私達の強みは教育研究機関としての柔軟性です 258 00:10:06,000 --> 00:10:09,000 薬のプロトタイプを共有できる状況を保ちながらも 259 00:10:09,000 --> 00:10:12,000 優秀でやる気に溢れそして贅沢を言えば資金力が豊かな人たちとも協業し 260 00:10:12,000 --> 00:10:14,000 優秀でやる気に溢れそして贅沢を言えば資金力が豊かな人たちとも協業し 261 00:10:14,000 --> 00:10:16,000 新しい化合物を治療薬として 262 00:10:16,000 --> 00:10:19,000 現場に届けることができる そんな柔軟性です 263 00:10:19,000 --> 00:10:21,000 私達が見つけた化合物は 264 00:10:21,000 --> 00:10:23,000 もうすぐ私達の下を離れテンシャ・セラピューティックスというベンチャー企業に移ります 265 00:10:23,000 --> 00:10:25,000 もうすぐ私達の下を離れテンシャ・セラピューティックスというベンチャー企業に移ります 266 00:10:25,000 --> 00:10:28,000 私達が見つけ 267 00:10:28,000 --> 00:10:31,000 送り出していく化合物はこれで4つ目です 268 00:10:31,000 --> 00:10:34,000 その4つのうち 269 00:10:34,000 --> 00:10:37,000 皮膚リンパ腫の局所薬と 270 00:10:37,000 --> 00:10:40,000 多発性骨髄腫の経口薬の2つが 271 00:10:40,000 --> 00:10:42,000 今年7月に患者の下に 272 00:10:42,000 --> 00:10:44,000 臨床試験薬として届きます 273 00:10:44,000 --> 00:10:47,000 これは素晴らしい 大きな一歩です 274 00:10:48,000 --> 00:10:50,000 最後に2つお伝えしたいと思います 275 00:10:50,000 --> 00:10:52,000 1つは 276 00:10:52,000 --> 00:10:55,000 今回の研究で独自な点があるとすれば 277 00:10:55,000 --> 00:10:57,000 科学面というよりも戦略面にあります 278 00:10:57,000 --> 00:10:59,000 新しい戦略の社会実験でした 279 00:10:59,000 --> 00:11:02,000 創薬化学研究の最初のフェーズで 280 00:11:02,000 --> 00:11:05,000 可能な限りオープンにすると 281 00:11:05,000 --> 00:11:07,000 どうなるかを試す 282 00:11:07,000 --> 00:11:09,000 実験でした 283 00:11:09,000 --> 00:11:11,000 テキストメッセージや 284 00:11:11,000 --> 00:11:13,000 ツイッターで 285 00:11:13,000 --> 00:11:15,000 送ることができる 286 00:11:15,000 --> 00:11:17,000 この文字と数字と記号の羅列が 287 00:11:17,000 --> 00:11:20,000 私達の化合物の化学的特定名です 288 00:11:20,000 --> 00:11:22,000 製薬会社が一番欲しがるのは 289 00:11:22,000 --> 00:11:24,000 創薬早期における 290 00:11:24,000 --> 00:11:26,000 プロトタイプ化合物の作用についての 291 00:11:26,000 --> 00:11:29,000 情報なのです 292 00:11:29,000 --> 00:11:32,000 しかしこういった情報は秘密にされています 293 00:11:32,000 --> 00:11:34,000 そこで素晴らしい功績を出してきた 294 00:11:34,000 --> 00:11:36,000 コンピュータサイエンス分野における 295 00:11:36,000 --> 00:11:39,000 2つの原理原則を借りたいと考えます 296 00:11:39,000 --> 00:11:42,000 オープンソースとクラウドソーシングの考え方です 297 00:11:42,000 --> 00:11:46,000 これらに基づき責任を持って更に迅速に 298 00:11:46,000 --> 00:11:49,000 分子標的治療法を癌患者の下に 299 00:11:49,000 --> 00:11:51,000 届けたいと思います 300 00:11:51,000 --> 00:11:54,000 このビジネスモデルは皆さんも対象としています 301 00:11:54,000 --> 00:11:56,000 研究は一般から資金を募って行っています 302 00:11:56,000 --> 00:11:58,000 財団や基金が支援してくれています 303 00:11:58,000 --> 00:12:00,000 大変素晴らしいことですが 304 00:12:00,000 --> 00:12:02,000 ボストンの皆さんは癌のためなら何でもします 305 00:12:02,000 --> 00:12:05,000 自転車での州横断や川沿いのチャリティーウォーク 306 00:12:05,000 --> 00:12:07,000 (笑) 307 00:12:07,000 --> 00:12:09,000 癌研究に対する 308 00:12:09,000 --> 00:12:11,000 このような形の支援は 309 00:12:11,000 --> 00:12:13,000 他では見たことがありません 310 00:12:13,000 --> 00:12:15,000 皆さんのご協力と参加に感謝します 311 00:12:15,000 --> 00:12:18,000 そして何よりも私達の考えを応援してくださり 312 00:12:18,000 --> 00:12:21,000 ありがとうございます 313 00:12:21,000 --> 00:12:26,000 (拍手)