40時間 一睡もせずに迎えた
朝の4時
ついに この動画にまつわる
パズルが解けます
ニワトリと ローラースケートで滑る
ビーバーがダンスを競い合う動画です
(笑)
そのとき感じる戸惑いと喜びは
「MITミステリーハント」で
よく経験するものです
オリンピックとバーニングマンを
合体させたような
ある分野のオタクのためのイベントです
(笑)
今日ご紹介するのは
この一風変わっていて
自ら脳をいじめ倒す
とんでもなく楽しいパズルの世界です
まず ここで言う「パズル」の意味を
ご説明します
パズルハントで使われるパズルは
ひとまとまりのデータです
縦横に並んだ文字や数独
映像や音声など 形式はさまざまで
その中に隠された情報を紐解いていくと
答えである単語やフレーズが現れます
一例をご紹介しましょう
『傑作(Master Pieces)』
というパズルです
レゴの人形がレゴブロックの塊を
見ている画像10枚で構成されています
時間もありませんので
種明かしをします
レゴブロックの塊はそれぞれ
有名な芸術家の作品をバラバラにしたもので
各芸術家の作風がうかがえます
左のは 誰の作品か分かりますか?
赤が多く使われていますね
そうです ロスコです
2つ目はどうですか?
(聴衆)モンドリアン
(アレックス)そのとおりです
3つ目はどうですか?
これが一番難しい
そう クリムトです
お見事でした
色が重要な手がかりとなっています
このパズルにある
いくつかの手がかりによれば
ここで重要なのは
個々の芸術作品ではなく
芸術家のほうだと分かります
次に まだ使っていない手がかりを
見てみましょう
それぞれの絵にいる
レゴ人形の数です
人形を数えて
それから芸術家の苗字の文字を
前から順に同じ数まで数えていきます
左のロスコの例では
人形が3体いるので
ロスコ(Rothko)の
3番目の文字の「T」です
モンドリアン(Mondrian)の絵では
1体だけだから最初の文字の「M」
クリムト(Klimt)はまた3体だから
3番目の文字の「I」です
10人の芸術家の名前から
こうやって文字をとって
それを順番に並べたら
答えが出ます
「illuminate(明らかにする)」
(笑)
こうしたパズルは
何らかのアイデアを伝えるものです
でも ここで できるだけ
はっきりさせておきたいのは
パズルは曖昧さと明快さの間に
なければならないことです
努力しないと解けないくらい
とらえどころがなく
すべてのピースがはまったとき
ひらめきの瞬間が訪れるくらい
洗練されていないといけません
その瞬間が病みつきになり
人はパズルにハマるのです
その瞬間 気持ちがスッと高揚し
パッと視界が開けます
そして より深い達成感も
もたらされるので
人は生まれながらにして
問題を解決するのが好きなのです
だからクロスワードや脱出ゲームが人気で
海底調査の方法を考えたりもするのです
一筋縄ではいかない難解なパズルを解くことで
新たな方向に思考を広げられるようになり
多様な観点から
問題に向き合えるようにもなります
こうしたパズルから構成される
パズルハントは
形式や規模もさまざまで
初心者向けの1時間コースや
24時間のロードラリー
そしてパズルハントの最高峰である
MITミステリーハントがあります
MITミステリーハントは
年に1回開催され
MITのキャンパスに
約2千人が集まり
1人から百人超で構成されるチームで
パズルを解いていきます
私のチームは60人です
メンバーには クロスワードパズルの
全米チャンピオンや
分子物理学者や作曲家
本物の深海探検家もいて
私は「Mr. ビーン、暗号解読基地に行く」
という感じです
(笑)
実はこれは言い得て妙なんです
ある年のパズルで
段ボール紙を使って
実際に使えるローター式暗号機を
作らされたからです
(笑)
ミステリーハントは
毎回テーマがあり
『マトリックス』や
『不思議の国のアリス』など
多くは大衆文化か文学を
ベースとしたテーマです
ゴールは MITキャンパスのどこかに
隠されたコインを見つけることです
そのためには
パズルを150個くらい解き
さまざまなイベントや課題を
こなす必要があります
優勝など夢にも思わないまま
参加し続けて10年になろうという
2016年1月のことでした
映画『インセプション』がテーマの回で
開始から53時間後
私たちは何日も寝ておらず
何にでも大ウケする始末で―
(笑)
机の上は メモや解いたパズルの
紙で埋め尽くされ
ホワイトボードは3日分の思いつきが詰まった
訳の分からない殴り書きだらけでした
2つのパズルで行き詰まっていて
その2つを解けば
大詰めというところでした
でも 何時間か考えていると
魔法のような瞬間が訪れて
ほぼ同時に2つのパズルが
解けたのです
そしてすぐに
一連の手がかりが指し示す―
コインがある場所まで
最後の疾走をしていました
見学ツアー客にぶつかったり
怖がらせないよう気をつけて
MITの廊下を駆け抜けました
気づけば 私のチームの他に
もう1チーム 走っていました
どちらが先を行っているか
分かりませんでした
私たちは 不安と期待
興奮 そして睡眠不足で
ぐちゃぐちゃな頭のまま
『アルケミスト』という像に
たどり着き
そこで―
このコインを見つけました
(歓声)
そうです
(拍手)
私たちはMITミステリーハントで
勝ったのです
5分という僅差でした
まだ言っていませんでしたが
優勝賞品は
翌年のパズルハントを
丸ごと作れるというものです
(笑)
優勝した罰として
次の年のパズルハントを全部
作らないといけないのです
2016年初めまで
私はパズルを作ったことがありませんでした
たくさん解いてはいましたが
作るのと解くのとでは
全く違う難しさがあります
でも また幸運にも
私のチームは 多くの素晴らしいメンターや
協力者に恵まれていました
パズル設計の観点から言えば
パズルとは 自分のアイデアを
そのまま伝えるのではなく
手がかりを残していって
他の人が自ら答えを導き出せるようにし
ひらめきの瞬間の喜びを
感じられるようにするものです
別の視点から
ひらめきの瞬間に向き合うのです
私が本当に素晴らしいと思うのは
こんな風に
すごく感情的で かつ
ほぼ身体的な経験を
緻密な設計で作り出せるということです
どういう意味かご説明しますと
これは 友人のマット・グルスキンと
一緒に作ったパズルです
テキストアドベンチャーです
古典的な冒険ゲームの形式をとっていて
東西南北に動いて探検しながら
アイテムを獲得し
それを使っていきます
でも こうしてゲームの最後まで行っても
パズルを解いたことにはなりません
パズルを解くには
隠された情報を見つける必要があります
一番分かりやすいのは
ゲームを地図に描き出すことです
こんな風にです
これが何か分かる人はいますか?
はい そうです
このテキストアドベンチャーは
『カタンの開拓者たち』がベースなんです
『カタン』を知っている人は?
オタクですね
(笑)
『カタン』はボードゲームです
人と競い合いながら
資源を集めて道や家を作るゲームです
このテキストアドベンチャーには
いろんな形で情報が隠されていて
それを使うと ゲーム全体を
再構築することができます
道や街、家、資源や
数字の割り振られたタイル
そしてサイコロの目まであります
これを全部合わせると
答えが見つけられますが
今 説明するには
複雑すぎるのでやめておきます
(笑)
本当に知りたい方は後で来てください
(笑)
このパズル作りで痛感したのは
ひらめきの瞬間を導くために
視点を変えることの大切さです
このパズルは
登場人物の目線で
世界を探検するところから始め
ボードゲームで遊ぶときのように
上から全体を俯瞰するようになります
こうして視点を変えることで
それまでに与えられた全情報を
完全に再構成することになるのです
パズル設計で一番難しく感じるのは
ひらめきの瞬間を導く良い着想を得ることです
幸いにも この世界は
アイデアと情報であふれています
ミツバチの尻振りダンスから構成された
素晴らしいパズルもありますし
ピアノの88鍵は
空にある88の星座に
きれいに紐づけできるという
すごい偶然もあります
そうした着想を得たら
パズルにせずにはいられません
後はパズルを解く人に考えさせ
その関係性を見つけさせるのです
鍵盤に星を描いたり
天空の音楽で宇宙を語ったり
あの手この手で
答えにたどり着かせます
そのうち 皆さんも気づいたら
亀をじっと見つめて
「これもパズルか?」
と思うようになりますよ
(笑)
そして亀を見て
「甲羅だけでもこんなに多くのパズルが!」
と思うようになります
皆さんに身近な例で言うなら
TEDの講演を見ながら
「これもパズルか?」と思うようなものです
(笑)
教えませんけどね
でも パズルというのは
絶対になさそうなところに
あるものです
最初にご紹介した
一番のお気に入りのパズルがそうです
トリップ・ペイン氏が作ったものです
今度は音声付きで流しますから
何のメロディーか考えてください
(ニワトリの鳴きまねのスローモーション)
(ニワトリの鳴きまねのスローモーション)
(ニワトリの鳴きまねのスローモーション)
(笑)
分かった人いますか?
そう「ナチュラル・ウーマン」です
(笑)
この他に7つの楽曲を特定して
さらに映像の中に手がかりを探します
撮影や編集方法
それから 切り替わった映像も
参考にします
机の前に並んで座る5人は
審査委員を彷彿させ
すべてはリアリティ・コンペティション番組に
結びつきます
するとインターネットで調べるにせよ
ただ思いつくにせよ
ひらめきの瞬間がやってきます
これは『ル・ポールのドラァグ・レース』の
口パク対決を模した映像なのです
(笑)
なぜ こんなことをするのか?
(笑)
(拍手)
さあ 私には分かりません
でもまあ 何と言っても
本当に楽しいです
それに 私たちの人生を
いろんな意味で良くしてくれます
パズルが解けるようになって
私は困難に直面しても
最初から1つの方法に決め込むことなく
複数の観点から
検討できるようになりました
また パズルを解くプロセスは
チーム活動の良い訓練になります
いつ相手に耳を傾け
いつ情報を共有するべきか
どう良い気づきを認めて
それを称えるかが分かります
そして ひらめきの瞬間を作れることは
とても強力な武器になります
自ら手がかりを結び付けていって
アイデアを自分自身の中から見出せたら
それが どれだけ力強く刺激的で
説得力を持つかお分かりでしょう
2017年1月
何万時間もかけて作り上げた―
私たちのパズルハントを
ついに開催しました
ひらめきの瞬間に訪れる急速な高揚感とは
一味違う満足感が そこにはありました
複雑で抽象的な形で
じわじわと何かを伝えているのに
それでも理解してもらえるんです
パズルハントが終わったとき
疲れ果てた私たちは お互いに
そして世界に宣言しました
「こんなのはもうゴメンだ
大変すぎる
楽しいけど もう勝たないぞ」
1年後の2018年1月
MITミステリーハントで
また勝ちました
(笑)
今まで本当に何万時間
費やしたか分かりませんが
2019年のパズルハントまで後2か月です
もうパズルを作りに行かないと―
ありがとうございました
(笑)
(拍手)