WEBVTT

00:00:00.620 --> 00:00:02.890
本日は人間の脳について
お話したいと思います

00:00:02.890 --> 00:00:05.450
私たちはカリフォルニア大学で
脳を研究しています

00:00:05.450 --> 00:00:07.260
脳について少し
考えてみてください

00:00:07.260 --> 00:00:09.890
ここに あなたの
手のひらに収まる

00:00:09.890 --> 00:00:12.090
約1.5kgの肉塊があります

00:00:12.090 --> 00:00:15.870
それは宇宙の広大さを
考えることができます

00:00:15.870 --> 00:00:18.130
それは無限の意味を
考えることができ

00:00:18.130 --> 00:00:21.000
また 自身の存在の意味や
神とは何かについて

00:00:21.000 --> 00:00:22.610
問うことができます

NOTE Paragraph

00:00:22.610 --> 00:00:25.290
脳はこの世で もっとも
驚嘆すべき物体なのです

00:00:25.290 --> 00:00:27.500
人類にとっての
最大の神秘です

00:00:27.500 --> 00:00:29.780
脳はどのようにして
生まれたのでしょう？

00:00:29.780 --> 00:00:32.260
脳はご存じの通りニューロン（神経細胞）から
構成されています

00:00:32.260 --> 00:00:33.930
これはニューロンの写真です

00:00:33.930 --> 00:00:37.070
成人の脳には
千億のニューロンがあります

00:00:37.070 --> 00:00:39.560
それぞれのニューロンは
他のニューロンと

00:00:39.560 --> 00:00:42.220
千 から １万 の
つながりを持っています

00:00:42.220 --> 00:00:43.400
このことから

00:00:43.400 --> 00:00:45.810
脳活動の順列と
組み合わせの数が

00:00:45.810 --> 00:00:49.690
宇宙にある素粒子の数を超える
という計算結果が出ています

NOTE Paragraph

00:00:49.690 --> 00:00:51.910
では 脳の研究には どのように
取り組んだらよいでしょう

00:00:51.910 --> 00:00:54.240
一つの方法は 
異なる脳部位に障害をもつ

00:00:54.240 --> 00:00:57.000
患者たちの振る舞いの違いを
研究するものです

00:00:57.000 --> 00:00:59.230
これは 私が前にTED で
お話ししたことです

00:00:59.230 --> 00:01:01.000
本日は別の方法について
お話します

00:01:01.000 --> 00:01:03.170
それは脳の様々な部位に
電極を刺し

00:01:03.170 --> 00:01:06.890
個々の神経細胞の活動を
記録するものです

00:01:06.890 --> 00:01:11.000
脳の神経細胞の活動を
盗聴するといった感じです

NOTE Paragraph

00:01:11.000 --> 00:01:14.000
さて イタリア パルマの研究者である

00:01:14.000 --> 00:01:16.490
ジャコモ・リゾラッティと
同僚たちによって

00:01:16.490 --> 00:01:18.950
最近発見されたものに

00:01:18.950 --> 00:01:21.000
ミラーニューロンと呼ばれる

00:01:21.000 --> 00:01:24.000
前頭葉の神経細胞群があります

00:01:24.000 --> 00:01:26.180
50年以上も前から知られている

00:01:26.180 --> 00:01:29.000
通常 運動指令ニューロンと呼ばれる
神経細胞が

00:01:29.000 --> 00:01:31.000
前頭葉にあるのですが

00:01:31.000 --> 00:01:34.590
このニューロンは
人がある特定の行動をする時に発火します

00:01:34.590 --> 00:01:37.360
こうして 手を伸ばして
リンゴを掴むと

00:01:37.360 --> 00:01:40.780
前頭葉にある運動指令ニューロンが
発火します

00:01:40.780 --> 00:01:43.870
手を伸ばして何かを引っ張ると 
別のニューロンが発火し

00:01:43.870 --> 00:01:45.960
その物を引っ張るよう
命令します

00:01:45.960 --> 00:01:48.420
それが ずっと前から知られていた
運動指令ニューロンです

NOTE Paragraph

00:01:48.420 --> 00:01:50.340
ところがリゾラッティが
見つけたのは

00:01:50.340 --> 00:01:51.800
それらのニューロンの一部—

00:01:51.800 --> 00:01:53.570
おそらく20%ほどですが

00:01:53.570 --> 00:01:57.000
他人の同じ行為を見ている時にも
発火するということです

00:01:57.000 --> 00:02:00.120
つまり 私が手を伸ばして何かを掴む時に
発火するニューロンがありますが

00:02:00.120 --> 00:02:03.400
他人が手を伸ばして何かを掴むのを
私が見る時にも発火します

00:02:03.400 --> 00:02:05.000
これはまさに 
驚くべきことです

00:02:05.000 --> 00:02:06.900
なぜなら まるで
このニューロンが

00:02:06.900 --> 00:02:09.250
他者の視点を取り入れている
ようだからです

00:02:09.250 --> 00:02:13.000
これは他者の行動のバーチャル
リアリティーシミュレーションを

00:02:13.000 --> 00:02:15.170
やっているようなものです

NOTE Paragraph

00:02:15.170 --> 00:02:17.860
ミラーニューロンの
重要性は何でしょう

00:02:17.860 --> 00:02:21.530
一つには 真似や模倣に
関わっているに違いありません

00:02:21.530 --> 00:02:23.820
なぜなら 複雑な行動を
真似するには

00:02:23.820 --> 00:02:26.830
脳が他者の視点を
取り入れる必要があるからです

00:02:26.830 --> 00:02:29.220
このことは真似や模倣にとって
重要です

00:02:29.220 --> 00:02:31.000
なぜこれが重要なのでしょう

00:02:31.000 --> 00:02:33.240
次のスライドを見てみましょう

00:02:33.830 --> 00:02:37.290
どのようにして真似をするのでしょう 
なぜ真似は重要なのでしょう

00:02:37.290 --> 00:02:39.520
（大きな跳躍）ミラーニューロン 真似 模倣

NOTE Paragraph

00:02:39.520 --> 00:02:42.880
ここで 人類の文化に
何が起きたかを見てみましょう

00:02:42.880 --> 00:02:46.680
7万5千〜10万年ほど遡って

00:02:46.680 --> 00:02:48.850
人類の進化を見てみましょう

00:02:48.850 --> 00:02:52.320
7万5千年前あたりに 
何かとても重要なことが起こりました

00:02:52.320 --> 00:02:54.560
それは 人類に独特な
いくつかの技能の

00:02:54.560 --> 00:02:57.240
突然の出現と
急速な広がりです

00:02:57.240 --> 00:02:59.000
例えば道具の使用

00:02:59.000 --> 00:03:02.270
火 住居 そしてもちろん 言語の使用

00:03:02.270 --> 00:03:04.000
また 他者の心を読み

00:03:04.000 --> 00:03:06.000
その人の行動を
解釈する能力

00:03:06.000 --> 00:03:08.000
これら全てが比較的
速やかに起こりました

NOTE Paragraph

00:03:08.000 --> 00:03:10.790
人類の脳が現在の
大きさになったのは

00:03:10.790 --> 00:03:13.000
30万年か40万年ほど前ですが

00:03:13.000 --> 00:03:15.580
10万年前に これら全てが
非常に速やかに起こったのです

00:03:15.580 --> 00:03:18.000
そこで何が起きたかというと
私の考えでは

00:03:18.000 --> 00:03:21.290
他者の行動の真似や模倣を可能にした
洗練されたミラーニューロンシステムの

00:03:21.290 --> 00:03:23.340
突然の出現があったのです

00:03:23.340 --> 00:03:27.500
例えばグループの一人が火の使用 
または特定の道具の使い方を

00:03:27.500 --> 00:03:30.000
ある日 偶然に発見した場合

00:03:30.000 --> 00:03:32.260
それっきりになるのではなく

00:03:32.260 --> 00:03:35.240
急速に 水平方向に
人々の間へと

00:03:35.240 --> 00:03:38.370
あるいは垂直方向に
後の世代へと 広まったのです

NOTE Paragraph

00:03:38.370 --> 00:03:40.350
これが進化を突然 
ダーウィン的なものから

00:03:40.350 --> 00:03:42.140
ラマルク的なものにしたのです

00:03:42.140 --> 00:03:45.000
ダーウィン的進化は遅いです 
何十万年もかかります

00:03:45.000 --> 00:03:47.360
ホッキョクグマが
毛皮を進化させるには

00:03:47.360 --> 00:03:50.510
数千世代—
10万年くらいかかるかもしれません

00:03:50.510 --> 00:03:52.810
人間の子供ならば

00:03:52.810 --> 00:03:55.700
親がホッキョクグマを殺し

00:03:55.700 --> 00:03:59.000
皮を剥ぎ その毛皮を身にまとうのを見て

00:03:59.000 --> 00:04:01.000
それをワンステップで学習します

00:04:01.000 --> 00:04:03.350
ホッキョクグマが 
10万年かけて身につけたものを

00:04:03.350 --> 00:04:06.220
人類は 5分 10分程度で
身につけることができるのです

00:04:06.220 --> 00:04:08.210
そして ひとたび学習されれば

00:04:08.210 --> 00:04:11.220
人口集団の間に
幾何級数的に広まります

NOTE Paragraph

00:04:11.220 --> 00:04:14.000
これが基本です 
複雑な技能の模倣こそ

00:04:14.000 --> 00:04:17.000
私たちが文化と呼ぶものであり 
文明の基盤なのです

00:04:17.000 --> 00:04:19.240
さて もう一種類
別のミラーニューロンがあります

00:04:19.240 --> 00:04:21.320
それは全く別のことに
関わっています

00:04:21.320 --> 00:04:23.730
「行動」に関わる
ミラーニューロンがあるように

00:04:23.730 --> 00:04:26.340
「触覚」に関わる
ミラーニューロンもあるのです

00:04:26.340 --> 00:04:28.400
もし誰かが私の手に触ったら

00:04:28.400 --> 00:04:30.200
脳の体性感覚野の

00:04:30.200 --> 00:04:32.360
ニューロンが 発火します

00:04:32.360 --> 00:04:35.000
ところが まさにこの私の
同じニューロンが 時には

00:04:35.000 --> 00:04:37.580
他の人が触られているのを
見るだけでも 発火します

00:04:37.580 --> 00:04:40.000
つまり これは触られている
他者に共感するのです

NOTE Paragraph

00:04:40.000 --> 00:04:42.340
別の部位に触られた時には

00:04:42.340 --> 00:04:44.780
別のニューロンが発火します

00:04:44.780 --> 00:04:47.000
そのサブセットは 
誰かが同じ場所を

00:04:47.000 --> 00:04:49.260
触られているのを見る時にも
発火します

00:04:49.260 --> 00:04:51.000
そういうわけで ここにも

00:04:51.000 --> 00:04:53.000
共感に関わっている
ニューロンがあるのです

00:04:53.000 --> 00:04:56.250
ここで問題が出てきます 
他者が触られているのを見る時

00:04:56.250 --> 00:04:58.090
どうして私は混同せず

00:04:58.090 --> 00:05:02.380
その触覚をそのまま
感じたりしないのでしょう

00:05:02.380 --> 00:05:06.000
私はその人に共感しても その触覚を
そのまま感じるわけではありません

00:05:06.000 --> 00:05:08.000
その理由は 皮膚に
受容体があるからです

00:05:08.000 --> 00:05:10.510
触覚と痛覚の受容体です 
それがあなたの脳に

00:05:10.510 --> 00:05:13.560
「心配しないで あなたが触れられているんじゃないよ」
と教えてくれます

00:05:13.560 --> 00:05:16.000
なので 他者と充分に
共感していても

00:05:16.000 --> 00:05:18.310
その触覚を実体験する
ことはありません

00:05:18.310 --> 00:05:20.380
さもなければ混同して
混乱してしまいます

NOTE Paragraph

00:05:20.380 --> 00:05:22.420
つまり ミラーニューロンの
信号を否認する

00:05:22.420 --> 00:05:24.300
フィードバック信号があって

00:05:24.300 --> 00:05:27.000
その触覚が意識的に経験される
ことを防いでいます

00:05:27.000 --> 00:05:30.000
しかし 局所麻酔で
腕から感覚を取ったら

00:05:30.000 --> 00:05:32.000
つまり 腕に注射をして

00:05:32.000 --> 00:05:34.510
腕神経叢に麻酔し
腕の感覚を麻痺させると

00:05:34.510 --> 00:05:36.000
感覚の入力はなくなります

00:05:36.000 --> 00:05:38.000
この時 私が あなたが
触られているところを見ると

00:05:38.000 --> 00:05:40.000
その触覚を本当に
自分の手に感じます

00:05:40.000 --> 00:05:42.440
言い換えると 自分と
他の人間との間にある

00:05:42.440 --> 00:05:43.950
障壁がなくなったのです

00:05:43.950 --> 00:05:47.000
私はこれを ガンジーニューロン 
または共感ニューロンと呼びます

00:05:47.000 --> 00:05:48.310
(笑)

NOTE Paragraph

00:05:48.310 --> 00:05:51.000
これは抽象的なたとえとして
言っているのではありません

00:05:51.000 --> 00:05:53.160
あなたと他者とを分かつのは

00:05:53.160 --> 00:05:55.300
あなたの皮膚だけなのです

00:05:55.300 --> 00:05:59.150
皮膚がなければ あなたは他者の触覚を 
自身の頭の中で経験します

00:05:59.150 --> 00:06:01.940
他者との間のバリアが
なくなるのです

00:06:01.940 --> 00:06:04.540
このことは東洋哲学の
大部分の基礎と言えます

00:06:04.540 --> 00:06:06.810
そこには 超越して

00:06:06.810 --> 00:06:09.240
世界や他の人々を
達観しているような

00:06:09.240 --> 00:06:11.150
独立した自己は存在しません

00:06:11.150 --> 00:06:14.370
事実 あなた方はフェイスブックや
インターネットでつながっているだけでなく

00:06:14.370 --> 00:06:16.880
ニューロンを介しても
つながっているのです

00:06:16.880 --> 00:06:19.910
そしてこの会場にも 語り合う
一連のニューロンがあるのです

00:06:19.910 --> 00:06:22.280
そこには誰かの意識と
あなたの意識の

00:06:22.280 --> 00:06:24.270
区別といったものはないのです

NOTE Paragraph

00:06:24.270 --> 00:06:26.000
これはインチキ哲学ではありません

00:06:26.000 --> 00:06:28.850
基礎的な神経科学の
知見に基づいています

00:06:28.850 --> 00:06:31.750
ここに幻肢を持つ患者が
いるとしましょう

00:06:31.750 --> 00:06:34.660
腕がなくて幻肢の症状がある場合 
誰かの腕が触られているのを見ると

00:06:34.660 --> 00:06:36.430
幻肢部位にその触覚を覚えます

00:06:36.430 --> 00:06:37.850
そして 驚くべきことは

00:06:37.850 --> 00:06:41.000
幻肢に痛みを感じた時に 
他の人の手を握ったり

00:06:41.000 --> 00:06:42.660
さすったりすると

00:06:42.660 --> 00:06:45.270
幻肢である自分自身の手の
痛みが和らぐのです

00:06:45.270 --> 00:06:47.450
まるで さすられている
ところを見るだけで

00:06:47.450 --> 00:06:48.710
ニューロンが

00:06:48.710 --> 00:06:51.000
安らぎを得ているかのようです

NOTE Paragraph

00:06:51.000 --> 00:06:53.900
これは 私の最後のスライドです

00:06:53.900 --> 00:06:56.500
長い間 人々は
自然科学と人文科学を

00:06:56.500 --> 00:06:58.390
別々のものとして
捉えてきました

00:06:58.390 --> 00:07:00.800
C・P・スノーは これら二つの文化について
こう話しました:

00:07:00.800 --> 00:07:03.000
一方には自然科学 
もう一方には人文科学

00:07:03.000 --> 00:07:04.790
この二つは決して交わらない

00:07:04.790 --> 00:07:07.850
しかしながら 私は
ミラーニューロンシステムが

00:07:07.850 --> 00:07:10.000
意識や

00:07:10.000 --> 00:07:12.000
自己表現や

00:07:12.000 --> 00:07:13.830
何が人と人とを分かつか

00:07:13.830 --> 00:07:16.270
何が他者と共感できる
ようにしているのか

00:07:16.270 --> 00:07:19.000
そして人類独特の文化や文明の
発祥といったような

00:07:19.000 --> 00:07:21.660
問題を考え直す視点の
基礎にあると考えます

00:07:21.660 --> 00:07:23.000
(拍手)