空に向かってボールを
投げると考えてみて下さい
投げたボールの動きを
予想する事はできるでしょうか?
もちろん 簡単ですね
ボールは最高点に達するまで 上に行き
やがて下へ向かい 手の中に戻ってきます
これが実際に起こることですね
こういった事は
何度も目にしていてご存じでしょう
日常生活における物理を見てきたわけです
しかし原子の世界ではどうでしょうか
例えば水素原子の原子核の周りを回る
電子の動きはどんな風に見えるのでしょうか?
日常の物理学的な経験から
答えることができるでしょうか?
無理ですね でも なぜ?
この様な小さなスケールでは
普段目にするものを司っている
物理とは異なっているからです
私たちが知り なじんでいる日常世界は
古典力学に従って動きます
しかし原子レベルのシステムは
量子力学に従って動くからです
この量子の世界というのは大変不思議なところです
その奇妙さは 有名な思考実験である
「シュレディンガーの猫」で 説明されています
ある猫嫌いの物理学者が
ふたを閉めた後に50%の確率で爆発する爆弾を
猫と共に箱に入れました
私たちがふたを開けてみるまでは
爆弾が爆発したかどうかはわからず
猫が生きているかどうかもわかりません
量子物理の世界では 箱を開けて観察するまでは
この猫は重ね合わせの状態にあるといいます
生死どちらの状態であるともいえず
両方の可能性がある混合状態であり
それぞれ50%の確率なのです
同じようなことが量子スケールの
物理システムに起こります
例えば 水素原子の軌道を回る電子です
実際に電子が軌道を
回っているわけではありません
他の場所よりも存在する確率が高いというだけで
いつでも空間の至る所に存在し得るのです
私たちが位置を測定した後に初めて
その瞬間に存在する場所を示す事ができます
ちょうど 箱を開けてみるまでは
猫の生死が分からないのと同じことです
では奇妙かつ美しき
「量子もつれ」の現象を説明しましょう
今度は2つの箱にそれぞれ
猫を1匹ずつ入れたとします
この2匹の猫でシュレディンガーの猫の
実験を行ったとすると
その結果は次の4つのうちのどれかになります
どちらの猫も生きているか どちらも死んでいるか
1匹は生きていて他方は死んでいるか
あるいはその逆かもしれません
どちらの猫のシステムも重ね合わせの状態になり
今度は50%ではなく それぞれ25%の確率になります
ここでクールなのは
量子力学によると重ね合わせの状態から
どちらの猫も同じである状態を
消し去ってしまう事ができます
言い換えると2匹の猫からなる系で
つねに1匹の猫は生きており
もう片方は死んでいるものを想定できます
これを専門的には猫は
量子もつれの状態にあると呼びます
量子もつれに本当に驚かされるのはこれからです
2匹の猫のシステムをこの量子もつれの状態にして
2つの箱を宇宙の両端に動かしたとしても
同じような実験結果が得られるのです
結果を測定する前には
どちらの猫が生きているかを
決めることは全くできないのに
必ず1匹の猫は生きていて 他方は死んでいるのです
どうして可能なのでしょうか?
宇宙の反対側にいる猫の状態が
どうしてこの様に もつれるのでしょうか?
お互いに連絡を取るには遠く離れすぎているのに
どうやって2つの爆弾が共謀して
1つ爆発し残りは爆発しないのでしょうか?
こう思うかもしれませんね
「これはあくまで理論的な話であって
現実の世界で起こったりするものか」
しかし実はこの量子もつれは
現実世界の実験で確認されています
2つの亜原子粒子が重ね合わせの状態でもつれると
1つが一方向にスピンし
もう一方は必ず反対にスピンします
1つの粒子から別の粒子に情報を送る
方法はないにもかかわらず
もつれのルールに従ってスピンするのです
量子情報科学の根幹では もつれは
不思議なことではありません
急速に伸びるこの分野では
不思議な量子の世界の法則を
巨視的世界で利用する方法を研究しています
例えば量子暗号のおかげでスパイは安全に
メッセージのやり取りを行うことができ
また 量子コンピュータを使って
暗号を解読することもできます
日常の物理が量子の不思議な世界に
近づき始めたようです
量子テレポーテーションの研究が進めば
あなたの猫が
物理学者も箱も存在しない
より安全な銀河へ
逃げることができる日がくるのかもしれません