0:00:00.758,0:00:04.049 1964年の話から始めましょう 0:00:04.049,0:00:07.022 ボブ・ディランは当時23歳で 0:00:07.022,0:00:09.183 人気は最高潮でした 0:00:09.183,0:00:11.624 「世代の代弁者」と崇められ 0:00:11.624,0:00:14.084 信じられないスピードで 0:00:14.084,0:00:16.047 次々と名曲を生み出していきました 0:00:16.047,0:00:20.498 しかし一部の人たちは彼を非難し[br]こう言いました 0:00:20.498,0:00:24.237 「ボブ・ディランは[br]他人の曲を盗んでいる」 0:00:24.237,0:00:28.377 2004年 ブライアン・バートン[br]つまりデンジャー・マウスは 0:00:28.377,0:00:30.290 ビートルズの「ホワイトアルバム」と― 0:00:30.290,0:00:32.067 ジェイZの「ブラックアルバム」から 0:00:32.067,0:00:33.891 「グレイアルバム」をつくりました 0:00:33.891,0:00:35.810 その「グレイアルバム」が[br]オンライン上で大ヒットすると 0:00:35.810,0:00:38.570 ビートルズのレコード会社は[br]販売差し止めを求め 0:00:38.570,0:00:41.810 大量の手紙を送りました[br]「これは不公平なやり方であり― 0:00:41.810,0:00:45.691 我々の財産を損なう」と主張しました 0:00:45.691,0:00:47.683 「グレイアルバム」はリミックスです 0:00:47.683,0:00:50.080 過去の作品から新しい作品を作っています 0:00:50.080,0:00:52.665 リミックスの手法は3つ 0:00:52.665,0:00:55.907 コピーする 変形する[br]つなぎ合わせる です 0:00:55.907,0:00:57.829 リミックスするには[br]既存の曲を選び 0:00:57.829,0:00:59.549 バラバラにして変形させ 0:00:59.549,0:01:01.389 再びつなぎ合わせる 0:01:01.389,0:01:03.366 すると新しい曲になります[br]しかもその曲は― 0:01:03.366,0:01:06.100 今までの曲からできているのです 0:01:06.100,0:01:09.413 しかし今までの曲は[br]リミックスの素材として使われるだけでなく 0:01:09.413,0:01:12.457 あらゆる創造の基礎となるものです 0:01:12.457,0:01:14.268 つまり全てのものはリミックスで 0:01:14.268,0:01:18.959 リミックスにより独創性が発揮できます 0:01:18.959,0:01:21.952 1964年の話に戻ります 0:01:21.952,0:01:24.973 ディランの曲をいくつか取り上げて 0:01:24.973,0:01:26.850 ほかの曲と聞き比べてみます 0:01:26.850,0:01:28.056 最初の曲は― 0:01:28.056,0:01:30.470 フォークの古典「Nottamun Town」 0:01:30.470,0:01:33.051 そしてディランの[br]「戦争の親玉」です 0:01:33.058,0:01:37.958 ♫ Nottamum Townには[br]人っ子一人いない― ♫ 0:01:37.958,0:01:44.556 ♫ 空を見ている人も[br]うつむいている人もいない ♫ 0:01:44.556,0:01:48.830 ♫ おい 戦争の親玉たち― ♫ 0:01:48.830,0:01:57.435 ♫ 大型銃も[br]突撃用の飛行機も ♫ 0:01:57.435,0:02:00.504 ♫ 爆弾をつくるのもあんた方だ ♫ 0:02:00.504,0:02:02.426 先ず メロディーが同じです 0:02:02.426,0:02:05.585 曲の構造もです[br]次は「The Patriot Game」という 0:02:05.585,0:02:07.577 ドミニク・ビームの曲と 0:02:07.577,0:02:09.851 ディランの「With God on Our Side」です 0:02:09.851,0:02:15.109 ♫ 全ての若い反逆者たちよ― ♫ 0:02:15.109,0:02:19.639 ♫ 私が歌う間[br]ここに名を連ねてくれ ♫ 0:02:19.639,0:02:27.851 ♫ 愛する郷土が ひどい惨事だ ♫ 0:02:27.851,0:02:33.663 ♫ 名前なんてどうでもいい ♫ 0:02:33.663,0:02:38.191 ♫ 年齢も大したことじゃない ♫ 0:02:38.191,0:02:45.010 ♫ 大事なのは僕の出身地[br]それはMidwestっていう所 ♫ 0:02:45.010,0:02:46.636 この曲についてディランは 0:02:46.636,0:02:49.076 「The Patriot Game」を聞いたことが[br]あると認めています 0:02:49.076,0:02:50.635 脳裏にふと浮かんだ音楽を 0:02:50.635,0:02:52.946 自分の曲だと思ってしまったそうです 0:02:52.946,0:02:54.178 最後にもう一つフォークの名曲 0:02:54.178,0:02:55.738 「Who's Going To Buy You Ribbons」です 0:02:55.738,0:02:58.035 これと「Don't Think Twice, It's All Right」 0:02:58.035,0:02:59.860 歌詞が問題のようです 0:02:59.860,0:03:06.751 ♫ 座り込んでため息をついたって[br]ムダさ ♫ 0:03:06.751,0:03:14.615 ♫ 今は 座り込んで泣いたって[br]ムダさ♫ 0:03:14.615,0:03:20.560 ♫ 座り込んで理由を考えたってダメさ♫ 0:03:20.560,0:03:24.212 ♫ 今 分からなければ ♫ 0:03:24.212,0:03:29.603 ♫ 座り込んで理由を考えたってムダさ ♫ 0:03:29.603,0:03:32.490 ♫ どうにもならない事なんだから ♫ 0:03:32.490,0:03:34.762 このような曲がたくさんあります 0:03:34.762,0:03:36.776 彼の初期の作品のうち3分の2の曲は 0:03:36.776,0:03:39.319 ほかの曲のメロディーを使っていると[br]言われています 0:03:39.319,0:03:41.175 ほかのフォーク歌手も[br]よくやることです 0:03:41.175,0:03:43.538 ディランが崇拝するウッディ・ガスリーは[br]こう言います 0:03:43.538,0:03:45.068 「重要なのは歌詞なんだ」 0:03:45.068,0:03:46.900 「メロディーには悩むな[br]それは盗め」 0:03:46.900,0:03:48.576 「低い調子なら高い声で歌え」 0:03:48.576,0:03:51.784 「ゆっくりした曲なら速く歌え[br]それで新しい曲になる」 0:03:51.784,0:03:55.781 (笑い)(拍手) 0:03:55.781,0:03:57.728 ガスリーは[br]まさにそうしました 0:03:57.728,0:04:00.335 その結果は[br]みなさんご存知でしょう 0:04:00.335,0:04:06.252 (音楽) 0:04:06.252,0:04:08.647 この曲は、みなさんがご存じの― 0:04:08.647,0:04:10.060 あの曲ではありません 0:04:10.060,0:04:12.744 「When the World's on Fire」という 0:04:12.744,0:04:15.005 カーター・ファミリーの古い曲です 0:04:15.005,0:04:17.683 ガスリーはこれを使い[br]「This Land Is Your Land」を作りました 0:04:17.683,0:04:22.003 ディランもほかのフォーク歌手のように[br]曲をコピーし 0:04:22.003,0:04:24.725 変形し つなぎ合わせて[br]新しい歌詞をつけました 0:04:24.725,0:04:27.122 それらは既存のものから[br]作られましたが 0:04:27.122,0:04:29.383 自分の作品といえます 0:04:29.383,0:04:33.046 しかし米国の著作権や特許法が 0:04:33.046,0:04:35.769 他人の作品から何かを作る[br]障害になります 0:04:35.769,0:04:38.436 むしろ世界中で使われるこうした法律が 0:04:38.436,0:04:42.158 財産権を扱いにくくしています 0:04:42.158,0:04:44.601 創作物は確かに一種の財産です 0:04:44.601,0:04:46.910 しかし私達はその作品で[br]さらなる創作をします 0:04:46.910,0:04:49.399 しっかりとした創作物が[br]生まれ育つには 0:04:49.399,0:04:52.115 きちんとした土壌が必要です 0:04:52.115,0:04:54.961 ヘンリー・フォードは言いました[br]「私は新しいものを作ったわけではない 0:04:54.961,0:04:56.964 ただ 先人たちの何世紀もの仕事を 0:04:56.964,0:04:59.551 寄せ集めたに過ぎない 0:04:59.551,0:05:01.934 進歩というものは[br]全ての要素がそろったときに 0:05:01.934,0:05:05.964 不可避的に起こるものなんだ」 0:05:05.964,0:05:10.509 2007年に[br]発売されたiPhoneにより 0:05:10.509,0:05:13.176 Appleは世界に革新を[br]もたらしました 0:05:13.176,0:05:15.673 しかしそれは時間の問題で[br]中核をなす技術は 0:05:15.673,0:05:17.719 何十年も前から開発されていたのです 0:05:17.719,0:05:19.701 それは マルチタッチと呼ばれる― 0:05:19.701,0:05:21.478 画面を指で触れる操作方法です 0:05:21.478,0:05:23.897 ジョブスはマルチタッチの将来を 0:05:23.897,0:05:26.137 予見するようにこう紹介しました 0:05:26.137,0:05:28.940 我々は新しい技術を開発しました 0:05:28.940,0:05:31.200 マルチタッチといいます 0:05:31.200,0:05:33.653 複数の指でタッチして操作ができます 0:05:33.653,0:05:37.264 なんと 特許も取りました[br](笑い) 0:05:37.264,0:05:41.430 さて こちらの[br]マルチタッチはどうでしょう 0:05:41.430,0:05:43.451 1年ほど前の[br]TEDでの講演です 0:05:43.451,0:05:45.919 彼はジェフ・ハン[br]これこそマルチタッチです 0:05:45.919,0:05:47.670 同じ動きですよね 0:05:47.670,0:05:49.437 ジェフはこの新しい技術について 0:05:49.437,0:05:51.263 何と言っているでしょう 0:05:51.263,0:05:53.431 マルチタッチというのは 0:05:53.431,0:05:55.637 完全に新しいものではありません[br]ビル・バクストンは 0:05:55.637,0:05:57.286 80年代に既にマルチタッチを使ってました 0:05:57.286,0:06:00.485 一番すばらしいと思うのは[br]その技術ではなく 0:06:00.485,0:06:03.547 誰にでも使えるということでしょう 0:06:03.547,0:06:05.480 そう新しい技術とは言えない 0:06:05.480,0:06:08.023 マルチタッチは[br]特許をとった項目の 0:06:08.023,0:06:10.160 ごく一部に過ぎません 0:06:10.160,0:06:11.464 しかしこの部分で 0:06:11.464,0:06:14.582 特許権が本来の趣旨と[br]矛盾しています 0:06:14.582,0:06:17.743 役に立つ芸術の発展を[br]推進できていません 0:06:17.743,0:06:20.927 スライドでロックを外すのは[br]初めての方法です 0:06:20.927,0:06:23.796 Appleはこの方法の[br]特許を取りました 0:06:23.796,0:06:26.608 28ページもの[br]ソフトウェアの特許ですが 0:06:26.608,0:06:30.544 要約するとこうです[br]「指でアイコンをスライドさせると 0:06:30.544,0:06:33.481 電話のロックが解除される。真似するな」[br](笑い) 0:06:33.481,0:06:36.498 少々大げさに言いますが[br]広範囲の特許です 0:06:36.498,0:06:39.347 このアイディアを[br]所有できるでしょうか 0:06:39.347,0:06:41.777 ソフトの特許がなかった[br]80年代 0:06:41.777,0:06:44.938 ゼロックスがGUIを[br]開発していました 0:06:44.938,0:06:47.856 もしゼロックスがポップアップ・メニューや[br]スクロールバー 0:06:47.856,0:06:52.280 フォルダーや書類などの[br]アイコンが並ぶディスクトップの 0:06:52.280,0:06:54.267 特許をとっていたら 0:06:54.267,0:06:56.616 若く経験不足のAppleは 0:06:56.616,0:06:59.485 巨大で経験豊富なゼロックスからの 0:06:59.485,0:07:03.565 法的な攻撃に[br]耐えられたでしょうか 0:07:03.565,0:07:06.012 すべてはリミックスだと[br]わかっていても 0:07:06.012,0:07:10.139 自分のものがリミックスされると[br]考えは一変します 0:07:10.139,0:07:11.789 こちらをご覧ください 0:07:11.789,0:07:13.028 ピカソは言っています 0:07:13.028,0:07:16.585 「よい芸術家は模写し[br]偉大な芸術家は盗む」 0:07:16.585,0:07:18.907 確かに私たちは 0:07:18.907,0:07:22.035 臆することなく[br]偉大なアイデアを盗んできました 0:07:22.035,0:07:23.933 この96年から2010年になると 0:07:23.933,0:07:26.842 「Androidは我々のアイディアを盗んだ」 0:07:26.842,0:07:28.384 (笑い) 0:07:28.384,0:07:32.023 「核戦争を仕掛けてでも破壊してやる」[br]と言ってます(笑い) 0:07:32.023,0:07:35.527 偉大な芸術家は盗むが[br]私からは盗むな ということですね 0:07:35.527,0:07:37.878 (笑い) 0:07:37.878,0:07:41.486 行動経済学では[br]喪失への嫌悪と言いますが 0:07:41.486,0:07:43.705 自分のものを守ろうとするのは 0:07:43.705,0:07:45.634 根強い本能です 0:07:45.634,0:07:47.552 でも他人の物の複製には 0:07:47.552,0:07:50.285 当たり前のことなので[br]嫌悪を感じません 0:07:50.285,0:07:52.760 同じようなことですが 0:07:52.760,0:07:55.417 基本的に創作物を[br]財産とみなす法律があり 0:07:55.417,0:07:58.202 権利侵害をすれば[br]罰金や調停 0:07:58.202,0:08:00.399 多額の費用を払わなければ 0:08:00.399,0:08:02.062 裁判で権利を守れません 0:08:02.062,0:08:05.566 権利を失いたくないという[br]先入観もあります 0:08:05.566,0:08:07.709 合わせるとこんな感じ 0:08:07.709,0:08:10.532 スマートフォン時代の[br]この4年間で 0:08:10.532,0:08:13.098 起きた訴訟を表しています 0:08:13.098,0:08:18.869 では訴訟によって[br]芸術が進歩しているでしょうか 0:08:18.869,0:08:24.637 1983年ボブディランは42歳 0:08:24.637,0:08:27.963 文化の担い手として[br]依然として注目されていました 0:08:27.963,0:08:30.572 彼がつくったのは[br]ブルース歌手の名をとった 0:08:30.572,0:08:32.758 「Blind Willie McTell」 0:08:32.758,0:08:36.428 その歌で巡るのは とても暗い過去 0:08:36.428,0:08:39.578 ウィリー・マックテルのような[br]ミュージシャンたちが 0:08:39.578,0:08:42.098 自らの行動をシンプルに[br]理解していた時代です 0:08:42.098,0:08:44.348 「私は他人の歌を使うが 0:08:44.348,0:08:46.913 自分流にアレンジする」 0:08:46.913,0:08:48.630 私たちもやっていることです 0:08:48.630,0:08:51.996 創造力は内部ではなく[br]外部から生まれます 0:08:51.996,0:08:54.917 みんながお互いに[br]依存し合っています 0:08:54.917,0:08:57.742 この事実を認めても[br]私たちが独創的でないと 0:08:57.742,0:09:00.576 考えることにはなりません 0:09:00.576,0:09:03.209 それは私たちの誤解を解消し 0:09:03.209,0:09:06.292 過大なことを求めずに[br]とにかく始めてみるための 0:09:06.292,0:09:09.027 きっかけを[br]与えてくれるでしょう 0:09:09.027,0:09:11.977 この場に参加できて光栄です 0:09:11.977,0:09:14.754 ありがとうございました(拍手) 0:09:14.754,0:09:18.138 どうも ありがとう(拍手) 0:09:18.138,0:09:21.479 それでは(拍手)