WEBVTT 00:00:11.183 --> 00:00:13.561 軽妙で明るく 朗らか 00:00:13.561 --> 00:00:17.881 18世紀初頭の音楽の中で 最も親しまれている1曲です 00:00:17.881 --> 00:00:21.371 数えきれないほどの映画や テレビCMで使われてきました 00:00:21.371 --> 00:00:24.630 でもこれはどんな曲で どうしてこんな作品になったのでしょうか 00:00:24.630 --> 00:00:27.462 これはイタリアの作曲家 アントニオ・ヴィヴァルディによる 00:00:27.462 --> 00:00:30.803 『四季』の中から『春』の冒頭部分です 00:00:30.803 --> 00:00:35.031 耳に心地よく響くという点で 『四季』はよく知られています 00:00:35.031 --> 00:00:36.542 しかし もっと注目すべきことは 00:00:36.542 --> 00:00:39.572 語るべきストーリーが あるということです 00:00:39.572 --> 00:00:43.352 1725年にアムステルダムで 発表されたときは 00:00:43.352 --> 00:00:44.883 四季の特徴を表した 00:00:44.883 --> 00:00:47.522 詩が添えられていました 00:00:47.522 --> 00:00:50.982 ヴィヴァルディはこれらの詩を 音楽的にとらえようとしたのです 00:00:50.982 --> 00:00:53.963 器楽曲のために特定の筋書きを 設定した点で 00:00:53.963 --> 00:00:57.877 ヴィヴァルディは時代を先行していたのです 00:00:57.877 --> 00:01:01.483 音楽を聴きながら 詩を読めば 00:01:01.483 --> 00:01:03.773 詩から思い浮かぶ光景が 00:01:03.773 --> 00:01:07.362 音楽のイメージと見事にシンクロします 00:01:07.362 --> 00:01:11.142 鳥は幸せに歌いながら 春を迎えると言われていますが 00:01:11.142 --> 00:01:15.962 まさにそのとおり 00:01:15.962 --> 00:01:21.032 しかし すぐに激しい雷鳴がとどろきます 00:01:21.032 --> 00:01:23.393 雷鳴や稲妻だけではなく 00:01:23.393 --> 00:01:25.083 そこには鳥もいて 00:01:25.083 --> 00:01:30.584 雨にぬれて怯え 悲しげです 00:01:30.584 --> 00:01:39.413 『夏』ではコキジバトがイタリア語で 「トルトレッラ」と自分の名を歌い 00:01:39.413 --> 00:01:45.885 その後に 雹(ひょう)の嵐が 畑をなぎ倒します 00:01:45.885 --> 00:01:53.777 『秋』では 勇ましい狩人たちが 獲物を追いかけます 00:01:53.777 --> 00:02:00.504 『冬』の協奏曲は 寒さで 歯がガチガチと鳴る様子に始まり 00:02:00.504 --> 00:02:07.283 パチパチとはぜる火の前に 暖を求めます 00:02:07.283 --> 00:02:09.264 そして 再び嵐のシーンでは 00:02:09.264 --> 00:02:15.165 氷の上を滑って 転倒することでしょう 00:02:15.165 --> 00:02:18.315 冬の始まりから数週間で 年が暮れてゆきますが 00:02:18.315 --> 00:02:23.175 ヴィヴァルディの『四季』でも それはまた同様です 00:02:23.175 --> 00:02:24.905 このような表情豊かな器楽― 00:02:24.905 --> 00:02:28.305 いわゆる「標題音楽」が 人気を博すようになるのは 00:02:28.305 --> 00:02:30.386 19世紀初頭になってからです 00:02:30.386 --> 00:02:33.305 その頃までには 木管楽器 金管楽器や打楽器を使った 00:02:33.305 --> 00:02:36.925 大規模で 多様な編成で物語を 表現するのが定番になりましたが 00:02:36.925 --> 00:02:42.358 ヴィヴァルディは 独奏ヴァイオリンと 弦楽器 ハープシコードしか使いませんでした 00:02:42.358 --> 00:02:44.186 同時代のバッハとは異なり 00:02:44.186 --> 00:02:48.005 ヴィヴァルディは複雑なフーガには さして興味を示していません 00:02:48.005 --> 00:02:52.036 彼は 前に聞いた馴染みのあるメロディが 曲の後半で再び現れるという 00:02:52.036 --> 00:02:54.512 聴き手にもっと親しみやすい 00:02:54.512 --> 00:02:58.037 楽しさを提供するほうを好みました 00:02:58.037 --> 00:03:02.026 ですから『春』の協奏曲で 第1楽章は春のテーマで始まり 00:03:02.026 --> 00:03:12.836 それが少し変奏されたテーマで終わります 00:03:12.836 --> 00:03:15.466 この手法に聴き手も ヴィヴァルディ自身も 00:03:15.466 --> 00:03:16.689 惹きつけられていました 00:03:16.689 --> 00:03:20.976 18世紀初頭のヴァイオリニストの中でも とくに影響力がある1人とされていた彼は 00:03:20.976 --> 00:03:23.930 聴き手を惹きつけることの大切さを 心得ていたのです 00:03:23.930 --> 00:03:27.639 自らメイン・ヴァイオリニストとして コンサートで演奏したり 00:03:27.639 --> 00:03:30.150 「ピエタ」の若手音楽家を起用しました 00:03:30.150 --> 00:03:34.680 「ピエタ」はヴィヴァルディが 音楽監督を務めたヴェネツィアの女子校で 00:03:34.680 --> 00:03:36.387 生徒のほとんどは孤児でした 00:03:36.387 --> 00:03:40.677 音楽の訓練は若い女性向きの 社交スキルとしてだけでなく 00:03:40.677 --> 00:03:42.658 結婚がうまくいかなかった場合のための 00:03:42.658 --> 00:03:46.498 キャリアをも意図したものでした 00:03:46.498 --> 00:03:48.459 ヴィヴァルディが生きた時代においても 00:03:48.459 --> 00:03:50.919 彼の音楽はあらゆる人々に向けた物であり 00:03:50.919 --> 00:03:53.708 裕福な貴族のためだけではなかったのです 00:03:53.708 --> 00:03:56.768 300年たった今も この手法は有効であり 00:03:56.768 --> 00:04:00.328 ヴィヴァルディの音楽は 馬の駆け足のように響いています