WEBVTT 00:00:06.461 --> 00:00:12.144 時は西暦15年 ローマ帝国は繁栄しています 00:00:12.144 --> 00:00:14.266 ほとんどは皇帝の 功績によるものですが 00:00:14.266 --> 00:00:16.661 それを可能にしたのは 00:00:16.661 --> 00:00:20.521 セルウィウス・フェリクスのような 忠実な兵士の存在でした NOTE Paragraph 00:00:20.521 --> 00:00:24.934 8年前 18歳のセルウィウスは 軍団兵として入隊しました 00:00:24.934 --> 00:00:29.050 彼は貧農の息子で 将来の見込みは 大してありませんでした 00:00:29.050 --> 00:00:32.311 彼は 他の軍団兵と違って 賭け事をしないため 00:00:32.311 --> 00:00:34.915 給金のほとんどは 貯蓄に回せています 00:00:34.915 --> 00:00:36.758 しかも 入隊時に 貰った手当である 00:00:36.758 --> 00:00:40.651 3枚の金貨にも 手をつけていません 00:00:40.651 --> 00:00:45.369 退役するまで生き延びられれば 数エーカーの土地を与えられます 00:00:45.369 --> 00:00:48.010 彼は しかも 故郷の女の子に 好意を抱いていて 00:00:48.010 --> 00:00:50.199 結婚したいと考えています NOTE Paragraph 00:00:50.199 --> 00:00:53.811 しかし それも 25年の兵役を 00:00:53.811 --> 00:00:55.425 終えてからの話です 00:00:55.425 --> 00:00:59.491 そして 軍団兵の人生は 厳しく 危険なものなのです 00:00:59.491 --> 00:01:02.790 今日 セルウィウスの軍団は 他の3つの軍団と共に 00:01:02.790 --> 00:01:07.530 「長征」に取り掛かり 3万ペース つまり 00:01:07.530 --> 00:01:11.111 ほぼ 36キロメートルもの 距離を踏破しました 00:01:11.111 --> 00:01:13.011 セルウィウスの具足や武器 00:01:13.011 --> 00:01:14.281 剣 00:01:14.281 --> 00:01:15.189 盾 00:01:15.189 --> 00:01:16.511 投げ槍 2本 00:01:16.511 --> 00:01:19.082 全部合わせると 20キロ以上の重さです 00:01:19.082 --> 00:01:22.219 この他にも 「サルキナ」という リュックを背負っています 00:01:22.219 --> 00:01:27.230 その中には 食料と 野営するための道具の全て 例えば 00:01:27.230 --> 00:01:27.991 シャベル 00:01:27.991 --> 00:01:28.730 ノコギリ 00:01:28.730 --> 00:01:29.600 ツルハシ 00:01:29.600 --> 00:01:31.489 カゴが 入っています NOTE Paragraph 00:01:31.489 --> 00:01:35.020 セルウィウスは へとへとですが 今夜はあまり寝られません 00:01:35.020 --> 00:01:36.801 1番目の当直として 00:01:36.801 --> 00:01:39.016 荷物を運搬する動物の 世話をして 00:01:39.016 --> 00:01:42.601 敵の待ち伏せ攻撃に 用心しなければいけません 00:01:42.601 --> 00:01:46.090 当直任務を引き継いでも 彼は眠れず 夜が明けるのを恐れています 00:01:46.090 --> 00:01:50.070 次の日には 彼の最悪の悪夢が 呼び起こされるからです NOTE Paragraph 00:01:50.070 --> 00:01:54.041 明け方 セルウィウスは 同じテントの 7人の仲間と朝食をとります 00:01:54.041 --> 00:01:58.841 彼らは家族のようなもので 一緒に 戦った時の傷を 皆負っています 00:01:58.841 --> 00:02:00.402 セルウィウスは イタリア出身です 00:02:00.402 --> 00:02:03.878 しかし 彼の仲間の兵士は シリアから スペインまで広がる 00:02:03.878 --> 00:02:07.019 帝国の方々からやってきました 00:02:07.019 --> 00:02:11.479 つまり 北方のこの地 ゲルマニアは 誰の故郷からも遠く離れたところなのです NOTE Paragraph 00:02:11.479 --> 00:02:14.081 今日 セルウィウスの軍団と 他の3つの軍団は 00:02:14.081 --> 00:02:18.371 皇帝ティベリウスの甥 ゲルマニクスの指揮下にあります 00:02:18.371 --> 00:02:23.271 ゲルマン人の部族に対して軍功を挙げた 父に因んで名付けられました 00:02:23.271 --> 00:02:25.952 各軍団の人員は ほぼ5千人で 00:02:25.952 --> 00:02:28.800 約500人単位の 歩兵隊に分割され 00:02:28.800 --> 00:02:33.960 その歩兵隊も 80から100人単位の 百人隊から構成されています 00:02:33.960 --> 00:02:36.611 各百人隊は 百人隊長の指揮下にあり 00:02:36.611 --> 00:02:41.139 軍団の先頭には アクィリフェル と呼ばれる旗持ちが 00:02:41.139 --> 00:02:43.992 鷲の紋章を掲げて歩きます NOTE Paragraph 00:02:43.992 --> 00:02:47.472 百人隊長は 軍団兵の横で歩き 大声で命令を怒鳴ります 00:02:47.472 --> 00:02:49.870 「デクス シン デクス シン」 00:02:49.870 --> 00:02:52.650 「右 左 右 左」 00:02:52.650 --> 00:02:57.459 行進が右足から始まるのは 左は不吉だと考えられていたからです 00:02:57.459 --> 00:03:00.331 厳しい規律にも関わらず 空気は張り詰めています 00:03:00.331 --> 00:03:03.340 昨年 同じ地域に 反抗した軍団があり 00:03:03.340 --> 00:03:07.070 賃上げと 兵役の短縮を 要求したのです 00:03:07.070 --> 00:03:09.829 将軍のカリスマと 交渉能力によって 00:03:09.829 --> 00:03:12.850 大反乱になる前に なんとか収められました NOTE Paragraph 00:03:12.850 --> 00:03:16.460 今日は「普通の行進」 30キロメートルだけです 00:03:16.460 --> 00:03:20.980 ゲルマニアの湿地や 森林には 帝国の道路体系が及んでいないため 00:03:20.980 --> 00:03:25.001 兵士は 前進するために 道路や橋を作らねばなりません 00:03:25.001 --> 00:03:28.871 ここ最近 彼らは 戦闘より 道路整備に時間を割いています NOTE Paragraph 00:03:28.871 --> 00:03:33.970 ようやく 目的地に到着しました セルウィウスが 嫌というほど知っている 00:03:33.970 --> 00:03:37.041 トイトブルク森のはずれの 開けた土地です 00:03:37.041 --> 00:03:40.811 ここは 6年前 皇帝アウグストゥスの治世の時 00:03:40.811 --> 00:03:44.212 族長アルミニウスに率いられた ゲルマン人の部族が 00:03:44.212 --> 00:03:47.854 待ち伏せ攻撃を仕掛けて 3個の軍団を全滅させた場所です 00:03:47.854 --> 00:03:49.583 滝のような雨の中 00:03:49.583 --> 00:03:53.719 狭い道を進んでいる時 軍団は 退路を塞がれた状態で 00:03:53.719 --> 00:03:55.933 森から待ち伏せ攻撃を受けました 00:03:55.933 --> 00:03:59.136 ローマ人が経験した 最も甚大な敗北の一つで 00:03:59.136 --> 00:04:03.175 アウグストゥスは 終生 忘れることはありませんでした 00:04:03.175 --> 00:04:06.368 セルウィウスは 数少ない生存者です NOTE Paragraph 00:04:06.368 --> 00:04:11.311 仲間が死屍累々と横たわる姿が 今でも悪夢に出てきます 00:04:11.311 --> 00:04:16.173 今回 軍隊が戻ってきたのは 戦死者を 埋葬し 正式な軍葬を施すためです 00:04:16.173 --> 00:04:18.131 彼は 作業を行いながらも 00:04:18.131 --> 00:04:23.791 扱っている骨が 知り合いのものではないか 考えられずにはいられません 00:04:23.791 --> 00:04:28.630 何度か 声をあげて泣きたくなりますが 作業の手は休めません 00:04:28.630 --> 00:04:31.265 帝国の栄光なんて 「クソくらえだ」 00:04:31.265 --> 00:04:35.660 彼が心から欲しいのは 小さい畑に 妻となるべき人と隠遁することです 00:04:35.660 --> 00:04:39.485 しかし それも 神々が もう17年ほど 彼を生かしておけば の話です