WEBVTT 00:00:03.860 --> 00:00:09.120 ゴリラがいない『Ape Out』は ほとんど想像できない 00:00:09.160 --> 00:00:12.247 しかし最初はまさにそうだった 00:00:12.287 --> 00:00:17.709 開発者 Gabe Cuzzillo によると 最初は時間ループ系のステルスゲームになるはずだった 00:00:17.749 --> 00:00:21.282 押す・つかむ仕様で 壁沿いをコソコソ移動するのだ 00:00:21.322 --> 00:00:27.737 だがゲームに警備員がいるなら 当然同じ仕組みで彼らをつかめるはずで 00:00:27.777 --> 00:00:32.902 これが警備員を拘束して 壁にブン投げる遊びに発展した 00:00:32.942 --> 00:00:36.740 これが作中で一番面白い部分だと 判明したので 00:00:36.780 --> 00:00:43.286 Gabe は方針を大胆に変えて この概念を中心にゲームを開発していった 00:00:43.326 --> 00:00:47.945 彼はステルスや時間ループなどの 不要な要素は全て削除した 00:00:47.985 --> 00:00:51.437 そしてこのアイデアを強調するためなら 何でもやった 00:00:51.477 --> 00:00:57.691 最も顕著なのは、主人公のハゲ男を 300 ポンドの暴れゴリラに替えたことだ 00:00:58.990 --> 00:01:04.014 これは「楽しさを追う」と呼ばれる ゲーム設計手法の一例だ 00:01:04.054 --> 00:01:10.196 これは一見単純な考え方で 開発者は計画や先入観を無視して 00:01:10.236 --> 00:01:15.036 代わりにゲーム自体に目を向けて 開発の方向性を見出そうという意味だ 00:01:15.076 --> 00:01:19.016 緻密な戦術ゲームの傑作 『Into the Breach』を見てみよう 00:01:19.056 --> 00:01:23.336 このゲームは標準的な ファミコンウォーズ系の作品として始まった 00:01:23.376 --> 00:01:28.026 敵はランダムに攻撃を選び ターンが来るまで次の行動を隠していた 00:01:28.066 --> 00:01:32.711 だがある敵は自分のターンで 何をするつもりなのか正確に示していた 00:01:32.751 --> 00:01:35.622 攻撃する予定のマスを 強調していたのだ 00:01:35.662 --> 00:01:40.663 Subset の開発者はこれが 一番楽しい部分であると気づき 00:01:40.703 --> 00:01:46.306 ゲームの他の部分を もっぱらこの予告攻撃に集中させることにした 00:01:46.346 --> 00:01:51.610 またこれはスタジオが行うべき 他の設計判断にも役立った 00:01:51.650 --> 00:01:57.758 敵が何をするつもりか分かっているなら 自分のユニットを攻撃ゾーンの外に移動できないのか? 00:01:57.798 --> 00:02:02.151 それなら、このゲームの目的は 動かない建物を守ることになるだろう 00:02:02.191 --> 00:02:06.810 だから敵を押し出して 攻撃を失敗させるというゲームにする 00:02:06.850 --> 00:02:11.031 だがこれを使えば 敵の同士討ちも可能になる 00:02:11.071 --> 00:02:14.472 この手法を使う開発者が—— 00:02:14.512 --> 00:02:19.015 「ある程度は、ゲームが自らを設計した」と よく言う理由が分かるだろう 00:02:19.055 --> 00:02:23.516 『Crashlands』を開発した Butterscotch Shenanigans の Sam Coster は次のように述べる 00:02:23.855 --> 00:02:28.547 「私たちはこの工程をゲームが時間をかけて 自らを発見することだと考えています」 00:02:28.587 --> 00:02:34.680 「設計作業ではなく反復作業として、私たちの仕事は ただゲームを遊んで、聞いて、感じて」 00:02:34.720 --> 00:02:38.511 「このゲームがどうなりたいのか 探るようなものです」 00:02:38.551 --> 00:02:40.860 「何が楽しいのかを ただ追いかけるのです」 00:02:41.200 --> 00:02:46.156 ゲームが自らを設計するという発想は 次の大ヒットを狙っている人間にとって 00:02:46.196 --> 00:02:48.772 確かに刺激的な話だろう 00:02:48.812 --> 00:02:52.560 だが素晴らしいアイデアが 自然に生まれるわけではない 00:02:52.600 --> 00:02:54.332 ではどこから生まれるのか? 00:02:54.372 --> 00:02:59.860 リズム型のローグライク 『Crypt of the Necrodancer』の原点を見てみよう 00:02:59.900 --> 00:03:05.047 開発者の Ryan Clark は『Spelunky』の 目まぐるしい意思決定を 00:03:05.087 --> 00:03:08.160 伝統的なターン制のダンジョン探索ゲームに 組み込もうとした 00:03:08.200 --> 00:03:14.099 そこで彼は、次のターンまで1秒しかないという ローグライクの簡単な試作品を作った 00:03:14.139 --> 00:03:18.717 それを遊んでみると リズムゲームに近い性質があると気づき 00:03:18.757 --> 00:03:22.151 ゲームを音楽に合わせるべきだと ハッキリしたのだ 00:03:24.914 --> 00:03:29.682 また『Rocket League』を象徴する 空中技を見てみよう 00:03:29.722 --> 00:03:32.570 Psyonix がゲームの前身である—— 00:03:32.610 --> 00:03:35.390 『Supersonic Acrobatic Rocket-Powered Battle-Cars』 を作っていたとき 00:03:35.430 --> 00:03:37.922 彼らはそれ以来 マーケティングをたくさん学んだ 00:03:37.962 --> 00:03:42.607 彼らは車同士が戦うゲームを作ったが 加速する仕様を追加したかった 00:03:42.647 --> 00:03:46.554 そこで開発者は単純に 車両後部に物理的な力を加えた 00:03:46.594 --> 00:03:52.942 テストでは、空中でその力を使って 競技場を飛び回れることが分かった 00:03:52.982 --> 00:03:56.093 これは計画していなかったが 開発者たちは気づいた 00:03:56.133 --> 00:04:02.276 これがゲームに巨大な深みと高さの次元を加えていたのだ だからそのまま残した 00:04:02.316 --> 00:04:07.281 スタジオは「この仕様をほぼ偶然によって 開発しました」と言っている 00:04:07.321 --> 00:04:09.763 実際、ゲームの歴史では—— 00:04:09.803 --> 00:04:15.019 開発過程で生じたバグ、不具合、偶然が 機能に変わったことがある 00:04:15.059 --> 00:04:22.010 例えば神谷英樹は『鬼武者』で、敵を空中で 何度も斬って手玉にとれるバグを発見した 00:04:22.050 --> 00:04:28.017 修正されてしまったが、神谷はこれを 『Devil May Cry』で一番重要な仕様に発展させた 00:04:28.447 --> 00:04:32.950 重要なのは、この工程には 最初のアイデアが必要だということだ 00:04:32.990 --> 00:04:39.016 それがどんなに散漫で、不明瞭で、独創性がなくても 実際に動く試作品を作るのだ 00:04:39.056 --> 00:04:44.584 そして試作と試遊の過程で 新しいアイデアが生まれることがある 00:04:44.624 --> 00:04:49.440 そのためゲームの声を素直に聞くかどうかは 開発者次第だ 00:04:49.480 --> 00:04:53.802 何が面白いのかを認識し その側面を積極的に探求すること 00:04:53.842 --> 00:04:57.525 たとえそれが最初に考えていたものと 完全に一致していなくてもだ 00:04:57.565 --> 00:05:02.754 こうして『Gunpoint』は宇宙ロボが 人に向けて冷蔵庫を落とすという内容から 00:05:02.794 --> 00:05:07.017 建物の配線を変えるスパイの パズルゲームに変わったのだ 00:05:07.057 --> 00:05:12.131 この配線の仕組みは 『Deus Ex』に触発された横スクロールの 00:05:12.171 --> 00:05:14.936 ミニゲームの1つに過ぎなかった 00:05:14.976 --> 00:05:18.527 だが開発者の Tom Francis が 試作を始めるとすぐに 00:05:18.567 --> 00:05:22.729 最終的に『Gunpoint』となる ゲームが現れた 00:05:22.769 --> 00:05:24.013 Tom は述べる 00:05:24.053 --> 00:05:28.664 「これをパズルゲームにすべきだとすぐに分かりました パズルの仕組みでした」 00:05:28.704 --> 00:05:33.306 「Gunpoint が何になりたいのか教えてくれたのです パズルになりたがっていたのは明らかでした」 00:05:33.346 --> 00:05:37.451 「そして私は方針を転換して ハッキングの仕様を拡張し」 00:05:37.491 --> 00:05:40.429 「それを中心にゲーム全体を設計しました」 00:05:40.960 --> 00:05:47.446 そのためこの手法は一般的に ゲーム開発の序盤に最も重要な変化を起こす 00:05:47.486 --> 00:05:53.353 そのため Sam Coster はゲームのことを 「柔軟なマグマの白熱球」と表現している 00:05:53.393 --> 00:05:59.214 だが開発が進んでゲームの形が決まり始めても この手法はまだ使うことができる 00:05:59.254 --> 00:06:04.323 例えばコンテンツの制作だ Jonathan Blow は『Braid』のパズルは 00:06:04.363 --> 00:06:09.484 時間操作エンジンが生んだ予期せぬ結果を 単に展示しただけだと述べている 00:06:09.524 --> 00:06:12.105 彼が言うには 「私は学芸員の役割でした」 00:06:12.145 --> 00:06:17.162 「正解を整理して、プレイヤーが楽しめるように 提示したのです」 00:06:17.202 --> 00:06:19.279 詳細はこの動画を見てほしい 00:06:19.319 --> 00:06:24.559 またプレイヤーの感想を聞くときにも使える Chris Hecker が『Spy Party』を作ったとき 00:06:24.599 --> 00:06:29.003 プレイヤーは色々な裏技や 予想外の遊び方を発見した 00:06:29.043 --> 00:06:35.149 これらの「バグ」を修正するのではなく Chris はバグをゲームの公式要素にした 00:06:35.189 --> 00:06:40.352 ゲーム体験を心理戦や心理トリックの方向へ 変えたのだ 00:06:40.392 --> 00:06:44.637 または単にゲーム開発の 全体的な指針にも使える 00:06:44.677 --> 00:06:47.646 『Subnautica』の開発者 Charlie Cleveland はこう述べる 00:06:47.877 --> 00:06:51.508 「遠くにある目的地を 分かってる気になってますが」 00:06:51.548 --> 00:06:53.943 「道が多すぎて選べません」 00:06:53.983 --> 00:06:57.100 「でもゲームの声を聞けば作品の方向が 分かるでしょう」 00:06:57.491 --> 00:07:03.054 それで彼のスタジオはホラーゲームを作ったのだが 企画の開始時にそんなつもりは無かったのだ 00:07:05.281 --> 00:07:12.281 さて、明らかにこのような設計工程では ゲーム制作にかかる時間が非常に予測しづらくなる 00:07:12.453 --> 00:07:17.015 そのため、この方法論は 独立系ゲームの世界では人気だが 00:07:17.055 --> 00:07:21.200 超大作ゲームを作る厳しい統制の世界では あまり使われていない 00:07:21.240 --> 00:07:25.021 Tom Francis が2作目の 『Heat Signature』を作ったとき 00:07:25.061 --> 00:07:31.100 彼は「宇宙船に入る」という曖昧なアイデアが 魔法のように良作を生むと期待していた 00:07:31.140 --> 00:07:35.226 『Gunpoint』で起きたことの再現だ だが…そうはならなかった 00:07:35.266 --> 00:07:37.525 少なくとも長い間はダメだった 00:07:37.565 --> 00:07:43.954 実際、彼はゲームを面白くする要素を見つけるためには 大量の要素を作る必要があると気づき 00:07:43.994 --> 00:07:49.403 これが開発の長期化に繋がり 彼は船の生成システムや、人工知能 00:07:49.443 --> 00:07:53.628 格闘システム、経済を含む銀河全体マップなどを 作ることになった 00:07:53.668 --> 00:07:59.479 船内の戦闘が一番面白いと理解するまでに Tom は何年もかかってしまった 00:07:59.519 --> 00:08:05.514 だから本当の文言は、ただの「楽しさを追う」よりも 少し長いことは覚えておく価値がある 00:08:05.554 --> 00:08:09.811 僕はこの言葉の起源をこの男まで遡った Marc LeBlanc だ 00:08:09.851 --> 00:08:13.110 彼は『Thief』や『System Shock』を 手がけた開発者で 00:08:13.150 --> 00:08:17.144 MDA フレームワークなどを考案した 教育者でもある 00:08:17.184 --> 00:08:23.931 彼がこの言葉を作ったとき 実は起業家精神の世界で有名な慣用句が発端だった 00:08:24.147 --> 00:08:25.949 「早く失敗する」だ 00:08:25.989 --> 00:08:31.778 これはゲームをできるだけ早くまとめ上げて 上手くいくものとそうでないものを見極める作業だ 00:08:31.818 --> 00:08:35.012 時間を無駄にしていないので 失敗しても問題ではない 00:08:35.052 --> 00:08:41.015 だがいわゆる「失敗」は、次の試作がどの方向へ 行くべきかたくさん教えてくれる 00:08:41.055 --> 00:08:45.950 では、試行錯誤を高速化するための 具体的な手法はあるのか? 00:08:45.990 --> 00:08:51.240 GMTK の視聴者は知っているだろうが その1つが「ゲームジャム」だ 00:08:51.280 --> 00:08:57.552 これは大慌てのゲーム開発マラソンであり たぶん1回の週末でゲームを作らないといけない 00:08:57.592 --> 00:09:02.423 Arvi Teikari はゲームジャムで受賞したパズルゲーム 『Baba is You』を考案した人物で 00:09:02.463 --> 00:09:04.687 このイベントの威力について 語っている 00:09:04.727 --> 00:09:09.751 「要は、頭の中にある試作品を元に 何かを作ろうということです」 00:09:09.791 --> 00:09:13.408 「上手くいかなくても大丈夫 ゲームジャムの後で捨ててもいい」 00:09:13.448 --> 00:09:18.258 「ゲームジャムより長くそのアイデアに 専念することはありません」 00:09:18.445 --> 00:09:24.462 別の方法は、Game Maker や Godot などの 手早く試作できるツールを使うことだ 00:09:24.502 --> 00:09:30.383 あるいは紙での試作や、LEGO や PS4 のゲーム制作ソフト『Dreams』を使う 00:09:30.423 --> 00:09:34.181 既にゲームの大部分を作っていて コンテンツを増やしたいだけなら 00:09:34.221 --> 00:09:38.668 独自のステージ制作ツールを開発すれば 制作作業を高速化して 00:09:38.708 --> 00:09:41.201 たくさんの人に手伝ってもらえる 00:09:41.241 --> 00:09:45.706 任天堂は『マリオギャラクシー2』で 簡単なステージ設計ツールを作り 00:09:45.746 --> 00:09:49.534 チーム全員が独創的な仕様を 考案できるようにした 00:09:49.574 --> 00:09:55.536 また設計や仕様に素早く集中するために 仮のアート、音楽、筋書きを利用できる 00:09:55.576 --> 00:09:59.945 Klei が『Don't Starve』の 最初のゲームジャム試作品を作ったとき 00:09:59.985 --> 00:10:02.946 主人公の実際の見た目は…… 00:10:02.986 --> 00:10:04.689 ゼルダの伝説のリンクだった 00:10:04.729 --> 00:10:10.692 そして最後に、絶対に変更できない要素が 実際に役立つこともある 00:10:10.732 --> 00:10:13.075 thatgamecompany の Sunni Pavolic によると 00:10:13.115 --> 00:10:17.662 『風ノ旅ビト』の制作時 スタジオは試行錯誤をかなり繰り返したが 00:10:17.702 --> 00:10:22.831 このゲームは「愛」を探求する作品であるという 考えを常に持っていたらしい 00:10:22.871 --> 00:10:26.450 これによりチーム全員が従うべき 方向性が明確になり 00:10:26.490 --> 00:10:31.569 発見、開発できるアイデアの範囲を 狭めることができた 00:10:34.347 --> 00:10:38.353 だからこの動画から1つだけ 持ち帰ってほしいことがあるとすれば 00:10:38.393 --> 00:10:42.285 完璧なアイデアが現れるのを待つことを 止めることだ 00:10:42.325 --> 00:10:47.235 『Ape Out』『Crypt of the Necrodancer』 『Crashlands』などのゲームを見て 00:10:47.275 --> 00:10:50.311 これらのゲームは 直感の閃きで設計されており 00:10:50.351 --> 00:10:53.290 停滞せずに完成したと 思い込むのは簡単だ 00:10:53.330 --> 00:10:57.552 そういう良いアイデアが思いつかないなら なぜ作らないといけないのか? 00:10:57.592 --> 00:11:02.140 だが僕がこの動画で示したように それは誤解にもほどがある 00:11:02.180 --> 00:11:06.106 実際、これらの開発者全員を 結びつけているのは 00:11:06.146 --> 00:11:08.772 彼らは始めて 何かを作ったという点だ 00:11:08.812 --> 00:11:15.021 そして開発者が新しいアイデアを試し 試作品を遊び、バグさえ作ったときに初めて 00:11:15.061 --> 00:11:17.809 今のゲームが形作られたのだ 00:11:17.849 --> 00:11:21.723 彼らが偉大なのは 素晴らしいアイデアを考えたからじゃなく 00:11:21.763 --> 00:11:27.018 ゲームを聞く方法や 辿るべき道を知っていたからであり 00:11:27.058 --> 00:11:29.717 早く頻繁に失敗する方法や 00:11:29.757 --> 00:11:34.300 異なるアイデアを融合させて 一貫性を作る方法を知っていたからなのだ 00:11:34.483 --> 00:11:38.561 だから Game Maker’s Toolkit を視聴して ゲームを作りたいと思ったら 00:11:38.601 --> 00:11:42.258 完璧なアイデアを待つのはダメだ 何かを作ってみよう 00:11:42.298 --> 00:11:47.203 そしてゲームを聞いて楽しさを追うといい 運が良ければ—— 00:11:47.243 --> 00:11:53.220 ゲームがささやかながら自らを設計していることに 気づくかもしれない 00:11:53.870 --> 00:11:54.620 (字幕翻訳:Nekofloor)