0:00:01.233,0:00:04.472 これから始まることを[br]見られるというだけでも 0:00:04.472,0:00:07.939 この舞台にいることに[br]とてもワクワクしています 0:00:07.939,0:00:11.427 それはそれとして 0:00:11.427,0:00:14.630 私達の脳にとって 0:00:14.630,0:00:18.811 最大の欲求は何でしょう? 0:00:18.811,0:00:20.828 説明する代わりに[br]お見せしましょう 0:00:20.828,0:00:22.088 感じてほしいので 0:00:22.088,0:00:24.970 これから14分間で 皆さんに[br]感じてほしいことが沢山あります 0:00:24.970,0:00:27.487 皆さん 立っていただけますか 0:00:27.487,0:00:32.130 R・シュトラウスの曲を[br]一緒に指揮しましょう 0:00:32.546,0:00:34.815 皆さん ご存じの曲です 0:00:34.815,0:00:36.506 準備いいですか? 0:00:36.506,0:00:37.574 (聴衆) はい 0:00:37.574,0:00:39.758 (ボー) では[br]いち にの さん! 0:00:40.506,0:00:41.716 冒頭部分です 0:00:41.716,0:00:46.064 (交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」) 0:00:49.036,0:00:51.741 ほら 知ってるでしょう 0:00:51.741,0:00:56.871 (音楽) 0:01:01.950,0:01:03.320 盛り上がっていきます 0:01:10.591,0:01:11.992 (曲が突然途切れる) 0:01:11.992,0:01:13.167 ああ! 0:01:13.167,0:01:14.237 (笑) 0:01:14.237,0:01:15.197 ね? 0:01:15.197,0:01:16.862 もうちょっとだったのに 0:01:16.862,0:01:18.513 座っていいですよ 0:01:18.513,0:01:20.369 (笑) 0:01:20.369,0:01:23.552 私達は完結を[br]深く欲します 0:01:23.552,0:01:25.545 (笑) 0:01:25.545,0:01:27.523 決着が好きなんです 0:01:27.523,0:01:29.915 (拍手) 0:01:29.915,0:01:32.511 モーツァルトの逸話なんですが 0:01:32.511,0:01:34.357 よく 寝る前にピアノに向かって 0:01:34.357,0:01:35.775 「ダダダダダッ」と弾いたそうです 0:01:35.775,0:01:38.670 既に床に就いていたお父さんは[br]「まったく!」とばかり 0:01:38.670,0:01:41.200 起き出していって[br]和音の最後の音を弾かないと 0:01:41.200,0:01:42.978 眠れなかったのだとか 0:01:42.978,0:01:44.132 (笑) 0:01:44.132,0:01:49.282 この 決着への欲求から[br]考えさせられるのは 0:01:49.282,0:01:52.270 私達が最も恐れるものは[br]何なのかということです 0:01:52.378,0:01:56.866 子供の頃の あるいは今なお感じる[br]一番の恐れは何でしょう? 0:01:57.407,0:02:01.182 それは暗闇に対する恐れです 0:02:03.717,0:02:06.136 私達は不確かな状態を嫌います 0:02:06.384,0:02:08.356 分からないことを嫌います 0:02:08.356,0:02:09.429 ただ嫌うんです 0:02:09.429,0:02:11.037 ホラー映画を考えてください 0:02:11.037,0:02:13.876 ホラー映画に出てくる場面というと[br]暗闇とか 0:02:13.876,0:02:15.803 森の中 0:02:15.803,0:02:17.065 夜 0:02:17.065,0:02:18.360 海の深み 0:02:18.360,0:02:20.163 宇宙の暗がりなどです 0:02:20.539,0:02:24.119 それというのも 進化してきた中で[br]死というのは簡単に訪れるものだったからです 0:02:24.119,0:02:25.915 それが捕食者だと[br]分からなければ 0:02:25.915,0:02:27.503 手遅れになります 0:02:27.503,0:02:30.063 脳は予測するように[br]進化しました 0:02:30.063,0:02:32.668 予測できなければ[br]待っているのは死です 0:02:33.136,0:02:37.364 そして脳というのは かつて有用だった[br]先入観や仮定に基づいて 0:02:37.364,0:02:39.412 予測をしています 0:02:39.593,0:02:42.391 そういう仮定は[br]脳の中にあるだけでなく 0:02:42.391,0:02:44.955 外の世界へと投影されます 0:02:45.498,0:02:47.477 ここに鳥はいません 0:02:48.006,0:02:51.309 スクリーンの上に[br]意味を投影しているのです 0:02:52.506,0:02:56.261 私が今言っていることには[br]文字通り意味がありません 0:02:57.151,0:02:59.592 (笑) 0:02:59.592,0:03:02.822 皆さんが意味を作り出し[br]私に投影しているのです 0:03:02.822,0:03:05.347 物に言えることは[br]人についても言えます 0:03:05.347,0:03:07.496 「何か」「いつか」は測定できても 0:03:07.496,0:03:09.525 「なぜか」は測定できません 0:03:09.525,0:03:11.260 それで他の人たちに[br]色付けをします 0:03:11.260,0:03:15.656 自分の先入観や経験に基づいて[br]相手に意味を投影するのです 0:03:17.911,0:03:22.360 だから最高のデザインはたいてい[br]不確かさを減らすものになっています 0:03:22.739,0:03:25.187 不確かさの中へと[br]足を踏み入れるとき 0:03:25.858,0:03:28.895 体は生理的にも[br]心理的にも反応します 0:03:28.895,0:03:31.647 免疫力が低下します 0:03:31.647,0:03:34.755 脳細胞が弱って [br]死にさえします 0:03:34.755,0:03:38.259 創造性や知性が下がります 0:03:38.443,0:03:42.398 恐怖が怒りに変わることが[br]よくあります 0:03:42.398,0:03:45.445 なぜか?[br]怒りは確かな状態だからです 0:03:45.870,0:03:47.845 道義的批判をしやすくなります 0:03:47.845,0:03:49.890 極端な面が現れます 0:03:49.890,0:03:52.135 保守的な人はより保守的に 0:03:52.135,0:03:54.723 自由主義的な人は[br]より自由主義的になります 0:03:54.723,0:03:57.418 馴染みのあるほうへ[br]行こうとするからです 0:03:58.133,0:04:01.294 問題は 世界は変化する[br]ということです 0:04:01.950,0:04:03.594 適応しなければ[br]死ぬことになります 0:04:03.594,0:04:06.118 AからBへ変わるための[br]第一歩は 0:04:06.118,0:04:07.251 Bではありません 0:04:07.251,0:04:10.364 まずAから非Aになること 0:04:11.141,0:04:13.344 自分の先入観や仮定を[br]捨てることです 0:04:13.344,0:04:18.021 我々の脳が避けるように[br]進化した場所へと― 0:04:19.696,0:04:23.225 未知の場所へと[br]足を踏み入れることです 0:04:25.553,0:04:28.450 我々の脳が答えを与えている[br]ある場所に 0:04:28.450,0:04:30.954 行く必要があります 0:04:30.954,0:04:33.121 進化は我々に[br]答えを与えました 0:04:33.121,0:04:37.661 それは最も深い[br]知覚的体験かもしれません 0:04:38.971,0:04:41.662 それは感銘という体験です 0:04:43.860,0:04:49.149 (音楽) 0:05:44.333,0:05:48.147 (拍手) 0:05:48.147,0:05:52.584 (音楽) 0:05:56.870,0:06:00.866 (拍手) 0:06:00.866,0:06:04.703 (音楽) 0:06:44.557,0:06:49.339 (拍手) 0:06:49.339,0:06:53.908 (音楽) 0:07:04.881,0:07:09.908 (拍手) 0:07:09.908,0:07:13.781 (歓声) 0:07:13.781,0:07:18.420 (拍手) 0:07:19.836,0:07:22.633 いや 見事でしたね 0:07:22.633,0:07:31.362 皆さんは今 多かれ少なかれ[br]感銘を受けていることでしょう 0:07:31.362,0:07:35.045 皆さんの頭の中では[br]何が起きているのか? 0:07:35.570,0:07:37.009 何千年もの間 0:07:37.009,0:07:40.546 人間は感銘というものを[br]考え 記し 経験してきましたが 0:07:40.546,0:07:43.514 ごくわずかなことしか[br]分かっていません 0:07:43.514,0:07:49.631 それが何で 何をするものなのか[br]理解するために 0:07:49.631,0:07:51.976 私の Lab of Misfitsでは 0:07:51.976,0:08:00.526 感銘の最高のつくり手たちと共働する[br]素晴らしい機会を得ました 0:08:00.526,0:08:04.420 作家や クリエーター 監督 会計士 ― 0:08:04.420,0:08:07.132 シルク・ドゥ・ソレイユの人たちです 0:08:08.137,0:08:10.241 ラスベガスに行って 0:08:11.120,0:08:17.157 パフォーマンスを見ているときの[br]脳の活動を記録するということを 0:08:17.157,0:08:20.417 シルク・ドゥ・ソレイユの[br]代表的なショーである『O』で 0:08:20.417,0:08:22.736 10回行いました 0:08:22.736,0:08:24.956 さらに別の人たちも加えて 0:08:24.956,0:08:29.010 公演前後での状態も調べました 0:08:29.332,0:08:32.230 実験参加者は200人以上になります 0:08:33.371,0:08:35.271 感銘とは何でしょう? 0:08:35.271,0:08:37.772 皆さんの頭の中で[br]今起きていることは何か? 0:08:37.772,0:08:39.601 脳の ある状態です 0:08:40.550,0:08:43.272 脳の前方の部分 [br]前頭前野は 0:08:43.272,0:08:46.887 実行機能や[br]注意力に関わる部分ですが 0:08:46.887,0:08:49.310 それが今 下方制御されています 0:08:50.157,0:08:54.998 皆さんの脳のデフォルトモード・[br]ネットワークと呼ばれる部分 0:08:54.998,0:08:59.118 これは複数の脳領域にまたがっていて[br]アイデアを出すときや 0:08:59.118,0:09:02.460 拡散的思考という意味で[br]クリエイティブに考えるとき 0:09:02.460,0:09:04.891 白昼夢を見るときなどに[br]活性化しますが 0:09:04.891,0:09:07.337 それが今 上方制御されています 0:09:07.942,0:09:13.037 皆さんの前頭前野の活動が[br]変化しています 0:09:13.416,0:09:15.991 活動が左右非対称になり 0:09:15.991,0:09:17.802 右が優位になっています 0:09:17.802,0:09:20.380 これは世界から[br]一歩引くのとは逆 0:09:20.380,0:09:23.510 世界に向かって踏み出すことに[br]関連しています 0:09:24.718,0:09:29.714 この脳全体にわたる活動は[br]参加者間での相関が高く 0:09:29.714,0:09:32.425 人工ニューラルネットを[br]トレーニングして 0:09:32.425,0:09:35.657 感銘を経験しているか[br]判定させることができ 0:09:35.657,0:09:40.386 平均で75% 最高では83%という[br]精度でした 0:09:42.946,0:09:46.306 この脳の状態は[br]何をするものなのでしょう? 0:09:46.850,0:09:48.591 他の人たちが示してくれました 0:09:48.591,0:09:51.368 ハイト、ケルトナー両教授によると 0:09:51.368,0:09:56.662 このとき人々は自分を小さく感じ[br]世界とつながっていると感じています 0:09:56.662,0:10:00.181 また向社会的行動が増加します 0:10:00.181,0:10:03.430 他の人との親密さが[br]強くなったように感じるからです 0:10:03.836,0:10:06.245 私達はまた この研究で 0:10:06.245,0:10:09.745 認知制御の必要が[br]減ることも示しました 0:10:09.745,0:10:14.205 結末のない不確かさを[br]あまり居心地悪く感じなくなり 0:10:14.408,0:10:16.895 リスクへの欲求が強まります 0:10:16.895,0:10:21.510 リスクを求めるようになり[br]より上手くリスクを取れるようになります 0:10:22.172,0:10:24.763 そしてとても本質的なことですが 0:10:24.763,0:10:30.612 「あなたはよく感銘を受けるほうか」[br]と私達が聞いたとき 0:10:30.612,0:10:33.060 公演の後では前と比べ 0:10:33.060,0:10:35.508 肯定的に答える傾向が[br]強まりました 0:10:35.508,0:10:38.989 自分自身と自分の歴史を[br]再定義したのです 0:10:40.974,0:10:47.235 感銘というのは 自分より大きなものを[br]認識することなのかもしれません 0:10:48.823,0:10:51.050 ジョーゼフ・キャンベルの言い方を借りるなら 0:10:51.050,0:10:54.433 「感銘は私達を前に進めるようにする」のです 0:10:54.433,0:10:56.462 私の友であり 0:10:56.462,0:10:59.985 優れた写真家の[br]デュアン・マイケルズが 0:10:59.985,0:11:02.452 いつか語ってくれた言葉で言うなら 0:11:02.452,0:11:06.993 「臆病を克服する好奇心を[br]与えてくれるもの」です 0:11:08.752,0:11:12.498 なぜこれが大切なのか? 0:11:12.498,0:11:14.050 対立について考えてみましょう 0:11:14.050,0:11:17.237 今の社会にあふれているものです 0:11:17.237,0:11:19.147 自分と誰かが[br]対立しているというのは 0:11:19.147,0:11:22.141 2人が1本の線の[br]両端にいるようなもので 0:11:22.141,0:11:25.341 私は相手が間違っていると示し[br]こちら側に来させようとします 0:11:25.341,0:11:27.685 問題は相手も同じように[br]していることです 0:11:27.685,0:11:30.851 私が間違っているのを示し[br]自分の側に来させようとします 0:11:30.851,0:11:35.988 対立では 勝とうとはしても[br]学ぼうとはしません 0:11:36.525,0:11:39.167 脳が学ぶのは[br]動くときだけです 0:11:39.167,0:11:41.307 生きるというのは[br]動くことです 0:11:42.555,0:11:45.278 そこで感銘が使えたとしたら[br]どうでしょう? 0:11:45.278,0:11:48.341 対立をなくすためではなく― 0:11:48.341,0:11:53.485 対立は必要なもので[br]それによって脳は広がり 学びます 0:11:53.485,0:11:57.226 むしろ別の仕方で[br]対立に入るのです 0:11:57.561,0:11:59.082 感銘によって 0:11:59.082,0:12:02.316 少なくとも2つの違った対立の仕方が[br]可能になるとしたら? 0:12:02.316,0:12:06.480 1つは 未知への勇気と[br]謙虚さを得るために 0:12:06.480,0:12:10.526 答えでなく問いをもって[br]対立に入るということ 0:12:10.526,0:12:12.110 そうすると何が起きるでしょう? 0:12:12.110,0:12:15.531 確かさでなく不確かさをもって[br]対立に入るんです 0:12:15.798,0:12:19.151 もう1つは 説得ではなく[br]理解することを求めて 0:12:19.151,0:12:22.209 対立に入るということです 0:12:23.377,0:12:26.884 みんな自分の中では[br]筋が通っているからです 0:12:27.461,0:12:29.069 他人を理解するためには 0:12:29.069,0:12:31.116 その人の行動につながる[br]先入観や仮定を 0:12:31.116,0:12:33.031 理解することです 0:12:34.493,0:12:37.324 芸術によって引き起こされる[br]感銘によって 0:12:37.324,0:12:40.598 人は寛容になるか[br]見るための 0:12:40.598,0:12:43.201 予備的研究を[br]始めたところですが 0:12:43.895,0:12:46.625 結果はとても[br]肯定的なものです 0:12:46.625,0:12:50.025 芸術によって引き起こされる[br]感銘を経験することで 0:12:50.025,0:12:53.056 怒りや憎しみは[br]和らげられます 0:12:54.080,0:12:56.817 その重要性を踏まえて 0:12:56.817,0:13:00.080 感銘はどこに[br]見出せるのでしょう? 0:13:02.914,0:13:05.197 もしも― 0:13:06.457,0:13:08.545 これは ひとつのヒントですが 0:13:08.545,0:13:12.949 感銘は壮大なものにだけ[br]見つかるものではありません 0:13:12.949,0:13:14.779 感銘は必要なものです 0:13:14.779,0:13:18.853 時にそれはスケールです[br]山とか 夕日とか 0:13:19.506,0:13:23.256 自分自身のスケールを変えて 0:13:24.356,0:13:28.525 シンプルなものの中に[br]ありえないようなことを見出せたとしたら? 0:13:29.165,0:13:30.798 もしこれが本当で 0:13:31.431,0:13:34.775 私達のデータが正しいなら 0:13:34.775,0:13:37.212 科学や 冒険 0:13:37.212,0:13:41.130 芸術 アイデア 愛 0:13:41.130,0:13:45.147 TED パフォーマンスのような活動は 0:13:45.171,0:13:48.830 感銘によって刺激を[br]与えるだけでなく 0:13:49.029,0:13:53.797 自分を広げるべく[br]不確かさへと足を踏み出すための 0:13:53.797,0:13:56.313 梯子になるかもしれません 0:14:14.736,0:14:16.089 ありがとうございました 0:14:16.089,0:14:17.264 (拍手) 0:14:17.264,0:14:18.439 どうぞ前に 0:14:18.439,0:14:22.461 (拍手) 0:14:22.461,0:14:26.566 (歓声) 0:14:26.566,0:14:33.119 (拍手)