1 00:00:07,104 --> 00:00:08,674 月の光が照らす中 2 00:00:08,674 --> 00:00:11,174 若者の一団が森に忍び込むと 3 00:00:11,174 --> 00:00:13,614 精神状態を変容させる 薬が体に入ってしまい 4 00:00:13,614 --> 00:00:15,204 恋愛関係が入れ替わって 5 00:00:15,204 --> 00:00:18,494 別次元の生き物と わずかに触れ合う戯曲 6 00:00:18,494 --> 00:00:22,074 『夏の夜の夢』ではまるで幻覚に 襲われたようなシェイクスピアが見られ 7 00:00:22,074 --> 00:00:26,954 劇としても 読み物としても 素晴らしい作品となっています 8 00:00:26,954 --> 00:00:29,334 1590年代に初演された 『夏の夜の夢』は 9 00:00:29,334 --> 00:00:32,424 シェイクスピアの作品の中でも 最も陽気なものの一つで 10 00:00:32,424 --> 00:00:35,884 ぺてんや狂気 魔法で 満たされています 11 00:00:35,884 --> 00:00:37,784 夏の一夜の出来事を描いた この作品は 12 00:00:37,784 --> 00:00:40,454 跳ね回るようなテンポで 進行していきます 13 00:00:40,454 --> 00:00:44,414 話の筋は 対立と解散の 繰り返しで構成されていて 14 00:00:44,414 --> 00:00:48,804 異なる世界の登場人物が 巡り会っては別れます 15 00:00:48,804 --> 00:00:52,714 この繰り返しを通じて シェイクスピアは 喜劇的に 16 00:00:52,714 --> 00:00:56,144 登場人物の利己的な行動をからかい 権威に疑いの目を向けます 17 00:00:56,144 --> 00:00:58,384 話の舞台は古代ギリシアですが 18 00:00:58,384 --> 00:01:02,814 シェイクスピアの他の作品の多くと同様 当時の社会への問題意識が反映されています 19 00:01:02,814 --> 00:01:04,814 夜の森という 魔法のかかった舞台設定は 20 00:01:04,814 --> 00:01:09,374 異なる集団の間にある壁をゆるがし 話の展開を一風変わったものにします 21 00:01:09,374 --> 00:01:13,733 シェイクスピアは 当時の 硬直した身分制度を題材にして 22 00:01:13,733 --> 00:01:17,813 どんな人間であっても 支配しえない世界で 23 00:01:17,813 --> 00:01:20,694 3つの異なる集団の関係を ひっくり返してしまいます 24 00:01:20,694 --> 00:01:23,024 劇は 若い娘ハーミアが 25 00:01:23,024 --> 00:01:27,344 恋人のライサンダーとの 結婚の禁止を言い渡した 26 00:01:27,344 --> 00:01:31,023 父イジーアスとアテネの王シーシアスに 激怒する場面から始まります 27 00:01:31,023 --> 00:01:35,343 ハーミアは 父の選んだ許婚の ディミートリアスに関心はありません 28 00:01:35,343 --> 00:01:39,090 彼に想いを寄せているのは ハーミアの親友ヘレナなのです 29 00:01:39,090 --> 00:01:44,160 長老たちに憤慨したハーミアとライサンダーは 夜闇に紛れて駆け落ちしますが 30 00:01:44,160 --> 00:01:46,560 二人の後をディミートリアスが 懸命に追っかけます 31 00:01:46,560 --> 00:01:49,260 事態を更に混乱させることに ヘレナが 32 00:01:49,260 --> 00:01:54,460 ディミートリアスの愛を得ようと 彼ら全員の後を追い森へと入って行きます 33 00:01:54,460 --> 00:01:57,095 この時点で 森は混み始めています 34 00:01:57,095 --> 00:02:01,105 そこには 恋人たちの他に 「粗野な職人たち」— 35 00:02:01,105 --> 00:02:06,545 陽気なニック・ボトム率いる職人の一団が 酔って劇の練習をしているのです 36 00:02:06,545 --> 00:02:11,715 知らないうちに 人間たちは 妖精の世界に入り込んでしまいました 37 00:02:11,715 --> 00:02:15,368 妖精の王と女王 オーベロンとティターニアは 38 00:02:15,368 --> 00:02:19,668 強力な魔力を持つ一方 恋愛問題も抱えています 39 00:02:19,668 --> 00:02:24,048 ティターニアを思うままにできず 憤った 嫉妬深いオーベロンは 40 00:02:24,048 --> 00:02:30,358 彼女の目に魔法の花の汁をたらすよう トリックスターのパックに命じます 41 00:02:30,358 --> 00:02:35,503 目を覚ますと 目に入った最初のものに 恋心を抱くという媚薬です 42 00:02:35,503 --> 00:02:36,883 パックは 大はしゃぎで 43 00:02:36,883 --> 00:02:40,763 寝ているディミートリアスと ライサンダーの目に汁をたらし 44 00:02:40,763 --> 00:02:46,373 おまけに ボトムの頭を ロバの頭に変えてしまいます 45 00:02:46,373 --> 00:02:47,919 彼らの目が覚め始めると 46 00:02:47,919 --> 00:02:53,629 失恋や人物の取り違え 変身といった 47 00:02:53,629 --> 00:02:55,539 混沌とした一夜の始まりです 48 00:02:55,539 --> 00:02:58,879 登場人物の中では 恐らくボトムが 最もいい目にあったでしょう 49 00:02:58,883 --> 00:03:01,284 魔法にかけられたティターニアは 彼に目をやって 50 00:03:01,284 --> 00:03:05,484 ワインと財宝を 気前よく与えるよう 妖精たちに呼びかけます 51 00:03:05,484 --> 00:03:08,964 そしてこう語り ロバの姿をしたボトムを たちまち夢中にさせてしまいます 52 00:03:08,964 --> 00:03:11,314 「色鮮やかな蝶の羽を取って 53 00:03:11,314 --> 00:03:14,264 月の光で眠りの妨げにならぬよう 目を覆ってあげなさい 54 00:03:14,264 --> 00:03:18,004 妖精たちよ 会釈して ご挨拶なさい」 55 00:03:18,004 --> 00:03:20,279 この作品では 魔法が 行動を促してはいますが 56 00:03:20,279 --> 00:03:24,309 私たちが実際に 愛ゆえにとる 様々な行動と 57 00:03:24,309 --> 00:03:28,283 恋の魔法に囚われた人が行う 馬鹿げたことを 反映しています 58 00:03:28,283 --> 00:03:31,953 「銀の弓のような」月は 下界で起きる出来事を見下ろし 59 00:03:31,953 --> 00:03:35,783 愛の暗い側面である 常軌を逸した振る舞いと 60 00:03:35,783 --> 00:03:40,973 普段とは異なる世界の うっとりさせるような魅力を映し出しています 61 00:03:40,973 --> 00:03:43,993 最終的に 登場人物は 正気に返りますが 62 00:03:43,993 --> 00:03:46,613 『夏の夜の夢』という作品は 私たちが 日常生活を 63 00:03:46,613 --> 00:03:50,703 どれだけ支配できているのか 疑問を提起します 64 00:03:50,703 --> 00:03:54,768 そして 劇の最後の台詞を語ったのは 正気に返った 恋人たちでも 65 00:03:54,768 --> 00:03:56,428 支配者たちでも 職人たちでもなく 66 00:03:56,428 --> 00:04:02,338 見たものを本当に信用していいのかと 問いかける いたずら好きのパックでした 67 00:04:02,338 --> 00:04:03,928 「お気に触られたようでしたら 68 00:04:03,928 --> 00:04:06,738 こうお考えくだされば よろしゅうかと 69 00:04:06,738 --> 00:04:09,048 ここでご覧になったものは 70 00:04:09,048 --> 00:04:11,758 まどろんで見たまぼろしだと」 71 00:04:11,758 --> 00:04:13,058 こうすることで 彼は 72 00:04:13,058 --> 00:04:17,698 素晴らしい劇場で演じられる魔法の世界に 足を踏み入れたという感覚を呼び起こし 73 00:04:17,699 --> 00:04:21,359 幻想と現実の境界をもてあそび 74 00:04:21,359 --> 00:04:25,359 人生は夢に過ぎないことの可能性を 芝居がかりに表現するのです