1 00:00:01,130 --> 00:00:03,071 ひとつ驚くべき事実があります 2 00:00:03,095 --> 00:00:05,500 45年前に ATM — 3 00:00:05,500 --> 00:00:09,696 あの現金の自販機が 導入されて以来 4 00:00:09,720 --> 00:00:12,896 アメリカで雇用されている 銀行窓口係の数は 5 00:00:12,920 --> 00:00:14,176 おおよそ2倍に 6 00:00:14,200 --> 00:00:17,496 25万人から50万人に 増えていて 7 00:00:17,520 --> 00:00:20,646 1970年に25万人だったのが 今では50万人 8 00:00:20,646 --> 00:00:24,816 2000年以降だけでも 10万人増えているんです 9 00:00:24,840 --> 00:00:27,636 ボストン大学の経済学者 ジェームズ・ベッセンが 10 00:00:27,636 --> 00:00:30,416 最近出した本で 明らかにされたこの事実は 11 00:00:30,440 --> 00:00:32,560 興味深い疑問を提起します 12 00:00:32,560 --> 00:00:34,766 その人たちは いったい何をやっているのか? 13 00:00:34,766 --> 00:00:38,576 なぜ自動化によって そういった仕事がなくならないのか? 14 00:00:38,600 --> 00:00:39,900 考えてみれば 15 00:00:39,900 --> 00:00:43,096 過去200年における 偉大な発明の多くは 16 00:00:43,120 --> 00:00:46,460 人間の労働を 置き換えるためのものでした 17 00:00:46,720 --> 00:00:48,496 トラクターは人間の肉体労働を 18 00:00:48,520 --> 00:00:52,856 機械の力で置き換えるものとして 作られました 19 00:00:52,880 --> 00:00:54,290 組み立てラインは 20 00:00:54,290 --> 00:00:56,740 ムラのある人間の手作業を 21 00:00:56,740 --> 00:01:00,536 機械の正確さで 置き換えるため考案されました 22 00:01:00,560 --> 00:01:01,730 コンピューターは 23 00:01:01,730 --> 00:01:04,020 間違いの多い手計算を 24 00:01:04,020 --> 00:01:08,400 デジタルの完璧さで置き換えるべく 生み出されました 25 00:01:08,760 --> 00:01:10,930 これらの発明は大成功でした 26 00:01:10,930 --> 00:01:12,830 私たちはもはや 手で溝を掘ることも 27 00:01:12,830 --> 00:01:15,296 鍛鉄から道具を 打ち出すことも 28 00:01:15,296 --> 00:01:18,210 紙の帳面で簿記をすることも なくなりました 29 00:01:18,210 --> 00:01:22,730 それでも労働市場で雇用されている アメリカ成人の割合は 30 00:01:22,730 --> 00:01:24,790 2016年の今 31 00:01:24,790 --> 00:01:28,616 125年前の1890年よりも 高くなっており 32 00:01:28,640 --> 00:01:31,200 その間10年ごとに 33 00:01:31,200 --> 00:01:34,230 ほぼ上がり続けているのです 34 00:01:34,450 --> 00:01:36,550 これはパラドックスを提起します 35 00:01:36,640 --> 00:01:39,810 機械がますます人間に代わって 仕事をしている中で 36 00:01:39,810 --> 00:01:44,096 なぜ人間の労働が余計になったり 人間のスキルが廃れたりしないのか? 37 00:01:44,096 --> 00:01:47,696 どうしてまだ こんなに仕事があるのか? 38 00:01:47,720 --> 00:01:49,456 (笑) 39 00:01:49,480 --> 00:01:52,076 今宵はどうにかこの疑問に 答えようと思います 40 00:01:52,076 --> 00:01:55,576 その過程で それが仕事の未来に 対して持つ意味合い 41 00:01:55,600 --> 00:01:58,600 また自動化が我々の社会に 提起する問題 42 00:01:58,600 --> 00:02:01,680 しない問題について 話したいと思います 43 00:02:02,470 --> 00:02:04,720 なぜこんなに沢山の 仕事があるのか? 44 00:02:05,680 --> 00:02:09,056 これには2つの基本的な 経済学原理が関わっています 45 00:02:09,080 --> 00:02:11,270 1つは人間の才覚や 46 00:02:11,270 --> 00:02:13,216 創造性に関するもので 47 00:02:13,240 --> 00:02:15,590 もう1つは人間の 飽くことを知らない 48 00:02:15,590 --> 00:02:17,600 どん欲さに関わるものです 49 00:02:17,600 --> 00:02:19,880 1番目のものを 「Oリングの原理」と呼びましょう 50 00:02:19,880 --> 00:02:22,616 これは人間がする仕事の種類を 決めるものです 51 00:02:22,616 --> 00:02:25,270 2番目の原理は 「足ることなしの原理」です 52 00:02:25,270 --> 00:02:29,250 これはどれだけ多くの仕事があるかを 決めるものです 53 00:02:29,270 --> 00:02:31,776 Oリングの話から始めましょう 54 00:02:31,800 --> 00:02:33,530 ATM (現金自動預け払い機)には 55 00:02:33,530 --> 00:02:37,770 銀行窓口係の雇用に対し 相殺する2つの効果がありました 56 00:02:37,770 --> 00:02:40,976 ご想像の通り それは多くの窓口係の作業を 代替することになり 57 00:02:40,976 --> 00:02:44,120 支店あたりの窓口係の数は 3分の1減少しました 58 00:02:44,150 --> 00:02:48,056 しかしまた 銀行は新たに支店を開くコストが 安くなったことに気付き 59 00:02:48,080 --> 00:02:50,580 同じ時期に 銀行の支店数は 60 00:02:50,580 --> 00:02:52,736 40%増加しました 61 00:02:52,760 --> 00:02:57,410 総数としては支店数とともに 窓口係の数も増えたのです 62 00:02:57,440 --> 00:03:00,856 しかし窓口係の仕事内容も 少し変わりました 63 00:03:00,880 --> 00:03:04,536 日常の業務として 現金受渡の作業は減って 64 00:03:04,560 --> 00:03:06,310 出納係よりは 65 00:03:06,310 --> 00:03:08,536 セールスマンのような 仕事になりました 66 00:03:08,560 --> 00:03:10,590 顧客との関係を築き 67 00:03:10,590 --> 00:03:11,820 問題を解決し 68 00:03:11,820 --> 00:03:16,326 クレジットカードや ローンや 投資といった 新しい商品を紹介するようになったのです 69 00:03:16,326 --> 00:03:20,570 窓口係の仕事は より頭脳が要求されるものになりました 70 00:03:20,840 --> 00:03:23,090 ここにはある一般原理が 働いています 71 00:03:23,090 --> 00:03:24,816 我々のする仕事の多くは 72 00:03:24,840 --> 00:03:28,320 多様なスキルを必要とします 73 00:03:29,810 --> 00:03:32,240 頭脳と筋力— 74 00:03:32,240 --> 00:03:35,976 専門技術と経験の勘 75 00:03:36,000 --> 00:03:39,300 エジソンの言うところの 努力とひらめき 76 00:03:39,480 --> 00:03:42,736 通常そういった仕事の一部分を 自動化することで 77 00:03:42,760 --> 00:03:44,976 他の部分は不要になりません 78 00:03:45,000 --> 00:03:48,400 むしろ その部分が より重要になります 79 00:03:48,790 --> 00:03:51,056 経済的価値が高くなるのです 80 00:03:51,080 --> 00:03:53,096 際だった例をお話ししましょう 81 00:03:53,120 --> 00:03:56,936 1986年 スペースシャトル・ チャレンジャー号が 82 00:03:56,960 --> 00:03:59,256 発射から2分もせずに爆発し 83 00:03:59,280 --> 00:04:01,680 破片となって地上に落下しました 84 00:04:01,720 --> 00:04:03,880 調査の結果分かったのは 85 00:04:03,880 --> 00:04:08,376 爆発の原因は補助ロケットの 安価なゴム製Oリングにあり 86 00:04:08,400 --> 00:04:11,256 前の夜に発射台で凍り付いて 87 00:04:11,280 --> 00:04:14,656 発射直後に破滅的な故障を 来したということです 88 00:04:14,680 --> 00:04:17,289 この数十億ドル規模の事業において 89 00:04:17,289 --> 00:04:19,256 単なるゴム製Oリングが 90 00:04:19,256 --> 00:04:22,805 計画の成功と 7人の宇宙飛行士の悲惨な死とを 91 00:04:22,805 --> 00:04:24,960 分けることになったのです 92 00:04:25,600 --> 00:04:27,820 「Oリング生産関数」は 93 00:04:27,820 --> 00:04:31,430 この悲劇的な状況の 巧妙なメタファーとして 94 00:04:31,430 --> 00:04:33,720 ハーバードの経済学者 マイケル・クリーマーが 95 00:04:33,720 --> 00:04:36,136 チャレンジャー号事故の後に 名付けたものです 96 00:04:36,160 --> 00:04:37,710 Oリング生産関数は 97 00:04:37,710 --> 00:04:40,160 仕事を 連動する 一連のステップ 98 00:04:40,160 --> 00:04:42,376 鎖の輪として 捉えるものです 99 00:04:42,400 --> 00:04:46,096 計画の成功のためには すべての鎖の輪が機能する必要があります 100 00:04:46,120 --> 00:04:47,820 どれか1つでも壊れると 101 00:04:47,820 --> 00:04:51,450 計画・製品・サービスの全体が 102 00:04:51,450 --> 00:04:53,350 墜落することになります 103 00:04:53,560 --> 00:04:58,360 この危うい状況には 驚くほどポジティブな意味合いがあります 104 00:04:58,360 --> 00:05:01,856 鎖の輪1つの信頼性を 改善することは 105 00:05:01,856 --> 00:05:05,466 他の鎖の輪を 改善することの価値を 106 00:05:05,466 --> 00:05:07,216 高めるということです 107 00:05:07,240 --> 00:05:12,120 もしほとんどの鎖の輪が 脆く壊れやすいとしたら 108 00:05:12,120 --> 00:05:14,600 自分の鎖の輪の 信頼性が高いかは 109 00:05:14,600 --> 00:05:15,976 さして重要ではありません 110 00:05:16,000 --> 00:05:18,000 どのみち どこかが 壊れるでしょうから 111 00:05:18,024 --> 00:05:22,016 しかし他の鎖の輪がみんな 堅牢で高い信頼性があるとしたら 112 00:05:22,040 --> 00:05:25,536 自分の鎖の輪の重要性は より本質的なものになります 113 00:05:25,560 --> 00:05:28,500 究極的にはすべてが そこにかかることになります 114 00:05:28,500 --> 00:05:32,176 Oリングがチャレンジャー号にとって 要となったのは 115 00:05:32,200 --> 00:05:35,400 他のすべてが完璧に 機能していたからです 116 00:05:35,400 --> 00:05:38,100 もしチャレンジャー号が 宇宙時代における 117 00:05:38,100 --> 00:05:40,776 Windows 2000のような 代物だったとしたら — 118 00:05:40,776 --> 00:05:42,590 (笑) 119 00:05:42,590 --> 00:05:45,316 Oリングの信頼性など 問題にならなかったでしょう 120 00:05:45,316 --> 00:05:47,098 どうせクラッシュするんだから 121 00:05:47,122 --> 00:05:48,602 (笑) 122 00:05:49,720 --> 00:05:51,696 より一般的な話として 言えるのは 123 00:05:51,696 --> 00:05:55,376 我々のする仕事の大部分では 人間がOリングだということです 124 00:05:55,400 --> 00:05:58,936 ATMは確かに 現金受け払いの仕事を 125 00:05:58,960 --> 00:06:01,950 窓口係より速く うまくこなしましたが 126 00:06:01,950 --> 00:06:04,756 それで窓口係が不要になる ことはありませんでした 127 00:06:04,756 --> 00:06:07,376 むしろ窓口係の 問題解決力や 128 00:06:07,400 --> 00:06:10,016 顧客との関係が 重要性を増したのです 129 00:06:10,040 --> 00:06:13,336 同じ原理が 建物の建設や 130 00:06:13,360 --> 00:06:15,896 患者の診察や手当 131 00:06:15,920 --> 00:06:19,056 教室一杯の高校生への 授業などにも 132 00:06:19,080 --> 00:06:21,536 当てはまります 133 00:06:21,560 --> 00:06:23,720 道具が進歩し 134 00:06:23,720 --> 00:06:26,286 テクノロジーが 梃子として働くことで 135 00:06:26,286 --> 00:06:29,976 人間の専門技術や 判断力や創造性が 136 00:06:30,000 --> 00:06:32,420 より重要になるのです 137 00:06:33,000 --> 00:06:35,630 それが第2の原理に繋がります 138 00:06:36,000 --> 00:06:37,810 「足ることなしの原理」です 139 00:06:38,190 --> 00:06:40,796 こうお思いかもしれません 「Oリングは分かった 140 00:06:40,796 --> 00:06:43,100 人間の仕事が重要になる 141 00:06:43,100 --> 00:06:46,260 機械にはできないが 必要な仕事があるんだと 142 00:06:46,260 --> 00:06:49,540 しかしそれは必要になる仕事の量については 何も言っていない」 143 00:06:49,540 --> 00:06:52,070 何かについて 生産性が十二分に高くなったら 144 00:06:52,070 --> 00:06:54,330 その仕事から 人々が抜けていくのは 145 00:06:54,330 --> 00:06:56,270 自明のことでは ないでしょうか? 146 00:06:56,270 --> 00:06:57,720 1900年には 147 00:06:57,720 --> 00:07:00,976 アメリカの雇用の40%は 農業でした 148 00:07:01,000 --> 00:07:03,150 今日では 2%未満です 149 00:07:03,150 --> 00:07:05,430 なぜ農業従事者が そんなに減ったんでしょう? 150 00:07:05,430 --> 00:07:07,796 みんなの食べる量が 減ったからではありません 151 00:07:07,796 --> 00:07:09,850 (笑) 152 00:07:09,850 --> 00:07:12,610 1世紀に渡る 農業生産性の向上により 153 00:07:12,610 --> 00:07:14,490 今や2百万の農家が 154 00:07:14,490 --> 00:07:17,846 3億2千万の国民を 食べさせられるようになったのです 155 00:07:17,846 --> 00:07:19,350 驚くほどの進歩ですが 156 00:07:19,350 --> 00:07:23,686 これは農家に多くのOリング的な仕事が 残されたことも意味します 157 00:07:23,686 --> 00:07:26,616 だから確かにテクノロジーは 雇用を減らします 158 00:07:26,640 --> 00:07:28,486 農業はその一例に過ぎません 159 00:07:28,486 --> 00:07:30,790 そういう例は他にも沢山あります 160 00:07:31,440 --> 00:07:35,416 しかし1個の製品・サービス・ 産業に当てはまることが 161 00:07:35,440 --> 00:07:38,216 経済全体にも当てはまる わけではありません 162 00:07:38,240 --> 00:07:40,720 現在人々の働く産業の多く 163 00:07:40,720 --> 00:07:42,630 医療や健康 164 00:07:42,630 --> 00:07:44,760 金融や保険 165 00:07:44,760 --> 00:07:47,160 電子やITといったものは 166 00:07:47,540 --> 00:07:50,456 100年前には存在しなかったか ごく小さなものでした 167 00:07:50,480 --> 00:07:53,260 私たちが多くのお金を 使っている製品 168 00:07:53,260 --> 00:07:55,290 エアコン SUV 169 00:07:55,290 --> 00:07:57,266 コンピューター 携帯機器といったものは 170 00:07:57,266 --> 00:07:59,366 100年前には とんでもなく高価か 171 00:07:59,366 --> 00:08:01,900 あるいは発明されても いませんでした 172 00:08:01,920 --> 00:08:06,896 自動化により使える時間が増え 可能なことの範囲が広がり 173 00:08:06,920 --> 00:08:10,136 新しい製品・アイデア・ サービスが生み出され 174 00:08:10,160 --> 00:08:11,736 それが私たちの関心を引き 175 00:08:11,760 --> 00:08:13,296 時間を占有し 176 00:08:13,320 --> 00:08:15,480 消費を促すようになりました 177 00:08:15,760 --> 00:08:18,976 くだらないものが多いと 思うかもしれません 178 00:08:19,000 --> 00:08:21,776 究極的なヨガ 冒険ツアー 179 00:08:21,800 --> 00:08:23,056 ポケモンGO・・・ 180 00:08:23,080 --> 00:08:24,830 それは認めます 181 00:08:24,859 --> 00:08:28,456 でも人々はそういったものを欲しがり そのために熱心に働きます 182 00:08:28,480 --> 00:08:30,936 2015年の平均的な労働者が 183 00:08:30,936 --> 00:08:34,936 1915年当時の平均的な 生活水準を得るためには 184 00:08:34,960 --> 00:08:36,740 1年の3分の1 185 00:08:36,740 --> 00:08:40,050 17週 働くだけでよいのです 186 00:08:40,160 --> 00:08:42,416 しかし多くの人は そうはしません 187 00:08:42,440 --> 00:08:45,915 技術の賜を 手にするために 188 00:08:45,915 --> 00:08:48,040 熱心に働くのです 189 00:08:48,480 --> 00:08:52,576 物質的豊かさで 心理的な不足感が消えることはありません 190 00:08:52,600 --> 00:08:55,176 経済学者ソースティン・ヴェブレンが 言うように 191 00:08:55,200 --> 00:08:58,160 「発明は必要の母」なのです 192 00:08:59,520 --> 00:09:00,720 さて 193 00:09:01,210 --> 00:09:03,200 この2つの原理 「Oリングの原理」と 194 00:09:03,200 --> 00:09:06,200 「足ることなしの原理」を 認めてもらえるなら 195 00:09:06,200 --> 00:09:07,656 仕事がなくならないのも 196 00:09:07,656 --> 00:09:09,130 うなずけるでしょう 197 00:09:09,140 --> 00:09:11,836 では心配することなど 何もないのでしょうか? 198 00:09:11,836 --> 00:09:14,536 自動化 雇用 ロボット 仕事・・・ 199 00:09:14,560 --> 00:09:17,100 すべては自ずと うまくいくのでしょうか? 200 00:09:17,120 --> 00:09:18,336 いいえ 201 00:09:18,360 --> 00:09:20,416 それはまた別の話です 202 00:09:20,440 --> 00:09:23,926 自動化は より少ない時間で 多くの仕事ができるようにすることで 203 00:09:23,926 --> 00:09:25,576 富を生み出します 204 00:09:25,600 --> 00:09:26,940 しかし その富を 205 00:09:26,940 --> 00:09:29,976 人間がうまく使うと保証する 経済法則はありません 206 00:09:30,000 --> 00:09:32,160 それは懸念すべき点です 207 00:09:32,800 --> 00:09:34,160 2つの国 208 00:09:34,160 --> 00:09:36,776 ノルウェーとサウジアラビアを 考えてみましょう 209 00:09:36,800 --> 00:09:38,766 どちらも石油のおかげで 豊かな国です 210 00:09:38,766 --> 00:09:41,976 地面の穴から お金が 吹き出しているようなものです 211 00:09:42,000 --> 00:09:43,536 (笑) 212 00:09:43,560 --> 00:09:46,310 しかし両者が国民の繁栄のために 213 00:09:46,310 --> 00:09:50,190 その富を同じように使っている わけではありません 214 00:09:50,440 --> 00:09:53,346 ノルウェーは民主主義が うまくいっている国です 215 00:09:53,346 --> 00:09:56,610 概ね国民は互いに うまくやっており 216 00:09:56,610 --> 00:09:58,990 国民幸福度ランキングでは 217 00:09:58,990 --> 00:10:02,656 大概1位から4位の間にいます 218 00:10:02,680 --> 00:10:05,270 サウジは絶対君主国で 219 00:10:05,270 --> 00:10:08,976 多くの国民に栄達の道が 開かれてはいません 220 00:10:09,000 --> 00:10:12,320 国民幸福度ランキングは 35位あたりで 221 00:10:12,320 --> 00:10:14,616 あのように豊かな国にしては 低い順位です 222 00:10:14,640 --> 00:10:15,976 比較として 223 00:10:16,000 --> 00:10:19,230 アメリカがいるのは 12位か13位あたりです 224 00:10:19,270 --> 00:10:21,330 ノルウェーとサウジの違いは 225 00:10:21,330 --> 00:10:22,776 豊かさでも 226 00:10:22,800 --> 00:10:24,480 テクノロジーでもなく 227 00:10:24,480 --> 00:10:26,170 社会制度です 228 00:10:26,560 --> 00:10:29,000 ノルウェーは 機会が開かれていて 229 00:10:29,000 --> 00:10:33,096 経済的移動性のある社会を 作るために投資してきました 230 00:10:33,110 --> 00:10:35,616 サウジでは 生活水準は上がりましたが 231 00:10:35,616 --> 00:10:38,576 多くの国民は 不満を持っています 232 00:10:38,600 --> 00:10:41,210 2つの国は どちらも豊かですが 233 00:10:41,210 --> 00:10:43,870 同じようにうまくやっている わけではありません 234 00:10:43,880 --> 00:10:47,520 これは我々が 今日直面する問題 235 00:10:47,520 --> 00:10:50,230 自動化がもたらす問題を 思わせます 236 00:10:50,230 --> 00:10:52,380 問題は仕事が なくなることではありません 237 00:10:52,380 --> 00:10:55,266 アメリカではグレート・リセッションの 最悪の時期から 238 00:10:55,266 --> 00:10:57,096 雇用が1400万増えています 239 00:10:57,096 --> 00:10:59,536 問題は 多くの職は 240 00:10:59,560 --> 00:11:00,856 良い仕事でなく 241 00:11:00,880 --> 00:11:02,400 多くの人には 242 00:11:02,400 --> 00:11:05,850 新たに生まれる良い仕事に就ける スキルがないということです 243 00:11:05,850 --> 00:11:09,270 アメリカや その他の多くの 先進国における雇用の成長は 244 00:11:09,270 --> 00:11:11,916 両端の重みが増していく 245 00:11:11,916 --> 00:11:14,100 バーベルのようです 246 00:11:14,100 --> 00:11:15,330 一方には 247 00:11:15,330 --> 00:11:18,296 高学歴・高収入の仕事 248 00:11:18,320 --> 00:11:20,850 医師 看護師 プログラマー エンジニア 249 00:11:20,850 --> 00:11:23,946 マーケティングやセールスの 幹部社員といった仕事があります 250 00:11:23,946 --> 00:11:26,696 雇用は堅調で成長しています 251 00:11:26,720 --> 00:11:31,906 同様に 低スキル・低学歴の仕事もまた 雇用が増えています 252 00:11:31,906 --> 00:11:33,816 食品サービス 253 00:11:33,840 --> 00:11:36,096 清掃 警備 254 00:11:36,120 --> 00:11:37,680 介護などです 255 00:11:38,080 --> 00:11:41,476 他方で 中学歴・中収入な 256 00:11:41,476 --> 00:11:45,256 中流の仕事が 縮小しています 257 00:11:45,280 --> 00:11:49,096 工員や職人といった 労働者や 258 00:11:49,120 --> 00:11:52,096 事務やセールスといった 事務職です 259 00:11:52,120 --> 00:11:54,130 この中間部の縮小は 260 00:11:54,130 --> 00:11:55,736 不思議なことではありません 261 00:11:55,736 --> 00:11:57,916 そういった中間的スキルの 仕事の多くは 262 00:11:57,916 --> 00:12:00,716 よく分かっている ルールや手順に従っており 263 00:12:00,716 --> 00:12:03,256 それがソフトウェア化されて 264 00:12:03,280 --> 00:12:06,140 コンピューターで実行されるように なっているからです 265 00:12:06,200 --> 00:12:09,140 この現象が作り出すのは 266 00:12:09,140 --> 00:12:12,136 経済学者が「雇用の二極化」 と呼ぶ問題で 267 00:12:12,160 --> 00:12:14,776 経済の梯子の段が 取りのけられ 268 00:12:14,800 --> 00:12:16,616 中間層が縮小し 269 00:12:16,640 --> 00:12:19,776 社会の階層化が 進むということです 270 00:12:19,800 --> 00:12:23,360 高収入・高学歴の 知的職業に就く人が 271 00:12:23,360 --> 00:12:25,296 興味深い仕事をする一方で 272 00:12:25,320 --> 00:12:28,030 多数の人は低収入の仕事をし 273 00:12:28,030 --> 00:12:34,280 その主な責務は 裕福な層が快適で 健康的であるように世話をすることなのです 274 00:12:34,280 --> 00:12:36,996 これは私の考える 進歩の姿ではありません 275 00:12:36,996 --> 00:12:38,960 皆さんもそうでしょう 276 00:12:39,440 --> 00:12:41,456 しかし心強い話もあります 277 00:12:41,480 --> 00:12:46,080 私たちは過去に同じように大きな 経済的転換に直面しており 278 00:12:46,080 --> 00:12:49,056 それをうまく 切り抜けてきたのです 279 00:12:49,080 --> 00:12:53,590 1800年代末から 1900年代初めにかけて 280 00:12:53,590 --> 00:12:58,576 自動化によって農業の仕事が 大幅に減りました 281 00:12:58,600 --> 00:13:00,590 トラクターを思い出してください 282 00:13:00,590 --> 00:13:03,956 農業州では大規模な失業の危機に 直面しました 283 00:13:03,956 --> 00:13:07,310 1世代の若者達が 農場で必要とされなくなり 284 00:13:07,310 --> 00:13:10,020 工業に従事できる 準備もできていません 285 00:13:10,080 --> 00:13:11,656 この問題に対して 286 00:13:11,680 --> 00:13:13,476 彼らは大胆な施策を取り 287 00:13:13,476 --> 00:13:15,710 若い世代全体に 288 00:13:15,710 --> 00:13:18,060 16歳まで学校に残り 289 00:13:18,060 --> 00:13:21,330 教育を受けるよう 求めたのです 290 00:13:21,600 --> 00:13:23,576 これはハイスクール運動と呼ばれ 291 00:13:23,600 --> 00:13:26,416 極めて高く付くことでした 292 00:13:26,440 --> 00:13:28,696 学校への投資が 必要なだけでなく 293 00:13:28,720 --> 00:13:31,416 その若者達が 働けなくなるからです 294 00:13:31,440 --> 00:13:34,340 これはアメリカが20世紀にした 295 00:13:34,340 --> 00:13:36,976 最良の投資であったことが 分かりました 296 00:13:37,000 --> 00:13:40,266 世界でも最もスキルの高い 柔軟で生産的な労働力を 297 00:13:40,266 --> 00:13:42,056 手にすることになったからです 298 00:13:42,080 --> 00:13:44,810 これがいかにうまくいったか 理解するには 299 00:13:44,810 --> 00:13:48,936 1899年の労働者を現代に 連れてきたところを想像するといいです 300 00:13:48,936 --> 00:13:51,816 いかに頑丈な体を持ち 良い性格をしていたとしても 301 00:13:51,840 --> 00:13:55,616 その多くは基本的な読み書きや 数理的なスキルを欠いていて 302 00:13:55,640 --> 00:13:58,160 最も単純な仕事以外はできず 303 00:13:58,160 --> 00:14:01,380 大部分が雇用不適格でしょう 304 00:14:01,840 --> 00:14:05,410 この例が示しているのは 我々の制度 305 00:14:05,410 --> 00:14:07,376 特に学校の優位性であり 306 00:14:07,400 --> 00:14:09,936 それが技術的繁栄の実りを 307 00:14:09,960 --> 00:14:12,140 収穫できるように してくれたのです 308 00:14:12,140 --> 00:14:14,956 何も心配することはない などと言うのは馬鹿げています 309 00:14:14,956 --> 00:14:17,620 我々がやり方を間違うことは 十分あり得ます 310 00:14:17,640 --> 00:14:20,800 もしアメリカが 1世紀前のハイスクール運動で 311 00:14:20,800 --> 00:14:23,416 学校やスキルに 投資していなければ 312 00:14:23,440 --> 00:14:25,010 これほど繁栄はしておらず 313 00:14:25,010 --> 00:14:28,306 経済移動性も低く ずっと不幸な社会になっていたでしょう 314 00:14:28,306 --> 00:14:31,446 しかし我々の運命は閉ざされている と言うのも愚かなことです 315 00:14:31,446 --> 00:14:33,170 運命を決めるのは 機械ではなく 316 00:14:33,170 --> 00:14:34,820 マーケットでさえありません 317 00:14:34,820 --> 00:14:38,200 運命を決めるのは 我々自身と 我々の制度なのです 318 00:14:38,360 --> 00:14:40,760 私はパラドックスから 話を始めました 319 00:14:40,760 --> 00:14:43,530 機械がますます人間の仕事を するようになっているのに 320 00:14:43,530 --> 00:14:45,730 どうして人間の労働やスキルが 321 00:14:45,730 --> 00:14:47,266 余分なものにならないのか? 322 00:14:47,266 --> 00:14:49,456 経済的・社会的な地獄への道は 323 00:14:49,456 --> 00:14:53,630 我々自身の偉大な発明によって敷かれているのは 自明なことではないのか? 324 00:14:53,900 --> 00:14:58,216 歴史はこのパラドックスに 繰り返し答えてきました 325 00:14:58,240 --> 00:15:01,760 答えの1つは テクノロジーが梃子として働き 326 00:15:01,760 --> 00:15:04,936 人間の専門知識 判断力 創造性の 327 00:15:04,936 --> 00:15:08,056 付加価値や重要性を 高めるということ 328 00:15:08,080 --> 00:15:09,500 Oリングです 329 00:15:09,880 --> 00:15:12,616 もう1つの答えは 人間の尽きることのない創意と 330 00:15:12,640 --> 00:15:14,096 果てなき欲求のため 331 00:15:14,120 --> 00:15:16,456 決して満ち足りることが ないということ 332 00:15:16,480 --> 00:15:19,220 常に新たな仕事があるのです 333 00:15:19,960 --> 00:15:23,000 技術が変化する速さへの対応は 334 00:15:23,000 --> 00:15:24,776 難しい問題を生み出し 335 00:15:24,800 --> 00:15:27,120 そのことは 労働市場の二極化や 336 00:15:27,120 --> 00:15:31,140 それが経済的移動性を脅かす様に 見て取れます 337 00:15:31,150 --> 00:15:34,140 この困難を越えることは 自動的に出来ることでも 338 00:15:34,140 --> 00:15:35,800 コストなしに できることでもなく 339 00:15:35,800 --> 00:15:37,436 容易ではありませんが 340 00:15:37,436 --> 00:15:39,080 可能なことです 341 00:15:39,120 --> 00:15:40,936 そして明るい話もあります 342 00:15:40,960 --> 00:15:42,970 驚くべき生産性のお陰で 343 00:15:42,970 --> 00:15:44,376 我々は豊かです 344 00:15:44,400 --> 00:15:47,536 アメリカが100年前に ハイスクール運動でしたように 345 00:15:47,560 --> 00:15:50,896 我々自身や子供達に投資することは もちろん可能です 346 00:15:50,920 --> 00:15:53,700 むしろ しないことは 許されないでしょう 347 00:15:53,960 --> 00:15:55,896 こう思っているかもしれません 348 00:15:55,920 --> 00:15:58,510 オートー先生は 明るい話を 349 00:15:58,510 --> 00:16:00,550 遠い昔や 少し前や 350 00:16:00,550 --> 00:16:03,036 現在については しているかもしれないけど 351 00:16:03,036 --> 00:16:05,296 未来のことは 言っていない 352 00:16:05,320 --> 00:16:09,256 今回が違うことは みんな知っているから 353 00:16:09,280 --> 00:16:12,096 今回は違うんですよね? 354 00:16:12,120 --> 00:16:14,016 もちろん今回は違います 355 00:16:14,040 --> 00:16:15,946 毎回違っているのです 356 00:16:15,946 --> 00:16:19,376 過去200年間に 数え切れないくらい 357 00:16:19,400 --> 00:16:22,176 学者や活動家達が 警告してきました 358 00:16:22,200 --> 00:16:25,736 仕事がなくなり 我々は用済みになると 359 00:16:25,760 --> 00:16:30,376 たとえばラッダイトが 1800年代初めに 360 00:16:30,400 --> 00:16:33,336 米国労働長官ジェームス・デイヴィスが 361 00:16:33,360 --> 00:16:35,740 1920年代半ばに 362 00:16:35,740 --> 00:16:41,136 ノーベル賞経済学者ワシリー・レオンチェフが 1982年に言っています 363 00:16:41,136 --> 00:16:44,256 そしてもちろん 現在の多くの学者 364 00:16:44,280 --> 00:16:46,340 評論家 科学技術者 365 00:16:46,340 --> 00:16:48,890 マスメディアの人々が 言っています 366 00:16:49,600 --> 00:16:53,250 そのような予言は 私には傲慢に思えます 367 00:16:53,500 --> 00:16:56,596 そういった自称予言者達は 実質的にこう言っているのです 368 00:16:56,596 --> 00:16:59,936 「人々が将来どんな仕事をするのか 私に考え付かないなら 369 00:16:59,960 --> 00:17:02,856 世の人々にも 子孫達にも 370 00:17:02,880 --> 00:17:04,875 考え付かないだろう」 371 00:17:05,760 --> 00:17:09,134 人類の創意に対して そのような賭けをする肝っ玉は 372 00:17:09,134 --> 00:17:10,896 私にはありません 373 00:17:10,920 --> 00:17:13,896 何百年先に人々が どんな仕事をしているか 374 00:17:13,920 --> 00:17:15,709 私には分かりません 375 00:17:15,709 --> 00:17:19,170 しかし未来は私の想像力に かかっているわけではありません 376 00:17:19,280 --> 00:17:22,649 私が1900年の アイオワ州の農民で 377 00:17:22,649 --> 00:17:26,826 21世紀から経済学者が 私の畑にテレポートしてきて言ったとします 378 00:17:26,826 --> 00:17:29,450 「ねえ お百姓のオートーさん 379 00:17:30,000 --> 00:17:31,776 この先100年の 380 00:17:31,776 --> 00:17:34,000 生産性向上によって 381 00:17:34,000 --> 00:17:36,280 農業雇用は40%から 382 00:17:36,280 --> 00:17:38,600 2%に減るんだよ 383 00:17:39,220 --> 00:17:43,020 他の38%の人たちは 何を仕事にしていると思うね?」 384 00:17:43,260 --> 00:17:46,070 私はたぶん こうは言わないでしょう 385 00:17:46,070 --> 00:17:49,096 「ああ そりゃアプリ開発とか 放射線医療とか 386 00:17:49,120 --> 00:17:52,316 ヨガのインストラクターとか 絵文字デザインとかかな」 387 00:17:52,316 --> 00:17:53,510 (笑) 388 00:17:53,510 --> 00:17:55,760 私には見当が付かないでしょう 389 00:17:55,760 --> 00:17:58,336 しかし こう言える知恵が あればと思います 390 00:17:58,360 --> 00:18:02,376 「すごいね 農業人口が95%減って 391 00:18:02,400 --> 00:18:04,536 食糧不足にならないなんて 392 00:18:04,560 --> 00:18:06,976 すごい進歩だ 393 00:18:07,000 --> 00:18:08,730 その繁栄によって 394 00:18:08,730 --> 00:18:12,590 人類が何かすごいことを やってくれることを望むよ」 395 00:18:12,990 --> 00:18:16,790 そして概ねそうなっていると 私は思います 396 00:18:17,690 --> 00:18:19,216 ありがとうございました 397 00:18:19,240 --> 00:18:24,295 (拍手)