1 00:00:00,509 --> 00:00:04,841 私が関わった訴訟について お話しします 2 00:00:04,841 --> 00:00:08,404 スティーブ・タイタス という男性の事件です 3 00:00:08,404 --> 00:00:11,433 タイタスは レストランの支配人で 4 00:00:11,433 --> 00:00:15,523 当時31歳で ワシントン州シアトル在住でした 5 00:00:15,523 --> 00:00:17,418 グレッチェンという婚約者がいて 6 00:00:17,418 --> 00:00:20,366 運命の人との結婚を 間近に控えていました 7 00:00:20,366 --> 00:00:22,650 ある夜 二人は 8 00:00:22,650 --> 00:00:25,655 おしゃれなレストランで 食事を楽しみ 9 00:00:25,655 --> 00:00:27,303 家に戻る途中 10 00:00:27,303 --> 00:00:30,253 警官に止められました 11 00:00:30,253 --> 00:00:33,570 その日の夕方 女性ヒッチハイカーが 12 00:00:33,570 --> 00:00:37,457 男にレイプされる事件が あったのですが 13 00:00:37,457 --> 00:00:40,863 タイタスの車は レイプ犯の車と似たところがあり 14 00:00:40,863 --> 00:00:44,457 タイタス自身も 犯人と どこか似ているというのです 15 00:00:44,457 --> 00:00:47,035 そこで 警察は タイタスの写真を撮り 16 00:00:47,035 --> 00:00:49,802 ほかの人の写真と一緒に 17 00:00:49,802 --> 00:00:51,962 被害者に見せました 18 00:00:51,962 --> 00:00:54,122 すると 被害者は タイタスの写真を指差し 19 00:00:54,122 --> 00:00:57,743 「この人が一番近い」 と言ったのです 20 00:00:57,743 --> 00:01:01,631 警察と検察は 逮捕・起訴に踏み切りました 21 00:01:01,631 --> 00:01:04,972 スティーブ・タイタスが 強姦罪で公判に付されたとき 22 00:01:04,972 --> 00:01:07,068 レイプの被害者は 証言台に立ち 23 00:01:07,068 --> 00:01:11,410 こう言いました 「この人で 絶対に間違いない」 24 00:01:11,410 --> 00:01:14,336 タイタスは 有罪判決を受けました 25 00:01:14,336 --> 00:01:16,310 彼は無実だと主張し 26 00:01:16,310 --> 00:01:18,892 家族も 陪審に叫び声をあげ 27 00:01:18,892 --> 00:01:21,763 婚約者は その場に泣き崩れました 28 00:01:21,763 --> 00:01:25,158 そして タイタスは 刑務所へ送られます 29 00:01:25,158 --> 00:01:28,616 このとき あなたなら どうしますか? 30 00:01:28,616 --> 00:01:30,252 どうしますか? 31 00:01:30,252 --> 00:01:34,020 タイタスは 司法への信頼を 完全に失いますが 32 00:01:34,020 --> 00:01:36,052 あることを思いつきます 33 00:01:36,052 --> 00:01:38,483 地元の新聞社に電話し 34 00:01:38,483 --> 00:01:41,870 ある調査ジャーナリストの 協力を得ることに成功します 35 00:01:41,870 --> 00:01:46,606 そして そのジャーナリストは 真犯人にたどり着きました 36 00:01:46,606 --> 00:01:49,959 その男は 最終的に このレイプを自白し 37 00:01:49,959 --> 00:01:53,251 この地区で 50件ものレイプをしていたと 38 00:01:53,251 --> 00:01:54,583 考えられています 39 00:01:54,583 --> 00:01:57,757 この情報が 裁判所に提出され 40 00:01:57,757 --> 00:02:00,693 タイタスは 自由の身となりました 41 00:02:00,693 --> 00:02:04,724 これで 一件落着し すべて終わりとなるべきでした 42 00:02:04,724 --> 00:02:05,847 これで 一件落着し すべて終わりとなるべきでした 43 00:02:05,847 --> 00:02:08,367 タイタスにしても これは 最悪の一年で 44 00:02:08,367 --> 00:02:12,203 冤罪との闘いも ようやく終わった と思ったはずです 45 00:02:12,203 --> 00:02:14,250 でも そうは行きませんでした 46 00:02:14,250 --> 00:02:16,928 タイタスは かなり憤慨していました 47 00:02:16,928 --> 00:02:19,508 仕事を失い それを取り戻すこともできず 48 00:02:19,508 --> 00:02:21,351 婚約者まで失いました 49 00:02:21,351 --> 00:02:24,257 彼の しつこい怒りに 婚約者は耐えられなかったのです 50 00:02:24,257 --> 00:02:26,403 タイタスは 貯金も尽き 51 00:02:26,403 --> 00:02:29,261 裁判を起こすことを 決意しました 52 00:02:29,261 --> 00:02:31,542 彼の味わった苦痛の 責任を負うべき― 53 00:02:31,542 --> 00:02:33,861 警察などを 相手取った裁判です 54 00:02:33,861 --> 00:02:38,574 私がこの件に関わったのは その時からで 55 00:02:38,574 --> 00:02:40,535 私が解明しようとしたのは 56 00:02:40,535 --> 00:02:42,609 なぜ 被害者の証言が 57 00:02:42,609 --> 00:02:44,137 「この人が一番近い」から 58 00:02:44,137 --> 00:02:48,887 「この人で 絶対に間違いない」に 変わったのかです 59 00:02:48,887 --> 00:02:52,166 タイタスは この裁判にのめりこみ 60 00:02:52,166 --> 00:02:55,200 寝ても覚めても このことばかり考えていました 61 00:02:55,200 --> 00:02:59,351 裁判所に出廷する ほんの数日前 62 00:02:59,351 --> 00:03:01,570 タイタスは 朝 目覚めると 63 00:03:01,570 --> 00:03:03,378 身もよじれるほどの 激痛に襲われ 64 00:03:03,378 --> 00:03:06,072 ストレス性の心臓発作で 亡くなりました 65 00:03:06,072 --> 00:03:09,259 35歳でした 66 00:03:09,259 --> 00:03:14,069 私が タイタスの事件を 頼まれたのは 67 00:03:14,069 --> 00:03:16,584 私が心理科学者で 68 00:03:16,584 --> 00:03:20,411 記憶の研究をしているからです もう数十年になります 69 00:03:20,411 --> 00:03:23,800 飛行機で乗り合わせた人と― 70 00:03:23,800 --> 00:03:25,896 ここへ来る時にも ありましたが― 71 00:03:25,896 --> 00:03:27,726 飛行機で乗り合わせた人と― 72 00:03:27,726 --> 00:03:30,771 「お仕事は何を?」という やりとりをしますよね 73 00:03:30,771 --> 00:03:32,222 「記憶の研究」と私が答えると 74 00:03:32,222 --> 00:03:35,602 たいてい 「人の名前を覚えられない」とか 75 00:03:35,602 --> 00:03:38,401 「アルツハイマー病や 記憶障害の親戚がいる」という 76 00:03:38,416 --> 00:03:40,481 話になります 77 00:03:40,481 --> 00:03:42,697 でも 私は「忘れる」ことは 研究していないのです 78 00:03:42,697 --> 00:03:46,202 でも 私は「忘れる」ことは 研究していないのです 79 00:03:46,202 --> 00:03:49,204 私の研究はその反対で 「記憶する」こと― 80 00:03:49,204 --> 00:03:51,957 起きてもいないことを 覚えていることや 81 00:03:51,957 --> 00:03:53,922 実際とは違う風に 覚えていることを 82 00:03:53,922 --> 00:03:55,947 研究しています 83 00:03:55,947 --> 00:04:00,683 私は 虚偽記憶を 研究しているのです 84 00:04:00,683 --> 00:04:04,990 残念ながら スティーブ・タイタス以外にも 85 00:04:04,990 --> 00:04:09,295 他人の虚偽記憶によって 有罪とされた人たちがいます 86 00:04:09,295 --> 00:04:12,603 米国の あるプロジェクトで 87 00:04:12,603 --> 00:04:14,855 無実の罪に問われた― 88 00:04:14,855 --> 00:04:18,789 300名の情報を集めました 89 00:04:18,789 --> 00:04:22,684 犯していない罪で有罪とされた この300名の被告は 90 00:04:22,684 --> 00:04:27,984 刑務所で 10年 20年 30年を過ごし 91 00:04:27,984 --> 00:04:30,411 今になって DNA鑑定により 92 00:04:30,411 --> 00:04:33,327 無実が証明されたのです 93 00:04:33,327 --> 00:04:35,848 これらを分析した結果 94 00:04:35,848 --> 00:04:37,989 4分の3のケースは 95 00:04:37,989 --> 00:04:43,600 目撃証人の 「誤った記憶」が原因でした 96 00:04:43,600 --> 00:04:44,863 なぜ こんなことに? 97 00:04:44,863 --> 00:04:48,314 これら無実の人たちを 有罪とした陪審員や 98 00:04:48,314 --> 00:04:50,598 タイタスを有罪とした 陪審員をはじめ 99 00:04:50,598 --> 00:04:52,839 多くの人が 記憶というものを 100 00:04:52,839 --> 00:04:54,486 記録装置と同一視しています 101 00:04:54,486 --> 00:04:56,743 人は 情報を そのまま記録しておいて 102 00:04:56,743 --> 00:04:59,390 それを呼び出して再生し 103 00:04:59,390 --> 00:05:02,817 質問に答えたり イメージを認識したりするというわけです 104 00:05:02,817 --> 00:05:04,980 しかし 何十年にもわたる 心理学研究が 105 00:05:04,980 --> 00:05:08,133 そうではないことを 証明しています 106 00:05:08,133 --> 00:05:10,563 私たちの記憶は 組み立てられるもので 107 00:05:10,563 --> 00:05:12,132 再構成もされます 108 00:05:12,132 --> 00:05:15,613 記憶は むしろ ウィキペディアのようなものです 109 00:05:15,613 --> 00:05:20,726 自ら 内容を書き換えることもできれば 他人が書き換えることもできます 110 00:05:20,726 --> 00:05:25,975 私が この記憶の構成過程の 研究に着手したのは 111 00:05:25,975 --> 00:05:28,390 1970年代でした 112 00:05:28,390 --> 00:05:32,813 そのとき行った実験では 被験者に 113 00:05:32,813 --> 00:05:35,318 模擬犯罪や事故の現場を見せ 114 00:05:35,318 --> 00:05:38,836 覚えていることについて 質問をしました 115 00:05:38,836 --> 00:05:42,775 ある研究では 模擬事故を見せ 116 00:05:42,775 --> 00:05:44,053 こう聞きました 117 00:05:44,053 --> 00:05:46,917 車がぶつかった時 速度はどれくらいだったか? 118 00:05:46,917 --> 00:05:48,551 別の人たちには こう聞きました 119 00:05:48,551 --> 00:05:52,240 車が激突したとき 速度はどれくらいだったか? 120 00:05:52,240 --> 00:05:55,242 「激突」という言葉で 質問をしたとき 121 00:05:55,242 --> 00:05:58,527 証人たちが証言する 車の速度は上がり 122 00:05:58,527 --> 00:06:02,524 さらに「激突」という言葉を 使うことによって 123 00:06:02,524 --> 00:06:05,384 ある証言を得る確率が 上がりました 124 00:06:05,384 --> 00:06:08,451 事故現場で ガラスが割れているのを 見たというのです 125 00:06:08,451 --> 00:06:12,230 実際は ガラスは 割れていなかったのにです 126 00:06:12,230 --> 00:06:15,119 別の研究では 車が― 127 00:06:15,119 --> 00:06:18,779 一時停止の標識がある交差点を 突っ切る模擬事故を見せました 128 00:06:18,779 --> 00:06:23,711 徐行の標識があったことを ほのめかす質問をすると 129 00:06:23,711 --> 00:06:27,560 多くの証人は 交差点にあったのは 徐行の標識で 130 00:06:27,560 --> 00:06:31,017 一時停止の標識ではなかったと 言いました 131 00:06:31,017 --> 00:06:33,206 皆さんは こうお考えかもしれませんね 132 00:06:33,206 --> 00:06:34,529 これはビデオだから 133 00:06:34,529 --> 00:06:36,457 特に緊迫した状況ではないと 134 00:06:36,457 --> 00:06:39,191 では もっと緊迫した状況なら 135 00:06:39,191 --> 00:06:42,142 同じ間違いは 起こらないのでしょうか? 136 00:06:42,142 --> 00:06:45,233 答えは 私たちが ほんの数ヶ月前に 137 00:06:45,233 --> 00:06:47,537 発表した論文に 載っています 138 00:06:47,537 --> 00:06:50,301 この研究では 通常と違い 139 00:06:50,301 --> 00:06:55,933 被験者に 強いストレスのかかる経験を させたのです 140 00:06:55,933 --> 00:06:58,162 この研究の被験者は 141 00:06:58,162 --> 00:07:00,672 米軍に属し 142 00:07:00,672 --> 00:07:05,097 悲惨な訓練に 耐えている人たちでした 143 00:07:05,097 --> 00:07:07,879 戦争捕虜として とらえられることが 144 00:07:07,879 --> 00:07:11,797 どんなものか 学ぶための訓練です 145 00:07:11,797 --> 00:07:14,227 この訓練の過程で 146 00:07:14,227 --> 00:07:17,756 軍人たちは 30分間 147 00:07:17,756 --> 00:07:22,842 肉体的虐待を含む 攻撃的で厳しい尋問を受けます 148 00:07:22,842 --> 00:07:25,659 その後 尋問をした人を 149 00:07:25,659 --> 00:07:28,682 特定するよう指示されます 150 00:07:28,682 --> 00:07:32,505 私たちが 別の人物を暗示する 情報を与えると 151 00:07:32,505 --> 00:07:35,283 私たちが 別の人物を暗示する 情報を与えると 152 00:07:35,283 --> 00:07:39,320 多くの人が 尋問した人を間違えました 153 00:07:39,320 --> 00:07:43,155 しばしば 実際の人とは 154 00:07:43,155 --> 00:07:46,259 似ても似つかない人を 選んだりもしました 155 00:07:46,259 --> 00:07:48,560 これらの研究が 示しているのは 156 00:07:48,560 --> 00:07:52,420 経験した事実について 誤った情報を与えると 157 00:07:52,420 --> 00:07:55,800 他人の記憶を 歪曲したり ねつ造したり 158 00:07:55,800 --> 00:08:01,455 変えてしまうことが 可能だということです 159 00:08:01,455 --> 00:08:03,655 現実世界は 160 00:08:03,655 --> 00:08:06,546 誤った情報で あふれています 161 00:08:06,546 --> 00:08:07,906 私たちが 誤情報に触れるのは 162 00:08:07,906 --> 00:08:10,822 誘導尋問をされるとき だけではありません 163 00:08:10,822 --> 00:08:13,269 他の証人と話していて 164 00:08:13,269 --> 00:08:16,302 相手が意識的に あるいは 何の気なしに言う― 165 00:08:16,302 --> 00:08:18,439 情報が誤っていることもあります 166 00:08:18,439 --> 00:08:23,169 また 経験していても おかしくないことを 167 00:08:23,169 --> 00:08:25,962 メディアの報道を通じて 見ることによっても 168 00:08:25,962 --> 00:08:30,312 私たちの記憶は 歪められてしまう可能性があります 169 00:08:30,312 --> 00:08:34,100 1990年代 私たちは 170 00:08:34,100 --> 00:08:38,783 さらに危険な「記憶」を 目にするようになりました 171 00:08:38,783 --> 00:08:41,879 何らかの問題で 心理療法を受けた患者が― 172 00:08:41,879 --> 00:08:44,793 うつや摂食障害などの治療です― 173 00:08:44,793 --> 00:08:47,546 治療を終えると 174 00:08:47,546 --> 00:08:50,207 別の問題を抱えるように なっていたのです 175 00:08:50,207 --> 00:08:53,908 おぞましい虐待に関する 常軌を逸した記憶です 176 00:08:53,908 --> 00:08:55,891 悪魔崇拝儀式や 177 00:08:55,891 --> 00:09:00,588 本当に異様な要素を 含んでいることもあります 178 00:09:00,588 --> 00:09:03,142 心理療法を終えた ある女性は 179 00:09:03,142 --> 00:09:05,570 何年もの間 儀礼虐待を受け 180 00:09:05,570 --> 00:09:09,472 妊娠までさせられ 堕胎もしたと 181 00:09:09,472 --> 00:09:12,038 信じ切っていました 182 00:09:12,038 --> 00:09:14,397 でも その話を裏付けるような 183 00:09:14,397 --> 00:09:16,423 傷跡や その他の身体的証拠は ありませんでした 184 00:09:16,423 --> 00:09:19,304 傷跡や その他の身体的証拠は ありませんでした 185 00:09:19,304 --> 00:09:22,312 こうしたケースを 調査し始めて 186 00:09:22,312 --> 00:09:23,762 思いました 187 00:09:23,762 --> 00:09:26,090 この奇妙な記憶は どこから来るのだろう? 188 00:09:26,090 --> 00:09:30,477 そして ほとんどのケースで 189 00:09:30,477 --> 00:09:35,968 ある特殊な心理療法が 行われていたことに気づきました 190 00:09:35,968 --> 00:09:37,567 そこで思ったのです 191 00:09:37,567 --> 00:09:40,955 この心理療法で 行われていること― 192 00:09:40,955 --> 00:09:43,839 想像訓練や 193 00:09:43,839 --> 00:09:45,896 夢判断 194 00:09:45,896 --> 00:09:48,028 一部の例では 催眠や 195 00:09:48,028 --> 00:09:51,846 虚偽の情報にさらすこと― 196 00:09:51,846 --> 00:09:54,633 こうしたことが 患者に 197 00:09:54,633 --> 00:09:57,310 奇妙で ありえない記憶を 作らせているのではないか? 198 00:09:57,310 --> 00:10:00,241 奇妙で ありえない記憶を 作らせているのではないか? 199 00:10:00,241 --> 00:10:02,400 そこで 私は実験を企画し 200 00:10:02,400 --> 00:10:07,425 この心理療法で使われる プロセスを検証できるようにし 201 00:10:07,425 --> 00:10:10,498 このような内容豊かな虚偽記憶が 202 00:10:10,498 --> 00:10:14,049 どうやって形成されるか 研究しました 203 00:10:14,049 --> 00:10:16,457 最初に行った実験の一つで 204 00:10:16,457 --> 00:10:18,810 私たちは 暗示を使いました 205 00:10:18,810 --> 00:10:22,873 問題になっていた心理療法から 着想した手法で 206 00:10:22,873 --> 00:10:24,983 ある種の暗示を使って 被験者に 207 00:10:24,983 --> 00:10:26,835 偽りの記憶を植え付けました 208 00:10:26,835 --> 00:10:29,912 子どものとき 5歳か6歳ごろ 209 00:10:29,912 --> 00:10:32,163 ショッピング・モールで 迷子になって 210 00:10:32,163 --> 00:10:34,663 怖くて泣いていたら 211 00:10:34,663 --> 00:10:37,177 お年寄りに助けられ 212 00:10:37,177 --> 00:10:39,029 家族と再会できたという 記憶です 213 00:10:39,029 --> 00:10:41,637 その結果 私たちは この記憶を 214 00:10:41,637 --> 00:10:45,743 被験者の4分の1に 植え付けることに成功しました 215 00:10:45,743 --> 00:10:47,748 こうお考えかもしれませんね 216 00:10:47,748 --> 00:10:50,094 あまりストレスのある記憶ではないと 217 00:10:50,094 --> 00:10:53,463 でも 我々研究者は 218 00:10:53,463 --> 00:10:56,221 もっと非日常的で もっとストレスのかかる― 219 00:10:56,221 --> 00:10:59,136 内容豊かな虚偽記憶の植え付けも 行っています 220 00:10:59,136 --> 00:11:01,675 テネシー州で行われた研究で 221 00:11:01,675 --> 00:11:04,091 研究者が植えつけた虚偽記憶は 222 00:11:04,091 --> 00:11:06,665 子どものとき おぼれかけて 223 00:11:06,665 --> 00:11:09,172 救命士に助けられた というものでした 224 00:11:09,172 --> 00:11:11,475 カナダの研究で 225 00:11:11,475 --> 00:11:13,999 研究者が植えつけた虚偽記憶は 226 00:11:13,999 --> 00:11:15,227 子どものときに 227 00:11:15,227 --> 00:11:18,957 どう猛な動物に 襲われたような 228 00:11:18,957 --> 00:11:20,339 ひどい経験で 229 00:11:20,339 --> 00:11:23,761 この植え付けは 被験者の約半分で 成功しました 230 00:11:23,761 --> 00:11:26,113 イタリアで行われた研究で 231 00:11:26,113 --> 00:11:28,771 研究者が植えつけた虚偽記憶は 232 00:11:28,771 --> 00:11:33,983 子どものとき 悪魔憑きを目撃したというものでした 233 00:11:33,983 --> 00:11:36,190 こうした実験は まるで 234 00:11:36,190 --> 00:11:39,929 科学という名のもとに 被験者にトラウマを与えているようですが 235 00:11:39,929 --> 00:11:41,529 科学という名のもとに 被験者にトラウマを与えているようですが 236 00:11:41,529 --> 00:11:46,167 私たちの研究は 研究倫理委員会の精査を受け 237 00:11:46,167 --> 00:11:48,142 承認されたものだということを 付け加えておきます 238 00:11:48,142 --> 00:11:50,484 承認されたものだということを 付け加えておきます 239 00:11:50,484 --> 00:11:53,557 実験において 被験者は 240 00:11:53,557 --> 00:11:56,641 一時的に不快感を 抱くかもしれないが 241 00:11:56,641 --> 00:12:00,541 これらの研究は 記憶の過程を理解し 242 00:12:00,541 --> 00:12:03,648 世界各地で起こっている 記憶の悪用問題を解決するために 243 00:12:03,648 --> 00:12:06,994 世界各地で起こっている 記憶の悪用問題を解決するために 244 00:12:06,994 --> 00:12:10,287 必要だと判断されたのです 245 00:12:10,287 --> 00:12:13,325 驚いたことに 246 00:12:13,325 --> 00:12:16,754 私がこの研究成果を発表し 247 00:12:16,754 --> 00:12:20,649 ある特定の心理療法に 異論を唱え始めると 248 00:12:20,649 --> 00:12:24,629 困った問題が起きました 249 00:12:24,629 --> 00:12:29,530 ひどい嫌がらせを受けたのです 主に自分たちへの攻撃と捉えた― 250 00:12:29,530 --> 00:12:31,206 抑圧記憶のセラピストからで 251 00:12:31,206 --> 00:12:34,734 影響を受けた患者からもです 252 00:12:34,734 --> 00:12:37,671 私は 時には 武装した護衛をつけて 253 00:12:37,671 --> 00:12:39,576 招待講演にのぞみました 254 00:12:39,576 --> 00:12:43,793 私の解雇を狙った 手紙攻撃キャンペーンも展開されました 255 00:12:43,793 --> 00:12:45,774 でも おそらく 最悪だったのは 256 00:12:45,774 --> 00:12:48,541 ある女性の無実を 私が主張したことです 257 00:12:48,541 --> 00:12:50,965 彼女は成人した娘から 258 00:12:50,965 --> 00:12:53,801 虐待者として責められていました 259 00:12:53,801 --> 00:12:57,218 娘は 母親を 性的虐待で非難していましたが 260 00:12:57,218 --> 00:12:59,077 その根拠は 抑圧された記憶でした 261 00:12:59,077 --> 00:13:01,960 告発をした娘は 実際に 自分の話を 262 00:13:01,960 --> 00:13:05,394 カメラの前で語り それを公開していました 263 00:13:05,394 --> 00:13:07,903 私は 疑念を抱き 264 00:13:07,903 --> 00:13:10,203 調査を始めて 265 00:13:10,203 --> 00:13:14,686 最終的に 母親が無実であると 266 00:13:14,686 --> 00:13:16,975 確信できる情報を 見つけました 267 00:13:16,975 --> 00:13:19,936 私が これに関する 暴露記事を発表すると 268 00:13:19,936 --> 00:13:23,380 告発していた娘は そのすぐ後に 269 00:13:23,380 --> 00:13:24,901 訴訟を起こしました 270 00:13:24,901 --> 00:13:27,256 彼女の名前は 完全に伏せていたのですが 271 00:13:27,256 --> 00:13:31,618 名誉棄損とプライバシー侵害で 私を訴えたのです 272 00:13:31,618 --> 00:13:34,341 ほぼ5年もの間 273 00:13:34,341 --> 00:13:40,893 泥沼の裁判をし 不快な思いもしましたが 274 00:13:40,893 --> 00:13:44,567 ついに ようやく終わって 275 00:13:44,567 --> 00:13:46,991 私も自分の仕事に 戻れました 276 00:13:46,991 --> 00:13:49,476 でも その過程で 277 00:13:49,476 --> 00:13:52,130 私は アメリカの 悪しき風潮に巻き込まれました 278 00:13:52,130 --> 00:13:54,237 世間で大論争になっていることを 279 00:13:54,237 --> 00:13:58,836 話題にしただけで 科学者が訴えられるという風潮です 280 00:13:58,836 --> 00:14:02,194 研究に戻った私に こんな疑問が湧きました 281 00:14:02,194 --> 00:14:04,592 誰かの心に 虚偽記憶を植えたら 282 00:14:04,592 --> 00:14:06,436 影響はあるのだろうか? 283 00:14:06,436 --> 00:14:08,395 その後の考え方や行動に 284 00:14:08,395 --> 00:14:10,496 影響を与えるんだろうか? 285 00:14:10,496 --> 00:14:12,523 まず 試した虚偽記憶は 286 00:14:12,523 --> 00:14:15,849 子どものとき ある食べ物で 具合が悪くなったというものです 287 00:14:15,849 --> 00:14:18,848 ゆで卵やピクルス 苺のアイスを使いました 288 00:14:18,848 --> 00:14:22,038 この虚偽記憶を植えたあと 289 00:14:22,038 --> 00:14:24,489 被験者を戸外の食事に招くと これらの食べ物を 290 00:14:24,489 --> 00:14:26,749 以前ほど食べなくなることが わかりました 291 00:14:26,749 --> 00:14:30,622 虚偽記憶は 悪いことや 不快なことである必要はありません 292 00:14:30,622 --> 00:14:32,980 アスパラガスなどの 健康的な食べ物にまつわる― 293 00:14:32,980 --> 00:14:36,001 心が温まるような記憶を 植えつければ 294 00:14:36,001 --> 00:14:39,476 アスパラガスを もっと食べたくなるようにできます 295 00:14:39,476 --> 00:14:41,850 これらの研究が 示しているのは 296 00:14:41,850 --> 00:14:43,965 虚偽記憶は 植え付けが可能で 297 00:14:43,965 --> 00:14:45,378 その記憶が根付いた後は 298 00:14:45,378 --> 00:14:50,463 長期に渡って 行動に影響を及ぼすということです 299 00:14:50,463 --> 00:14:52,887 こうして記憶を植え 行動をコントロールすることは 300 00:14:52,887 --> 00:14:55,810 こうして記憶を植え 行動をコントロールすることは 301 00:14:55,810 --> 00:14:59,991 当然 重大な 倫理的問題を伴います 302 00:14:59,991 --> 00:15:03,050 例えば この心理技術を いつ使うべきか 303 00:15:03,050 --> 00:15:06,730 使用を禁止するべきか といったことです 304 00:15:06,730 --> 00:15:09,513 倫理上 療法士は 患者に虚偽記憶を 305 00:15:09,513 --> 00:15:11,100 植えてはいけません 306 00:15:11,100 --> 00:15:13,664 それが患者のために なるとしてもです 307 00:15:13,664 --> 00:15:15,286 でも 親が 肥満の子どもに 308 00:15:15,286 --> 00:15:19,735 この方法を使うことは 止められていません 309 00:15:19,735 --> 00:15:22,340 これを公言したとき 310 00:15:22,340 --> 00:15:25,686 また激しい抗議を 受けました 311 00:15:25,686 --> 00:15:29,719 「今度は親が子供に嘘をつくことを 推奨するのか」 312 00:15:29,719 --> 00:15:31,964 サンタはどうなの?(笑) 313 00:15:31,964 --> 00:15:41,461 つまり 別の言い方をするなら 314 00:15:41,461 --> 00:15:43,494 これは選択の問題なのです 315 00:15:43,494 --> 00:15:46,523 子どもが 肥満や糖尿病で 寿命を縮め 316 00:15:46,523 --> 00:15:48,055 様々な問題を抱えるのと 317 00:15:48,055 --> 00:15:51,071 ちょっとした虚偽記憶を持つのと どちらが良いか 318 00:15:51,071 --> 00:15:54,462 私なら 我が子のために どちらを選ぶか決まっています 319 00:15:54,462 --> 00:15:58,439 でも もしかしたら 仕事柄 人とは考え方が違うのかもしれません 320 00:15:58,439 --> 00:16:00,518 ほとんどの人にとって 記憶は大切で 321 00:16:00,518 --> 00:16:02,672 自分のアイデンティティーや 322 00:16:02,672 --> 00:16:04,697 人間としての本質を 象徴するものです 323 00:16:04,697 --> 00:16:07,555 それは十分理解しますし 私もそう感じます 324 00:16:07,555 --> 00:16:09,760 でも 私は仕事を通じて 325 00:16:09,760 --> 00:16:14,241 どれだけフィクションが 世に あふれているか知っています 326 00:16:14,241 --> 00:16:16,973 この数十年 こうした問題を研究してきて 327 00:16:16,973 --> 00:16:19,383 何か学んだとすれば これです 328 00:16:19,383 --> 00:16:21,594 誰かに何か言われて 329 00:16:21,594 --> 00:16:23,169 その人が自信満々で 330 00:16:23,169 --> 00:16:25,849 詳細に語ったとしても 331 00:16:25,849 --> 00:16:28,608 感情がこもっていたとしても 332 00:16:28,608 --> 00:16:31,810 それが事実とは限りません 333 00:16:31,810 --> 00:16:35,675 虚偽の記憶を 確実に見破る方法はありません 334 00:16:35,675 --> 00:16:39,223 一つ一つ実証していくことが 必要です 335 00:16:39,223 --> 00:16:42,313 こうしたことに 気付いたことで 336 00:16:42,313 --> 00:16:44,452 友人や家族の 日々の記憶違いに より寛容になりました 337 00:16:44,452 --> 00:16:47,366 友人や家族の 日々の記憶違いに より寛容になりました 338 00:16:47,366 --> 00:16:51,900 この気付きがあれば スティーブ・タイタスを救えたかもしれません 339 00:16:51,900 --> 00:16:55,476 虚偽記憶によって 彼は 将来を奪い取られずに 340 00:16:55,476 --> 00:16:57,714 済んだかもしれません 341 00:16:57,714 --> 00:17:00,530 でも 同時に 心に留めておくべきは 342 00:17:00,530 --> 00:17:02,166 しっかり留めておくべきは 343 00:17:02,166 --> 00:17:06,037 記憶は 自由と同じで 344 00:17:06,037 --> 00:17:09,731 はかないものだ ということです 345 00:17:09,731 --> 00:17:12,669 ありがとうございました 346 00:17:12,669 --> 00:17:15,397 ありがとうございます (拍手) 347 00:17:15,397 --> 00:17:19,116 どうもありがとうございます (拍手)