私は 気候学者です この会場が私たちが暮らしている国の 縮図だとすると 皆さんの約60% つまり 大体そちらからこちら側の人たちは 気候変動の原因に関する私の話を あまり信じないでしょう 今夜 私は真実を語ることを お約束しますが そうした人たちの耳に馴染みやすいように 私は この講演をうそから始めましょう [気候変動が世界的な問題だ という認識からパリ協定は生まれた] この声明はオバマ大統領ではなく レーガン大統領によるものであり 気候変動とパリ協定についてでは ありませんでした 実際には モントリオール議定書と 成層圏のオゾンの激減についてでした この環境問題は 皆さんの多くにとって きっと聞き覚えがないものだと思います しかし 環境に関係した― 稀に見る成功事例として 知っておくべきものですし 今日の私たちの判断の 指針を得るために これまで回避してきた世界を 時々 吟味する必要がありますので この問題は 改めて振り返るに値します 話は 1970年代に遡ります その頃いくつかの 疑問の余地がある判断がなされました まずはじめに 髪型についてです (笑) 次に 客観的に見て酷い量の ヘアスプレーについてです 3つ目に CFC(フロンの一種) つまりクロロフルオロカーボンという― 噴霧式スプレー缶の高圧ガスとして使われた 人工的な化学物質についてです このCFCに問題があると判明したのは これがオゾン層を破壊していたからです 大半の人はオゾン層について 聞いたことがあると思います では 何が問題なのでしょう すごく簡単に言えば オゾン層は地球の日焼け止めです そして本当に脆いのです オゾンは 頭上16~32km辺りに その大半がありますが それを全て回収し 地表に敷き詰めることができれば 1ペニー硬貨2枚くらいの つまり3mmほどの厚みしかない― 薄い殻になるでしょう しかし その薄い殻は 驚くべき量の仕事をします 太陽から来る有害な紫外線を90%以上 取り除いてくれます 皆さんの多くが 残り10%の紫外線で きっと日焼けを楽しんでいると思いますが 紫外線はたくさんの問題も引き起こします 白内障 農作物の被害 免疫系へのダメージ 皮膚がんも引き起こします オゾン層への脅威は 人類の安全への脅威だと言っても 過言ではありません 実際のところ 当初 CFCの発明を促したのは 皮肉にも 人類の安全でした 当初 ものを冷やすのに プロパンやアンモニアのような 有毒で可燃性の化学物質が 冷蔵庫に使われていました 冷蔵産業は もっともな理由で 安全な代替物を求めていたのです そして1928年にそれを発見しました トーマス・ミッジリーという名の科学者が 商業的に成り立つ 最初のCFCを合成しました それどころか よく知られているように ミッジリーは 科学会議の場で CFCを吸い込んでから ろうそくを吹き消し CFCが安全で不燃性だと実証しました 実際のところ 今や 私は 科学者として そんなおふざけのごまかしは 通用しないと言えます 驚きですよね ですが 当時は 本当に CFCは 本当に素晴らしい発明だと 思われていましたし 今日の冷蔵 空調などを 可能にしました ところが 発明から40年以上経った 1970年代になってようやく CFCが大気中 空高くで分解され オゾン層を破壊することに 科学者たちは 気付きました この発見は 広く一般の関心を引き起こし 最終的には 噴霧式スプレー缶へのCFCの使用を 1978年に 米国などいくつかの国が 禁止することにつながりました そして 話はそこで終わりません CFCはスプレー缶だけでなく 多くのものに使われていたからです 1985年に 科学者たちは 南極のオゾンホールを発見しました これは 間違いなく警鐘となる発見でした 科学者たちは全くこれを予期していませんでした 南極のオゾンホールの発見の前 今後100年のうちに5~10% オゾンが減少する可能性があると 科学者たちは 考えていました しかし 10年も経たないうちに知ったのは 米国の面積を超える広さにわたって 1/3を超えるオゾンが 明らかに消えていたことでした 私たちは今や CFCがこのオゾンホールの 根本原因だと知っていますが 当時 科学界は 結論を出すには ほど遠い状況でした しかし その不確かさにかかわらず その危機は各国に行動を起こさせました 私がこの講演の冒頭で引用した― モントリオール議定書に関する レーガン大統領の言葉は 上院の満場一致の承認の後 彼がモントリオール議定書に署名した際の 署名時声明のものでした これは間違いなく祝福に値するものでした 実は昨日 モントリオール議定書の採択から ちょうど30周年を迎えました (拍手) 議定書のおかげで オゾンを激減させる物質は 今や大気中から減っています オゾン層の回復の最初の徴候が 見え始めてきました そして オゾンを激減させる物質の多くが とても強力な 温室効果ガスでもあったので モントリオール議定書は 実際に 地球温暖化の進行も 10年以上遅らせています 本当に素晴らしいことです ところで 環境に関する目下の危機である 地球温暖化に向き合う際 モントリオール議定書から どんな教訓が得られるのかと 問題提起する価値が あると思います 何か教訓が得られるでしょうか 私はあると思います まず 行動する際に 絶対的な確実性は必要ないということです モントリオール議定書が署名された際 当時の CFCの危険性への確信は 今の温室効果ガスへのものよりも 弱かったのです 気候変動問題への取り組みに 反対する人々の常套手段は 危険性を完全に無視し 不確かさにだけ焦点を当てることです 不確かさが何だと言うのでしょう 私たちは いつも 不確かさをものともせず意思決定します 文字通りいつもです 皆さんのうち 今夜 車で来た方は 恐らくシートベルトを締めたはずです 考えてみてください 「ここに来る途中に 100% 確実に衝突事故に遭うと 誰かが自分に言ったから 自分は シートベルトを 締めたのだろうか」 恐らく違うでしょう それが最初の教訓です 危機管理と意思決定は 常に不確実性を有しています 危険性を無視し 不確かさにばかり 焦点を当てることは注意を逸らさせる行為です 言い換えれば 行動しないことが 一つの行動だいうことです 次に 環境を改善していくためには 皆が協力して取り組むべきだということです モントリオール議定書は 産業界と政府だけで あるいは 環境保護団体と科学者だけで 作られたものではありませんでした それら全ての協力によるものでした 皆が同じテーブルにつき 問題解決のために重要な役割を その誰もが担いました この点において 今日 良い徴候が見えています 気候変動に関心のある環境団体だけでなく 市民団体や宗教団体 軍隊や企業が 気候変動問題に取り組んでいます 皆さん自身がどういった分野の方だろうと 一緒にテーブルを囲んでほしいのです 地球温暖化を解決しようとするならば 個人から国際的な協力 そしてその間のあらゆる階層で 行動を起こす必要があるからです 3つ目の教訓です 良いことをするとき 完璧主義に陥るべきではありません モントリオール議定書は オゾン激減の ブレーキペダルになっていますが 最初の段階では 厳密に言えば ブレーキを軽く踏む程度のものでした オゾン激減に対し 本当にブレーキを踏み込む意思決定は 実は その後の 議定書の修正によるものでした パリ協定が役に立たないとか 自身の限られた個人の取り組みでは 地球温暖化を解決できないだろうとか そうやって悲観的に考える人たちに 良いことをするとき 完璧主義に 陥るべきではないと伝えています 最後に 私たちが回避した世界について じっくり考えることも有用だと思います 実際 モントリオール議定書の締結で 私たちが回避した世界は 私たちの環境や人類の幸福に 破滅的な変化をもたらすものの一つでした 2030年までに 毎年何百万もの 新たな皮膚がん患者の発生が抑えられ その傾向は高まる一方でしょう もし私の運が良ければ この動画の最後を目にするまで つまり オゾンホールが自然な状態に戻るのを 目にするまで長生きするでしょう 今世紀とそれ以降にわたる 地球の気候の未来の物語を 私たちが描くとき 30年 50年あるいは100年後に 誰かがこの舞台に立ち 人類が回避した世界を 祝福できるようになるには どう行動するべきなのか 私たち自身に 問いかけなければなりません ありがとうございました (拍手)