WEBVTT 00:00:00.634 --> 00:00:03.692 私の使命は 00:00:03.877 --> 00:00:07.515 作品を通して 気候変動の切迫性を伝える事です 00:00:07.961 --> 00:00:11.702 極地における氷の融解 その現実を捉える為に 00:00:11.726 --> 00:00:13.205 北は北極まで そして 00:00:13.229 --> 00:00:17.141 そこから続く海面上昇を 記録する為に 南は赤道直下まで足を運びました 00:00:17.903 --> 00:00:21.593 最近になってようやく 私はグリーンランドの氷床と 00:00:21.617 --> 00:00:24.483 そして海抜が低い島 モルディブを訪れました 00:00:24.507 --> 00:00:28.984 この離れた二箇所を結びつけるのは どちらも等しく 00:00:29.008 --> 00:00:30.475 危機に瀕していることです NOTE Paragraph 00:00:31.504 --> 00:00:37.547 私の作品は 景色の移り変わりや荒々しさ 00:00:37.571 --> 00:00:40.285 静寂という瞬間を追い求め 00:00:40.309 --> 00:00:43.791 その場所を訪れる機会が 今後も無いかもしれない人々に 00:00:43.815 --> 00:00:46.530 描かれた空間との 心理的な繋がりをもたらします 00:00:47.185 --> 00:00:51.579 悲惨な情景ではなく 私は 美しさを描く事を選びました 00:00:52.230 --> 00:00:56.662 厳かな景色を まさに経験すれば 00:00:56.686 --> 00:01:00.299 守りたいと思うきっかけが生まれる そう思ったからです NOTE Paragraph 00:01:01.545 --> 00:01:04.912 行動心理学においても 私たちは 何よりも感情に基づいて 00:01:04.936 --> 00:01:09.062 選択し行動する という事が指摘されています 00:01:09.497 --> 00:01:12.933 そして多くの研究が示すのは 不安をあおるニュースよりも 00:01:12.957 --> 00:01:16.284 芸術の方が効果的に感情へ 訴えかけるという事実です 00:01:17.193 --> 00:01:20.637 早ければ 2020年にも 北極に氷の無い夏が訪れると 00:01:20.661 --> 00:01:23.163 専門家は予測しています 00:01:23.521 --> 00:01:27.688 そして海面水位の上昇は 0.60から3メートルに及ぶかもしれません 00:01:27.712 --> 00:01:29.038 今世紀の終わりまでに 00:01:30.364 --> 00:01:35.040 私はこうした予測を踏まえ 数字だけでは伝えきれない意味を 00:01:35.064 --> 00:01:37.128 より親しみやすい手段によって訴える 00:01:37.152 --> 00:01:41.606 その事に 人生を捧げてきたのです NOTE Paragraph 00:01:42.684 --> 00:01:45.363 気候変動の最前線を訪れる事から 00:01:45.387 --> 00:01:47.686 全てのプロセスは始まります 00:01:47.710 --> 00:01:50.672 その場で何千枚もの写真を撮り 00:01:50.696 --> 00:01:51.939 スタジオに戻ってから 00:01:51.963 --> 00:01:56.223 記憶と経験 そして写真を頼りに 00:01:56.247 --> 00:01:58.502 時に幅3メートルを超えるほどの 00:01:58.526 --> 00:02:00.666 大きな作品に取り組みます NOTE Paragraph 00:02:01.412 --> 00:02:05.904 木炭のように乾燥した 色彩豊かで 柔らかなパステルで描きます 00:02:06.456 --> 00:02:09.752 私自身は素描と考えてますが 絵画という人もいて 00:02:10.203 --> 00:02:14.224 「フィンガーぺインター」 そう言われると 困惑してしまいます NOTE Paragraph 00:02:14.248 --> 00:02:15.366 (笑) NOTE Paragraph 00:02:15.390 --> 00:02:17.695 でも確かに私は 道具は何も使いませんし 00:02:17.719 --> 00:02:20.196 紙に顔料を乗せていく時は 00:02:20.220 --> 00:02:22.646 いつでも指と手のひらを使っています 00:02:23.990 --> 00:02:27.576 絵を描く事は 私にとって ある種の瞑想です 00:02:28.354 --> 00:02:29.981 心を落ち着かせてくれます 00:02:30.437 --> 00:02:32.244 私は描くものを 氷とか水であるとか 00:02:32.268 --> 00:02:33.641 そういった認識はしません 00:02:33.665 --> 00:02:36.127 代わりに イメージをできる限り本質的な 00:02:36.151 --> 00:02:39.840 色や形にまでそぎ落としていき 00:02:40.964 --> 00:02:42.306 作品が完成してようやく 00:02:42.330 --> 00:02:45.466 透き通る水面に漂う氷山であったり 00:02:45.490 --> 00:02:48.052 飛沫を上げ うねる波を 00:02:48.076 --> 00:02:50.766 全体的な構図として 体験することが できるのです 00:02:51.884 --> 00:02:55.806 平均して このサイズの作品を 仕上げるのにかかる時間は 00:02:55.830 --> 00:02:57.520 ご覧の通り 10秒くらいでしょうか NOTE Paragraph 00:02:57.544 --> 00:02:59.324 (笑) NOTE Paragraph 00:02:59.348 --> 00:03:02.871 (拍手) NOTE Paragraph 00:03:03.336 --> 00:03:07.792 実際は このサイズで200時間 もしくは250時間くらいかかります 00:03:07.816 --> 00:03:10.798 クレヨンを握った その日から 私は描き続けてきました 00:03:10.822 --> 00:03:12.735 母がアーティストだったので 00:03:12.759 --> 00:03:15.245 家中にある 画材に囲まれて育ちました 00:03:15.269 --> 00:03:17.822 写真を撮ることに 注がれた母の情熱は 00:03:17.846 --> 00:03:21.381 地上の最果てまで 彼女を駆り立て 00:03:21.405 --> 00:03:23.811 そして私たち家族は 幸運にも— 00:03:23.835 --> 00:03:26.536 その冒険に加わり 彼女の力になる事ができたのです 00:03:27.139 --> 00:03:29.847 北アフリカではラクダに揺られ 00:03:29.871 --> 00:03:32.918 北極点の近くでは 犬ぞりを走らせました NOTE Paragraph 00:03:33.871 --> 00:03:38.067 2012年8月 芸術家と学者のグループを集い 00:03:38.091 --> 00:03:42.605 グリーンランドの北西海岸へと 初めて遠征隊を率いました 00:03:44.232 --> 00:03:47.122 当初 私の母がこの旅を 先導する予定でした 00:03:47.146 --> 00:03:49.861 企画の初期段階では 00:03:49.885 --> 00:03:52.447 この旅を共にするはずだったのです 00:03:52.471 --> 00:03:55.146 母が脳腫瘍に倒れる その時までは— 00:03:55.812 --> 00:03:59.809 癌は瞬く間に 彼女の身体と精神を蝕み 00:03:59.833 --> 00:04:02.380 その半年後には亡くなりました 00:04:03.110 --> 00:04:05.095 病床に臥しながらも 00:04:05.119 --> 00:04:09.673 母の探索への熱意は揺らがず その最期の願いを実現しようと 00:04:09.673 --> 00:04:12.508 私は心に誓いました NOTE Paragraph 00:04:13.374 --> 00:04:16.517 母の北極への情熱が 00:04:16.541 --> 00:04:19.914 グリーンランドで 何度も私の胸に 響きました 00:04:19.938 --> 00:04:22.914 その時 私はそこに広がる風景の 00:04:22.938 --> 00:04:25.488 偉大さと刹那さを感じたのです 00:04:26.738 --> 00:04:29.398 ほんとうの氷山 その大きさは 00:04:29.422 --> 00:04:30.826 語り尽くせません 00:04:31.168 --> 00:04:34.591 氷床という 生の躍動と唸りは 00:04:34.615 --> 00:04:36.752 私の予想とは 大きく異なるものでした 00:04:37.284 --> 00:04:39.532 目の前に立ちはだかった 00:04:39.556 --> 00:04:44.317 その畏怖を届けるため 作品の大きさを拡大したのです 00:04:45.021 --> 00:04:48.716 氷塊の壮大さは勿論ですが 00:04:48.740 --> 00:04:50.676 そして同時に その儚さも描くのです 00:04:51.042 --> 00:04:52.257 私たちの船から見えるのは 00:04:52.281 --> 00:04:57.645 季節外れの暖かな陽射しを受け 汗ばみながら堪える氷塊です NOTE Paragraph 00:04:58.940 --> 00:05:02.503 グリーンランドでは多くの イヌイットのコミュニティを訪れました 00:05:02.527 --> 00:05:05.357 彼らは深刻な課題に直面しています 00:05:05.381 --> 00:05:08.697 かつて海氷と成り得た かなりの領域において 00:05:08.721 --> 00:05:11.407 もはや その光景は 見られないと言うのです 00:05:11.431 --> 00:05:14.509 氷が無くては 彼らの狩猟や採集の土地が 00:05:14.533 --> 00:05:16.295 甚大な被害を受け 00:05:16.319 --> 00:05:19.160 彼らの生活様式や 生存さえも脅かします NOTE Paragraph 00:05:20.616 --> 00:05:22.511 グリーンランドの溶け行く氷河は 00:05:22.535 --> 00:05:26.879 海面上昇の主な原因の一つであるとされ 00:05:26.903 --> 00:05:29.019 地球上の低地に属する島々で 00:05:29.043 --> 00:05:31.873 浸水を引き起こし始めています 00:05:32.942 --> 00:05:36.458 グリーンランドでの旅を終えた翌年に 00:05:37.145 --> 00:05:40.352 世界一海抜の低い国 モルディブを訪れました 00:05:40.752 --> 00:05:44.785 滞在中 私は 次なる作品の基軸となる 00:05:44.809 --> 00:05:46.510 情景や閃きを得ました 00:05:47.072 --> 00:05:51.105 それは今世紀中に全土が 沈みゆくかもしれない国の 00:05:51.129 --> 00:05:55.283 その渚に 打ち寄せる波折りでした NOTE Paragraph 00:05:57.484 --> 00:06:01.027 悲劇的な出来事は 毎日どこかで起きています 00:06:01.051 --> 00:06:04.299 それが地球規模でも 個人的なものであっても 00:06:04.844 --> 00:06:06.107 母の遺灰は 00:06:06.131 --> 00:06:10.045 グリーンランドの 融け行く氷へ まきました 00:06:10.743 --> 00:06:15.830 たとえそれが 流れ変化を続けるとしても 00:06:15.854 --> 00:06:19.941 彼女が深く愛した景色の 一部として 残るのです NOTE Paragraph 00:06:21.095 --> 00:06:23.863 母が私に教えてくれた たくさんの教えの一つは 00:06:23.887 --> 00:06:26.887 悲観的でいるよりも 00:06:26.911 --> 00:06:28.434 楽観的であれというものです 00:06:29.083 --> 00:06:35.164 私の絵は 今私たちが 失いかけているものの美しさを讃えます 00:06:35.845 --> 00:06:41.639 移りゆく時の中に揺蕩う 壮大な景色として記録し 00:06:41.663 --> 00:06:46.285 世界の人々が 未来への行動を起こす 00:06:46.309 --> 00:06:48.427 きっかけになればと願っています NOTE Paragraph 00:06:49.102 --> 00:06:50.309 ありがとうございました NOTE Paragraph 00:06:50.333 --> 00:07:00.978 (拍手)