開発中の『Alien: Isolation』には かなり基本的なセーブシステムがあった 各ステージに点在する見えないチェックポイントを 通過すると自動でセーブされる これが追加された理由は、実装が簡単だし 分かりやすいし、それに実際—— 他のゲームでも 上手く機能してるからだ デザインディレクターの Gary Napper が言うには 「他の開発チームと同様に私たちもたくさん遊んでるし それぞれ好みがあります」 「大抵の場合、私たちの決定や選択は 遊んでいるゲームに影響されています」 だが開発が進むにつれ、このセーブ仕様は 本当に正しいのか疑問に思い始めた プレイヤーは死んでも数分戻されるだけだと 分かっているので 何も気にせず、宇宙基地を 軽やかに進むだけだったのだ ホラーゲームでは 理想的ではない チェックポイントは『Call of Duty』や 『Bioshock』では有効だったかもしれないが Napper は「これは恐怖と不安が目的の ゲームを作る場合——」 「適切な手法ではありませんでした」と述べる つまりこういうことだ 他のゲームから影響を受けても 全く問題ない 開発者は好きな作品から 仕様を借りて それらを進化、合体、リミックスして 新しい形にすることが多い だが重要なのは、自分のゲームにコピペする前に その仕様の効果を理解することだ どうやって? 僕はマーク・ブラウン Game Maker's Toolkit へようこそ 大昔の 2004 年のことだ 3人のゲームデザイナーが集まって 学術論文を書き あるフレームワークが ゲーム仕様の分析に最適だと示した これを「MDA」と呼び ゲームを3つの部分に分解する メカニクス、ダイナミクス、エステティクスだ メカニクスはゲームの仕組みのことだ ルール、システム、ボタンの機能 個々の状態や数値などだ 例えば「プレイヤーの最大弾薬数」という メカニクスがあればその数値を高くできる 次にダイナミクスは、そのメカニクスに応じた プレイヤーの行動や振る舞いのことを指す つまり弾薬が大量にあれば プレイヤーは戦いに飛び込んで 敵を見つけ次第 激しく撃ちまくるだろう 最後はエステティクス(美学)だが グラフィックスや美術様式と混同しないでくれ ここでのエステティクスとは プレイヤーがその行動をした時の感情のことだ つまり情動反応だ だから激しく撃ちまくると、無謀で、強くて 誰にも止められない感覚になる 要はこんな感じだ 言い換えるなら、メカニクスはコードで生まれ ダイナミクスはプレイヤーの行動で生まれ エステティクスは プレイヤーの感情で生まれる 残念ながら、開発者はプレイヤーの頭の中に入って 感情や行動を直接変えることはできない だがコードは変えられる そして MDA は因果関係を表すので この変更が段階的に連鎖して ダイナミクスとエステティクスを変化させる 例えば、数値を反対側に調整して 弾薬を大幅に制限すれば プレイヤーの行動は間違いなく変わる 戦う前に慎重になったり 全く戦わなくなったりするだろう 1発ずつよく考えて撃つようになり 弾薬探しに多くの時間を費やすだろう その結果、全く異なるエステティクスになる 無力感、恐怖、警戒などだ つまり MDA フレームワークは メカニクス(仕様)を広い文脈の中で捉えて 「プレイヤーの行動はどうなるか? 感情はどうなるのか?」を問う この問いを使えば ゲームの仕様を分析できるのだ 例えば 「ゼルダ BotW では、なぜ剣が砕けるのか?」 では、この仕様で行動はどう変わる? たぶんプレイヤーは直接攻撃を控えるようになり こっそりと通り過ぎることや 創造的な奇襲が増えるだろう 色々な武器を使うように促され 常に新しい武器を探すのは確実だろう また戦闘中に劇的な瞬間を もたらすこともある ここまでダイナミクスは プレイヤーの行動だと説明してきたが ダイナミクスはゲームシステムから 出てくる結果を表す場合もある では感じ方はどうか? 力不足に感じさせたり ずる賢く創造的になったと感じさせたり そして恐らく、衰退し崩壊しつつある世界で 冒険者になった気分にさせてくれるだろう この分析プロセスに 難しい部分があるとすれば ゲームで生じる潜在意識を 言葉で表すことだろう 開発者が求めるのは「このゲームは楽しかった」以上の 強くて感情的な印象だ 「強くなった感じ」 「創造的」 「ずる賢い」 「緊張」 「怯える」 「好奇心」 「嘘つき」 「協力的」 「慌てる」など MDA を使えばゲームの仕様を 感情を届けるための強力な器として見れる そのため他の作品から仕様を借りるとか 全く新しいものを作る場合は ダイナミクスやエステティクスが 関連するものを選ぶことで 設計の他の部分を補完したり 衝突を避けたりできる 例えば開発者の Jenova Chen によれば 『Flower』には かつてはレベル上げシステムや 呪文の詠唱、リソース管理、時間制限などの 他のゲームで期待される仕様があったそうだが 全て削除された くつろぎ、平穏、平和という 意図していた感情に反していたからだ Chen は「私たちは大量のゲームを遊ぶ中で 悪い癖をつけてきました」 「多くの場合で楽しくしたいですが、楽しさは必ずしも 届けたい感情に役立つとは限りません」と述べる だからこそ自分のゲームの理想を 真に理解することが有益だ つまりプレイヤーに与えたい 包括的な感情や経験のことだ なぜなら、例えばプレイヤーを 怖がらせたい場合 不安、恐怖、孤立、無力感などを 誘発する仕様を選びたいからだ その理想は一言で表現できるだろう 『Subnautica』は「未知のスリル」という言葉をベースに 全ての仕様をこのアイデアに合わせた 『バイオヴィレッジ』は「死に物狂い」を 旗印に作られたので テスターが面倒くさい戦闘を嫌がったとき 開発者はその言葉をまるで—— 北極星のように活用して ゲームの仕様を再調整、再検討した 理想がごっこ遊びの場合もある バットマン、暗殺者、世界的指導者に なった気分にさせたいかもしれない 『Flower』がやろうとした くつろぎの感覚かもしれない または具体的な経験かもしれない 『FTL』の制作時、開発者の出発点は 「宇宙船を指揮する雰囲気の再現」だった 強い理想を念頭に置けば、仕様が自分のゲームに 適しているかどうか簡単に評価できる もちろん、これは仕様以外にも当てはまる ゲームの他の全ての要素 例えば、視覚様式 音楽、アニメーション、物語 色彩、カメラの構図などは—— どれもダイナミクス無しで エステティクスを生み出す 例えば『Dead Space』の作曲家 Jason Graves によれば EA は当初、ありきたりな SF 音楽を要求していたらしい 電子音とドラムだらけの曲だ 「序盤を少しプレイした後——」 Graves は述べる 「EA は戻ってきて、あまり怖くなかったと言った」 「音楽のせいで勇敢な気分になった 目的は恐怖だったのに」 そして究極的には 全要素が同じ方向を向いている時に ゲームは最も明快で 一貫したものになると思う Jenova Chen は「全要素が同じ音を歌わなければ 強い衝撃は生まれません」と述べる たぶん僕にとって一番良い例は 『DOOM (2016)』だろう 本作は強力な理想を掲げていた この場合は「前へ出る戦い」だ そしてほぼ全ての要素が この言葉を支えている これは仕様を見れば分かる 移動の速さや—— 敵に飛びかかると体力が湧く仕組み 特定のデーモンが逃げることなど 全ての機能が、無敵の捕食者になって 敵へ猛進することを促す それを支えるのは非ゲーム要素だ 例えばヘヴィメタルの音楽や 暴力的なアニメーション ドゥームスレイヤーの見た目や性格など もちろんこれは僕が言うほど 簡単ではない ゲームを設計する時に考慮すべきことは 他にもたくさんある まずゲームの仕様は1つだけじゃない 数百や、細かく見れば数千もある 僕の体験型ビデオエッセイ 『Platformer Toolkit』を見れば 1つのキャラが数十もの数値で 定義されていることが分かる この数値次第でゲームの感覚は『Inside』から 『Super Meat Boy』まで変わる これらの仕様は相互に影響し 重複し、弱め合うことさえある 『The Callisto Protocol』では 弾薬が非常に少ないが これは無力感や恐怖を感じさせるのが目的だ しかし見事な動きの即死ステルス攻撃が 1ボタンで発動するので 強くて無敵になった気分になる また、ある仕様に対するプレイヤーの行動について 有力な推測ができたとしても プレイテストをたくさんやるまで 確かなことは分からない プレイヤーは仕様を誤解したり無視したり 全く予想外のことをするかもしれない それが楽しくて創発的な振る舞いのときもある 『Rocket League』の空飛ぶ車は 理想にピッタリ合っていたので残された しかし堕落した攻略法が生まれて 目的の感情を損なうこともある 『Alien: Isolation』の自動チェックポイントの場合 ゼノモーフに襲われた時は 次のチェックポイントまで急いで進み、そこで殺され 安全に復活するのが賢い攻略法だった さらに、場面ごとに 異なる感情を届けたい場合は 状況に応じて仕様を変える必要がある 最初は弱くて愚鈍だったキャラが 最後は強くて有能になるという物語を描くとするなら その成長をどうやって仕様に反映させるのか? 最後に、恐らく一番重要なことだが エステティクスは究極的には、主観的なものだ スコア制によって競争心を掻き立てられ 全ステージを熱心にリプレイする人もいれば 裁判のように感じて Steam で返金を望む人もいるだろう 時間制限の重圧が楽しくて爽快な人もいれば 不安感が誘発される人もいるだろう これは腕前や才能と関連することが多い Tango の『Hi-Fi Rush』ではビートに合わせて戦いながら ロックスターの気分になってもらうのだが 音楽の才能がゼロの僕は ドジなマヌケの気分だった 最後に、ごっこ遊びと多様な腕前の バランスに関する動画を紹介しよう さて『Alien: Isolation』に話を戻すと チームは最終的に別のセーブシステムを試した 昔のゲームに近いやつだ 現在では、少数のセーブ端末を 手動で操作するようになった そして困ったことに、セーブ端末が起動して 実際にセーブされるまで少し時間がかかるので エイリアンが忍び寄ってきて 殺される可能性があるのだ この新しい仕様は全てを変えた プレイヤーの行動や感情を 完全に変えたのだ 「恐怖を感じました」と Napper は言う 「セーブ地点まで行って無事セーブできなければ 進行状況を失うことになります」 「セーブは緊張しました セーブを探すのは緊張しました」 「セーブという単純な行為が、恐怖と孤立という 本作の原動力を支えるものになったのです」 だからゲームの仕様を借りてもいいが その効果を理解する必要がある MDA はそのための強力な方法で 仕様によってプレイヤーがどう行動し どう感じるか予測するのに役立つのだ それらの感情がゲームの理想を補完したら 最高だ もし衝突したら 削除する必要がありそうだ というのも、ゲームの仕様を選ぶ、盗む または制作することに関しては 『Shovel Knight』を開発した Yacht Club Games の言葉を聞くべきだ 「作ろうとするゲーム、喚起しようとする感情」 「そしてプレイヤーにしてもらいたい 経験によって決まります」 (字幕翻訳:Nekofloor) ご視聴ありがとう! この動画は元々、ロンドン、ブレダ、ブーデン シェレフテオの大学講義だった 僕を学校に呼びたい場合は連絡してくれ メールアドレスはチャンネルの概要欄にある 来月の GDC には僕も行くので 会ったらよろしく! とはいえ今は ここをクリックすれば 具体的なごっこ遊びを多様な腕前のプレイヤーに 届けるという動画を視聴できるぞ