0:00:04.480,0:00:08.610
トニーです　こちらは　"Every Frame a Painting"　[br]さあ　ドライブに出かけましょう

0:00:08.780,0:00:11.959
今日のテーマは[br]マーティン・スコセッシと「静寂の技術」です

0:00:12.059,0:00:14.440
スコセッシは音楽の使い方で有名ですが

0:00:14.550,0:00:18.532
実は　スコセッシの最大の特徴は[br]慎重で力強い「静寂」の使い方にあります

0:00:18.630,0:00:22.369
『レイジング・ブル』の編集補佐フランク・ワーナーは[br]インタビューの中で言っています

0:00:22.469,0:00:26.840
”しばらくは　音響効果をたくさん使っていたんだが[br]私たちいつも 音響効果をトラックから外すことを話しあっていた”

0:00:26.960,0:00:28.820
”そして　静寂の中で　ものごとが進む感じにしたんだ”

0:00:28.910,0:00:32.370
”ここでまた　耳を何度も殴られたような[br]耳ざわりな効果になるね”

0:00:32.480,0:00:35.049
ジェイク・ラモッタが立ち上がる有名なシーンです

0:00:35.149,0:00:37.650
ほとんど生贄です

0:00:49.870,0:00:54.299
スコセッシのフィルモグラフィーを調べると[br]「静寂」の興味深いバリエーションが沢山現れます

0:00:54.409,0:00:57.240
「静寂」に注目することで　スコセッシと他の監督を比べることができます

0:00:57.320,0:00:59.270
たとえば　オリジナルの『インファナル・アフェア』では

0:00:59.376,0:01:02.160
この物語上で重要な一瞬に[br]音楽がかかっています

0:01:07.690,0:01:09.690
しかしリメイク（『ディパーテッド』）では

0:01:15.190,0:01:18.790
どちらが好みかは　さておき[br]この２つの映画を見比べることは

0:01:18.900,0:01:21.100
映画教材のフルコースです

0:01:21.620,0:01:25.750
ときにスコセッシは　音楽的クライマックスに向けて[br]映画を構築します

0:01:28.950,0:01:32.510
そして静寂―――[br]これは究極の例ですね

0:01:32.620,0:01:37.130
なぜなら　劇中の最大音量の瞬間に続いて　[br]最も静かな瞬間が来るからです

0:01:37.410,0:01:41.720
別のときには　静寂はドラマの中心になります[br]有名なシーンです

0:01:41.830,0:01:45.160
”いったい俺のどこが面白いんだ？”

0:01:45.280,0:01:47.670
”言えよ　言ってみろよ？”

0:01:52.910,0:01:54.939
”よせよ　トニー”

0:01:55.859,0:02:00.860
スコセッシの50年をキャリアを振り返ると[br]魅力的な静寂の使い方がたくさん見つかります

0:02:00.970,0:02:04.710
主観性を強調する静寂[br]気持ち悪さを　より気持ち悪くするための静寂

0:02:04.820,0:02:06.569
一目惚れの静寂

0:02:06.659,0:02:09.309
幸せを止める静寂

0:02:13.689,0:02:16.290
まあ　完全に止めるわけでないかもしれません

0:02:16.370,0:02:17.519
”引退しない”

0:02:20.229,0:02:21.460
”辞めないぞ！”

0:02:23.370,0:02:27.649
何よりもまず　こういった音の設計は　[br]登場人物に由来するものだと思います

0:02:27.759,0:02:31.689
登場人物は重要な選択をします

0:02:31.799,0:02:34.800
お金をとることを選び[br]戦いに戻ることを選び

0:02:34.900,0:02:37.599
感情を隠すことを選び[br]他人を信じないことを選び

0:02:37.689,0:02:39.500
不快に耐えることを選び

0:02:39.600,0:02:40.810
ゲームに戻ることを選び

0:02:40.920,0:02:43.400
気に入らないことを無視することを選びます

0:02:43.500,0:02:46.159
そういった瞬間がどの映画でも[br]ひかえめに、慎重に繰り返されるので

0:02:46.259,0:02:50.220
どの映画でも　静寂は違ったものに感じられます[br]そして　静寂は違ったテーマに結びつくのです

0:02:50.330,0:02:54.569
静寂がスコセッシ映画の音響上の構造をかたち作っています

0:02:54.679,0:02:57.260
たとえば　『レイジング・ブル』では[br]すべての戦いのシーンの前に

0:02:57.370,0:03:00.080
より静かな家庭的な瞬間があります

0:03:00.190,0:03:03.280
この静寂が　パンチの嵐の中の[br]残酷なカットにつながっていきます

0:03:03.390,0:03:05.760
静寂は同時に映画のテーマを強調しています

0:03:05.870,0:03:09.100
「リング上の暴力は、家庭内暴力の延長にすぎない」[br]というテーマです

0:03:09.196,0:03:13.339
弟に暴力をふるっているときに　[br]同じ音が聞こえますね

0:03:14.640,0:03:16.820
リング上で聞こえるのと同じ音が

0:03:17.570,0:03:20.529
このような構造を使うのはスコセッシだけではありません

0:03:20.619,0:03:23.890
たとえば　『プライベート・ライアン』は　[br]二つの長い戦闘シーンによって挟まれています

0:03:24.010,0:03:26.820
そしてどちらの戦闘シーンでも[br]このような瞬間があります

0:03:29.850,0:03:31.980
冒頭では　私たちはこの人たちを知りません

0:03:32.090,0:03:34.169
終盤では　彼ら全員のことを知っています

0:03:34.269,0:03:36.259
わたしの解釈に賛成できないかもしれませんが

0:03:36.369,0:03:38.830
わたしはこう確信しています[br]この登場人物は死ぬことを知っています

0:03:38.930,0:03:42.450
そしてどちらの瞬間でも　それを受け入れていて[br]戦いを続けようとしているのです

0:03:42.560,0:03:45.770
私はこれこそが 音を映画の全体構造として使った

0:03:45.880,0:03:48.070
最高の例だと思います

0:03:48.460,0:03:52.349
私が強調したいのはこれは単にサウンドミックスが良い[br]という問題ではないということです

0:03:52.469,0:03:54.050
サウンドミキサーにこんなことは出来ません

0:03:54.140,0:03:57.740
会話や、音響効果や、[br]音楽で埋め尽くされてしまっている映画では出来ないんです

0:03:57.840,0:04:02.009
”私は映画の大きな音に反対なわけではありません”

0:04:02.109,0:04:07.380
”１，２箇所の短時間ならば、適切だと思います”

0:04:07.480,0:04:11.439
”しかし大音量のシーンが20分、30分続くとなると”

0:04:11.539,0:04:14.880
”静けさがどんなものか忘れてしまうでしょう”

0:04:14.990,0:04:18.370
”大きな音が大きな音に思えなくなってしまうんです”

0:04:18.470,0:04:22.838
人気の映画では　脚本家や監督は[br]静寂を入れることを止めてしまいました

0:04:22.948,0:04:25.369
あるいは　間違った静寂の使い方をしています

0:04:25.479,0:04:28.300
そして　年々悪化しています

0:04:28.400,0:04:30.590
1978年の作品をみてください

0:04:37.570,0:04:39.890
安っぽく感じられるかもしれませんね[br]でも　すくなくともこの映画は

0:04:40.000,0:04:43.270
登場人物の「喪失」を私たちに感じさせるために[br]静寂を使っています

0:04:43.380,0:04:46.880
そしてシーン全体を通じて　[br]登場人物に寄り添おうとしています

0:04:48.060,0:04:50.420
ところが　2013年の作品では

0:04:57.800,0:05:01.150
静寂に思えるかもしれませんが[br]実は音楽がうっすら流れています

0:05:01.260,0:05:05.309
重要なのは　「完全な沈黙ではない」ということです

0:05:05.430,0:05:08.830
彼は人を殺してしまい、抱きしめられます[br]しかし　映画全体をみると

0:05:08.920,0:05:12.039
彼が抱きしめられるときは　いつも[br]「文字通りの静寂」が流れているんです

0:05:14.509,0:05:16.979
ですから　静寂を使うときは慎重に

0:05:17.079,0:05:20.209
すべてのドラマチックなシーンに使いすぎて[br]安っぽくならないようにしてください

0:05:20.309,0:05:21.320
もしあなたが映画を作るなら

0:05:21.420,0:05:24.990
静寂が　登場人物の性格や　感じていることから[br]立ち現れるようにしてください

0:05:25.090,0:05:29.180
そうすれば静寂は　単なる静寂以上のものになるでしょう[br]つまり「感情のこもったリアクション」に

0:05:29.290,0:05:31.410
”どっちがマシかな？”

0:05:32.010,0:05:36.930
”怪物として生きるのと　善人として死ぬのと”

0:05:45.980,0:05:46.820
”テディ？”