WEBVTT 00:00:00.231 --> 00:00:01.739 はい!どうもアバタローです。 00:00:01.739 --> 00:00:05.006 本日はフランスの哲学者 ブレーズ・パスカルの 00:00:05.006 --> 00:00:06.997 [パンセ]について紹介を致します。 00:00:06.997 --> 00:00:09.476 17世紀の終わりに発刊されて以来 00:00:09.476 --> 00:00:10.669 欧米においては 00:00:10.669 --> 00:00:13.188 聖書に次いで 広く読まれている作品であり、 00:00:13.188 --> 00:00:15.962 ”人間は考える葦である” という 00:00:15.962 --> 00:00:19.284 あの名言が刻まれた 世界的名著になります。 00:00:19.284 --> 00:00:22.618 パスカルの鋭い人間観察を特徴とする本書は、 00:00:22.618 --> 00:00:25.317 哲学に関心を持っている方だけではなく 00:00:25.317 --> 00:00:27.473 人間関係に悩んでいる方。 00:00:27.473 --> 00:00:29.647 孤独の中で苦しんでいる方。 00:00:29.647 --> 00:00:31.028 自分の人生に対して 00:00:31.028 --> 00:00:33.724 満たされない気持ちを 抱えている方にとっても 00:00:33.724 --> 00:00:36.054 おおいにご参考いただける1冊です。 00:00:36.054 --> 00:00:37.062 ただ「パンセ」は、 00:00:37.062 --> 00:00:41.103 とても面白い作品ではあるのですが 内容が難しくて、 00:00:41.103 --> 00:00:43.063 そう簡単には読めないのです。 00:00:43.063 --> 00:00:44.784 それでいて、「上・中・下巻」 00:00:44.784 --> 00:00:47.055 解説・補足全て合わせますと 00:00:47.055 --> 00:00:49.613 1500ページを超す分量があります。 00:00:49.613 --> 00:00:53.035 更に、「歴史」「宗教」 作品の「成立背景」など、 00:00:53.035 --> 00:00:55.287 予備知識を持った上で臨まないと 00:00:55.287 --> 00:00:58.541 まったく歯が立たない、 とても手ごわい作品なのです。 00:00:58.541 --> 00:01:02.063 そのため学校の授業などで 名前を知る機会はあっても、 00:01:02.063 --> 00:01:03.311 その中身まで 00:01:03.311 --> 00:01:07.510 丁寧な説明を受ける機会というのは、 なかなか無いと思われます。 00:01:07.510 --> 00:01:10.249 そこで、この動画では、 [パンセ]と言う作品を 00:01:10.249 --> 00:01:12.828 幅広い層の方に楽しんでいただけるよう、 00:01:12.828 --> 00:01:16.469 3つのテーマに沿って分かりやすく 紹介をして行きたいと思います。 00:01:16.469 --> 00:01:17.251 1つ目が 00:01:17.251 --> 00:01:19.039 [人間最大の悪徳] 00:01:19.039 --> 00:01:19.772 2つ目が 00:01:19.772 --> 00:01:21.429 [他者に認められたい心] 00:01:21.429 --> 00:01:22.438 最後3つ目が 00:01:22.438 --> 00:01:24.688 [不幸を生み出すものの正体]です。 00:01:24.688 --> 00:01:28.706 もちろんご視聴にあたって 難しい予備知識は一切要りません。 00:01:28.706 --> 00:01:30.797 いつも通り手ぶらでOKですので、 00:01:30.797 --> 00:01:32.468 お茶でも飲みながらリラックスして、 00:01:32.468 --> 00:01:34.701 どうぞ最後まで お付き合いいただければと思います。 00:01:34.701 --> 00:01:36.073 それでは、参りましょう。 00:01:36.073 --> 00:01:37.762 ブレーズ・パスカル。 [パンセ] 00:01:38.181 --> 00:01:41.012 まずは、この動画の 全体像からお示し致します。 00:01:41.012 --> 00:01:43.725 はじめに「パンセ」の著者である ブレーズ・パスカルと、 00:01:43.725 --> 00:01:48.080 この作品が誕生するに至った 背景についてお話しを致します。 00:01:48.080 --> 00:01:50.473 「パンセ」は前提知識が肝になりますので、 00:01:50.473 --> 00:01:53.583 いつもより時間を取って 丁寧に進めて行きます。 00:01:53.583 --> 00:01:55.523 その後に作品の内容を 00:01:55.523 --> 00:01:57.329 3つのテーマに沿ってお伝えし、 00:01:57.329 --> 00:02:01.851 最後に、”人間は考える葦である”という 名言に込められた意味について 00:02:01.851 --> 00:02:03.967 解説を加えて終わりたいと思います。 00:02:03.967 --> 00:02:06.228 では早速、1つ目から見ていきましょう。 00:02:06.228 --> 00:02:09.021 ブレーズ・パスカル、彼は1623年、 [Blaise Pascal(1623-62)] 00:02:09.021 --> 00:02:13.161 フランス中部の山岳地帯にある クレルモンという場所で生まれました。 00:02:13.431 --> 00:02:14.903 父親は徴税官。 00:02:14.903 --> 00:02:18.298 母親は地元の裕福な商人の娘ということで 00:02:18.298 --> 00:02:22.238 経済的には何不自由ない 恵まれた家庭であったようです。 00:02:22.238 --> 00:02:23.991 ところが、パスカル本人は 00:02:23.991 --> 00:02:27.108 2歳の時に重たい病気にかかったことが原因で 00:02:27.108 --> 00:02:28.805 虚弱体質になってしまったり、 00:02:28.805 --> 00:02:32.253 さらに3歳の時には 母親を亡くしてしまったりと、 00:02:32.253 --> 00:02:34.145 肉体的にも精神的にも 00:02:34.145 --> 00:02:37.361 決して楽ではない人生を 歩んで行くことになります。 00:02:37.361 --> 00:02:40.417 そんな、幼くして苦難を 背負ってしまったパスカルに 00:02:40.417 --> 00:02:42.679 彼の父親が与えたもの。 00:02:42.679 --> 00:02:46.051 それは、自分の人生を賭けた教育でした。 00:02:46.051 --> 00:02:49.241 パスカルの父親は、 税金の専門家だったのですが、 00:02:49.241 --> 00:02:51.684 それと同時に、物理や数学にも長けた 00:02:51.684 --> 00:02:53.726 アマチュアの科学者でもありました。 00:02:53.726 --> 00:02:55.842 そこで、学校に行かせることなく 00:02:55.842 --> 00:02:57.270 自らが教師となり、 00:02:57.270 --> 00:02:59.943 我が子に英才教育を施したのです。 00:02:59.943 --> 00:03:03.363 更に、友人の科学者や数学者を自宅に招いては、 00:03:03.363 --> 00:03:05.157 日々、議論を交わしていた為、 00:03:05.157 --> 00:03:09.500 時折、息子のパスカルもその教養の深い 大人たちの輪の中に入っては、 00:03:09.500 --> 00:03:11.305 知的な刺激を受けていました。 00:03:11.305 --> 00:03:12.466 その結果、彼は 00:03:12.466 --> 00:03:15.089 「神童」と呼ばれるほどにその才能を開花させ、 00:03:15.089 --> 00:03:17.972 わずか12歳にして三角形の内角の和が 00:03:17.972 --> 00:03:20.878 180度であることを自力で証明し、 00:03:20.878 --> 00:03:22.456 更に16歳の時に 00:03:22.456 --> 00:03:26.158 「円錐曲線試論」と呼ばれる 数学の論文を発表します。 00:03:26.158 --> 00:03:28.991 学校の授業で習う 「パスカルの定理」というのは、 00:03:28.991 --> 00:03:30.698 実は、当時の彼が書いた、 00:03:30.698 --> 00:03:33.270 この論文の中に 含まれているものになります。 00:03:33.270 --> 00:03:34.693 また、30歳の時には、 00:03:34.693 --> 00:03:36.624 「圧力の伝わり方の法則」 00:03:36.624 --> 00:03:39.071 通称、「パスカルの原理」を発見しますが 00:03:39.071 --> 00:03:40.849 これによって、パスカルの名前が 00:03:40.849 --> 00:03:44.420 後に「圧力の値」を示す単位として採用されます。 00:03:44.420 --> 00:03:46.931 天気予報で気圧の説明がされる時、 00:03:46.931 --> 00:03:49.856 ”〇〇ヘクトパスカル” という言葉を耳にしますが、 00:03:49.856 --> 00:03:52.482 これは、彼の名前に因んだものになります。 00:03:52.482 --> 00:03:56.796 では、そんな現代にまで 影響を与え続けている天才科学者パスカルは、 00:03:56.796 --> 00:03:58.979 一体、いつから何をきっかけに 00:03:58.979 --> 00:04:01.502 哲学に興味を持ち始めたのでしょうか。 00:04:01.502 --> 00:04:04.210 結論から言いますと、28歳の時に 00:04:04.210 --> 00:04:08.023 父親が他界したことが 大きな要因の一つと言われています。 00:04:08.023 --> 00:04:10.200 パスカルにとって、自分の父親は、 00:04:10.200 --> 00:04:12.966 才能を花開かせてくれた恩人であり、 00:04:12.966 --> 00:04:15.512 また、最大の理解者でもありました。 00:04:15.512 --> 00:04:18.434 そういった、唯一無二の 存在を失ったことで 00:04:18.434 --> 00:04:19.872 彼は自分がいま 00:04:19.872 --> 00:04:23.086 とてつもない孤独の中で 生きているのではないかと気付き、 00:04:23.086 --> 00:04:25.259 強烈な不安感に襲われたのです。 00:04:25.259 --> 00:04:28.432 研究一筋で取り組んできて、成果は出してきた。 00:04:28.432 --> 00:04:31.205 十分すぎるほどの自己実現を果たして来た。 00:04:31.205 --> 00:04:35.027 けれど、なぜこんなにも 私の心は満たされないんだろう。 00:04:35.027 --> 00:04:37.901 なぜ、こんなにもこの世界は 生きづらいんだろう。 00:04:38.200 --> 00:04:40.681 そうだ!私の研究対象を 00:04:40.681 --> 00:04:44.681 これまでの自然科学ではなく、 人間に変えてみたらどうだろう。 00:04:44.681 --> 00:04:45.898 このように彼は、 00:04:45.898 --> 00:04:49.146 大きな方向転換を決意し、 「人間とは何か」 00:04:49.146 --> 00:04:52.777 「生きるとは何か」といった 根源的な問いを追求する 00:04:52.777 --> 00:04:56.334 「哲学」という新たな道を 切り開いて行くことになるのです。 00:04:56.334 --> 00:05:00.759 では、代表作である[パンセ]とは、 一体どういう作品なのでしょうか。 00:05:00.759 --> 00:05:05.375 これは、答えから先に申し上げてしまいますと、 混乱を招く可能性がありますので 00:05:05.375 --> 00:05:08.496 まずは、2つのことを先に 抑えていただきたいと思います。 00:05:08.496 --> 00:05:10.187 1つ目は、何かといいますと、 00:05:10.187 --> 00:05:11.881 パスカルの宗教です。 [パスカルは敬虔なキリスト教徒であった] 00:05:11.881 --> 00:05:13.169 先ほど見て来たように 00:05:13.169 --> 00:05:16.196 彼は数学と自然科学の天才でした。 00:05:16.400 --> 00:05:19.388 しかし、神という存在を強く信じている 00:05:19.388 --> 00:05:21.877 敬虔なキリスト教徒でもあったのです。 00:05:21.877 --> 00:05:24.320 因みに、パスカルの父親も兄妹も 00:05:24.320 --> 00:05:26.803 家族全員、みなが敬虔なクリスチャンです。 00:05:26.803 --> 00:05:29.183 親子揃って理数系ではあるのですが、 00:05:29.183 --> 00:05:32.852 神という存在はそもそも 理性で捉えられる存在ではなく、 00:05:32.852 --> 00:05:37.195 心で感じるものという思想が 彼らの中にはあったのです。 00:05:37.195 --> 00:05:38.629 そして、もう1つが 00:05:38.629 --> 00:05:40.384 パスカルが生きた時代です。 [17世紀のヨーロッパ] 00:05:40.384 --> 00:05:43.557 彼が活躍したのは 17世紀のヨーロッパです。 00:05:43.557 --> 00:05:45.121 当時のヨーロッパと言えば 00:05:45.121 --> 00:05:47.090 そうです!「科学革命」です。 00:05:47.090 --> 00:05:49.630 「地動説」を唱えたガリレオ・ガリレイ。 00:05:49.630 --> 00:05:53.100 「万有引力の法則」を発見した アイザック・ニュートン。 00:05:53.100 --> 00:05:55.851 「方法序説」を表したルネ・デカルト。 00:05:55.851 --> 00:06:00.103 こういった近代科学の先駆けとなる スーパースターが大暴れをしている、 00:06:00.103 --> 00:06:02.677 世はまさに「大科学革命時代」なのです。 00:06:02.677 --> 00:06:04.648 これによって、何が起こったかと言えば、 00:06:04.648 --> 00:06:06.343 人間の「心」の変化です。 00:06:06.343 --> 00:06:08.719 これまで、当たり前のように信じて来た 00:06:08.719 --> 00:06:12.439 「神」という絶対的な存在に 疑いの目を向け始め、 00:06:12.439 --> 00:06:15.201 信仰という行為から人々の心が、 00:06:15.201 --> 00:06:16.770 徐々に離れて行ったのです。 00:06:16.770 --> 00:06:18.004 では、そんな中、 00:06:18.004 --> 00:06:21.333 敬虔なキリスト教徒であったパスカルは、 どうだったのでしょうか。 00:06:21.333 --> 00:06:24.944 キリスト教を捨て、 信仰を諦めたのかというと 00:06:24.944 --> 00:06:26.590 勿論そうではありません。 00:06:26.590 --> 00:06:31.368 それどころか、神を信じない人間たちに キリスト教信仰の正当性を 00:06:31.368 --> 00:06:35.727 分からせてやりたいという熱い思いが 心の中で煮えたぎっていたのです。 00:06:35.727 --> 00:06:37.941 そして、パスカルが32歳の時、 00:06:37.941 --> 00:06:41.996 遂に彼の思想を決定づける ミラクルイベントが発生します。 00:06:41.996 --> 00:06:46.198 それは1656年3月24日、パリにある 00:06:46.198 --> 00:06:48.491 ポールロワイヤル修道院で起こりました。 00:06:48.491 --> 00:06:51.275 パスカルの姪である 10歳の少女マルグリット。 00:06:51.275 --> 00:06:52.521 彼女は3年以上 00:06:52.521 --> 00:06:55.354 涙嚢炎(るいのうえん)と呼ばれる 目の病気を患っていました。 00:06:55.354 --> 00:06:57.705 目から喉にかけて酷い炎症をおこし、 00:06:57.705 --> 00:07:00.518 失明どころか 命すら落としかねないほど、 00:07:00.518 --> 00:07:02.439 症状は悪化していたと言います。 00:07:02.439 --> 00:07:03.413 そんな中、 00:07:03.413 --> 00:07:05.612 キリストが処刑の時に被らされていた 00:07:05.612 --> 00:07:10.051 荊(いばら)の一部部分と信じられていた 聖荊(せいけい)に触れたことで 00:07:10.051 --> 00:07:13.850 なんと!マルグリットの涙嚢炎が 完治してしまったというのです。 00:07:13.850 --> 00:07:16.695 嘘か誠か 実際のところは分かりませんが、 00:07:16.695 --> 00:07:18.974 これは後に、「聖荊(せいけい)の奇跡」と呼ばれ、 00:07:18.974 --> 00:07:22.641 当時の宗教界を揺るがすほどの 大事件となったそうです。 00:07:22.641 --> 00:07:26.582 パスカルは、自分と血縁関係にある 姪っ子に起こった奇跡に、 00:07:26.582 --> 00:07:31.301 凄まじい衝撃を受けると共に その思想を確固たるものとします。 00:07:31.575 --> 00:07:34.529 そして、自分の知性と全生命力をかけて、 00:07:34.529 --> 00:07:38.579 キリスト教信仰の 正当性を訴える為の作品を書き、 00:07:38.579 --> 00:07:41.497 「理性が猛威を振るう時代にぶつけてやる!」と、 00:07:41.497 --> 00:07:43.012 一大決心をするのです。 00:07:43.012 --> 00:07:46.629 そんな執念をもって 原稿を書き上げていったパスカルですが、 00:07:46.629 --> 00:07:48.921 なんと!完成に至る前に 00:07:48.921 --> 00:07:52.282 39歳という若さで亡くなってしまいます。 00:07:52.282 --> 00:07:56.119 さぞかし無念であったと思われますが、 唯一の救いは、 00:07:56.119 --> 00:07:59.922 彼の施策がびっしり書き込まれた 文章の断片だけは、 00:07:59.922 --> 00:08:01.582 キレイに残っていたのです。 00:08:01.582 --> 00:08:03.927 そこで、遺族たちが中心となって 00:08:03.927 --> 00:08:07.214 パスカルの意志が宿った文章の欠片を繋ぎ合わせ 00:08:07.214 --> 00:08:10.492 未完に終わった幻の著作に編集を施し、 00:08:10.492 --> 00:08:12.659 命を吹き込むことに成功します。 00:08:12.659 --> 00:08:16.820 それが、これから皆さまと一緒に読んでいく [パンセ]という作品なのです。 00:08:16.820 --> 00:08:18.473 因みに「パンセ」というのは、 00:08:18.473 --> 00:08:20.496 「思考」とか、 「思索」を意味する 00:08:20.496 --> 00:08:21.600 フランス語です。 00:08:21.600 --> 00:08:23.522 この作品は前後の繫がりのない 00:08:23.522 --> 00:08:26.176 断片的な文章の集合体なのですが、 00:08:26.176 --> 00:08:27.781 パスカルの人間観察と 00:08:27.781 --> 00:08:30.620 キリスト教信仰にまつわる記述というように、 00:08:30.620 --> 00:08:32.736 大きく2つに分けることができます。 00:08:32.736 --> 00:08:35.427 ただ、この動画では冒頭に申し上げましたように 00:08:35.427 --> 00:08:37.094 前者に焦点を当て 00:08:37.094 --> 00:08:38.681 [人間最大の悪徳] 00:08:38.681 --> 00:08:40.389 [他者に認められたい心] 00:08:40.389 --> 00:08:42.356 [不幸を生み出すものの正体] 00:08:42.356 --> 00:08:45.462 という、3つのテーマに沿って 進めて参りたいと思います。 00:08:45.462 --> 00:08:47.302 では、早速1つ目のテーマ。 00:08:47.302 --> 00:08:50.188 [人間最大の悪徳]から見ていきましょう。 00:08:50.188 --> 00:08:54.024 自分しか愛さず、 自分しか尊敬しないこと。 00:08:54.024 --> 00:08:57.379 それが自己愛の本質であり、 「自我」の本質である。 00:08:57.379 --> 00:09:00.843 偉大な人間でありたいが、 実際は取るに足りない。 00:09:00.843 --> 00:09:04.613 幸福な人間でありたいが、 実際は惨めである。 00:09:04.902 --> 00:09:10.005 愛と尊敬の対象でありたいが、実際は 「嫌悪」と「侮蔑」の対象である。 00:09:10.240 --> 00:09:12.516 こういった困惑した状況は、 00:09:12.516 --> 00:09:14.358 人間の心の中に 00:09:14.358 --> 00:09:15.882 あるモノを生み出す。 00:09:15.882 --> 00:09:19.315 それは、最も不正で 最も罪深い情念だ。 00:09:19.315 --> 00:09:23.079 こういった状態に置かれた人間は、 自分自身を責め、 00:09:23.079 --> 00:09:28.262 自分の欠点を露わにする真実に対して、 極度の憎しみを抱く。 00:09:28.262 --> 00:09:32.274 そして、この真実を ”握りつぶしてやりたい!” と願うのだ。 00:09:32.274 --> 00:09:36.118 しかし、真実は真実であり、 それが消えることもなければ 00:09:36.118 --> 00:09:38.598 他のものに 置き換わったりすることもない。 00:09:38.598 --> 00:09:42.932 そこで人間は、その真実に対し どんな行動をとるかと言えば、 00:09:42.932 --> 00:09:47.601 自分と他人の知る限りにおいて、 それを破壊しようと試みる。 00:09:47.601 --> 00:09:50.630 つまり、自分の欠点を 他人に知られないように、 00:09:50.630 --> 00:09:52.951 必死で覆い隠そうとするのだ。 00:09:52.951 --> 00:09:57.028 人間というのは、自分の欠点を 誰かに指摘されることを嫌うし、 00:09:57.028 --> 00:10:00.290 人に見破られてしまうのも 耐えられない生き物だ。 00:10:00.290 --> 00:10:03.227 確かに、欠点ばかりであることは悪いことだが、 00:10:03.227 --> 00:10:07.021 そのことを認めない態度は、 それ以上に悪いことだ。 00:10:07.021 --> 00:10:08.898 なぜなら、悪いことの上に、 00:10:08.898 --> 00:10:11.738 更に意図的な誤魔化しを 加えているからだ。 00:10:11.738 --> 00:10:14.747 誰だって他人に騙されたら 嫌な気持ちがするだろう。 00:10:14.747 --> 00:10:18.976 例えば、あなたの知り合いで、 自分を本来の実力以上に見せかけ 00:10:18.976 --> 00:10:22.748 より多くの尊敬を集めたい、と 願っている人が居たらどうだろう。 00:10:22.748 --> 00:10:25.375 それを正しい態度であると、感じるだろうか。 00:10:25.375 --> 00:10:27.375 少なくとも、私はそうは思わない。 00:10:27.375 --> 00:10:29.809 それならば、私たちが他人を騙し、 00:10:29.809 --> 00:10:31.977 本来の自分よりも大きく見せて、 00:10:31.977 --> 00:10:35.477 評価を上げようとすることは、 正しい態度ではないのだ。 00:10:35.477 --> 00:10:36.769 はい!ここで止めます。 00:10:36.769 --> 00:10:40.542 [人間にとって、最大の悪徳は 「自己愛」である] 00:10:40.542 --> 00:10:42.788 これが、パスカルの出した結論です。 00:10:42.788 --> 00:10:45.632 では、そもそも「自己愛」とは 何なんでしょうか? 00:10:45.632 --> 00:10:47.876 それは、自分だけを愛し、 00:10:47.876 --> 00:10:50.891 自分だけを尊敬しようとする 態度のことです。 00:10:50.891 --> 00:10:53.339 そして、自己愛の中心にあるもの。 00:10:53.339 --> 00:10:55.825 それが「自我」なのだ、と言っているんです。 00:10:55.825 --> 00:10:58.816 つまり、人間は誰しも 「自我」を持っている以上、 00:10:58.816 --> 00:11:00.549 最大の悪徳である 00:11:00.549 --> 00:11:03.852 「自己愛」を抱えながら生きている ということになります。 00:11:03.852 --> 00:11:05.800 ただ大事なのは、ここからです。 00:11:05.800 --> 00:11:07.485 パスカルは、別の断章で 00:11:07.485 --> 00:11:10.875 [自我は憎むべきもの]であると 主張しているんです。 00:11:10.875 --> 00:11:12.889 自我は憎むべきもの... 00:11:12.889 --> 00:11:15.603 ちょっと何が言いたいのか 分かりにくいですねぇ。 00:11:15.603 --> 00:11:16.920 彼の理屈によると、 00:11:16.920 --> 00:11:19.728 どうやら自我は、 2つの性質があるようです。 00:11:19.728 --> 00:11:20.599 ひとつが 00:11:20.599 --> 00:11:24.602 [1.自分を全ての物事の中心にしようとする] 点です。 00:11:24.602 --> 00:11:26.746 要するに、自我の働きによって 00:11:26.746 --> 00:11:30.777 自己中心的な考えや態度を とってしまうというわけです。 00:11:30.777 --> 00:11:34.446 ただ、神の存在を中心に 考えているパスカルにとって、 00:11:34.446 --> 00:11:38.977 こういった自己中心的な性質を持つ自我は、 ハッキリ言ってしまえば、 00:11:38.977 --> 00:11:43.578 信仰の障害物であり、 あまり歓迎できるものではないのです。 00:11:43.578 --> 00:11:45.249 ですから、彼は自我を 00:11:45.249 --> 00:11:50.510 それ自体が不正なものであると、 たいへん厳しい言葉で表現したわけです。 00:11:50.510 --> 00:11:52.844 そして、自我のもうひとつの性質は、 00:11:52.844 --> 00:11:55.024 [2.他人を従わせようとする]点です。 00:11:55.024 --> 00:11:57.887 例えば、誰かにマウンティングされてしまったら 00:11:57.887 --> 00:12:00.150 とても嫌な気持ちがすると思います。 00:12:00.150 --> 00:12:03.609 つまり、自我は他人に対いて暴君になろうとする 00:12:03.609 --> 00:12:06.633 不快な性質をもつものだ、というわけです。 00:12:06.633 --> 00:12:08.532 このような理由からパスカルは、 00:12:08.532 --> 00:12:11.505 自我を憎むべき対象として捉えていたのです。 00:12:11.505 --> 00:12:12.510 ただ、どうでしょう。 00:12:12.510 --> 00:12:14.910 確かにそういった自我を丸出しにして、 00:12:14.910 --> 00:12:17.750 人を不快にさせてしまう方も 居るかもしれませんが、 00:12:17.750 --> 00:12:19.237 余計な自我を抑えて、 00:12:19.237 --> 00:12:22.894 他者に対して、親切な 行動がとれる人だっているわけです。 00:12:22.894 --> 00:12:27.680 ですから、自我を憎めというのは、 流石に表現としては、言い過ぎではないかと 00:12:27.680 --> 00:12:30.591 そのように思われた方も いらっしゃるのではないでしょうか。 00:12:30.591 --> 00:12:32.559 ただ、余計な自我を抑えて、 00:12:32.559 --> 00:12:35.584 他人を思いやる親切な行動をとったとしても 00:12:35.584 --> 00:12:37.913 それは、不快なものを取り除いたに過ぎず、 00:12:37.913 --> 00:12:40.781 自我そのものが、不正であることには変わりはない 00:12:40.781 --> 00:12:42.998 というのがパスカルの考えなんです。 00:12:42.998 --> 00:12:45.043 さらに言うと、自我を抑えて 00:12:45.043 --> 00:12:47.764 他人を思いやる親切な行動をとったとしても 00:12:47.764 --> 00:12:50.947 それは、他人によく思われたい虚栄心であって、 00:12:50.947 --> 00:12:52.988 その虚栄心を突き詰めていけば、 00:12:52.988 --> 00:12:55.659 結局は、他者からの評価を意識しているので 00:12:55.659 --> 00:13:00.049 根本にあるのは、結局「自己愛」じゃないかと そのように言われてしまうのです。 00:13:00.049 --> 00:13:02.998 このようにパスカルは、人間の本質を鋭く突き 00:13:02.998 --> 00:13:05.834 読者に何とも言えない内省を 迫って来るのです。 00:13:05.834 --> 00:13:08.209 では、人が他人に「認められたい」とか、 00:13:08.209 --> 00:13:11.596 「褒められたい」と思うことは、 果たして悪い事なんでしょうか。 00:13:11.596 --> 00:13:14.169 また人間は、虚栄心を捨てるべきだと 00:13:14.169 --> 00:13:16.672 パスカルはそのような主張を しているのでしょうか。 00:13:17.161 --> 00:13:18.928 それでは、ふたつ目のテーマである 00:13:18.928 --> 00:13:21.293 [他者に認められたい心]に移り 00:13:21.293 --> 00:13:23.263 彼の本心を探っていきましょう。 00:13:23.263 --> 00:13:26.636 人間の思い上がりというのは、 厄介なものだ。 00:13:26.636 --> 00:13:29.658 全世界の人間に、自分のことを知って貰いたい。 00:13:29.658 --> 00:13:31.817 更には、自分が死んだ後も 00:13:31.817 --> 00:13:34.477 自分のことを知られていたい と願っているのだ。 00:13:34.477 --> 00:13:39.712 にも拘わらず、自分の周りにいる 5,6人に評価されるだけで満足してしまう 00:13:39.712 --> 00:13:41.854 実に軽薄な生き物じゃないか。 00:13:41.854 --> 00:13:44.276 人間は、誰しも虚栄心を持っている。 00:13:44.276 --> 00:13:47.257 兵士も、料理人も、湾岸で働く労働者も 00:13:47.257 --> 00:13:48.999 それぞれ自慢ばかりして、 00:13:48.999 --> 00:13:51.310 自分を褒めてくれる人間を欲しがっている。 00:13:51.310 --> 00:13:54.006 哲学者だって、賞賛してくれる人が欲しいし 00:13:54.006 --> 00:13:57.699 批判を書くような人も 批判が的確だと褒められたいし、 00:13:57.699 --> 00:14:01.616 更に、その批判を読んだ者も それを読んだことを褒められたがっている。 00:14:01.616 --> 00:14:04.154 これを書いている、私だって同じだ。 00:14:04.154 --> 00:14:06.793 心の何処かで、 そうした願望を持っている。 00:14:06.998 --> 00:14:09.591 また、人間の好奇心も私に言わせれば、 00:14:09.591 --> 00:14:11.852 大抵は、虚栄心によるものだ。 00:14:11.852 --> 00:14:14.489 人が何かを知りたがるのは何のためだ。 00:14:14.489 --> 00:14:16.738 それについて誰かに話すためだろう。 00:14:16.738 --> 00:14:19.035 さもなければ、遠い海の果てまで 00:14:19.035 --> 00:14:21.820 大航海の旅に出ようなんて誰も思わない。 00:14:21.820 --> 00:14:24.322 自分が見たこと、自分が聞いたこと。 00:14:24.322 --> 00:14:26.410 それをいつか人に伝えたい。 00:14:26.410 --> 00:14:30.532 そういった希望もないままに、 ただ純粋な楽しみだけで、 00:14:30.532 --> 00:14:32.730 好奇心など広がるはずはないのだ。 00:14:32.730 --> 00:14:36.502 人間の最大の卑しさというのは、 名誉の追求だ。 00:14:36.502 --> 00:14:38.096 しかし、裏を返せば 00:14:38.096 --> 00:14:41.608 それは人間の優秀さを示す 最大の印でもある。 00:14:41.608 --> 00:14:44.422 この世界にどれほどの 所有物を持っていようが、 00:14:44.422 --> 00:14:47.956 どれほど健康で 快適な生活に恵まれていようが、 00:14:47.956 --> 00:14:52.438 他者からの尊敬が手に入らない限り 人間は何処までも満足しない。 00:14:52.438 --> 00:14:56.122 何をもってしても この欲望から逃げ切ることはできないのだ。 00:14:56.122 --> 00:15:00.100 これこそ、人間の心の 最も消し難い性質と言えるだろう。 00:15:00.100 --> 00:15:01.329 はい!ここで止めます。 00:15:01.329 --> 00:15:05.512 つまりパスカルは、人間のもつ「虚栄心」や 「承認欲求」そのものを 00:15:05.512 --> 00:15:07.658 全否定しているわけではないのです。 00:15:07.658 --> 00:15:12.473 それによって新しい技術を発明したり、 文明を発展させたりすることで、 00:15:12.473 --> 00:15:15.866 人類は進歩してきましたし、 それは事実なのです。 00:15:15.866 --> 00:15:19.892 ですから、虚栄心は 人間の「卑しさ」の象徴であると同時に 00:15:19.892 --> 00:15:22.808 「優秀さ」の象徴でもある説き、その上で、 00:15:22.808 --> 00:15:26.302 [人間の心の最も消し難い性質] と言っているんです。 00:15:26.302 --> 00:15:29.853 つまり、虚栄心というのは、 純粋な「善」でも「悪」でもなく 00:15:29.853 --> 00:15:32.471 受け入れるべき人間の 性(サガ)と言えるわけです。 00:15:32.471 --> 00:15:35.384 ただ、ここまでの話しを あらためて振り返ってみますと、 00:15:35.384 --> 00:15:37.875 人間は、何処まで行っても心が晴れない 00:15:37.875 --> 00:15:40.890 不幸で虚しい存在であるように 思えてしまいます。 00:15:40.890 --> 00:15:44.619 では、パスカルは一体、 人間の「幸・不幸」について 00:15:44.619 --> 00:15:47.030 どのような考えをもっていたのでしょうか。 00:15:47.403 --> 00:15:48.703 それでは、3つ目のテーマ。 00:15:48.703 --> 00:15:51.483 [不幸を生み出すものの正体]について 見ていきましょう。 00:15:51.483 --> 00:15:53.273 人間の不幸の全ては、 00:15:53.273 --> 00:15:56.114 ただ一つのことに由来するものと思われる。 00:15:56.114 --> 00:15:57.359 それは、すなわち 00:15:57.359 --> 00:16:00.471 部屋の中で、ひとり静かに 留まっていられないことだ。 00:16:00.471 --> 00:16:02.475 一生遊んで暮らせるだけの 00:16:02.475 --> 00:16:05.779 十分な財産を持っている 国の権力者を見てみるがいい。 00:16:05.779 --> 00:16:08.513 なぜ彼は、わざわざ海を越えたり、 00:16:08.513 --> 00:16:10.547 戦に出かけたりするのだろうか。 00:16:10.547 --> 00:16:12.926 それは、彼が自分の家の中で、 00:16:12.926 --> 00:16:16.077 ただジッとしているのが 苦痛で堪らないからだ。 00:16:16.077 --> 00:16:18.068 社交の場に足を運ぶこと。 00:16:18.068 --> 00:16:19.265 ギャンブルをすること。 00:16:19.265 --> 00:16:21.586 こういった気晴らしを一切求めず、 00:16:21.586 --> 00:16:24.029 ただ、家の中でジッとしていたところで、 00:16:24.029 --> 00:16:26.002 人間の心は満たされない。 00:16:26.002 --> 00:16:28.339 たとえ、一国の王であったとしても 00:16:28.339 --> 00:16:31.876 何の気晴らしもなければ、 今後、起こりうる反乱や 00:16:31.876 --> 00:16:34.284 避けることのできない「病」や「死」といった 00:16:34.284 --> 00:16:37.134 余計なことばかりが 頭に浮かんできてしまうだろう。 00:16:37.134 --> 00:16:39.896 つまり、「気を紛らわす」 という 行為が無ければ、 00:16:39.896 --> 00:16:43.224 「王」という、最高に 恵まれた地位にいる人間であっても 00:16:43.224 --> 00:16:44.895 たちまち不幸になる。 00:16:44.895 --> 00:16:46.669 自由に賭け事をしたり、 00:16:46.669 --> 00:16:49.529 気を紛らわしたりできる 最下層の家来よりも 00:16:49.529 --> 00:16:51.409 最上位にいる王の方が 00:16:51.409 --> 00:16:53.149 よっぽど不幸になってしまうのだ。 00:16:53.149 --> 00:16:57.106 だから人間活動の中には、 賭け事とか、誰かとの会話、 00:16:57.106 --> 00:17:02.528 戦争、名誉ある職の追求といったことが こんなにも求められるのである。 00:17:02.528 --> 00:17:07.258 ただ、こういった行動ひとつひとつに 幸福の源泉があるわけではない。 00:17:07.258 --> 00:17:08.645 真の幸福とは、 00:17:08.645 --> 00:17:10.906 賭け事で儲ける金でもなければ 00:17:10.906 --> 00:17:13.556 狩りによって 獲物を得ることでもないのだ。 00:17:13.556 --> 00:17:16.760 何の苦労もせず「ホラッ、くれてやる」 と言われたところで、 00:17:16.760 --> 00:17:18.839 心は決して満たされないだろう。 00:17:18.839 --> 00:17:20.459 人間が求めるのは、 00:17:20.459 --> 00:17:23.326 不幸な状態が頭に浮かんできてしまうような 00:17:23.326 --> 00:17:25.320 のんびりとした時間ではない。 00:17:25.320 --> 00:17:27.446 ただ、自分の不幸を忘れさせ 00:17:27.446 --> 00:17:29.014 気を紛らわせてくれる 00:17:29.014 --> 00:17:31.123 「騒ぎ」を求めているのである。 00:17:31.123 --> 00:17:32.347 はい!ここで止めます。 00:17:32.347 --> 00:17:35.410 家の中でやることがなく、 ジッとひとりでいると、 00:17:35.410 --> 00:17:38.568 人間は余計なことを考え、その結果、 00:17:38.568 --> 00:17:40.298 不幸な状態に陥ってしまう。 00:17:40.298 --> 00:17:41.958 これがパスカルの考えです。 00:17:41.958 --> 00:17:43.593 確かに暇すぎると、 00:17:43.593 --> 00:17:46.054 思い出したくない人の顔が浮かんできたり、 00:17:46.054 --> 00:17:47.785 将来のことが不安になったり、 00:17:47.785 --> 00:17:50.938 過ちを犯した自分を責めたり、恥じたり、 00:17:50.938 --> 00:17:53.456 何かとネガティブモードに なってしまいがちです。 00:17:53.456 --> 00:17:54.651 ただ、パスカルは 00:17:54.651 --> 00:17:56.338 これは、あなただけじゃなくて、 00:17:56.338 --> 00:17:59.284 王様だって、誰だって 人間みんな同じなんだよと 00:17:59.284 --> 00:18:00.336 そう言っていました。 00:18:00.336 --> 00:18:02.573 そこでパスカルは、その解決策として 00:18:02.573 --> 00:18:06.892 自分の気を紛らわす 気晴らしの必要性を説いていました。 00:18:06.892 --> 00:18:08.894 ただ、彼の言っている「気晴らし」というのは、 00:18:08.894 --> 00:18:12.607 ストレス解消の娯楽だけを 指しているのではありません。 00:18:12.607 --> 00:18:14.449 会社やバイト先に行って、 00:18:14.449 --> 00:18:16.615 一生懸命、仕事をすること。 00:18:16.615 --> 00:18:19.088 家の中で、テキパキと家事を行うこと。 00:18:19.088 --> 00:18:23.190 こういった活動も含めて、パスカルは 「気晴らし」と呼んでいるんです。 00:18:23.190 --> 00:18:25.521 つまり、何か作業に没頭し、 00:18:25.521 --> 00:18:28.392 自分の意識が不幸な状態に向かないよう、 00:18:28.392 --> 00:18:32.355 気持ちを紛れさせる活動全般を 彼は「気晴らし」と呼び、 NOTE Paragraph 00:18:32.355 --> 00:18:36.058 人間はこれなしでは、 生きて行けない存在なんだ、と説いたんです。 00:18:36.058 --> 00:18:37.716 ただ、話しはこれで終わりません。 00:18:37.716 --> 00:18:39.091 パスカルは本書で、 00:18:39.091 --> 00:18:42.010 気晴らしは人間を不幸から遠ざける為に、 00:18:42.010 --> 00:18:44.883 絶対に必要だという 主張を展開しておきながら 00:18:44.883 --> 00:18:46.347 また、違うところでは、 00:18:46.347 --> 00:18:51.044 気晴らしは、人間の悲惨さの 最たるものであるという主張もしているのです。 00:18:51.044 --> 00:18:54.850 ちょっと、混乱しそうですが、これは 一体どういうことでしょうか。 00:18:54.850 --> 00:18:56.034 結論から言いますと 00:18:56.034 --> 00:18:58.003 気晴らしは不幸から目を反らし、 00:18:58.003 --> 00:19:01.624 気持ちを紛れさせる、 という行動がある一方で、 00:19:01.624 --> 00:19:05.655 自分自身を冷静に顧みることを 忘れさせてしまうという、 00:19:05.655 --> 00:19:06.876 副作用もあるんです。 00:19:06.876 --> 00:19:09.414 例えば、朝から晩まで仕事漬け。 00:19:09.414 --> 00:19:11.885 或いは、ギャンブル漬けという生活でしたら 00:19:11.885 --> 00:19:15.284 確かに、余計なことを考える時間は 無いと言えます。 00:19:15.284 --> 00:19:19.172 ただ、それによって 自分と対話する余白まで無くなってしまい、 00:19:19.172 --> 00:19:22.489 その結果、新しい人生の可能性や 00:19:22.489 --> 00:19:25.495 方向性を見出だすチャンスを 失ってしまうのです。 00:19:25.495 --> 00:19:28.745 例えば、パスカルの人生を 思い出してみてください。 00:19:28.745 --> 00:19:30.634 彼は30歳手前まで、 00:19:30.634 --> 00:19:34.865 数学や自然科学の研究という 気晴らしに没頭していました。 00:19:35.100 --> 00:19:38.479 しかし、父親の死という 出来事によって余白が生まれ、 00:19:38.479 --> 00:19:41.633 それによって自分の人生を深く見つめ直し、 00:19:41.633 --> 00:19:44.489 哲学という新たな道が開かれたわけです。 00:19:44.489 --> 00:19:48.331 つまり、「どう生きるか」 という 人生の重要課題を発見するには、 00:19:48.331 --> 00:19:53.311 自分の人生を「気晴らし」だけで 埋め尽くしてはいけない、ということになるんです。 00:19:53.311 --> 00:19:55.092 ただ、ここまで言われてしまいますと、 00:19:55.092 --> 00:19:58.335 結局私たちは、 どうすればいいのですかと。 00:19:58.335 --> 00:20:00.919 何処にも逃げ道が ないじゃないですかと。 00:20:00.919 --> 00:20:02.815 そのように突っ込みたくなりますが、 00:20:02.815 --> 00:20:06.097 パスカルからしてみれば、 そういった読者の反応は 00:20:06.097 --> 00:20:07.612 想定の範囲内です。 00:20:07.612 --> 00:20:10.416 彼はこのあと、 更に考察を深めていき 00:20:10.416 --> 00:20:13.121 最終的に完全に出口を塞いだ上で、 00:20:13.121 --> 00:20:17.503 ホラッ!だから私たちは 「神を信じるしかないのですよ」と。 00:20:17.503 --> 00:20:21.234 読者を目的の場所まで誘う 設計になってるんです。 00:20:21.234 --> 00:20:22.379 ただ、この動画は、 00:20:22.379 --> 00:20:25.700 あくまで彼の人間観察に注目して 進めていますので、 00:20:25.700 --> 00:20:27.869 これ以上の深掘りは致しません。 00:20:27.869 --> 00:20:29.814 なので、このテーマの結論としては 00:20:29.814 --> 00:20:33.879 不幸を避けるための対抗手段として 「気晴らし」は有効でありますが、 00:20:33.879 --> 00:20:37.813 そればかりに偏ると、 自らを省みる時間が無くなるので 00:20:37.813 --> 00:20:41.034 注意しましょう、とういところを 落としどころにしたいと思います。 00:20:41.830 --> 00:20:44.140 3つのテーマに関しては、これでお終いです。 00:20:44.140 --> 00:20:46.132 最後にパスカルのあの名言。 00:20:46.132 --> 00:20:48.637 [人間は考える葦である] 00:20:48.637 --> 00:20:51.782 というフレーズが登場する パートに触れて終わりたいと思います。 00:20:51.782 --> 00:20:53.875 たいへん有名な言葉ですが、 00:20:53.875 --> 00:20:56.670 これには一体どんな意味が 込められているのでしょうか。 00:20:56.670 --> 00:20:58.261 では早速、みていきましょう。 00:20:58.261 --> 00:21:00.991 人間は一本の葦に過ぎない。 00:21:00.991 --> 00:21:04.083 自然の内で最もか弱いものだ。 00:21:04.083 --> 00:21:06.924 だが、それは考える葦だ。 00:21:06.924 --> 00:21:11.242 人間を押し潰すのに 宇宙全体が武装する必要はない。 00:21:11.242 --> 00:21:12.652 「一吹きの蒸気」 00:21:12.652 --> 00:21:13.939 「一滴の水」 00:21:13.939 --> 00:21:16.796 それだけで、人間を殺すのには十分だ。 00:21:16.796 --> 00:21:19.400 しかし、宇宙に押し潰されようとも 00:21:19.400 --> 00:21:22.320 人間は自分を殺すものよりも更に尊い。 00:21:22.320 --> 00:21:23.859 なぜなら人間は、 00:21:23.859 --> 00:21:26.943 自分がいずれ死ぬことを知っているからだ。 00:21:26.943 --> 00:21:29.857 また、自分よりも宇宙の方が大きく、 00:21:29.857 --> 00:21:33.107 優位な存在であることを分かっているからだ。 00:21:33.107 --> 00:21:36.129 しかし、宇宙は そんなことを考えたりはしない。 00:21:36.475 --> 00:21:39.033 つまり、私たちの尊厳の根拠というのは、 00:21:39.033 --> 00:21:42.394 この、「考える」という 行為の内にあるものなのだ。 00:21:42.394 --> 00:21:44.781 だから、よく考えることに努めよう。 00:21:44.781 --> 00:21:46.541 ここに、「道徳の原理」がある。 00:21:46.541 --> 00:21:47.767 はい!ここで止めます。 00:21:47.767 --> 00:21:51.008 言ってることが分かるようで 分からないパートですが、 00:21:51.008 --> 00:21:55.392 先に申し上げておきますと、 人間はほかの動植物と違って、 00:21:55.392 --> 00:22:01.120 「考える」という機能が付いているから 尊い存在なのだ、という意味ではありません。 00:22:01.120 --> 00:22:03.603 ここはよく、誤解されるポイントになります。 00:22:03.603 --> 00:22:06.885 実は、このパートとは別にパスカルは、 [パンセ]の中で、 00:22:06.885 --> 00:22:08.174 次のように述べています。 00:22:08.174 --> 00:22:12.251 人間というものは、どう見ても 考えるために作られている。 00:22:12.251 --> 00:22:15.775 考えることが人間の尊厳の全てなのだ。 00:22:15.775 --> 00:22:19.370 人間の価値の全て、その義務の全ては、 00:22:19.370 --> 00:22:21.272 正しく考えることにある。 00:22:21.272 --> 00:22:22.667 はい、どうでしょう。 00:22:22.667 --> 00:22:26.432 要するに、何でもかんでも考えていれば それでよし!という訳ではなく、 00:22:26.432 --> 00:22:29.646 人間の価値の全て、義務の全ては 00:22:29.646 --> 00:22:34.646 「正しく考えることにある」と、 パスカルはそう言っているんです。 00:22:34.646 --> 00:22:37.472 では、「正しく考える」とは 何なんでしょうか。 00:22:37.472 --> 00:22:39.093 それは、自分の人生に 00:22:39.093 --> 00:22:41.444 いつか終わりの時間がやって来るという、 00:22:41.444 --> 00:22:44.177 悲惨な運命を自覚し、その上で、 00:22:44.177 --> 00:22:46.235 今の自分のあるべき姿や 00:22:46.235 --> 00:22:49.437 これからの自分の生き方について考えること。 00:22:49.437 --> 00:22:53.452 それが彼の言っている 「正しい思考の働かせ方」であり、 00:22:53.452 --> 00:22:54.817 その中にこそ、 00:22:54.817 --> 00:22:57.971 人間の尊厳の根拠があるのだ と言っているんです。 00:22:57.971 --> 00:23:00.121 つまり、思考ができる人間を 00:23:00.121 --> 00:23:02.895 ただ、「素晴らしい」と 謳っているわけではないのです。 00:23:02.895 --> 00:23:05.246 それどころか、パスカルは本書の中で、 00:23:05.246 --> 00:23:08.579 多くの人は、自分たちの背負っている運命を忘れ 00:23:08.579 --> 00:23:12.309 正しく思考を働かせていないと、 嘆いているんです。 00:23:12.618 --> 00:23:15.271 つまり、「人間は考える葦である」 という 00:23:15.271 --> 00:23:16.354 言葉の中には 00:23:16.354 --> 00:23:19.968 正しい思考を手放してしまった 人間に対する「警告」と 00:23:19.968 --> 00:23:24.775 本来の尊厳を取り戻して欲しい、という 「期待」が込められていたというわけです。 00:23:24.775 --> 00:23:26.310 人はどうあるべきで、 00:23:26.310 --> 00:23:28.543 そして、どう生きるべきなのでしょうか。 00:23:28.543 --> 00:23:31.577 パスカルは、一本の葦に過ぎない人間に 00:23:31.577 --> 00:23:32.596 今もそうやって 00:23:32.596 --> 00:23:34.365 問いを投げ続けているのです。 00:23:35.019 --> 00:23:38.186 というわけで、パスカルの[パンセ] 以上でございます。 00:23:38.186 --> 00:23:39.558 いかがでしたでしょうか。 00:23:39.558 --> 00:23:42.408 前回紹介いたしました[思考の整理学]は、 00:23:42.408 --> 00:23:46.070 「考えることの楽しさを知って貰う」 というテーマでした。 00:23:46.268 --> 00:23:49.537 なので今回は、 「考えること」そのものを考え 00:23:49.537 --> 00:23:51.658 つまり、人間にとって「考える」って、 00:23:51.658 --> 00:23:54.785 どういうことなんだろうという 問いを投げかけてくれる、 00:23:54.785 --> 00:23:57.618 そんな哲学の古典的名作を選んでみました。 00:23:57.618 --> 00:24:00.173 ご興味のある方は是非、 チェックしてみてください。 00:24:00.173 --> 00:24:04.214 面白かった、参考になったという方は 高評価・コメントなどいただけますと嬉しいです。 00:24:04.214 --> 00:24:06.698 また、チャンネル登録も よろしくお願い致します。 00:24:06.698 --> 00:24:08.773 ではまた、次の動画でお会い致しましょう。 00:24:08.773 --> 00:24:09.922 ありがとうございました。