1 00:00:00,231 --> 00:00:01,739 はい!どうもアバタローです。 2 00:00:01,739 --> 00:00:05,006 本日はフランスの哲学者 ブレーズ・パスカルの 3 00:00:05,006 --> 00:00:06,997 [パンセ]について紹介を致します。 4 00:00:06,997 --> 00:00:09,476 17世紀の終わりに発刊されて以来 5 00:00:09,476 --> 00:00:10,669 欧米においては 6 00:00:10,669 --> 00:00:13,188 聖書に次いで 広く読まれている作品であり、 7 00:00:13,188 --> 00:00:15,962 ”人間は考える葦である” という 8 00:00:15,962 --> 00:00:19,284 あの名言が刻まれた 世界的名著になります。 9 00:00:19,284 --> 00:00:22,618 パスカルの鋭い人間観察を特徴とする本書は、 10 00:00:22,618 --> 00:00:25,317 哲学に関心を持っている方だけではなく 11 00:00:25,317 --> 00:00:27,473 人間関係に悩んでいる方。 12 00:00:27,473 --> 00:00:29,647 孤独の中で苦しんでいる方。 13 00:00:29,647 --> 00:00:31,028 自分の人生に対して 14 00:00:31,028 --> 00:00:33,724 満たされない気持ちを 抱えている方にとっても 15 00:00:33,724 --> 00:00:36,054 おおいにご参考いただける1冊です。 16 00:00:36,054 --> 00:00:37,062 ただ「パンセ」は、 17 00:00:37,062 --> 00:00:41,103 とても面白い作品ではあるのですが 内容が難しくて、 18 00:00:41,103 --> 00:00:43,063 そう簡単には読めないのです。 19 00:00:43,063 --> 00:00:44,784 それでいて、「上・中・下巻」 20 00:00:44,784 --> 00:00:47,055 解説・補足全て合わせますと 21 00:00:47,055 --> 00:00:49,613 1500ページを超す分量があります。 22 00:00:49,613 --> 00:00:53,035 更に、「歴史」「宗教」 作品の「成立背景」など、 23 00:00:53,035 --> 00:00:55,287 予備知識を持った上で臨まないと 24 00:00:55,287 --> 00:00:58,541 まったく歯が立たない、 とても手ごわい作品なのです。 25 00:00:58,541 --> 00:01:02,063 そのため学校の授業などで 名前を知る機会はあっても、 26 00:01:02,063 --> 00:01:03,311 その中身まで 27 00:01:03,311 --> 00:01:07,510 丁寧な説明を受ける機会というのは、 なかなか無いと思われます。 28 00:01:07,510 --> 00:01:10,249 そこで、この動画では、 [パンセ]と言う作品を 29 00:01:10,249 --> 00:01:12,828 幅広い層の方に楽しんでいただけるよう、 30 00:01:12,828 --> 00:01:16,469 3つのテーマに沿って分かりやすく 紹介をして行きたいと思います。 31 00:01:16,469 --> 00:01:17,251 1つ目が 32 00:01:17,251 --> 00:01:19,039 [人間最大の悪徳] 33 00:01:19,039 --> 00:01:19,772 2つ目が 34 00:01:19,772 --> 00:01:21,429 [他者に認められたい心] 35 00:01:21,429 --> 00:01:22,438 最後3つ目が 36 00:01:22,438 --> 00:01:24,688 [不幸を生み出すものの正体]です。 37 00:01:24,688 --> 00:01:28,706 もちろんご視聴にあたって 難しい予備知識は一切要りません。 38 00:01:28,706 --> 00:01:30,797 いつも通り手ぶらでOKですので、 39 00:01:30,797 --> 00:01:32,468 お茶でも飲みながらリラックスして、 40 00:01:32,468 --> 00:01:34,701 どうぞ最後まで お付き合いいただければと思います。 41 00:01:34,701 --> 00:01:36,073 それでは、参りましょう。 42 00:01:36,073 --> 00:01:37,762 ブレーズ・パスカル。 [パンセ] 43 00:01:38,181 --> 00:01:41,012 まずは、この動画の 全体像からお示し致します。 44 00:01:41,012 --> 00:01:43,725 はじめに「パンセ」の著者である ブレーズ・パスカルと、 45 00:01:43,725 --> 00:01:48,080 この作品が誕生するに至った 背景についてお話しを致します。 46 00:01:48,080 --> 00:01:50,473 「パンセ」は前提知識が肝になりますので、 47 00:01:50,473 --> 00:01:53,583 いつもより時間を取って 丁寧に進めて行きます。 48 00:01:53,583 --> 00:01:55,523 その後に作品の内容を 49 00:01:55,523 --> 00:01:57,329 3つのテーマに沿ってお伝えし、 50 00:01:57,329 --> 00:02:01,851 最後に、”人間は考える葦である”という 名言に込められた意味について 51 00:02:01,851 --> 00:02:03,967 解説を加えて終わりたいと思います。 52 00:02:03,967 --> 00:02:06,228 では早速、1つ目から見ていきましょう。 53 00:02:06,228 --> 00:02:09,021 ブレーズ・パスカル、彼は1623年、 [Blaise Pascal(1623-62)] 54 00:02:09,021 --> 00:02:13,161 フランス中部の山岳地帯にある クレルモンという場所で生まれました。 55 00:02:13,431 --> 00:02:14,903 父親は徴税官。 56 00:02:14,903 --> 00:02:18,298 母親は地元の裕福な商人の娘ということで 57 00:02:18,298 --> 00:02:22,238 経済的には何不自由ない 恵まれた家庭であったようです。 58 00:02:22,238 --> 00:02:23,991 ところが、パスカル本人は 59 00:02:23,991 --> 00:02:27,108 2歳の時に重たい病気にかかったことが原因で 60 00:02:27,108 --> 00:02:28,805 虚弱体質になってしまったり、 61 00:02:28,805 --> 00:02:32,253 さらに3歳の時には 母親を亡くしてしまったりと、 62 00:02:32,253 --> 00:02:34,145 肉体的にも精神的にも 63 00:02:34,145 --> 00:02:37,361 決して楽ではない人生を 歩んで行くことになります。 64 00:02:37,361 --> 00:02:40,417 そんな、幼くして苦難を 背負ってしまったパスカルに 65 00:02:40,417 --> 00:02:42,679 彼の父親が与えたもの。 66 00:02:42,679 --> 00:02:46,051 それは、自分の人生を賭けた教育でした。 67 00:02:46,051 --> 00:02:49,241 パスカルの父親は、 税金の専門家だったのですが、 68 00:02:49,241 --> 00:02:51,684 それと同時に、物理や数学にも長けた 69 00:02:51,684 --> 00:02:53,726 アマチュアの科学者でもありました。 70 00:02:53,726 --> 00:02:55,842 そこで、学校に行かせることなく 71 00:02:55,842 --> 00:02:57,270 自らが教師となり、 72 00:02:57,270 --> 00:02:59,943 我が子に英才教育を施したのです。 73 00:02:59,943 --> 00:03:03,363 更に、友人の科学者や数学者を自宅に招いては、 74 00:03:03,363 --> 00:03:05,157 日々、議論を交わしていた為、 75 00:03:05,157 --> 00:03:09,500 時折、息子のパスカルもその教養の深い 大人たちの輪の中に入っては、 76 00:03:09,500 --> 00:03:11,305 知的な刺激を受けていました。 77 00:03:11,305 --> 00:03:12,466 その結果、彼は 78 00:03:12,466 --> 00:03:15,089 「神童」と呼ばれるほどにその才能を開花させ、 79 00:03:15,089 --> 00:03:17,972 わずか12歳にして三角形の内角の和が 80 00:03:17,972 --> 00:03:20,878 180度であることを自力で証明し、 81 00:03:20,878 --> 00:03:22,456 更に16歳の時に 82 00:03:22,456 --> 00:03:26,158 「円錐曲線試論」と呼ばれる 数学の論文を発表します。 83 00:03:26,158 --> 00:03:28,991 学校の授業で習う 「パスカルの定理」というのは、 84 00:03:28,991 --> 00:03:30,698 実は、当時の彼が書いた、 85 00:03:30,698 --> 00:03:33,270 この論文の中に 含まれているものになります。 86 00:03:33,270 --> 00:03:34,693 また、30歳の時には、 87 00:03:34,693 --> 00:03:36,624 「圧力の伝わり方の法則」 88 00:03:36,624 --> 00:03:39,071 通称、「パスカルの原理」を発見しますが 89 00:03:39,071 --> 00:03:40,849 これによって、パスカルの名前が 90 00:03:40,849 --> 00:03:44,420 後に「圧力の値」を示す単位として採用されます。 91 00:03:44,420 --> 00:03:46,931 天気予報で気圧の説明がされる時、 92 00:03:46,931 --> 00:03:49,856 ”〇〇ヘクトパスカル” という言葉を耳にしますが、 93 00:03:49,856 --> 00:03:52,482 これは、彼の名前に因んだものになります。 94 00:03:52,482 --> 00:03:56,796 では、そんな現代にまで 影響を与え続けている天才科学者パスカルは、 95 00:03:56,796 --> 00:03:58,979 一体、いつから何をきっかけに 96 00:03:58,979 --> 00:04:01,502 哲学に興味を持ち始めたのでしょうか。 97 00:04:01,502 --> 00:04:04,210 結論から言いますと、28歳の時に 98 00:04:04,210 --> 00:04:08,023 父親が他界したことが 大きな要因の一つと言われています。 99 00:04:08,023 --> 00:04:10,200 パスカルにとって、自分の父親は、 100 00:04:10,200 --> 00:04:12,966 才能を花開かせてくれた恩人であり、 101 00:04:12,966 --> 00:04:15,512 また、最大の理解者でもありました。 102 00:04:15,512 --> 00:04:18,434 そういった、唯一無二の 存在を失ったことで 103 00:04:18,434 --> 00:04:19,872 彼は自分がいま 104 00:04:19,872 --> 00:04:23,086 とてつもない孤独の中で 生きているのではないかと気付き、 105 00:04:23,086 --> 00:04:25,259 強烈な不安感に襲われたのです。 106 00:04:25,259 --> 00:04:28,432 研究一筋で取り組んできて、成果は出してきた。 107 00:04:28,432 --> 00:04:31,205 十分すぎるほどの自己実現を果たして来た。 108 00:04:31,205 --> 00:04:35,027 けれど、なぜこんなにも 私の心は満たされないんだろう。 109 00:04:35,027 --> 00:04:37,901 なぜ、こんなにもこの世界は 生きづらいんだろう。 110 00:04:38,200 --> 00:04:40,681 そうだ!私の研究対象を 111 00:04:40,681 --> 00:04:44,681 これまでの自然科学ではなく、 人間に変えてみたらどうだろう。 112 00:04:44,681 --> 00:04:45,898 このように彼は、 113 00:04:45,898 --> 00:04:49,146 大きな方向転換を決意し、 「人間とは何か」 114 00:04:49,146 --> 00:04:52,777 「生きるとは何か」といった 根源的な問いを追求する 115 00:04:52,777 --> 00:04:56,334 「哲学」という新たな道を 切り開いて行くことになるのです。 116 00:04:56,334 --> 00:05:00,759 では、代表作である[パンセ]とは、 一体どういう作品なのでしょうか。 117 00:05:00,759 --> 00:05:05,375 これは、答えから先に申し上げてしまいますと、 混乱を招く可能性がありますので 118 00:05:05,375 --> 00:05:08,496 まずは、2つのことを先に 抑えていただきたいと思います。 119 00:05:08,496 --> 00:05:10,187 1つ目は、何かといいますと、 120 00:05:10,187 --> 00:05:11,881 パスカルの宗教です。 [パスカルは敬虔なキリスト教徒であった] 121 00:05:11,881 --> 00:05:13,169 先ほど見て来たように 122 00:05:13,169 --> 00:05:16,196 彼は数学と自然科学の天才でした。 123 00:05:16,400 --> 00:05:19,388 しかし、神という存在を強く信じている 124 00:05:19,388 --> 00:05:21,877 敬虔なキリスト教徒でもあったのです。 125 00:05:21,877 --> 00:05:24,320 因みに、パスカルの父親も兄妹も 126 00:05:24,320 --> 00:05:26,803 家族全員、みなが敬虔なクリスチャンです。 127 00:05:26,803 --> 00:05:29,183 親子揃って理数系ではあるのですが、 128 00:05:29,183 --> 00:05:32,852 神という存在はそもそも 理性で捉えられる存在ではなく、 129 00:05:32,852 --> 00:05:37,195 心で感じるものという思想が 彼らの中にはあったのです。 130 00:05:37,195 --> 00:05:38,629 そして、もう1つが 131 00:05:38,629 --> 00:05:40,384 パスカルが生きた時代です。 [17世紀のヨーロッパ] 132 00:05:40,384 --> 00:05:43,557 彼が活躍したのは 17世紀のヨーロッパです。 133 00:05:43,557 --> 00:05:45,121 当時のヨーロッパと言えば 134 00:05:45,121 --> 00:05:47,090 そうです!「科学革命」です。 135 00:05:47,090 --> 00:05:49,630 「地動説」を唱えたガリレオ・ガリレイ。 136 00:05:49,630 --> 00:05:53,100 「万有引力の法則」を発見した アイザック・ニュートン。 137 00:05:53,100 --> 00:05:55,851 「方法序説」を表したルネ・デカルト。 138 00:05:55,851 --> 00:06:00,103 こういった近代科学の先駆けとなる スーパースターが大暴れをしている、 139 00:06:00,103 --> 00:06:02,677 世はまさに「大科学革命時代」なのです。 140 00:06:02,677 --> 00:06:04,648 これによって、何が起こったかと言えば、 141 00:06:04,648 --> 00:06:06,343 人間の「心」の変化です。 142 00:06:06,343 --> 00:06:08,719 これまで、当たり前のように信じて来た 143 00:06:08,719 --> 00:06:12,439 「神」という絶対的な存在に 疑いの目を向け始め、 144 00:06:12,439 --> 00:06:15,201 信仰という行為から人々の心が、 145 00:06:15,201 --> 00:06:16,770 徐々に離れて行ったのです。 146 00:06:16,770 --> 00:06:18,004 では、そんな中、 147 00:06:18,004 --> 00:06:21,333 敬虔なキリスト教徒であったパスカルは、 どうだったのでしょうか。 148 00:06:21,333 --> 00:06:24,944 キリスト教を捨て、 信仰を諦めたのかというと 149 00:06:24,944 --> 00:06:26,590 勿論そうではありません。 150 00:06:26,590 --> 00:06:31,368 それどころか、神を信じない人間たちに キリスト教信仰の正当性を 151 00:06:31,368 --> 00:06:35,727 分からせてやりたいという熱い思いが 心の中で煮えたぎっていたのです。 152 00:06:35,727 --> 00:06:37,941 そして、パスカルが32歳の時、 153 00:06:37,941 --> 00:06:41,996 遂に彼の思想を決定づける ミラクルイベントが発生します。 154 00:06:41,996 --> 00:06:46,198 それは1656年3月24日、パリにある 155 00:06:46,198 --> 00:06:48,491 ポールロワイヤル修道院で起こりました。 156 00:06:48,491 --> 00:06:51,275 パスカルの姪である 10歳の少女マルグリット。 157 00:06:51,275 --> 00:06:52,521 彼女は3年以上 158 00:06:52,521 --> 00:06:55,354 涙嚢炎(るいのうえん)と呼ばれる 目の病気を患っていました。 159 00:06:55,354 --> 00:06:57,705 目から喉にかけて酷い炎症をおこし、 160 00:06:57,705 --> 00:07:00,518 失明どころか 命すら落としかねないほど、 161 00:07:00,518 --> 00:07:02,439 症状は悪化していたと言います。 162 00:07:02,439 --> 00:07:03,413 そんな中、 163 00:07:03,413 --> 00:07:05,612 キリストが処刑の時に被らされていた 164 00:07:05,612 --> 00:07:10,051 荊(いばら)の一部部分と信じられていた 聖荊(せいけい)に触れたことで 165 00:07:10,051 --> 00:07:13,850 なんと!マルグリットの涙嚢炎が 完治してしまったというのです。 166 00:07:13,850 --> 00:07:16,695 嘘か誠か 実際のところは分かりませんが、 167 00:07:16,695 --> 00:07:18,974 これは後に、「聖荊(せいけい)の奇跡」と呼ばれ、 168 00:07:18,974 --> 00:07:22,641 当時の宗教界を揺るがすほどの 大事件となったそうです。 169 00:07:22,641 --> 00:07:26,582 パスカルは、自分と血縁関係にある 姪っ子に起こった奇跡に、 170 00:07:26,582 --> 00:07:31,301 凄まじい衝撃を受けると共に その思想を確固たるものとします。 171 00:07:31,575 --> 00:07:34,529 そして、自分の知性と全生命力をかけて、 172 00:07:34,529 --> 00:07:38,579 キリスト教信仰の 正当性を訴える為の作品を書き、 173 00:07:38,579 --> 00:07:41,497 「理性が猛威を振るう時代にぶつけてやる!」と、 174 00:07:41,497 --> 00:07:43,012 一大決心をするのです。 175 00:07:43,012 --> 00:07:46,629 そんな執念をもって 原稿を書き上げていったパスカルですが、 176 00:07:46,629 --> 00:07:48,921 なんと!完成に至る前に 177 00:07:48,921 --> 00:07:52,282 39歳という若さで亡くなってしまいます。 178 00:07:52,282 --> 00:07:56,119 さぞかし無念であったと思われますが、 唯一の救いは、 179 00:07:56,119 --> 00:07:59,922 彼の施策がびっしり書き込まれた 文章の断片だけは、 180 00:07:59,922 --> 00:08:01,582 キレイに残っていたのです。 181 00:08:01,582 --> 00:08:03,927 そこで、遺族たちが中心となって 182 00:08:03,927 --> 00:08:07,214 パスカルの意志が宿った文章の欠片を繋ぎ合わせ 183 00:08:07,214 --> 00:08:10,492 未完に終わった幻の著作に編集を施し、 184 00:08:10,492 --> 00:08:12,659 命を吹き込むことに成功します。 185 00:08:12,659 --> 00:08:16,820 それが、これから皆さまと一緒に読んでいく [パンセ]という作品なのです。 186 00:08:16,820 --> 00:08:18,473 因みに「パンセ」というのは、 187 00:08:18,473 --> 00:08:20,496 「思考」とか、 「思索」を意味する 188 00:08:20,496 --> 00:08:21,600 フランス語です。 189 00:08:21,600 --> 00:08:23,522 この作品は前後の繫がりのない 190 00:08:23,522 --> 00:08:26,176 断片的な文章の集合体なのですが、 191 00:08:26,176 --> 00:08:27,781 パスカルの人間観察と 192 00:08:27,781 --> 00:08:30,620 キリスト教信仰にまつわる記述というように、 193 00:08:30,620 --> 00:08:32,736 大きく2つに分けることができます。 194 00:08:32,736 --> 00:08:35,427 ただ、この動画では冒頭に申し上げましたように 195 00:08:35,427 --> 00:08:37,094 前者に焦点を当て 196 00:08:37,094 --> 00:08:38,681 [人間最大の悪徳] 197 00:08:38,681 --> 00:08:40,389 [他者に認められたい心] 198 00:08:40,389 --> 00:08:42,356 [不幸を生み出すものの正体] 199 00:08:42,356 --> 00:08:45,462 という、3つのテーマに沿って 進めて参りたいと思います。 200 00:08:45,462 --> 00:08:47,302 では、早速1つ目のテーマ。 201 00:08:47,302 --> 00:08:50,188 [人間最大の悪徳]から見ていきましょう。 202 00:08:50,188 --> 00:08:54,024 自分しか愛さず、 自分しか尊敬しないこと。 203 00:08:54,024 --> 00:08:57,379 それが自己愛の本質であり、 「自我」の本質である。 204 00:08:57,379 --> 00:09:00,843 偉大な人間でありたいが、 実際は取るに足りない。 205 00:09:00,843 --> 00:09:04,613 幸福な人間でありたいが、 実際は惨めである。 206 00:09:04,902 --> 00:09:10,005 愛と尊敬の対象でありたいが、実際は 「嫌悪」と「侮蔑」の対象である。 207 00:09:10,240 --> 00:09:12,516 こういった困惑した状況は、 208 00:09:12,516 --> 00:09:14,358 人間の心の中に 209 00:09:14,358 --> 00:09:15,882 あるモノを生み出す。 210 00:09:15,882 --> 00:09:19,315 それは、最も不正で 最も罪深い情念だ。 211 00:09:19,315 --> 00:09:23,079 こういった状態に置かれた人間は、 自分自身を責め、 212 00:09:23,079 --> 00:09:28,262 自分の欠点を露わにする真実に対して、 極度の憎しみを抱く。 213 00:09:28,262 --> 00:09:32,274 そして、この真実を ”握りつぶしてやりたい!” と願うのだ。 214 00:09:32,274 --> 00:09:36,118 しかし、真実は真実であり、 それが消えることもなければ 215 00:09:36,118 --> 00:09:38,598 他のものに 置き換わったりすることもない。 216 00:09:38,598 --> 00:09:42,932 そこで人間は、その真実に対し どんな行動をとるかと言えば、 217 00:09:42,932 --> 00:09:47,601 自分と他人の知る限りにおいて、 それを破壊しようと試みる。 218 00:09:47,601 --> 00:09:50,630 つまり、自分の欠点を 他人に知られないように、 219 00:09:50,630 --> 00:09:52,951 必死で覆い隠そうとするのだ。 220 00:09:52,951 --> 00:09:57,028 人間というのは、自分の欠点を 誰かに指摘されることを嫌うし、 221 00:09:57,028 --> 00:10:00,290 人に見破られてしまうのも 耐えられない生き物だ。 222 00:10:00,290 --> 00:10:03,227 確かに、欠点ばかりであることは悪いことだが、 223 00:10:03,227 --> 00:10:07,021 そのことを認めない態度は、 それ以上に悪いことだ。 224 00:10:07,021 --> 00:10:08,898 なぜなら、悪いことの上に、 225 00:10:08,898 --> 00:10:11,738 更に意図的な誤魔化しを 加えているからだ。 226 00:10:11,738 --> 00:10:14,747 誰だって他人に騙されたら 嫌な気持ちがするだろう。 227 00:10:14,747 --> 00:10:18,976 例えば、あなたの知り合いで、 自分を本来の実力以上に見せかけ 228 00:10:18,976 --> 00:10:22,748 より多くの尊敬を集めたい、と 願っている人が居たらどうだろう。 229 00:10:22,748 --> 00:10:25,375 それを正しい態度であると、感じるだろうか。 230 00:10:25,375 --> 00:10:27,375 少なくとも、私はそうは思わない。 231 00:10:27,375 --> 00:10:29,809 それならば、私たちが他人を騙し、 232 00:10:29,809 --> 00:10:31,977 本来の自分よりも大きく見せて、 233 00:10:31,977 --> 00:10:35,477 評価を上げようとすることは、 正しい態度ではないのだ。 234 00:10:35,477 --> 00:10:36,769 はい!ここで止めます。 235 00:10:36,769 --> 00:10:40,542 [人間にとって、最大の悪徳は 「自己愛」である] 236 00:10:40,542 --> 00:10:42,788 これが、パスカルの出した結論です。 237 00:10:42,788 --> 00:10:45,632 では、そもそも「自己愛」とは 何なんでしょうか? 238 00:10:45,632 --> 00:10:47,876 それは、自分だけを愛し、 239 00:10:47,876 --> 00:10:50,891 自分だけを尊敬しようとする 態度のことです。 240 00:10:50,891 --> 00:10:53,339 そして、自己愛の中心にあるもの。 241 00:10:53,339 --> 00:10:55,825 それが「自我」なのだ、と言っているんです。 242 00:10:55,825 --> 00:10:58,816 つまり、人間は誰しも 「自我」を持っている以上、 243 00:10:58,816 --> 00:11:00,549 最大の悪徳である 244 00:11:00,549 --> 00:11:03,852 「自己愛」を抱えながら生きている ということになります。 245 00:11:03,852 --> 00:11:05,800 ただ大事なのは、ここからです。 246 00:11:05,800 --> 00:11:07,485 パスカルは、別の断章で 247 00:11:07,485 --> 00:11:10,875 [自我は憎むべきもの]であると 主張しているんです。 248 00:11:10,875 --> 00:11:12,889 自我は憎むべきもの... 249 00:11:12,889 --> 00:11:15,603 ちょっと何が言いたいのか 分かりにくいですねぇ。 250 00:11:15,603 --> 00:11:16,920 彼の理屈によると、 251 00:11:16,920 --> 00:11:19,728 どうやら自我は、 2つの性質があるようです。 252 00:11:19,728 --> 00:11:20,599 ひとつが 253 00:11:20,599 --> 00:11:24,602 [1.自分を全ての物事の中心にしようとする] 点です。 254 00:11:24,602 --> 00:11:26,746 要するに、自我の働きによって 255 00:11:26,746 --> 00:11:30,777 自己中心的な考えや態度を とってしまうというわけです。 256 00:11:30,777 --> 00:11:34,446 ただ、神の存在を中心に 考えているパスカルにとって、 257 00:11:34,446 --> 00:11:38,977 こういった自己中心的な性質を持つ自我は、 ハッキリ言ってしまえば、 258 00:11:38,977 --> 00:11:43,578 信仰の障害物であり、 あまり歓迎できるものではないのです。 259 00:11:43,578 --> 00:11:45,249 ですから、彼は自我を 260 00:11:45,249 --> 00:11:50,510 それ自体が不正なものであると、 たいへん厳しい言葉で表現したわけです。 261 00:11:50,510 --> 00:11:52,844 そして、自我のもうひとつの性質は、 262 00:11:52,844 --> 00:11:55,024 [2.他人を従わせようとする]点です。 263 00:11:55,024 --> 00:11:57,887 例えば、誰かにマウンティングされてしまったら 264 00:11:57,887 --> 00:12:00,150 とても嫌な気持ちがすると思います。 265 00:12:00,150 --> 00:12:03,609 つまり、自我は他人に対いて暴君になろうとする 266 00:12:03,609 --> 00:12:06,633 不快な性質をもつものだ、というわけです。 267 00:12:06,633 --> 00:12:08,532 このような理由からパスカルは、 268 00:12:08,532 --> 00:12:11,505 自我を憎むべき対象として捉えていたのです。 269 00:12:11,505 --> 00:12:12,510 ただ、どうでしょう。 270 00:12:12,510 --> 00:12:14,910 確かにそういった自我を丸出しにして、 271 00:12:14,910 --> 00:12:17,750 人を不快にさせてしまう方も 居るかもしれませんが、 272 00:12:17,750 --> 00:12:19,237 余計な自我を抑えて、 273 00:12:19,237 --> 00:12:22,894 他者に対して、親切な 行動がとれる人だっているわけです。 274 00:12:22,894 --> 00:12:27,680 ですから、自我を憎めというのは、 流石に表現としては、言い過ぎではないかと 275 00:12:27,680 --> 00:12:30,591 そのように思われた方も いらっしゃるのではないでしょうか。 276 00:12:30,591 --> 00:12:32,559 ただ、余計な自我を抑えて、 277 00:12:32,559 --> 00:12:35,584 他人を思いやる親切な行動をとったとしても 278 00:12:35,584 --> 00:12:37,913 それは、不快なものを取り除いたに過ぎず、 279 00:12:37,913 --> 00:12:40,781 自我そのものが、不正であることには変わりはない 280 00:12:40,781 --> 00:12:42,998 というのがパスカルの考えなんです。 281 00:12:42,998 --> 00:12:45,043 さらに言うと、自我を抑えて 282 00:12:45,043 --> 00:12:47,764 他人を思いやる親切な行動をとったとしても 283 00:12:47,764 --> 00:12:50,947 それは、他人によく思われたい虚栄心であって、 284 00:12:50,947 --> 00:12:52,988 その虚栄心を突き詰めていけば、 285 00:12:52,988 --> 00:12:55,659 結局は、他者からの評価を意識しているので 286 00:12:55,659 --> 00:13:00,049 根本にあるのは、結局「自己愛」じゃないかと そのように言われてしまうのです。 287 00:13:00,049 --> 00:13:02,998 このようにパスカルは、人間の本質を鋭く突き 288 00:13:02,998 --> 00:13:05,834 読者に何とも言えない内省を 迫って来るのです。 289 00:13:05,834 --> 00:13:08,209 では、人が他人に「認められたい」とか、 290 00:13:08,209 --> 00:13:11,596 「褒められたい」と思うことは、 果たして悪い事なんでしょうか。 291 00:13:11,596 --> 00:13:14,169 また人間は、虚栄心を捨てるべきだと 292 00:13:14,169 --> 00:13:16,672 パスカルはそのような主張を しているのでしょうか。 293 00:13:17,161 --> 00:13:18,928 それでは、ふたつ目のテーマである 294 00:13:18,928 --> 00:13:21,293 [他者に認められたい心]に移り 295 00:13:21,293 --> 00:13:23,263 彼の本心を探っていきましょう。 296 00:13:23,263 --> 00:13:26,636 人間の思い上がりというのは、 厄介なものだ。 297 00:13:26,636 --> 00:13:29,658 全世界の人間に、自分のことを知って貰いたい。 298 00:13:29,658 --> 00:13:31,817 更には、自分が死んだ後も 299 00:13:31,817 --> 00:13:34,477 自分のことを知られていたい と願っているのだ。 300 00:13:34,477 --> 00:13:39,712 にも拘わらず、自分の周りにいる 5,6人に評価されるだけで満足してしまう 301 00:13:39,712 --> 00:13:41,854 実に軽薄な生き物じゃないか。 302 00:13:41,854 --> 00:13:44,276 人間は、誰しも虚栄心を持っている。 303 00:13:44,276 --> 00:13:47,257 兵士も、料理人も、湾岸で働く労働者も 304 00:13:47,257 --> 00:13:48,999 それぞれ自慢ばかりして、 305 00:13:48,999 --> 00:13:51,310 自分を褒めてくれる人間を欲しがっている。 306 00:13:51,310 --> 00:13:54,006 哲学者だって、賞賛してくれる人が欲しいし 307 00:13:54,006 --> 00:13:57,699 批判を書くような人も 批判が的確だと褒められたいし、 308 00:13:57,699 --> 00:14:01,616 更に、その批判を読んだ者も それを読んだことを褒められたがっている。 309 00:14:01,616 --> 00:14:04,154 これを書いている、私だって同じだ。 310 00:14:04,154 --> 00:14:06,793 心の何処かで、 そうした願望を持っている。 311 00:14:06,998 --> 00:14:09,591 また、人間の好奇心も私に言わせれば、 312 00:14:09,591 --> 00:14:11,852 大抵は、虚栄心によるものだ。 313 00:14:11,852 --> 00:14:14,489 人が何かを知りたがるのは何のためだ。 314 00:14:14,489 --> 00:14:16,738 それについて誰かに話すためだろう。 315 00:14:16,738 --> 00:14:19,035 さもなければ、遠い海の果てまで 316 00:14:19,035 --> 00:14:21,820 大航海の旅に出ようなんて誰も思わない。 317 00:14:21,820 --> 00:14:24,322 自分が見たこと、自分が聞いたこと。 318 00:14:24,322 --> 00:14:26,410 それをいつか人に伝えたい。 319 00:14:26,410 --> 00:14:30,532 そういった希望もないままに、 ただ純粋な楽しみだけで、 320 00:14:30,532 --> 00:14:32,730 好奇心など広がるはずはないのだ。 321 00:14:32,730 --> 00:14:36,502 人間の最大の卑しさというのは、 名誉の追求だ。 322 00:14:36,502 --> 00:14:38,096 しかし、裏を返せば 323 00:14:38,096 --> 00:14:41,608 それは人間の優秀さを示す 最大の印でもある。 324 00:14:41,608 --> 00:14:44,422 この世界にどれほどの 所有物を持っていようが、 325 00:14:44,422 --> 00:14:47,956 どれほど健康で 快適な生活に恵まれていようが、 326 00:14:47,956 --> 00:14:52,438 他者からの尊敬が手に入らない限り 人間は何処までも満足しない。 327 00:14:52,438 --> 00:14:56,122 何をもってしても この欲望から逃げ切ることはできないのだ。 328 00:14:56,122 --> 00:15:00,100 これこそ、人間の心の 最も消し難い性質と言えるだろう。 329 00:15:00,100 --> 00:15:01,329 はい!ここで止めます。 330 00:15:01,329 --> 00:15:05,512 つまりパスカルは、人間のもつ「虚栄心」や 「承認欲求」そのものを 331 00:15:05,512 --> 00:15:07,658 全否定しているわけではないのです。 332 00:15:07,658 --> 00:15:12,473 それによって新しい技術を発明したり、 文明を発展させたりすることで、 333 00:15:12,473 --> 00:15:15,866 人類は進歩してきましたし、 それは事実なのです。 334 00:15:15,866 --> 00:15:19,892 ですから、虚栄心は 人間の「卑しさ」の象徴であると同時に 335 00:15:19,892 --> 00:15:22,808 「優秀さ」の象徴でもある説き、その上で、 336 00:15:22,808 --> 00:15:26,302 [人間の心の最も消し難い性質] と言っているんです。 337 00:15:26,302 --> 00:15:29,853 つまり、虚栄心というのは、 純粋な「善」でも「悪」でもなく 338 00:15:29,853 --> 00:15:32,471 受け入れるべき人間の 性(サガ)と言えるわけです。 339 00:15:32,471 --> 00:15:35,384 ただ、ここまでの話しを あらためて振り返ってみますと、 340 00:15:35,384 --> 00:15:37,875 人間は、何処まで行っても心が晴れない 341 00:15:37,875 --> 00:15:40,890 不幸で虚しい存在であるように 思えてしまいます。 342 00:15:40,890 --> 00:15:44,619 では、パスカルは一体、 人間の「幸・不幸」について 343 00:15:44,619 --> 00:15:47,030 どのような考えをもっていたのでしょうか。 344 00:15:47,403 --> 00:15:48,703 それでは、3つ目のテーマ。 345 00:15:48,703 --> 00:15:51,483 [不幸を生み出すものの正体]について 見ていきましょう。 346 00:15:51,483 --> 00:15:53,273 人間の不幸の全ては、 347 00:15:53,273 --> 00:15:56,114 ただ一つのことに由来するものと思われる。 348 00:15:56,114 --> 00:15:57,359 それは、すなわち 349 00:15:57,359 --> 00:16:00,471 部屋の中で、ひとり静かに 留まっていられないことだ。 350 00:16:00,471 --> 00:16:02,475 一生遊んで暮らせるだけの 351 00:16:02,475 --> 00:16:05,779 十分な財産を持っている 国の権力者を見てみるがいい。 352 00:16:05,779 --> 00:16:08,513 なぜ彼は、わざわざ海を越えたり、 353 00:16:08,513 --> 00:16:10,547 戦に出かけたりするのだろうか。 354 00:16:10,547 --> 00:16:12,926 それは、彼が自分の家の中で、 355 00:16:12,926 --> 00:16:16,077 ただジッとしているのが 苦痛で堪らないからだ。 356 00:16:16,077 --> 00:16:18,068 社交の場に足を運ぶこと。 357 00:16:18,068 --> 00:16:19,265 ギャンブルをすること。 358 00:16:19,265 --> 00:16:21,586 こういった気晴らしを一切求めず、 359 00:16:21,586 --> 00:16:24,029 ただ、家の中でジッとしていたところで、 360 00:16:24,029 --> 00:16:26,002 人間の心は満たされない。 361 00:16:26,002 --> 00:16:28,339 たとえ、一国の王であったとしても 362 00:16:28,339 --> 00:16:31,876 何の気晴らしもなければ、 今後、起こりうる反乱や 363 00:16:31,876 --> 00:16:34,284 避けることのできない「病」や「死」といった 364 00:16:34,284 --> 00:16:37,134 余計なことばかりが 頭に浮かんできてしまうだろう。 365 00:16:37,134 --> 00:16:39,896 つまり、「気を紛らわす」 という 行為が無ければ、 366 00:16:39,896 --> 00:16:43,224 「王」という、最高に 恵まれた地位にいる人間であっても 367 00:16:43,224 --> 00:16:44,895 たちまち不幸になる。 368 00:16:44,895 --> 00:16:46,669 自由に賭け事をしたり、 369 00:16:46,669 --> 00:16:49,529 気を紛らわしたりできる 最下層の家来よりも 370 00:16:49,529 --> 00:16:51,409 最上位にいる王の方が 371 00:16:51,409 --> 00:16:53,149 よっぽど不幸になってしまうのだ。 372 00:16:53,149 --> 00:16:57,106 だから人間活動の中には、 賭け事とか、誰かとの会話、 373 00:16:57,106 --> 00:17:02,528 戦争、名誉ある職の追求といったことが こんなにも求められるのである。 374 00:17:02,528 --> 00:17:07,258 ただ、こういった行動ひとつひとつに 幸福の源泉があるわけではない。 375 00:17:07,258 --> 00:17:08,645 真の幸福とは、 376 00:17:08,645 --> 00:17:10,906 賭け事で儲ける金でもなければ 377 00:17:10,906 --> 00:17:13,556 狩りによって 獲物を得ることでもないのだ。 378 00:17:13,556 --> 00:17:16,760 何の苦労もせず「ホラッ、くれてやる」 と言われたところで、 379 00:17:16,760 --> 00:17:18,839 心は決して満たされないだろう。 380 00:17:18,839 --> 00:17:20,459 人間が求めるのは、 381 00:17:20,459 --> 00:17:23,326 不幸な状態が頭に浮かんできてしまうような 382 00:17:23,326 --> 00:17:25,320 のんびりとした時間ではない。 383 00:17:25,320 --> 00:17:27,446 ただ、自分の不幸を忘れさせ 384 00:17:27,446 --> 00:17:29,014 気を紛らわせてくれる 385 00:17:29,014 --> 00:17:31,123 「騒ぎ」を求めているのである。 386 00:17:31,123 --> 00:17:32,347 はい!ここで止めます。 387 00:17:32,347 --> 00:17:35,410 家の中でやることがなく、 ジッとひとりでいると、 388 00:17:35,410 --> 00:17:38,568 人間は余計なことを考え、その結果、 389 00:17:38,568 --> 00:17:40,298 不幸な状態に陥ってしまう。 390 00:17:40,298 --> 00:17:41,958 これがパスカルの考えです。 391 00:17:41,958 --> 00:17:43,593 確かに暇すぎると、 392 00:17:43,593 --> 00:17:46,054 思い出したくない人の顔が浮かんできたり、 393 00:17:46,054 --> 00:17:47,785 将来のことが不安になったり、 394 00:17:47,785 --> 00:17:50,938 過ちを犯した自分を責めたり、恥じたり、 395 00:17:50,938 --> 00:17:53,456 何かとネガティブモードに なってしまいがちです。 396 00:17:53,456 --> 00:17:54,651 ただ、パスカルは 397 00:17:54,651 --> 00:17:56,338 これは、あなただけじゃなくて、 398 00:17:56,338 --> 00:17:59,284 王様だって、誰だって 人間みんな同じなんだよと 399 00:17:59,284 --> 00:18:00,336 そう言っていました。 400 00:18:00,336 --> 00:18:02,573 そこでパスカルは、その解決策として 401 00:18:02,573 --> 00:18:06,892 自分の気を紛らわす 気晴らしの必要性を説いていました。 402 00:18:06,892 --> 00:18:08,894 ただ、彼の言っている「気晴らし」というのは、 403 00:18:08,894 --> 00:18:12,607 ストレス解消の娯楽だけを 指しているのではありません。 404 00:18:12,607 --> 00:18:14,449 会社やバイト先に行って、 405 00:18:14,449 --> 00:18:16,615 一生懸命、仕事をすること。 406 00:18:16,615 --> 00:18:19,088 家の中で、テキパキと家事を行うこと。 407 00:18:19,088 --> 00:18:23,190 こういった活動も含めて、パスカルは 「気晴らし」と呼んでいるんです。 408 00:18:23,190 --> 00:18:25,521 つまり、何か作業に没頭し、 409 00:18:25,521 --> 00:18:28,392 自分の意識が不幸な状態に向かないよう、 410 00:18:28,392 --> 00:18:32,355 気持ちを紛れさせる活動全般を 彼は「気晴らし」と呼び、 411 00:18:32,355 --> 00:18:36,058 人間はこれなしでは、 生きて行けない存在なんだ、と説いたんです。 412 00:18:36,058 --> 00:18:37,716 ただ、話しはこれで終わりません。 413 00:18:37,716 --> 00:18:39,091 パスカルは本書で、 414 00:18:39,091 --> 00:18:42,010 気晴らしは人間を不幸から遠ざける為に、 415 00:18:42,010 --> 00:18:44,883 絶対に必要だという 主張を展開しておきながら 416 00:18:44,883 --> 00:18:46,347 また、違うところでは、 417 00:18:46,347 --> 00:18:51,044 気晴らしは、人間の悲惨さの 最たるものであるという主張もしているのです。 418 00:18:51,044 --> 00:18:54,850 ちょっと、混乱しそうですが、これは 一体どういうことでしょうか。 419 00:18:54,850 --> 00:18:56,034 結論から言いますと 420 00:18:56,034 --> 00:18:58,003 気晴らしは不幸から目を反らし、 421 00:18:58,003 --> 00:19:01,624 気持ちを紛れさせる、 という行動がある一方で、 422 00:19:01,624 --> 00:19:05,655 自分自身を冷静に顧みることを 忘れさせてしまうという、 423 00:19:05,655 --> 00:19:06,876 副作用もあるんです。 424 00:19:06,876 --> 00:19:09,414 例えば、朝から晩まで仕事漬け。 425 00:19:09,414 --> 00:19:11,885 或いは、ギャンブル漬けという生活でしたら 426 00:19:11,885 --> 00:19:15,284 確かに、余計なことを考える時間は 無いと言えます。 427 00:19:15,284 --> 00:19:19,172 ただ、それによって 自分と対話する余白まで無くなってしまい、 428 00:19:19,172 --> 00:19:22,489 その結果、新しい人生の可能性や 429 00:19:22,489 --> 00:19:25,495 方向性を見出だすチャンスを 失ってしまうのです。 430 00:19:25,495 --> 00:19:28,745 例えば、パスカルの人生を 思い出してみてください。 431 00:19:28,745 --> 00:19:30,634 彼は30歳手前まで、 432 00:19:30,634 --> 00:19:34,865 数学や自然科学の研究という 気晴らしに没頭していました。 433 00:19:35,100 --> 00:19:38,479 しかし、父親の死という 出来事によって余白が生まれ、 434 00:19:38,479 --> 00:19:41,633 それによって自分の人生を深く見つめ直し、 435 00:19:41,633 --> 00:19:44,489 哲学という新たな道が開かれたわけです。 436 00:19:44,489 --> 00:19:48,331 つまり、「どう生きるか」 という 人生の重要課題を発見するには、 437 00:19:48,331 --> 00:19:53,311 自分の人生を「気晴らし」だけで 埋め尽くしてはいけない、ということになるんです。 438 00:19:53,311 --> 00:19:55,092 ただ、ここまで言われてしまいますと、 439 00:19:55,092 --> 00:19:58,335 結局私たちは、 どうすればいいのですかと。 440 00:19:58,335 --> 00:20:00,919 何処にも逃げ道が ないじゃないですかと。 441 00:20:00,919 --> 00:20:02,815 そのように突っ込みたくなりますが、 442 00:20:02,815 --> 00:20:06,097 パスカルからしてみれば、 そういった読者の反応は 443 00:20:06,097 --> 00:20:07,612 想定の範囲内です。 444 00:20:07,612 --> 00:20:10,416 彼はこのあと、 更に考察を深めていき 445 00:20:10,416 --> 00:20:13,121 最終的に完全に出口を塞いだ上で、 446 00:20:13,121 --> 00:20:17,503 ホラッ!だから私たちは 「神を信じるしかないのですよ」と。 447 00:20:17,503 --> 00:20:21,234 読者を目的の場所まで誘う 設計になってるんです。 448 00:20:21,234 --> 00:20:22,379 ただ、この動画は、 449 00:20:22,379 --> 00:20:25,700 あくまで彼の人間観察に注目して 進めていますので、 450 00:20:25,700 --> 00:20:27,869 これ以上の深掘りは致しません。 451 00:20:27,869 --> 00:20:29,814 なので、このテーマの結論としては 452 00:20:29,814 --> 00:20:33,879 不幸を避けるための対抗手段として 「気晴らし」は有効でありますが、 453 00:20:33,879 --> 00:20:37,813 そればかりに偏ると、 自らを省みる時間が無くなるので 454 00:20:37,813 --> 00:20:41,034 注意しましょう、とういところを 落としどころにしたいと思います。 455 00:20:41,830 --> 00:20:44,140 3つのテーマに関しては、これでお終いです。 456 00:20:44,140 --> 00:20:46,132 最後にパスカルのあの名言。 457 00:20:46,132 --> 00:20:48,637 [人間は考える葦である] 458 00:20:48,637 --> 00:20:51,782 というフレーズが登場する パートに触れて終わりたいと思います。 459 00:20:51,782 --> 00:20:53,875 たいへん有名な言葉ですが、 460 00:20:53,875 --> 00:20:56,670 これには一体どんな意味が 込められているのでしょうか。 461 00:20:56,670 --> 00:20:58,261 では早速、みていきましょう。 462 00:20:58,261 --> 00:21:00,991 人間は一本の葦に過ぎない。 463 00:21:00,991 --> 00:21:04,083 自然の内で最もか弱いものだ。 464 00:21:04,083 --> 00:21:06,924 だが、それは考える葦だ。 465 00:21:06,924 --> 00:21:11,242 人間を押し潰すのに 宇宙全体が武装する必要はない。 466 00:21:11,242 --> 00:21:12,652 「一吹きの蒸気」 467 00:21:12,652 --> 00:21:13,939 「一滴の水」 468 00:21:13,939 --> 00:21:16,796 それだけで、人間を殺すのには十分だ。 469 00:21:16,796 --> 00:21:19,400 しかし、宇宙に押し潰されようとも 470 00:21:19,400 --> 00:21:22,320 人間は自分を殺すものよりも更に尊い。 471 00:21:22,320 --> 00:21:23,859 なぜなら人間は、 472 00:21:23,859 --> 00:21:26,943 自分がいずれ死ぬことを知っているからだ。 473 00:21:26,943 --> 00:21:29,857 また、自分よりも宇宙の方が大きく、 474 00:21:29,857 --> 00:21:33,107 優位な存在であることを分かっているからだ。 475 00:21:33,107 --> 00:21:36,129 しかし、宇宙は そんなことを考えたりはしない。 476 00:21:36,475 --> 00:21:39,033 つまり、私たちの尊厳の根拠というのは、 477 00:21:39,033 --> 00:21:42,394 この、「考える」という 行為の内にあるものなのだ。 478 00:21:42,394 --> 00:21:44,781 だから、よく考えることに努めよう。 479 00:21:44,781 --> 00:21:46,541 ここに、「道徳の原理」がある。 480 00:21:46,541 --> 00:21:47,767 はい!ここで止めます。 481 00:21:47,767 --> 00:21:51,008 言ってることが分かるようで 分からないパートですが、 482 00:21:51,008 --> 00:21:55,392 先に申し上げておきますと、 人間はほかの動植物と違って、 483 00:21:55,392 --> 00:22:01,120 「考える」という機能が付いているから 尊い存在なのだ、という意味ではありません。 484 00:22:01,120 --> 00:22:03,603 ここはよく、誤解されるポイントになります。 485 00:22:03,603 --> 00:22:06,885 実は、このパートとは別にパスカルは、 [パンセ]の中で、 486 00:22:06,885 --> 00:22:08,174 次のように述べています。 487 00:22:08,174 --> 00:22:12,251 人間というものは、どう見ても 考えるために作られている。 488 00:22:12,251 --> 00:22:15,775 考えることが人間の尊厳の全てなのだ。 489 00:22:15,775 --> 00:22:19,370 人間の価値の全て、その義務の全ては、 490 00:22:19,370 --> 00:22:21,272 正しく考えることにある。 491 00:22:21,272 --> 00:22:22,667 はい、どうでしょう。 492 00:22:22,667 --> 00:22:26,432 要するに、何でもかんでも考えていれば それでよし!という訳ではなく、 493 00:22:26,432 --> 00:22:29,646 人間の価値の全て、義務の全ては 494 00:22:29,646 --> 00:22:34,646 「正しく考えることにある」と、 パスカルはそう言っているんです。 495 00:22:34,646 --> 00:22:37,472 では、「正しく考える」とは 何なんでしょうか。 496 00:22:37,472 --> 00:22:39,093 それは、自分の人生に 497 00:22:39,093 --> 00:22:41,444 いつか終わりの時間がやって来るという、 498 00:22:41,444 --> 00:22:44,177 悲惨な運命を自覚し、その上で、 499 00:22:44,177 --> 00:22:46,235 今の自分のあるべき姿や 500 00:22:46,235 --> 00:22:49,437 これからの自分の生き方について考えること。 501 00:22:49,437 --> 00:22:53,452 それが彼の言っている 「正しい思考の働かせ方」であり、 502 00:22:53,452 --> 00:22:54,817 その中にこそ、 503 00:22:54,817 --> 00:22:57,971 人間の尊厳の根拠があるのだ と言っているんです。 504 00:22:57,971 --> 00:23:00,121 つまり、思考ができる人間を 505 00:23:00,121 --> 00:23:02,895 ただ、「素晴らしい」と 謳っているわけではないのです。 506 00:23:02,895 --> 00:23:05,246 それどころか、パスカルは本書の中で、 507 00:23:05,246 --> 00:23:08,579 多くの人は、自分たちの背負っている運命を忘れ 508 00:23:08,579 --> 00:23:12,309 正しく思考を働かせていないと、 嘆いているんです。 509 00:23:12,618 --> 00:23:15,271 つまり、「人間は考える葦である」 という 510 00:23:15,271 --> 00:23:16,354 言葉の中には 511 00:23:16,354 --> 00:23:19,968 正しい思考を手放してしまった 人間に対する「警告」と 512 00:23:19,968 --> 00:23:24,775 本来の尊厳を取り戻して欲しい、という 「期待」が込められていたというわけです。 513 00:23:24,775 --> 00:23:26,310 人はどうあるべきで、 514 00:23:26,310 --> 00:23:28,543 そして、どう生きるべきなのでしょうか。 515 00:23:28,543 --> 00:23:31,577 パスカルは、一本の葦に過ぎない人間に 516 00:23:31,577 --> 00:23:32,596 今もそうやって 517 00:23:32,596 --> 00:23:34,365 問いを投げ続けているのです。 518 00:23:35,019 --> 00:23:38,186 というわけで、パスカルの[パンセ] 以上でございます。 519 00:23:38,186 --> 00:23:39,558 いかがでしたでしょうか。 520 00:23:39,558 --> 00:23:42,408 前回紹介いたしました[思考の整理学]は、 521 00:23:42,408 --> 00:23:46,070 「考えることの楽しさを知って貰う」 というテーマでした。 522 00:23:46,268 --> 00:23:49,537 なので今回は、 「考えること」そのものを考え 523 00:23:49,537 --> 00:23:51,658 つまり、人間にとって「考える」って、 524 00:23:51,658 --> 00:23:54,785 どういうことなんだろうという 問いを投げかけてくれる、 525 00:23:54,785 --> 00:23:57,618 そんな哲学の古典的名作を選んでみました。 526 00:23:57,618 --> 00:24:00,173 ご興味のある方は是非、 チェックしてみてください。 527 00:24:00,173 --> 00:24:04,214 面白かった、参考になったという方は 高評価・コメントなどいただけますと嬉しいです。 528 00:24:04,214 --> 00:24:06,698 また、チャンネル登録も よろしくお願い致します。 529 00:24:06,698 --> 00:24:08,773 ではまた、次の動画でお会い致しましょう。 530 00:24:08,773 --> 00:24:09,922 ありがとうございました。