私たちの社会で癌の影響を 受けていない人はいません 個人的にでなければ 愛する人や家族 同僚や友人を通して 影響を受けています そして一旦癌が身近になると すぐに分かりますが 癌と闘う武器 または手段としてあるのは 基本的に3つ 手術・放射線療法・化学療法です さらに自分自身のためであろうが 愛する人や家族に付き添ってであろうが 一旦 治療法の決断に関わると これらの手段の 利点や代償そして限界について すぐに学ぶことになります 今日はジェイやマークそして TEDMEDチームに招いてもらい 新しい手段である4つ目の武器 腫瘍治療電場(TTF)について 説明できることに 非常に感謝しています これはイスラエル工科大学の名誉教授 ヨーラム・パルティ博士によって 発明された治療法で 低強度の 電場を使用して 癌と闘います TTFがどう作用するか理解するには 最初に電場とは何かを 理解する必要があります まずいくつかの一般的な 誤解について説明させてください まず電場は 組織間を流れる 電流ではありません 電場は X線や陽子ビームのような 電離放射線でもないので 組織に衝撃を加えて DNAを崩壊させたりもしません また電場は 磁気ではありません 電場が何かと言うと 力の場なのです そしてこれらの力は 電荷を持つものを 引き寄せて作用します 電場を想像するのに一番いいのは 重力について考えることです 重力も力の場であり 質量に対して作用します 宇宙にいる宇宙飛行士を想像してください 力の働きを受けずに 三次元を自由に浮いています でもスペースシャトルが 地球に戻り 宇宙飛行士が地球の重力場に入ると 重力の影響を受け始め 地球に引き寄せられます 着陸すると 完全に重力場と一致します 当然私たちは皆 地球の重力場に縛られた状態です 椅子に座っていられるのはそのおかげです 筋肉のエネルギーを使わないと 立ち上がったり歩き回ったり 物を持ち上げたりできないのも このためです 癌になると その細胞は急速に分裂し 制御不能な腫瘍の増殖につながります 細胞のことをミニ宇宙ステーションにたとえて 電気的観点から 考えることができます その宇宙ステーションには 核内に遺伝物質である 染色体があります さらに外側の細胞質のスープには 細胞分裂に必要な 特殊なタンパク質が 浮かんでどちらの方向へも 自由に動いています 重要なポイントは これらの特殊なタンパク質は 人体にある最も強い電荷を持つ物質の 1群だということです 細胞分裂が開始すると 核の構造が失われ 染色体が細胞の 中心に並びます そして これらの特殊なタンパク質は 上下左右に並び 文字通り 端から端までつながって 鎖を形成します これらの鎖は 延長して 遺伝物質へつながり 遺伝物質を1つの細胞から 2つの細胞へと引っ張って分けます これがまさに 1つの癌細胞が2つになり 2つの癌細胞が4つになり 最終的に制御不可能な 腫瘍の増殖となる仕組みです TTFは 電場発生装置に接続された トランスデューサを 体外に配置し その宇宙ステーションに作用する 人工的な電場を作ります そしてその細胞の宇宙ステーションが 電場内に入ると電場は 強い電荷を持つタンパク質に作用し 整列させます そしてタンパク質が鎖を 形成するのを防ぎます これらの紡錘体は 遺伝物質を娘細胞へ分離させるために 必要なものです どうなるかと言うと 数時間にわたり 細胞は分裂を試みますが 2通りの結果のどちらかになります いわゆる細胞の自殺である プログラム細胞死となるか または一旦分裂しても 不全な娘細胞を形成し アポトーシスを起こすかです 実際に見ることができます これからお見せするのは 試験管内実験の2つです これは子宮頸癌細胞を全く同様に 培養したものです これらの培養細胞は緑の蛍光を 発するようにしてあります 鎖を形成するタンパク質を 観察できるようにするためです 最初のビデオは TTFを使用しない 正常な細胞分裂です まず気づくのは 培養細胞が非常に活発なことです たくさん分裂しています そして一旦分裂した細胞の核は はっきりしています また 絶え間ない分裂が見えます ここに電場を作用させると― もちろん同様の細胞培養に 同一の時間尺度です― 違った様子が見えてきます 細胞は分裂するために丸まります その状態であまり動かなくなります 2つの細胞が 分裂しようとしているのが— 画面の上部に見えます 丸で囲まれた細胞は なんとか分裂します でもいかに多くのタンパク質が 核全体に分散しているか見てください 分裂中の細胞でもそうです 上にある細胞は分裂すらできません さらにこのように膜が泡状になるのが この細胞に見られる アポトーシスの特徴です 健全な紡錘体の形成は どのような種類の細胞の分裂においても 必要です 研究所では20種類以上の 癌細胞を対象にTTFを適用しましたが この効果は すべてのケースで見られます さて重要なのは TTFは正常な分裂していない細胞には 何の影響も与えないことです 10年前 パルティ博士が自分の発見を 患者向けの実用的治療に発展させるため Novocureという会社を設立しました この10年でNovocureは 2つのシステムを開発しています 1つは頭部の癌のためのシステムで もう1つは体幹部の 癌のためのシステムです 我々が最初に焦点を当てた癌は 致命的な脳腫瘍である膠芽腫です 米国では毎年約1万人が 膠芽腫に侵されます 膠芽腫は死刑宣告です 5年間の予想生存率は 5%未満です さらに最適な治療法でも 一般的な膠芽腫患者は たったの1年少ししか生きられず 最初の癌の治療から わずか約7ヶ月で 再発しまた増殖し始めます Novocureは3回にわたり 第1相ランダム化臨床試験を 再発膠芽腫患者を対象に行いました つまりこれらの患者は すでに手術を受けて 大量の放射線も頭部に受け 初回化学療法を受けたが 効果がなく 再び腫瘍が増殖してしまった人たちです 患者を2つのグループに分けました 最初のグループは 2回目の化学療法を受けました これは全く治療しなかった場合と比べ 平均余命を倍にするとされています 次に2番目のグループは TTFだけの治療を受けました この試験で明らかになったのは 両方のグループの平均余命― つまり化学療法治療群と TTF治療群の平均余命は 同じということでした しかしポイントは TTF治療群は 化学療法患者の 典型的な副作用のいずれにも 悩まされることがなかったことです 全く痛みもなく 感染症も全く起こさず 化学療法に伴うとされる 嘔気・下痢・便秘・易疲労感なども ありませんでした この試験に基づき 今年の4月に 米食品医薬局がTTFを 再発膠芽腫患者対象の 治療法として承認しました しかも食品医薬局が 癌の治療の承認に QOLの申し立てを含めたのは これが初めてでした 今からこの試験の 被験者の1人を 紹介します ロベルト・ディル・ブンディは 有名なスイス人自転車競技チャンピオンです モスクワオリンピックで 4千メートル追い抜きの 金メダルを獲得しました そして5年前 ロバートは膠芽腫と診断されました 標準治療を受け 手術を受け 頭部に大量の放射線を受けました さらに初回化学療法も受けました この治療から1年後― これは彼の基準MRIです 右上に黒い領域が 見えますが これが手術した部位です この治療から1年後 彼の腫瘍は猛烈な勢いで再び増殖しました この白く曇った塊が 腫瘍の再発です この時点で彼は医者に 余命は約3ヶ月だと宣告され 我々の臨床試験に加わりました これは彼が治療を受けている様子です まず第一に これらの電極は非侵襲的です 腫瘍のある辺りの皮膚に 貼られています これは技術者が 絆創膏と同じ要領で 貼り付けているところです 患者はこれを自分で行えるよう学びます その後患者は 日常活動の何をしてもかまいません 全く疲労感はなく 化学療法のように 脳の働きの低下もありません なんの感触もなく コンピュータや電気機器に 干渉することもありません 治療は自宅で 継続的に行われ 定期的にも 継続的にも 病院に行く必要がありません これらはロバートのMRIです 再度言いますがTTFだけの治療です この治療は効果が現れるまで時間がかかり 着用している時だけ 効果のある医療機器です でも明らかなのは6ヶ月目までに 腫瘍に反応が見られ 小さくなり始めていることです 腫瘍はまだあります 12ヶ月目までに 端の方にまだほんの少し 残っているかもしれないですが ほぼ完全に無くなっています ロバートの診断が下ってから これで5年経ちましたが 彼はまだ生きています さらに大切なのは 元気に働いていることです このごく短いビデオで本人に 治療に対する印象を 彼自身の言葉で語ってもらいます (ビデオ) ロベルト:私の生活の質 私に今あるものについての 自己評価は多くの人が思うものとは ちょっと違います 私は本当に世界で一番幸せな人間です 毎朝私は人生に感謝しています 毎晩私は気持ちよく眠りにつきます 繰り返して言いますが私は 世界で最も幸せな男です そして生きていることに感謝しています ビル:Novocureは2つ目の対象として 肺癌にも取り組んでいます 第二相臨床試験を スイスで行いました こちらも再発患者対象で 標準治療を受けたが 癌が再発した患者たちです 別のビデオをお見せします リディアという女性のビデオです リディアはスイス在住の 66歳の農業従業者です 5年前に肺癌だと 診断されました 彼女は4種類の化学療法を 2年間に渡って行いましたが どれも効果がありませんでした 癌は増殖し続けました 3年前 Novocureの肺癌の治験に加わりました 彼女の場合は トランスデューサアレイを 胸と背中に1つずつ そして2つ目のセットを 肝臓の上に側腹から側腹へ 着用しているのが分かると思います TTFの発生器が見えますが 重要なのは 彼女が普通の生活をしていることです 農場を管理し 自分の子供や孫とふれあっています 我々が彼女に話を聞くと 「化学療法を受けていたときは 点滴のために毎月病院に 行かなくてはならず 副作用が起こって治るまで 家族全員が大変な思いをしましたが 今では自分の農場の活動すべてを 管理することができます」と言いました これはほんの始まりです (拍手) 実験上では化学療法とTTFの間に 大きな相乗効果があることが見られました 現在ハーバード大学医学部でこの効果を 最大限に高める最適な組み合わせを 見つける研究が進められています TTFは放射線と合わせても効果があり 細胞の自己修復メカニズムを 遮るだろうと見ています 今スウェーデンのカロリンスカで この仮説を証明するための 新しい研究計画が進行中です 他にも治験が計画されています 肺がん 膵臓がん 卵巣がん そして乳がんです 私が固く信じているのは 今後10年間で TTFは 最も治療が困難な固形腫瘍の すべてに対する武器として 医師と患者が利用できるものに なるだろうということです また私が非常に期待しているのは 今後数十年間で この疾患の大きな問題だった 死亡率を減少させることに 大幅に進歩をもたらすことです ありがとう (拍手)