1
00:00:07,176 --> 00:00:11,960
オーストリアの物理学者 E.シュレディンガーは
量子力学の立役者の一人ですが

2
00:00:11,960 --> 00:00:15,237
その名を有名にしたのは
実際には行われなかった実験でした:

3
00:00:15,237 --> 00:00:17,937
それはネコにまつわる思考実験です

4
00:00:17,937 --> 00:00:21,282
ネコを箱に入れて封印したとします
その際に―

5
00:00:21,282 --> 00:00:26,572
一定時間内に50%の確率で
ネコを殺してしまう装置を一緒に入れたとしたら

6
00:00:26,572 --> 00:00:30,418
最終的に「ネコの状態はどうなるだろうか？」と
問いかけたのです

7
00:00:30,418 --> 00:00:33,788
常識的に考えればネコは生きているか
死んでいるかのどちらかですが

8
00:00:33,788 --> 00:00:36,791
シュレディンガーによれば
量子力学に従うと

9
00:00:36,791 --> 00:00:42,421
箱を開けてみるまでは
ネコは生きていると同時に

10
00:00:42,421 --> 00:00:44,338
死んでいる状態だというのです

11
00:00:44,338 --> 00:00:48,302
箱を開けた時にのみ
その状態が確定します

12
00:00:48,302 --> 00:00:51,561
それまではネコの生死は
はっきりとせず確率的で

13
00:00:51,561 --> 00:00:54,230
半々の状態なのです

14
00:00:54,230 --> 00:00:56,965
そんなばかな
これがシュレディンガーの見解でした

15
00:00:56,965 --> 00:00:59,956
量子力学はあまりに
哲学的に矛盾しているとして

16
00:00:59,956 --> 00:01:02,768
自身が関わってきた
この学説を放棄して

17
00:01:02,768 --> 00:01:04,995
生物学に関する執筆へと
転じました

18
00:01:04,995 --> 00:01:08,949
ばかばかしく思えるかもしれませんが
シュレディンガーのネコは現実なのです

19
00:01:08,949 --> 00:01:10,610
実をいうと 欠かせないものなのです

20
00:01:10,610 --> 00:01:14,328
量子的な物体が同時に２つの状態で
あることが不可能だったとしたら

21
00:01:14,328 --> 00:01:18,575
今 レッスンを見ている
このコンピュータも存在しませんでした

22
00:01:18,575 --> 00:01:20,657
重ね合わせという量子現象は

23
00:01:20,657 --> 00:01:25,708
全てのものが持つ
波と粒子の二面性の結果です

24
00:01:25,708 --> 00:01:27,844
ある物質が波の性質を有するには

25
00:01:27,844 --> 00:01:30,299
空間的にある程度
広がっていなければなりません

26
00:01:30,299 --> 00:01:34,049
つまり 同時に複数の位置を
占めなくてはならないのです

27
00:01:34,049 --> 00:01:37,070
物質の波長はある程度の
空間までには限定されますが

28
00:01:37,070 --> 00:01:39,425
これを完全に定義することはできません

29
00:01:39,425 --> 00:01:43,425
つまり さまざまな波長で
同時に存在するのです

30
00:01:43,425 --> 00:01:46,459
日常の物質ではこの波動の特性を
目にすることはありません

31
00:01:46,459 --> 00:01:50,212
その理由は運動量が増加すると
波長は短くなるからで

32
00:01:50,212 --> 00:01:52,910
その点では ネコは大きくて
重すぎるのです

33
00:01:52,910 --> 00:01:57,129
１つの原子を太陽系の大きさに
膨らませたとすると

34
00:01:57,129 --> 00:01:59,653
物理学者から逃げる
ネコの波長は

35
00:01:59,653 --> 00:02:03,319
その太陽系内の原子と
同じぐらい小さくなってしまいます

36
00:02:03,319 --> 00:02:08,044
あまりに小さくて ネコの波動的ふるまいを
見ることはできません

37
00:02:08,044 --> 00:02:10,061
しかし 電子といった小さな粒子は

38
00:02:10,061 --> 00:02:13,398
この二重性の劇的な
証拠を示します

39
00:02:13,398 --> 00:02:18,602
電子を衝立に空けた２つの
細いスリットに向けて撃ち出すと

40
00:02:18,602 --> 00:02:23,912
各電子は粒子のように振舞い
ある瞬間に反対側の

41
00:02:23,912 --> 00:02:25,295
ある一点で検知されます

42
00:02:25,295 --> 00:02:27,533
しかし この実験を何度も繰り返して

43
00:02:27,533 --> 00:02:30,360
各粒子の軌跡を追跡していくと

44
00:02:30,360 --> 00:02:34,643
波動の特徴を示すパターンを示すのです

45
00:02:34,643 --> 00:02:37,373
一連の縞 ― これは
複数の電子の存在する場所と

46
00:02:37,373 --> 00:02:40,061
何もないところに分かれています

47
00:02:40,061 --> 00:02:42,867
片方のスリットを塞ぐと
この縞が無くなってしまいます

48
00:02:42,867 --> 00:02:47,692
それでこのパターンは各電子が同時に
双方のスリットを通り抜けた

49
00:02:47,692 --> 00:02:49,790
結果であることを示しています

50
00:02:49,790 --> 00:02:52,672
一つの電子が左右の行先を
選ぶのではありません

51
00:02:52,672 --> 00:02:56,076
左右同時に通り抜けるのです

52
00:02:56,076 --> 00:03:00,029
この重ね合わせの状態が
現代の技術へとつながります

53
00:03:00,029 --> 00:03:05,491
原子核の近くにある電子は広がりのある
波状の軌道に存在しています

54
00:03:05,491 --> 00:03:07,135
２つの原子を互いに近づけると

55
00:03:07,135 --> 00:03:10,416
電子は一方の原子に
属しているのではなく

56
00:03:10,416 --> 00:03:12,203
原子間で共有されます

57
00:03:12,203 --> 00:03:14,676
これが化学結合の仕方です

58
00:03:14,676 --> 00:03:21,059
ある分子の１電子は 原子Aまたは
原子Bではなく A+Bに属し

59
00:03:21,059 --> 00:03:23,875
原子をさらに追加していくと
電子はさらに広がってゆき

60
00:03:23,875 --> 00:03:27,342
数多くの原子間で
同時に共有されます

61
00:03:27,342 --> 00:03:30,643
固体の中の電子は特定の原子に
結合しているわけではなく

62
00:03:30,643 --> 00:03:35,344
すべての原子間で共有され 
広い範囲に広がっています

63
00:03:35,344 --> 00:03:37,860
この巨大な重ね合わせの状態が

64
00:03:37,860 --> 00:03:41,607
物質を通り抜ける際の
電子の動きを決定して

65
00:03:41,607 --> 00:03:45,625
物質が導体か 絶縁体か
半導体になるかを決めます

66
00:03:45,625 --> 00:03:48,461
電子が原子間でどのように
共有されるかを理解する事で

67
00:03:48,461 --> 00:03:51,947
シリコンのような半導体の性質を

68
00:03:51,947 --> 00:03:53,508
制御することができます

69
00:03:53,508 --> 00:03:55,919
異なる半導体をうまく結合すると

70
00:03:55,919 --> 00:03:59,501
一つのコンピュータチップ上に
何百万もの小さなトランジスタを

71
00:03:59,501 --> 00:04:01,863
搭載することができます

72
00:04:01,863 --> 00:04:04,065
半導体チップと
広い範囲に分布する電子が

73
00:04:04,065 --> 00:04:07,494
このビデオを見ている
コンピュータに動力を与えます

74
00:04:07,494 --> 00:04:12,185
インターネットはネコのビデオの共有ために
あるというのはお馴染みの冗談ですが

75
00:04:12,185 --> 00:04:15,431
深くさかのぼってみると
インターネットが存在しているのは

76
00:04:15,431 --> 00:04:19,310
オーストリアの物理学者と想像上のネコの
おかげなのです