1 00:00:01,030 --> 00:00:03,000 このコンファレンスでは 2 00:00:03,000 --> 00:00:05,530 大勢の方が人の意思に秘められた 3 00:00:05,530 --> 00:00:08,290 力について語ってきました 4 00:00:08,290 --> 00:00:10,000 私の話も 5 00:00:10,000 --> 00:00:12,000 生か死かという状況の下で 6 00:00:12,000 --> 00:00:14,100 生きようという意志の力が 7 00:00:14,100 --> 00:00:17,140 いかに発揮されるのかを 8 00:00:17,140 --> 00:00:20,000 鮮やかに描き出すものです 9 00:00:21,290 --> 00:00:24,000 私は エベレストで起きた 10 00:00:24,000 --> 00:00:27,920 史上最悪の遭難についてお話しします 11 00:00:27,920 --> 00:00:31,000 そのとき 医師は私一人でした 12 00:00:31,000 --> 00:00:33,390 これから その話をしましょう 13 00:00:33,390 --> 00:00:36,290 人が生きる意志を奮いたたせたとき 14 00:00:36,290 --> 00:00:38,280 どんなことが可能になるか 15 00:00:38,280 --> 00:00:40,210 分かっていただけるでしょう 16 00:00:40,210 --> 00:00:42,000 ここに写ってるのがエべレストです 17 00:00:42,000 --> 00:00:44,110 標高8,848メートル 18 00:00:44,110 --> 00:00:47,210 これまで6回のうち4回は プレートの動きを測る 19 00:00:47,210 --> 00:00:49,220 ナショナル ジオグラフィック誌のチームと 20 00:00:49,220 --> 00:00:51,410 2回は リモートセンシング装置の 21 00:00:51,410 --> 00:00:54,000 研究をするNASA のチームと行きました 22 00:00:54,000 --> 00:00:56,180 4回目の登山の途中 23 00:00:56,180 --> 00:00:59,000 上空を彗星が通りました 百武彗星です 24 00:00:59,000 --> 00:01:00,880 現地のシェルパは 25 00:01:00,880 --> 00:01:03,000 不吉な前兆だと言いました 26 00:01:03,000 --> 00:01:05,470 忠告を聞けばよかったのかもしれません 27 00:01:05,470 --> 00:01:08,000 エベレストの環境は非常に過酷で 28 00:01:08,000 --> 00:01:11,290 頂上の酸素量は海面のたったの三分の一 29 00:01:11,290 --> 00:01:13,150 頂上付近での気温は 30 00:01:13,150 --> 00:01:15,090 マイナス40度まで下がることもあります 31 00:01:15,090 --> 00:01:17,250 風速は毎時32キロから65キロに なることもあります 32 00:01:17,250 --> 00:01:19,410 実際に問題なのは体感温度で 33 00:01:19,410 --> 00:01:22,490 夏期の火星の気温を下回ることもあるのです 34 00:01:23,000 --> 00:01:25,300 あるとき 山頂付近で こんなことを経験しました 35 00:01:25,300 --> 00:01:27,210 ダウンジャケットに手を入れて 36 00:01:27,210 --> 00:01:28,980 しまっておいた水筒を 37 00:01:28,980 --> 00:01:31,080 取り出そうとしたのですが 38 00:01:31,080 --> 00:01:34,140 既に水は固く凍っていました 39 00:01:34,140 --> 00:01:36,760 山頂付近の厳しい環境を物語る 40 00:01:36,760 --> 00:01:38,580 エピソードです 41 00:01:40,000 --> 00:01:41,900 これがエベレスト登山のルートです 42 00:01:41,900 --> 00:01:46,390 標高5300メートルのベースキャンプが 出発点です 43 00:01:46,390 --> 00:01:49,000 600メートル上に第一キャンプがあり 44 00:01:49,000 --> 00:01:51,000 第二キャンプは更に600メートル上 45 00:01:51,000 --> 00:01:53,000 ウェスタンクウムの谷にあります 46 00:01:53,000 --> 00:01:55,340 第三キャンプはローツェの麓にあります 47 00:01:55,340 --> 00:01:58,350 世界4位の高峰も エベレストから見ると見劣りします 48 00:01:58,350 --> 00:02:01,000 第四キャンプは最も高地 49 00:02:01,000 --> 00:02:04,000 頂上より900メートル低い地点です 50 00:02:05,600 --> 00:02:07,380 これはベースキャンプの様子です 51 00:02:07,380 --> 00:02:10,000 標高5300メートルの氷河の上です 52 00:02:10,000 --> 00:02:12,000 ヤクで行ける最高地点で 53 00:02:12,000 --> 00:02:14,160 ここで荷物をおろします 54 00:02:14,160 --> 00:02:16,000 これが私の荷物です 55 00:02:16,000 --> 00:02:18,160 ヤク4頭分の医療資材は 56 00:02:18,160 --> 00:02:20,130 テントに投げ込まれました 57 00:02:20,130 --> 00:02:22,510 それで荷物を整理しているのです 58 00:02:23,630 --> 00:02:25,280 これが私たちの登山チームでした 59 00:02:25,280 --> 00:02:27,280 ナショナル ジオグラフィックの登山隊で 60 00:02:27,280 --> 00:02:29,410 主催したのはエクスプローラーズ クラブでした 61 00:02:29,410 --> 00:02:31,430 山には他に3つの登山隊がいました 62 00:02:31,430 --> 00:02:33,610 アメリカ、ニュージーランドと 63 00:02:33,610 --> 00:02:35,320 アイマックスのチーム 64 00:02:37,000 --> 00:02:39,890 そして二ヶ月かけて 65 00:02:39,890 --> 00:02:43,000 経路上のキャンプを設営しました 66 00:02:43,000 --> 00:02:45,320 これは氷瀑を下から見上げた眺めです 67 00:02:45,320 --> 00:02:47,210 ベースキャンプからの最初の登り 68 00:02:47,210 --> 00:02:49,000 600メートルです 69 00:02:50,000 --> 00:02:51,810 これは氷瀑の中の様子です 70 00:02:51,810 --> 00:02:54,840 凍ってしまった滝です とてもゆっくりと動き 71 00:02:54,840 --> 00:02:56,800 日々変化しています 72 00:02:56,800 --> 00:02:59,170 迷路の中のネズミのような気分になる場所です 73 00:02:59,170 --> 00:03:01,110 氷の壁の先が見えません 74 00:03:02,550 --> 00:03:04,180 これは氷瀑上部の写真です 75 00:03:04,180 --> 00:03:07,140 氷瀑を登るのは 氷が固まる夜中が最適です 76 00:03:07,140 --> 00:03:09,430 氷が崩れ落ちる確率が低いからです 77 00:03:09,430 --> 00:03:12,600 日の出と共に氷瀑の上に達した登山家たちです 78 00:03:14,820 --> 00:03:17,170 これは私がクレバスを横断しているところです 79 00:03:17,170 --> 00:03:20,330 安全ロープをつけてアルミのはしごを渡ります 80 00:03:22,000 --> 00:03:24,000 これはまた別のクレバスです 81 00:03:24,000 --> 00:03:26,360 十階建ての建物くらいの深さのものもあり 82 00:03:26,360 --> 00:03:28,400 こんなことを言う登山家もいます 83 00:03:28,400 --> 00:03:30,280 夜中に登山をするのは 84 00:03:30,280 --> 00:03:32,400 登山中に足下のクレバスの 85 00:03:32,400 --> 00:03:34,300 底がはっきりと見えたら 86 00:03:34,300 --> 00:03:36,330 絶対に登れないからだ 87 00:03:38,000 --> 00:03:39,280 これが第一キャンプです 88 00:03:39,280 --> 00:03:41,000 氷瀑の上に達した後に 89 00:03:41,000 --> 00:03:43,460 一番最初に遭遇する平地です 90 00:03:44,440 --> 00:03:47,000 そしてそこから 写真の手前側の 91 00:03:47,000 --> 00:03:49,000 第二キャンプに登ります 92 00:03:49,000 --> 00:03:50,950 これは第三キャンプに向かって 93 00:03:50,950 --> 00:03:53,210 ローツェの斜面を登る登山家たちです 94 00:03:53,210 --> 00:03:55,150 ここでは固定ロープを使っています 95 00:03:55,150 --> 00:03:57,350 もしロープなしでここで足を外したら 96 00:03:57,350 --> 00:03:59,710 1500メートル下に落下することになります 97 00:04:01,000 --> 00:04:03,000 これは第三キャンプから撮った写真です 98 00:04:03,000 --> 00:04:05,080 ローツェの尾根の傾斜が見えます 99 00:04:05,080 --> 00:04:07,850 傾斜約45度 二日かかる登りの 100 00:04:07,850 --> 00:04:10,000 中間地点にキャンプを設置します 101 00:04:10,000 --> 00:04:11,960 エベレストの頂上は真っ黒です 102 00:04:11,960 --> 00:04:14,200 全く氷に覆われていないのです 103 00:04:14,200 --> 00:04:16,240 エベレストはとても高くて 104 00:04:16,240 --> 00:04:18,120 ジェット気流の中にあるので 105 00:04:18,120 --> 00:04:20,000 山の表面は常に 106 00:04:20,000 --> 00:04:22,370 風にさらされて雪が積もりません 107 00:04:22,370 --> 00:04:24,590 頂上への稜線の後ろの雲のようなものは 108 00:04:24,590 --> 00:04:27,220 実は頂上から吹き飛ぶ雪なのです 109 00:04:30,000 --> 00:04:32,350 これは第三キャンプから第四キャンプへと 110 00:04:32,350 --> 00:04:35,000 雲の中を抜けていくところです 111 00:04:37,930 --> 00:04:39,470 そしてこれが第四キャンプです 112 00:04:39,470 --> 00:04:42,300 第四キャンプに着いたら たかだか24時間のうちに 113 00:04:42,300 --> 00:04:44,470 頂上まで行くか決めなければいけません 114 00:04:44,470 --> 00:04:47,000 全員酸素吸入器を使います 備蓄は限られています 115 00:04:47,000 --> 00:04:49,300 上がるか下がるか 選択肢はそれだけ 116 00:04:49,300 --> 00:04:52,140 決断は敏速にくださなければなりません 117 00:04:53,040 --> 00:04:54,290 これはロブ・ホールの写真です 118 00:04:54,290 --> 00:04:55,930 ニュージーランド チームのリーダーでした 119 00:04:55,930 --> 00:04:58,570 彼が奥さんと話すときに使った無線です 120 00:04:58,570 --> 00:05:00,880 このことは後でお話します 121 00:05:02,400 --> 00:05:04,250 アタック待ちの登山家たち 122 00:05:04,250 --> 00:05:07,260 彼らは第四キャンプにいます 頂上から風が吹いてるのが見えますね 123 00:05:07,260 --> 00:05:09,230 アタックに適さない天候なので 124 00:05:09,230 --> 00:05:12,430 登山家たちは風がおさまるのを待っています 125 00:05:13,880 --> 00:05:16,000 夜になると実際に風はおさまります 126 00:05:16,000 --> 00:05:18,340 とても穏やかになり 風は全くなくなります 127 00:05:18,340 --> 00:05:20,460 アタックのチャンスのようです 128 00:05:21,430 --> 00:05:25,010 登山家たちはトライアンギュラーフェイスと 呼ばれるところから頂上に向かいます 129 00:05:25,010 --> 00:05:26,650 アタックの第一段階です 130 00:05:26,650 --> 00:05:28,820 次の段階ほど急峻でないので 131 00:05:28,820 --> 00:05:32,510 夜のうちに通過して 昼間の時間を確保します 132 00:05:33,650 --> 00:05:35,200 こんな事態が発生しました 133 00:05:35,200 --> 00:05:37,160 登山家たちは南西稜に取り付きました 134 00:05:37,160 --> 00:05:39,640 南西稜はこんなところです 135 00:05:39,640 --> 00:05:41,290 頂上は手前の方です 136 00:05:41,290 --> 00:05:44,050 ここから450メートルの高さを 137 00:05:44,060 --> 00:05:46,580 30度の傾斜で登ると頂上です 138 00:05:48,950 --> 00:05:50,900 しかしこの年の風は 139 00:05:50,900 --> 00:05:53,290 突然 予想外に強くなりました 140 00:05:53,290 --> 00:05:56,110 誰も予想していなかった嵐です 141 00:05:56,110 --> 00:05:58,470 この写真に見えるのはすさまじい風が 142 00:05:58,470 --> 00:06:01,000 頂上から雪を吹き飛ばしてる様子です 143 00:06:01,000 --> 00:06:04,120 登山家たちは この稜線にいたのです 144 00:06:05,580 --> 00:06:07,310 この写真はその一年前に 145 00:06:07,310 --> 00:06:09,220 同じあたりで撮った私の写真です 146 00:06:09,220 --> 00:06:12,140 ごらんのように私はリブリーザー付きの 147 00:06:12,140 --> 00:06:14,000 酸素マスクを着用しています 148 00:06:14,000 --> 00:06:16,150 ここから酸素ホースを接続しています 149 00:06:16,150 --> 00:06:19,000 このように2つの酸素タンクを背負います 150 00:06:19,000 --> 00:06:21,360 小型軽量のチタン製タンクです 151 00:06:21,360 --> 00:06:23,660 他にはほとんど何も携行していません 152 00:06:23,660 --> 00:06:26,250 これだけです 頂上稜線では無防備なのです 153 00:06:26,250 --> 00:06:29,000 これは頂上稜線で撮った写真です 154 00:06:29,000 --> 00:06:31,250 これは頂上への道のり 155 00:06:31,250 --> 00:06:33,820 450メートルを登る稜線です 156 00:06:33,820 --> 00:06:36,130 ここではロープは使いません 157 00:06:36,150 --> 00:06:38,000 稜線のどちら側に落ちても 158 00:06:38,000 --> 00:06:40,000 急な斜面なので 159 00:06:40,000 --> 00:06:42,140 もし誰かとつながっていても 160 00:06:42,140 --> 00:06:44,000 相手を引きずり落とすだけなのです 161 00:06:44,000 --> 00:06:46,240 みんなバラバラになって登ります 162 00:06:46,240 --> 00:06:49,360 進路は真っすぐではなく 163 00:06:49,360 --> 00:06:51,860 登りは非常に難関で 164 00:06:51,860 --> 00:06:54,000 常に左か右へ落下する 165 00:06:54,000 --> 00:06:55,870 恐れがあります 166 00:06:55,870 --> 00:06:57,890 もし左側に落ちたら 167 00:06:57,890 --> 00:07:00,450 ネパール側へ2500メートル落ちます 168 00:07:00,450 --> 00:07:02,250 もし右側に落ちたら 169 00:07:02,250 --> 00:07:04,910 チベット側へ3500メートル落ちます 170 00:07:04,910 --> 00:07:07,000 チベット側に落ちると 171 00:07:07,000 --> 00:07:09,570 長生きできるから ましかもしれません 172 00:07:09,570 --> 00:07:14,000 (笑) 173 00:07:14,000 --> 00:07:17,250 どちらに落ちても残りの人生は落ちるだけです 174 00:07:18,470 --> 00:07:21,630 この上の方に見える 頂上近くの稜線上に 175 00:07:21,630 --> 00:07:23,930 登山家たちがいて 176 00:07:23,930 --> 00:07:26,320 私は第三キャンプで待機していたのです 177 00:07:26,320 --> 00:07:28,830 彼らが山上で嵐と奮闘している間 178 00:07:28,830 --> 00:07:31,160 私は第三キャンプで奮闘していました 179 00:07:31,160 --> 00:07:33,350 嵐がとても激しいので 180 00:07:33,350 --> 00:07:36,000 衣類と備品を完全に着用したまま 181 00:07:36,000 --> 00:07:38,110 テントの床に寝転び 182 00:07:38,110 --> 00:07:40,470 テントが吹き飛ばされないようにしていました 183 00:07:40,470 --> 00:07:42,830 今までに見たこともない ひどい風でした 184 00:07:42,830 --> 00:07:45,300 その上 稜線上の登山家たちは 185 00:07:45,300 --> 00:07:47,640 さらに600メートルも高いところで 186 00:07:47,640 --> 00:07:50,500 風に直接立ち向かっていたのです 187 00:07:51,580 --> 00:07:53,550 無線が通じる者もいました 188 00:07:53,550 --> 00:07:56,080 稜線に沿った光景の写真です 189 00:07:56,080 --> 00:07:58,000 嵐の中で ロブ・ホールが 190 00:07:58,000 --> 00:08:01,000 ダグ・ハンセンと共にここにいると 191 00:08:01,000 --> 00:08:03,250 無線で分かりました 192 00:08:03,250 --> 00:08:05,430 ロブは無事だがダグは衰弱して 193 00:08:05,430 --> 00:08:07,410 山を下れないといいます 194 00:08:07,410 --> 00:08:10,420 ロブは疲れきったダグに付き添っていたのです 195 00:08:11,000 --> 00:08:13,240 嵐の中からの悪い知らせがあり 196 00:08:13,240 --> 00:08:16,000 ベック・ウェザースという別の登山家も 197 00:08:16,000 --> 00:08:19,340 雪の中に倒れて亡くなったということでした 198 00:08:19,340 --> 00:08:21,550 他に18人の登山家がいましたが 199 00:08:21,550 --> 00:08:26,140 彼らの状況については分からず 行方不明でした 200 00:08:26,140 --> 00:08:29,140 山の上は大混乱でした 201 00:08:29,140 --> 00:08:32,270 情報が入ってもめ ちゃくちゃで矛盾だらけ 202 00:08:32,270 --> 00:08:35,000 嵐の中で何が起きているのか全く分かりません 203 00:08:35,000 --> 00:08:37,110 私たちはただ第三キャンプのテントで 204 00:08:37,110 --> 00:08:39,280 じっと座り込んでいました 205 00:08:39,280 --> 00:08:42,720 グループで一番強健な トッド・バールソンとピート・アサンスは 206 00:08:42,720 --> 00:08:45,560 できるだけ多くの仲間を救い出すために 207 00:08:45,560 --> 00:08:48,480 山を登ることにしました もちろん強烈な嵐の中 208 00:08:48,480 --> 00:08:51,720 二人は無線でロブ・ホールと 連絡しようとしました 209 00:08:51,720 --> 00:08:53,750 飛びぬけた登山家が 210 00:08:53,750 --> 00:08:56,000 少し劣った登山家と共に 211 00:08:56,000 --> 00:08:58,360 頂上付近で立ち往生しているのです 212 00:08:58,360 --> 00:09:02,760 二人がロブに「待ってろ 今行く」と 言ってほしいと私は思いましたが 213 00:09:02,760 --> 00:09:05,730 二人はこう言いました 214 00:09:05,730 --> 00:09:08,330 「ダグを置いて一人で下りろ 215 00:09:08,330 --> 00:09:10,450 彼が助かる見込みはない 216 00:09:10,450 --> 00:09:13,870 せめて自分だけでも生き抜くんだ」 217 00:09:13,870 --> 00:09:16,460 ロブにメッセージが届きましたが 218 00:09:16,460 --> 00:09:19,000 答えは 219 00:09:19,000 --> 00:09:22,000 「ダグも聞いてる」というものでした 220 00:09:25,000 --> 00:09:28,430 トッドとピートはこの頂上稜線まで到達して 221 00:09:28,430 --> 00:09:32,260 その大混乱の中で皆を立ち直らせるために 222 00:09:32,260 --> 00:09:35,210 できるだけのことをしました 223 00:09:35,210 --> 00:09:38,000 私は第三キャンプから無線で助言し 224 00:09:38,000 --> 00:09:41,240 自力で下山できる登山者たちに 225 00:09:41,240 --> 00:09:43,000 山を下りるように促しました 226 00:09:43,000 --> 00:09:46,220 動けない者は第四キャンプに残しました 227 00:09:46,220 --> 00:09:48,690 登山家たちはこのルートに 沿って下りてきました 228 00:09:48,690 --> 00:09:51,310 これは 私がいた第三キャンプから 撮った写真です 229 00:09:51,310 --> 00:09:53,660 私は全員と会って診察しましたが 230 00:09:53,660 --> 00:09:56,360 大した処置もできませんでした 231 00:09:57,000 --> 00:09:59,000 なぜなら第三キャンプは 232 00:09:59,000 --> 00:10:01,290 45度の傾斜した氷壁の途中にある 233 00:10:01,290 --> 00:10:03,290 小さな切り欠きにすぎないのです 234 00:10:03,290 --> 00:10:05,340 テントの外には立つスペースしかなく 235 00:10:05,340 --> 00:10:07,500 極端に寒い 標高7300メートルですから 236 00:10:07,500 --> 00:10:09,890 この高度で私の手元には 237 00:10:09,890 --> 00:10:12,080 ビニールバッグ二つ分の 238 00:10:12,080 --> 00:10:14,130 鎮痛剤の注射と 239 00:10:14,130 --> 00:10:16,000 ステロイドだけでした 240 00:10:16,000 --> 00:10:17,870 登山家たちが来るたびに 241 00:10:17,870 --> 00:10:20,480 さらに下に降りられる状態かどうか 242 00:10:20,480 --> 00:10:22,000 診断しました 243 00:10:22,000 --> 00:10:25,400 意識がはっきりせず混乱していた人には 244 00:10:25,400 --> 00:10:28,300 ステロイドの注射をして 245 00:10:28,300 --> 00:10:30,000 彼らが一時的にでも 246 00:10:30,000 --> 00:10:32,510 はっきりとした思考と動きで 247 00:10:32,510 --> 00:10:35,270 下山できるようにしました 248 00:10:35,270 --> 00:10:37,320 山の上では処置も大変で 249 00:10:37,320 --> 00:10:39,690 時には衣服の上から注射しました 250 00:10:39,690 --> 00:10:42,000 それ以外の細かな操作は難しく 251 00:10:42,000 --> 00:10:44,300 他にしようがなかったのです 252 00:10:44,300 --> 00:10:46,000 彼らを治療している間に 253 00:10:46,000 --> 00:10:48,250 ロブ・ホールについて耳にしました 254 00:10:48,250 --> 00:10:51,250 彼を助ける方法はないというのです 255 00:10:52,260 --> 00:10:55,320 もう単独行だという連絡がありました 256 00:10:55,320 --> 00:10:58,320 ダグはもっと上の方で亡くなったようでした 257 00:10:58,320 --> 00:11:01,640 ロブも衰弱して一人で下山できない状態でした 258 00:11:01,640 --> 00:11:04,070 この強風の中をあの高度まで 259 00:11:04,070 --> 00:11:06,370 助けに行ける者はいませんでした 260 00:11:06,370 --> 00:11:08,330 ロブにも分かっていました 261 00:11:08,330 --> 00:11:10,000 そのとき彼は 262 00:11:10,000 --> 00:11:12,440 妻と話させてほしいと頼みました 263 00:11:12,440 --> 00:11:14,000 無線を持っていたからです 264 00:11:14,000 --> 00:11:16,150 ニュージーランドの自宅にいる奥さんは 265 00:11:16,150 --> 00:11:19,090 最初の子供が妊娠7ヶ月でした 266 00:11:19,090 --> 00:11:22,000 妻につないでほしいという 彼の願いはかなえられ 267 00:11:22,000 --> 00:11:24,310 そしてロブと彼の奥さんは 268 00:11:24,310 --> 00:11:26,290 最後の会話を交わしました 269 00:11:26,290 --> 00:11:28,400 二人の赤ちゃんの名前を決めたのです 270 00:11:28,400 --> 00:11:30,490 そしてロブは無線を切りました 271 00:11:30,490 --> 00:11:33,000 それが最後の通信でした 272 00:11:35,400 --> 00:11:38,270 標高7300メートルで多くの危篤の患者を 273 00:11:38,270 --> 00:11:40,310 手当しろというのは 274 00:11:40,310 --> 00:11:42,000 無理というものです 275 00:11:42,000 --> 00:11:44,390 そこで遭難者を6100メートルの 276 00:11:44,390 --> 00:11:47,000 治療のしやすい高度まで下ろしました 277 00:11:47,000 --> 00:11:49,430 これが私たちの医療器具一式でした 278 00:11:49,430 --> 00:11:52,440 機材で一杯の救急箱です 279 00:11:52,440 --> 00:11:55,370 私はこれを山の上に持って行ったのです 280 00:11:55,370 --> 00:11:57,650 第一キャンプではもっと資材が豊富でした 281 00:11:57,650 --> 00:12:00,070 ここまで届けてもらったのです 282 00:12:00,070 --> 00:12:02,390 これは第一キャンプの様子です 283 00:12:02,390 --> 00:12:05,000 生存者が次々と入ってきました 284 00:12:05,000 --> 00:12:08,050 低体温の者や凍傷の者 285 00:12:08,050 --> 00:12:10,380 両方という遭難者もいました 286 00:12:10,380 --> 00:12:13,130 我々の処置はできるだけ体を温めて 287 00:12:13,130 --> 00:12:16,600 酸素吸入で蘇生させるというものでした 288 00:12:16,600 --> 00:12:19,370 ただ標高6100メートルの凍ったテントでは 289 00:12:19,370 --> 00:12:21,610 これも困難な作業でした 290 00:12:23,400 --> 00:12:27,000 脚の凍傷の写真です 291 00:12:28,010 --> 00:12:30,160 鼻の凍傷です 292 00:12:31,890 --> 00:12:34,090 この登山家は雪盲になっていました 293 00:12:34,090 --> 00:12:36,560 彼らの治療をしてる最中に 294 00:12:36,560 --> 00:12:41,000 信じられないようなことが起きました 295 00:12:41,000 --> 00:12:43,750 死んだと聞いていたベック・ウェザーズが 296 00:12:43,750 --> 00:12:46,340 どこからともなく現れて 297 00:12:46,340 --> 00:12:49,000 ふらふらとテントに入ってきました 298 00:12:49,000 --> 00:12:51,680 まるでミイラのようでした 299 00:12:51,680 --> 00:12:54,000 支離滅裂かと思いきや 300 00:12:54,000 --> 00:12:56,470 テントに入ってくるとこう言うのです 301 00:12:56,470 --> 00:12:59,000 「やあ ケン どこに座ったらいいかい?」 302 00:12:59,580 --> 00:13:03,250 それから「俺の保険はつかえるかな」 と聞いたのです 303 00:13:03,250 --> 00:13:05,470 (笑) 304 00:13:05,470 --> 00:13:07,390 本当にそう言ったんです 305 00:13:07,390 --> 00:13:09,330 (笑) 306 00:13:09,330 --> 00:13:12,210 正気でしたがひどい凍傷でした 307 00:13:12,210 --> 00:13:14,370 ごらんのように 彼の手は真っ白で 308 00:13:14,370 --> 00:13:16,500 手と鼻の凍傷はひどいものでした 309 00:13:16,500 --> 00:13:19,240 凍傷はまず白くなり 完全に壊死して 310 00:13:19,240 --> 00:13:22,160 黒くなるととれてしまうのです 311 00:13:22,160 --> 00:13:24,480 これは最終段階で 傷痕のようなものです 312 00:13:24,480 --> 00:13:26,300 私がベックの治療をしていたとき 313 00:13:26,300 --> 00:13:28,520 彼は山の上で何が起きたのか話してくれました 314 00:13:28,520 --> 00:13:31,000 彼は嵐の中で迷子になり 315 00:13:31,000 --> 00:13:33,290 雪の中に倒れて動けないまま 316 00:13:33,290 --> 00:13:35,410 そこに横たわっていたと 317 00:13:35,410 --> 00:13:38,280 他の登山家が立ち寄って彼を見て 318 00:13:38,280 --> 00:13:41,560 「死んでいる」と言うのが聞こえました 319 00:13:42,450 --> 00:13:45,130 でもベックは生きていて 聞こえたのです 320 00:13:45,130 --> 00:13:47,000 ただまったく動けなかった 321 00:13:47,000 --> 00:13:49,380 ある種のカタトニアになって 322 00:13:49,380 --> 00:13:51,570 周囲の状況を把握できても 323 00:13:51,570 --> 00:13:54,500 生存を示すまばたきすらできませんでした 324 00:13:54,500 --> 00:13:57,000 登山家たちが通り過ぎ 325 00:13:57,000 --> 00:14:00,270 ベックはそこで一日と一晩 326 00:14:00,270 --> 00:14:02,060 そしてもう一日 327 00:14:02,060 --> 00:14:04,000 雪の中で倒れていました 328 00:14:04,000 --> 00:14:06,550 それから彼は独り言をつぶやきます 329 00:14:06,550 --> 00:14:08,000 「死にたくない 330 00:14:08,000 --> 00:14:10,000 家族が待ってる」 331 00:14:10,000 --> 00:14:11,920 家族のことを考え 332 00:14:11,920 --> 00:14:14,100 子どもたちと妻のことを考えると 333 00:14:14,100 --> 00:14:17,300 十分なエネルギーがわき上がり 334 00:14:17,300 --> 00:14:19,140 意欲を生み出し 335 00:14:19,140 --> 00:14:21,240 立ち上がることができました 336 00:14:21,240 --> 00:14:23,440 これほどの長時間雪の中に倒れていたのに 337 00:14:23,440 --> 00:14:27,410 起き上がってキャンプまで戻ってきたのです 338 00:14:27,410 --> 00:14:29,710 ベックはこのことを静かに語りましたが 339 00:14:29,710 --> 00:14:32,390 私は全く圧倒されました 340 00:14:32,390 --> 00:14:34,470 そんなに長時間雪の中に倒れていた人が 341 00:14:34,470 --> 00:14:36,170 起き上がれるなんて 342 00:14:36,170 --> 00:14:38,170 全く信じられませんでした 343 00:14:38,170 --> 00:14:40,700 回復不能な低体温状態からの 344 00:14:40,700 --> 00:14:43,340 復活を遂げたようなのです 345 00:14:43,340 --> 00:14:46,000 どうやってやり遂げたのか 346 00:14:46,000 --> 00:14:48,000 推測するしかありません 347 00:14:48,000 --> 00:14:50,530 仮にベックが SPECTスキャナのように 348 00:14:50,530 --> 00:14:52,500 脳機能を計測する装置に 349 00:14:52,500 --> 00:14:55,840 入っていたとしたら 何が観察できたでしょうか 350 00:14:57,270 --> 00:15:00,100 簡単に説明すると 脳は三つの部分から成ります 351 00:15:00,100 --> 00:15:01,950 物事に注目したり 352 00:15:01,950 --> 00:15:04,150 集中したりする前頭葉 353 00:15:04,150 --> 00:15:06,340 頭の中で物事を描いて 354 00:15:06,340 --> 00:15:08,240 記憶する側頭葉 355 00:15:08,240 --> 00:15:10,100 そして脳の後部には 356 00:15:10,100 --> 00:15:12,240 動作をコントロールする小脳と 357 00:15:12,240 --> 00:15:14,180 心拍や呼吸のような 358 00:15:14,180 --> 00:15:16,240 基本的な生命維持機能を司る 359 00:15:16,240 --> 00:15:18,210 脳幹があります 360 00:15:18,210 --> 00:15:21,340 ではベックを SPECT装置に入れて 361 00:15:21,340 --> 00:15:23,000 脳の断面を 362 00:15:23,000 --> 00:15:25,000 捉えてみましょう 363 00:15:25,000 --> 00:15:27,220 この装置は動的な血流 すなわち 364 00:15:27,220 --> 00:15:29,330 脳内のエネルギーの流れを測定します 365 00:15:29,330 --> 00:15:31,280 ここに光って赤色に見えるのが 366 00:15:31,280 --> 00:15:33,290 前頭前皮質です 367 00:15:33,290 --> 00:15:35,330 血流がけっこう均等に分布しています 368 00:15:35,330 --> 00:15:37,220 ここに見える中央部 369 00:15:37,220 --> 00:15:39,290 この部分に通常 側頭葉があり 370 00:15:39,290 --> 00:15:42,340 後部に生命維持機能があります 371 00:15:42,340 --> 00:15:44,490 この脳はだいたい正常です 372 00:15:44,490 --> 00:15:47,340 エネルギーが均一に分布しています 373 00:15:48,300 --> 00:15:51,000 こちらでは 前頭葉が 374 00:15:51,000 --> 00:15:53,360 明るく輝いています 375 00:15:53,360 --> 00:15:55,460 ベックが自分が危機にあると気づいたときには 376 00:15:55,460 --> 00:15:57,380 こんな状態だったかもしれません 377 00:15:57,380 --> 00:15:59,390 全神経を 危機から抜け出すことに 378 00:15:59,390 --> 00:16:01,240 集中しているのです 379 00:16:01,240 --> 00:16:04,410 脳のこの部分は静かになっています 380 00:16:04,410 --> 00:16:07,070 家族や他の誰かのことは考えず 381 00:16:07,070 --> 00:16:09,170 かなりがんばっているのです 382 00:16:09,170 --> 00:16:12,590 筋肉を活動させ この状況から抜け出そうとしています 383 00:16:15,000 --> 00:16:18,410 でも ここから状況は悪化し始めます 384 00:16:18,410 --> 00:16:20,390 エネルギーが切れかかっています 385 00:16:20,390 --> 00:16:23,350 寒すぎて 体内の代謝を維持できないのです 386 00:16:23,350 --> 00:16:25,500 ごらんのように もう赤い箇所はありません 387 00:16:25,500 --> 00:16:27,000 脳は静かになり 388 00:16:27,000 --> 00:16:29,530 彼は雪に倒れ込みます 脳内は静かです 389 00:16:29,530 --> 00:16:31,740 赤い部分はほとんどなくなり 390 00:16:32,380 --> 00:16:34,400 ベックは生命力を落としています 391 00:16:34,400 --> 00:16:36,180 死にかけています 392 00:16:38,260 --> 00:16:40,180 次のスキャンを見てみると 393 00:16:40,180 --> 00:16:41,820 ベックの場合は 394 00:16:41,820 --> 00:16:44,250 脳の中央部が 395 00:16:44,250 --> 00:16:46,690 また明るくなり始め 396 00:16:46,690 --> 00:16:49,000 彼は家族について考え始めているのです 397 00:16:49,000 --> 00:16:51,250 起き上がる動機となるような 398 00:16:51,250 --> 00:16:53,000 イメージを頭に浮かべます 399 00:16:53,000 --> 00:16:55,190 彼は思考することで この領域に 400 00:16:55,190 --> 00:16:57,110 エネルギーを作り出しています 401 00:16:57,110 --> 00:17:00,000 そして このように彼は思考を 402 00:17:00,000 --> 00:17:03,000 動作に結びつけるのです 403 00:17:03,000 --> 00:17:05,370 ここは脳の前帯状回といい 404 00:17:05,370 --> 00:17:07,420 多くの脳科学者たちは 405 00:17:07,420 --> 00:17:09,970 このあたりに人の意志の根本が 406 00:17:09,970 --> 00:17:12,390 あるのではないかと考えています 407 00:17:12,390 --> 00:17:15,260 決断したり 意志の力を発揮したりする部分です 408 00:17:15,260 --> 00:17:17,430 ごらんのように脳の中央部から 409 00:17:17,430 --> 00:17:19,350 生じていているエネルギーは 410 00:17:19,350 --> 00:17:21,750 家族のイメージのあるこのあたり つまり 411 00:17:21,750 --> 00:17:24,800 彼が意志を集中させているところに 送られています 412 00:17:26,940 --> 00:17:28,710 これがどんどん強さを増し 413 00:17:28,710 --> 00:17:30,400 次第に彼にとって 414 00:17:30,400 --> 00:17:32,260 原動力となるのです 415 00:17:32,260 --> 00:17:34,180 十分なエネルギーを 416 00:17:34,180 --> 00:17:36,600 一日 一晩 そしてもう一日 作り出すことで 417 00:17:36,600 --> 00:17:39,460 自分を起き上がらせるまでに至ったのです 418 00:17:42,000 --> 00:17:43,710 そしてここに見えるように 419 00:17:43,710 --> 00:17:46,670 前頭葉にもっとエネルギーを集めています 420 00:17:46,670 --> 00:17:49,370 集中し始め 考えられるようになりました 421 00:17:49,370 --> 00:17:51,880 助かるために何をすべきか考えています 422 00:17:51,880 --> 00:17:53,390 だからこのエネルギーは 423 00:17:53,390 --> 00:17:55,180 脳の前部に送られています 424 00:17:55,180 --> 00:17:57,270 この辺りは静まってきました 425 00:17:57,270 --> 00:17:59,430 彼はこのエネルギーを利用して 426 00:17:59,430 --> 00:18:02,250 動き出すために何をすべきか考えます 427 00:18:02,250 --> 00:18:04,650 そしてそのエネルギーは 428 00:18:04,650 --> 00:18:07,360 脳の思考部分に広まっているのです 429 00:18:07,360 --> 00:18:10,600 家族のことは考えないで気力を振り絞ります 430 00:18:10,600 --> 00:18:12,920 こここが筋肉の運動を指令する 431 00:18:12,920 --> 00:18:15,570 (前頭葉)後部で 体を動かし始めます 432 00:18:15,570 --> 00:18:18,180 心臓と肺臓の動きが速まりだします 433 00:18:18,180 --> 00:18:21,490 私の想像によれば こんなことだったのでしょう 434 00:18:21,490 --> 00:18:24,620 ベックが生存をかけて戦っていた時に SPECTスキャナーにかければ 435 00:18:24,620 --> 00:18:27,620 こんなことが見られたでしょう 436 00:18:28,340 --> 00:18:31,250 6100メートルで私にできる手当は 437 00:18:31,250 --> 00:18:34,160 彼が自力でなしたことと比べたら 438 00:18:34,160 --> 00:18:36,500 全くささいなことのように思えました 439 00:18:36,500 --> 00:18:39,360 人の意志の力のすごさを物語ります 440 00:18:41,110 --> 00:18:43,330 彼は危篤状態でした 危篤の患者は大勢いました 441 00:18:43,330 --> 00:18:45,280 幸い彼らを救出するために 442 00:18:45,280 --> 00:18:48,210 ヘリコプターを呼び寄せることができました 443 00:18:48,210 --> 00:18:51,360 標高6100メートルまでヘリコプターが来て 444 00:18:51,360 --> 00:18:54,580 史上最高地点での救助を行いました 445 00:18:55,000 --> 00:18:57,390 氷の上に着陸して ベックと 446 00:18:57,390 --> 00:19:00,000 他の生存者を一人ずつ運び出し 447 00:19:00,000 --> 00:19:03,230 我々がベースキャンプに到着するより前に 448 00:19:03,230 --> 00:19:06,000 彼らをカトマンズの診療所に 連れて行くことができました 449 00:19:06,000 --> 00:19:08,420 この写真は何人かの登山家を亡くした 450 00:19:08,420 --> 00:19:10,000 登山隊の 451 00:19:10,000 --> 00:19:12,210 ベースキャンプでの様子 452 00:19:12,210 --> 00:19:14,280 数日後には我々もここで 453 00:19:14,280 --> 00:19:16,200 追悼式を行いました 454 00:19:16,200 --> 00:19:19,340 シェルパたちはネズの枝に灯をともしています 455 00:19:19,340 --> 00:19:21,600 ネズの煙は神聖だと信じています 456 00:19:23,220 --> 00:19:26,320 登山家たちは大きな岩を囲んで立って 457 00:19:26,320 --> 00:19:29,000 頂上付近で亡くなった 458 00:19:29,000 --> 00:19:31,280 登山家のことを話します 459 00:19:31,280 --> 00:19:34,540 実際に山に向かって 彼らに直接話しかけたのです 460 00:19:36,580 --> 00:19:39,110 この中で五人の登山家が亡くなりました 461 00:19:39,110 --> 00:19:41,430 これはスコット・フィッシャー 462 00:19:43,000 --> 00:19:45,000 ロブ・ホール 463 00:19:45,000 --> 00:19:47,360 アンディー・ハリス 464 00:19:47,360 --> 00:19:49,390 ダグ・ハンセン 465 00:19:49,390 --> 00:19:51,440 そしてヤスコ・ナンバ 466 00:19:51,440 --> 00:19:53,270 そしてもう一人この日に 467 00:19:53,270 --> 00:19:56,510 死んでも不思議ではなかったが生き延びた 468 00:19:56,510 --> 00:19:59,150 ベック・ウェザーズです 469 00:19:59,150 --> 00:20:01,140 彼はものすごい意志を発揮して 470 00:20:01,140 --> 00:20:04,430 その思考の力を全て使うことができたため 471 00:20:04,430 --> 00:20:06,630 自力でこの危機から 472 00:20:06,630 --> 00:20:09,690 自分を救い出し 生き抜くことができたのです 473 00:20:10,420 --> 00:20:12,460 これはチベットのお祈りの旗です 474 00:20:12,460 --> 00:20:13,720 シェルパは 475 00:20:13,720 --> 00:20:15,820 この旗に祈りを書くと 476 00:20:15,820 --> 00:20:18,830 願いが神につたわると信じているのです 477 00:20:19,310 --> 00:20:22,560 この年 ベックの願いはかなったのです 478 00:20:23,570 --> 00:20:25,000 どうもありがとう 479 00:20:25,000 --> 00:20:28,160 (拍手)