WEBVTT 00:00:01.161 --> 00:00:03.492 誰も間違いをしたくはありません 00:00:04.462 --> 00:00:06.309 でも私は大きな過ちを犯しました 00:00:07.534 --> 00:00:12.832 何を誤ったのかを調べることで 地球と月に対する考え方を 00:00:12.856 --> 00:00:16.353 根本から変えてしまう発見に つながったのです NOTE Paragraph 00:00:17.531 --> 00:00:19.451 私は惑星科学者で 00:00:19.475 --> 00:00:23.205 私のお気に入りの仕事は 惑星同士を衝突させることです NOTE Paragraph 00:00:23.229 --> 00:00:24.240 (笑) NOTE Paragraph 00:00:24.264 --> 00:00:30.083 私の研究室ではこのような大砲で 岩を撃ち出します NOTE Paragraph 00:00:31.120 --> 00:00:32.366 (大砲の発射音) NOTE Paragraph 00:00:32.762 --> 00:00:33.837 (笑) NOTE Paragraph 00:00:34.278 --> 00:00:38.310 私の実験では 惑星の形成時に起きる― 00:00:38.334 --> 00:00:39.960 極限状態を再現できます 00:00:40.775 --> 00:00:44.793 そしてコンピュータモデルでは 惑星をそのまま衝突させ 00:00:44.817 --> 00:00:46.527 成長させたり 00:00:46.551 --> 00:00:48.138 破壊したりできます NOTE Paragraph 00:00:48.162 --> 00:00:49.239 (笑) NOTE Paragraph 00:00:50.354 --> 00:00:54.778 地球と月がどう作られたか そして 00:00:54.802 --> 00:00:58.042 なぜ地球が他の惑星とは 全く異なるのかを理解したいのです NOTE Paragraph 00:00:59.414 --> 00:01:03.151 地球と月の起源についての有力な説は 00:01:03.175 --> 00:01:05.130 「巨大衝突説」と呼ばれています 00:01:06.011 --> 00:01:09.419 その説では火星大の天体が 原始地球に衝突し 00:01:09.443 --> 00:01:14.768 地球の周辺のデブリ円盤によって 月ができたとされています 00:01:16.061 --> 00:01:19.272 この学説は 月について 多くのことを説明できますが 00:01:19.296 --> 00:01:21.454 重大な欠陥があります 00:01:22.051 --> 00:01:26.582 この説では 月のほとんどが 火星大の天体からできたとされており 00:01:26.606 --> 00:01:29.950 ならば地球と月は異なる構成物で できていることになります 00:01:30.504 --> 00:01:32.165 でも 観測では違います 00:01:33.154 --> 00:01:36.871 地球と月は一卵性双生児なのです 00:01:37.704 --> 00:01:42.601 惑星の遺伝子コードは 構成物の同位元素構成で表されます 00:01:42.625 --> 00:01:45.494 地球と月は一致した 同位体元素を持っており 00:01:45.518 --> 00:01:50.159 つまり 地球と月は 同じ素材からできているのです NOTE Paragraph 00:01:51.080 --> 00:01:54.703 地球と月が一卵性双生児であるのは 本当に奇妙です 00:01:55.160 --> 00:01:57.796 惑星はそれぞれ異なる素材でできているので 00:01:57.820 --> 00:01:59.949 異なる同位体元素を持っており 00:01:59.973 --> 00:02:02.028 いわば異なる遺伝子を持っているのです 00:02:02.695 --> 00:02:07.151 このような遺伝子的な関係を持つ天体は 他にはありません 00:02:07.824 --> 00:02:10.271 地球と月だけが双子なのです NOTE Paragraph 00:02:11.588 --> 00:02:14.163 私が月の起源について 研究を始めた頃 00:02:14.187 --> 00:02:18.264 巨大衝突という発想そのものを 受け容れない科学者も多くいました 00:02:18.288 --> 00:02:22.469 この理論では この地球と月の関係が 00:02:22.493 --> 00:02:24.229 うまく説明がつかないためです 00:02:24.729 --> 00:02:27.283 私たちはこぞって新しいアイデアを 考案しようとしました 00:02:28.084 --> 00:02:31.064 問題はより優れたアイデアが なかったことです 00:02:31.768 --> 00:02:35.302 他の説には もっと重大な欠陥があったのです 00:02:36.437 --> 00:02:40.059 ですので 巨大衝突説を 救おうと試みました NOTE Paragraph 00:02:41.376 --> 00:02:46.257 私のグループの若い科学者が 巨大衝突の回転状態を 00:02:46.281 --> 00:02:47.646 変えてみようと提案しました 00:02:47.670 --> 00:02:52.064 地球の回転を速くすれば 素材がよく混ざり 00:02:52.088 --> 00:02:53.927 月の説明がつくかもしれません 00:02:54.623 --> 00:02:57.306 火星大の衝突物だろうとされたのは 00:02:57.330 --> 00:02:59.073 それ位なら 月を形成して 00:02:59.097 --> 00:03:02.038 さらに地球を今の自転周期に できるからです 00:03:03.227 --> 00:03:05.429 この論点が多くの人に 受け入れられました 00:03:06.481 --> 00:03:09.898 でも仮に何か別の要因が地球の1日の長さを 決めたとしたらどうでしょう 00:03:10.484 --> 00:03:15.206 それなら他にも月を形成しうる 巨大衝突が多く考えられます 00:03:16.444 --> 00:03:19.109 何が起きうるかが とても気になって 00:03:19.133 --> 00:03:23.520 速い回転の巨大衝突を 模擬計算したところ 00:03:23.544 --> 00:03:26.028 惑星と同一素材の混合物の 00:03:26.052 --> 00:03:29.930 円盤を形成できることが分かりました 00:03:30.871 --> 00:03:32.881 とてもワクワクしました 00:03:32.905 --> 00:03:35.577 これで月の成り立ちに 説明がつくかもしれないのです NOTE Paragraph 00:03:36.950 --> 00:03:42.254 問題はこの現象が起こりそうもないと 分かったことです 00:03:42.278 --> 00:03:45.358 ほとんどの場合 円盤は惑星とは異なり 00:03:45.382 --> 00:03:48.219 この事象によって 月が形成されるのは 00:03:48.243 --> 00:03:51.400 天文学的に確率の低い偶然であり 00:03:52.243 --> 00:03:55.227 月の持つ地球との特別な関係が 00:03:55.251 --> 00:03:59.062 偶然できたというアイデアを 誰もが受け容れることは困難でした 00:04:01.220 --> 00:04:03.970 巨大衝突理論には まだ問題があり 00:04:04.911 --> 00:04:08.050 私たちが月の成り立ちを 明らかにしようと試みる日々が続きました NOTE Paragraph 00:04:09.932 --> 00:04:13.896 そして私が過ちに気づく時が来ました 00:04:15.471 --> 00:04:20.410 高速回転状態での巨大衝突データを 私と学生で見ていました 00:04:20.434 --> 00:04:23.116 その日の考察対象は 月ではなく 00:04:23.140 --> 00:04:24.795 惑星でした 00:04:24.819 --> 00:04:27.358 衝突のエネルギーにより 00:04:27.382 --> 00:04:29.548 惑星はとても高温になり 一部は気化します 00:04:31.479 --> 00:04:33.477 でもそのデータは 惑星らしくありませんでした 00:04:33.501 --> 00:04:34.924 とても奇妙だったのです 00:04:35.388 --> 00:04:37.785 惑星は円盤と奇妙に つながっていました 00:04:39.433 --> 00:04:42.220 この時 私は 強烈なワクワク感を覚えました 00:04:42.244 --> 00:04:45.945 とんでもない誤りが とても興味深いものだと分かるあの感覚です NOTE Paragraph 00:04:48.011 --> 00:04:49.339 それまでの計算では 00:04:49.363 --> 00:04:52.623 惑星がそれと分離した円盤を持っていると 想定していました 00:04:52.647 --> 00:04:55.072 衝突で月が生み出せるかを 調べながら 00:04:55.096 --> 00:04:57.497 円盤に含まれるものを 計算していたんです 00:04:58.828 --> 00:05:01.006 もはや そんな単純には 思えなくなりました 00:05:03.756 --> 00:05:06.839 私たちの犯していた過ちは 00:05:06.863 --> 00:05:11.144 惑星は常に惑星たる形状のはずだと 考えていたことでした 00:05:12.185 --> 00:05:14.784 その日 私は分かったのです 00:05:14.784 --> 00:05:19.415 巨大衝突によって まったく新しいものが生まれたのだと NOTE Paragraph 00:05:21.133 --> 00:05:22.959 「ユリーカ」の経験は 何度もありますが 00:05:23.655 --> 00:05:25.274 そこらのユリーカとは違います NOTE Paragraph 00:05:25.298 --> 00:05:26.465 (笑) NOTE Paragraph 00:05:26.489 --> 00:05:29.402 何が起ころうとしているのか 分かりませんでした 00:05:30.062 --> 00:05:32.214 眼前にあったのは この奇妙で新しい研究対象と 00:05:32.238 --> 00:05:35.019 それを解明しようとする挑戦でした 00:05:36.473 --> 00:05:39.387 未知と対峙した時に あなたならどうしますか? 00:05:40.054 --> 00:05:41.735 どこから手を付けますか? NOTE Paragraph 00:05:43.058 --> 00:05:44.827 私たちはすべてに疑問を投げかけました 00:05:45.400 --> 00:05:46.595 惑星とは? 00:05:46.619 --> 00:05:48.923 惑星が惑星でなくなるのは どういう状態なのか? 00:05:49.320 --> 00:05:52.191 新しい発想をいろいろ試しました 00:05:52.969 --> 00:05:55.153 これまでの古い考え方を 払拭する必要があり 00:05:55.177 --> 00:05:58.802 試すことにより 古いデータすべてを投げ棄て 00:05:58.826 --> 00:06:00.739 現実世界のすべての法則を捨てて 00:06:00.763 --> 00:06:03.048 探求のために心を解き放ちました 00:06:04.711 --> 00:06:06.637 そのような精神世界を生み出すことで 00:06:07.501 --> 00:06:10.077 とんでもないアイデアを試しては 00:06:11.233 --> 00:06:14.667 その結果を現実世界に 持ち帰って検証することができ 00:06:15.331 --> 00:06:16.685 こうして 学べました 00:06:19.423 --> 00:06:22.399 試すことが 大きな学びにつながったのです 00:06:22.880 --> 00:06:26.338 コンピュータ上のモデルに 研究室での実験を組み合わせて 00:06:26.362 --> 00:06:28.944 巨大衝突後に 地球は極めて高熱となり 00:06:28.968 --> 00:06:31.130 地表がないことが発見できたのです 00:06:31.154 --> 00:06:34.744 深さが増すにつれて密度が高まるような 厚いガス層があるだけです 00:06:35.289 --> 00:06:37.292 地球は木星のようだったかもしれません 00:06:37.316 --> 00:06:38.832 足で踏める固体はありません 00:06:40.373 --> 00:06:43.245 それは問題の ほんの一部にすぎませんでした 00:06:43.269 --> 00:06:45.643 問題全体を理解したいと 私は思いました 00:06:46.242 --> 00:06:50.153 巨大衝突で何が起きたのかを 調べる挑戦を 00:06:50.177 --> 00:06:51.960 他人任せにはできませんでした 00:06:52.719 --> 00:06:54.310 およそ2年がかりでした 00:06:55.191 --> 00:06:56.981 古いアイデアを捨て去り 00:06:57.733 --> 00:06:59.275 新しいアイデアを構築したことで 00:06:59.941 --> 00:07:01.825 データの意味を理解し それが月に対して 00:07:02.637 --> 00:07:04.446 どういう意味を持つかが分かりました NOTE Paragraph 00:07:05.811 --> 00:07:10.174 新しい種類の天体を発見したのです 00:07:11.168 --> 00:07:12.587 惑星ではありません 00:07:13.087 --> 00:07:14.582 惑星からできたものです 00:07:15.733 --> 00:07:18.251 惑星は自らの重力が十分に強力で 00:07:18.275 --> 00:07:20.845 その形を球体にできる天体です 00:07:20.869 --> 00:07:22.663 すべての物質が揃って回転します 00:07:23.415 --> 00:07:26.134 温度を上昇させ 回転を速めると 00:07:26.158 --> 00:07:29.971 赤道部が転換点に達するまで どんどん大きくなります 00:07:30.629 --> 00:07:32.271 転換点を越えると 00:07:32.295 --> 00:07:36.392 赤道部の素材は円盤状になります 00:07:36.953 --> 00:07:39.722 この時点で 定義の上では 惑星ではなくなっています 00:07:40.215 --> 00:07:42.610 回転は同期しなくなり 00:07:42.634 --> 00:07:45.295 大きくなるにつれ 形状は変化し続け 00:07:45.319 --> 00:07:47.286 惑星はすでに 何か別のものになっています NOTE Paragraph 00:07:48.771 --> 00:07:51.681 私たちの発見に名前を付けました 00:07:52.610 --> 00:07:53.933 「シネスティア」です 00:07:54.402 --> 00:07:56.584 ギリシャ神話のヘスティア 00:07:56.608 --> 00:07:58.914 炉とかまどの女神にちなんだのは 00:07:58.938 --> 00:08:01.220 この時に1つの地球として 成り立ったと考えたからです 00:08:01.244 --> 00:08:02.795 接頭辞は「すべて一緒」を意味し 00:08:02.819 --> 00:08:05.616 すべての素材同士をつなげる意味を 持たせています 00:08:06.640 --> 00:08:09.842 シネスティアは熱と自転が 00:08:09.866 --> 00:08:14.316 回転楕円体を維持できる限界を 超えた惑星の姿です NOTE Paragraph 00:08:15.691 --> 00:08:18.181 シネスティアを見たいですか? NOTE Paragraph 00:08:18.205 --> 00:08:20.244 (喝采) NOTE Paragraph 00:08:21.554 --> 00:08:25.486 シミュレーションの1つを 映像化したものですが 00:08:25.510 --> 00:08:29.804 それより前の巨大衝突により すでに原始の地球は高速で回転しています 00:08:30.663 --> 00:08:33.899 形状は変形していますが 表面に海洋があることから 00:08:33.923 --> 00:08:35.829 地球と認識できます 00:08:36.692 --> 00:08:40.549 衝突時のエネルギーが表面を蒸発させ 00:08:40.573 --> 00:08:42.095 水や大気 00:08:42.119 --> 00:08:46.042 そしてすべての気体が 数時間の内に混ぜ合わされます 00:08:47.414 --> 00:08:51.033 多くの巨大衝突でシネスティアが 発生することを発見しましたが 00:08:51.566 --> 00:08:54.543 このように明るく燃焼している時間は それほど長くはなく 00:08:54.567 --> 00:08:58.103 やがて冷やされ 凝集し惑星に戻ります 00:08:59.266 --> 00:09:01.689 地球のように岩でできた惑星の 成長過程では 00:09:01.713 --> 00:09:05.239 おそらくは1度あるいは複数回 シネスティアになったと考えられます NOTE Paragraph 00:09:07.338 --> 00:09:13.078 シネスティアは月の起源の問題を解き明かす 新しい方法をもたらしました 00:09:14.821 --> 00:09:21.736 月は巨大な気体となったシネスティアから 形成されたのだと私たちは提唱します 00:09:22.285 --> 00:09:25.355 気化した岩石が凝縮した― 00:09:25.379 --> 00:09:28.097 マグマの雨を受けて 月は成長したのです 00:09:29.198 --> 00:09:31.487 月と地球との特別なつながりは 00:09:31.511 --> 00:09:34.277 地球がシネスティアであった時に 00:09:34.301 --> 00:09:36.505 地球の内側で作られたからに 他なりません 00:09:37.457 --> 00:09:41.743 月はシネスティア内の軌道を 数年間 回っており 00:09:41.767 --> 00:09:43.384 見えなかったのかもしれません 00:09:44.622 --> 00:09:49.530 月がその姿を現したのは シネスティアが月の軌道において 00:09:49.554 --> 00:09:51.449 冷却され凝集された時です 00:09:54.652 --> 00:09:57.245 シネスティアが地球という惑星に 落ち着いたのは 00:09:57.269 --> 00:10:00.683 何百年にもおよぶ冷却の後です 00:10:02.990 --> 00:10:04.794 私たちの新しい理論では 00:10:04.818 --> 00:10:07.628 巨大衝突によって シネスティアが生まれ 00:10:07.652 --> 00:10:11.297 シネスティアが 2つの天体に分割して 00:10:11.321 --> 00:10:16.055 同位体元素の組成が等しい 地球と月が生まれたと考えます 00:10:17.420 --> 00:10:21.137 シネスティアは宇宙の至る所で 作られています 00:10:22.574 --> 00:10:28.155 私たちは想像を働かせることで そのことに気付きました 00:10:28.179 --> 00:10:33.082 私の周りの世界で 他に何を見落としているのでしょう? 00:10:33.106 --> 00:10:36.878 自分自身の想定のせいで 何が見えていないのでしょう? NOTE Paragraph 00:10:39.371 --> 00:10:41.665 次に月を見る時には 00:10:41.689 --> 00:10:43.348 思い出して下さい 00:10:43.372 --> 00:10:45.204 あなたが知っていると思うことが 00:10:46.320 --> 00:10:50.779 とても素晴らしい発見につながる 機会になるかもしれないのです NOTE Paragraph 00:10:53.167 --> 00:10:57.547 (拍手)