0:00:00.760,0:00:04.936 皆さんに医学の未来のことを[br]お話ししましょう 0:00:04.960,0:00:09.056 ただその前に その過去についても[br]ご紹介させてください 0:00:09.080,0:00:12.696 医学の近代史の大半 0:00:12.720,0:00:16.536 私たちは病気とその治療を 0:00:16.560,0:00:19.936 極めて単純なモデルに基づいて[br]考えてきました 0:00:19.960,0:00:22.656 実際に そのモデルは[br]単純すぎて 0:00:22.680,0:00:25.736 6つの言葉で表せるほどです 0:00:25.760,0:00:29.840 「病気に・なる・薬を・飲む・病原体を・殺す」 0:00:31.080,0:00:35.816 さて このモデルが優勢である理由は 0:00:35.840,0:00:38.456 もちろん 抗生物質のおかげです 0:00:38.480,0:00:41.656 みなさんはご存じないかも知れませんが 0:00:41.680,0:00:45.736 今年は米国に抗生物質が導入されてから[br]100周年の節目です 0:00:45.760,0:00:47.376 みなさんも 0:00:47.400,0:00:51.640 抗生物質が治療のあり方をすっかり[br]変えてしまったことをご存じでしょう 0:00:52.880,0:00:56.736 自然界に由来する [br]あるいは研究室で人工的に合成された 0:00:56.760,0:00:59.496 化学物質があり 0:00:59.520,0:01:02.776 それは身体を駆け巡り 0:01:02.800,0:01:05.576 標的を見つけ 0:01:05.600,0:01:07.256 狙いを定めるー 0:01:07.280,0:01:09.496 微生物か その一部かー 0:01:09.520,0:01:12.960 それから 鍵と鍵穴を解除してしまう 0:01:13.960,0:01:17.496 驚くべき巧みさと特異性で 0:01:17.520,0:01:21.816 そのようにして [br]以前なら 死に至る病だった 0:01:21.840,0:01:24.976 肺炎や 梅毒 そして結核といった病気は 0:01:25.000,0:01:29.040 治療可能な疾患となりました 0:01:30.080,0:01:31.560 肺炎なら 0:01:32.480,0:01:33.856 ペニシリンを投与し 0:01:33.880,0:01:35.416 すると病原菌は死んで 0:01:35.440,0:01:37.576 病気は治るのです 0:01:37.600,0:01:40.536 これは非常に魅力的なアイデアで 0:01:40.560,0:01:46.336 鍵と鍵穴のたとえも  何かを殺すということも[br]わかりやすかったので 0:01:46.336,0:01:48.336 あっという間に[br]生物学界を席巻しました 0:01:48.360,0:01:50.480 他に類を見ないような[br]変革でした 0:01:52.160,0:01:55.336 それから100年 0:01:55.360,0:01:58.816 私たちはこの単純なモデルを[br]何度も繰り返し 0:01:58.840,0:02:00.079 非感染性疾患や[br]糖尿病、高血圧、心疾患といった 0:02:00.103,0:02:04.223 慢性疾患の治療においても[br]再現しようとしてきました 0:02:05.120,0:02:08.758 確かに効果はありましたが[br]部分的なものでした 0:02:09.120,0:02:10.776 ご説明しましょう 0:02:10.800,0:02:13.696 人体で起こりうる 0:02:13.720,0:02:20.556 あらゆる全ての[br]化学反応を考えてみましょう 0:02:20.560,0:02:23.576 ほとんどの人はその種類は[br]数百万の単位だろうと考えます 0:02:23.600,0:02:24.896 ここでは100万とします 0:02:24.920,0:02:26.616 では 質問です 0:02:26.640,0:02:31.136 「あらゆる医薬品化合物、[br]医薬品を使うと 0:02:31.160,0:02:35.976 この反応のうち どれだけが標的となるのだろう?」 0:02:36.000,0:02:38.040 答えはたった250です 0:02:39.680,0:02:42.216 その他は未だ[br]謎に包まれています 0:02:42.240,0:02:48.416 言い換えれば この鍵と鍵穴の[br]メカニズムで標的にできるのは 0:02:48.440,0:02:52.560 体内で起こる化学反応のうち[br]たった0.025%だけというわけです 0:02:53.680,0:02:56.736 ヒトの生理学的現象は例えてみると 0:02:56.760,0:03:00.216 広大な電話回線網のようです 0:03:00.240,0:03:04.120 交信し合うノード(節点)[br]そして交信し合う部分たち 0:03:04.600,0:03:07.776 医薬化合物は 0:03:07.800,0:03:10.056 ある片隅にある 0:03:10.080,0:03:12.776 ネットワークの端 ―[br]末端で作用します 0:03:12.800,0:03:16.616 医薬品化学の全てといっても 0:03:16.640,0:03:20.416 カンザスのウィチタ局の[br]電話交換手が 0:03:20.440,0:03:23.400 10から15の回線を操っている[br]というようなものです 0:03:24.880,0:03:27.040 これをどう考えたら良いでしょう? 0:03:28.160,0:03:30.520 この考え方を新たなものに[br]変えてしまったら? 0:03:32.080,0:03:35.456 実際 自然界は私たちに 0:03:35.480,0:03:40.536 全く違ったやり方で[br]病気について考えるように 0:03:40.560,0:03:42.216 教えてくれるのです 0:03:42.240,0:03:45.960 疾病、薬、標的[br]といったような考え方ではなくー 0:03:47.080,0:03:50.456 自然界は階層的に[br]上へ上へと成り立っています 0:03:50.480,0:03:52.336 下へ ではなく上へと 0:03:52.360,0:03:58.600 その成り立ちは自律的、半自発的である[br]構成単位 細胞から始まります 0:03:59.640,0:04:02.856 これら自律的、半自発的構成単位は 0:04:02.880,0:04:07.696 同じく自律的、半自発的な[br]構成単位 「臓器」を生み出し 0:04:07.720,0:04:10.720 それらが集まり[br]「ヒト」を作り出します 0:04:11.920,0:04:15.816 ヒトは自然環境の中に居住し 0:04:15.840,0:04:19.440 自然環境もまた部分的に[br]自律的、半自発的だと言えます 0:04:20.920,0:04:26.486 下ではなく上へ向かって伸びる[br]この階層スキームの良いところは 0:04:26.490,0:04:31.214 病気についてもまた[br]別の考え方ができるようになることです 0:04:32.400,0:04:34.520 がんを例にとってみましょう 0:04:36.120,0:04:37.416 1950年代から 0:04:37.440,0:04:42.967 鍵と鍵穴モデルをがんに適用しようと[br]手あたり次第試みました 0:04:42.991,0:04:45.880 ガン細胞を殺そうと 0:04:45.905,0:04:50.252 あらゆる化学療法や標的治療を用いて 0:04:50.276,0:04:52.696 ご存知の通り効果がありました 0:04:52.720,0:04:54.578 白血病のような病気や 0:04:54.602,0:04:56.976 ある種の乳がんに対しては[br]有効でした 0:04:57.000,0:05:00.736 しかし やがてこのアプローチの[br]限界が見えてきました 0:05:00.760,0:05:03.256 ごく最近 この十数年来は 0:05:03.280,0:05:06.416 免疫系を利用することを考え始めています 0:05:06.440,0:05:09.536 がん細胞は他のどこにでもなく 0:05:09.560,0:05:11.616 人間の体の中で育つのですから 0:05:11.640,0:05:13.936 身体の機能を利用して 0:05:13.960,0:05:17.103 免疫系にがんを攻撃させるように[br]できないだろうか? 0:05:17.127,0:05:21.327 これは いくつかの素晴らしい[br]がん治療薬に結びつきました 0:05:22.480,0:05:25.814 そして 最後に自然環境という[br]階層がありましたね? 0:05:26.160,0:05:29.136 私たちはがんが環境に[br]影響を及ぼすとは考えませんが 0:05:29.160,0:05:34.056 環境が非常にがんを引き起こしやすい[br]例があります 0:05:34.080,0:05:35.280 刑務所です 0:05:36.160,0:05:41.296 孤独感、抑うつ状態[br]監禁状態 0:05:41.320,0:05:42.520 それらに加えて 0:05:43.400,0:05:45.960 一片の白紙にくるまれた 0:05:47.000,0:05:50.776 最も強力な神経刺激作用を有する物質である[br]ニコチンを 0:05:50.800,0:05:55.736 つまり最も嗜癖性の強い物質を加えると 0:05:55.760,0:05:58.556 がんを引き起こしやすい[br]環境が生まれます 0:05:59.520,0:06:01.976 しかしがんを抑制しやすい[br]環境というのもあります 0:06:02.000,0:06:04.696 そうした環境を作り出す努力も[br]なされてきました 0:06:04.720,0:06:07.482 乳がんにおいてホルモン環境を変えたり[br]といったことです 0:06:08.440,0:06:11.856 私たちは他のがんに対して[br]代謝環境を変えようとしてみています 0:06:11.880,0:06:14.296 あるいは他の疾患[br]例えば 鬱を例にとってみましょう 0:06:14.320,0:06:16.976 同じように 上へ上へと[br]階層を辿ります 0:06:17.000,0:06:21.016 1960〜70年代より[br]私たちは必死に 0:06:21.040,0:06:25.216 神経細胞の間で機能する分子である 0:06:25.240,0:06:27.416 セロトニン、ドーパミンを[br]抑制する方法を探し 0:06:27.440,0:06:29.256 鬱を治療しようとして来ました 0:06:29.280,0:06:31.720 それは効果がありましたが[br]限界に達しました 0:06:33.000,0:06:35.620 今や どうやら臓器 すなわち脳の 0:06:35.644,0:06:38.616 生理機能を変えることが必要だと分かりました 0:06:38.640,0:06:40.776 配線し直し 形を直すのです 0:06:40.800,0:06:43.376 そして 研究に研究を重ねて[br]話し合い療法が 0:06:43.400,0:06:45.115 その方法なのだと判明しました 0:06:45.139,0:06:47.395 研究に次ぐ研究で明らかになったのは 0:06:47.419,0:06:50.536 話し合い療法と投薬を組み合わせることが 0:06:50.560,0:06:52.989 どちらか一方単独よりも効果的だ[br]ということです 0:06:53.840,0:06:57.416 鬱状態を変えてしまうような[br]環境を作り出すことは可能でしょうか? 0:06:57.440,0:07:01.496 鬱を誘発するシグナルを[br]ブロックしてしまうことは? 0:07:01.520,0:07:07.000 この階層的に連鎖した組織を[br]上へと登っていきましょう 0:07:07.760,0:07:10.456 おそらく 本当に大切なことは 0:07:10.480,0:07:13.736 薬剤そのものではなく [br]治療を例える方法なのです 0:07:13.760,0:07:15.816 腎不全や糖尿病、高血圧[br]骨関節炎といった 0:07:15.840,0:07:19.536 慢性的な変性疾患の場合 0:07:19.560,0:07:23.056 何か病原体を殺す[br]というよりも 0:07:23.080,0:07:26.652 多分 私たちは 何かを成長させる[br]という例えを使うべきなのです 0:07:26.676,0:07:28.616 そして きっとそれこそが 0:07:28.640,0:07:31.136 私たちの医学の考え方を[br]再構成する鍵なのです 0:07:31.160,0:07:34.616 さて この変革するというアイデア 0:07:34.640,0:07:36.976 観点をシフトさせるということは 0:07:37.000,0:07:40.296 10年ほど前に私に突如起こった[br]私的な事件から始まりました 0:07:40.320,0:07:43.096 10年ほど前ー[br]私は人生の殆どランニングをしてきましたがー 0:07:43.120,0:07:45.096 土曜の朝も走りに出かけました 0:07:45.120,0:07:47.776 家に戻ると[br]体が動かなくなっていて 0:07:47.800,0:07:49.816 右膝は腫れ上がり 0:07:49.840,0:07:53.360 あの嫌な感じの[br]骨が軋む音が聞こえました 0:07:54.240,0:07:59.136 医師の特権で自分のMRIをオーダーできるので 0:07:59.160,0:08:03.136 翌週にはMRIを撮りました 0:08:03.160,0:08:07.456 すると骨の間の半月板軟骨組織が 0:08:07.480,0:08:10.896 完全に裂けており[br]骨自体も砕けてしまっていたのです 0:08:10.920,0:08:13.376 私に同情している皆さんに 0:08:13.400,0:08:15.216 お伝えします 0:08:15.240,0:08:19.416 もし私が観客の皆さんの[br]MRIを撮るとすると 0:08:19.440,0:08:21.496 6割の方の骨に変異があったり 0:08:21.520,0:08:24.296 軟骨がこのように変性したり[br]という兆候が見つかります 0:08:24.320,0:08:28.096 70歳までに85%の女性は 0:08:28.120,0:08:31.376 中度から強度の[br]軟骨変性が見られます 0:08:31.400,0:08:33.696 この中の50~60%の男性も 0:08:33.720,0:08:35.056 同様です 0:08:35.080,0:08:36.856 ですからこれは非常に[br]よくある疾患なのです 0:08:36.880,0:08:38.976 二番目の医師の特権は 0:08:39.000,0:08:42.135 自分の疾病について研究ができること 0:08:42.159,0:08:44.376 それで10年ほど前から 0:08:44.400,0:08:46.816 私たちはこの軟骨変性のプロセスを[br]研究室に持ち込んで 0:08:46.840,0:08:48.856 簡単な実験を始めました 0:08:48.880,0:08:51.336 この変性について[br]機械的な治療を試みました 0:08:51.360,0:08:56.176 軟骨の退行変性を逆行させるために 0:08:56.200,0:08:58.856 動物の膝に化学物質の注射を試みました 0:08:58.880,0:09:03.416 このとても長く辛いプロセスは結局 0:09:03.440,0:09:05.216 何も生み出しませんでした 0:09:05.240,0:09:06.440 何も起こらなかったのです 0:09:06.880,0:09:11.656 そして7年ほど前[br]オーストラリアから学生が研究に来ました 0:09:11.680,0:09:13.205 オーストラリア人たちの良いところは 0:09:13.205,0:09:16.521 常に世界を逆さまに見ているということです 0:09:16.546,0:09:17.703 (笑) 0:09:17.727,0:09:21.816 ダンは言いました[br]「ひょっとしたら機械的な問題じゃなく 0:09:21.840,0:09:25.840 化学物質の問題でもなく[br]幹細胞に問題があるのかも知れませんね」 0:09:27.760,0:09:29.656 言い換えると[br]彼には2つの仮説がありました 0:09:29.680,0:09:33.496 一つ目は 骨格幹細胞というものの存在 0:09:33.520,0:09:37.040 骨格幹細胞は全脊椎、骨、軟骨や 0:09:37.064,0:09:39.596 骨格の線維を形成します 0:09:39.620,0:09:41.485 ちょうど血液の幹細胞や 0:09:41.510,0:09:43.945 神経系の幹細胞があるように 0:09:43.969,0:09:47.529 二つ目は おそらくこの幹細胞の変性や機能異常が 0:09:47.554,0:09:51.056 骨軟骨関節炎といった非常によく見られる[br]疾患を引き起こしているのだということ 0:09:51.080,0:09:54.296 つまり 私たちは ずっと[br]治療薬を求めていたところが 0:09:54.320,0:09:56.936 実は探すべきものは細胞だったのでは[br]ないかということです 0:09:56.960,0:09:59.816 それで疾患モデルを変え 0:09:59.840,0:10:02.960 骨格幹細胞を探し始めたのです 0:10:03.560,0:10:06.056 長い話をはしょると 0:10:06.080,0:10:09.000 およそ5年前にこれらの細胞を見つけました 0:10:09.800,0:10:12.296 骨の内部に存在します 0:10:12.320,0:10:15.216 模式図と本物の画像です 0:10:15.240,0:10:17.176 白いのが骨で 0:10:17.200,0:10:20.216 これらの赤い柱と黄色の細胞は 0:10:20.240,0:10:23.496 一つの骨格幹細胞から現れた細胞で 0:10:23.520,0:10:26.816 軟骨と骨の柱が[br]一つの細胞から出来てきています 0:10:26.840,0:10:30.136 これらは興味深い細胞で[br]四つの性質があります 0:10:30.160,0:10:33.936 一つは それが予期された場所に[br]存在するということ 0:10:33.960,0:10:36.336 骨の表面下 0:10:36.360,0:10:37.896 軟骨組織の下層です 0:10:37.920,0:10:40.540 生物学では 場所が非常に重要です 0:10:40.564,0:10:44.816 そしてそこから 特定の場所に[br]移動し 骨や軟骨となるのです 0:10:44.840,0:10:46.096 それがまず一つ 0:10:46.120,0:10:47.656 次にこの性質も面白いのですが 0:10:47.680,0:10:50.336 これを骨格から取り出し 0:10:50.360,0:10:52.936 研究室の培養皿で培養できます 0:10:52.960,0:10:54.936 するとそれらは盛んに軟骨を[br]形成しようとします 0:10:54.960,0:10:57.682 今まではどうやっても[br]軟骨を作り出せなかったのに 0:10:57.706,0:10:59.625 これらの細胞は軟骨を[br]作りたくてたまらないのです 0:10:59.650,0:11:02.655 自らの周囲に軟骨の層を作り出します 0:11:02.680,0:11:04.296 それから三番目 0:11:04.320,0:11:08.496 骨折を驚異的に治癒します 0:11:08.520,0:11:11.816 これは骨折したマウスの骨です 0:11:11.840,0:11:13.376 自然に治癒させています 0:11:13.400,0:11:16.416 幹細胞は[br]黄色で示した骨と 0:11:16.440,0:11:19.056 白で示した軟骨を[br]ほぼ完全に修復しています 0:11:19.080,0:11:22.616 蛍光色素で染色すると 0:11:22.640,0:11:26.376 それらが特殊な[br]細胞接着剤のように働き 0:11:26.400,0:11:28.256 骨折部位に集まり 0:11:28.280,0:11:31.256 局所的に働いたあと[br]活動を終えるのが観察できます 0:11:31.280,0:11:33.616 四番目は 最も不吉なものです 0:11:33.640,0:11:37.776 それはその数が[br]突然減少するということです 0:11:37.800,0:11:42.496 唐突に 10分の1それから50分の1へ[br]老化と共に減少します 0:11:42.520,0:11:44.096 結局 何が起こったのかというと 0:11:44.120,0:11:46.976 観点のシフトが生じたのでした 0:11:47.000,0:11:49.736 治療薬の探求が 0:11:49.760,0:11:52.256 理論を発見するという結果に行き着きました 0:11:52.280,0:11:53.496 ある意味 0:11:53.520,0:11:56.136 私たちの研究は以下の概念に[br]基づいていたとは言えます 0:11:56.160,0:11:59.056 細胞、動物(個体)、環境 0:11:59.080,0:12:01.656 まず 骨幹細胞から見ると 0:12:01.680,0:12:05.120 関節炎を細胞レベルの疾病として考えています 0:12:05.840,0:12:08.126 では 次の疑問です[br]臓器は? 0:12:08.150,0:12:10.389 体の外に 臓器を作り出すことは[br]可能でしょうか? 0:12:10.413,0:12:14.256 (体外で作った)軟骨を損傷部位に移植することは[br]できるでしょうか? 0:12:14.280,0:12:16.256 そしてこれはおそらく[br]最も興味深い質問ですが 0:12:16.280,0:12:18.656 さらに階層を上へと昇りー[br]環境を作ることができるでしょうか? 0:12:18.680,0:12:21.736 骨は運動により再構築されますが 0:12:21.760,0:12:24.176 誰もそのために運動しませんよね? 0:12:24.200,0:12:29.376 それなら 受動的に骨に力を加えたり[br]弛めたりすることで 0:12:29.400,0:12:34.216 変性していく軟骨を再構築したり[br]再生したりできないでしょうか? 0:12:34.240,0:12:36.621 もっと興味深く [br]重要な問いかけは 0:12:36.645,0:12:40.096 このモデルを更に広げて[br]医学の外へと応用できないかというものです 0:12:40.120,0:12:44.176 ここで一貫して重要な概念は[br]「何かを殺すのではなく 0:12:44.200,0:12:45.640 何かを育成すること」です 0:12:46.280,0:12:51.096 これは私たちが未来の医学を[br]どう捉えるかについて 0:12:51.120,0:12:53.640 一連の 検討すべき、最も興味ある[br]疑問を浮かび上がらせます 0:12:55.040,0:12:57.920 あなたの薬が錠剤ではなく[br]細胞になったらどうですか? 0:12:58.840,0:13:01.216 それはどうやって培養するでしょう? 0:13:01.240,0:13:04.256 細胞のがん化はどう防ぐのでしょう? 0:13:04.280,0:13:08.176 細胞増殖の束縛を解くことの[br]問題点も耳にしてきましたが 0:13:08.200,0:13:10.976 自殺遺伝子をそれらの細胞に組み込み[br]ストップをかけることは 0:13:11.000,0:13:12.440 可能でしょうか? 0:13:13.040,0:13:16.976 「薬」が身体の外で生成された臓器であり 0:13:17.000,0:13:18.936 それが移植される[br]そんなことは可能でしょうか? 0:13:18.960,0:13:21.696 変性をそれで[br]止めることができるでしょうか 0:13:21.720,0:13:23.625 もし臓器が記憶を[br]必要としたら? 0:13:23.649,0:13:28.416 神経系疾患では[br]臓器が記憶を持っていた例があります 0:13:28.440,0:13:30.896 どうやってそうした記憶を[br]移植と共に戻すことが出来るでしょう? 0:13:30.920,0:13:32.736 臓器は貯蔵できるのでしょうか? 0:13:32.760,0:13:35.903 臓器はそれぞれの個人個人[br]専用に生成され 0:13:35.927,0:13:37.907 その体に戻されなければ[br]ならないのでしょうか? 0:13:38.520,0:13:41.136 そして 難しい問いです 0:13:41.160,0:13:42.970 環境が薬となることができるでしょうか? 0:13:44.160,0:13:45.816 環境を特許にできるでしょうか? 0:13:45.840,0:13:49.296 あらゆる文化で 0:13:49.320,0:13:52.256 呪術師は環境を薬として[br]用いてきましたね 0:13:52.280,0:13:54.600 そういう未来を[br]想像できるでしょうか 0:13:56.080,0:13:59.456 疾患治療モデルから話し始めましたので 0:13:59.480,0:14:02.176 モデル構築についてお話しして[br]締めくくりましょう 0:14:02.200,0:14:04.296 それは 科学者として当然行うことです 0:14:04.320,0:14:07.616 建築家がモデルを作る時 0:14:07.640,0:14:10.936 ある世界の模型を示しています 0:14:10.960,0:14:13.856 しかし科学者がモデルを作る時 0:14:13.880,0:14:16.404 ある世界の例えを示しているのです 0:14:17.600,0:14:21.456 そうして新たな見方を創造しようとします 0:14:21.480,0:14:25.600 つまり前者は大きさにおけるシフト[br]ところが後者は観点におけるシフトなのです 0:14:26.920,0:14:31.856 抗生物質はそのような[br]観点のシフトをもたらし 0:14:31.880,0:14:35.696 過去100年 私たちの[br]医学に対する考え方を 0:14:35.720,0:14:39.640 完全に彩り 捻じ曲げてしまいました 0:14:40.400,0:14:44.816 しかし 私たちには[br]未来の医学の新しいモデルが必要なのです 0:14:44.840,0:14:46.320 それが大事なことなのです 0:14:47.480,0:14:50.816 こんな言い方をよく見かけます 0:14:50.840,0:14:54.816 革新的なインパクトのあるー 0:14:54.840,0:14:56.816 疾患治療法が無い理由は 0:14:56.840,0:14:59.696 医薬品が[br]まだ十分に強力ではないからだ 0:14:59.720,0:15:01.080 それには一理あるでしょう 0:15:02.120,0:15:03.616 しかし本当の理由は 0:15:03.640,0:15:06.840 医薬についての考え方が[br]まだ十分に強力ではないからです 0:15:08.560,0:15:10.976 新薬が現れるのは確かに 0:15:11.000,0:15:14.776 素晴らしいことです 0:15:14.800,0:15:19.456 しかし 根本的に大切なことは[br]これら三つの概念なのです 0:15:19.480,0:15:23.296 「メカニズム、モデル、メタファー(例え)」 0:15:23.320,0:15:24.656 ありがとうございました 0:15:24.680,0:15:31.520 (拍手) 0:15:33.600,0:15:37.016 クリス・アンダーソン:[br]その「例え」がとても気に入りました 0:15:37.040,0:15:38.576 それはどう繋がるんですか? 0:15:38.600,0:15:41.736 テクノロジー界にはパーソナル医療について 0:15:41.760,0:15:43.896 多くの話題がありますね 0:15:43.920,0:15:47.336 これだけたくさんの医療データがあって[br]未来の治療では 0:15:47.360,0:15:51.856 あなた個人やあなたの遺伝子[br]その時の体調に特化するのでしょうか 0:15:51.880,0:15:55.816 そうしたものもあなたのモデルに[br]適用できるんでしょうか? 0:15:55.840,0:15:58.456 シッダールタ・ムカジー:興味深い質問ですね 0:15:58.480,0:16:00.696 ええ 医療のパーソナル化も考えました 0:16:00.720,0:16:02.256 遺伝子学に基づいてね 0:16:02.280,0:16:04.856 遺伝子は今日の医学において[br]またこの表現ですがー 0:16:04.880,0:16:07.856 強力なメタファーですから 0:16:07.880,0:16:11.616 遺伝子は医療のパーソナライゼーションを[br]もたらすと思います 0:16:11.640,0:16:14.736 しかし もちろん遺伝子は 0:16:14.760,0:16:18.576 人間という存在の[br]長い連鎖の最下部ですが 0:16:18.600,0:16:22.416 「最小の組織化された単位」はあくまでも細胞です 0:16:22.440,0:16:25.416 ですからこの方法で 医学に何かを提供するとすれば 0:16:25.440,0:16:28.256 細胞治療をパーソナライズすることを[br]考えなければならないのです 0:16:28.280,0:16:31.456 次に パーソナル臓器療法 0:16:31.480,0:16:35.296 そして究極的に 周囲の環境を[br]パーソナライズしてしまうことです 0:16:35.320,0:16:38.416 ですから全てのステージで 0:16:38.440,0:16:40.856 この例えが[br]根底にあるのです 0:16:40.880,0:16:43.261 パーソナライゼーションがすべてについてきます 0:16:43.285,0:16:48.016 クリス:あなたが「薬が細胞であるかもしれない」という時[br]それは錠剤ではないですね 0:16:48.040,0:16:50.296 それは自分の細胞でも有り得る[br]ということですか? 0:16:50.320,0:16:52.696 シッダールダ:もちろんです[br]クリス:それが幹細胞に変換されー 0:16:52.720,0:16:57.256 おそらくあらゆる薬や何かに対して[br]テストされ 準備される 0:16:57.280,0:16:59.816 シッダールダ:そしてこれは実際に[br]私たちがやっていることなのです 0:16:59.840,0:17:03.576 実際に起こっていて[br]私たちは遺伝子学から 0:17:03.600,0:17:07.415 遠ざかるのではなく 0:17:07.440,0:17:12.175 それを細胞、臓器、 環境などの 0:17:12.200,0:17:14.816 多次、半自発、自律システムに統合するのです 0:17:14.829,0:17:16.207 クリス:ありがとうございました 0:17:16.227,0:17:17.517 シッダールダ:こちらこそ ありがとうございました