初めまして 私は福島原発の災害に苦しんでいる 原発災害の地 23km地点の南相馬市で 「こころシェルター」という建築提言を行っています 一番最初のきっかけはですね メディアを通して 段ボールの空間 あるいはベニヤでできた空間で 体育館とか学校の教室に 多くの人々がひしめき合って 暮らしているのです これってすごいおかしいことだし 人間として絶対あってはいけないことだと 思ったんですね 多くの方や それからメディアの方 あるいは友人 それから政治家の方に働きかけて 「これはおかしいよ」と なぜおかしいかということに 誰も気がつかないんです そこに欠けているのは想像力なんですね 民主主義の根幹は想像力にあります 日本には長い間 平安室町に築いてきた お茶室という精神文化があるんです あるいは一輪の花を挿すことによって そこに小宇宙を作ったりとか あるいは武道 華道 茶道といった 人の心と向き合うような空間を 何百年に渡って築いてきた 誇り高き民族だと思うんです ところがですね こういう被災地になると このような暮らしになってしまうんです 私は長年建築の設計活動を通して これは最も恥ずべきことで 人間を全くないがしろにしている この人たちは一瞬にして不幸になった この人たちの心はどこに行ってしまうんだ 彼らにですね 人間らしい空間を 提供したいと思ったんです それで こういう空間を作りました 「こころシェルター」 基本的に三畳の空間です 一畳から十畳までの空間があります それは家族単位とか 夫婦単位によって 変化していきます それから その周辺の 例えば民家の調査もしました 一体この福島ではどういう民家が 築いて来られたのだろう あるいは どういう生活文化が ここで構築できてきたんだろう そういう調査をしながら 被災地にいる高齢者の方々と一緒に 手作りで日本の伝統工法による 真壁造りと言いますけど その工法に基づいて こういう住まいを作りました 「日本人にとって最も大事なものって何だろう」と 例えば 衣食住と言います 食においては やっぱり温かいご飯 これは絶対欠かせないだろう それから[衣]最低限の着物はいります それから住まいにおいて最も大事なことは まず第一点 私は靴を脱ぐことだと思うんですね 靴を脱いで座を形成する それを日本では「一座建立」と言います その座の空間にですね 正面に向き合う 昔は床の間とか仏間とか そういう精神空間と向き合う空間が あったのではないかということで ここでは床の間に焦点を当てて構成しています そこに一輪の花を生ける そうすると自分と大自然とが向き合って 心の会話ができるんですね 例えば自分の好きな書を掛けてみる 例えば思い出の品でも良いと思います あるいは自分の絵でも良いと思います あるいはアートの好きな人はアートワークでも良いんです そういう行為をしながら日本人は長い間 長い長い精神文化を築いてきた国なんですね これはですね 経済とか技術に関係ないことなんです 本来はもっと心と対話する空間 それからですね これは中学校の教室なんです 中学校の教室とは大体10人単位で 避難生活をしていました そうするとついつい引きこもってしまうんですね 食事をする時と それからトイレに行く時は外に出ます でも多くの人は引きこもってしまう 心を閉ざしてしまう 日本にはですね 縁側という良い空間があるんです 縁を結ぶ境界 縁側です 例えばそこに座ったことによって あるいは靴を脱いでここに上がることによって ほっと和む そこに温かいお茶が出る そうしたら 自然と会話が生まれるんですね そういう集会場はどうだろうっということで こういうのを作ってみました それから多くの方が ボランティアを含め 救援活動をしています これは岩手県の山田町というところで 今設計しています 消防団の家です 岩手県には 世界遺産になった 中尊寺金堂というものがあります 例えば京の都は 唐の都 長安をモデルにした南北軸で構成された町です 平泉は日本で初の都市計画の町だと私は思っています この哲学の背景にはですね 浄土の思想が横たわっています この町づくりは約100年続いた そういう哲学を継承してこのボランティア活動で 献身的に活動しているこの消防団のために 建築活動でできることはなんだろうということで 今 消防団の崇高な精神を生かした家を作っています 多くの方が「想定外」という言葉を使います それから「仮設」 嫌ですね こういう言葉 一瞬にして 一瞬が永遠じゃないですか 一瞬が宇宙じゃないですか これが日本の哲学なんです ですからわずか1日でも あるいは1ヶ月でも そこに住むということは その人にとって永遠の時間なんです 永遠の空間なんです そういうものを構築しながら 日本の住空間の美しさを表現したいと思っています [右手]が世界遺産になった中尊寺の金堂で [左手]が私が設計している消防団の住まいです 長い間 私は建築活動をして 「天地人に響く」 これは日本だと 生花をやっている方はよくわかってますね 「天」それから「大地」そして「人」 天地人を結ぶ 日本人は長い間 大自然と一体化することを 良しとし 嬉しいと思い その大自然の中に 自分を投影した国なんですね 例えばこのプロジェクト これは輝北 町の小さなコミュニティ施設 あるいは公民館です 建築がですね 都市が宇宙と響く あるいは自分たちのふるさとの山と響く あるいはその大地と何か関係を持っていく そういう空間は作れないだろうか 例えばこれは集合住宅です 約70人ぐらいのコミュニティを想定しています 屋根が緑になっています 木が生えます 土があります そこは広場になっているんです ですから建築そのものが 地形になり 大地になり 畑になったと思ってください それから中庭 中庭とは 日本には長いあいだ「坪」と言います― 小さな坪には 京都の坪庭がありますね その坪庭の中に宇宙を取り込む あるいはその大自然を自分の身近なところに惹きつける こういう庭の歴史もあります それから これは高齢者施設です 多くの人は 高齢者とは弱いという 肉体的弱さはあっても 精神的には老いも若きもないんですね そういう人と出会うような高齢者の施設です それからこれは保育園です 祈りの形をテーマにしています ですから東北で行われたこの災害は非常に 多分日本史上 すごいことだと思います ただ東北には古い文化があります 古い縄文文化 あるいはアイヌ文化 あるいはマタギの文化 あるいはもっと中世にさかのぼると もっともっと深い文化があるかもしれない そういう文化を掘り起こして ユーラシア大陸の受け皿として そのユーラシア大陸の複合性 多様性 そういうものと共存しながら 森の神 それから山の神 海の神 土地の神 それぞれの小さな神々と 響き合って 共演しながら 四角四面の技術でできた あるいは経済の法則でできた 建築の地域から脱却して 真に人間と生命に基づいた 新しい建築を提案していきたいなと思って 日々活動しています それでそういう建築をですね もう一回模索してはどうかなと思います みんな安易にダンボール 仮設住宅 仮設住宅はすごくひどいですね こんな経済大国であんなことあっていいんでしょうか 絶対ダメなんです ああいうのは ダメだって声をあげて そこにわずか一畳でも自分の宇宙が作れる わずか一畳でも大自然を抱えることができる そういうのを「一期一会」と言いますよね そういう空間をなぜ作らないんだ 行政も国も あるいはこの我々も そういうのに疑問を持って もっともっと自然と密接する あるいは自分の心の対話 あるいは人間の尊厳 その尊厳を侵しては絶対駄目 その尊厳と向き合う空間を作るにはどうしたらいいか そういったことに全力をかけて これからの東北の復興 あるいは東北が復興して かつ 世界のモデルになると思います その世界のモデルになるものになる 目先ではなくて 真に心に根ざす そういうものができないだろうかと 日頃から思っています そういう建築を目指して 私は頑張っていきたいと思います できることは小さなこと 例えば小さな家具一個でも 世界は作れます 小さな 例えば床板 あるいは壁のデザイン あるいは電柱 あるいは一本の木を植えること そういう身近なところに大きなヒントがあるし 大きな世界が横たわっている なぜそういうところに目を閉ざす そういう活動をしながら 「物こそ人なれ」 これはですね 物に人の心を込めるという意味なんです 物に人の心を 物を搾取しない 物を私有しない じゃなくて 物と人がどういう関係にあったら 幸せな関係が生まれるか そういう関係づくりの町づくり それから都市計画 それから個々の住宅 そういうのと向き合って 自分たちの生活の見直しを図りながら 最も我々の住まいに必要なもの それはなんだろう 私の行き着いたところは 日本の生活空間の最小限の形態は 畳の空間にあると思ってるんですね その畳があるが故に日本に礼儀という 礼の思想が伝わっている そういう古くからあるもの みんなが知っているもの 長い間共有してきたもの なぜかそういうところに あるいは古い民家の中に あるいは古いおじいちゃんのお話の中に あるいは神話の中に そういうのが宿っていると思います そういうものと真に取り組みながら 新しい東北の心を日本の心とし 世界の心にできたらいいかなと 日々思っています ありがとうございました (拍手) 模型です こういうのを毎日 小さな模型を作って 毎日たくさん作って これは100分の1 それから30分の1 それで現地でですね 実際1分の1の大きいのを作るんです こういうのを何個も作りながら検討しています みなさんも身近な仮設住居の中を 自分の小宇宙にするために 何かアイデアを持っていけば その仮設住居といえども 自分の世界が作れる その自分を 個を大事にすることが 他の幸せになると思います ですから そういうことに関心を持ってもらえたら ありがたいかなと思います どうもありがとうございました