1 00:00:00,130 --> 00:00:04,313 どんなオープンワールドなら プレイヤーに自由に探索させながら 2 00:00:04,353 --> 00:00:07,938 同時に、物語を進める重要な場所へ 誘導できるのか? 3 00:00:07,978 --> 00:00:10,862 これは任天堂が直面した 最大の課題だった 4 00:00:10,902 --> 00:00:15,745 初めてのオープンワールドゲーム 『ゼルダの伝説 Breath of the Wild』の開発時のことだ 5 00:00:15,785 --> 00:00:19,089 プレイヤーに与えたかったのは 自由と探検の感覚だ 6 00:00:19,129 --> 00:00:23,025 これはファミコンの初代『ゼルダの伝説』以来 シリーズになかった要素だ 7 00:00:23,065 --> 00:00:29,698 だが同時に、ゼルダ姫を救うという最大の目標に向かって プレイヤーが確実に進むようにもしたかった 8 00:00:29,738 --> 00:00:32,711 これを解決するのは簡単ではなかった 9 00:00:32,751 --> 00:00:38,935 任天堂は出だしの失敗や悪いプレイテストを経て ようやく現在知られている形に辿り着いたのだ 10 00:00:38,975 --> 00:00:43,668 オープンワールドの探索について 考え直すことになった作品だ 11 00:00:43,708 --> 00:00:48,274 実は任天堂はこの困難な開発プロセスの 経験を公開している 12 00:00:48,314 --> 00:00:52,787 2017 年、日本で開催された CEDEC の講演だ 13 00:00:52,827 --> 00:00:54,948 とても興味深い講演だった 14 00:00:54,988 --> 00:01:01,251 任天堂がゲーム設計と開発の肝心な詳細について 包み隠さず話すのは珍しいからだ 15 00:01:01,291 --> 00:01:05,099 だが残念ながら その情報にアクセスするのは非常に難しい 16 00:01:05,139 --> 00:01:09,289 講演映像はアップロードされず 記事はどれも日本語で書かれている 17 00:01:09,329 --> 00:01:13,682 唯一の英訳は Twitter のせいで メチャクチャになった要約スレだけだ 18 00:01:13,722 --> 00:01:19,322 さらに任天堂の要請によって 元のスライド写真は取り下げられている 19 00:01:19,362 --> 00:01:22,217 そこでこの間違いを 正すときが来たと思った 20 00:01:22,257 --> 00:01:26,121 ゼルダの新作『Tears of the Kingdom』の発売が 間近に迫るなか 21 00:01:26,161 --> 00:01:29,276 僕はかつての講演を復活させることにした 22 00:01:29,316 --> 00:01:33,323 講演の記事を色々とかき集めて 英訳してもらった 23 00:01:33,363 --> 00:01:37,007 インターネットアーカイブを使って 消えたスライドを再発見し 24 00:01:37,047 --> 00:01:39,397 モーショングラフィックスで 動きをつけた 25 00:01:39,437 --> 00:01:42,828 AI アップスケールで 古いスクリーンショットを復活させた 26 00:01:42,868 --> 00:01:47,293 では早速、僕はマーク・ブラウン GMTK mini へようこそ 27 00:01:47,333 --> 00:01:52,026 任天堂が『Breath of the Wild』の 最大の問題をどう解決したか紹介しよう 28 00:01:52,992 --> 00:01:59,449 任天堂はハイラルの馬鹿でかい世界マップを作り 好きな方向へ探索できるようにしたが 29 00:01:59,489 --> 00:02:03,953 なんとかしてプレイヤーを重要な場所へ 誘導する必要があった 30 00:02:03,993 --> 00:02:08,047 最初のアイデアは「点と線」のシステムを 使うことだった 31 00:02:08,087 --> 00:02:13,946 「点」はシーカータワーのことだ 巨大でネオンで輝くそびえ立つ尖塔だ 32 00:02:13,986 --> 00:02:18,663 これらは遠くからでもハッキリ見えるし プレイヤーに大きな恩恵がある 33 00:02:18,703 --> 00:02:21,740 頂上に行くと周辺の地図情報が 明らかになるのだ 34 00:02:21,780 --> 00:02:25,937 だから 15 本ある塔は 明確なプレイヤーの目印になって 35 00:02:25,977 --> 00:02:28,939 マップ周辺で効果的に導いてくれるはずだ 36 00:02:28,979 --> 00:02:32,255 「線」は塔と塔をつなぐ 経路と街道のことだ 37 00:02:32,295 --> 00:02:35,876 任天堂はその線に沿って 色々なイベントを配置できる 38 00:02:35,916 --> 00:02:41,950 プレイヤーが塔に向かって歩いていくと キャラ、敵の基地、その他の良いモノが見つかるだろう 39 00:02:41,990 --> 00:02:44,552 だがこのアイデアは…完全に失敗した 40 00:02:44,592 --> 00:02:47,597 誘導はできたが 実際は上手くいきすぎた 41 00:02:47,637 --> 00:02:52,259 テスターは一本道感や、塔への移動の 「やらされている感」が強いと感じた 42 00:02:52,299 --> 00:02:56,211 あからさまな導線に縛られているという 不満が多かった 43 00:02:56,251 --> 00:03:01,922 線から外れた人はただ道に迷い 調べる価値があるものにほとんど遭遇しなかった 44 00:03:01,962 --> 00:03:08,509 データもこれを裏付けた 任天堂がテスターの移動を記録し 探索した場所を示すヒートマップを作ると 45 00:03:08,549 --> 00:03:12,161 プレイヤーは全く異なる 2つのグループに分かれていた 46 00:03:12,201 --> 00:03:16,641 約 80% は塔をつなぐ街道を 忠実に辿っており 47 00:03:16,681 --> 00:03:20,467 残りの 20% はただ闇雲に 散策していた 48 00:03:20,507 --> 00:03:24,404 どちらのプレイスタイルも 任天堂が求めていたものではなかった 49 00:03:24,444 --> 00:03:27,393 そこでやり方を変えることにした 50 00:03:27,433 --> 00:03:31,130 シーカータワーへの移動を 常に促すのではなく 51 00:03:31,170 --> 00:03:37,815 多様な目印や、興味のある所へ誘導することで マップをあちこち移動させることができる 52 00:03:37,855 --> 00:03:41,701 祠、馬宿、敵の基地などだ 53 00:03:41,741 --> 00:03:47,641 灯に集まる蛾のように プレイヤーをそこへ引き寄せる引力が必要だった 54 00:03:47,681 --> 00:03:51,924 そこでまず、それぞれの場所が 明確にお得になるようにした 55 00:03:51,964 --> 00:03:54,817 祠をクリアすると 体力やスタミナが増える 56 00:03:54,857 --> 00:03:57,589 敵基地には武器がいっぱいある 57 00:03:57,629 --> 00:04:01,206 馬宿は当初 馬を登録するだけの場所だったが 58 00:04:01,246 --> 00:04:05,527 任天堂は馬宿の引力を強くするために 回復できるベッドやお店 59 00:04:05,567 --> 00:04:08,796 噂やサイドクエストをくれる NPC を追加した 60 00:04:08,836 --> 00:04:12,505 他の場所はそこにある素材が 立ち寄る引力になる 61 00:04:12,553 --> 00:04:18,276 任天堂はハートのような単純な回復アイテムを 意図的に削除したので、プレイヤーは森へ入って 62 00:04:18,316 --> 00:04:20,814 キノコや動物を狩る必要がある 63 00:04:20,854 --> 00:04:25,766 またルピーは極めて貴重なので プレイヤーは山や採石場へ行って 64 00:04:25,806 --> 00:04:29,209 高価な鉱石を掘って 店に売る必要がある 65 00:04:29,249 --> 00:04:32,211 この計画には他の調整も必要だった 66 00:04:32,251 --> 00:04:37,951 シーカータワーは巨大で見つけやすいが 小さな目印はそうではない 67 00:04:37,991 --> 00:04:42,282 そのため遠くや高所からでも 目立つようにする必要があった 68 00:04:42,322 --> 00:04:45,209 祠は独特な照明で光らせる 69 00:04:45,249 --> 00:04:47,748 焚き火の煙は高くのぼる 70 00:04:47,788 --> 00:04:51,463 敵の基地は巨大な頭蓋骨の形をした 岩に建設する 71 00:04:51,503 --> 00:04:55,021 馬宿には巨大な木製の 馬の像がある 72 00:04:55,061 --> 00:04:59,601 また一度に画面に映るシーカータワーは 通常1〜2本しかないが 73 00:04:59,641 --> 00:05:03,143 小さな目印は 近くに何十もあるだろうし 74 00:05:03,183 --> 00:05:07,655 オープンワールドで選択肢が多すぎると プレイヤーは手に負えなくなる 75 00:05:07,695 --> 00:05:12,440 そういう理由もあって 任天堂は「三角形の法則」を生み出した 76 00:05:12,480 --> 00:05:18,594 任天堂はハイラルの地形や風景を ほぼ三角形で構成した 77 00:05:18,634 --> 00:05:23,787 丘、山、岩石層はどれも ピラミッドや円錐のような形をしている 78 00:05:23,827 --> 00:05:26,940 これはワールドデザインに 様々な利点がある 79 00:05:26,980 --> 00:05:32,290 例えば、巨大な山に直面するたびに プレイヤーは登るか迂回するかを選択し 80 00:05:32,330 --> 00:05:34,934 探索中に意思決定をする必要がある 81 00:05:34,974 --> 00:05:39,024 またプレイヤーの目は自然と 三角形の先端へ向かうので 82 00:05:39,064 --> 00:05:42,666 頂上に特異物を置いて プレイヤーを引き寄せることもできる 83 00:05:42,706 --> 00:05:46,365 だが一番重要なのは 三角形が背後にあるものを隠すことだ 84 00:05:46,405 --> 00:05:50,395 つまりやることが多すぎて プレイヤーが圧倒されることはほぼない 85 00:05:50,435 --> 00:05:56,359 引力のある場所は画面に数ヶ所あるだけで 残りは丘や山の後ろに隠れている 86 00:05:56,399 --> 00:06:01,709 だがこれらの山へ向かっていくと 背後にあるものが徐々に見えてくる 87 00:06:01,749 --> 00:06:07,376 丘を登っても、迂回しても より多くの景色が見えてくる 88 00:06:07,416 --> 00:06:09,556 これは興味深い結果をもたらした 89 00:06:09,596 --> 00:06:15,445 新たな場所が見えてくるにつれ 驚きと好奇心が絶えず生まれてくるのだ 90 00:06:15,485 --> 00:06:21,558 プレイヤーは1つの目印に向かっていても 移動すると2〜3の新たな場所が現れる 91 00:06:21,598 --> 00:06:25,241 地平線に祠が見えたり 角に敵の基地が見えたり 92 00:06:25,281 --> 00:06:29,330 特徴的な岩や 山頂からの奇妙な景色が見えるかもしれない 93 00:06:29,370 --> 00:06:36,082 どこに行って何をしても、新たなものが現れて 目を釘付けにし、プレイヤーを引き寄せるだろう 94 00:06:36,122 --> 00:06:41,449 新たな目印に気を取られ、さっきの予定を捨てて 新しい場所へ行くかもしれない 95 00:06:41,489 --> 00:06:47,198 終わったらどこへ行くつもりだったか思い出して 戻ろうとするが、また気を取られるだけだ 96 00:06:47,238 --> 00:06:50,290 いずれにしても 連鎖反応が発生する 97 00:06:50,330 --> 00:06:52,663 発見の無限ループだ 98 00:06:52,703 --> 00:06:55,458 目印によるパン屑の道だ 99 00:06:55,498 --> 00:07:00,038 いずれもマップをゆっくり移動する要因になる 中毒的な探索が続き 100 00:07:00,078 --> 00:07:03,927 「おっ 何だあれ?」「おっ 何だあれ?」 「おっ 何だあれ?」 101 00:07:03,967 --> 00:07:08,240 そしていつの間にか… シーカータワーに着いていた! 102 00:07:08,280 --> 00:07:12,222 任天堂が最初に行かせようとした場所だ 103 00:07:12,262 --> 00:07:17,422 この引力のある目印システムでは プレイヤーが点から点へ移動するのは同じだが 104 00:07:17,462 --> 00:07:23,884 今回は特定の線を辿るのではなく 単に面白そうなパン屑の目印を辿るようになった 105 00:07:23,924 --> 00:07:28,835 それが最終的に『BotW』の一番重要な場所へ プレイヤーを導くのだ 106 00:07:28,875 --> 00:07:33,688 また塔を辿ることでプレイヤーは やらされている感を感じていたが 107 00:07:33,728 --> 00:07:38,457 目印を散りばめる手法によって より自然で、プレイヤー主導になった 108 00:07:38,497 --> 00:07:45,201 プレイヤーは自分の好奇心、今の目的、気分に基づいて 自然と行きたい場所を選ぶ 109 00:07:45,241 --> 00:07:48,702 場所の引力は 必要に応じて変化する 110 00:07:48,742 --> 00:07:55,652 強くなりたい人にとっては、馬宿や塔よりも 祠や敵基地の引力の方が高くなる 111 00:07:55,692 --> 00:07:59,957 そして夜になると他の場所が目立って 引力が変わる 112 00:07:59,997 --> 00:08:06,236 プレイヤーは特定の目印や目的の強制感を感じることなく 行きたい場所に移動できた 113 00:08:06,276 --> 00:08:09,737 任天堂のヒートマップでも この改善は明らかだった 114 00:08:09,777 --> 00:08:14,240 「80 対 20」というゲーム体験の 厄介な二極化はなくなり 115 00:08:14,280 --> 00:08:17,343 誰もが任天堂の理想通りにプレイした 116 00:08:17,383 --> 00:08:22,924 プレイヤーは様々な場所を自由に探索し 好奇心に従って目印から目印へ移動したが 117 00:08:22,964 --> 00:08:26,931 最終的にほぼ全てのプレイヤーが 重要な場所に辿り着けた 118 00:08:26,971 --> 00:08:29,800 僕も『BotW』をプレイして これを実感した 119 00:08:29,840 --> 00:08:36,669 特に誘導されているとは全く感じなかったし ただ好奇心に従って思うがままに探索していた 120 00:08:36,709 --> 00:08:41,993 だがそれでも僕は重要な場所に遭遇し 物語が常に進んでいった 121 00:08:42,348 --> 00:08:45,568 これは任天堂にとって初めての ちゃんとしたオープンワールドゲームだった 122 00:08:45,608 --> 00:08:49,476 チームには学ぶことがたくさんあった 講演の後半では—— 123 00:08:49,516 --> 00:08:54,503 任天堂は規模と密度を把握するために 最初は Google マップのデータを使って 124 00:08:54,543 --> 00:09:00,235 リンクを任天堂の地元京都で走らせたり 日本の有名な姫路城を登らせたりしたと説明した 125 00:09:00,275 --> 00:09:05,583 また大規模チームが1つのマップで共同作業するために 新しいツールを作ったことを紹介した 126 00:09:05,623 --> 00:09:11,016 だがプレイヤーに具体的な経験をさせたいという 願望から生まれた巧妙な設計によって 127 00:09:11,056 --> 00:09:14,193 『BotW』の最大の問題は解決されたのだ 128 00:09:14,233 --> 00:09:19,030 任天堂は誘導と探索のバランスが美しい オープンワールドゲームを作った 129 00:09:19,070 --> 00:09:23,466 自由な冒険の感覚は『エルデンリング』以来 見てないが 130 00:09:23,506 --> 00:09:26,850 ほぼ確実に『Tears of the Kingdom』で 見られるだろう 131 00:09:26,890 --> 00:09:30,699 今週後半に遊べるのが楽しみだ ご視聴ありがとう