1 00:00:00,471 --> 00:00:02,955 古代に書かれた多くの書籍は 2 00:00:02,955 --> 00:00:06,270 もとの姿のまま今日あるわけではありません 3 00:00:06,270 --> 00:00:09,789 それら書籍は中世の書記官たちが何度も何度も書き写すことで受け継がれてきたのです 4 00:00:09,789 --> 00:00:11,788 それら書籍は中世の書記官たちが何度も何度も書き写すことで受け継がれてきたのです 5 00:00:11,788 --> 00:00:14,438 ここでアルキメデスについて着目してみましょう 6 00:00:14,438 --> 00:00:16,204 彼はギリシャの偉大な数学者です 7 00:00:16,204 --> 00:00:19,206 数学者アルキメデスについて 私たちが知りえるすべてのことは 8 00:00:19,206 --> 00:00:21,904 たった3冊の本に基づいています 9 00:00:21,904 --> 00:00:23,820 それらは A・B・C写本と呼ばれています 10 00:00:23,820 --> 00:00:28,653 このうちA写本は1564年に あるイタリア人の人文学者が紛失し 11 00:00:28,653 --> 00:00:31,456 B写本はローマの北約100マイルにあるヴィテルボの 12 00:00:31,456 --> 00:00:37,288 教皇図書館にあると1311年に確認されたきり 行方が分かっていません 13 00:00:37,288 --> 00:00:41,585 現在C写本のみが1906年に発見されており 14 00:00:41,585 --> 00:00:44,134 ボルティモアの私の所にやってきました 15 00:00:44,134 --> 00:00:48,260 1999年1月19日のことでした 16 00:00:48,260 --> 00:00:50,678 これがC写本です 17 00:00:50,678 --> 00:00:55,847 現在C写本はこの本の中にあります 18 00:00:55,847 --> 00:00:57,297 言わば埋もれた宝です 19 00:00:57,297 --> 00:00:59,632 なぜなら この本は実際には祈祷書で 20 00:00:59,632 --> 00:01:02,596 ヨハネス・ミロネスという男性の手によって 21 00:01:02,596 --> 00:01:06,213 1229年4月14日に完成しました 22 00:01:06,213 --> 00:01:08,698 彼は祈祷書を作るのに羊皮紙を用いましたが 23 00:01:08,698 --> 00:01:11,113 新しい羊皮紙を用いませんでした 24 00:01:11,113 --> 00:01:14,427 彼はそれまでの写本の羊皮紙を再利用したのです 25 00:01:14,427 --> 00:01:16,164 再利用した写本は7冊でした 26 00:01:16,164 --> 00:01:19,647 アルキメデスのC写本がその7冊のうちの一冊だったのです 27 00:01:19,647 --> 00:01:25,114 彼はアルキメデスの写本や他の写本をばらばらにし 28 00:01:25,114 --> 00:01:28,497 その中のすべての文章を消し 29 00:01:28,497 --> 00:01:30,915 その羊皮紙を中央で裁断して 30 00:01:30,915 --> 00:01:33,159 ごちゃ混ぜにし 31 00:01:33,159 --> 00:01:35,077 さらに90度回転させてから 32 00:01:35,077 --> 00:01:37,129 その上に祈りの言葉を書きました 33 00:01:37,129 --> 00:01:38,826 700年間失われていた 34 00:01:38,826 --> 00:01:43,174 この7冊の写本が今ここにあります 35 00:01:43,174 --> 00:01:46,423 この祈祷書は1906年 36 00:01:46,423 --> 00:01:49,150 ヨハン・ルーズヴィー・ハイベアによって発見されました 37 00:01:49,150 --> 00:01:50,591 彼は虫眼鏡だけを用いて 38 00:01:50,591 --> 00:01:53,475 できるだけの文章を書き起こしました 39 00:01:53,475 --> 00:01:56,657 そして彼はこの写本から2つの文章を見つけました 40 00:01:56,657 --> 00:01:58,425 それらは変わった文章でした 41 00:01:58,425 --> 00:02:00,025 その2つの文章は写本A・Bのものではなく 42 00:02:00,025 --> 00:02:01,723 アルキメデスによる未知の文章でした 43 00:02:01,723 --> 00:02:04,958 これらは「方法」と「ストマキオン」と呼ばれています 44 00:02:04,958 --> 00:02:07,227 これらは世界的に有名な写本となりました 45 00:02:07,227 --> 00:02:09,042 この本の状態は良くないことが 46 00:02:09,042 --> 00:02:11,756 お分かりかと思います 47 00:02:11,756 --> 00:02:15,226 ハイベアが見出した後 20世紀に 48 00:02:15,226 --> 00:02:16,958 本の状態は悪化しました 49 00:02:16,958 --> 00:02:18,475 上塗りされ 50 00:02:18,475 --> 00:02:21,558 形も崩れてしまっています 51 00:02:21,558 --> 00:02:25,308 明らかに修復不可能に見えます 52 00:02:25,308 --> 00:02:27,042 この本は適切な機関に保管されていると 53 00:02:27,042 --> 00:02:29,707 皆さんは思うでしょうが 54 00:02:29,707 --> 00:02:31,893 実際は違うのです 55 00:02:31,893 --> 00:02:36,525 1998年この本はある個人所有者に購入されました 56 00:02:36,525 --> 00:02:38,275 なぜ彼はこの本を買ったのでしょう? 57 00:02:38,275 --> 00:02:41,812 彼は損なわれていたこの本を保存したかったのです 58 00:02:41,812 --> 00:02:45,058 そして誰もが見れるようにしたかった 59 00:02:45,058 --> 00:02:49,724 手の届かないものを自由に見られるように 60 00:02:49,724 --> 00:02:52,859 彼は信念にしたがって行動しました 61 00:02:52,859 --> 00:02:57,391 古代ギリシャのアルキメデスについて 知ろうとする人はあまりいませんが 62 00:02:57,391 --> 00:03:00,075 少なくとも知る機会はあるべきです 63 00:03:00,075 --> 00:03:03,374 そこで彼はアルキメデスを愛好する仲間を集め 64 00:03:03,374 --> 00:03:05,510 彼らの仕事への報酬を約束しました 65 00:03:05,510 --> 00:03:07,208 これは高くつく仕事でしたが 66 00:03:07,208 --> 00:03:10,678 皆さんが思うほどではありませんでした 67 00:03:10,678 --> 00:03:12,843 彼らはお金のために集まったわけではなく 68 00:03:12,843 --> 00:03:14,662 アルキメデスのために集まったのですから 69 00:03:14,662 --> 00:03:16,378 多様な経歴の持ち主が集まりました 70 00:03:16,378 --> 00:03:18,561 ある人は素粒子物理学を専門とし 71 00:03:18,561 --> 00:03:20,127 またある人は古典物理学を専攻していました 72 00:03:20,127 --> 00:03:22,095 書籍の修復家もいましたし 73 00:03:22,095 --> 00:03:24,677 古代数学者や 74 00:03:24,677 --> 00:03:26,594 データの管理者 75 00:03:26,594 --> 00:03:29,511 科学的画像処理技術を持つ人や プログラムの管理者もいました 76 00:03:29,511 --> 00:03:33,067 彼らは協力してこの写本に取り組みました 77 00:03:33,067 --> 00:03:36,878 最初の問題は保存についてでした 78 00:03:36,878 --> 00:03:39,311 この問題は避けて通れないものでした 79 00:03:39,311 --> 00:03:41,511 本の背はのり付けされていました 80 00:03:41,511 --> 00:03:43,712 この写真をよくご覧ください 81 00:03:43,712 --> 00:03:45,760 下半分はかなり変色しています 82 00:03:45,760 --> 00:03:47,128 使われていた接着剤はにかわでした 83 00:03:47,128 --> 00:03:48,513 もし皆さんが修復士ならこの接着剤を 難なく取り除けるでしょう 84 00:03:48,513 --> 00:03:50,645 もし皆さんが修復士ならこの接着剤を 難なく取り除けるでしょう 85 00:03:50,645 --> 00:03:54,010 上半分は木工ボンドで接着されていました 86 00:03:54,010 --> 00:03:56,127 成分は酢酸ビニル樹脂エマルジョンで 87 00:03:56,127 --> 00:03:58,794 一度乾燥すると水には溶けません 88 00:03:58,794 --> 00:04:01,960 したがって羊皮紙自体よりも接着部は頑丈だったのです 89 00:04:01,960 --> 00:04:05,311 このため撮像の前に まずは本を分解しなければならなかったのです 90 00:04:05,311 --> 00:04:06,760 このため撮像の前に まずは本を分解しなければならなかったのです 91 00:04:06,760 --> 00:04:09,611 分解には4年間が費やされました 92 00:04:09,611 --> 00:04:13,144 皆さんこれは貴重な一枚ですよ 93 00:04:13,144 --> 00:04:15,915 (笑) 94 00:04:15,915 --> 00:04:20,181 また別の問題として ろうを取り除かなければなりませんでした 95 00:04:20,181 --> 00:04:22,416 この本はギリシャ正教会で礼拝時に使用されており 96 00:04:22,416 --> 00:04:24,157 その際彼らはロウソクのろうを用いていたからです 97 00:04:24,157 --> 00:04:25,468 その際彼らはロウソクのろうを用いていたからです 98 00:04:25,468 --> 00:04:27,331 ろうは汚れており 99 00:04:27,331 --> 00:04:28,564 上から撮像は難しく 100 00:04:28,564 --> 00:04:31,899 細心の注意を払って ろうを全て そぎ落とす必要がありました 101 00:04:31,899 --> 00:04:33,801 この本の状態がどんなに悪いか 102 00:04:33,801 --> 00:04:36,515 正確にお伝えするのは難しいですが 103 00:04:36,515 --> 00:04:39,281 しばしば断片が欠けることもありました 104 00:04:39,281 --> 00:04:41,631 普通の本ならそこまで心配しないでしょうが 105 00:04:41,631 --> 00:04:44,631 この欠片にはアルキメデスの 貴重な文章が載っているかもしれず 106 00:04:44,631 --> 00:04:46,930 小さな破片でさえ 107 00:04:46,930 --> 00:04:51,671 私たちは正しい場所になんとか復元しました 108 00:04:51,671 --> 00:04:55,381 分解を終え 私たちは撮像の作業に取り掛かりました 109 00:04:55,381 --> 00:04:56,881 私たちはその写本を 110 00:04:56,881 --> 00:04:58,909 14の波長の光で撮像を試みました 111 00:04:58,909 --> 00:05:02,815 当てる光の波長によって 112 00:05:02,815 --> 00:05:04,031 見えるものが違います 113 00:05:04,031 --> 00:05:05,598 この写真は 114 00:05:05,598 --> 00:05:08,115 あるページを14の波長で見たときの画像ですが 115 00:05:08,115 --> 00:05:10,248 どの波長でもうまく撮像できませんでした 116 00:05:10,248 --> 00:05:14,665 それで私たちは複数の画像を併せて処理することにし 117 00:05:14,665 --> 00:05:17,965 2つの画像を1つの画面上に表示しました 118 00:05:17,965 --> 00:05:20,798 これはアルキメデスの2つの異なる原稿の画像です 119 00:05:20,798 --> 00:05:22,614 左の画像は 120 00:05:22,614 --> 00:05:23,965 赤い可視光画像です 121 00:05:23,965 --> 00:05:25,877 そして右の画像は紫外線画像です 122 00:05:25,877 --> 00:05:27,017 右の画像では 123 00:05:27,017 --> 00:05:29,465 文章をいくつか読みとるができます 124 00:05:29,465 --> 00:05:32,447 この2つの画像をコンピューター上で合成すると 125 00:05:32,447 --> 00:05:35,265 羊皮紙はどちらの画像でも 126 00:05:35,265 --> 00:05:37,140 明るく写っています 127 00:05:37,140 --> 00:05:40,156 祈祷書はどちらの画像でも暗く写っており 128 00:05:40,156 --> 00:05:41,853 合成しても暗く写りますが 129 00:05:41,853 --> 00:05:45,204 アルキメデスの文章は一方では暗く 他方では明るく写っています 130 00:05:45,204 --> 00:05:47,604 そして合成後は暗くしかし赤く写ります 131 00:05:47,604 --> 00:05:49,871 こうするとかなり明瞭に解読することができます 132 00:05:49,871 --> 00:05:52,713 これがその見え方です 133 00:05:52,713 --> 00:05:56,055 これは画像処理の前後を比較したものです 134 00:05:56,055 --> 00:05:59,037 この様なスクリーン上では読み取ることはできませんね 135 00:05:59,037 --> 00:06:01,656 拡大 更に拡大 136 00:06:01,656 --> 00:06:05,204 拡大 拡大 137 00:06:05,204 --> 00:06:07,272 さあこれで読み取ることができますね 138 00:06:07,272 --> 00:06:13,620 (拍手) 139 00:06:13,620 --> 00:06:17,200 同じ2つの画像を別の方法で処理することで 140 00:06:17,200 --> 00:06:19,770 祈祷書の文章を消すことができます 141 00:06:19,770 --> 00:06:20,788 これはとても重要な資料です  なぜなら写本の中の図形は 142 00:06:20,788 --> 00:06:23,771 これはとても重要な資料です  なぜなら写本の中の図形は 143 00:06:23,771 --> 00:06:26,238 アルキメデスが紀元前4世紀に砂に描いた 図形を伝える唯一のものだからです 144 00:06:26,238 --> 00:06:29,055 アルキメデスが紀元前4世紀に砂に描いた 図形を伝える唯一のものだからです 145 00:06:29,055 --> 00:06:32,094 それが今ご覧いただいている画像です 146 00:06:32,094 --> 00:06:34,438 赤外線・紫外線や 147 00:06:34,438 --> 00:06:37,104 不可視光線を用いた撮像技術でも 148 00:06:37,104 --> 00:06:39,704 このような金泊の上から撮像をすることはできません 149 00:06:39,704 --> 00:06:41,557 ではどのように撮像をするかというと 150 00:06:41,557 --> 00:06:43,520 私たちは写本について 151 00:06:43,520 --> 00:06:47,807 蛍光X線分析を使うことにしました 152 00:06:47,807 --> 00:06:50,821 左の図形にX線があたると 153 00:06:50,821 --> 00:06:54,673 原子殻から電子がはじき出されます 154 00:06:54,673 --> 00:06:56,671 そして電子はいなくなり 155 00:06:56,671 --> 00:07:00,306 電子がいなくなったところに 外側にある原子殻から別の電子が 156 00:07:00,306 --> 00:07:02,788 飛び込んでその位置を占めます 157 00:07:02,788 --> 00:07:04,221 そしてこのとき 158 00:07:04,221 --> 00:07:07,055 原子から電磁波が放出されます 159 00:07:07,055 --> 00:07:08,487 これもX線の一つで 160 00:07:08,487 --> 00:07:11,138 X線が衝突した原子に固有の 161 00:07:11,138 --> 00:07:13,020 X線となります 162 00:07:13,020 --> 00:07:15,188 ここで得たいX線は 163 00:07:15,188 --> 00:07:16,921 鉄のX線です 164 00:07:16,921 --> 00:07:18,788 インクには鉄が含まれており 165 00:07:18,788 --> 00:07:20,471 鉄のX線が紙面のどこから発生したかを 166 00:07:20,471 --> 00:07:23,055 位置づけることができれば 167 00:07:23,055 --> 00:07:25,121 鉄の地図を描くことができ 168 00:07:25,121 --> 00:07:27,720 画像を読み取ることができるのです 169 00:07:27,720 --> 00:07:32,055 ただし この方法には強力な光源が必要となります 170 00:07:32,055 --> 00:07:35,429 そこでカリフォルニアにある スタンフォード・シンクロトロン放射光研究所に 171 00:07:35,429 --> 00:07:36,871 文献を持ち込みました 172 00:07:36,871 --> 00:07:38,439 それは粒子加速器です 173 00:07:38,439 --> 00:07:40,171 電子は一方向に周回し 174 00:07:40,171 --> 00:07:41,788 陽電子は反対方向に周回しています 175 00:07:41,788 --> 00:07:43,104 真中でそれら2つが出会うと 176 00:07:43,104 --> 00:07:45,540 チャームクォークやタウレプトンのような 177 00:07:45,540 --> 00:07:47,770 原子よりさらに小さい粒子ができます 178 00:07:47,770 --> 00:07:50,792 資料にビームをあてようとしていたのではありません 179 00:07:50,792 --> 00:07:54,340 電子が光速で回る時に 180 00:07:54,340 --> 00:07:55,607 X線が発生します 181 00:07:55,607 --> 00:07:58,257 これは太陽系で最も強い光源です 182 00:07:58,257 --> 00:08:00,206 この現象をシンクロトロン放射と言い 183 00:08:00,206 --> 00:08:02,024 一般にタンパク質などの物質を見るときに 184 00:08:02,024 --> 00:08:03,691 用いられます 185 00:08:03,691 --> 00:08:07,688 ここで私たちが見たかったのは鉄の原子です 186 00:08:07,688 --> 00:08:10,557 それによって資料を読むことができると考えました 187 00:08:10,557 --> 00:08:12,855 そしてなんと 私たちは解読に成功したのです 188 00:08:12,855 --> 00:08:16,303 1ページを解読するのに17分かかりました 189 00:08:16,303 --> 00:08:18,958 さて 私たちが何を発見したと思いますか? 190 00:08:18,958 --> 00:08:21,140 アルキメデスによるテクストの一つが 「ストマキオン」と呼ばれていますが 191 00:08:21,140 --> 00:08:22,943 アルキメデスによるテクストの一つが 「ストマキオン」と呼ばれていますが 192 00:08:22,943 --> 00:08:25,357 この「ストマキオン」はA写本やB写本には存在しません 193 00:08:25,357 --> 00:08:27,776 それにはこんな正方形が書かれていました 194 00:08:27,776 --> 00:08:29,569 この正方形は完全な正方形であり 195 00:08:29,569 --> 00:08:31,590 14個の小片に分けられていますが 196 00:08:31,590 --> 00:08:34,373 彼がこの14個の小片で何をしようとしたのかは不明でした 197 00:08:34,373 --> 00:08:36,557 それがどうやら分かったのです 198 00:08:36,557 --> 00:08:38,324 彼はこの14個の小片を組み替え 199 00:08:38,324 --> 00:08:40,857 正方形を作る方法は何通りあるのかを 200 00:08:40,857 --> 00:08:43,184 試そうとしたのです 201 00:08:43,184 --> 00:08:46,686 誰か答えの分かる人はいらっしゃいますか? 202 00:08:46,686 --> 00:08:52,048 答えは17,152通り 対称となるものを除くと536通りです 203 00:08:52,048 --> 00:08:54,415 ここで重要なポイントは 204 00:08:54,415 --> 00:08:58,129 この問題が数学の組み合わせ論の 最古の研究だということです 205 00:08:58,129 --> 00:09:01,893 組み合わせ論は数学の素晴らしくかつ面白い一分野です 206 00:09:01,893 --> 00:09:05,128 本当に驚くべきことにこの写本を通して 207 00:09:05,128 --> 00:09:07,497 書士が再利用した 208 00:09:07,497 --> 00:09:08,915 他の写本を 209 00:09:08,915 --> 00:09:11,481 見つけることができたのです 210 00:09:11,481 --> 00:09:14,413 そしてその一つはヒュペレイデスの文章を含む写本でした 211 00:09:14,413 --> 00:09:18,781 ヒュペレイデスは紀元前4世紀のアテナイ人の雄弁家です 212 00:09:18,781 --> 00:09:21,198 彼はデモステネスと同時期の人で 213 00:09:21,198 --> 00:09:25,597 紀元前338年彼はデモステネスとともに 214 00:09:25,597 --> 00:09:27,281 マケドニア王フィリッポスの軍事力に対して 215 00:09:27,281 --> 00:09:29,281 立ち向かいました 216 00:09:29,281 --> 00:09:32,930 そしてアテネとテーベはマケドニア王フィリッポスと 戦うことになりました 217 00:09:32,930 --> 00:09:34,198 これは賢明な行動とはいえません 218 00:09:34,198 --> 00:09:37,631 マケドニア王には のちにアレクサンダー大王となる息子がいたからです 219 00:09:37,631 --> 00:09:39,914 アテネ・テーベの連合軍はそのカイロネイアの戦いで敗れ 220 00:09:39,914 --> 00:09:42,632 アレクサンダー大王は世界制覇に取りかかりました 221 00:09:42,632 --> 00:09:45,382 ヒュペレイデスは反逆罪により裁判にかけられました 222 00:09:45,382 --> 00:09:48,982 彼が裁判のときに行ったスピーチをご紹介します 223 00:09:48,982 --> 00:09:50,130 それはとても良いスピーチでした 224 00:09:50,130 --> 00:09:52,398 彼は「一番よいのは勝つことだ」と 225 00:09:52,398 --> 00:09:54,132 「しかし 勝つことができない場合 226 00:09:54,132 --> 00:09:56,173 崇高な目的のために戦えば 227 00:09:56,173 --> 00:09:57,748 その名は歴史に刻まれる 228 00:09:57,748 --> 00:09:59,346 スパルタ人を考えてみよ 229 00:09:59,346 --> 00:10:01,214 彼らは数々の戦いに勝ったけれども 230 00:10:01,214 --> 00:10:03,046 誰一人として彼らが何者か覚えていない 231 00:10:03,046 --> 00:10:05,181 彼らは自分たちのために戦ったからだ 232 00:10:05,181 --> 00:10:08,747 皆が覚えているスパルタ人の唯一の戦いは 233 00:10:08,747 --> 00:10:10,463 テルモピュライの戦いである 234 00:10:10,463 --> 00:10:12,466 スパルタ軍はひどく叩きのめされたが 235 00:10:12,466 --> 00:10:14,398 彼らはギリシャの自由のために戦ったのだ」 236 00:10:14,398 --> 00:10:16,663 このような素晴らしいスピーチでした 237 00:10:16,663 --> 00:10:20,398 このスピーチによりヒュペレイデスは無罪となり 238 00:10:20,398 --> 00:10:22,464 彼はこののち10年生き 239 00:10:22,464 --> 00:10:25,115 マケドニアの党派に捕えられました 240 00:10:25,115 --> 00:10:27,699 彼はその雄弁へのいましめとして舌を切られ 241 00:10:27,699 --> 00:10:31,130 体はどうなったかは誰も知りません 242 00:10:31,130 --> 00:10:34,281 これは古代の失われた声の発見です 243 00:10:34,281 --> 00:10:36,263 墓に書かれたものではなく 244 00:10:36,263 --> 00:10:37,741 彼の墓は存在しません 245 00:10:37,741 --> 00:10:39,514 アテナイの裁判所による文書でした 246 00:10:39,514 --> 00:10:41,163 さて ここで申し上げたいのですが 247 00:10:41,163 --> 00:10:43,930 ふつう皆さんが 248 00:10:43,930 --> 00:10:45,926 かすれてしまった中世の写本を見ても 249 00:10:45,926 --> 00:10:47,412 特別な文章を読み取ることはできません 250 00:10:47,412 --> 00:10:50,514 さらに1つの本に2つの写本を見つけるなど至難の業です 251 00:10:50,514 --> 00:10:53,731 3つを見つけるとなると不可能に近いです 252 00:10:53,731 --> 00:10:55,412 それを私たちは見つけてしまいました 253 00:10:55,412 --> 00:10:56,678 アリストテレスの「カテゴリー論」は 西洋哲学の基盤をなす文章の一つです 254 00:10:56,678 --> 00:10:59,131 アリストテレスの「カテゴリー論」は 西洋哲学の基盤をなす文章の一つです 255 00:10:59,131 --> 00:11:03,547 私たちはそこに紀元3世紀の注釈書を見つけました 256 00:11:03,547 --> 00:11:06,731 おそらくガレノスとポルフュリオスによって書かれたものです 257 00:11:06,731 --> 00:11:08,929 集めた全てのデータ 258 00:11:08,929 --> 00:11:11,464 全ての画像と原画像 259 00:11:11,464 --> 00:11:13,814 それらの複写全てなどは 260 00:11:13,814 --> 00:11:17,300 商用も含め 誰でも使えるようにオンラインで 261 00:11:17,300 --> 00:11:20,214 クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下で公開されています 262 00:11:20,214 --> 00:11:26,747 (拍手) 263 00:11:26,747 --> 00:11:30,051 なぜこの写本の持ち主はこのようにしたのでしょう? 264 00:11:30,051 --> 00:11:33,797 これは彼が本とデータを理解していたからこその行動でした 265 00:11:33,797 --> 00:11:35,132 本に関しては 266 00:11:35,132 --> 00:11:37,263 長期的に保存したいと思ったら 267 00:11:37,263 --> 00:11:39,479 その本を隠してしまって 268 00:11:39,479 --> 00:11:41,279 他の人は簡単に閲覧できないようにします 269 00:11:41,279 --> 00:11:43,698 データに関してはそれを存続させたければ 270 00:11:43,698 --> 00:11:46,999 公開して誰もが保持できるように 271 00:11:46,999 --> 00:11:50,098 コントロールを最小限にするでしょう 272 00:11:50,098 --> 00:11:51,262 彼がしたことはそれです 273 00:11:51,262 --> 00:11:54,690 あらゆる機関がここから学べることがあります 274 00:11:54,690 --> 00:11:57,242 現在 様々な機関は保有するデータを 275 00:11:57,242 --> 00:12:00,299 著作権などを用いて規制してしまうからです 276 00:12:00,299 --> 00:12:02,491 ウェブ上で古い写本を閲覧したい場合 277 00:12:02,491 --> 00:12:05,962 現状では どこかの国立図書館のサイトや 278 00:12:05,962 --> 00:12:08,630 どこかの大学図書館のサイトに行かねばなりませんが 279 00:12:08,630 --> 00:12:10,529 これはデジタルデータを得る方法として 280 00:12:10,529 --> 00:12:12,306 最もうんざりさせられる方法です 281 00:12:12,306 --> 00:12:15,299 それらのサイトを集約して一つにしたいですよね 282 00:12:15,299 --> 00:12:18,396 今後の古い写本の資料網は 283 00:12:18,396 --> 00:12:20,682 機関が作りあげるのではなく 284 00:12:20,682 --> 00:12:23,790 個人ユーザーにより形成されていくでしょう 285 00:12:23,790 --> 00:12:25,564 データを集める人や 286 00:12:25,564 --> 00:12:29,099 地図などをあらゆる出所から集めて 287 00:12:29,099 --> 00:12:30,731 まとめたい人 288 00:12:30,731 --> 00:12:32,531 また中世の物語を 289 00:12:32,531 --> 00:12:34,080 色々な場所から集めたい人々 290 00:12:34,080 --> 00:12:37,863 自慢の美しい物のコレクションの 291 00:12:37,863 --> 00:12:39,380 整理をしたい人などです 292 00:12:39,380 --> 00:12:40,997 これがウェブ上の資料の未来です 293 00:12:40,997 --> 00:12:44,180 それを我々が実現できるとしたら 294 00:12:44,180 --> 00:12:45,782 それは魅力的で美しい未来です 295 00:12:45,782 --> 00:12:48,963 現在私たちはウォルターズ美術館で そのような例に従い 296 00:12:48,963 --> 00:12:52,313 全ての写本を それを利用したい人のために 297 00:12:52,313 --> 00:12:53,996 ウェブで公開し 298 00:12:53,996 --> 00:12:56,580 原資料・説明文・メタデータも全て クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下 299 00:12:56,580 --> 00:12:59,463 ウェブ上に公開しています 300 00:12:59,463 --> 00:13:00,981 ウォルターズ美術館は小さな美術館ですが 301 00:13:00,981 --> 00:13:02,529 素晴らしい写本がたくさんあり 302 00:13:02,529 --> 00:13:04,547 そのデータは素晴らしいものです 303 00:13:04,547 --> 00:13:06,330 結果として 例えばgoogle検索で 304 00:13:06,330 --> 00:13:09,348 ″Illuminated manuscript Koran″(彩色写本コーラン)と 検索ワードを入力すると 305 00:13:09,348 --> 00:13:12,680 ″Illuminated manuscript Koran″(彩色写本コーラン)と 検索ワードを入力すると 306 00:13:12,680 --> 00:13:17,097 表示される28の画像のうち24が我々の団体によるものです 307 00:13:17,097 --> 00:13:22,647 (拍手) 308 00:13:22,647 --> 00:13:27,680 もう少しこのことについて考えてみましょう 309 00:13:27,680 --> 00:13:29,663 私の団体はなぜそんなことをするのか 310 00:13:29,663 --> 00:13:32,259 団体の利益は多岐にわたります 311 00:13:32,259 --> 00:13:34,382 慈善といった類の見方もできますが 312 00:13:34,382 --> 00:13:36,263 ここでは利己的な利益について考えてみましょう 313 00:13:36,263 --> 00:13:40,131 団体の利益の本質をみるには 次のような問いを考える必要があります 314 00:13:40,131 --> 00:13:43,187 なぜ人々はルーブルに行くのでしょう 315 00:13:43,187 --> 00:13:46,171 彼らはモナ・リザを見に行くのです 316 00:13:46,171 --> 00:13:49,230 なぜ彼らはモナ・リザを見に行くのでしょう 317 00:13:49,230 --> 00:13:51,612 モナ・リザがどんな絵か既に知っているからです 318 00:13:51,612 --> 00:13:53,946 皆モナ・リザの顔を知っている 319 00:13:53,946 --> 00:13:58,648 彼らはこの絵を間違いなくどこかで見ているのです 320 00:13:58,648 --> 00:14:03,097 皆知っているのですから 321 00:14:03,097 --> 00:14:05,376 規制なんて必要ありません 322 00:14:05,376 --> 00:14:07,463 様々な団体はその腰を上げて 323 00:14:07,463 --> 00:14:10,597 制限のない形で全てのデータを公開すべきだと思います 324 00:14:10,597 --> 00:14:12,813 その行動は全ての人の利益になるでしょう 325 00:14:12,813 --> 00:14:15,979 全ての人にこのデータへアクセスを許可し 326 00:14:15,979 --> 00:14:18,315 古い知識や美しいもの・素晴らしいものを 327 00:14:18,315 --> 00:14:20,480 自由に整理してもらう 328 00:14:20,480 --> 00:14:23,568 それによってインターネットの素晴らしさと文化的重要性は 329 00:14:23,568 --> 00:14:24,796 増すのではないでしょうか 330 00:14:24,796 --> 00:14:26,313 ご清聴ありがとうございました 331 00:14:26,313 --> 00:14:30,746 (拍手)