マーベル世界での生活は 完全なる悪夢だろう この地球の平均的な人にとって "これは悪夢だ" "悪夢よりひどい" 人類絶滅級の危機が 隔週で起こるからだけではない この世界では進歩がとても少ないからだ ヒーローは世界を災害から守るが その力をよりよい世界を 作るためには使わないのだ 彼らはほとんどの時間を 現状を維持するために使う "世界を守ろうとし 変えようとしない" 一方悪役は常に大きな目標を掲げ 制度を確立しようとしたり 世界を変えようとしたりする 2つ強調したい 1 この動画はマーベル映画を 非難するものではない それは面白く 楽しめるものだ 最新のものは表現として 素晴らしい歩みを見せている 2 またすべての悪者が実際には正しい と主張するものでもない 政治的に正当な批判をする場合もあるが "先祖はどこでこれを?" "金を払った?" "あるいはすべて奪ったか" 大抵の悪役は冷酷かつ残忍で 大量虐殺をすることもある 今回見ていくのは スーパーヒーローの公式に埋め込まれた 概念上の暗示である "君らはヒーローと見られている" "自警団と呼ぶ人もいる" この動画の発想源の一つは 人類学者のグレーバーが書いたエッセイで 官僚制のユートピアという本に詳細がある ヒーロー物語の政治学に関する元の記事は 2012年に書かれ ダークナイト・ライジングに反応したものだった しかし今やマーベルがハリウッドの 文化的中心となっているので グレーバーの理論をマーベル映画に 適用したら面白いだろうと私は思った グレーバーは言う "ヒーローは純粋に反応的である 文字通りの意味で彼らは単に物事に反応しているだけで 彼ら自身の計画は持っていない" "よりハイテクな武器をデザインしたり ときたま慈善活動にふける以外は" "実際 スーパーヒーローはほとんど全く 想像力を欠いているように見える 悪役は 対照的に どこまでもクリエイティブだ 彼らはプラン プロジェクト アイディアに満ちている" グレーバーがいい人について 話していることに注意することが重要だ ブルース・バナーやマット・マードックが 彼らの個人的目標を追いかけている時 "どうやった?" "弁護士なので" スーパーヒーローが社会を進歩させるような 政治的目標に関わるのを見るのはとても珍しい トニー・スタークなどのわずかなヒーローだけが 新技術の開発などに関わっている だが彼が開発するのはハイテクな武器であり その武器は自警団活動のために使う 悪を止めるのも必要ではあるが それはいいものを作るのとは違う 現代政治でその2つは混同されがちだが "そう 私たちは現状維持団" "僕はグルート" 社会を革新的に変えていこうというより スーパーヒーローはただ反応する 現状に対する脅威に 「エイジ・オブ・ウルトロン」で トニーとブルースは計画する AI技術で平和をもたらそうと "平和をもたらす" それは傲慢に見え 人類にとって脅威でもある "平和を願うなら 解放しろ" "平和と静寂を混同してるな" そして世界を変えるのは間違いだと学ぶ あとはただ外部の脅威が来るのを待ち それが起きた場合のみ 行動に出る この点はマーベルの29の映画と 20のテレビドラマで確認できる しかし見方によっては その数はもっと多くなる キャラもストーリーもたくさんある だがここではスーパーヒーローの 包括的なパターンについて見ていこう グレーバーは指摘する "基本構成は次のような形を取る: 悪人が世界征服 破壊 盗み 強奪 復讐などの計画を始める ヒーローは危険を察知し 何が起きているかを理解する" "試行と困難ののち ヒーローは悪の計画を阻止する 世界はもう一度全く同じことが起こる次の回まで 通常に戻される" このループするストーリーの構造が マーベルスタジオの作品に貫徹している "ヒーローものにはある種の約束事がある" 現状へと世界をリセットするというパターンは スーパーヒーロージャンルでは昔からあった しかしそれはマーベルのメタ的な原理でもある 「エンドゲーム」では アベンジャーズは量子タイムマシーンを作り 世界を元に戻すために使う しかし死んだ人たちを生き返らせたあとは その驚くべき技術やインフィニティ・ストーンを 地球に蔓延る他の問題のためには使わなかった 実際 この架空の世界のルールでは そうすることは禁止されている "我らの世界は制圧され 何百万人が苦しむ" 同じように ストレンジはタイム・ストーンを ダーク世界の侵略をなしにするために使った 世界を通常に戻すために それでも世界を現状から変えることは 明確に禁じられていた "自然法則を変えるな 守れ" 実際 スーパーヒーローが世界を操作し 根底から変えようとすると 自身が悪になってしまうリスクがある ここで現状とは何かを定義するといいだろう 社会学的には 現状とは私たちが住む 現在の政治的経済的構造のことだ 今の社会で この構造に含まれるのは 軍事化した国家 新自由主義政府 民営企業 ある種の資本主義だろう スーパーヒーローの責任が 現状を維持することだという事実は もし世界がパラダイスであった時は あまり問題にならないだろう しかしご存知の通り そうではない 世界には不正 搾取 抑圧が蔓延っている 環境破壊は言うまでもない "気候変動が広がっています…" この現実は悪役並に怖くないだろうか マーベル映画はもちろんフィクションだ だが現実世界の鏡としてもデザインされていて 私たちと同じ問題を抱えている 超能力者やエイリアンや魔法使いがいる以外は "アンドロイドにエイリアン" "問題ない" "完全に問題だ" "いや違う" それらの超能力者が力を よい世界を 作るために使ったらと想像してほしい それは現在のシステムを終わらせ 搾取や不平等を消し去るだろう 環境破壊を止められるかもしれない 富裕層の富を再分配するかもしれない だがヒーローはそのどれもしない 代わりに ランダムに慈善をするだけだ 億万長者は自分のための新技術を作る "スターク・タワーを自立式の灯台に" 戦士は腐敗政治家にいいことをしろと言う "いいことをしろよ議員" 一番良くて 裕福な君主が 国際コミュニティセンターを建てる "ワカンダの最初の国際的センターになる" その絆創膏的なやり方は 少しの人々を助けるかもしれないが それはまた現在の政治的構造を 持続させるようデザインされてもいる 不都合な真実は その慈善活動自体が 彼らに有利な権力構造を強化していることだ その観点から見るとヒーローがそのすごい力を 世界を変えるために使わないというのは 完全なるディストピアに感じられてくる "入って" そして奇妙なことに体制への 批判の声を上げるのはいつも悪人だ "上にいる金持ちどもは好き放題だ" "俺らは?" "道路を作り 戦争を戦うが 奴らは俺らを無視だ" "そのテーブルを取り戻す" マーベルに登場する悪役たちを見ていくと 彼らが何かしら現状を破壊しようと していることにすぐ気づく 構造的変化を求め 権威的変化を狙っている 世界の仕組みを根底から変えよう としているのは彼らだけなのだ "これは世界を変える" "この技術は世界を変える" "世界を変えようとしてる" 悪役たちの動機は復讐から 社会的不正義の是正 ただの強欲まで幅広い ただここで見るべきなのは その悪役たちの計画の規模が その悪役たちの持つ力次第で変わることだ 低いレベルの悪役は 一つの機関内での改革を求める 軍事企業とか あるいは世界で最も大きな企業と その金持ちなCEOを潰そうとする より野心的な悪役は 街全体を作り変えようとする "俺は街を作る" "今よりいい街を" あるいは世界全体 あるいは宇宙全体を 一般的に より強い悪役は より大きな変化を求めている "これこそ私の夢だ" 現在の世界秩序を取り壊すという目標は 最初は説得力があるように観客には見える "よりよい世界を作るには" "古いものを壊さなければ" ロシアの無政府主義者バクーニンは 1842年にこう書いた "破壊への情熱は 創造的情熱でもある" 不正な秩序を破壊する衝動は 現状に代わる世界への想像力を 必要とするということだ 観客はこの社会正義的悪に惹かれる "タイタンは普通の星だった" "多くの人がいた" これらの敵は終わらせたいと語る 社会問題 不正義 非合法な権力を マーベルでは神が文字通り歩み寄ってくる そして絶大な力を振るう "神のために苦しめ" しかし同時に残酷であるか 人々の苦しみに無関心でもある "勝者を発表する" "神の名の下に最も人間の魂を集めた者を" "悪い奴だ" "とんでもなくね" このような暴政が ゴア・ザ・ゴッド・ブッチャーが 「ソー:ラブ&サンダー」で倒そうとしたものだ "神々が気にかけるのは" "神々だけだ" 「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」で フラッグ・スマッシャーズは難民を支援し 国境の封鎖を妨害し 人々の国外追放をやめさせようとした "ただ生きるためだけに どれだけ犠牲を払えばいい?" 「ブラックパンサー」ではキルモンガーは ワカンダの持つテクノロジーを アフリカの人々を弾圧から 自由にするために使おうとした "黒人の革命は長らく" "火力も資源も持っていなかった" "それも今日で終わる" 視聴者は 悪役の独白に納得しかけている 自分に気づくかもしれない しかしそれが確信に変わるより先に 彼らは突然大量殺人を始めてしまう 彼らにとっても意味がないのに "中に人が" "こうしないと通じない" 悪役はいつも無差別殺人を始めるが それは作者が勝手に作ったものだ "アベンジャーズを殺せば世界は良くなるって" "良くなるさ" "みんなが死んでも?" "これは…!" これは観客が 悪役の思想や革命に 共感しないようにデザインされたものだ "彼らは私たちを苦しめ 犯罪者の烙印を押す" "でもその苦しみが私たちを一つにする" "一つの世界に 一つの人々" このパターンから浮かび上がるメッセージは しかしながら有害とならざるをえない 社会を根底から変えようとする活動は 危険なだけでなく 悪でもあるのだと 社会的平等を目指す側が悪であることが スーパーヒーローものが保守的であると 批判されることがある理由の一つである "進化なしでどうやって人類が救える?" グレーバーは書く "彼らは法的政治的秩序の守護者に留まる それが欠陥があり劣化していても守るべきだと なぜなら他の体制はより悪いものだからだ "一つの集団にとっていいものは 他の集団にとっては悪いものだ" マーベルのイデオロギーによれば 現状こそベストだということだ 完璧ではないが 変えようとするのは大惨事になるだけだ 漫画家のアラン・ムーアはこう批評する "現実を無視し 単純化し 安易な解決策に流れている" 彼は正しい 私たちの社会が抱える問題は 悪い個人の顔をパンチすることでは 解決できないものだ ファンタジーのようにはいかない ここで少し 現実の世界で起きた 社会変革についての話をしよう "私たちはこの現状に挑戦する…" 社会変革は人々が積極的に団結し 大きな運動を起こした時に起こる その時 現状が動く "次に進むまでは戦い続けるしかない" 運動が圧力を高めていく 権力者側が大衆の要求に 応えるしかないと感じるまで これが社会変革の中で起きてきたことだ フレデリック・ダグラスは言った "要求がなければ権力は何も認めない" これがマーベル世界の問題だ 大衆の声がない いるのは無実の被害者 騒ぐモブ そしてもちろん 神のような超人だけだ 大衆がいなければ グレーバーの言う 憲法的な権力も存在しないのだ この状況では力を持つ小さな集団 選ばれていないスーパーマンまたは スーパーウーマンがすべてのカードを持つ "写真撮っていいですか?" "いいよ" マーベルの世界で市民に残された役割は ヒーローたちを崇拝することだけである "あなたの大ファンです" 大衆は力を削がれ ただのオタクになる そこには地球が持続可能となるために必要な 根本的社会変革が起こる可能性がない "宇宙じゃ食べ物は無料よ" "金を払うなんて変" 私はアベンジャーズが悪いとは言っていない 悪い奴は止めてほしいし 大惨事は防いでほしい それはその世界では正しいことだ 私が言いたいのは マーベル帝国で繰り返される物語の形式が 私たちの世界観を狭める可能性だ "私は世界を平和にした" そうかもしれない あなたがメディアを牛耳っているような 上流階級の人なら面白くない話だろう そのような人にとっては現状維持こそが おそらく最も心地よいことだからだ しかしそれ以外の人は 映画館に行って 別の世界に飛ばされてなお 世界を変えようと考えているならば 自動的に悪役になるだろう