1 00:00:06,880 --> 00:00:11,070 マーガレット・アトウッド作の 近未来を舞台にした小説『侍女の物語』では 2 00:00:11,070 --> 00:00:15,089 ギレアデ共和国という キリスト教原理主義勢力が 3 00:00:15,089 --> 00:00:19,361 軍事クーデターを起こし アメリカ合衆国に 4 00:00:19,361 --> 00:00:21,213 宗教国家を建国します 5 00:00:21,213 --> 00:00:24,241 理論上 政権の支配は 全員に及びましたが 6 00:00:24,241 --> 00:00:29,763 実際にはギレアデを建国した わずかな男性が権力を握り 7 00:00:29,763 --> 00:00:31,486 特に女性を抑圧しました 8 00:00:32,981 --> 00:00:37,461 アトウッドは『侍女の物語』を 「思索的な小説」と呼び 9 00:00:37,461 --> 00:00:40,712 起こり得る未来を 理論的に描いたものだとしています 10 00:00:40,712 --> 00:00:42,582 これはユートピア小説にも 11 00:00:42,582 --> 00:00:45,961 ディストピア小説にも共通する 基本的な特徴です 12 00:00:45,961 --> 00:00:50,863 アトウッドの小説が描く未来は 否定的 またはディストピア的で 13 00:00:50,863 --> 00:00:57,413 少人数の人々の行動によって 社会が破壊されます 14 00:00:57,413 --> 00:01:02,273 ユートピア小説もディストピア小説も 政治情勢を反映する傾向にあります 15 00:01:02,273 --> 00:01:05,624 ユートピア小説は 理想的な社会を 16 00:01:05,624 --> 00:01:09,245 目指すべき模範として 描かれているものが多いです 17 00:01:09,245 --> 00:01:11,325 それに対して ディストピアは 18 00:01:11,325 --> 00:01:14,723 必ずしも不幸な未来を 予言するものではなく 19 00:01:14,723 --> 00:01:18,604 むしろ社会が 崩壊の道へと進みうることを 20 00:01:18,604 --> 00:01:20,943 警告するものです 21 00:01:21,722 --> 00:01:26,335 『侍女の物語』が出版されたのは1985年 多くの保守派グループが 22 00:01:26,335 --> 00:01:30,255 第二波フェミニズム運動による成果を 攻撃していた時のことです 23 00:01:30,255 --> 00:01:34,375 第二波フェミニズム運動は 1960年代初頭から 24 00:01:34,375 --> 00:01:37,435 女性のさらなる社会的、法的平等を 求めていました 25 00:01:37,435 --> 00:01:40,235 『侍女の物語』の描く未来では 26 00:01:40,235 --> 00:01:43,586 対抗する保守派グループが 優位に立って 27 00:01:43,586 --> 00:01:47,376 女性の平等に向けた進歩を 粉砕するだけでなく 28 00:01:47,376 --> 00:01:51,805 女性を男性に完全に服従させるのです 29 00:01:51,805 --> 00:01:55,576 ギレアデの女性は 男性の身分の象徴として 30 00:01:55,576 --> 00:01:58,892 役割に応じて 社会階級に明確に分けられました 31 00:01:58,892 --> 00:02:01,126 服装まで色で分類されているのです 32 00:02:01,126 --> 00:02:03,211 女性は本を読むことも 33 00:02:03,211 --> 00:02:05,581 公共の場で自由に動くことも許されず 34 00:02:05,581 --> 00:02:08,757 繁殖力のある者は 国家による強姦を受けさせられ 35 00:02:08,757 --> 00:02:12,538 政府のために 強制的に出産させられました 36 00:02:13,467 --> 00:02:16,086 『侍女の物語』は 未来を舞台に描かれていますが 37 00:02:16,086 --> 00:02:19,197 アトウッドが執筆中に 自分に課したルールのひとつは 38 00:02:19,197 --> 00:02:22,256 現実に起こったことのない出来事や習慣は 39 00:02:22,256 --> 00:02:25,387 決して物語に使わないというものでした 40 00:02:25,657 --> 00:02:28,356 物語の舞台は マサチューセッツ州ケンブリッジ 41 00:02:28,366 --> 00:02:30,987 アメリカ植民地時代に 42 00:02:30,987 --> 00:02:34,513 神権政治を行う清教徒に 支配されていた街です 43 00:02:34,513 --> 00:02:37,532 様々な意味で ギレアデ共和国は 44 00:02:37,532 --> 00:02:40,207 清教徒社会の厳しい規律を 彷彿とさせます 45 00:02:40,207 --> 00:02:41,667 厳格な道徳 46 00:02:41,667 --> 00:02:43,159 質素な服装 47 00:02:43,159 --> 00:02:45,039 異議を唱える者の追放 48 00:02:45,039 --> 00:02:50,029 そして生活や人間関係の あらゆることに関する規則などです 49 00:02:50,029 --> 00:02:53,709 アトウッドが マサチューセッツ州の 清教徒になぞらえたのは 50 00:02:53,709 --> 00:02:56,239 理論的な理由でも 個人的な理由でもありました 51 00:02:56,239 --> 00:02:59,348 アトウッドは ハーバード大学で 何年も清教徒について学び 52 00:02:59,348 --> 00:03:01,919 メアリー・ウェブスターの子孫である 可能性もあります 53 00:03:01,919 --> 00:03:06,800 首吊りを生き延びたために 魔女である疑われた清教徒の女性です 54 00:03:07,189 --> 00:03:10,180 アトウッドは熟練の作家です 55 00:03:10,180 --> 00:03:13,639 ギレアデの克明な描写は― ここでは一部にしか触れませんが 56 00:03:13,639 --> 00:03:17,549 登場人物の視点を通じて ゆっくりと焦点が当てられ 57 00:03:17,549 --> 00:03:20,402 主に物語の主人公である オフレッドという 58 00:03:20,402 --> 00:03:23,479 司令官の家に仕える 侍女の目を通じて描かれます 59 00:03:23,479 --> 00:03:25,740 ギレアデ建国のクーデター以前は 60 00:03:25,740 --> 00:03:31,560 オフレッドには夫も子供も仕事もあり 普通のアメリカの中流階級の生活をしていました 61 00:03:31,560 --> 00:03:34,580 しかし原理主義政権が 支配を振るうようになると 62 00:03:34,580 --> 00:03:37,040 オフレッドはアイデンティティを奪われ 63 00:03:37,040 --> 00:03:38,680 家族から隔離され 64 00:03:38,680 --> 00:03:41,202 オフレッド自身の言うように 65 00:03:41,202 --> 00:03:45,901 「ギレアデの先細りする人口を増やす 二本足の子宮」になってしまうのです 66 00:03:45,901 --> 00:03:49,271 当初はオフブレッドも 新しい政権の安定のために 67 00:03:49,271 --> 00:03:52,531 基本的人権が奪われるのを 容認していました 68 00:03:52,531 --> 00:03:58,142 しかし国家による統制は まもなく言葉や振る舞い方 69 00:03:58,142 --> 00:04:01,642 そして彼女や 他の人々の考え方にまで及びます 70 00:04:01,642 --> 00:04:04,001 当初 オフレッドはこう言います 71 00:04:04,001 --> 00:04:07,202 「私は待つわ 気持ちを整えなくては 72 00:04:07,202 --> 00:04:13,212 自我は演説の原稿のように 整えるべきものだから」 73 00:04:13,212 --> 00:04:17,192 彼女はアイデンティティの形成を 言語になぞらえます 74 00:04:17,192 --> 00:04:21,412 彼女の言葉は 政権に抵抗する可能性も認め 75 00:04:21,412 --> 00:04:26,363 政府に対する抵抗や 政治的、知的、性的な規則を 76 00:04:26,363 --> 00:04:28,805 破ることをも 辞さない人々の行動こそが 77 00:04:28,805 --> 00:04:32,273 『侍女の物語』の物語を 先へと進めるのです 78 00:04:32,273 --> 00:04:37,403 最終的には この小説が 危険に対する油断がもたらす結果や 79 00:04:37,403 --> 00:04:40,422 権力が不当な支配を振るうさまを 検証しているからこそ 80 00:04:40,422 --> 00:04:45,383 アトウッドの描く背筋の凍るような ディストピアの描写は現代の読者に訴えるのです