「人は愚かなことをするものだ
それがHIVを広める」
英ガーディアン紙に
先日あった見出しです
どうでしょう これに賛成の方
挙手してください
1人か2人 勇敢な方が
実はこれ ある疫学者の言葉です
HIV分野で15年間
4つの大陸で活動した人で
今皆さんが見ている人です
さて 私はこれが
半分だけ真実だと主張します
愚かなことをするから
人はHIVにかかります
でもそのほとんどは
愚かなことを
完全に合理的な理由があって
行っています
さて 「合理的」というのは
公衆衛生において
支配的な考え方です
公衆衛生オタクの
眼鏡をかけてみると
何がその人にとって良いことで
何が悪いことなのか
必要な情報を与えて
その情報に従って
行動するための
サービスを与え
少しやる気を起こさせると
人は合理的な決断をして
健康で長生きするのだと
素晴らしい
HIV分野で働く私は
これに少し疑問があります
きっと皆さんはお思いでしょう
HIVは貧困や男女不平等に
関わるもので
さらにTED2007に
いらしたなら
コーヒーの価格に関わるものだと
実は HIVはセックスと
ドラッグに関することです
人を少し不合理にするものが
2つあるとすれば
それは勃起と中毒です
(笑)
まず 麻薬中毒者にとって
何が合理的かを話しましょう
さて インドネシア人の友人
フランキーと話したときのことです
昼食の席で 麻薬注射が理由で
バリの刑務所にいたときのことを
聞きました
誰かの誕生日
親切なことに彼らは
ヘロインを持ち込んでいました
主役はとても気前よく
それを仲間全員で
シェアしました
ヘロイン中毒者が
みんな一列に並びます
主役の男が
注射器に充填して
注射し始めました
一番目の人に注射して
シャツで針を拭くと
次の人に注射します
フランキーは「僕は22番目にいて
針が近づいてくるのが見えて
あちこちに血がついている
だんだん頭がぼんやりとしてきて
脳みその小さな部分が
『すごく汚いな
それにマジで危ない』
って考えるんだけど
脳みそのほとんどは
『俺の番まで少し
残ってますように
頼む 少し残してくれ』
って考えてるんだ」
そして この話の中で
フランキーはこう言いました
「まいったよ
ドラッグをやると
ほんとにバカになる」
それは間違いではないのですが
実のところ
フランキーはそのとき
ヘロイン中毒で
刑務所にいたわけで
彼にあった選択肢は
汚い針を受け入れるか
ハイにならないかです
本当にハイになりたい場所が
1つあるとすれば
それは刑務所でしょう
でも 私は科学者で
逸話を証明データとしたくは
ありませんので
いくつかのデータを
見てみましょう
600人のドラッグ中毒者と
話をしました
インドネシアの3つの都市で
質問しました
「どうしたらHIVにかかるか
知っていますか」と
「もちろん 針をシェアしたら」
ほぼ100パーセントが
針のシェアが原因だと言いました
「それを避けられる
安くて清潔な針を
入手できる場所を
知っていますか」と聞くと
「もちろん」が100パーセント
「ヘロイン中毒だから
清潔な針のありかは知ってる」
「じゃあ 針を携帯している?」
人がたむろしてドラッグを
やっている道ばたで
実際にインタビューをします
「清潔な針を携帯していますか?」
多くて4人に1人でした
ですから 前の週 注射の度に
清潔な針を実際に使った割合が
約10人に1人だけで
残る10人に9人は
シェアしていたというのも
当然のことです
つまり 大きなずれがあるんです
シェアすればHIVにかかると
皆知っている
それでも皆シェアする
どういうことでしょう?
シェアした方がハイになれるとか?
これを麻薬中毒者たちに尋ねたら
「バカじゃない?」と
「セックスの相手とでも
歯ブラシをシェアしたくはない
針だってそうだ
ゾッとする
針をシェアするのは
刑務所に行きたくないからだよ」
そう インドネシアでは当時
針を携帯していて
警察につかまると
刑務所行きだったんです
すると方程式が
少し変わりませんか
だって この場合の選択肢は
ここで針をシェアして
10年後に死ぬかもしれない
病気にかかるか
または今 自分の針を使って
明日刑務所に行くかです
麻薬中毒者は
HIVの危険に自らをさらすのは
悪いことだと思っても
これからの1年を
刑務所で過ごして
たぶん フランキーのように
結局HIVの危険に
身をさらす方が
よっぽど悪いと
考えるのです
そうなると突然
針のシェアが
全く合理的なこととなります
ここで 政策決定者の観点から
見てみましょう
これは非常に簡単な問題です
今回だけは 動機が
対立していません
公衆衛生の面では
合理的なのです
私たちは人々に
清潔な針を使ってほしい
麻薬中毒者は
清潔な針を使いたい
では 清潔な針を
どこでも手に入るようにして
逮捕の心配をなくせば
この問題は解決されます
さて 最初にそれを理解し
国家規模の行動に移したのは
かの有名な同情的自由主義者
マーガレット・サッチャーです
彼女は世界初の全国的な
注射針交換プログラムを導入し
オーストラリア オランダの他
数カ国が続き
こうした国すべてで
注射器利用者のうち
HIVに感染したのは
4パーセント以下です
これを実施しなかったところ
例えばニューヨーク市
モスクワ ジャカルタでは
ピーク時において
注射器利用者の
2人に1人が
この致命的疾病に
感染しました
ところで マーガレット・サッチャーは
麻薬中毒者を愛していたから
これを実施したのではありません
国民医療保険サービスがある国を
治めていたからです
したがって 効果的な予防に
投資しなければ
後から治療費が
かかることになり
治療費のほうが明らかに
ずっと高く付きます
だから彼女は政治的に
合理的な決定をしたんです
さて 公衆衛生オタクの眼鏡を
ここで取り出して
このデータを見てみると
非常に簡単なことに
見えるんですよね
でも 政府が国民に
健康保険を提供する義務を
認識していないと見える
この国では— (笑)
全く違う手法が取られています
私たちはアメリカで延々と
データの検証を行っています
これはアメリカ科学界の
様々な権威による
何百もの研究の検証で
注射針プログラムが効果的だと
示す研究が
左側に出ています
かなり多いです
一方 注射針プログラムが
効果的でないと示す研究は…
これ あのじれったい
動的スライドだと思うでしょう
私がボタンを押したら
残りが出てくるっていう
でも 違うんです
これでスライドは終わり
(笑)
右側に付け加えるものは
何もありません
だから 完全に不合理だと
思いますよね
でも ちょっと待ってください
政治家も合理的です
政治家は 有権者が望むであろうことに
応えているんです
つまり 有権者の反応というのは
子どもたちのためなら 良くても
ドラッグ中毒者のためだと
冷たいのです
(笑)
ですから 注射器利用者に対する
サービスを否定するのは
非常に合理的なことと
なるのです
さて セックスについて
話しましょう
セックスに関して
人はもっと合理的でしょうか
さて 明らかに不合理な見解は
無視します
カトリック教会のような—
コンドームを手渡すと
皆が走り出て
セックスをしだすと
考える人のことです
ローマ法王ベネディクトが
ネットで
TEDTalksを見ているかは
知りませんが
ご覧になっているなら
お知らせすることがあります
私 常にコンドームを
持ち歩いてるんですよ
なのに全然抱かれないの
(笑)
そんなに甘いもんじゃないから
どうぞ 皆さんの方が
上手くいくかも
(拍手)
さて 真面目な話
HIVは実際には
そんなに簡単に
セックスによって
伝染しません
血液や体液にどれだけの
ウイルスがあるかによるのです
初回感染では
初めはウイルスのレベルが
非常に高く
それから抗体ができはじめ やがて
非常に低いレベルで増減します
これは長い間
10年から12年続きます
別の性感染症への感染によっても
一時的に増えますが
基本的には大したことのない状態が
エイズの症状が
出始めるまで続きます
この段階の頃には
不健康に見え
気分もすぐれず
セックスもあまり
しなくなります
ですから HIVの性感染は
基本的に ウイルス血症の
ピーク時である短期間に
どれだけのパートナーが
いるかによって
決まります
さて これは人を怒らせます
なぜなら 他のグループよりも
短期間に多くの
性交渉の相手がいる
グループについて
話すことになり
彼らに対し
汚名をきせることになると
見なされるからです
これについてずっと
気になっているんです
だって 汚名は悪いものですが
たくさんのセックスは
かなり良いことですよね
でも それには
触れずにおきましょう
実際のところ 20年間の
優れた研究により
短期間で多数のパートナーを
持つグループがあるということが
示されています
そしてそのグループというのは
世界のどこでも
売春をする人と
そのいつもの相手
パーティー好きの同性愛の男性
彼らのパートナーの数は
パーティー好きの非同性愛者の
平均3倍です
そして 一夫多妻制の伝統があり
女性の自主性が
比較的高いレベルにある国の
異性愛者です
こうした国のほとんどは
アフリカ東部または南部にあります
そしてこれは
今日の流行に反映されていて
アフリカのこの恐ろしい数字に
表れています
これはすべて
アフリカ南部の国です
ここでは7人に1人
そして全成人の
3人に1人が
HIVに感染しています
さて 世界の残りの場所では
一般の人には基本的に
何も起こっておらず
非常に低いレベルです
しかし ドラッグを注射する人や
セックスワーカー
同性愛の男性のような
高リスクの人々となると
並外れて高率に
HIV感染者がいます
ロサンゼルス地域の
データがありますが
同性愛の男性の中で
感染者は25パーセントです
もちろん無防備なセックスだけでは
HIVにかかりません
陽性者と無防備なセックスをすると
HIVにかかります
世界の大部分では
こうした予防の失敗が
少しありますが
最近商業セックスでは
かなりうまくいっていて
多くの国で商業セックスでの
コンドーム利用率は
80~100%です
ここでも 動機の一致が
理由となっています
公衆衛生で合理的なことが
個々のセックスワーカーにも
合理的なことなんです
さらなる性感染症にかかると
商売上大打撃だからです
誰もかかりたくありません
客も淋病を持ち帰りたくはない
ですから 商業セックスでは
かなり高いコンドーム利用率を
達成できます
しかし「親密な」関係では
ずっと難しくなります
なぜなら 妻や彼氏
またはその候補とは
ロマンスと信頼と親密さの
幻想があって
「コンドーム どっちの使う?」
という質問ほど
ロマンスに欠けるものは
ありません
ですから それにもかかわらず
コンドームを使わせる
かなり大きな
動機が無ければ
だめなのです
例えばこちら
ジョセフという男性です
ハイチのエイズ患者です
きっと今はあまりセックスを
していないと思いますが
コンドームを
使った方がいいと
人々に思い出させる
人物です
これもハイチの人で 多分
セックスをしたい理由を
思い出させる人ですが
大変面白いことに
これもジョセフの写真です
6ヶ月の抗レトロウイルス治療後です
ラザロ効果と呼ばれる
ゆえんです
しかしこれによって
セックスの意志決定において
何が合理的かということの
重み付けが
変わりつつあるのです
つまり 一部の人は
「治療するとウイルス量が減って
HIVが感染しにくくなるから
実際 効果的な予防になる
だから 治療さえあれば問題ない」
と言うのです
つまり ウイルス血症について
もう一度見てみると
調子が悪くなり
治療を開始すると
ウイルス量が
下がりますよね
では 治療を受けない場合と
比べるとどうでしょう
そう 死にますから
ウイルス量はゼロになります
薬局に行けなかったとか
薬が切れたとか
3日間パーティーで騒いで
薬を飲み忘れたとか
耐性ができ始めたとかによる
急上昇の部分も含め
この緑の部分はすべて
治療がなければ
存在することのない
ウイルスです
「さあ 素晴らしい予防戦略です
治療をやめましょう」
と言っているのではありません
もちろん違います
抗レトロウイルス治療は
できる限り普及させる必要があります
ただ 治療を増やすだけで
十分な予防になると言う人に
疑問を投げかけているのです
これが正しいとは
全く言い切れません
約15年間にわたり
治療が広く普及している
豊かな国の同性愛者の
男性の経験から
学ぶことが
たくさんあると思います
公衆衛生オタクからの
わずかな助けしか
なかったと思うのですが
HIVに非常に迅速に対応した
同性愛社会では
コンドーム利用率が
実は非常に高いものでした
そのコンドーム利用率が
治療法開発以来
急激に減っていることが
確認されています
実に2つの理由からです
1つは「そうだアイツは
感染してるから
きっと薬を飲んで
ウイルス量が下がってて
俺はかなり安全だ」という想定
もう1つは 単に人が
エイズを怖がっていたほどには
HIVを怖がっていないことで
これは当然です
エイズは醜くなって
死ぬ病気でしたが
HIVは毎日薬を
飲まないといけない
目に見えないウイルスです
そんなのには
うんざりですが
どんなに酔っていようと
どれだけラッシュをやっていようと
セックスのたびにコンドームを
使わないといけないほど
うんざりするものでしょうか
データを見れば
この疑問に対する
答えが分かります
「微妙」です
これはスコットランドからのデータで
全国的な注射針交換
プログラム開始前の
ドラッグ注射をする人たちの
ピークが分かります
それから随分減って
主に商業セックスでの
異性愛者でも
そして麻薬利用者でも
治療法ができて以降は
落ち着いています
これは 先ほど話した
動機の一致が理由です
しかし同性愛の男性では
治療が広く
受けられるようになった
3~4年後から
かなり急激な上昇が
見られます
これは新たな感染のデータです
どういうことでしょうか?
心配が減ってきている
ということと
集団の中にウイルスを
持つ人が増えて
以前より健康で
長生きする人が増え
HIV感染者と性交渉をする
可能性が高まっている
ということの複合効果が
ウイルス量減少の効果を
上回っているのです
これは非常に
やっかいなことです
どういうことでしょう?
治療が増えるほど
予防をする必要も増える
そういうことでしょうか?
違います 私はこれを
「思いやりの謎」と呼んでいます
この数日間 思いやりについて
たくさんお話がありました
セックスワーカーの性と生殖に関する
健康のための優れたサービスに
募金する気にはなれず
麻薬中毒者に針を
配る気にもなれず
でも 彼らが 許し難い行為をする
慣習に逆らう人間から
エイズの被害者になると
急に すっかり同情して
死ぬまで
超高額な薬を買ってあげます
公衆衛生の観点から
これは全く理にかないません
もう終わりに近いのですが
イネスの言葉を紹介します
ジャカルタの路上にいる
トランスジェンダーの売春婦です
男性器を持つ女性です
どうしてこんな仕事を
するのでしょう?
もちろん 強制されたんだとか
よりよい選択肢が
なかったからとかで
もし彼女に裁縫を教えて
工場で良い仕事を与えれば
全てうまくいくのでしょう
ここで緑で示したのは
インドネシアの工場労働者の時給です
平均20セント
州ごとにすこし差はあります
この一枚のスライドを作るのに
15,000人のセックスワーカーと
話しました
彼らによれば 1時間当たり
セックスワーカーが稼ぐのは
オレンジの値です
ですから 良い仕事ではなくても
多くの人にとって
確かにかなり
合理的な選択なのです
さて イネスです
(映像) HIVを防ぐための
手段も 知識も
資金も 取り組みもあるのに
(イネス) どうして感染者数が
まだ増えているのかっていうと
全部政治よ
政治になると
何も意味をなさない
(ピサーニ)「政治になると
何も意味をなさない」
つまり セックスワーカーからすれば
政治家は意味をなしていない
公衆衛生オタクからすれば
麻薬中毒者は
愚かなことをしている
つまり現実は 皆に
異なる論理的根拠がある
地球上の人の数だけ―
合理的に行動する
様々な形がある
それが人間の存在の
素晴らしいところではあるけれど
合理的に行動する
それぞれの形は
互いに無関係ではない
ドラッグを注射する人にとって
針をシェアするのは合理的
それは 政治家による
愚かな決定のせいなのです
政治家にとって
その愚かな決定をすることが
合理的なのは
有権者の望むであろうことを
受けてのことだからです
でもポイントはこれです
有権者は私たちです
もちろん私たちだけが
有権者ではないですが
TEDはオピニオンリーダーの
コミュニティで
この会場にいる人や
ネットでこれを見ている人誰もが
科学的証拠と
常識に基づいた政策を
政治家に要求する義務を
負っていると思うのです
世界中のフランキーや
イネスに対して
何が合理的かということに
私たちが個人個人で
影響を及ぼすのは
大変難しいでしょう
しかし少なくとも
投票によって
政治家が HIVを広げる
愚かなことをするのを
やめさせることは
できるのです
ありがとうございました
(拍手)