物事がうまく行かなかったときに
それをどう説明しますか?
あるいは常識を全てひっくり返すようなことを
誰かが成し遂げたときに
それをどう説明しますか?
例えば
どうしてアップルはあれほど革新的なのか
毎年毎年 他の競合のどこよりも
革新的であり続けています
でもコンピュータの会社には変わりありません
他の会社と似たようなものです
同じような人材を同じように集め
同じような代理店やコンサルタントやメディアを使っています
ではなぜアップルには他と違う何かが
あるように見えるのか
なぜマーチン ルーサー キングが
市民権運動を指導できたのか
市民権運動以前のアメリカで
苦しんでいたのは彼だけではありません
彼だけが優れた演説家だったわけでもありません
なぜキング師だったのでしょう
ライト兄弟が有人動力飛行を
実現できたのはなぜでしょう
人材を揃えて資金も潤沢な ー
他のグループでも
有人動力飛行を実現することはできず
ライト兄弟に負けてしまいました
何か別な要因が働いています
三年半前のことです
私は発見しました
この発見によって世界がどう動いているのか
見方がすっかり変わりました
そればかりか 世界に対する接し方も
すっかり変わりました
明らかになったことは あるパターンです
わかったのは 偉大で人を動かす
指導者や組織は全て
アップルでも マーチン ルーサー キングでも ライト兄弟でも
考え 行動し 伝える仕方が
まったく同じなのです
そしてそのやり方は
他の人達とは正反対なのです
私はそれを定式化しました
世界でもっとも単純なアイデアかも
しれません
私はこれをゴールデンサークルと呼んでいます
なぜ? どうやって? 何を?
この小さなアイデアで
ある組織やリーダーが なぜ
他にはない力を得るのか説明できます
用語を簡単に定義しておきます
世の中の誰にせよ どの組織にせよ
自分たちが何をしているかは わかっています
100% 誰でも
どうやるかをわかっている人もいます
それは差別化する価値提案とか 固有プロセスとか
独自のセールスポイントと呼ばれるかもしれません
でも「なぜやっているのか」がわかっている人や組織は
非常に少ないのです
「利益」は「なぜ」の答えではありません
それは結果です いつでも結果です
「なぜ」というときには 目的を問うています
何のために? 何を信じているのか?
その組織の存在する理由は何か?
何のために朝起きるのか?
なぜそれが大事なのか?
実際のところ私達が考え 行動し
伝えるやり方は 外から中へです
それはそうでしょう 明確なものから曖昧なものへ向かうのです
でも飛び抜けたリーダーや
飛び抜けた組織は
その大きさや業界にかかわらず
考え 行動し 伝える時に
中から外へと向かいます
例を示しましょう
私がアップル製品を使っている理由は分かりやすく誰でも理解できるから
アップルが他の会社と同じだったら
こんな CM を作るでしょう
「我々のコンピュータは素晴らしく
美しいデザインで簡単に使え
ユーザフレンドリー
ひとつ いかがですか?」いりません
我々のほとんどはこんなふうに伝えます
マーケティングや売り込みもそう
我々の対話のほとんどが そんなふうに行われます
何をして どう違いどう優れているかを述べ
相手に何か行動を期待します
購入とか 投票とか のたぐいです
私たちは新しい法律事務所を開所しました
最高の弁護士たちと大手のクライアントを抱えています
私たちは常にクライアント第一で行動します
これが私達の車のニューモデルです
低燃費で シートは総革張り いかがですか?
これでは心を動かされません
アップルならこんな風に伝えます
「我々のすることはすべて
世界を変えるという信念で行っています
違う考え方に価値があると信じています
私たちが世界を変える手段は
美しくデザインされ
簡単に使えて 親しみやすい製品です
こうして素晴らしいコンピュータができあがりました」
一つ欲しくなりませんか?
全然違うでしょう? 買いたくなりますよね?
今したのは 情報の順番を逆にすることでした
これが示すのは 人は「何を」ではなく
「なぜ」に動かされるということです
人は「何を」ではなく「なぜ」に動かされるのです
だからこの場にいる人はだれもが
安心してアップルから
コンピュータを買っているのです
そしてまた MP3 プレイヤーやスマートフォンや
ビデオレコーダーも
安心してアップルから買えるのです
でも アップルは単なるコンピュータ会社です
アップルと他社とで
何か仕組みが違うわけではありません
競合会社にだって同様の製品を作る力があります
実際 挑んだこともあります
数年前にはゲートウェイが平面テレビを出しました
ゲートウェイにはそのための卓越した技術があります
PC用の平面モニタを何年も作ってきたのです
しかし全然売れませんでした
デルは MP3 プレイヤーと PDA を発売しました
非常に高品質な製品です
デザインも申し分ありません
でも全然売れませんでした
実際 今となっては デルの MP3 プレイヤーを買うなんて
想像すらできませんよね
コンピュータ会社の MP3 プレイヤーなんて誰が?
でもみんなアップルからは買うのです
人は「何を」ではなく「なぜ」に動かされるのです
自分が提供するものを必要とする人と
ビジネスするのではなく
自分の信じることを信じる人と
ビジネスするのを 目標とすべきなのです
一番肝心なのは
私がお話していることは私の意見ではなく
全ては生物学の原理に基づいていることです
心理学ではなく生物学です
ヒトの脳の断面を上から見ると
脳は3つの主要な部位に
分かれているのがわかります
それはゴールデンサークルと対応しています
一番新しい ホモ サピエンスの脳は
大脳新皮質であり
「何を」のレベルに対応します
新皮質は合理的 分析的な思考と
言語とを
司ります
内側の二つは大脳辺縁系に対応し
これは感情、信頼、忠誠心などを
司ります
またヒトの行動を司り
全ての意思決定を行いますが
言語能力はありません
言い換えれば 外から中へのコミュニケーションを行っているとき
確かに大量の複雑な情報を理解できます
機能やメリットや事実や数値などです
しかし行動につながりません
中から外へのコミュニケーションを行っているときには
行動を制御する
脳の部分と直接コミュニケーションすることが出来ます
言葉や行為によって
理由付けは後からすることができます
直感的な決定はここから生まれます
時には誰かに
あらゆる事実やデータを伝えても
「細かい事実は分かったけど
どうも納得感が得られない」と言われることがあります
どうしてここで「感」なんでしょうか
理由は脳の意思決定をする部位は
言葉を扱えないからです
せいぜい「分からないけど納得 “感” がない」という言葉なのです
時には胸の内一つとか
魂の導きに従ってとも言いますが
でも別に頭以外の部分で
意志決定するわけではありません
すべては大脳辺縁系で起きています
辺縁系は意思決定を司り 言語は担当しません
人々は 「なぜやっているのか」に反応するのに
なぜやっているのか 自分でわかっていなければ
投票してもらうにせよ 何か買ってもらうにせよ
みんなを引き付けられるわけがない
さらには あなたがしていることに忠誠心を持って
加わりたいなどと 思わせられるわけがない
自分の商品を必要とする人に売るのではなく
自分が信じるものを信じてくれる人に売ることを目指すべきです
単に仕事を求めている人を
雇うのではなく
自分の信念を信じてくれる人を雇うことを目指すべきです
私がいつも言っていることですが
仕事ができるというだけの理由で採用した人は お金のために働くでしょう
しかしあなたの信念を信じてくれる人を雇えば
その人は血と汗と涙を流して働くのです
このことを示す例としてライト兄弟ほど
ふさわしいものは 他にありません
サミュエル ピエールポント ラングレーについては知らない方が多いでしょう
20世紀の初頭には
有人動力飛行の追求は 今日のドットコムのようなもので
誰もが試みていました
そしてサミュエルは成功のレシピと言えるものを
備えていたのです
誰かに聞いたとしましょう
「製品や会社が失敗した理由は何ですか?」
返ってくる答えはいつも
同じ3つの項目です
資金不足 人材不足 市場環境の悪化
いつもこの3点です 詳しく見てみましょう
サミュエル ピエールポント ラングレーは
5万ドルの資金を陸軍省から与えられ
飛行機械を開発していました
資金は問題無し
ハーバード大に在籍し
スミソニアン博物館で働いていた彼は 人脈豊富です
当時の頭脳たちと通じていました
金にものを言わせて最高の
人材を集めました
市場の環境は絶好
ニューヨークタイムズは彼を追い掛け回し
みんなラングレーを応援していました
ではどうして皆さんはサミュエル ラングレーのことを聞いたことが無いのでしょうか
そこから数百マイル離れたオハイオ州デイトンにいた
ライト兄弟のオーヴィルとウィルバーは
成功のレシピとは
まるで無縁でした
お金がなく
夢に挑む資金は自分たちの自転車店から持ち出しで
ライト兄弟のチームの誰ひとりとして
大学を出てはいませんでした
オーヴィルとウィルバーも違いました
そしてニューヨークタイムズに追いかけ回されたりもしません
違っていたことは
オーヴィルとウィルバーが大義と
理想と信念に動かされていたということです
彼らはもしこの飛行機械を
作り上げることができたら
それは世界を変えることになると信じていました
サミュエル ラングレーは違っていました
彼が求めていたのは富と名声です
それによって得られるものが目的であり
富を追求していたのです
そして どうなったのでしょうか
ライト兄弟の夢を信じた人々は
血と汗と涙を流して共に働きました
もう一方のチームはただ給与のために働きます
ライト兄弟は外へテストに出かけるたびに
部品は5セットずつ持って行ったと言います
夕食に帰るまでには 5回ぐらい
壊れるようなものだったからです
そしてついに 1903 年の12月17日のこと
ライト兄弟は初飛行に成功
それをその場で目撃した者もいませんでした
そのことが広く伝えられたのは数日経った後です
そしてラングレーの動機が適切でなかった
ことを示すさらなる証拠には
ライト兄弟が飛行した日に 彼は諦めたのです
彼はこうも言えたはずでした
「連中はよくやった
我々の手でもっと改良してやろうじゃないか」 でもそうはせず
一番になれず 金持ちになれず
有名にもなれなかったので 彼は諦めました
人は「何を」ではなく「なぜ」に動かされるのです
そして自分が信じていることについて語れば
そのことを信じてくれる人たちを惹きつけるでしょう
ではなぜ自分の信念を信じてくれる人を引き付けることが重要なのでしょう
「イノベーションの普及の法則」と呼ばれるものがあります
もしも知らないなら言葉を覚えてください
人口の2.5%は
イノベーターです
13.5%はアーリー アダプタと
呼ばれる人たちです
34%はアーリー マジョリティー
レイトマジョリティーに ラガードと続きます
この人達がプッシュホンを買う理由は
ダイヤル式が買えなくなったからに他なりません
(笑)
人はみんな この軸上のいろいろな時点に位置づけられます
イノベーションの普及の法則が教えるところは
マスマーケットで成功したいなら
あるいはアイデアを幅広く受け入れて欲しいなら
そのためには
臨界点である
15から18パーセントの市場浸透率が必要ということです
そこまで行くと 状況が一変します
私は「新しいビジネスのコンバージョンはどれくらい?」とよく聞きます
相手は「10%です」と自慢げに教えてくれます
ええ 10パーセントの顧客を得るところまでは行けます
自分から飛びついてくれる人が 10%程いるのです
そうとしか言えないのですが
彼らは直感で ただ飛びついてきます
問題は 売り込まなくとも飛びつく人と
食いついてこない人の違いです
ここにある小さなギャップを
どう埋めるかが問題になります
ジェフリー ムーアのいわゆる「キャズムを越える」ということです
なぜかというと アーリーマジョリティーが
試そうという気になるのは
だれか他の人が
先にトライした後だからです
イノベーターとアーリーアダプターは
自分の直感に従って決める人達です
彼らは世界に対して信じることに基づいて
直感的に判断するのを好みます
入手が難しくとも問題にしません
iPhone が登場した日に
6時間並んで買う人達です
次の週になれば 歩いて店まで入っていって
すぐその場で買えるというのに
この人たちが最初の薄型テレビに
400万円払うのです
その技術がまだ標準になっていなくともお構いなしです
ちなみに彼らがそうするのは
技術がすごいのが理由ではなく
自分たちのためです
一番乗りをしたいのです
人は「何を」ではなく「なぜ」に動かされるのです
そして信じることをただ
行動で示すのです
人は自らの信じることを
示すために行動します
iPhone を買うために
6 時間も列に並んで
立ちっぱなしで過ごすわけは
彼らが世界について信じていることのためです
他の人にもその思いを見せたいのです
自分が 1 番だったと
人は「何を」ではなく「なぜ」に動かされるのです
ここで有名な例を紹介します
イノベーションの普及の法則に関する
有名な失敗例と 有名な成功例です
まず有名な失敗例ですが
これは商品の例です
ほんの少し前にも言いましたが
成功のレシピは金と人材と市場環境です
これがそろえば成功します
TiVo を見てください
TiVo が登場したのは
今から8-9 年前で
市場に投入されている唯一の高品質製品でした
断然 間違いなし
資金調達も極めて順調でした
市場の状況もすばらしかった
TiVo は動詞になりました
私はいつも「スゴ録」で TiVo ってるよ
でも商業的には失敗でした
お金を生み出せなかったのです
株式公開をしたときの株価は
30-40ドルでしたが
それから急落して10ドル以上で取引されることはありませんでした
実際 何回かの単発的な上げを別にすると
6ドル以上で取引されることさえなかったと思います
お分かりのように TiVo が製品を投入したときには
彼らはそれが「何か」を説明しました
「生放送を一時停止したりCMをスキップしたり
巻き戻して見たりできるテレビです
どんな番組が好きかを
頼まなくとも記憶してくれます」
疑い深い大衆は思います
「信じられないね
そんなのいらない 気に入らない
ぞっとしない製品だ」
もしTiVoがこんな風に言っていたら?
「自分の生活のあらゆる側面を
自分でコントロールしたいという方には
ぴったりの製品が
ここにあります
生放送を一時停止したり CM をスキップしたり
好みの番組を記憶します などなど」
人は「何を」ではなく「なぜ」に動かされるのです
何をするかは 信じることを
示す限りにおいて意味を持つのです
今度は イノベーションの普及の法則が
うまく行った例を見てみましょう
1963 年の夏のこと
25万人もの人が集まって
ワシントンの通りを埋め尽くし
キング師の演説に耳を傾けました
招待状が送られたわけではなく
日にちを告知するウェブサイトもなく
どうやったのでしょう
キング師だけが偉大な
演説家というわけではありませんでした
市民権運動以前のアメリカで彼だけが
苦しんでいたわけではありませんでした
実際 彼のアイデアのなかにはひどいものもありました
でも彼には才能がありました
彼はアメリカを変えるために何が必要かなどを説かず
彼は自分が信じることを語ったのです
「私は信じている 信じている 信じている」
と語りました
彼が信じることを信じた人々が
彼の動機を自らの動機とし
他の人にも伝えたのです
さらに多くの人々に伝えるため
組織を作った人もいました
そして なんとまぁ
25万人が集まったのです
その日 その時に
彼の話を聴くために
その中でキング師のために集まった人は何人いたでしょう
ゼロです
みんな自分自身のために集まったのです
彼ら自身がアメリカに対して信じることのために
8時間バスに揺られてやってきて
8月のワシントンの炎天の下に集まったのです
自分が信じることのためです 白人と黒人の対立ではありません
聴衆の 25 パーセントは 白人だったのです
キング師は
この世界には 2種類の法があると信じていました
神によって作られた法と
人によって作られた法です
そして人が作った法がすべて
神の法と整合するまでは
世が公正になることはないと信じていました
市民権運動はたまたま
彼の人生の目的を果たす上で
完璧な追い風でした
人々がついて行ったのは彼のためではなく自分自身のためでした
その中で 「私には夢がある」という演説をしたのです
「私にはプランがある」という演説ではありません
(笑)
現代の政治家の12項目の総合計画と比べてください
誰かを動かすものではありません
リーダーと 導く人は違います
リーダーというのは
権威や権力の座にある人です
でも導く人というのは 皆を動かすのです
個人であれ組織であれ
我々が導く人に従うのは
そうしなければならないからではなく
そうしたいからです
導く人に従うのは 彼らのためでなく
自分自身のためです
そして「なぜ」から始める人が
周りの人を動かし
さらに周りを動かす人を見出せる
力を持つのです
どうもありがとうございました
(拍手)