私たちは地球が丸いと知っています
この惑星について知っていることは全て
地球は丸いという
根本的な前提に基づいています
でも それほど遠くない過去には
地球が平らだと信じられていた頃もあります
これはパラダイムシフトと言われます
地球についての根本的な前提が変わったのです
過去の前提が間違っていたことを示す
証拠が発見されたからです
地球の形のように
自閉症についての前提も同様です
ほとんどの人は医学的な前提を通して
自閉症を理解しています
自閉症は病気だとか
障害として理解され
悲劇とさえ言われます
医療パラダイムで教えられるのは
正常な神経発達なるものが存在し
脳の働きには正しいもの
つまり「正常」とされるものが存在し
それ以外の発達は全て異常で
治療して修正することが必要だということです
2011年 25歳の時に
私は自閉症と診断されました
それは悲劇ではありませんでした
私にとって これまでで
最高のできごとでした
自閉症だとわかり
私は大きな安堵を覚えました
それまでの自分の人生に
やっと納得ができたのです
私自身についての
パラダイムがシフトしました
私は異常な定型発達者ではなかったのです
完全に正常な自閉症者だったのです
診断を受けてから
私は多くの人と同様に
グーグル先生に聞きました
(笑)
そして自閉症について調べ始めました
最終的に私はグーグル先生を卒業し
自閉症研究で博士号を取得して
私自身が先生になりました
今日では
自閉症であることを公表した
自閉症研究者は増えつつあり
その1人として私は誇らしく思います
でも駆け出しの頃
私は特に複雑な
研究プロジェクトは行っておらず
単に自分自身について
もっと学ぼうとしていました
実際 学ぶことはできましたが
打ちのめされました
自分の欠陥についての情報に
打ちのめされたんです
自閉症が原因で社交性に欠陥があり
コミュニケーションが難しい
行動に制限や反復がみられ
感覚処理にも欠陥がある
しかしこういった情報は
私にはピンときませんでした
自閉症だとわかったことは
私の人生を完全に良い方向に変えたからです
私にとってこれほど有益だったことが
そんなに悪いことなのでしょうか?
私はグーグル先生に戻り
今度は深く掘り下げました
自閉症についての情報で
研究者や専門家以外の
自閉症当事者が書いたものを探したのです
「神経多様性パラダイム」
というものを見つけました
神経多様性パラダイムとは
自閉症についての新しい考え方です
自閉症を人間の神経発達における
自然変異の範囲の一部と捉えます
かなり端的に言うと 自閉症というのは
思考方法が異なるということなんです
生物多様性が健全で持続可能な
物理環境の創造を助けるように
神経多様性は 健全で持続可能な
認知環境の創造を助けます
神経多様性パラダイムによれば
脳には正常も異常もありません
どのような形態の神経発達も
等しく正当であり価値があります
どのタイプの脳であっても
全ての人は完全で平等な人権を持ち
尊厳と敬意をもって扱われます
万能薬のように聞こえますよね
「尊厳と敬意をもって人を扱うこと」
ごく当たり前のことです
ところが驚くべきことに
この考え方に対する反応は
だいたい次のようなものです
「よくわからないな
あなたについては納得できるのですが
全ての人には該当しないように思います
この人なんかはどうでしょう?
見るからに自閉症ですよ
ちょっと違うというレベルでなく
まさに障害者ですよね」
しかし私の見かけだけでは
わからないかもしれませんが
私も障害者なのです
ただし私を障害者にしている
原因は自閉症でなく
環境なのです
これもまたパラダイムシフトです
障害について当たり前だとされている考え方は
障害の医学モデルに基づいています
医学モデルでは
障害は個人の問題です
そして障害を
障害のある人に負わせます
つまり私にです
例えば私はショッピングモールが
とても苦手です
騒がしい上に照明が強烈で
見通しが立たず
ごったがえっています
私がショッピングモールが苦手な理由を
医学モデルで説明すると
自閉症であるため脳の情報処理に
問題があるからということになります
でも障害について考える別の方法があります
障害の社会モデルと言います
社会モデルにおいては障害が発生するのは
環境がその人の個性に対応していない時です
社会モデルでは
「障害を持った人」とは言いません
障害は 荷物のように
持ち運ぶものではないのです
「障害された(disabled)」と
動詞として使います
障害とは私にもたらされるもの
私を「障害」「された」
(dis-abled)状態にしているのは
周りの社会の方です
ショッピングモールでは
私に問題があるゆえに
苦しむわけでなく
ショッピングモールのデザインが
私のニーズに合っていないから苦しむのです
もしショッピングモールが
静かで照明は控えめ
見通しが立ち 混み合わないように
デザインされるようになったら
私が自閉症であることは
変わりありませんが
ショッピングモールに
障害されることはなくなります
自閉症について知られている
ほぼ全てのことは
医学的な前提に基づく研究と
医療パラダイムから生まれたものです
毎年 世界で何億ドルものお金が
自閉症の研究に費やされています
そのほとんどが自閉症を
問題として扱っています
先日 私は調査を行い
オーストラリアで自閉症の研究資金が
どのように使われているかを
過去10年について調べました
その結果は以下のとおりです
助成金の40%以上が
遺伝と生物学的研究に使われ
自閉症の特性の原因究明や
特性の抑制策探しが行われていました
さらに20%が自閉症の治療法を
探す研究に使われています
大半が自閉症者の奇行を
ほんの少し改善させるための
新たな方法探しなのです
たった7%の資金しか
自閉症者へのサポートサービスを探る
研究には使われていません
なぜこれが問題なのでしょう?
だいたい50人に1人が自閉症です
大人の自閉症の60%は
不完全雇用あるいは失業中です
87%は心の病を抱えています
自閉症者は一般の9倍
自殺死亡率が高いのです
自閉症者の平均余命はたったの54歳です
明らかに改善が必要です
2012年 ダミアン・ミルトン博士という
自閉症当事者の研究者が
新たな理論を発表しました
博士はこれを二重共感問題と名付けました
その主張は次のとおりです
「実のところ自閉症者には
社会的欠陥はないかもしれない
自閉症者は同じような思考の人となら
うまく付き合えるのではないか
自閉症者なら自閉症者と
非自閉症者なら非自閉症者との方が
うまく交流できるだろう
自閉症者と非自閉症者の
交流が難しい理由は
自閉症者に社会性が
欠如しているからではなく
自閉症者も 非自閉症者も
自分たちとは違う相手に理解できる方法で
コミュニケーションを取れないからだ」
自閉症コミュニティからすれば
この説明は完璧に納得がいきます
でも多くの自閉症研究者は
そんなに熱心ではありません
自閉症研究の全歴史が 誤った前提に
基づいていたと思いたくないのでしょう
幸運にもここ数年
一握りの自閉症研究者が
二重共感問題の研究に参加し
科学的に検証することになりました
エジンバラ大学の
キャサリン・クロンプトン博士による
最新の研究では
「伝播の連鎖」という
課題が用いられました
オーストラリア流に言うと
やや政治的に正しくない名前ですが
「中国人の囁き」(伝言ゲーム)です
みなさんご存知ですよね
グループ内で順に1人ずつ
情報を耳打ちし
できるだけ正確に伝えます
やったことがある方ならご存じですね
正確に伝えるのはかなり難しいんです
最初の人はごくたわいない
文章を囁きます
例えば「今日家賃を払って
新しいタイヤを手に入れないと」とか
ところが最後の人になると
「ドナルド・トランプが大統領で
世界は大炎上」
(笑)
エジンバラ大では3つのグループに
このゲームをやってもらいました
1つ目のグループは全員が自閉症者
2つ目のグループは全員が非自閉症者
つまり定型発達者です
そして3つ目のグループは
自閉症者と非自閉症者の混成です
その結果
全員自閉症と全員非自閉症のグループでは
情報伝達の正確さはだいたい同じくらいでした
しかし自閉症と非自閉症の混成グループでは
情報伝達における正確さと明瞭さが
明らかに低下しました
これは自閉症者も非自閉症者も
コミュニケーション能力は
ほぼ同等であることを示唆しています
両者のコミュニケーション方法の
ミスマッチこそが
問題を引き起こすのです
まさしく二重共感問題が
予測したとおりです
自閉症についての考え方には
パラダイムシフトが必要です
「奇行を減らすこと」が
自閉症者にとっての最適解ではないと
皆が認識する必要があります
自閉症者に必要なのは
末長く幸せで 充実した人生を送るための
サービスとサポートです
そして ありのまま自閉症らしく
生きる権利が尊重されること
私の研究のような仕事が世に求められています
つまり当事者主導で
自閉症者が求める答えを出す研究です
地球は平らではなく
私は悲劇ではないからです
ありがとうございました
(拍手)