WEBVTT 00:00:16.288 --> 00:00:18.708 成功の秘訣は何でしょう? 00:00:19.228 --> 00:00:21.356 数年前だったら 00:00:21.467 --> 00:00:25.006 こんなふうに簡単に答えていたでしょう 00:00:25.006 --> 00:00:28.078 「まずは頭が良くなくてはならない そして努力を怠らないこと」 00:00:29.168 --> 00:00:32.194 もっと歯切れよく言えば ウィット(知力)があること 00:00:32.509 --> 00:00:34.723 つまり高い知能を持っているということです 00:00:35.662 --> 00:00:38.658 こちらはウィットの豊富な アルバート・アインシュタインです 00:00:39.008 --> 00:00:42.228 そして グリット(やり抜く力)が あることです 00:00:42.438 --> 00:00:45.319 一生懸命に努力し 目的を貫かなくてはいけません 00:00:47.498 --> 00:00:50.488 たとえば この 走り高跳びの選手のようにです 00:00:51.608 --> 00:00:56.518 もちろん このウィットとグリットに 基づく考えは 00:00:56.867 --> 00:01:00.502 長年考えてきたのですが 00:01:00.502 --> 00:01:04.149 この進化の過程を 振り返りながら話したいと思います 00:01:04.789 --> 00:01:08.399 ここに ウィットとグリットが 必要な一例があります 00:01:08.399 --> 00:01:11.867 それ無しでは この若者は テストで失敗してしまうでしょう 00:01:12.727 --> 00:01:14.557 これはもう少し年配のグループですが 00:01:14.557 --> 00:01:15.509 (笑) 00:01:15.509 --> 00:01:17.419 彼らにもウィットとグリットが あると望みたいですね 00:01:17.419 --> 00:01:20.189 ここはホワイトハウスの状況分析室で 00:01:20.189 --> 00:01:22.638 とても厳しい決断を迫られますから 00:01:22.638 --> 00:01:25.728 彼らにもウィットとグリットが あることを祈りましょう 00:01:27.528 --> 00:01:31.179 本日 私は心理学者として 約40年にわたり取り組んできた研究を 00:01:31.489 --> 00:01:33.659 振り返っていきたいと思います 00:01:34.049 --> 00:01:39.589 また ウィットとグリットの重要性について 考えが大きく変わりましたので 00:01:39.629 --> 00:01:43.171 特にその点に関して 話したいと思っています 00:01:43.551 --> 00:01:45.781 これは ほんの数年前の私です 00:01:45.781 --> 00:01:47.669 (笑) 00:01:47.669 --> 00:01:50.137 研究を始めたばかりの頃です 00:01:51.207 --> 00:01:55.370 当時 私は知能とは たった1つのものだと信じていました 00:01:55.370 --> 00:01:59.869 つまり頭の中にはコンピューターが1台あり 00:01:59.889 --> 00:02:02.671 それが高機能であれば 全てにおいて優秀で 00:02:03.041 --> 00:02:05.021 そうでなければ残念ながら 00:02:05.401 --> 00:02:08.068 全てがダメだというようにね 00:02:08.068 --> 00:02:11.659 もちろん 当時 私が信頼していたのは IQ(知能指数)テストです 00:02:11.659 --> 00:02:14.389 おそらく皆さんも 受けたことがあるでしょう 00:02:14.389 --> 00:02:17.490 IQテストを受ければ 自分の賢さがわかると言われています 00:02:17.900 --> 00:02:21.340 困ったことに 不運にも自分は賢くない ということも判明します 00:02:21.340 --> 00:02:23.499 自分が賢くないと思うのは辛いですね 00:02:23.499 --> 00:02:26.039 そう思いながらその後の人生を送るなんて 00:02:26.039 --> 00:02:27.709 不幸だと思います 00:02:28.099 --> 00:02:31.949 私は研究を進める中で 幼い子どもを調査しました 00:02:32.579 --> 00:02:37.390 年齢、個々の才能、育った環境の異なる 子ども達です 00:02:37.400 --> 00:02:39.170 子ども達の様々な行動を観察し 00:02:39.170 --> 00:02:41.880 発見したのは ある1つのことに長けている子が 00:02:41.880 --> 00:02:45.680 他のことにも長けているとは 限らないということでした 00:02:46.363 --> 00:02:49.431 更に印象的だったのは 脳損傷の患者を研究した時です 00:02:49.461 --> 00:02:52.479 被験者は不幸にも 脳卒中を患った人達や 00:02:52.479 --> 00:02:54.861 脳のある部位に 機能障害を持った人達でした 00:02:54.861 --> 00:02:58.811 脳損傷に関する唯一にして 最も重要な点は その部位です 00:02:58.811 --> 00:03:01.340 それが脳の左側に起きているか 右側なのか 00:03:01.340 --> 00:03:03.162 前方か後方か ということです 00:03:03.352 --> 00:03:06.731 ご存知かもしれませんが 損傷の部位により 00:03:06.731 --> 00:03:10.481 どの機能が失われ どの機能が 残っているのかがわかりますから 00:03:10.481 --> 00:03:13.821 1人はある領域に優れ もう1人はまさにその領域が劣るような 00:03:13.821 --> 00:03:17.731 正反対のプロフィールを持つ 2人の患者を調べることもできます 00:03:19.561 --> 00:03:21.851 このことがきっかけで 私は1980年代初めに 00:03:21.971 --> 00:03:24.681 様々な文化における 人間の発達の研究や 00:03:25.071 --> 00:03:29.282 脳とその特化した部位について 研究するようになり その体験をもとに 00:03:29.641 --> 00:03:32.882 『Frames of Mind(心の枠組み)』という 本を執筆しました 00:03:32.882 --> 00:03:35.982 副題の『The Multiple Intelligences Theory (多重知能論)』は 00:03:35.982 --> 00:03:37.670 「MI理論」と呼ばれ 00:03:38.000 --> 00:03:41.213 私の名は未だにこの理論により 知られています 00:03:41.443 --> 00:03:44.211 この本は400ページもありますが 00:03:44.211 --> 00:03:48.443 厚い本の良いところは 短く概要を説明できることで 00:03:48.923 --> 00:03:51.522 それがTEDトークなら なお良いですね 00:03:51.522 --> 00:03:55.459 この本で述べたのは 私たちには1台というより 00:03:55.459 --> 00:04:00.462 少なくとも7〜8台のコンピューターが 備わっているということです 00:04:00.792 --> 00:04:03.421 その中の1台がうまく機能する人もいれば 00:04:03.421 --> 00:04:05.901 別のコンピューターが よく機能する人もいます 00:04:06.201 --> 00:04:09.163 だからこそ多重知能について 考える必要があるのです 00:04:09.473 --> 00:04:13.154 では そのコンピューターについて 写真を使って説明しましょう 00:04:13.474 --> 00:04:16.663 言語的知能とは エミリー・ディキンソンなどの詩人や 00:04:16.663 --> 00:04:19.132 エドガー・アラン・ポー あるいは 00:04:19.942 --> 00:04:22.783 CNNのジャーナリストなどが持つ知能です 00:04:23.573 --> 00:04:26.182 2つめは論理・数学的知能です 00:04:26.182 --> 00:04:29.861 科学者やプログラマーに 見られる知能です 00:04:30.411 --> 00:04:33.722 言語と論理が得意なら 学校での成績は良いですから 00:04:33.722 --> 00:04:36.742 学校にいる限り 自分が賢いと思えるでしょう 00:04:36.742 --> 00:04:37.785 (笑) 00:04:37.785 --> 00:04:39.464 高速道路上で車外に出たり 00:04:39.464 --> 00:04:41.998 まして森やジャングルに 分け入ったりしたら 00:04:41.998 --> 00:04:44.928 他の知能も重要だと思い知るでしょう 00:04:44.928 --> 00:04:45.853 (笑) 00:04:45.853 --> 00:04:47.534 音楽的知能とは 00:04:47.534 --> 00:04:50.123 この指揮者などが持ち合わせている知能で 00:04:50.123 --> 00:04:52.393 偉大な演奏家 ヨーヨー・マも同様です 00:04:52.393 --> 00:04:54.714 左の写真は彼が神童と 言われていた頃のもの 00:04:54.714 --> 00:04:59.223 右の写真は誰もが崇拝する 現在のヨーヨーです 00:04:59.493 --> 00:05:01.734 4つめの知能は空間的なものです 00:05:01.734 --> 00:05:04.874 限られた範囲の空間を扱う チェス・プレイヤーや 00:05:05.304 --> 00:05:09.453 広い空間であれば船乗りや 航海士が持つ知能です 00:05:09.893 --> 00:05:12.804 5つめは身体・運動感覚の知能です 00:05:13.114 --> 00:05:16.772 運動選手のように からだ全体を使う人のほか 00:05:16.772 --> 00:05:19.835 木材や金属など 様々な材料を扱う 00:05:19.835 --> 00:05:23.365 工芸家が持つ知能です 00:05:24.295 --> 00:05:26.765 6つめは対人的知能で 00:05:26.765 --> 00:05:28.395 他者の気持ちを理解する能力です 00:05:28.395 --> 00:05:32.765 キング牧師は 他者を鼓舞する秘訣を心得ていました 00:05:32.765 --> 00:05:34.584 彼が持っていたのが 対人的知能です 00:05:34.884 --> 00:05:38.224 もう少し身近な例では 営業マンもそうです 00:05:38.224 --> 00:05:41.984 いらない車を高い値段で買わせますから 00:05:41.984 --> 00:05:44.365 これも対人的知能です 00:05:45.285 --> 00:05:50.074 7つめは内省的知能 自分自身を理解することです 00:05:50.344 --> 00:05:53.175 瞑想者には この内省的知能があるでしょう 00:05:53.675 --> 00:05:55.265 精神分析医にかかる時 00:05:55.265 --> 00:05:57.735 その目的は自己に対する 理解を深めることですね 00:05:59.305 --> 00:06:03.105 近年 私はこれに8つめの 博物的知能を加えました 00:06:03.265 --> 00:06:07.145 博物的知能があれば 大自然の中で植物を見分けたり 00:06:07.145 --> 00:06:10.668 動物と意思疎通したりできます 00:06:10.948 --> 00:06:14.006 こちらはチンパンジーと話す ジェーン・グドールです 00:06:14.436 --> 00:06:17.081 これらが8つの知能で 00:06:17.104 --> 00:06:20.703 私はこれを『MI:個性を生かす多重知能の理論』 という本にまとめました 00:06:20.703 --> 00:06:26.054 この本の重要な変更点は ウィット(wit)を 複数のウィッツ(wits)に変えたことです 00:06:26.564 --> 00:06:28.191 ポイントはいくつかありますが 00:06:28.191 --> 00:06:30.694 1つには 私たちには皆 これら複数の知能があり 00:06:30.694 --> 00:06:33.814 それが認知的な意味で 私たちを 人間たらしめているということです 00:06:33.814 --> 00:06:36.585 でも 全く同じ知能を同じように 有している人は2人といません 00:06:36.585 --> 00:06:40.336 たとえ一卵性双生児であってもです 00:06:40.336 --> 00:06:41.336 驚くべきことです 00:06:41.336 --> 00:06:44.405 人々がそれぞれに違った知能を 異なったバランスで有しているから 00:06:44.405 --> 00:06:47.095 学校や職場での体験 そして他者との付き合い方に 00:06:47.095 --> 00:06:48.768 その違いが表れるのは当然で 00:06:48.768 --> 00:06:50.925 重要な事に 自分についての考え方にも影響します 00:06:50.925 --> 00:06:53.244 誰もが各々に知的な強みを 持っているからです 00:06:53.244 --> 00:06:54.984 全ての知能を欠く人は存在しません 00:06:55.964 --> 00:06:59.286 さて それぞれの知能を測定するには どうすればいいでしょう? 00:06:59.286 --> 00:07:01.066 私がよく尋ねられる質問です 00:07:01.066 --> 00:07:03.676 筆記試験では それを見極めることはできません 00:07:03.676 --> 00:07:06.354 言語的・論理的能力のみを 測る道具だからです 00:07:06.354 --> 00:07:09.234 言語と論理が得意なら テストの結果は良くなります 00:07:09.234 --> 00:07:12.394 従って 個々人を観察し 実際にどの知能を駆使しているかを 00:07:12.394 --> 00:07:15.355 観察できる環境を創る必要があります 00:07:15.355 --> 00:07:17.846 私たちは子ども達を このように観察しました 00:07:18.216 --> 00:07:21.895 身近な物体を組み立てたり 分解したりする機会を与え 00:07:21.895 --> 00:07:23.658 空間的知能や身体的知能を観察しました 00:07:24.218 --> 00:07:27.124 音楽的知能を見るには 子どもが音楽を作ったり 00:07:27.124 --> 00:07:29.761 聴いたメロディーを 真似したりできるかを調べました 00:07:30.461 --> 00:07:34.895 言語的知能については 新しい語句や言語が学習できるか 00:07:34.895 --> 00:07:37.785 正しいトーンや強勢、抑揚で 発話できるかを観察します 00:07:38.335 --> 00:07:40.232 細かい運動スキルはこうです 00:07:40.232 --> 00:07:43.366 棒をしっかり握っていないと ブーッと ひどい音が鳴ります 00:07:43.876 --> 00:07:47.407 もしくは これです バランスよく歩けず 00:07:47.407 --> 00:07:50.263 ワイヤーにつまずくと ひどく嫌な音が出ます 00:07:51.523 --> 00:07:52.816 博物的知能については 00:07:52.816 --> 00:07:55.017 子どもが拡大レンズを使ったときと 00:07:55.017 --> 00:07:57.786 肉眼で見るときとでは どう区別するのかを調べます 00:07:57.786 --> 00:07:59.586 面白いゲームの例を紹介しましょう 00:07:59.586 --> 00:08:03.046 ボードゲームです 数学的知能が測れますね 00:08:03.046 --> 00:08:05.726 でもそれだけではなく 対人的能力も分かるんです 00:08:05.726 --> 00:08:07.835 幼い子供でも 自分が知っていることを 00:08:07.835 --> 00:08:10.385 他の人は知らないと分かれば ズルができますからね 00:08:10.385 --> 00:08:11.148 (笑) 00:08:11.148 --> 00:08:12.588 ですから4歳までは 00:08:12.588 --> 00:08:14.998 ズルができるということは 対人的知能の証拠です 00:08:14.998 --> 00:08:17.248 でもそれ以降は 褒められない能力ですね 00:08:17.248 --> 00:08:18.397 (笑) 00:08:18.397 --> 00:08:21.727 さて 私どもは『Multiple Intelligences Oasis』 というウェブサイトを作りました 00:08:22.247 --> 00:08:24.146 「Oasis(オアシス)」とは 考え抜いた比喩で 00:08:24.146 --> 00:08:28.459 砂漠のような不毛な場所の真ん中にある 滋養の源といった意味です 00:08:28.459 --> 00:08:29.859 ここで言う「砂漠」とは 00:08:29.859 --> 00:08:32.756 多重知能理論についての いくつかの誤解を象徴しています 00:08:32.756 --> 00:08:35.452 例えば「皮膚紋理学」などというのは— 00:08:35.452 --> 00:08:36.616 酷い言葉ですね 00:08:36.616 --> 00:08:39.547 その皮膚紋理学によると 指紋を見れば 00:08:39.547 --> 00:08:41.006 賢さが分かるというのです 00:08:41.227 --> 00:08:42.408 全くのナンセンスです 00:08:42.408 --> 00:08:45.476 だから私たちのサイトでは 皮膚紋理学を取り上げています 00:08:46.046 --> 00:08:48.467 今からお話しする例は もっと深刻なもので 00:08:48.847 --> 00:08:50.457 20年以上前 00:08:50.457 --> 00:08:52.535 オーストラリアの ある州で起きたことです 00:08:52.535 --> 00:08:55.697 あるカリキュラムが 多重知能理論にそって作られました 00:08:55.697 --> 00:08:59.015 大変光栄なことでしたし その動機も善意によるものだったのでしょう 00:08:59.015 --> 00:09:02.089 ところが そのカリキュラムが 00:09:02.089 --> 00:09:04.848 オーストラリア国内の すべての人種・民族 00:09:04.848 --> 00:09:08.348 それぞれの持つ知能と欠けている知能の 一覧を含むことが分かりました 00:09:08.838 --> 00:09:12.918 私は驚愕しました 私の考えの誤用も甚だしく 00:09:12.918 --> 00:09:16.779 何の裏付けも無いものでしたから 私は現地のテレビに出て 00:09:16.779 --> 00:09:22.136 理論の誤用を止めるように訴え 幸いにもそれは聞き入れられました 00:09:22.466 --> 00:09:27.498 しかし この出来事により多くの学者が 自問すべき問題に気付きました 00:09:27.498 --> 00:09:31.948 自分のアイデアが話題になり 利用されるのは素晴らしいことですが 00:09:31.948 --> 00:09:34.198 仮にそれが誤用されてしまったら その時 00:09:34.198 --> 00:09:35.568 私たちの責任は何でしょうか 00:09:35.568 --> 00:09:37.788 自ら「Oasis」のような場で 00:09:37.918 --> 00:09:39.458 指摘しなければ 00:09:39.458 --> 00:09:43.056 誰も何も言ってくれないだろう ということに気付きました 00:09:44.286 --> 00:09:48.559 これまで私たちは認知、思考、知能について 議論を重ねてきました 00:09:48.559 --> 00:09:52.059 しかし その一方で 様々な教育環境において 00:09:52.059 --> 00:09:55.358 社会的、情緒的、個人的な特色について もっと考えるように 00:09:55.358 --> 00:09:56.858 なっています 00:09:57.198 --> 00:10:00.698 おそらく今一番脚光を浴びているのは 冒頭でご紹介した 00:10:00.698 --> 00:10:01.990 グリットでしょう 00:10:01.990 --> 00:10:05.179 グリットについては ペンシルベニア大学の心理学者 00:10:05.179 --> 00:10:08.699 アンジェラ・ダックワースが書き 00:10:09.039 --> 00:10:13.579 ジャーナリストのポール・タフの この言葉で大変有名になりました 00:10:13.579 --> 00:10:17.479 「もし自分の子供を成功させたいなら その子にはグリットが必要だ」 00:10:17.739 --> 00:10:21.223 結構なことです 誰もグリットに異論はないでしょう 00:10:21.223 --> 00:10:24.177 私自身にも、我が子にも、孫にも グリットがほしい 00:10:24.177 --> 00:10:26.009 皆さんにグリットを持ってほしい 00:10:26.069 --> 00:10:28.820 でもグリットについて しばらく考えていくと 00:10:28.820 --> 00:10:34.184 ヒトラーやナチスの突撃隊員だって グリット旺盛だったことに気付くでしょう 00:10:34.554 --> 00:10:38.148 問題なのはグリットを持つ事ではなく それを悪用したことです 00:10:39.258 --> 00:10:44.001 もう少し現代的で ナチスほどでないにしろ悪質な例が 00:10:44.341 --> 00:10:47.620 「重役会議室の切れ者たち」です 00:10:47.620 --> 00:10:49.930 エンロンという大企業を 発展させた人々です 00:10:50.320 --> 00:10:53.751 会社は巨大な時価総額を生み 「彼ら」は大変熱心に仕事しましたが 00:10:54.161 --> 00:10:57.811 嘘をつき 会社の損失をごまかし 00:10:57.811 --> 00:11:01.420 また国内のエネルギー価格についても ごまかしました 00:11:01.420 --> 00:11:04.798 エンロンが破綻し 多くの人々が 仕事や 00:11:04.798 --> 00:11:06.499 退職後の年金給付を失いました 00:11:06.499 --> 00:11:08.580 これも問題は ウィットやグリットの有無ではなく 00:11:08.580 --> 00:11:12.400 グリットをどこに注ぐかなのです 00:11:13.220 --> 00:11:16.480 グリットを持つことは素晴らしいことです 00:11:16.480 --> 00:11:18.691 多重知能理論の発表後 20年 00:11:18.691 --> 00:11:20.371 私が興味をもって研究したのは 00:11:20.371 --> 00:11:25.311 善き人間、善き労働者、善き市民とは どういうことかです 00:11:26.871 --> 00:11:28.701 例を示したら分かり易いでしょう 00:11:28.701 --> 00:11:33.962 多大な尊敬を集めるネルソン・マンデラは 南アフリカの戦闘状態にあるグループを 00:11:33.962 --> 00:11:35.542 平和的にまとめました 00:11:36.162 --> 00:11:39.392 女性に選挙権すらない時代に育った エレノア・ルーズベルトは 00:11:39.392 --> 00:11:42.843 思想的な意味で 合衆国の指導者となり 00:11:42.843 --> 00:11:46.471 夫のルーズベルト大統領に 重大かつ良い影響を与えました 00:11:47.131 --> 00:11:50.423 私のヒーローである マハトマ・ガンジーは 00:11:50.423 --> 00:11:54.353 人々は様々な意見を持つものですが たとえ意見が対立しても 00:11:54.602 --> 00:11:59.431 暴力を使えば 世界は崩壊する ということを誰よりも理解していました 00:11:59.431 --> 00:12:03.552 ガンジーの非暴力の思想は 今の時代に大変重要なものであり 00:12:03.552 --> 00:12:05.191 今後も そうあり続けるでしょう 00:12:05.741 --> 00:12:08.393 そこで立ち上げたのが 「グッドワーク・プロジェクト」です 00:12:08.393 --> 00:12:09.971 研究者にはプロジェクトがつきものです 00:12:09.971 --> 00:12:12.422 やがて改名して 「グッド・プロジェクト」となり 00:12:12.422 --> 00:12:15.884 こちらに記載された多くの 素晴らしい仲間が関わってくれました 00:12:15.884 --> 00:12:19.253 皆さん「グッドワークとは何だろう?」と お考えですよね 00:12:19.253 --> 00:12:22.363 20年に渡り9種の職業、1200名を 調査しましたが 00:12:22.363 --> 00:12:26.861 多重知能と同様に 簡潔に説明しましょう 00:12:27.471 --> 00:12:30.202 グッドワークは 皆さんが出会う 00:12:30.792 --> 00:12:32.983 弁護士や判事 科学者、医師 00:12:33.443 --> 00:12:35.983 化学者や教師の仕事に 見いだすことができます 00:12:35.983 --> 00:12:38.173 グッドワークとは3つの要素から成り 00:12:38.173 --> 00:12:42.175 それらは優れていること、専念していること 倫理にかなっていることです 00:12:42.175 --> 00:12:44.085 では教育を通して説明しましょう 00:12:44.085 --> 00:12:47.221 グッドワークができる教師は 自分の教える内容を理解していて 00:12:47.221 --> 00:12:50.123 教える内容に精通しており 仕事に熱意と関心を持っています 00:12:50.123 --> 00:12:52.787 学校の仕事を楽しみにしていて 生徒が好きで 00:12:52.787 --> 00:12:54.382 生徒と関わることが好きです 00:12:54.382 --> 00:12:57.043 この後はグッドワークが 倫理的であることについて 00:12:57.043 --> 00:12:58.643 お話ししたいと思います 00:12:58.643 --> 00:13:01.313 グッドワークができる人は 難しい決断に際し 00:13:01.313 --> 00:13:03.923 適切な決断が下せるよう 懸命に取り組み 00:13:03.923 --> 00:13:06.384 たとえ 適切な決断が下せなかったとしても 00:13:06.384 --> 00:13:09.484 次の機会に改善しようとします 00:13:09.484 --> 00:13:12.173 これを「三重らせんのENA」と 呼んでいます 00:13:12.173 --> 00:13:15.574 皆さんご存じの「二重らせんのDNA」を もじったものですが 00:13:15.574 --> 00:13:18.454 グッドワークのお墨付きを得るには 次の3つが必要です 00:13:18.744 --> 00:13:23.001 Excellent(優れて)Engaged(専念し) Ethical(倫理的)であることです 00:13:23.885 --> 00:13:26.265 そして現在 20年の研究を経て 00:13:26.312 --> 00:13:27.812 先ほど紹介したとおり 00:13:27.820 --> 00:13:30.770 情報源として『グッド・プロジェクト』 というサイトを立ち上げ 00:13:30.793 --> 00:13:35.999 グッドワーク、デジタル・メディアと倫理観 善き市民、善き協力について説明したり 00:13:36.187 --> 00:13:39.537 ゲーム、装置、道具を提供したりして 00:13:39.544 --> 00:13:43.741 人々が自ら善き人となるように努力したり 他者がそうなる手助けを促したりしています 00:13:43.969 --> 00:13:45.976 これは 「グッドワーク・ツールキット」です 00:13:45.976 --> 00:13:49.731 その中から例を1つ ご紹介しましょう 00:13:50.321 --> 00:13:52.005 この例は実際に起きた話ですが 00:13:52.005 --> 00:13:55.533 写真の人物は本人ではなく 名前も変えてあります 00:13:55.533 --> 00:13:56.899 デビーの話です 00:13:56.899 --> 00:13:58.742 あなたは学生や教員の立場で 00:13:58.742 --> 00:14:01.610 この話を聞いて 決断を下さなくてはなりません 00:14:01.610 --> 00:14:03.032 「デビーの選択」 00:14:03.032 --> 00:14:05.401 デビーは高校の新聞部の 優秀なジャーナリストで 00:14:05.401 --> 00:14:07.270 編集者です 00:14:07.270 --> 00:14:10.383 祖父はニューヨーク・タイムズ紙の 有名な記者でした 00:14:10.473 --> 00:14:11.951 校内でレイプ事件が発生 00:14:12.391 --> 00:14:15.473 デビーの記者としての仕事は 事件の記事を書くことです 00:14:15.853 --> 00:14:17.313 記事に取りかかったところ 00:14:17.313 --> 00:14:19.581 校長に呼び出され こう言われました 00:14:19.581 --> 00:14:22.449 「デビー レイプ事件に関する記事は 書かないように 00:14:22.449 --> 00:14:25.298 来週 入学説明会があるのに 00:14:25.298 --> 00:14:28.824 そんな事件が知れたら 誰もこの学校に入学しないだろう 00:14:28.824 --> 00:14:31.361 その件について記事を書くのは禁止だ」 00:14:31.701 --> 00:14:33.625 デビーは倫理的ジレンマに直面します 00:14:33.625 --> 00:14:37.666 家に帰ると母親が 彼女をぎゅっと抱きしめて こう言います 00:14:37.729 --> 00:14:41.312 「デビー あなたは立派よ お祖父さんもきっと自慢に思うでしょう 00:14:41.312 --> 00:14:43.163 素晴らしいジャーナリストだわ 00:14:43.163 --> 00:14:46.923 でも弟のテディが来年 あの学校に 入りたがってるのを知ってるわね 00:14:46.923 --> 00:14:50.595 もし記事を出せば テディは 入学できなくなるかもしれないわね 00:14:50.595 --> 00:14:53.266 だから 何をするべきかよく考えてね」 00:14:53.266 --> 00:14:55.141 これこそ 倫理的ジレンマです 00:14:55.141 --> 00:14:57.365 デビーは良いジャーナリストでありたい 00:14:57.365 --> 00:14:59.204 彼女がする事は自ずと決まります 00:14:59.204 --> 00:15:01.793 学校というコミュニティーの 良き一員でいたいなら 00:15:01.793 --> 00:15:02.955 何をすべきなのか 00:15:02.955 --> 00:15:05.164 さらに家族としても良き存在でいたい 00:15:05.164 --> 00:15:08.514 両親が望むことや 弟のために良いことをしてあげたい 00:15:08.621 --> 00:15:11.476 こうした倫理的ジレンマは 私たちが 00:15:11.476 --> 00:15:14.967 善き人間、善き労働者、善き市民とは どんなものなのか 00:15:14.967 --> 00:15:17.362 理解しようとする際に 直面するものです 00:15:17.982 --> 00:15:20.882 あなたが哲学的な人であれば こう思うでしょう 00:15:20.882 --> 00:15:23.009 「善いかどうかを誰が決めるんだ?」 00:15:23.619 --> 00:15:25.659 1つの答えはこれ 最高裁です 00:15:25.659 --> 00:15:26.589 (笑) 00:15:26.599 --> 00:15:28.069 ある種の権威ではありますが 00:15:28.069 --> 00:15:31.499 私のようなタイプは 最高裁の結論に必ずしも同意できないものです 00:15:31.499 --> 00:15:34.876 そこでもっと良い答えがあります 多くの研究による裏付けもあります 00:15:34.876 --> 00:15:38.791 それは 自分の周囲の人々と話し合い 意思疎通をはかることです 00:15:39.141 --> 00:15:42.112 こちらは私が長年研究で関わってきた 教師たちです 00:15:42.112 --> 00:15:45.932 問題が起きると 私たちは実際に会って話をします 00:15:45.932 --> 00:15:47.762 そしてどうするか決定すべく 努力し 00:15:47.762 --> 00:15:49.652 決めたことを実行するのです 00:15:49.652 --> 00:15:53.116 うまく行かなければ 次は改善するようにします 00:15:53.116 --> 00:15:55.356 私たちはこれを 「共通の空間を創る」と言います 00:15:55.356 --> 00:15:58.876 話し合いをするには オンラインより対面が良いでしょう 00:15:58.893 --> 00:16:01.227 やらないよりはオンラインの方が マシです 00:16:01.227 --> 00:16:03.867 善くなろうと頑張るなら 00:16:03.867 --> 00:16:05.317 1人では無理です 00:16:05.317 --> 00:16:07.643 非常に厄介な問題について 共に語る― 00:16:07.643 --> 00:16:10.838 信頼できる友人を 持つことが必要です 00:16:11.338 --> 00:16:13.891 40年の研究を経て得た ポイントは2つ 00:16:13.891 --> 00:16:16.879 その1 人の賢さはそれぞれ異なり 00:16:16.879 --> 00:16:20.620 それが自分や他者の 捉え方に影響するということ 00:16:20.620 --> 00:16:23.270 その2 グリットだけでは不十分だということ 00:16:23.270 --> 00:16:26.941 グリットの使い道を見極め それを善いことのために使うよう 00:16:26.941 --> 00:16:29.725 弛まぬ努力をする必要があります 00:16:30.135 --> 00:16:32.749 ここで 今回の話をまとめる代わりに 00:16:32.749 --> 00:16:35.556 こんなふうにツイートしてみましょうか 00:16:36.473 --> 00:16:38.847 いいですか 00:16:41.307 --> 00:16:43.468 「ウィット」を複数にして 00:16:45.958 --> 00:16:48.558 「グッド」を 「グリット」の前に置きます 00:16:49.457 --> 00:16:51.907 「多元的なウィッツ」と 「善い目的のためのグリット」 00:16:51.916 --> 00:16:53.386 ご清聴ありがとう 00:16:53.416 --> 00:16:56.566 (拍手)