0:00:29.950,0:00:32.813 マイクロプラスチックの話をします 0:00:34.003,0:00:37.501 大体 今世界で年間に[br]3千万tのプラスチックごみが 0:00:37.501,0:00:40.285 道端に捨てられていると[br]言われているんですね 0:00:40.447,0:00:43.663 その3千万tのプラスチックごみが[br]どうなるかというのは 0:00:43.663,0:00:45.751 実のところ よく分かっていないんですが 0:00:45.855,0:00:50.378 ほとんどのプラスチックは[br]いずれ道端に捨てられれば 0:00:50.378,0:00:55.222 川に入って 大きな川に移って[br]それから海に流れ出るだろうと 0:00:55.377,0:00:59.513 まあほとんどっていうことはないですが[br]そういう部分が必ず出てくる訳ですね 0:00:59.759,0:01:02.479 そうやって海に流れて行くプラスチックが 0:01:02.479,0:01:07.086 大体今年間で2百万tくらい[br]流れ出るだろうという試算があるんですが 0:01:07.556,0:01:11.902 それがですね[br]海を漂うと海岸に打ち上がって 0:01:11.902,0:01:13.582 あるいは海をずっと漂いながら 0:01:13.582,0:01:16.484 紫外線を浴びて 次第に劣化していってですね 0:01:16.484,0:01:23.285 それから 波だとかそういった[br]物理的な作用で 細かく砕けて 0:01:24.845,0:01:28.746 人の目にはつかなくなるんですけど[br]いわゆるマイクロプラスチックという — 0:01:28.773,0:01:31.925 5mm以下をひとつの目安として[br]呼んでいますが — 0:01:31.925,0:01:35.671 そういう小さな微細片になって[br]また海を漂い始める 0:01:35.671,0:01:39.959 で そういったプラスチック微細片[br]マイクロプラスチックと言われるものが 0:01:39.959,0:01:41.238 海を漂うとですね 0:01:42.680,0:01:44.476 目に触れることは無いんですが 0:01:44.476,0:01:47.687 小さいだけに 色んな生き物が[br]それを誤食してしまうんですね 0:01:47.724,0:01:50.075 誤って食べてしまう訳ですね 0:01:50.075,0:01:51.452 誤って食べてしまうと — 0:01:51.452,0:01:54.489 基本的に プラスチックというものは[br]無害なんですけれども — 0:01:54.889,0:01:59.232 プラスチックの表面には[br]「残留性有機汚染物質」といわれる — 0:01:59.232,0:02:03.218 PCBなんかが よく名前が通っていると[br]思いますけれども — 0:02:03.218,0:02:07.367 そういった残留性有機汚染物質[br]いわゆる「POPs」というものが 0:02:07.367,0:02:11.569 プラスチックの表面に非常に吸着しやすい[br]という性質を持っていて 0:02:11.898,0:02:15.000 海にせっかく薄く広がった[br]そういった残留性有機汚染物質が 0:02:15.000,0:02:17.298 プラスチックに乗っかって 0:02:17.298,0:02:22.769 そしてそれを生物が食べることによって[br]POPsが生物の体内に移ってしまう 0:02:23.024,0:02:25.788 それが海洋生物にとって 0:02:25.788,0:02:29.113 何か悪影響が出るのではないかという[br]危惧がある訳ですね 0:02:29.113,0:02:30.148 一方で 0:02:30.148,0:02:35.867 また粒子毒性 (particle toxicity)[br]という言葉があります 0:02:35.867,0:02:39.543 これは何であっても[br]食べ過ぎれば毒物だということで 0:02:40.066,0:02:42.489 プラスチックを食べすぎるとですね― 0:02:42.489,0:02:45.307 食べる事自体も生物は[br]エネルギーを使いますから — 0:02:45.307,0:02:48.260 それで何らかのストレスを受けて 0:02:48.260,0:02:52.087 摂食障害や成長障害など[br]色々な障害が出ると言われていますが 0:02:52.287,0:02:55.195 それがプラスチックを誤食することの悪影響で 0:02:55.195,0:02:59.504 もうひとつの結果であると言われています 0:02:59.641,0:03:00.961 実際ですね 0:03:02.952,0:03:06.911 どれだけマイクロプラスチックを食べると 0:03:06.911,0:03:10.226 生き物に何が起こるのかという[br]実験がここ数年で 0:03:10.226,0:03:13.710 世界で60程度あるいは今は[br]もうちょっと増えているかもしれませんが 0:03:13.710,0:03:16.401 多数行われています 0:03:16.901,0:03:19.274 その結果を並べてみますとですね 0:03:19.274,0:03:22.907 大体 海水1tあたりに 0:03:22.907,0:03:26.541 1g(1,000mg)位の重量で 0:03:26.541,0:03:29.118 マイクロプラスチックが[br]浮くようになればですね 0:03:29.118,0:03:33.967 そこに生きる生き物には[br]何らかの障害が出てくる — 0:03:33.967,0:03:37.498 成長障害だとか摂食障害だとかですね — 0:03:37.498,0:03:41.030 そういった障害が出てくると言われています 0:03:41.470,0:03:43.254 大事なことはですね 0:03:43.254,0:03:47.029 あくまでも実験室の中で[br]確かめられた結果なんですけれども 0:03:47.029,0:03:48.801 大事なことは 0:03:48.801,0:03:50.413 このように実験室の中で 0:03:50.413,0:03:55.789 何らかの生物に影響が出ると言われるような[br]浮遊マイクロプラスチックの濃度が 0:03:55.789,0:04:00.042 実際の海に現れるのかどうか[br]今現在 現れているのか 0:04:00.042,0:04:01.757 現れていないとすれば 0:04:01.757,0:04:05.016 将来何年後ぐらいに そういう事態に[br]なってしまうのか というのを 0:04:05.016,0:04:10.980 正しく監視し予測するということが[br]今最も大切なことだと言われています 0:04:11.400,0:04:13.668 そこで 私達の研究グループは 0:04:13.668,0:04:18.099 昨年これは『Nature Communication』で[br]発表したばかりの仕事なんですけれども 0:04:18.099,0:04:24.727 世界で初めて 浮遊マイクロプラスチックの[br]浮遊量の将来予測を行いました 0:04:25.614,0:04:28.974 今 発表しているのは[br]太平洋だけの結果なんですけれども 0:04:29.234,0:04:31.322 太平洋で約50年後 0:04:31.322,0:04:34.419 浮遊マイクロプラスチックの濃度が[br]どの程度になってしまうのか — 0:04:34.419,0:04:37.112 もちろん プラスチックの量に対して[br]何らかの規制をすれば 0:04:37.112,0:04:39.340 また状況は変わるでしょうけども — 0:04:39.340,0:04:44.323 何の規制もしないという前提で[br]このままプラスチックが捨てられ続ければ 0:04:44.323,0:04:46.620 年間3千万t道端に捨てられて 0:04:46.620,0:04:49.800 年間2百万tぐらいは海に流れ出るという 0:04:49.800,0:04:54.386 今の状況が更に悪化していけばどうなるか[br]という予測なんですけれども 0:04:54.386,0:04:57.102 今から50年後はですね 0:04:57.102,0:05:01.689 太平洋の中央辺りそして東アジアの海域では 0:05:02.049,0:05:07.393 大体1㎥ あたり(海水1tあたり)[br]約1g(1,000mg)の 0:05:07.393,0:05:12.611 浮遊マイクロプラスチックが浮くことに[br]なるだろうという予測を 私達はしました 0:05:12.791,0:05:18.543 これは先程申し上げた実験室の結果を[br]そのまま復元できる量なんですね 0:05:18.543,0:05:23.674 つまり 実験室で生物に何らかの[br]影響が出るという程の濃度に 0:05:23.674,0:05:28.602 実際の海も 今から50年後ぐらいには[br]なってしまう可能性があるという 0:05:28.602,0:05:30.571 実験結果・予測結果 ― 0:05:30.571,0:05:33.842 コンピューターシミュレーションの結果を[br]発表したばかりです 0:05:35.099,0:05:39.208 ただしですね この実験には[br]大きな弱点がひとつあって 0:05:39.448,0:05:41.694 それは「サイズ」なんですね 0:05:41.694,0:05:47.765 実際 実験室の中で[br]浮遊マイクロプラスチックを与える実験 — 0:05:47.765,0:05:50.515 プラスチックビーズを与える訳ですけれども 0:05:50.515,0:05:54.236 そのサイズは数μm あるいはnmのサイズ 0:05:54.236,0:05:58.546 あるいは大きくても数十μmの[br]サイズのビーズを与えますが 0:05:58.546,0:06:03.049 私達が実際の海で監視し[br]そしてその結果を踏まえて 0:06:03.049,0:06:06.644 コンピューターシミュレーションで予測する[br]マイクロプラスチックの大きさは 0:06:06.644,0:06:09.597 実は そんな小さなプラスチックは[br]扱えないんですね 0:06:09.597,0:06:12.454 小さすぎて観測する技術がない 0:06:12.454,0:06:15.883 従って それを予測する方法も[br]ないということになります 0:06:15.883,0:06:19.562 私達が今 実際の海で監視し予測しているのは 0:06:19.562,0:06:22.823 せいぜい 数百μm以上の[br]マイクロプラスチックです 0:06:22.823,0:06:25.791 従って 実験室と観測 ― 0:06:25.791,0:06:30.442 実際の海で あるいはコンピュータの中で[br]予測するマイクロプラスチックのサイズには 0:06:30.442,0:06:32.444 今 大きなギャップがあって 0:06:32.444,0:06:39.316 私達の予測がそのまま自然の中で成立するか[br]どうかには今の所確かなことが言えません 0:06:40.224,0:06:41.416 違う言い方をすれば 0:06:41.416,0:06:47.404 実験室の中で マイクロプラスチックによって[br]何らかの影響があると言われるものが 0:06:47.404,0:06:51.667 実際の海で起こるかどうかも[br]またこれは確かなことが言えない 0:06:51.823,0:06:53.569 今 そんな状況にあります 0:06:53.569,0:06:55.712 これが今マイクロプラスチック研究 0:06:55.712,0:06:59.485 あるいは海洋プラスチック汚染研究の[br]最前線のひとつで 0:06:59.485,0:07:02.385 私達は 数十マイクロ、数マイクロ 0:07:02.385,0:07:06.025 あるいはもっと小さな[br]マイクロプラスチックの行方を探して 0:07:06.044,0:07:11.690 その量の将来予測をするということが[br]今 求められている訳です 0:07:12.210,0:07:13.271 このようにですね 0:07:13.271,0:07:16.537 マイクロプラスチックの研究[br]海洋プラスチック汚染の研究というものが 0:07:16.537,0:07:18.524 まだ発展途上にあって 0:07:18.524,0:07:20.636 このまま行くと将来 0:07:20.636,0:07:24.123 海洋プラスチック汚染によって[br]海洋生態系がどういう風に劣化していくか 0:07:24.123,0:07:28.379 あるいはこの地球環境がどのように[br]変質していくかというものに対して 0:07:28.379,0:07:32.619 まだ確かな答えを[br]私達は出すことができません 0:07:33.189,0:07:38.118 では 科学が確かな未来を出せないのなら 0:07:38.118,0:07:41.308 確かな未来を予見できない状態であれば 0:07:41.308,0:07:46.712 予見できるまで この問題を放置して良いのか[br]という問いかけがあります 0:07:47.452,0:07:53.742 環境問題に関してはですね[br]科学が十分な将来を予測できなくても 0:07:53.742,0:07:58.637 例えば その汚染物質に対する影響を[br]将来十分予測できなくても 0:07:59.447,0:08:03.264 一旦広がってしまえば[br]取り返しのつかない汚染に関しては — 0:08:03.264,0:08:06.177 マイクロプラスチックなんていうのは[br]一回海に広がってしまえば 0:08:06.177,0:08:08.230 それは 回収などできませんから — 0:08:08.230,0:08:11.415 一旦広がってしまえば[br]海洋生物に影響が出れば 0:08:11.415,0:08:13.926 それはもはや取り返しがつかない訳ですね 0:08:14.061,0:08:16.884 そういった汚染物質に対しては 0:08:16.884,0:08:22.107 今 科学が将来を十分に予見できなくても[br]何らかの対策を講じる必要がある 0:08:22.123,0:08:25.077 これを「予防原則」といいますが 0:08:25.077,0:08:26.575 この予防原則に則って 0:08:26.575,0:08:31.637 私達は今 海洋プラスチック汚染に対して[br]何らかの対策を講じる必要がある 0:08:31.637,0:08:33.127 そういったところにあります 0:08:33.127,0:08:36.984 これは 地球温暖化・気候変動でも[br]同じことですね 0:08:36.984,0:08:41.222 温室効果ガスが広がってしまえば[br]それを取り返すことは もはやできませんから 0:08:41.222,0:08:44.584 私達は 何らかの対策を講じる必要がある 0:08:44.584,0:08:50.293 まだ科学は十分に温室効果ガスが広がった[br]気候変動の将来を予測できませんけれども 0:08:50.856,0:08:56.395 しかし私達はそれでも 予防原則に則って[br]何らかの対策を講じる必要があるということで 0:08:56.395,0:09:01.289 パリ協定などのIPCCのように国際的な枠組み 0:09:01.300,0:09:07.254 科学的な知見に則って[br]将来を今 変えようとしている訳ですね 0:09:07.584,0:09:13.299 海洋プラスチックに関しても[br]私はこのように 国際的な枠組みに則って 0:09:13.700,0:09:15.768 プラスチックの削減というものに 0:09:15.768,0:09:21.288 今後は人類は舵を切らなければ[br]ならないのだと考えています 0:09:21.288,0:09:22.621 というのも 0:09:22.621,0:09:29.048 プラスチックを完全に 完璧に管理する[br]というのはほぼ無理であろうからなんですね 0:09:29.328,0:09:34.884 例えば今日本では年間9百万tの[br]プラスチックが捨てられています 0:09:34.884,0:09:38.874 これは ただ捨てられていると言っても[br]道端に捨てられている訳ではなくて 0:09:38.874,0:09:43.290 ほとんどが 焼却あるいは埋立[br]再利用されている訳ですけれども 0:09:43.290,0:09:47.908 そんな日本であっても 年間14万tは[br]環境中に漏れると言われています 0:09:48.613,0:09:51.240 平たく言えば 道端に捨てられる訳ですね 0:09:51.240,0:09:53.495 しかし14万tというのは実のところ 0:09:53.495,0:09:58.573 日本で捨てられるプラスチックごみ総量の[br]1%~2%に過ぎません 0:09:58.793,0:10:03.587 一般論から言って[br]50%を90%に上げることは可能ですが 0:10:03.587,0:10:08.951 99%を100%に上げるというのは[br]コストを考えても ほぼ不可能に近い 0:10:09.276,0:10:11.165 ということは 私達は 0:10:11.165,0:10:15.636 「プラスチックは 環境中に漏れるものだ」[br]という前提に立つ必要があるのだと思います 0:10:15.636,0:10:17.134 [日本の廃棄プラスチックの流れ] 0:10:17.164,0:10:19.737 管理が個人に委ねられる[br]特に使い捨てプラスチック — 0:10:19.737,0:10:23.438 シングルユースのプラスチックであれば[br]尚更 これを完全に管理するということは 0:10:23.438,0:10:24.609 不可能でしょう 0:10:24.609,0:10:27.642 日本で年間14万t漏れるということは 0:10:27.642,0:10:31.014 中国あるいは東南アジア[br]人口比をかければ年間百万t 0:10:31.014,0:10:34.668 世界を合わせれば[br]数百万tは漏れるものなんですね 0:10:34.668,0:10:35.983 プラスチックというものは 0:10:35.983,0:10:37.632 従ってこれを減らすためには 0:10:37.632,0:10:42.300 プラスチックの総量を減らす以外に[br]私達には選択肢はないと考えています 0:10:42.629,0:10:46.063 ただ これも温室効果ガスと[br]非常によく似た問題ですが 0:10:46.393,0:10:50.362 使い捨てプラスチックを完全に管理して 0:10:50.362,0:10:53.456 それを禁止してしまえば 0:10:53.766,0:10:58.633 それによって 不利益を被る人達が[br]たくさんいる訳ですね 0:10:58.633,0:11:02.316 プラスチックというのは決して[br]富裕層の贅沢品ではなくて 0:11:02.316,0:11:06.066 プラスチックがあるからこそ成り立つ[br]清潔な暮らしだとか 0:11:06.066,0:11:10.175 高い福祉などというものを[br]人類が それを実現させてきた訳ですね 0:11:10.175,0:11:16.375 従って 特に経済的な弱者ほど恩恵を被る[br]プラスチックを一方的に無くすということは 0:11:16.375,0:11:19.664 これはまた 違うリスクを[br]生むことになるでしょう 0:11:20.024,0:11:22.169 温室効果ガスと同じように 0:11:22.169,0:11:27.196 私達は 科学的な知見に則って[br]しかし確実に 0:11:27.209,0:11:31.654 これから使い捨てプラスチックを[br]減らしていくということが 0:11:31.654,0:11:33.717 求められているのだろうと思います 0:11:34.414,0:11:38.597 気候変動は 加害者と被害者が[br]一致する訳ですね 0:11:38.597,0:11:43.991 私達が出す温室効果ガスによって[br]私達の今現在そして将来未来の 0:11:43.991,0:11:49.768 生活・暮らしに影響を与える[br]そういった問題なんですね 0:11:49.794,0:11:56.508 そして一方的に拙速に温室効果ガスの[br]排出を失くしてしまうというのは 0:11:56.508,0:11:58.645 今度は経済に対してリスクが出てくる 0:11:58.645,0:12:02.665 プラスチックも全く同じ構図であることに[br]気がつくことと思います 0:12:02.665,0:12:04.565 IPCCのような 0:12:04.565,0:12:08.655 「Intergovernmental Panel[br]on Plastic Polution」といったような 0:12:08.655,0:12:10.840 国際的な枠組みが今後出来 0:12:10.840,0:12:13.942 そしてそこが出す[br]科学的なエビデンスに基づいて 0:12:13.942,0:12:16.129 しかし確実にプラスチックを減らしていく — 0:12:16.129,0:12:21.337 そしてそれは弱者をも納得させる[br]社会的あるいは国際的な合意のもとに 0:12:21.337,0:12:24.025 行われるべきだと考えています