人知を超えた5次元がある
そこは宇宙ほど広大で
無限ほどに時がない
光と影の中間地で
科学と迷信の間にあり
人間の恐怖の穴と
人知の頂点の間にある
これは想像の次元であり
そこは我々がTゾーンと
呼ぶ領域である
よければ 牢をみてくれ
山々と塩原と砂でできており
それは無限に伸びている
その牢には囚人がいる--
ジェイムズ A. コリー--
これが彼の住居:
金属の掘っ立て小屋
ツーリングカーは日なたにしゃがみ
どこにも行かない
どこにも行く所がないのだから
ついでに言えば
ジェイムズ A. コリーは
有罪判決の罪人で
独房に入れられている
監房は 今の場合
目の届く限り伸びている
この特殊な牢は小惑星に
あるからである
地球から1500万キロ離れてるのだ
では見てください
日向で震える男の心と体を--
孤独で死にそうな男を
記録 4年6ヶ月15日目
日も月も年も同じだ
まもなく供給の船が来ると思う
船は期日通りか期日を過ぎてるかだ
アレンビーの船だといいと思う
彼はまともな人で私に
物を持って来るからだ
あの旧式自動車の部品を
持ってきたりとか
それを組み立てるのに
一年かけた
あの程度のものだが
古い車の組み立てに丸一年
だが神に感謝する
あの車と私が費やした時間
日々と週を
そこに車が見え
本物だと知るのだ
現実性が私に必要なことだ
何故なら信じる何が残っている?
砂漠と風?
静寂?
それとも自分?
もう自分の存在ですら信じられるか?
アレンビー?
アレンビー!
アレンビー!
アレンビー!
元気か コリー?
元気だ 君は?
ここはなかなかの場所だね
気に入ってくれて嬉しいよ
気に入ったとは言ってない
ひどいものだと思うよ
君はここで暮さなくていい
ああ だが年に4回
ここに戻らなくちゃならない
それは地球から8ヶ月離れることだ
子供が私の顔を覚えてない時もある
だがお前はここでうまくやってるな
そうさ ここは素朴な暮らしに
役立つだろ?
南北に1万キロ
東西に6500キロ
その全部がここと同じだ
よし アダムス やめろ
今回は15分しか立ち寄って
いられない
ここでは誰も君のスケジュールを
調べてないよ
二回ほどトランプができるだろ
悪いが コリー 出発時間を
15分以上遅らせれば
我々の軌道位置が変わるんだ
地球に帰れなくなる
また定位置に来るまでここに
少なくとも14日留まらねば
ならない
14日! ビールを貯めてあるよ
トランプができる
できたらいいんだが
さっきも言ったように
15分しかないんだ
数分どうってことないだろ?
な チェスができるよ
チェスの一式を作ったんだ
入ろう
アレンビー 二分経っただけだ
もう二分経ってしまった
13分しか残ってない
君の予定を駄目にしたくない
だがトランプ一ゲームはどうだ?
とにかく時間がないんだ
もうここに二分いるのに
彼は赦免のことを訊いてないな
それはどうだ アレンビー?
君はツイてない
刑は50年だ
当局は殺人事件を再審理も
していないよ
君はここにもう4年いる
つまりあと46年だな
だからくつろいでくれ ん?
コリー 規則を作るのは我々じゃない
我々は供給品を配達し
情報を伝えるだけだ
向こうではこういう罰について
圧力が続いてる
多くの人が不必要に残酷だと
思ってるんだ
当局は考えを変え
法を変え
昔のように君を地球の牢に
入れるかもしれない
だが--
これから数年のことは
誰も分からない
数年?
毎朝 起きるたび
これが正気の最後の日だと
思うんだ
この孤独をあと一日も
耐えられない
あと一日もだ!
昼まで指を震えないようにできず
口の中が弾薬と
焼けた銅のように感じ
腹の奥深くに
全部引っ張り出す痛みがあるとき
強いてあと一日保たせてる
たった一日を!
だが更に46年はそうできない
気が狂ってしまうだろう
心が痛むね
アダムス カーステアズと
供給品をとって来い
コリーさんは脚が折れてるのか?
さっさと言ったことをやれ
今だ
あの大きな枠の箱?
いいか あの大箱?
あれは丁寧に扱え
ペイパーバックの本を持ってきた
有難う
コリー 他にも持ってきたんだ
彼等が勘付くと
私の職に関わるものだ
彼等に見つかると
確かにクビだろうな
な アレンビー
贈り物は欲しくない
おこぼれは要らない
檻の動物のように感じさせるんだ
外の婆さんが
私にピーナッツを
投げ与えてるみたいにな
赦免だ アレンビー
それが私の欲しい唯一つの贈り物だ
私は殺人犯じゃない
自衛で殺したんだ
私を信じてる人がまだ沢山いる
本当なんだ!
自衛で殺したんだ!
知ってる 全部知ってるよ
君の慰めになるか分からんが--
これは簡単にやれる任務じゃない--
年に4回ここに来て
人の苦悩を見ることは
その通りだ アレンビー
それは殆ど慰めにならない
君に自由を運ぶことはできない
できるのはただ君の正気を
保つ物を運ぶだけだ
何か--何でも君が孤独と戦える物を
(アダムス)
船長!
この大箱を開けますか?
いや まだだ
そこにいてくれ
すぐ出て行く
もう行かないと
3ヶ月後に又来る
あの箱を開けたら
君は何もしなくていい
品は真空パックになってる
君は何も活性剤が要らない
空気がやってくれる
中に小冊子がある
それが君の疑問に答えてくれる
コリー
彼等は私が何を運んだか
知らないんだ
我々が見えなくなるまで
待ってくれると有難い
帰りの旅を気をつけて
ブロードウェイによろしく
ああ コリー
じゃ三ヵ月後にまた
アレンビー?
中身はどうでもいいが
思いやりと--
礼儀に--
有難う
どういたしまして コリー
船長
船長?
船長 大箱には何が?
よく分からんよ 本当に
ただの空想かもしれん
救いかもしれん
分からない
行こう
「君は今女性の形の
「ロボットの立派な所有者だ
「どう見ても
この生物は女だ
「生理学的に 心理学的に
「彼女は人間で
「感情と記憶媒体--
「判断力 考え話す力がある
「病気にならず 普通の環境では
「寿命は
「普通の人間とほぼ同じだ
彼女の名はアリシアだ」
私の名はアリシアよ
あなたの名は?
失せろ
失せろ!
機械は要らない
さあ! 失せろ!
私の名はアリシアよ
あなたの名は?
あなたに水を持ってきたわ
そっちに置け
ただそこに置いたら
温くなるわ
お前にどうして分かる?
喉の渇きは感じるわ
そうか? 他に何を感じられる?
わけが分からない
熱さは感じられるか?
ええ
寒さは?
ええ
飢えは?
苦痛はどうだ?
苦痛は感じられるか?
それも
どうやって?
お前は機械だろ?
ええ
一体何故--
何故お前は機械のように
作られなかった?
何故ボルトやワイヤや電極--
そんなものの
金属でないんだ?
何故お前を嘘に変えたんだ--
肉のように見えるもので
お前を覆い--
顔を作った?
顔 もし私が--
長く見てれば
私が思うような顔--
私が信じるような--
嘘だ!
コリー?
コリー
嘲ってる それが分かるか?
お前が私を見 話しかけると
私は嘲られてる
ごめんなさい
腕が痛かったわ コリー
痛かった?
どうして痛いんだ?
これは本物の肉じゃない
その下には神経がないんだ
筋肉も腱もないんだ
お前はこのおんぼろ車と同じだ--
車輪の代わりに腕と脚のある
金属の塊だ
だが車はお前のように
私を嘲らない
見せ掛けの目で私を見ないし
見せ掛けの声で私に話しかけない
女の記憶で嘲られるのはうんざりだ
それがお前だ--
孤独で狂いそうになるのを--
思い起こさせるものだ
私も孤独を感じられるわ
ああ アリシア ごめんよ
アリシアはもう11ヶ月私といる
この奇妙で異様な--
関係の総体は何かを
書き留めるのは難しい
男女か?
男と機械か?
自分でも本当には分からない
だが分かる時がある--
アリシアはただ自分の
延長だと
私の言葉が彼女から出る
私の感情
彼女が愛するようになったものは
私が愛したものだ
私はもう孤独でない
今は毎日に耐えられる
そしてアリシアを愛している
他の何も重要じゃない
あれはベテルギウスだ
オリオン座にある
あれが大熊座だ
指針星の先に北極星があるのが
見えるだろ?
ヘラクレス座がある
神の美ね
その通りだ アリシア
神の美だ
あの星は コリー?
あの星は何?
あれは星じゃない 船だ
船? だけど船の筈はないわ
ここには3ヶ月来る予定がないわ
この前の後
あと3ヶ月来ないと言ったでしょ
アレンビーの船に違いない
近くへ来るのは彼だけだ
他の小惑星に立ち寄り
それからここへ来るんだ
朝に彼等に会うってことだ
じゃ家に戻った方がいいわ
いや
コリー!
コリー!
コリー!
コリー いい知らせだ
判決が全部見直された
君は赦免になったんだ!
この船で君を連れて帰る
だがここを出るのは正確には
20分後でそれ以上待てない
隕石の嵐をかわしてきたんだ
ほぼ燃料切れだ
20分以上経てば
出発時点を過ぎてしまい
帰れなくなると思う
アレンビー 何と言った?
赦免だ!
コリー 君に赦免が出たんだ!
だが何にもならない--
君が出る用意をしない限りはね
小惑星から他に7人乗せた
あと物の余地は7キロしかない
急いで必要なものをまとめ
他は置いていくんだ
7キロ?
7キロ?
物は7キロなんてないよ
あるのはシャツと元帳と鉛筆
靴だけだ
あの車は置いていける
次のやつにくれてやる
あー 「次のやつ」はもうないんだ
よかった
よかった それはいいな
アリシアと私は君の船に
乗り込み--
左舷から外を見て--
この地に心からのさよならをするよ
誰 コリー?
あ そうだ 彼女を忘れてた
彼は頭がどうかしてる
アリシアって誰?
ロボットだ
女だ
コリー 彼女はロボットだ
女だ!
彼女はやさしく親切だ
アレンビー
彼女のお陰で生きてこれた
彼女がいなければ
私はもう終わってた
諦めていた筈だ
それが私達にみせなかった箱だな
これを問題にしてられない
問題? もう問題じゃない
天地にもう問題はない
私達は君の船に乗るだけだ
そして私達が大きな美しい
緑の地を踏む時--
7キロだ
ちょっと待てよ
君は何か道具を捨てなくちゃ
アリシア--彼女は7キロ以上だ
まさにそこが核心だ いいか
もう船に余分な物はなくなってる
君とその元帳と鉛筆の
余地しかないんだ
そのロボットは置いていけ
ロボットじゃない!
女だ!
- 置き去りにしたら それは殺人だ!
- コリー コリー
コリー ちょっと待て
仕方ないんだ 分からないのか?
分からないのは君だ!
彼女はロボットじゃない!
女だ!
アリシア! アリシア!
コリー!
アリシア! アリシア!
アリシア?
アリシア!
落ち着け コリー
君の所持品をまとめ
ここを出たいだけだ
あと15分だ 船長
私は彼女をおいて発たない!
コリー!
アリシア!
アリシア!
アリシア! アリシア 彼等に見せろ!
彼等に話せ! 彼等に示せ!
彼等に話せ アリシア!
彼等に見せろ!
アリシア 彼等に示せ!
しかたない コリー
こうするしかない
コリー?
やめろ! やめろ!
(アリシア ロボットのように)
コリー コリー
[徐々に緩やかに]
コリー コリー
コリー...コリー...
もう出ないと 船長
もう行くよ
さあ コリー
帰る時間だ
もう全部過去だ コリー
全部な
悪い夢のようなものだ--
悪夢だ
目が覚めたら
君は地球に戻ってる
君は故郷にいるんだ
故郷?
そうだ
君が残していくのは孤独だけだ
それを覚えておこう
心に留めておくようにしよう
宇宙に浮かぶ微細な砂に
男の暮らしのかけらが
さびるままにされている
彼が住んだ家
彼が使った機械のようなもの
使わなければ
それらは崩れていく
風や砂 さらされる年月から--
コリー氏の機械全て
彼のイメージ通りのものを含めて
愛によって生かされた--
だが今やTゾーンで廃れる